JP4240671B2 - シリンダブロックの鋳造方法およびその鋳造品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はシリンダブロックの鋳造方法およびその鋳造品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エンジン、例えば自動車用エンジンでは、軽量化のためにシリンダブロックがアルミニウム合金等の軽金属で形成されることが多くなっている。この一方、シリンダブロックの特定部位に要求される機能、例えばシリンダボア内面の耐摩耗性を十分確保する等のことがシリンダブロックを構成する金属では十分満足できないことがある。このため、シリンダボアに別途シリンダライナを嵌合することが一般に行われているが、その他、プリフォームと呼ばれる多孔性金属をシリンダブロック鋳造時に鋳ぐるむことも行われている(特開平9−14045号公報参照)。例えば、シリンダボア内面の耐摩耗性確保のために、シリンダボア形成用中子となるボアピンの外周に、所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを嵌合させて、このプリフォームを鋳ぐるむことが行われている。
【0003】
上記プリフォームは、通常、金属繊維を絡めることによって多孔性を有するように形成されているため、その空隙内に溶湯が十分に浸透して、強固にシリンダブロックと一体化されるという点では好ましい反面、全体的に剛性が小さいので、溶湯注入時の大きな圧力を部分的に受けると、部分的に変形(位置ずれ)を生じやすいものとなる。特開平6−106329号公報には、プリフォームの型内つまりキャビティ内での変形防止のために、吸引しつつ注湯することが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
注湯時におけるプリフォームの変形について具体的に説明すると、例えばプリフォームによってシリンダボア内面の耐摩耗性を確保する場合、円筒状とされたプリフォームがボアピンの外周に嵌合された状態で、通常、シリンダブロックのジャーナル部を形成する部分側からつまりピストン下死点側となる方向から、ピストン上死点側となる方向へ向けて溶湯が注入されることになる。この場合、プリフォームに対しては、溶湯はピストン下死点側の方向から溶湯の圧力が作用することになるが、ジャール部形成の関係上、溶湯の圧力は、円筒状のプリフォームのうち周方向のある一部分からのみ作用することになる。この結果、プリフォームは、上記ある一部分からボアピンより離間されて、つまり部分的に径方向外方側へ向けて拡径変形されることになる。このような拡径変形を防止するために、例えばキャビティを画成する型の一部に、上記ある一部分に溶湯が作用するのを防止する棚(溶湯の流れを規制する蓋機能を有する突起)、あるいはプリフォームの拡径を規制する棚(突起)を形成しておくことも考えれるが、この場合は、上記棚が邪魔となって型抜きができなくなってしまい、採用不可能である。
【0005】
また、一方、前述した特開平6−106329号公報に提案されているように、プリフォームが注湯時に変形するのを防止するために別途吸引を行うことは、大がかりな吸引装置が必要になってしまい、好ましくない。
【0006】
したがって本発明の目的は、吸引装置のような大がかりな装置を別途用いることなく、注湯時にキャビティ内にセットされたプリフォームが変形してしまうのを防止することのできるようにしたシリンダブロックの鋳造方法およびその鋳造品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明におけるシリンダブロックの鋳造方法は、その第1の解決手法として次のようにしてある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを型内のキャビティにセットし、該キャビティ内に溶湯を注入して、該プリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックを鋳造するシリンダブロックの鋳造方法において、
前記プリフォームのうち、溶湯が注入される側に対応する特定部分の外周にリング状の剛性部材が嵌合されることにより当該特定部分が他の部分に比して剛性が大きくされ、
前記剛性部材が、前記プリフォームと共に鋳ぐるまれる、
ようにしてある。上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2,請求項6に記載のとおりである。
【0008】
前記目的を達成するため、本発明におけるシリンダブロックの鋳造方法は、その第2の解決手法として次のようにしてある。すなわち、特許請求の範囲における請求項3に記載のように、
所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを型内のキャビティにセットし、該キャビティ内に溶湯を注入して、該プリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックを鋳造するシリンダブロックの鋳造方法において、
前記プリフォームが、シリンダボア形成用中子となるボアピンの外周に嵌合された状態で前記キャビティ内に配設され、
前記プリフォームの外周に、溶湯が通過可能とされた円筒状の剛性部材が嵌合されて、該剛性部材によって該プリフォームが前記ボアピンの径方向外方側へ拡がるのが規制され、
前記プリフォームの外周に前記剛性部材が嵌合された状態で前記キャビティ内に溶湯が注入されて、該プリフォームと共に該剛性部材が鋳ぐるまれる、ようにしてある。上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項6に記載のとおりである。
【0009】
前記目的を達成するため、本発明におけるシリンダブロックの鋳造方法は、その第3の解決手法として次のようにしてある。すなわち、特許請求の範囲における請求項4に記載のように、
所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを型内のキャビティにセットし、該キャビティ内に溶湯を注入して、該プリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックを鋳造するシリンダブロックの鋳造方法において、
前記プリフォームの体積率が、徐々に変化して、該プリフォームのうち、溶湯が注入される側に対応する特定部分に近づくほど小さくされている、ようにしてある。上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項6に記載のとおりである。
前記目的を達成するため、本発明におけるシリンダブロックの鋳造方法は、その第4の解決手法として次のようにしてある。すなわち、特許請求の範囲における請求項5に記載 のように、
所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを型内のキャビティにセットし、該キャビティ内に溶湯を注入して、該プリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックを鋳造するシリンダブロックの鋳造方法において、
前記プリフォームのうち、溶湯が注入される側に対応する特定部分の体積率が他の部分の体積率に比して小さくされ、
前記特定部分の厚さが、前記他の部分の厚さよりも大きくされている、ようにしてある。上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項6に記載のとおりである。
【0010】
【0011】
本発明におけるシリンダブロックつまり鋳造品のうち第1のものは、次のようにされている。すなわち、特許請求の範囲における請求項7に記載のように、
シリンダボア内周面部分に所定の体積率を有する円筒状のプリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックにおいて、
前記プリフォームのうち、ピストン下死点側となる特定部分の外周にリング状の剛性部材が嵌合されて、該プリフォームと該剛性部材とが共に鋳ぐるまれている、ようになっている。
【0012】
本発明におけるシリンダブロックつまり鋳造品のうち第2のものは、次のようにされている。すなわち、特許請求の範囲における請求項8に記載のように、
シリンダボア内周面部分に所定の体積率を有する円筒状のプリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックにおいて、
溶湯が通過可能とされた円筒状の剛性部材が、前記プリフォームの外周に嵌合された状態で該プリフォームと共に鋳ぐるまれている、ようになっている。
【0013】
本発明におけるシリンダブロックつまり鋳造品のうち第3のものは、次のようにされている。すなわち、特許請求の範囲における請求項9に記載のように、
シリンダボア内周面部分に所定の体積率を有する円筒状のプリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックにおいて、
前記プリフォームの体積率が、徐々に変化して、該プリフォームのうち、ピストン下死点側となる特定部分に近づくほど小さくされている、ようになっている。
【0014】
【0015】
【発明の効果】
請求項1によれば、プリフォームのうち注湯される側の特定部分の剛性を高めてあるので、注湯時のプリフォームの変形を防止あるいは低減することができ、プリフォームをシリンダブロックの所定位置にきちんと鋳ぐるむ上で好ましいものとなる。なお、全体的にプリフォームの剛性を大きくすることは、全体的に所定の体積率とは大きく相違する体積率となって好ましくないものとなる。
また、プリフォームとは別部材である剛性部材を利用して、特定部分の剛性を容易かつ確実に大きくすることができる。
さらに、プリフォームのうち、溶湯が注入される側に対応する特定部分の外周にリング状の剛性部材が嵌合されることから、その特定部分が溶湯の圧力によって拡径方向へ変形することを規制できる。
請求項2によれば、剛性部材が、シリンダブロックを構成する溶湯金属と同一の金属からなることから、剛性部材として、剛性に優れた部材を具体的に用いることができる。
【0016】
請求項3によれば、円筒状の剛性部材を利用して、プリフォームの拡径変形を確実に防止することができる。
請求項4によれば、プリフォームのうち注湯位置に近い特定部分に溶湯が容易に浸入することができるようにして、つまりプリフォームを拡径しようとする溶湯の圧力を逃がして、プリフォームの変形を防止することができる。
請求項5によれば、プリフォームの厚さを相違させるという手法によって体積率の相違を得ることができる。
請求項6によれば、溶湯のキャビティへの注入位置を一般的なジャーナル部を形成する部分側からとすることができる。
請求項7によれば、請求項1に対応した鋳造方法によって得られたシリンダブロックが提供される。
請求項8によれば、請求項3に対応した鋳造方法によって得られたシリンダブロックが提供される。
請求項9によれば、請求項4に対応した鋳造方法によって得られたシリンダブロックが提供される。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1、図2において、1は自動車用エンジンにおけるシリンダブロックであり、アルミニウム合金により鋳造されている。このシリンダブロック1は、V型6気筒用とされており、2a〜2fはピストンが摺動自在に嵌合されるシリンダボアであり、3a〜3eはクランク軸の軸受部分となるジャーナル部である。上記各シリンダボア2a〜2fの内面部分に、プリフォーム4がシリンダブロック鋳造時に鋳ぐるまれていて、シリンダボア2a〜2f内面部分の十分な耐摩耗性がプリフォーム4によって確保されている。
【0018】
プリフォーム4は、耐摩耗性を有する金属の繊維を絡めることにより、連通気泡のように互いに内部空隙が連通された多孔性として構成されている。このプリフォーム4は、シリンダボア内面の耐摩耗性確保の観点から、所定の体積率(プリフォーム4の全体積に占める金属繊維の割合で、体積率が大きいほど金属繊維の割合が大きい)を有しており(例えば30%)、あらかじめ円筒状に形成された状態でシリンダブロック1の鋳造時に鋳ぐるまれる。なお、所定の体積率を有するプリフォームはシート状として市販されており、このシート状のものを円筒状に形成して、シリンダブロック1への鋳ぐるみ用として用いられる。
【0019】
図3は、本発明の第1の実施形態を示すもので、シリンダブロックを鋳造する鋳型の一例を示す。この図3において、11は上型、12は下型、13はシリンダボア形成用の中子となるボアピンであり、ボアピン13は上型11に着脱自在に固定される。ボアピン13の外周に、所定の体積率を有する円筒状のプリフォーム4ががたつきなく嵌合される。図3において、ボアピン13の下部がピストン下死点側となり、ボアピン13の上部がピストン上死点側となる。溶湯は、ピストン下死点側から、つまりジャーナル部3a〜3fを形成する側から供給される。すなわち、図示を略す1本の共通の溶湯供給路から、複数の分岐供給路14a、14b・・・に分岐されて、図1に示すシリンダブロック1のうち、前壁部1a、各ジャーナル部3a〜3e、およびシリンダブロック1の後壁部1b部分を形成する部分から、溶湯が上方へ向けて供給されるようになっている(図3では分岐供給路14a、14bのみが示される)。型内のキャビティ15のうち、15aは第1ジャーナル部3aの形成用、15bは前壁部1aの形成用、15cは第2ジャーナル部の形成用、15dは隣り合うシリンダボア間の隔壁形成用である。
【0020】
ボアピン13の下部には、剛性に優れた部材、例えばシリンダブロック1を構成するために溶湯される金属と同一の金属(例えばアルミニウム合金)からなる剛性部材16が取付けられている。この剛性部材16は、全体的にリング状つまり短い円筒状とされて、ボアピン13の下部にがたつきなく嵌合されると共に下型12に着座される本体部16aと、本体部16aの外周縁部から上方に短く立ち上がる係止凸部16bとを有する。本体部16aに、プリフォーム4の下端面が着座、支持されている。係止凸部16bが、プリフォーム4の下端部外周にがたつきなく嵌合されている。これにより、プリフォーム4の下端部は、係止凸部16bによって、拡径方向へ変形することが規制されて、ボアピン13に密着された状態が確実に維持されるようになっている。また、ボアピン13に嵌合されたプリフォーム4は、その周方向一部が、剛性部材16が存在しない場合は分岐供給路14bに臨む(露出する)ことになるが、剛性部材16の本体部16aによって、この分岐供給14bに臨む部分が施蓋されることになる。つまり、プリフォーム4とボアピン13との接触位置(ボアピン13外周面とプリフォーム4内周面との間)が、本体部16aによって下方から施蓋された格好となり、この接触位置に下方から溶湯が浸入することが規制されるようになっている。
【0021】
図3のセット完了状態において、分岐供給路14a、14b等から溶湯がキャビティ15内に供給される。供給された溶湯によって、シリンダブロック1が鋳造されるが、このとき、プリフォーム4および剛性部材16がそれぞれ鋳ぐるまれることになる。溶湯が凝固した後、型が開かれて図1,図2に示すようなシリンダブロック1が得られる。
【0022】
キャビティ15内に溶湯が供給されるとき、従来であれば、剛性部材16が存在していないため、分岐供給路14bからの溶湯がボアピン13の下端部とプリフォーム4の下端部との間に浸入して当該プリフォーム4を部分的に径方向外方側へと拡径変形させようとするが、このような溶湯の浸入が剛性部材16の本体部16aによって規制され、また剛性部材16の係止凸部16bによってプリフォーム4の径方向外方側へ向けての変形が規制されることになる。この結果、プリフォーム4は、所望位置でもってきちんと位置決めされた状態で、シリンダブロック1に鋳ぐるまれることになる。
【0023】
図4は、本発明の第2の実施形態を示すものである。本実施形態では、図3の剛性部材16に代えて、別の形式の剛性部材21を用いてある。この剛性部材21は、全体的にほぼ平板状のリング状とされていて、係止凸部16bを有しない点において図3の剛性部材16と相違する。また、ボアピン13の下端部が部分的に小径部13aとされて、この小径部13aに対して剛性部材21ががたつきなく嵌合されている。この剛性部材21も、プリフォーム4と共に鋳ぐるまれる。このような剛性部材21は、ボアピン13とプリフォーム4との接触位置に対して、下方から溶湯が浸入するのを規制する作用を行う。つまり、剛性部材21は、図3の剛性部材16の本体部16aの機能を果たすものとなっている。これに加えて、剛性部材21は、小径部13aを形成したことに伴って形成される大径部との間の係止段部13bによって、ボアピン13に対して上方へ変位するのが規制される(下方からの溶湯の圧力を受けても、剛性部材21は上方へ変位されることなく図4の所定セット位置に確実に位置決めされて、プリフォーム4に対して上方への押圧力が作用するのを規制する)。
【0024】
図5は、本発明の第3の実施形態を示すものである。本実施形態では、プリフォーム4の外周をほぼ全体的に、剛性に優れた長い円筒状の剛性部材31によって覆うようにしてある。この剛性部材31は、プリフォーム4の外周にがたつきなく嵌合されるが、周囲から溶湯がプリフォーム4内に浸入できるように、溶湯が通過可能とされている。このような溶湯の通過が可能な剛性部材31は、例えば、アルミニウム合金のパンチングメタルによって形成することができる。本実施形態では、剛性部材31によって、プリフォーム4の拡径変形が確実に防止される。なお、剛性部材31の位置決めをより確実に行うために、その上端あるいは下端の少なくとも一方を、上型11あるいは下型12に形成された環状の係止溝に嵌合させておくこともできる。なお、剛性部材31を短いものとして、プリフォーム4の下端部のみに嵌合されるようにすることもできる(図3における係止凸部16bの機能を果たす)。
【0025】
図6〜図10は、本発明の第4の実施形態を示すものであり、プリフォーム4として、拡径変形し易いピストン下死点側の部分つまり特定部分の体積率を、他の部分の体積率よりも小さくしたものを用いるようにしてある。これにより、上記特定部分の金属の占める割合が小さくて(特定部分の空隙割合が大きい)、特定部分に溶湯が容易に浸透しやすいようにすることにより、この特定部分の拡径変形を防止するようにしてある。すなわち、上記特定部分以外の部分、特にピストンピンが摺動されるシリンダボア4の上部は、耐摩耗性の観点から体積率を拡径変形防止ができる程度まで小さくすることは困難であるが、上記特定部分は、ピストンピンが摺動されないので、体積率を小さくしても特に問題とならないものである。
【0026】
前述したような、体積率が部分的に相違されるプリフォーム4を得るための一例について説明する。まず、図6に示すように、全体的に体積率が均一な円筒状の内プリフォーム4Aの外周に、全体的に体積率が均一な円筒状の外プリフォーム4Bを嵌合した状態とする。この後、外力を加えて、図7に示すように、内外2重とされたプリフォーム4を、径方向の寸法つまり厚さがその長手方向に徐々に変化するように成形する。実施形態では、図7において上端の体積率が例えば30%とされ、下端の体積率が例えば6%とされ、下端から上端に渡って徐々に体積率が大きくなるようにされている。
【0027】
図7に示すようにプリフォーム4を成形するため、例えば図10に示すような成形型が用いられる。すなわち、図10において、41は上型、42は下型、43はそれぞれ円弧状とされて閉じられたときに互いに共働して円環状となる複数の分割式の側方型であり、下型42に、徐々に先細となる突起部42aが形成されている。図6に示すプリフォーム4を突起部42aの外周に嵌合させるが、このとき、突起部42aの小径となる先端側部分に対しては、プリフォーム4が大きな間隙をもって嵌合される。この状態で、側方型43を閉じることにより、図7のようなプリフォーム4が得られる。
【0028】
図7のプリフォーム4は、体積率が大きい方をピストン上死点側(体積率の小さい側をピストン下死点側)となるようにして、鋳型にセットされる。この後、溶湯が供給されるが、溶湯供給側のプリフォーム4の体積率が小さいので、溶湯はこの小さい体積率の部分に容易に浸透する結果、この部分(ピストン下死点側部分)が径方向外方側へと変形されることが防止される。鋳造されたシリンダブロック1が図9に示すように得られる。鋳型から取り出された直後のシリンダブロック1は、そのシリンダボアの内径が、ピストン上死点側が下死点側よりも大きいため、必要に応じて、ピストン下死点側の内径が上死点側の内径と同一寸法となるように、研削等の機械加工を行えばよい。
【0029】
図11、図12は、本発明の第5の実施形態を示すもので、体積率がその長手方向において相違するプリフォーム4を得るための別の手法を示すものである。すなわち、まず図11に示すように、全体的に均一な体積率を有する円筒状の内プリフォーム4Cの外周のうち、上部のみに、全体的に均一な体積率を有する外プリフォーム4Dを嵌合させたものを形成する。この後、図11の内外2重部分のみを圧縮成形して、図12に示すように、全体的に内外形が均一であるが、上部のみの体積率が大きくされたプリフォーム4が得られる。体積率が大きい内外2重構造部分がピストン上死点側に位置するように鋳型にセットして、シリンダブロックが鋳造される。なお、内プリフォーム4Cは、溶湯が容易に浸透するように、体積率が小さいものとされている(十分な耐摩耗性が得られる体積率よりも小さい体積率とされている)。
【0030】
図13は、本発明の第6の実施形態を示すもので、キャビティ15に対する溶湯供給位置を工夫することにより、プリフォーム4の拡径変形を防止するものである。すなわち、分岐供給路14bを廃止して、この分岐供給路14bに対応する供給路14xを、拡径変形しやすいプリフォーム4の側方においてキャビティ15内に開口させるようにしてある(供給路14xは下型12より上型11へと伸びている)。これにより、供給路14xから供給れる溶湯(の圧力)は、プリフォーム4(の下端部)に対して径方向外方側から作用することとなり、プリフォーム4の径方向外方側への変形が防止される。
【0031】
以上実施形態について説明したが、プリフォーム4は、シリンダボア内面部分の形成用として用いる場合に限らず、シリンダブロック1のうち特定機能が特に要求される部位であれば、例えばジャーナル部の内面部分形成用等、適宜の位置に用いることができる。本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されたシリンダブロックの一例を示すもので、ジャーナル部側から見た底面図。
【図2】本発明によって形成されたシリンダブロックのシリンダボア部分の様子を示す要部断面図。
【図3】プリフォームが剛性部材と共に鋳型内にセットされた状態を示す要部断面図。
【図4】プリフォームが別の剛性部材と共に鋳型内にセットされた状態を示す要部断面図。
【図5】プリフォームがさらに別の剛性部材と共に鋳型内にセットされた状態を示す要部断面図。
【図6】体積率が部分的に異なるプリフォームを形成する場合の準備工程を示す断面図。
【図7】図6の準備工程から加工されて体積率が部分的に相違した状態のプリフォームを示す断面図。
【図8】図7に示すプリフォームが鋳型内にセットされた状態を示す要部断面図。
【図9】図8の状態から得られたシリンダブロックの要部断面図。
【図10】図6の状態から図7の状態のプリフォームを得るために用いる成形型の一例を示す断面図。
【図11】体積率が部分的に異なるプリフォームを形成する場合の準備工程の別の例を示す断面図。
【図12】図11の準備工程から加工されて体積率が部分的に相違した状態のプリフォームを示す断面図。
【図13】キャビティ内への溶湯供給位置を特定位置として設定した場合の一例を示す要部断面図。
【符号の説明】
1:シリンダブロック
2a〜2f:シリンダボア
3a〜3e:ジャーナル部
4:プリフォーム
11:上型
12:下型
13:ボアピン
14a、14b:分岐溶湯供給路
15:キャビティ
16、21、31:剛性部材
14x:分岐溶湯供給路(特定位置)
Claims (9)
- 所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを型内のキャビティにセットし、該キャビティ内に溶湯を注入して、該プリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックを鋳造するシリンダブロックの鋳造方法において、
前記プリフォームのうち、溶湯が注入される側に対応する特定部分の外周にリング状の剛性部材が嵌合されることにより当該特定部分が他の部分に比して剛性が大きくされ、
前記剛性部材が、前記プリフォームと共に鋳ぐるまれる、
ことを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。 - 請求項1において、
前記剛性部材は、シリンダブロックを構成する溶湯金属と同一の金属からなる、
ことを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。 - 所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを型内のキャビティにセットし、該キャビティ内に溶湯を注入して、該プリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックを鋳造するシリンダブロックの鋳造方法において、
前記プリフォームが、シリンダボア形成用中子となるボアピンの外周に嵌合された状態で前記キャビティ内に配設され、
前記プリフォームの外周に、溶湯が通過可能とされた円筒状の剛性部材が嵌合されて、該剛性部材によって該プリフォームが前記ボアピンの径方向外方側へ拡がるのが規制され、
前記プリフォームの外周に前記剛性部材が嵌合された状態で前記キャビティ内に溶湯が注入されて、該プリフォームと共に該剛性部材が鋳ぐるまれる、
ことを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。 - 所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを型内のキャビティにセットし、該キャビティ内に溶湯を注入して、該プリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックを鋳造するシリンダブロックの鋳造方法において、
前記プリフォームの体積率が、徐々に変化して、該プリフォームのうち、溶湯が注入される側に対応する特定部分に近づくほど小さくされている、
ことを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。 - 所定の体積率を有する円筒状のプリフォームを型内のキャビティにセットし、該キャビティ内に溶湯を注入して、該プリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックを鋳造するシリンダブロックの鋳造方法において、
前記プリフォームのうち、溶湯が注入される側に対応する特定部分の体積率が他の部分の体積率に比して小さくされ、
前記特定部分の厚さが、前記他の部分の厚さよりも大きくされている、
ことを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。 - 請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
前記溶湯の注入が、前記キャビティのうち少なくともジャーナル部を形成する部位側から行われる、
ことを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。 - シリンダボア内周面部分に所定の体積率を有する円筒状のプリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックにおいて、
前記プリフォームのうち、ピストン下死点側となる特定部分の外周にリング状の剛性部材が嵌合されて、該プリフォームと該剛性部材とが共に鋳ぐるまれている、
ことを特徴とするシリンダブロック。 - シリンダボア内周面部分に所定の体積率を有する円筒状のプリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックにおいて、
溶湯が通過可能とされた円筒状の剛性部材が、前記プリフォームの外周に嵌合された状態で該プリフォームと共に鋳ぐるまれている、
ことを特徴とするシリンダブロック。 - シリンダボア内周面部分に所定の体積率を有する円筒状のプリフォームが鋳ぐるまれたシリンダブロックにおいて、
前記プリフォームの体積率が、徐々に変化して、該プリフォームのうち、ピストン下死点側となる特定部分に近づくほど小さくされている、
ことを特徴とするシリンダブロック。
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