JP4247948B2 - 磁石装置及びmri装置 - Google Patents
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Description
本発明は、核磁気共鳴イメージング(MRI)装置に好適な超電導マグネットに関し、特に、広い開口部を有し、またマグネットの外径を小さくすることによって測定対象へのアクセスを容易にする超電導磁石装置に関する。
背景技術
従来、核磁気共鳴イメージング(以下、MRIと称す)装置において、医師等の検査者が撮像中の被検者にアクセスすることは困難であり、いわゆるIVR(Interventional Radiology)は困難であった。
この問題を回避する技術として、例えば公開特許公報、特開平7−106153号「C字形超電導磁石」に記載のものがある。
この装置は、患者を2つの磁極の間に挿入して、MRI画像を撮影するものである。
この装置は磁極の形状を最適化して均一な磁場を発生するものであり、磁極の重量等の制約から、一般には頭部用に用いられる程度の均一磁場空間を有する。
しかしながら、撮影中に測定対象である患者を動かすことなく腹部、胸部および両肩などを撮影する全身用MRI装置の場合には、一般に40cmから50cm以上の直径球の撮影領域に数ppm(例えば2〜3ppm)で均一な静磁場を発生する必要がある。したがって、開放感の高いMRI装置用マグネットでありながら、すなわち40cmから50cm以上の直径球の撮影領域に数ppm(例えば2〜3ppm)で均一な静磁場を発生可能なマグネットを有するMRI装置の開発が必要となる。
上述してきたように、これまでは測定(撮影)対象である被検者(患者)に開放感を与える広い開口を備えたマグネットにおいて、広い領域に均一な磁場を発生することが難しかった。また広い均一磁場空間を得るためにはマグネットの外径が大きくなる問題があり、患者の開放感とアクセスの容易さを損なう問題があった。また均一磁場領域を拡大しようとすると、マグネットを構成するコイルの起磁力の絶対値が増大してマグネットの製造コストが大きくなる問題があった。
また特開平3−141619号公報は、同軸上の外側と内側の2つのコイルに逆向きの電流を流し逆向きの磁場を発生させてこれらを重ね合わせることにより、1つのコイルが作る磁場の不均一性を相殺させ、均一な磁場領域の拡大を計った広領域均一磁場発生用マグネットを開示している。
また、本件出願の出願人による特開平9−153408号公報は垂直方向に対向して配置された一対の静磁場発生源のそれぞれが1個の静磁場発生用主コイルユニットおよび複数個の不整磁場補正用コイルユニットを有する超電導磁石装置を開示しているが、これら2種のコイルユニットに流される直流電流の方向については具体的には開示されていない。
本発明の目的は、広い開口を備えるマグネットにおいて、磁場均一度が従来以上に良好でかつマグネットの外径が小さく高い開放性を有する核磁気共鳴用超電導マグネットを提供することにある。
発明の開示
上記の課題を達成するための本発明の第1の特徴は、有限の領域に第1の方向に向かう均一磁場を発生させるための、第1の方向に関して実質的に同心状に配置された電流搬送手段から構成される静磁場発生源2組が、均一磁場領域を間に挟んで対向して配置され、静磁場発生源のそれぞれが少なくとも4個の電流搬送手段を備える磁石装置において、第1の方向に平行で電流搬送手段のほぼ中心を通る第1の軸と、第1の軸と垂直に交わりかつ2組の静磁場発生源からほぼ等距離にある第2の軸との交点を第1の点としたとき、第1の軸および第2の軸および第1の点を含む第1の平面において、第1の点を通るある第1の直線が存在し、第1の平面における電流搬送手段の断面の幾何学的な中心を、第1の直線に投影したとき、静磁場発生源のそれぞれについて、対応する電流搬送手段の電流搬送方向が正負交互に並ぶように電流搬送手段を配置することにある。
本発明の第2の特徴は、有限の領域に第1の方向に向かう均一磁場を発生させるための、第1の方向に関して実質的に同心状に配置された電流搬送手段と外部領域への漏れ磁場を抑制するためのシールド電流搬送手段から構成される静磁場発生源2組が、均一磁場領域を間に挟んで対向して配置され、静磁場発生源のそれぞれが少なくとも4個の電流搬送手段と少なくとも1個のシールド電流搬送手段を備える磁石装置において、第1の方向に平行で電流搬送手段のほぼ中心を通る第1の軸と、第1の軸と垂直に交わり、かつ2組の静磁場発生源からほぼ等距離にある第2の軸との交点を第1の点としたとき、第1の軸および第2の軸および第1の点を含む第1の平面において、第1の点を通るある第1の直線が存在し、第1の平面における電流搬送手段の断面の幾何学的な中心を、第1の直線に投影したとき、静磁場発生源のそれぞれについて、対応する電流搬送手段の電流搬送方向が正負交互に並ぶように電流搬送手段を配置することにある。
本発明の第3の特徴は、有限の領域に第1の方向に向かう均一磁場を発生させるための、第1の方向に関して実質的に同心状に配置された電流搬送手段から構成される静磁場発生源2組が、均一磁場領域を間に挟んで対向して配置され、静磁場発生源のそれぞれが磁極として機能する強磁性体と少なくとも2個の電流搬送手段を備える磁石装置において、第1の方向に平行で電流搬送手段のほぼ中心を通る第1の軸と、第1の軸と垂直に交わり、かつ2組の静磁場発生源からほぼ等距離にある第2の軸との交点を第1の点としたとき、第1の軸および第2の軸および第1の点を含む第1の平面において、第1の点を通るある第1の直線が存在し、第1の平面における電流搬送手段の断面の幾何学的な中心を、第1の直線に投影したとき、静磁場発生源のそれぞれについて、対応する電流搬送手段の電流搬送方向が正負交互に並ぶように電流搬送手段を配置することにある。
本発明の第4の特徴は、有限の領域に第1の方向に向かう均一磁場を発生させるための、第1の方向に関して実質的に同心状に配置された電流搬送手段と外部領域への漏れ磁場を抑制するためのシールド電流搬送手段から構成される静磁場発生源2組が、均一磁場領域を間に挟んで対向して配置され、静磁場発生源のそれぞれが磁極として機能する強磁性体と少なくとも2個の電流搬送手段と少なくとも1個のシールド電流搬送手段を備える磁石装置において、第1の方向に平行で電流搬送手段のほぼ中心を通る第1の軸と、第1の軸と垂直に交わり、かつ2組の静磁場発生源からほぼ等距離にある第2の軸との交点を第1の点としたとき、第1の軸および第2の軸および第1の点を含む第1の平面において、第1の点を通るある第1の直線が存在し、第1の平面における電流搬送手段の断面の幾何学的な中心を、第1の直線に投影したとき、静磁場発生源のそれぞれについて、対応する電流搬送手段の電流搬送方向が正負交互に並ぶように電流搬送手段を配置することにある。
本発明の第5の特徴は、有限の領域に第1の方向に向かう均一磁場を発生させるための、第1の方向に関して実質的に同心状に配置された電流搬送手段から構成される静磁場発生源2組が、均一磁場領域を間に挟んで対向して配置され、静磁場発生源のそれぞれが3個の電流搬送手段を備える磁石装置において、第1の方向に平行で電流搬送手段のほぼ中心を通る第1の軸と、第1の軸と垂直に交わり、かつ2組の静磁場発生源からほぼ等距離にある第2の軸との交点を第1の点としたとき、第1の軸および第2の軸および第1の点を含む第1の平面において、第1の平面における電流搬送手段の断面の幾何学的な中心を、第2の軸に投影したとき、静磁場発生源のそれぞれについて、対応する電流搬送手段の電流搬送方向が正負交互に並ぶように電流搬送手段を配置することにある。
本発明の第6の特徴は、有限の領域に第1の方向に向かう均一磁場を発生させるための、第1の方向に関して実質的に同心状に配置された電流搬送手段と外部領域への漏れ磁場を抑制するためのシールド電流搬送手段から構成される静磁場発生源2組が、均一磁場領域を間に挟んで対向して配置され、静磁場発生源のそれぞれが3個の電流搬送手段と少なくとも1個のシールド電流搬送手段を備える磁石装置において、第1の方向に平行で電流搬送手段のほぼ中心を通る第1の軸と、第1の軸と垂直に交わり、かつ2組の静磁場発生源からほぼ等距離にある第2の軸との交点を第1の点としたとき、第1の軸および第2の軸および第1の点を含む第1の平面において、第1の平面における電流搬送手段の断面の幾何学的な中心を、第2の軸に投影したとき、静磁場発生源のそれぞれについて、対応する電流搬送手段の電流搬送方向が正負交互に並ぶように電流搬送手段を配置することにある。
MRI装置に使用するマグネットの磁場について、説明する。
マグネットの中心軸をz軸,r及びθをマグネット中央を原点とする極座標、Pn(cosθ)をn次のルジャンドル関数とすると、マグネット中央部付近におけるz方向磁場は、
の形に展開して表すことができる。
ここに、d0は均一磁場であり、d1,d2,d3,d4,d5,d6,…は磁場均一度を悪化させる不整磁場の強度である。マグネットが中央面に関して対称な場合は、上記の不整磁場のなかで対称性からd1,d3,d5,…はゼロになる。従って磁場均一度を悪化させる不整磁場としてd2,d4,d6,…を考えればよい。
MRI用マグネットは、マグネット中央部付近の撮影領域にppmオーダーで均一な磁場を作る必要がある。均一な磁場の発生は、マグネット中央部付近におけるz方向磁場の式1による展開項のうちで不整磁場成分d2,d4,d6,…を低次の項から順に消去していくことによって達成される。式1から、より高次の不整磁場まで消去すると磁場が均一な空間が拡大する性質がある。病院などで使われるMRI装置用のマグネットは、直径が40cm〜50cmの領域に±5ppm以内で均一な磁場を発生する必要がある。そのため、一般に2次から8次もしくは10次の不整磁場すなわちd2,d4,d6,…,d8,d10をゼロにする設計方法がとられる。
上述したように、均一な静磁場を発生するためには、先ず2次の不整磁場すなわちd2をゼロにしなければならない。
簡単のために円環線電流が作る磁場を考察する。図13に示す円環線電流が作る磁場の式1による展開項のうちで、d2のβ=a/bについてのプロットを図14に示す。ここで、aは円環電流の半径、bは円環電流の原点からのz軸方向の距離、iは電流値であり、このプロットではb=1,i=1にした。図14から分かるように展開係数d2はβ=2のときゼロになる。すなわち2次の不整磁場がゼロになる。この配置はヘルムホルツコイルとして知られている。
MRI装置用マグネットは、前述したように先ず2次の不整磁場すなわちd2を消去しなければならないが、図14から分かるように、同方向に電流が流れるコイルだけを使う場合にはコイルの半径をヘルムホルツコイルの配置より小さくすることは不可能である。
そこで、図15に示すようにβが2より小さな2個の円環電流を考える。円環電流175は半径がa1および電流値がi=1、円環電流176は半径がa2および電流値がi=−0.4である。この2個のコイルが作るd2のβに関するプロットを図16に示す。曲線177,178がそれぞれ円環電流175,176に対応する。図16から分かるように、β1及びβ2を適切に選ぶことにより、円環電流175,176がそれぞれ作るd2項を絶対値が同一で逆符号とすることができ、2個の円環電流が作る磁場の和においてd2をゼロにすることができる。つまり、極性の異なるコイルを半径方向に交互に配置することにより、ヘルムホルツコイルより小さな外径のマグネットで2次の不整磁場を消去することができる。
次に、2次及び4次の不整磁場を消去した配置を例にとって説明する。図21に本発明に従って起磁力の絶対値和が最小になるように計算機プログラムにより最適設計したコイル配置を示す。図21に示すように4次までの不整磁場を消去してかつコイルの外径をヘルムホルツコイル配置より小さくするためには、一方の静磁場発生源に3個全体で6個のコイルが必要である。電流の方向が正および負のコイルが半径方向に交互に並んでいる。また起磁力の絶対値は半径が大きくなる順に大きくしている。
このコイル配置においてどのように2次及び4次の不整磁場が消去されているかを図22及び図23を用いて説明する。
図22は図21に示す各コイルが作る2次の不整磁場を示し、図23は図21に示す各コイルが作る4次の不整磁場を示す。211,212及び213は図21の#1,#2及び#3コイルの起磁力に対応する2次不整磁場のβに関する感度曲線である。214,215及び216は図21の#1,#2及び#3コイルの起磁力に対応する4次不整磁場のβに関する感度曲線である。#1,#2及び#3コイルの断面の幾何学的中心のβの値は,0.30,0.80及び1.46である。従って、例えば#3コイルが作る2次の不整磁場は203で示す値となる。従って、図21のコイル配置では#1,#2及び#3コイルがそれぞれ図22の201,202及び203に示す2次不整磁場を発生し、それらの和がゼロになるように各コイルの位置及び起磁力を設定している。同様に、#1,#2及び#3コイルがそれぞれ図23の204,205及び206に示す4次不整磁場を発生し、それらの和がゼロになるように各コイルの位置及び起磁力を設定している。
これらの関係は、次のように定性的に説明できる。前述したように、先ず2次の不整磁場を消去する必要があり、そのためにコイル#2及び#3の位置がほぼ決まる。しかしコイル#3は206に示す4次の不整磁場を発生するので、これを打ち消さなければならないが、図22及び図23の感度曲線から分かるように、コイル#2及び#3の位置及び起磁力を変えただけでは2次及び4次の不整磁場を共にゼロにする解は存在しない。そこで、新たに半径がより小さく、かつ起磁力が正のコイル#1を追加して、204に示す4次不整磁場を発生させ、4次の不整磁場をゼロにする。また起磁力の絶対値和を最小にするために、各感度曲線のピーク付近を避けて、なるべく感度の小さい位置を選択する。実際には、コイル#1は201に示す2次の不整磁場を発生するから、2次の不整磁場を全体でゼロにし、かつ4次の不整磁場もゼロにするように調節する必要があり、感度曲線を取り入れた計算機プログラムによって、正確に最適配置を求める。このように2次及び4次の不整磁場を、ヘルムホルツコイルより小さい半径のコイル群で消去するためには、正と負のコイルを交互に配置する必要があるが、このことは各次数の不整磁場の感度曲線が図19に示す形になっている事に起因するものであり、感度曲線は電磁気現象から物理的に決まっているものである。本発明は、この感度曲線の解析から生まれたものであり、これを利用して得られた結果も一義的なものである。
ここでは具体的な説明を省略するが、6次以上の高次の不整磁場まで消去する場合にも同じ議論が成立し、極性の異なるコイルを半径方向に交互に配置することにより、ヘルムホルツコイルより小さい外径のマグネットで高次までの不整磁場を消去した非常に均一な磁場を発生するマグネットを構成できる。またこの構成は、必要な次数までの不整磁場を消去するための最小のコイル数を与え、したがってこれ以外のどんな配置よりも、各コイルの起磁力の絶対値和が小さい。
このような配置は、図19に示す各次数の不整磁場強度の感度曲線を用いた計算機プログラムにより求めることができる。その機能を説明することが困難なので、解の性質を定性的に説明する。図20に6次不整磁場強度の一般的な空間分布を示す。図において、原点はマグネットの中心、z軸はマグネットの中心軸、ρ軸はマグネットの中心を通り任意の方向を向いた半径方向の軸、縦軸は6次不整磁場強度である。式1から分かるように、原点における強度はゼロであり原点からの距離が増すに従って、距離の6乗に比例して強度が大きくなる。ただしPn(cosθ)の性質により、方位角θに関して、強度が正負の値をとる空間分布となる。従って、例えば6次の不整磁場の空間分布に対応して、正負の極性のコイルを交互に配置することにより、この6次の不整磁場を効率よく打ち消すことができる。正負の極性のコイルを交互に配置することは本発明でクレームしているように、原点を通るある直線に各コイル断面の幾何学的な中心を投影したときに対応する電流の極性が正負交互に並ぶことに一般化できる。
次に、本発明の効果を数値計算の結果を用いて具体的に説明する。図17は本発明に基づいた計算結果であり、コイルの配置と磁場均一度の等高線を同時に表示してある。磁場均一度の等高線は内側から±1,±5,±10ppmである。コイルの電流密度は100A/mm2、上下コイルの間隔は1.0m、コイルの外直径は1.7mに制限している。また、中心磁場強度は0.4Tであり中心部付近の不整磁場成分は2次から6次までをゼロにしている。
図17から明らかに分かるように、z−ρ平面において、第1象限内の各コイル断面の幾何学的な中心をρ軸は投影すると、それぞれのコイルに対応する通電電流の方向が正負交互に配列している。本発明によれば、このような配置方法が各コイルの起磁力の絶対値和が最も小さい、すなわち最も合理的な方法である。
図18は本発明に従わない場合の計算結果を示す。コイルの電流密度、中心磁場強度、消去した不整磁場成分の次数等は図17と同じである。図18に示す計算例では、z−ρ平面における各コイルの断面の幾何学的な中心を、z−ρ平面において原点を通るいかなる直線に投影しても、それぞれのコイルに対する通電電流の方向が正負方向に並ばないこと、すなわち、本発明に従わないことが分かる。図18の計算例を図17の計算例と比較すると、発生する磁場の空間分布はほぼ同じであるが、それを達成するためのコイルの起磁力の絶対値和が約1.4倍大きく、またコイルの数も全体で2個増加することが分かる。すなわち、本発明の最も大きな効果は、ある指定された空間分布を持つ磁場分布を発生するためのコイル配置の中で、最も起磁力の絶対値和が小さいコイル配置を与えることである。図18に示す本発明に従わないコイル配置は、図17に示す本発明に従ったコイル配置に比較して約1.4倍、起磁力の絶対値和が大きくコイル数も2個増加することから、コイル間の電磁力の増大、支持構造物の複雑化と重量の増加、冷却重量の増大等の様々なデメリットを生じ、結果としてマグネットのコストを著しく増大するものであり、非常に無駄の多い設計方法であることが分かる。また図17に示す本発明に基づいた計算結果では、平均半径の最も大きなコイルの起磁力の絶対値が他のコイルの起磁力の絶対値より大きく、また第1象限内の各コイルをρ軸に投影したときに各コイルの起磁力の絶対値がその大きさの順に並ぶことが分かる。このような起磁力の設定方法も全コイルの起磁力の絶対値和を最小にするための条件である。
なお、米国特許第5,410,287号公報の開示しているオープン型MRI装置用磁石装置は水平磁場方式を対象としているが、そのコイル配置は以上で説明した図18のコイル配置に類似している。
また、全身用MRIでは直径が40cm〜50cmの領域に±5ppm以内で均一な静磁場を発生する必要がある。そのためには、少なくとも8次までの不整磁場をゼロにする必要があり、自由度の関係から少なくとも4個のコイルが必要である。6次まで消去する設計の場合は、磁場均一度を支配するのは8次の不整磁場となることから、8次の不整磁場の強度をできるだけ小さくする必要があり、そのためには各コイルの起磁力が小さい程良い。ここでは計算例を示していないが、コイル数が3個の場合にも図17及び図18と同様な計算をすることができて、3個のコイルを半径方向に正負交互に配置すると起磁力の絶対値和が最小となることが分かる。
クライオスタットや低温容器の寸法上の制約で必要な数のコイルを半径方向に配置できない場合があるが、その場合には低温容器の内壁に沿ってコイルを配置すればよい。このようなコイルの一般化した配置方法が本発明で開示したところであり、その具体的な例を実施例を用いて以下に説明する。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の実施例を図1乃至図12により具体的に説明する。
図1は、本発明の実施例による超電導マグネット1を用いた開放型超電導MRI装置の斜視図。図2は、図1の開放型MRI装置の構成要素のうち、超電導マグネット1の図1におけるz−x平面での断面図。
図1に示すMRI装置は、上下の超電導マグネットアセンブリ6、7によって開放領域2にz軸方向の均一な磁場を発生し、開放領域2の中央部でMRI画像の撮影を可能にしている。患者4はベッド及び移動式テーブル3により、撮影部位が開放領域2の中央部に位置するように搬送される。また、上下の超電導マグネットアセンブリは支柱状外部強磁性体10によって磁気的に連結されていて漏れ磁場を抑制する構成となっている。この構成のMRIでは、撮影中の患者が受ける閉所感が著しく小さくなり、むしろ開放感を得ることができるため、撮影に対する心理的な圧迫感を著しく低減することができる。また、医師または検査技師5は撮影中の患者4に対してアクセスが非常に容易となる。特に撮影中の部位へのアクセスが可能となるため、IVR(Interventional Radiology)が可能となり、医療の可能性を大きく広げる。
更に図1の構成のMRI装置の利点として、静磁場の方向が人体の長手方向に関して垂直であるため、NMRシグナルを受信するプローブにソレノイドコイルを使用できることが挙げられる。このソレノイド型のプローブは、水平磁場型MRIで用いられる鞍型またはバードケージ型のプローブに比較して原理的に1.4倍感度が高い、従って中心磁場強度が同一の場合、図1に示す構成の垂直磁場方式MRIは、従来の水平磁場型MRI装置に比較してより高精細な断層画像をより高速に撮影することができる。
上記のように、図1に示すコンセプトのMRI装置は様々な利点があるが、構造的には上下のマグネットアセンブリの直径を如何に小さくできるかということが高い開放性を達成する鍵である。本発明はまさにこの点に関するものであり、外径が小さくかつ製造コストが安価で、しかも均一な静磁場を発生するマグネットアセンブリの構成を提供するものである。
次に、図2を用いてマグネットアセンブリの構成を説明する。上下のマグネットアセンブリ6,7は漏れ磁場を抑制するために外周部を強磁性体で包囲している。具体的には、上下の真空容器11,11′の周囲を円盤状外部強磁性体8,8′及び円筒状外部強磁性体9,9′で包囲し、上下を支柱状外部強磁性体10によって磁気的に連結している。ここで用いる外部強磁性体としては、磁気的に強磁性を示すものであればよく、種々の材料が使用できるが、磁気的特性、コスト、機械強度からすれば、一般には鉄が望ましい。また、強磁性体の重量を軽減したい場合には、透磁率の高い材料を使うこともできる。このように周囲を外部強磁性体で囲むことで、装置外部に発生する磁束について磁路が形成されるので、漏洩磁場が遠方にまで広がることを抑制できる。
メイン超電導コイル13,13′、14,14′、15,15′及び16,16′はマグネット中央の均一磁場領域を挟んで上下にほぼ対称かつz軸に関してほぼ同心状に設置されていて、垂直方向すなわちz軸方向の均一な磁場を発生する。上下の超電導コイルはそれぞれの冷却容器12,12′内部に設置され、上下の冷却容器はそれぞれ真空容器11,11′に内包されている。さらに、図2では簡単のため省略したが、超電導コイルを支持する構造があり、また真空容器と冷却容器の間には輻射熱の侵入を防ぐ熱シートがある。冷却容器内部には液体ヘリウムが溜められ、超電導コイルを極低温の4.2Kに冷却する。
上下の真空容器はその間にある連結管17によって所定の距離を維持して保持される。この連結管17は機械的に上下の真空容器11,11′を支える働きをしているが、上下の冷却容器を熱的に接続する働きを持たせても良い。そうすることで、冷凍機を上下に1台ずつ設ける必要がなくなり、システムに1台の冷却機で間に合わせることが可能になる。また、連結管17及び支柱状強磁性体10の本数も図示の2本に限定する必要はなく、3本,4本と増やすこともできるし、開放感を得るためには、片持ちの1本の支柱としてもよい。
本発明では、上下の各マグネットアセンブリの内部の4個のメイン超電導コイル13,13′、14,14′、15,15′及び16,16′はその極性が正負交互に並ぶように配列されている。正確には、マグネットの中心軸であるz軸を含む任意の平面(ここでは説明のためz−x平面とする)の上でマグネットアセンブリの中心を通るある直線18があり、z−x平面の第1象限における各超電導コイルの断面の幾何学的な中心を直線18に投影したとき、各コイルに対応する通電電流の極性が正負交互に並ぶ。すなわち、コイル16は主磁場を発生する方向に通電されこの方向を正方向とすれば、コイル13,15は負方向、コイル14は正方向に通電される。
また、図から分かるように各コイルの起磁力の絶対値はコイル16,15,14,13の順番に大きく、z−x平面における第1象限内の各コイルを直線18に投影したときに各コイルの起磁力の絶対値がその大きさの順に並ぶことが分かる。更に平均半径の最も大きいコイル16の起磁力の絶対値が最も大きい。このような起磁力の設定方法も全コイルの起磁力の絶対値和を最小にするための条件である。
各コイルの位置と起磁力は磁場分布が均一になるように計算に基づいて設計されている。均一な磁場を発生するコイル配置は無限にあるが、発明の開示の項で記述したようにこの配置方法が最も起磁力の絶対値和が小さくなり、マグネットを最も安価に作ることができる。更に起磁力の絶対値和が小さいので、各コイルの断面積が小さくなり、マグネットアセンブリの直径を小さくすることができる。また本実施例は2次から8次までの不整磁場をゼロにする設計であり、そのために各マグネットアセンブリ内にそれぞれ4個のコイルが配置されている。その結果、マグネット中心部に発生する磁場の均一度は±4ppm/45cm dsv(diameter of spherical volume)であり、全身用MRIとして十分なスペックを達成している。
以下では、本発明の他の実施形態を説明する。
図3は、本発明の他の実施例による開放型MRI用超電導マグネットの断面図である。本実施例は、図1及び図2に示した超電導マグネットと構成がほぼ同じであるが、漏れ磁場を抑制する外部強磁性体の重量を低減するために、超電導シールドコイル29,29′がある点が異なる。漏れ磁場シールド方式の通称に従えば、図2の実施例はパッシブシールド方式、図3の実施例はハイブリッドシールド方式である。図3中の超電導シールドコイル29,29′を除いたメイン超電導コイル25,25′、26,26′、27,27′、28,28′のz−x平面の第1象限における断面の幾何学的な中心を直線30(仮想的に想定したものである。)に投影すると、対応する電流の方向が正負交互に並ぶように配置されている。
図4は、本発明の他の実施例による開放型MRI装置用超電導マグネットの断面図である。本実施例はアクティブシールド方式超電導マグネットを示している。本実施例はシールドコイルのみで漏れ磁場を抑制するので鉄などによる磁気シールド体はなく最も軽量である。図4中でシールドコイル39,39′を除いたメイン超電導コイル34,34′、35,35′、36,36′、37,37′、38,38′のz−x平面の第1象限における断面の幾何学的な中心を直線40に投影すると、対応する電流の方向が正負交互に並ぶように配置されている。
以上の実施例では、マグネットアセンブリは基本的に空心コイルで均一な磁場を発生し、外部強磁性体またはシールドコイルによって漏れ磁場を抑制する構成である。以下では均一磁場の発生に積極的に磁極として機能する強磁性体を利用した場合における本発明の実施例を開示する。図5から図12は本発明の他の実施例による開放型MRI用超電導マグネットの断面図である。
図5に示すマグネットでは、円盤状外部強磁性体41,41′の内側に設けた磁極状強磁性体44,44′が中心磁場強度を高める作用をして、超電導コイルが負担する中心磁場強度を低減し超電導コイルの起磁力の絶対値和を低減する設計である。磁場の均一度は主に超電導コイルの配置と起磁力配分で達成するため、その配置は本発明に従っている。すなわち、メイン超電導コイル48,48′、49,49′、50,50′、51,51′のz−x平面の第1象限における断面の幾何学的な中心を直線52に投影すると、各コイルに対応する通電電流の方向が正負交互になるように配置されている。
図6に示すマグネットは図5に示すマグネットよりも更に磁極を大きくして、超電導コイル60,60′、61,61′の起磁力の負担を更に小さくしている。本実施例では磁極の形状を最適化して、磁極だけでもある程度均一な磁場を発生する構成である。従って超電導コイルの数は少なくてよく、本実施例では上下のそれぞれのマグネットアセンブリ内に2個で十分に均一な磁場を発生する。発明の開示の項で説明したように2個の超電導コイル60,60′、61,61′は通電電流の方向が逆であり、小さなマグネットアセンブリ内で2次の不整磁場を消去している。すなわち外側の超電導コイルが主磁場を発生する方向、内側の超電導コイルがその逆の方向に通電される。
図7に示すマグネットは、最適化された形状を持つ磁極により概ね均一な磁場を発生し、更に磁場の均一度を上げるためにそれぞれのマグネットセンブリ内に3個の超電導コイルを配置している。メイン超電導コイル70,70′、71,71′、72,72′は限られた半径の中で最小の起磁力で均一な磁場を発生するため、本発明にしたがって通電電流の極性が図7に示すように直線73に投影した場合に正負交互に配列するように配置されている。
図8に示すマグネットは、図7に示すマグネットとほぼ同じ構成であるが、漏れ磁場を抑制する外部強磁性体の重量を低減するために超電導シールドコイル84,84′が配置されている点が異なる。本構成においても、限られた半径の中で最小の起磁力で均一な磁場を発生するため、シールドコイル以外のメイン超電導コイル81,81′、82,82′、83,83′は本発明にしたがって通電電流の極性が図8に示すように直線85に投影した場合に正負交互に配列するように配置されている。
図9と図10は、磁極と超電導コイルの組み合わせで均一な磁場を発生する開放型MRI用超電導マグネットの他の実施例である。両者とも基本的に、磁極は中心磁場強度を強めてコイルの起磁力を低減する働きをし、磁場の均一度はコイルの配置で達成するコンセプトのマグネットである。磁極状強磁性体89,89′、及び101,101′はその形状が最適化されているが、マグネット中央部の撮像領域から離れているので磁極形状だけでは均一な磁場を発生できない。そこで図9及び図10に示す実施例では片側4個及び3個の超電導コイルを用いて均一な磁場を発生する。また図10の実施例では、大きな起磁力の端部コイルを配置可能なように真空容器102及び低温容器103の外周部が膨らんだ形状を有している。またこのような形状にすることにより、磁極状強磁性体を撮像領域に近づけることが可能なので、磁極が負担する中心磁場強度を強くすることができて、超電導コイルの起磁力を低減することができる。両者ともに限られた半径の中で最小の起磁力で均一な磁場を発生するため、本発明にしたがって通電電流の極性が図9または図10に示すように直線97またはx軸108に投影した場合に正負交互に配列するように配置されている。
図11及び図12は主に起磁力低減のために低温容器の内部に強磁性体要素を配置した実施例を示す。漏れ磁場の抑制方法は、図11がパッシブシールド方式、図12がアクティブシールド方式である。内部強磁性体119,119′、120,120′及び131,131′、132,132′は円環形状をしており超電導コイルの間に配置される。強磁性体要素をこの位置に配置すると、効果的にコイルの起磁力を低減できる効果がある。本実施例においても、限られた半径の中で最小の起磁力で均一な磁場を発生するため、本発明にしたがってメインコイルを構成する超電導コイルの通電電流の極性が図11または図12に示すように直線121または直線133に投影した場合に正負交互に配列するように配置されている。
以上に具体的な実施例を用いて本発明を説明してきた。前述した実施例ではコイルは全て超電導コイルであるが、本発明の内容は超電導コイルのみに限定されるものではなく、例えば銅線などを用いたコイルであってもよく、更に電流を搬送するものであればいかなるものでも良い。本発明は前述したように様々な実施形態が考えられるが、当然のことながら本発明はここで開示したいかなる実施例によっても限定されるものではない。
以上に説明した如く、開放型MRI用超電導磁石装置において、広い開口を備え、漏洩磁場が少なく、高い磁場強度において、時間的に安定で広い均一磁場発生領域を得られる超電導磁石を、その直径が小さくすなわち高い開放性と良好な検査対象である患者へのアクセスを可能にし、更に低廉な製造原価で提供することができる。
本発明によれば、高い開放性と、良好な検査対象へのアクセスが可能なMRI装置を実現できる。
産業上の利用可能性
以上説明したように、本発明にかかる磁石装置は医療用MRI装置用磁石装置として有用であり、特にオープン型垂直磁場方式MRI装置用超電導磁石装置に適用される。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の実施例の超電導磁石を用いた開放型MRI装置の斜視図。
図2は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図3は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図4は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図5は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図6は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図7は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図8は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図9は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図10は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図11は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図12は本発明の実施例の超電導磁石の断面図。
図13は円環電流の説明図。
図14は図13に示す円環電流が発生する2次の不整磁場強度の感度曲線を示す図。
図15は2つの円環電流の説明図。
図16は図15に示す2つの円環電流が発生する2次の不整磁場強度の感度曲線を示す図。
図17は本発明のコイル配置とその磁場均一度の等高線の数値計算例を示す図。
図18は本発明の比較例のコイル配置とその磁場均一度の等高線の数値計算例を示す図。
図19は図13に示す円環電流が発生する2次から6次までの不整磁場強度の感度曲線を示す図。
図20は6次の不整磁場の空間分布を示す3次元プロット。
図21は本発明の原理に従って起磁力の絶対値和が最小となるように計算機プログラムにより最適設計したコイルの配置を示す。
図22は図21に示す各コイルが作る2次の不整磁場を示す。
図23は図22に示す各コイルが作る4次の不整磁場を示す。
Claims (4)
- 有限の領域に第1の方向に向かう均一磁場を発生させるための、前記第1の方向に関して実質的に同心状に配置された電流搬送手段から構成される静磁場発生源2組が、前記領域を間に挟んで対向して配置され、前記静磁場発生源のそれぞれが少なくとも4つの該電流搬送手段を備える磁石装置において、該第1の方向に平行で該電流搬送手段のほぼ中心を通る第1の軸と、前記第1の軸と垂直に交わり、かつ前記2組の静磁場発生源からほぼ等距離にある第2の軸との交点を第1の点としたとき、前記第1の軸および前記第2の軸および前記第1の点を含む第1の平面において、前記第1の点を通るある第1の直線が存在し、前記第1の平面における前記電流搬送手段の断面の幾何学的な中心を、前記第1の直線に投影したとき、前記静磁場発生源のそれぞれについて、対応する前記電流搬送手段の電流搬送方向が正負交互に並ぶことを特徴とする磁石装置。
- 有限の領域に第1の方向に向かう均一磁場を発生させるための、前記第1の方向に関して実質的に同心状に配置された電流搬送手段と外部領域への漏れ磁場を抑制するためのシールド電流搬送手段から構成される静磁場発生源2組が、前記領域を間に挟んで対向して配置され、前記静磁場発生源のそれぞれが少なくとも4つの該電流搬送手段と少なくとも1個のシールド電流搬送手段を備える磁石装置において、該第1の方向に平行で該電流搬送手段のほぼ中心を通る第1の軸と、前記第1の軸と垂直に交わり、かつ前記2組の静磁場発生源からほぼ等距離にある第2の軸との交点を第1の点としたとき、前記第1の軸および前記第2の軸および前記第1の点を含む第1の平面において、前記第1の点を通るある第1の直線が存在し、前記第1の平面における前記電流搬送手段の断面の幾何学的な中心を、前記第1の直線に投影したとき、前記静磁場発生源のそれぞれについて、対応する前記電流搬送手段の電流搬送方向が正負交互に並ぶことを特徴とする磁石装置。
- 請求の範囲第1又は2項記載の磁石装置において、前記静磁場発生源のそれぞれについて、前記電流搬送手段のうちで最も平均半径が大きい電流搬送手段の起磁力の絶対値が他の電流搬送手段の起磁力の絶対値より大きいことを特徴とする磁石装置。
- 請求の範囲第1乃至3項記載の磁石装置を用いたMRI装置。
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