JP4247350B2 - 生理活性検定法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生理活性検定法及び装置に関し、より詳しくは、被検物質の植物に対する生理活性の高さを評価する評価方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の合成技術の発達に伴って、様々な新規化学物質が合成されている。これらの化学物質が有する特性、特に生物体に対する活性を簡便に評価することは、得られた化学物質がどのような目的に適用できるのかを知る上で重要な意義を有している。
【0003】
化学物質を植物に処理した際に植物に生じる生理特性の変化、例えば、病害に対する抵抗性の向上又は低下、生育の促進又は抑制、障害の発生等の変化を評価する方法としては、化学物質を植物に接触させ、植物体内に生じる特定遺伝子の発現、新規物質の生産、既知物質の増加又は減少等の変化を所定の測定手段により直接測定して得られた値を評価する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、上記の方法には、以下に示すような幾つかの問題点があった。まず第1に、植物に現れる変化の評価結果が観察者の主観によって左右される場合があるため、評価にばらつきが生じるおそれがあった。第2に、植物体内の変化を確認する上記所定の測定手段としては、感染特異たんぱく質、ホルモン類、各種酵素群さらには活性酸素種の活性化などを、質量分析型の液体クロマトグラフ、電子スピン共鳴装置などの高度な装置を用いて分析を行う方法が知られているが、これらの分析を行う際に要する多大な労力や経済的負担にも拘わらず、正確な評価を行うことは未だ困難であった。
【0005】
一方、植物が病害に対して抵抗又は防御反応を行う際には、微弱な発光を生じることが知られており、この微弱な発光を利用して化学物質の生理活性(病害抵抗性付与能力)を評価する方法も試みられている。具体的には、化学物質(農薬)を植物に吸収させ、この場合の病害に対する抵抗又は防御反応に起因して生じる微弱発光の量と、化学物質を植物に吸収させなかった場合に生じる微弱発光の量とを比較する評価方法が提案されており(例えば、特許文献1参照。)、かかる方法によれば、簡便且つ測定間でばらつきの少ない評価を行うことが可能であり、植物の変化を直接測定する場合の上述したような問題を生じることが少ない。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−315320号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の方法においては、植物が発する微弱発光の程度は、抵抗性を誘導する物質以外の物質(例えば、別の生理活性、細胞への害作用等を有する物質)によっても影響される場合があり、これによって発光の強度と病害抵抗性との直接的な相関が得られず、純粋に植物の病害抵抗性のみを評価することが困難となってしまう場合があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、被検物質の植物に対する生理活性の高さを簡便に評価でき、また別の生理活性による影響の少ない評価方法及び装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、被検物質の植物に対する生理活性の高さを評価する評価方法であって、複数の被検物質のそれぞれを、同種の植物の試料に接触させた後、それぞれ発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定し、発光強度の大きさに従って被検物質の生理活性の高さを判定することを特徴とする評価方法を提供する。
【0010】
上記被検物質は、植物における病害抵抗性、生育の促進又は抑制、障害の発生等の所定の生理特性を変化させる性質を有する物質等であり、発光誘起物質は、上記の所定の生理特性に対応する生理反応、例えば、植物の病害抵抗性に対応する植物の抵抗又は防御反応等を生じさせる物質等である。本発明の評価方法においては、植物に被検物質を接触させて植物の生理特性を変化させた後、更に発光誘起物質を接触させて、上記変化した生理特性に対応する生理反応を生じさせ、この生理反応に起因する発光の強度を測定している。このため、得られる発光強度は評価対象とする生理特性にのみ基づいて変化するようになる。これにより、被検物質中に、評価対象とする生理特性に対応する生理反応は生じないが植物に発光を生じさせるような物質が含まれる場合であっても、本発明の評価方法によれば、そのような物質による発光の影響を受けずに目的とする生理特性に基づく発光のみを観察できるようになる。
【0011】
植物が生理反応を生じる際に発光するメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。植物において生じる生理反応の多くは生化学的な反応であり、この中には酸化反応が含まれる。特定の物質を処理する等して植物内で酸化反応が生じると、細胞中の様々な分子がかかる酸化反応により励起される。一旦励起された分子は基底状態に戻る際に発光を生じる場合が多いが、細胞内で励起された分子も同様に基底状態に戻る際に発光を生じているものと推察される。
【0012】
上述の評価方法においては、複数の被検物質の生理活性の高さを比較しているが、本発明の評価方法によれば、異なる濃度の被検物質のうち、より高い生理活性を発揮する濃度を判定することもできる。この場合、濃度が異なる被検物質のそれぞれを、同種の植物の試料に接触させた後、それぞれ発光誘起物質を更に接触させ、生じる発光の発光強度を測定し、より大きい発光強度を示した濃度を至適処理濃度であると判定する。
【0013】
また、複数の被検物質の1つとして、生理活性を有しない基準物質を用い、かかる場合の発光強度の基準発光強度として、これと比較することにより被検物質が生理活性を有するか否か(正負)を評価することもできる。この場合、被検物質を植物の試料に接触させた後、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、生理活性を有しない基準物質を植物の試料に接触させた後、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、基準発光強度よりも有意に大きい比較発光強度を示す被検物質を正の生理活性を有すると判定し、基準発光強度よりも有意に小さい比較発光強度を示す被検物質を負の生理活性を有すると判定する。基準物質としては、被検物質が溶液等の状態で用いられる場合はその溶媒が好ましく、蒸留水がより好ましい。
【0014】
さらに、被検物質が生理活性を有するか否か(正負)を評価する場合には、被検物質を植物の試料に接触させた後、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、被検物質を植物の試料に接触させずに、発光誘起物質を試料に接触させて生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、基準発光強度よりも有意に大きい比較発光強度を示す被検物質を正の生理活性を有すると判定し、基準発光強度よりも有意に小さい比較発光強度を示す被検物質を負の生理活性を有すると判定することもできる。
【0015】
さらにまた、本発明によれば、被検物質を植物の試料に接触させてから、発光誘起物質を更に接触させるまでに生じる発光のパターンに基づいて被検物質の植物に対する害作用の有無を判定することも可能となる。
【0016】
これらの生理活性の評価方法に用いられる植物の試料は、培地で培養された植物の細胞であると、同種の植物の試料を均質に調製しやすいため好ましい。
【0017】
本発明による生理活性評価装置は、本発明の生理活性評価方法を好適に実施するための装置であって、植物の試料を収容可能な複数の試験管を個々に保持して回転することにより、各試験管を試薬投入位置から光検出位置まで同時に回動させて搬送する搬送手段と、試薬投入位置にある各試験管に収容された植物の試料に、被検物質又は発光誘起物質を各試験管に対して同時に投入する一群の試薬投入手段と、光検出位置に搬送された各試験管内の植物の試料から生じる発光を同時に検出する一群の光検出手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
上述の装置によれば、複数の植物の試料をそれぞれ試験管に収容し、それぞれを試薬投入位置から光検出位置まで同時に移動させることが可能となる。従って、各試料における被検物質の投入、発光誘起物質の投入及び発光の測定をそれぞれ同期させて行うことが可能であり、これにより、それぞれ得られた発光の強度がほぼ同一の条件で得られた値となり、生理活性の高さを正確に評価することが可能となる。
【0019】
上記の装置における搬送手段としては、試験管を保持する複数の保持部を有するターンテーブルが好ましい。また、試験管は同心円上に配置されていることがより好ましく、この場合、等間隔で配置されていると更に好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の生理活性評価方法の好適な実施形態である第1〜第5の方法について説明する。第1の方法では、複数の被検物質のそれぞれを、同種の植物の試料に接触させた後、それぞれ発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の発光強度を測定し、得られた発光強度の大きさに従ってそれぞれの被検物質の生理活性の高さを判定する。
【0021】
具体的には、まず、複数の被検物質のそれぞれを、同種の植物の試料に接触させる。用いる被検物質は特に制限されず、任意の化学物質を用いることができる。病害抵抗性を評価する場合には、植物の試料としては、培地で培養された植物の細胞を用いることが好ましく、具体的には、イネ、タバコ等の細胞が例示できる。
【0022】
かかる植物の細胞は、例えば、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で培養することにより得ることができ、培養は、培地及び細胞の入った容器を室温(25℃)付近、暗所において、1週間程度振とうさせる等により実施される。
【0023】
そして、培養された細胞を小形の容器に移し、かかる容器中に被検物質を添加して、植物の試料に被検物質を接触させる。接触は、細胞中に被検物質が吸収されるように行うことが好ましく、このためには被検物質を希釈液に溶解又は分散させた混合液を、植物の細胞が培養されている培地中に添加することが好ましい。希釈液としては、植物の細胞が培養されているのと同じ培地を用いることが好ましく、これにより、細胞及び被検物質の培地中への均一な分散が可能となり、植物の試料と被検物質との接触頻度が増大し、植物の試料中に被検物質がより多く吸収されるようになる。
【0024】
それぞれの被検物質を接触させる植物の試料としては、それぞれ同種の試料を用いることが好ましく、植物の試料として植物の細胞を用いる場合には、同時に培養された同一の株から得られる細胞を用いることが好ましい。また、培養された細胞を移す小形の容器としては、例えばプラスチック製のペトリ皿を用いることができ、かかるペトリ皿の材料は光励起の少ない物質であることが好ましい。
【0025】
被検物質を植物の試料に接触させた後には、被検物質を植物の試料に確実に吸収させるため、所定の時間植物の試料を放置することが好ましい。放置時間は、用いる植物の試料及び被検物質に応じて適宜変更することができるが、概ね4〜12時間である。
【0026】
次に、被検物質が接触されたそれぞれの植物の試料に更に発光誘起物質を接触させる。発光誘起物質は、上述の被検物質の接触により植物に生じる生理特性の変化に対応する生理反応を生じさせる物質であり、例えば病害抵抗性の評価を行う場合、発光誘起物質としてはエリシターが好適である。
【0027】
エリシターは、植物の抵抗又は防御反応を誘導する物質であり、かかるエリシターとしては、特定の病原菌に対する抵抗性遺伝子を有する植物にのみ抵抗反応を誘導する特異的エリシターや、植物品種に関係なく抵抗反応を誘導する非特異的エリシターが例示できる。例えば、特定の病原菌に対する被検物質の病害抵抗性付与能力を評価する場合には特異的エリシターを用い、被検物質の有する一般的な病害抵抗性付与能力を評価する場合には非特異的エリシターを用いるなど、目的に応じて適宜選択することができる。特異的エリシターとしては、フィトフトラ・インフェスタンス(Phythophtora infestans)のINFエリシチン、非特異的エリシターとしては、ホーマ属菌(Phoma sp.)GS12−2株、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)GP17−2株等の培養ろ液成分が例示できる。これらのエリシターは、培地で培養することにより得ることができ、植物の試料への接触時に培地から分離して用いることができる。
【0028】
発光誘起物質の植物の試料への接触は、植物の試料中に発光誘起物質が吸収されるように行うことが好ましい。この場合、発光誘起物質を希釈液に溶解又は分散させた混合液を、被検物質が接触された植物の試料に添加することが好ましい。用いる希釈液としては、上記の被検物質を接触させた場合と同様に、植物の細胞が培養されているのと同じ培地を用いることが好ましく、これにより植物の試料への発光誘起物質の吸収量が増大する。
【0029】
植物の試料に発光誘起物質を接触させた後に、後述するような生理活性評価装置等の微弱な発光の測定が可能な装置を用いて発光の測定を行う。発光の測定は、発光誘起物質を接触させる前後の植物の試料から生じる発光を経時的に測定することによって行うことができる。かかる測定は、少なくとも発光誘起物質を接触させる前から開始すればよいが、被検物質を接触させた直後から開始することが好ましく、被検物質を接触させた後に所定時間の放置を行う場合は、かかる放置時間中にも発光の測定を継続することがより好ましい。被検物質を接触させた直後からの発光強度の経時変化を追跡することにより、発光誘起物質の添加前後における発光強度の変化をより正確に観測することが可能となる。また、後述するように、かかる放置中に生じた発光のパターンを基に過去のデータと比較することにより被検物質の植物に対する害作用の有無を判定することもできる。
【0030】
そして、それぞれの被検物質について上記の測定によって得られた発光強度の大きさに従って、生理活性の高さを判定する。発光強度の大小の比較は、それぞれの被検物質で得られた発光強度のうち、エリシター接触後の発光強度の変化の値を時間で積分して得られるピーク面積を比較して行ってもよく、また発光強度のピークの極大値を比較して行ってもよい。
【0031】
得られる発光強度は、植物の試料に被検物質を接触させ、更に発光誘起物質を接触させて生じる発光を測定したものであるため、植物の所定の生理反応にのみ基づくものとなる。従って、より高い生理活性を有する被検物質に接触した植物の試料は、より活発に対応する生理反応を生じるようになるため、より強い発光を示し、反対に、より低い生理活性を有する被検物質に接触した植物の試料は、より弱い発光を示すようになる。このようにして、得られた発光強度の大きさに従って、用いた被検物質のうちより高い生理活性を有する物質を判定することが可能となる。
【0032】
以下、第2〜第5の方法について説明する。なお、第1の方法における、好適な被検物質又は発光誘起物質、及びこれらの植物の試料への接触方法、並びに発光強度の測定方法等は、第2〜第5の方法においても同様である。第2の方法においては、濃度が異なる複数の被検物質のそれぞれを、同種の植物の試料に接触させた後、それぞれ発光誘起物質を更に接触させ、生じる発光の発光強度を測定し、複数の濃度の被検物質のうちで最も大きい発光強度を示した濃度を至適処理濃度であると判定する。
【0033】
より具体的には、第2の方法は、同一種類であってそれぞれ濃度の異なる被検物質を、それぞれ同種の植物の試料に接触させること以外は第1の方法と同様にして実施する。かかる濃度の異なる被検物質は、それぞれ被検物質を希釈する溶媒量を任意に変化させて調製することができる。そして、各濃度で得られた発光強度をそれぞれ比較して、比較した中で最も大きい発光強度を示した濃度を、その被検物質における至適処理濃度、すなわち最も高い生理活性を発揮し得る濃度であると判定する。
【0034】
第3の方法においては、生理活性を有しない物質(基準物質)を植物の試料に接触させて得られる発光の強度を測定して基準発光強度とし、基準発光強度よりも有意に大きい発光強度(比較発光強度)を示す被検物質を正の生理活性を有すると判定し、基準発光強度よりも有意に小さい発光強度(比較発光強度)を示す被検物質を負の生理活性を有すると判定する。有意性の判断には、公知の検定方法(t検定等)が適用できる。
【0035】
生理活性を有しない物質は、植物の試料に接触させても植物の生理特性をほとんど変化させない特性を有する物質であればよく、被検物質が溶媒や担体と混合して供試される場合には、その溶媒や担体が好ましく、中でも蒸留水が代表的である。かかる基準物質を接触させた場合に得られる発光強度(基準発光強度)は、生理特性が向上又は低下していない植物に発光誘起物質が作用して生じる生理反応に基づくものであり、換言すれば、その植物自身が本来有する生理特性にのみ基づく発光強度であるということができる。
【0036】
従って、用いた被検物質が、植物に対して正の生理活性を有している場合には、かかる被検物質を接触させた植物の生理特性は向上する。これに更に発光誘起物質を接触させると、上記生理特性に対応する生理反応が通常よりも活発に行われるようになる。この結果、正の生理活性を有する被検物質を接触させた場合の生理反応に起因する発光は、基準発光強度と比較して、より強度の大きいものとなる。一方、用いる被検物質が、負の生理活性を有している場合には、かかる被検物質を接触させた植物の生理特性が低下して、生じる発光は基準発光強度よりも強度の小さいものとなる。このように、第3の方法によれば、それぞれの被検物質を用いた場合に得られる発光強度と基準発光強度とを比較することにより、その被検物質が植物の生理特性を向上させ得る物質であるか否かの判定が可能となる。
【0037】
第4の方法においては、被検物質を植物の試料に接触させずに、発光誘起物質を植物の試料に接触させて生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、基準発光強度よりも有意に大きい発光強度(比較発光強度)を示す被検物質を正の生理活性を有すると判定し、基準発光強度よりも有意に小さい発光強度(比較発光強度)を示す被検物質を負の生理活性を有すると判定する。かかる方法は、被検物質が溶媒や担体等と混合されずに用いられる場合において好適である。
【0038】
被検物質を接触させずに発光誘起物質を接触させて得られる基準発光強度も、生理特性が変化していない植物に発光誘起物質が作用して生じる生理反応に基づくものであり、換言すれば、その植物自身が本来有する生理特性に基づく発光強度であるということができる。従って、第4の方法においても、基準発光強度と比較発光強度とを比較することにより、基準発光強度よりも大きい発光強度を示した被検物質を正の生理活性を有すると判定し、基準発光強度よりも小さい発光強度を示した被検物質を、負の生理活性を有すると判定することができる。
【0039】
第5の方法においては、上記第1〜第4のいずれかの方法において、被検物質を植物の試料に接触させてから、発光誘起物質を更に接触させるまでに生じる発光のパターンに基づいて被検物質の植物に対する害作用の有無を判定する。
【0040】
第3又は第4のいずれかの方法によって正の生理活性を有すると判定された被検物質の中には、正の生理活性を有すると同時に植物の細胞死を引き起こす等の害作用を有しているものがある。このような害作用を同時に有する被検物質は、被検物質の添加後、概ね0〜12時間の間に特徴的な発光のパターンを示す場合が多い。第5の方法においては、従来害作用を有していることが知られている物質を用いた場合と、害作用を有しているか否かが未知である被検物質を用いた場合との、被検物質の接触から発光誘起物質の接触までに得られる発光のパターンを比較することにより、類似の発光パターンを示す被検物質を害作用を有する物質であると判定することができる。
【0041】
また、本発明の生理活性評価方法を応用して、生理活性を有する物質のスクリーニングを行うことも可能である。すなわち、まず、植物の試料に生理活性を有しない基準物質を用いて得られる発光、又は、植物の試料に被検物質を接触させずに得られる発光の発光強度を基準発光強度とする。次に、複数の被検物質を用い、それぞれの被検物質を植物の試料に接触させた場合における発光強度を測定する。そして、基準発光強度以上であって、最も大きい発光強度を与えた被検物質を、最も優れた生理活性を有する物質としてスクリーニングすることができる。
【0042】
次に、本発明の生理活性評価装置の一実施形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る生理活性評価装置を示す上面図であり、図2は、生理活性評価装置1のII−II線に沿う模式断面図である。生理活性評価装置1は、試料を内部に収容する試験管22を複数の保持部20において個々に保持して各試験管22を試薬投入位置から光検出位置まで移動させる搬送装置2(搬送手段)、被検物質又は発光誘起物質を試験管中に投入する一群の試料投入部10(試薬投入手段)、及び、植物の試料からの発光を検出する一群の光検出部8(光検出手段)から構成されている。そして、生理活性評価装置1においては、試料投入部10と光検出部8は交互に設けられており、それぞれの位置で各保持部20と対向している。ここで、試料投入部10に対向する位置が試薬投入位置、光検出部8に対向する位置が光検出位置にそれぞれ該当する。そして、このような生理活性評価装置1は、外部の光の影響を極力無くすため、例えば暗箱(図示せず)等の中に設置されることが好ましい。
【0043】
搬送装置2は、回転可能なターンテーブル4及びこのターンテーブル4を支持して回転させる支持台6から構成され、かかるターンテーブル4にはその回転中心を中心とした同心円上に複数の保持部20が等間隔で設けられている。保持部20には内部に植物の試料等を収容する試験管22が保持されている。
【0044】
試料投入部10は、試験管22中に投入される試薬である被検物質又は発光誘起物質を収容する試料収容部12、試薬の投入を制御する投入制御部14、及び投入制御部14の働きにより試料収容部から一定量放出された試薬を試験管22内に投入するための投入管16から構成されている。
【0045】
光検出部8は、試験管内に収容された植物の試料が発する発光を検出する機能を有し、かかる光検出部8には分光フィルタ36、遮光シャッタ32、光電子増倍管34、及び検出制御処理部30が、搬送装置2側からこの順に設けられている。そして、支持台6及びターンテーブル4の光検出位置における光検出部8側の側壁には、植物の試料等が発する発光を光検出部8に到達させるために光透過窓40及び42がそれぞれ設けられている。
【0046】
以下、上述の生理活性評価装置1を用いた生理活性評価方法について上述の第1〜第5の方法に対応させて説明する。第1の方法では、まず、内部にそれぞれ同種の植物の試料が収容された複数の試験管22を、搬送装置2における保持部20に設置し、ターンテーブル4を回転させてそれぞれの試験管22を試薬投入位置に移動させる。
【0047】
次に、試薬投入位置において、各試料投入部10でそれぞれ異なる被検物質を、試料収容部12から投入管16を通して各試験管22内に同時に投入させ、これにより各試験管22中の植物の試料にそれぞれ異なる被検物質を接触させる。試料投入部10による被検物質の投入は、投入制御部14により制御され、全ての試料投入部10で同期して実施される。すなわち、被検物質の投入は測定対象の全ての試験管22に対して同時に行われる。
【0048】
被検物質の投入後、ターンテーブル4を回転することにより各試験管22を試薬投入位置から光検出位置まで同時に移動させ、一定時間静置しながら発生する光の強度を測定する。光検出部8においては、各試験管22に収容されたそれぞれの植物の試料等から生じた発光が、試験管22側から透過窓42及び40を通って分光フィルタ36に到達し、遮光シャッタ32の開放時にはかかる分光フィルタにより分光された光が光電子増倍管34により増倍される。さらに、増倍された光に対し、検出制御処理部30によって時間ごとに光の量子(フォトン)数がカウントされ、カウントされた時間ごとの光量子数を、試料から生じた光の強度として測定する。得られた量子数は、検出制御処理部30に接続された外部演算装置(図示せず)によって時間ごとの量子数としてグラフ化される。
【0049】
光検出部8は、生理活性の評価における一連の操作中において、遮光シャッタ32が常時開放された状態となっており、これにより光検出部8は常に測定可能な状態に保たれている。従って、各試験管が光検出位置に到達すると同時に光の検出が開始され、これにより測定対象の全ての試験管22において被検物質の投入から同一の時間経過後に測定が開始される。
【0050】
静置後、ターンテーブル4を上記と逆の方向に回転させることにより各試験管22を光検出位置から被検物質の投入を行った試薬投入位置まで戻し、或いは、ターンテーブル4を上記と同一方向に回転させることにより各試験管22を次の試薬投入位置まで進めて、試料投入部10により発光誘起物質を各試験管22に同時に投入して、被検物質が接触された植物の試料に、更に発光誘起物質を接触させる。この場合、試料投入部10における被検物質と発光誘起物質との入れ換えは、被検物質が収容された試料収容部12のユニットと発光誘起物質が収容された試料収容部12のユニットをそれぞれ組み替えることにより実施することができる。或いは、一群の試料投入部10の試料収容部12に収容する試料を、交互に被検物質、発光誘起物質とすれば、試料投入部12のユニットを組み替えることなくターンテーブル4を同一方向に回動させることによって上記が実施できる。
【0051】
発光誘起物質の投入後、再びターンテーブル4を回転させ、各試験管22を試薬投入位置から光検出位置まで同時に移動させて、上記と同様にしてそれぞれの試料から生じる光の強度を測定し、時間ごとに生じた光の量子数をグラフ化する。そして、それぞれの試験管22において得られた経過時間に対する光の強度(量子数)のグラフを比較し、発光誘起物質の投入後、より大きい発光強度を示した被検物質をより高い生理活性を有すると判定する。かかる比較は、得られたグラフをそれぞれ視認して比較することにより行うことができるが、接続された外部演算装置が自動的に比較する機能を有していてもよい。
【0052】
第2の方法では、各試験管22に投入される被検物質として、同一種であってそれぞれ濃度の異なる複数の被検物質を用いること以外は第1の方法と同様にしてそれぞれ発光強度の測定を行い、それぞれの試験管22について得られた発光強度を比較して、最も大きい発光強度を示した試験管22における被検物質濃度を至適処理濃度であると判定する。
【0053】
第3の方法では、試験管22に投入される被検物質のうち少なくとも1つを、生理活性を有しない基準物質と置き換えること以外は、第1の方法と同様にしてそれぞれ発光強度の測定を行い、基準物質を接触させた試験管22において得られる発光強度を基準発光強度とし、基準物質以外の被検物質を接触させた各試験管22について得られる比較発光強度とそれぞれ比較して、用いた被検物質の生理活性の正負を判定する。
【0054】
第4の方法では、植物の試料が収容された試験管22のうち少なくとも1つには被検物質を投入しないこと以外は、第1の方法と同様にしてそれぞれの発光強度の測定を行い、被検物質を接触させなかった試験管22において得られる発光強度を基準発光強度とし、被検物質を接触させた各試験管22について得られる比較発光強度とそれぞれ比較して、用いた被検物質の生理活性の正負を判定する。
【0055】
第5の方法では、第1の方法における被検物質の投入から発光誘起物質の投入までの、時間に対する発光の強度の変化(発光のパターン)を、害作用を有する物質により過去に得られた発光パターンと比較することにより、それぞれの被検物質が害作用を有するか否かを判定する。
【0056】
以上、本発明の生理活性評価方法に好適な生理活性評価装置の実施形態を説明したが、本発明の生理活性評価装置は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限り様々な変形が可能である。例えば、まず、ターンテーブル4に設けられた複数の保持部20は、必ずしも同心円上に等間隔で配置されている必要はなく、少なくともターンテーブル4の回転により、試料投入部10及び光検出部8とそれぞれ対向できるように設けられていればよい。具体的には、例えば、隣接する2つの測定対象の保持部20とターンテーブル4の中心部とを結ぶ直線が成す角度が、隣接する2つの試料投入を行う試料投入部10と上記中心部とを結ぶ直線が成す角度、及び、隣接する2つの光の測定を実施する光検出部8と上記中心部とを結ぶ直線が成す角度とそれぞれ等しければ、測定対象の複数の保持部20は、ターンテーブル4の回転により試料投入部10又は光検出部8とそれぞれ対向させることが可能となり、同期させた測定も可能となる。
【0057】
また、試料投入部10における被検物質と発光誘導物質との切り替えは、同一の試料投入部10において、被検物質用の試料収容部12、投入制御部14、投入管16、及び、発光誘起物質用の試料収容部12、投入制御部14、投入管16を併せて設けるようにして、これらを試薬投入のタイミングに合わせて切り替えるようにして実施してもよい。こうすれば、試料収容部12のユニットを組み替えることなく被検物質と発光誘起物質の投入を切り替えることができる。
【0058】
さらに、光検出部8は、搬送装置2の側面に各試験管22と対向するように設けられているが、光の検出が可能である限り対向する位置からずれていてもよく、例えば斜め方向から光の検出を行ってもよく、また試験管22の開口部から検出を行うこともできる。
【0059】
このように構成された生理活性評価装置1によれば、ターンテーブル4の回転のみで試薬の投入及び光の検出をそれぞれの試験管22で同時に行うことができるようになるため、本発明の生理活性測定方法を簡易に実施することができるばかりでなく、それぞれの測定対象がほぼ同一の条件で測定されているため、極めて正確な比較及び評価を行うことが可能となる。
【0060】
【実施例】
以下、本発明の生理活性評価方法を、その一例である病害抵抗性付与能力の評価を実施することにより更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[病害抵抗性付与能力の高さの判定]
まず、植物の試料であるイネの細胞をビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地で、25℃、暗所、110〜120rpmの条件で1週間振とう培養した。
【0062】
次に、培養したイネの細胞を静置して、細胞と水分が等量となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3.5mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した。
【0063】
次いで、被検物質として2,6−ジクロロイソニコチン酸(INA)、サリチル酸(SA)及び蒸留水を用い、かかる被検物質をそれぞれ希釈液である上述のMS培地に溶解させて400μMの混合液とし、かかる混合液を上記の細胞懸濁液と等量ペトリ皿中に添加して、被検物質濃度が200μMである測定液を得、得られた測定液の発光の測定を開始した。
【0064】
発光の測定の開始から12時間経過した後、発光の測定を継続しながら、7日間PD液体培地で培養した発光誘起物質(エリシター)であるホーマ属菌(Phoma sp.)GS12−2株の液体培養物から、ろ紙で菌糸を除去し、更に0.2μm孔径のメンブレンフィルターでろ過滅菌して得られたエリシター溶液を、それぞれの測定液に350μLずつ添加して、更に20時間発光の測定を行った。
【0065】
そして、得られた発光の強度をその大きさに従って、それぞれの被検物質が有する病害抵抗性付与能力の高さを判定した。また、参考例として、被検物質として蒸留水を用いて得られた測定液に、エリシターを添加しなかった場合について発光の測定を行った。
【0066】
図3は、被検物質としてINA、SA及び蒸留水を用いた場合、及び、参考例における発光の測定時間に対する発光強度の変化(測定時間に対する発光強度の変化を以下、「発光曲線」という。)を示すグラフであり、図3中、L1はINAを用いた場合、L2はSAを用いた場合、L3は蒸留水を用いた場合、L4は参考例における発光曲線を示しており、また矢印はエリシター添加時点を示している。
【0067】
図3より、用いた被検物質の中ではINA、SA、蒸留水の順に病害抵抗性付与能力が高いことが判明し、またエリシターを用いない場合は発光が生じないことが判明した。また通常蒸留水はイネに対して病害抵抗性付与能力を有していないことから、蒸留水よりも大きな発光強度を示したINA及びSAの双方とも病害抵抗性付与能力を有する(正の生理活性を有する)ことが判明した。
【0068】
[被検物質の至適処理濃度の判定]
(イネの細胞を用いた場合)
植物の試料としてイネの細胞、被検物質として各濃度のプロベナゾール、各濃度のアシベンゾラル−S−メチル(ASM)又は蒸留水を用いたこと以外は、上記「病害抵抗性付与能力の高さの判定」と同様にしてそれぞれの発光の測定を行った。なお、エリシター添加後の発光の測定は12時間行った。
【0069】
図4は、植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてプロベナゾールを用いた場合のそれぞれの濃度における発光曲線、図5は植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてASMを用いた場合のそれぞれの濃度における発光曲線を示す。図4中、L1は200μMのプロベナゾール、L2は20μMのプロベナゾール、L3は蒸留水を用いた場合の発光曲線をそれぞれ示している。また図5中、L1は200μMのASM、L2は20μMのASM、L3は蒸留水を用いた場合の発光曲線をそれぞれ示している。
【0070】
図4より、被検物質としてプロベナゾールを用いた場合は、200μMが至適処理濃度であることが判明した。また20μMのプロベナゾールを用いた場合の発光強度は蒸留水を用いた場合よりも小さく、かかる濃度のプロベナゾールは病害抵抗性付与能力を有していない(負の生理活性を有する)ことが判明した。また、図5より、被検物質としてASMを用いた場合は200μMが至適処理濃度であることが判明した。ASMの場合は200μM及び20μMのどちらも発光強度が蒸留水処理の場合より大きく、いずれの濃度のASMも病害抵抗性付与能力を有していることが判明した。
【0071】
(タバコの細胞を用いた場合)
植物の試料としてタバコの細胞、被検物質として各濃度のクロロタロニル(TPN)を用いたこと以外は、上記「病害抵抗性付与能力の高さの判定」と同様にしてそれぞれの発光の測定を行った。なお、エリシター添加後の発光の測定は12時間行った。
【0072】
図6は、植物の試料としてタバコの細胞、被検物質としてTPNを用いた場合のそれぞれの濃度における発光曲線をそれぞれ示す。図6中、L1は2mMのTPN、L2は200μMのTPN、L3は蒸留水を用いた場合の発光曲線をそれぞれ示している。
【0073】
図6より、被検物質としてTPNを用いた場合の至適処理濃度は2mMであるが、2mM及び200μMのどちらの場合も蒸留水の場合よりも発光強度が小さく、双方の濃度においてTPNは病害抵抗性付与能力を有していないことが判明した。
【0074】
[病害抵抗性付与能力の有無の判定]
(イネの細胞を用いた場合)
植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてINA、ASM、プロベナゾール、バリダマイシンA、カルプロパミド、TPN、チオファネートメチル又は蒸留水を用い、更にそれぞれの測定液の被検物質濃度を200μMとした以外は上記「病害抵抗性付与能力の高さの判定」と同様にしてそれぞれの発光の測定を行った。なお、エリシター添加後の発光の測定は12時間行った。
【0075】
そして、被検物質のうち蒸留水を基準物質とし、蒸留水を用いて得られた発光強度を基準発光強度とし、かかる基準発光強度と各種の被検物質を用いて得られた発光強度とをそれぞれ比較することにより、それぞれの被検物質が有する病害抵抗性付与能力の有無の判定を行った。
【0076】
図7〜図13は、植物の試料としてイネの細胞、被検物質として以下の各物質を用いた場合の発光の測定時間に対する発光強度の変化(以下、「比較発光曲線」という。)と、測定時間に対する基準発光強度の変化(以下、「基準発光曲線」という。)とを比較するグラフであり、図7はINAを用いた場合、図8はASMを用いた場合、図9はプロベナゾールを用いた場合、図10はバリダマイシンAを用いた場合、図11はカルプロパミドを用いた場合、図12はTPNを用いた場合、図13はチオファネートメチルを用いた場合をそれぞれ示す。なお、図7〜13中、実線は比較発光曲線を、点線は基準発光曲線を、矢印はエリシター添加時点をそれぞれ示す。また、それぞれの発光強度は、比較発光曲線及び基準発光曲線のうちで、最も大きかった発光強度を1とした場合の相対値で示した。
【0077】
図7〜図13より、被検物質としてINA、ASM、プロベナゾール、バリダマイシンA又はカルプロパミドを用いた場合は、それぞれの発光強度が基準発光強度よりも大きかった(図7〜図11)ことから、これらの被検物質は病害抵抗性付与能力を有していることが判明し、また、TPN及びチオファネートメチルを用いた場合はそれぞれの発光強度が基準発光強度よりも小さかった(図12及び図13)ことから、これらの被検物質は病害抵抗性付与能力を有していないことが判明した。
【0078】
(タバコの細胞を用いた場合)
植物の試料としてタバコの細胞を用い、被検物質としてキャプタン、TPN又は蒸留水を用いた以外は、上記「イネの細胞を用いた場合」と同様にしてそれぞれの被検物質が有する病害抵抗性付与能力の有無の判定を行った。
【0079】
図14及び図15は、それぞれの被検物質を用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフであり、図14はキャプタンを用いた場合、図15はTPNを用いた場合をそれぞれ示す。なお、図14及び図15中、実線は比較発光曲線、点線は基準発光曲線、矢印はエリシター添加時点をそれぞれ示す。
【0080】
図14及び図15より、被検物質としてキャプタン又はTPNを用いた場合の発光強度は基準発光強度よりも小さく、どちらも病害抵抗性付与能力を有していないことが判明した。
【0081】
[被検物質の害作用の判定]
植物の試料としてタバコの細胞を用い、被検物質としてTPN、過酸化水素又は蒸留水を用い、更にそれぞれの測定液の被検物質濃度を2mMとした以外は、上記「病害抵抗性付与能力の高さの判定」と同様にしてそれぞれの発光の測定を行った。そして、被検物質の添加後エリシターを添加するまでの発光曲線(発光パターン)をそれぞれ観察すると共に、蒸留水を用いた場合の発光強度を基準発光強度とし、TPN又は過酸化酸素を用いた場合の発光強度とそれぞれ比較することにより、これらの病害抵抗性の有無を判定した。なお、TPN及び過酸化水素は、タバコの細胞に接触して細胞死を引き起こす物質であり、このことは、TPN又は過酸化水素をタバコの細胞に接触させた際に、細胞死に伴って生じるエヴァンスブルー染色細胞の増加が見られたことにより確認された。
【0082】
図16は、植物の試料としてタバコの細胞、被検物質としてTPNを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフであり、図17は、植物の試料としてタバコの細胞、被検物質として過酸化水素を用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。図16中、L1は2mMのTPN、L2は蒸留水を用いた場合の発光曲線をそれぞれ示し、また、図17中、L1は2mMの過酸化水素、L2は蒸留水を用いた場合の発光曲線をそれぞれ示している。
【0083】
図16より、被検物質としてTPNを用いた場合は、被検物質の添加直後にエリシター添加直前のおよそ10倍の発光強度が得られ、それが急激に減衰するという特徴的な発光パターンが認められた。また、TPNを用いた場合のエリシター添加後の発光強度は基準発光強度よりも小さく、TPNは病害抵抗性付与能力を有していないことが確認された。
【0084】
図17より、被検物質として過酸化水素を用いた場合は、被検物質の添加直後に一度発光強度が急激に減じた後、添加から3時間後に発光強度のピークが現れるという特徴的な発光パターンが認められた。また、過酸化水素を用いた場合のエリシター添加後の発光強度は基準発光強度よりも大きく、過酸化水素は病害抵抗性付与能力を有していることが確認された。
【0085】
以上は、正又は負の生理活性を有する被検物質が害作用を生じる一例であり、上記したような特徴的な発光パターンを示す被検物質は、タバコ細胞の細胞死を高い確率で引き起こすことが判明した。
【0086】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、被検物質の植物に対する生理活性の高さを簡便に評価でき、また測定対象とする生理活性以外の要因による影響を極めて受けにくい評価方法及び装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る生理活性評価装置を示す上面図である。
【図2】生理活性評価装置1のII−II線に沿う模式断面図である。
【図3】被検物質としてINA、SA及び蒸留水を用いた場合、及び、参考例における発光曲線を示すグラフである。
【図4】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてプロベナゾールを用いた場合のそれぞれの濃度における発光曲線を示すグラフである。
【図5】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてASMを用いた場合のそれぞれの濃度における発光曲線を示すグラフである。
【図6】植物の試料としてタバコの細胞、被検物質としてTPNを用いた場合のそれぞれの濃度における発光曲線を示すグラフである。
【図7】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてINAを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図8】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてASMを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図9】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてプロベナゾールを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図10】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてバリダマイシンAを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図11】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてカルプロパミドを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図12】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてTPNを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図13】植物の試料としてイネの細胞、被検物質としてチオファネートメチルを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図14】植物の試料としてタバコの細胞、被検物質としてキャプタンを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図15】植物の試料としてタバコの細胞、被検物質としてTPNを用いた場合の比較発光曲線と基準発光曲線とを比較するグラフである。
【図16】植物の試料としてタバコの細胞、被検物質としてTPNを用いた場合の発光曲線と基準発光曲線とを比較すると共に、被検物質添加から発光誘起物質添加までの発光パターンを示すグラフである。
【図17】植物の試料としてタバコの細胞、被検物質として過酸化水素を用いた場合の発光曲線と基準発光曲線とを比較すると共に、被検物質添加から発光誘起物質添加までの発光パターンを示すグラフである。
【符号の説明】
1…生理活性評価装置、2…搬送装置、4…ターンテーブル、6…支持台、8…光検出部、10…試料投入部、12…試料収容部、14…投入制御部、16…投入管、20…保持部、22…試験管、30…検出制御処理部、32…遮光シャッタ、34…光電子増倍管、36…分光フィルタ、40,42…光透過窓。
Claims (11)
- 被検物質の、植物に対する生理活性の高さを評価する生理活性評価方法であって、
複数の被検物質のそれぞれを、同種の植物の試料に接触させた後、それぞれ発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の発光強度を測定し、
前記発光強度の大きさに従って前記被検物質の生理活性の高さを判定することを特徴とする評価方法。 - 被検物質の、植物に対する生理活性の高さを評価する生理活性評価方法であって、
濃度が異なる被検物質のそれぞれを、同種の植物の試料に接触させた後、それぞれ発光誘起物質を更に接触させ、生じる発光の発光強度を測定し、
より大きい前記発光強度を示した前記濃度を至適処理濃度であると判定することを特徴とする評価方法。 - 被検物質の、植物に対する生理活性の高さを評価する生理活性評価方法であって、
被検物質を植物の試料に接触させた後、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、
生理活性を有しない基準物質を植物の試料に接触させた後、前記発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、
前記基準発光強度よりも有意に大きい前記比較発光強度を示す被検物質を正の生理活性を有すると判定し、
前記基準発光強度よりも有意に小さい前記比較発光強度を示す被検物質を負の生理活性を有すると判定することを特徴とする評価方法。 - 前記基準物質が蒸留水であることを特徴とする請求項3記載の評価方法。
- 被検物質の、植物に対する生理活性の高さを評価する生理活性評価方法であって、
被検物質を植物の試料に接触させた後、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、
前記被検物質を植物の試料に接触させずに、前記発光誘起物質を前記試料に接触させて生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、
前記基準発光強度よりも有意に大きい前記比較発光強度を示す被検物質を正の生理活性を有すると判定し、
前記基準発光強度よりも有意に小さい前記比較発光強度を示す被検物質を負の生理活性を有すると判定することを特徴とする評価方法。 - 被検物質の、植物に対する生理活性の高さを評価する評価方法であって、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の評価方法において、前記被検物質を植物の試料に接触させてから、前記発光誘起物質を更に接触させるまでに生じる発光のパターンに基づいて前記被検物質の植物に対する害作用の有無を判定することを特徴とする評価方法。 - 前記植物の試料が、培地で培養された前記植物の細胞であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の評価方法。
- 被検物質の、植物に対する生理活性の高さを評価する生理活性評価装置であって、
植物の試料を収容可能な複数の試験管を個々に保持して回転することにより、各試験管を試薬投入位置から光検出位置まで同時に回動させて搬送する搬送手段と、
前記試薬投入位置にある各試験管に収容された前記植物の試料に、被検物質又は発光誘起物質を、前記各試験管に対して同時に投入する一群の試料投入手段と、
前記光検出位置に搬送された各試験管内の前記植物の試料から生じる発光を同時に検出する一群の光検出手段を備えることを特徴とする評価装置。 - 前記搬送手段が、前記試験管を保持する複数の保持部が設けられたターンテーブルであることを特徴とする請求項8記載の評価装置。
- 前記複数の試験管が、同心円上に配置されるように保持されていることを特徴とする請求項8又は9記載の評価装置。
- 前記複数の試験管が、等間隔で配置されるように保持されていることを特徴とする請求項10記載の評価装置。
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