JP4240170B2 - 複合クラッチ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、入出力要素それぞれに摩擦部材を有し、摩擦部材を押圧し該摩擦部材間のすべり摩擦力を締結力とするすべり制御型クラッチを具えるクラッチ装置において、該すべり制御型クラッチの締結に必要なエネルギーを最小限に抑えるための技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のすべり制御型クラッチとしては、例えば、図5,6に示すような電制多板クラッチがある。図5は、非通電時の電制多板クラッチを側面から示した模式断面図、また、図6は、通電時の電制多板クラッチを側面から示した模式断面図である。
【0003】
図5,6は同一の電磁式の湿式多板クラッチであって、基本的には、入出力間を直結または開放するメインクラッチ21と、このメインクラッチ21を動作させるパイロットクラッチ27と、メインクラッチ21およびパイロットクラッチ27間に設けたローディングカム機構23で構成される。
【0004】
メインクラッチ21は、入力シャフト20と一体のケーシング内に設けた多数のクラッチプレート21aと、出力シャフト22と一体に設けた多数のクラッチプレート21bとを交互に配し、入出力間を直結するに際しては、入力側クラッチプレート21aと、出力側クラッチプレート21bとの間を押圧させることにより、これらクラッチプレート21a,21b間に生じるすべり摩擦力を締結力とする。
【0005】
パイロットクラッチ27は、入力シャフト20に設けた多数のクラッチプレート27aと、ローディングカム機構23を構成するパイロットカム25に設けた多数のクラッチプレート27bとを交互に配して構成される。パイロットクラッチ27は、電磁コイル29に供給される電流で作動する。電流が供給された場合は、図6(a)に示す如く、パイロットクラッチ27内に磁界Eが発生することによって、パイロットクラッチ27の入出力側クラッチプレート27a,27b間を押圧させ、パイロットクラッチ27を直結し、また、電流が供給されない場合は、図5(a)に示す如く、パイロットクラッチ27内に磁界Eが発生しないため、パイロットクラッチ27の入出力側クラッチプレート27a,27b間を押圧させることなく、パイロットクラッチ27を開放する。
【0006】
ローディングカム機構23は、出力シャフト22を軸方向に摺動自在なメインカム24とパイロットカム25との間にボール部材26が介在し、メインカム24は、その軸方向への摺動によって、メインクラッチ21を押圧することができる。
【0007】
図5(b)および図6(b)は、ローディングカム機構23を拡大した模式図である。図5(b)に示すように、ローディングカム機構23は、パイロットクラッチ27が開放された状態では、ボール部材26がメインカム24およびパイロットカム25に形成された溝内に嵌り込んで軸方向に押し縮まった状態になる。つまり、電磁コイル29に電流が供給されない場合、メインクラッチ21に対してメインカム24からの押圧力が発生しないから、メインクラッチ21のクラッチプレート21a, 21b間は開放される。従って、電磁コイル29に電流が供給されない場合は、メインクラッチ21は開放され、入力シャフト20からのトルクは出力シャフト22に伝達されない。
【0008】
これに対して、パイロットクラッチ27が直結される状態では、ローディングカム機構23は、図6(b)に示すように、ボール部材26がメインカム24およびパイロットカム25に形成された溝内からずれて軸方向に押し開かれた状態になる。つまり、電磁コイル29に電流が供給された場合、メインクラッチ21に対してメインカム24からの押圧力が発生するから、メインクラッチ21のクラッチプレート21a, 21b間は締結される。従って、電磁コイル29に電流が供給された場合は、メインクラッチ21が直結され、入力シャフト20からのトルクTは、メインクラッチ21を介して出力シャフト22に伝達される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したような電制多板クラッチにあっては、電磁コイル29に発生する電磁力Eの大小に応じてクラッチプレート21a, 21b間を押圧し、メインクラッチ21で伝達可能なトルクを決定する。つまり、すべり制御型クラッチにあっては、入出力シャフト20,22それぞれに有したクラッチプレート21a,21b間に生じるすべり摩擦力を締結力として、メインクラッチ21を締結する。
【0010】
このため、上述のすべり制御型クラッチにあっては、クラッチ21を締結するに際し、クラッチプレート21a,21b間で生じるすべり摩擦によるエネルギー損失を免れない。また、エンジン駆動による通常走行時、または、惰性走行時のように、クラッチ21を継続的に締結する必要がある場合は、クラッチプレート21a,21b間を常時押圧させておかなければならないため、この押圧力を発生させるためのエネルギー消費を免れない。
【0011】
本発明の解決すべき課題は、上述の事実に鑑みてなされたものであり、細かな締結力の調整が可能なすべり制御型クラッチの機能を確保しつつ、入出力要素間を継続的に締結させるために必要なエネルギーを軽減させることである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この目的のため、先ず第1発明による複合クラッチ装置は、入出力要素それぞれに摩擦部材を有し、これら入出力要素間の締結に際しては、摩擦部材を押圧し該摩擦部材間に生じるすべり摩擦力を締結力とするすべり制御型クラッチを具えるクラッチ装置において、入出力要素間に回転体が介在し、これら入出力要素間の締結に際しては、前記回転体が前記入出力要素間に形成されたクサビ形状部に押し込まれることによって生じるクサビ力を締結力とするクサビ力制御型クラッチを付加して具え、前記クサビ力制御型クラッチを前記すべり制御型クラッチと並列に配置し、入出力要素間の締結に際しては、前記すべり制御型クラッチを前記クサビ力制御型クラッチよりも先に締結し、前記クサビ力制御型クラッチによる締結が完了した後は、前記すべり制御型クラッチによる締結を解除するようにしたことを特徴とするものである。
【0013】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1発明において、前記クサビ力制御型クラッチの締結は、電磁力によって解除されるようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1又は2の発明において、前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断は、前記すべり制御型クラッチの締結動作の開始から所定時間を経過後になされることを特徴とするものである。
【0015】
発明である複合クラッチ装置は、上記第発明において、前記すべり制御型クラッチによる締結動作は、車速が所定の速度以下になった場合に解除されることを特徴とするものである。
【0016】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1又は2の発明において、前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断は、該すべり制御型クラッチへの制御信号が所定値以上になったときになされることを特徴とするものである。
【0017】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1又は2の発明において、前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断は、入出力要素間の回転数差が所定値以下になったときになされることを特徴とするものである。
【0018】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1乃至発明のいずれか一発明において、前記クサビ力制御型クラッチと、前記すべり制御型クラッチとの入力側または出力側に共通な回転衝撃吸収用ダンパーを設けることを特徴とするものである。
【0019】
【発明の効果】
第1発明である複合クラッチ装置は、入出力要素間での動力伝達を、すべり制御型クラッチの摩擦部材を押圧することによって該摩擦部材間に生じるすべり摩擦力で行い、例えば、クラッチ内のスリップ制御などを可能にする。入出力要素間の締結に際しては、始めに、前記すべり制御型クラッチによる締結を開始し、その後、前記クサビ制御型クラッチによる締結を開始する。
【0020】
この場合、入出力要素間の締結に際しては、入出力要素間に介在する回転体がこれら入出力要素間に形成されたクサビ形状部に押し込まれることによって生じるクサビ力を締結力として、前記すべり制御型クラッチを前記クサビ制御型クラッチよりも先に締結させるようにしたから、入出力要素間の締結は、入出力要素間を継続的に締結するために必要なエネルギが小さく済む前記クサビ制御型クラッチによって行われる。このため、摩擦部材を押圧するために大きなエネルギを必要とする前記すべり制御型クラッチの締結は、少なくとも、前記クサビ力制御型クラッチの締結が完了するまでの短時間でよい。
【0021】
従って本発明は、すべり摩擦力が締結力となるすべり制御型クラッチに、クサビ力が締結力となるクサビ制御型クラッチを付加することによって、細かな締結力の調整が可能なすべり制御型クラッチの機能を確保しつつ、入出力要素間を継続的に締結させるために必要なエネルギを軽減することができる。
【0022】
また、前記クサビ力制御型クラッチによる締結が完了した後は、前記すべり制御型クラッチによる締結を解除するようにしたから、入出力要素間を継続的に締結させるために必要なエネルギの軽減に最も効果的である。
【0023】
発明である複合クラッチ装置は、上記第発明において、前記クサビ力制御型クラッチの締結が電磁力によって解除されるようにしたから、前記クサビ力制御型クラッチの締結がON,OFF制御による短時間で行われる。このため、すべり制御型クラッチを締結させておく時間も短時間で済み、締結で消費されるエネルギをさらに軽減させることができる。
【0024】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1又は2の発明において、前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断が、前記すべり制御型クラッチの作動開始から所定時間を経過後になされるようにしたから、前記クサビ力制御型クラッチの動作を開始させるための判断を容易に行うことができる。
【0025】
発明である複合クラッチ装置は、上記第発明において、前記すべり制御型クラッチによる締結動作は、車速が所定の速度以下になった場合に解除されるようにしたから、クラッチを締結する必要がない車両の停止状態になった場合の判断が容易で、クラッチ締結を速やかに中止することができる。
【0026】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1又は2の発明において、前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断は、該すべり制御型クラッチへの制御信号が所定値以上になったときになされるようにしたから、前記クサビ力制御型クラッチの動作を開始させるための判断を容易に行うことができる。
【0027】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1又は2の発明において、前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断は、入出力要素間の回転数差が所定値以下になったときになされるようにしたから、前記クサビ力制御型クラッチの動作を開始させるための判断を容易にできる。
【0028】
発明である複合クラッチ装置は、上記第1乃至発明のいずれか一発明において、前記クサビ力制御型クラッチと、前記すべり制御型クラッチとの入力側または出力側に共通な回転衝撃吸収用ダンパーを設ける。前記回転衝撃吸収用ダンパーは、前記すべり制御型クラッチまたは前記クサビ力制御型クラッチを締結する際に生じる回転方向の衝撃を吸収するための部材である。
【0029】
この場合、前記すべり制御型クラッチおよび前記クサビ力制御型クラッチの個々に設ける必要のあるダンパーが1つになることで、複合クラッチ装置内の部品点数が最小限に済むため、コストの軽減を図ることができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0031】
まず本発明を説明するに当たり、クサビ力制御型クラッチを説明する。図7は、クサビ力制御型クラッチの一実施形態である電制ローラクラッチを示し、(a)は本形態を軸方向から示した断面図、また、(b)は本形態を側面から示した断面図である。ローラクラッチは、トルク伝達部および電磁クラッチ部から構成され、多角形状の断面を有した入力シャフト30と、出力シャフトの外輪32との間に複数の回転ローラ31が介在するものである。
【0032】
本形態のトルク伝達部は、入力シャフト30、出力シャフトの外輪32、回転ローラ(係合子)31および保持器34で構成され、入力シャフトのカム面30fと、出力外輪の内周面32fでクサビ空間を形成し、スイッチばね37によって保持器34と回転ローラ31をカム面30fに対して中立位置に支持している。入力シャフト30は、例えば、図(a)に示すように、6つのカム面30fを有した六角形断面で、そのカム面30fそれぞれに保持器34で回転自在に支持された6つの回転ローラ31を具える。但し入力シャフト30の断面形状および回転ローラ31の個数は、6つに限定されるものではない。出力外輪32は、中空の円筒形であるため、回転ローラ31がカム面30fに対して中立位置にある場合、回転ローラ31は、入力シャフトのカム面30fおよび出力外輪の内周面32fの間を空転する。
【0033】
電磁クラッチ部は、アーマチュア33,電磁コイル35およびロータ36で構成され、アーマチュア33には保持器34が取り付けられている。電磁クラッチ部は、電磁コイル35に供給される電流で作動する。電流が供給された場合は、アーマチュア33がロータ36に吸引されるため、保持器34がロータ36に対して固定され、また、電流が供給されない場合は、アーマチュア33がロータ36に吸引されることがないため、保持器34はロータ36に対して開放される。
【0034】
図8は、ローラクラッチ内で伝達されるトルクTを説明するための作用図である。図8において、上半分はクラッチが開放されたニュートラルポジション(中立位置)を示し、図(a)は正面からクラッチを示した断面図、図(b)は側面から示した断面図である。また、図8において、下半分はクラッチが締結されたロックポジション(係合位置)を示し、図(c)は正面からクラッチを示した断面図、図(d)は側面から示した断面図である。
【0035】
図9は、カム面30fと出力外輪32fとの間で生じるクサビ力を説明するための作用図であり、(a)はクラッチが締結されたロックポジション、(b)はクラッチが開放されたニュートラルポジションを示している。なお、図9(c)は他の実施形態であって、入力側に外輪40を設けると共に、出力シャフト42の外周にカム面42fを形成し、入力外輪の内周面40fと出力シャフトのカム面42fとの間に保持器44で保持された回転ローラ41を介在させたものである。
【0036】
ここで、図7〜9を参照して、上記電制ローラクラッチの作用を詳細に説明する。
【0037】
図8(b)に示すように、ローラクラッチは、アーマチュア33がロータ36に吸引されない状態では、ロータ36から離れた状態になる。つまり、電磁コイル35に電流を供給しない場合、保持器34にはスイッチばね37による復元力が働くから、図9(b)に示す如く、回転ローラ31はニュートラルポジションを保持され、それ以後は、入力シャフト30と出力外輪32とが相対回転する空転状態となる。従って、電磁コイル35に電流を供給しない場合は、図8(a)の如く、入力シャフト30と出力外輪32との間が開放され、入力シャフト30からのトルクTは出力外輪32に伝達されない。
【0038】
これに対して、アーマチュア33がロータ36に吸引される状態では、アーマチュア33とロータ36との間に摩擦が発生する。この摩擦力は、スイッチばね37の力よりも大きく、入力シャフト30が出力外輪32に対して相対回転しようとすると、図8(d)に示すように、保持器34がロータ36に対して固定された状態になる。つまり、電磁コイル35に電流を供給した場合、アーマチュア33がロータ36に吸引されるから、図9(a)に示す如く、回転ローラ31が入力シャフトのカム面30fおよび出力外輪の内周面32fで形成されたクサビ形状部に嵌り込んだロックポジションに固定され、それ以後、入力シャフト30と出力外輪32とは相対回転が不可能な直結状態となる。従って、電磁コイル35に電流を供給する場合は、図8(c)の如く、入力シャフト30と出力外輪32との間が締結され、入力シャフト30からのトルクTは出力外輪32に伝達される。
【0039】
以下、本発明である複合クラッチ装置の一実施形態を、図5,6および図7〜9で説明した電制湿式多板クラッチおよび電制ローラクラッチを参照して詳細に説明する。
【0040】
図1は、本発明である複合クラッチ装置の一実施形態を側面から示した断面図であって、ケーシング18内に、ローラクラッチ2を湿式多板クラッチ1と並列に配置したものである。本形態の複合クラッチ装置は、入力シャフト10が出力シャフト13の端部に形成された外輪(出力要素)12内に突き当てした状態で構成されている。出力シャフト13は、軸受B2 を介してケーシング18に支持されている。
【0041】
すべり制御型クラッチである湿式多板クラッチ1は、入力シャフト10に取り付けたクラッチアーム(第1の入力要素)11aの外周部に設けた多数のクラッチプレート3と、出力外輪12の内周面に設けた多数のクラッチプレート4とを交互に配し、クラッチピストン5を入力側に設ける。クラッチピストン5は、ベアリングB1 を介して、油圧ピストン15の外周面に取り付けられる。油圧ピストン15は、ハウジング16に設けた油路17から供給される油圧の大小によって、クラッチピストン5と一体に軸方向に移動する。つまり、湿式多板クラッチ1が入力シャフト10および出力シャフト13間を直結するに際しては、オイルを供給された油圧ピストン15の押し力が、クラッチピストン5を介して、入力側クラッチプレート3および出力側クラッチプレート4間を押圧させることにより、これらクラッチプレート3,4間に生じるすべり摩擦力を締結力とする。
【0042】
ここで、湿式多板クラッチ1の作用を説明する。
【0043】
湿式多板クラッチ1は、油路17からオイルが供給されない場合、油圧ピストン15の押し力が生じないから、入出力側クラッチプレート3,4間を押圧させることなく、これらクラッチプレート3,4間を開放する。従って、油路17からオイルが供給されない場合は、クラッチピストン5からの押力が生じないため、入力シャフト10と出力外輪12との間が開放され、入力シャフト10からのトルクは出力シャフト13に伝達されない。
【0044】
これに対して、油路17からオイルが供給された場合は、油圧ピストン15の押し力が生じ、この押し力が、クラッチピストン5を介して、入力側クラッチプレート3および出力側クラッチプレート4間を押圧させることにより、これらクラッチプレート3,4間を締結する。従って、油路17からオイルが供給された場合は、クラッチピストン5からの押力によって、入力シャフト10と出力外輪12との間が直結され、入力シャフト10からのトルクは出力シャフト13に伝達される。
【0045】
クサビ力制御型クラッチであるローラクラッチ2は、図7〜9で説明のローラクラッチと同様、トルク伝達部および電磁クラッチ部から構成され、入力シャフト10に取り付けた多角形状の断面(カム面11bf )を有したローラクラッチ内輪(第2の入力要素)11bと、出力シャフト13の外輪(出力要素)12との間に複数の回転ローラ6が介在するものである。ローラクラッチ内輪11bは、例えば、スプライン嵌合などによって入力シャフト10に取り付けられている。
【0046】
本形態のトルク伝達部は、ローラクラッチ内輪11b、出力外輪12、回転ローラ6および保持器7で構成され、ローラクラッチ内輪のカム面11bf と出力外輪12の内周面12fでクサビ形状部(図7〜9で説明したカム面30fおよび内周面32fで形成したクサビ形状部に相当)を形成し、回転ローラ6と保持器7とをカム面11bf に対して中立位置に支持している。
【0047】
ローラクラッチ内輪11bは、6つのカム面(図7〜9で説明したカム面30fに相当)11bf を有した六角形断面で、カム面11bf それぞれに保持器(図7〜9で説明した保持器34に相当)7で回転自在に支持された6つの回転ローラ(図7〜9で説明した回転ローラ31に相当)6を具える。出力外輪12は、中空の円筒形であるため、回転ローラ6がカム面11bf に対して中立位置にある場合、回転ローラ6は、ローラクラッチ内輪のカム面11bf および出力外輪の内周面12fの間を空転する。
【0048】
電磁クラッチ部は、アーマチュア8および電磁ソレノイド19で構成され、アーマチュア8には保持器7が取り付けられている。電磁クラッチ部は、電磁ソレノイド19に供給される電流で作動する。電流が供給された場合は、アーマチュア8が電磁ソレノイド19側に吸引されるため、保持器7が電磁ソレノイド19側に固定され、また、電流が供給されない場合は、アーマチュア8が電磁ソレノイド19側に吸引されることがないため、保持器7は電磁ソレノイド19側に対して開放される。
【0049】
ここで、ローラクラッチ2の作用を説明する。
【0050】
ローラクラッチ2は、アーマチュア8が電磁ソレノイド19側に吸引されない状態では、図8(b)で説明と同様、電磁ソレノイド19側(図7〜9で説明したロータ36に相当)から離れた状態になる。つまり、電磁ソレノイド19に電流を供給しない場合、保持器7には図示せぬスイッチばね(図7で説明したスイッチばね37に相当)による復元力が働くから、図9(b)で説明と同様、回転ローラ6はニュートラルポジションを保持され、それ以後は、ローラクラッチ内輪(図7〜9で説明した入力シャフト30に相当)11bと出力外輪(図7〜9で説明した出力外輪32に相当)12とが相対回転する空転状態となる。従って、電磁ソレノイド19に電流を供給しない場合は、図8(a)で説明と同様、ローラクラッチ内輪のカム面11bf と出力外輪の内周面12fとの間が開放され、ローラクラッチ内輪11bからのトルクは出力シャフト13に伝達されない。
【0051】
これに対して、アーマチュア8が電磁ソレノイド19側に吸引される状態では、アーマチュア8と電磁ソレノイド19側との間に摩擦が発生する。この摩擦力は、前記スイッチばねの力よりも大きく、ローラクラッチ内輪11bが出力外輪12に対して相対回転しようとすると、図8(d)で説明と同様、保持器7が電磁ソレノイド19側に対して固定された状態になる。つまり、電磁ソレノイド19に電流を供給した場合、アーマチュア8が電磁ソレノイド19側に吸引されるから、図9(a)で説明と同様、回転ローラ6がローラクラッチ内輪のカム面11bf および出力外輪の内周面12fで形成されたクサビ形状部に嵌り込んだロックポジションに固定され、それ以後、ローラクラッチ内輪11bと出力外輪12とは相対回転が不可能な直結状態となる。従って、電磁ソレノイド19に電流を供給する場合は、図8(c)で説明と同様、ローラクラッチ内輪のカム面11bf と出力外輪の内周面12fとの間が締結され、ローラクラッチ内輪11bからのトルクは出力シャフト13に伝達される。
【0052】
図1の本発明複合クラッチ装置は、上述の如く、多板クラッチ1にローラクラッチ2を付加して具え、第1の入力要素であるクラッチアーム11aと第2の入力要素であるローラクラッチ内輪11bとを入力シャフト10に一体に取り付けて入力側を共通化すると共に、出力側である出力外輪13を共通化し、ローラクラッチ2を多板クラッチ1と並列に配置したものである。
【0053】
本形態では、多板クラッチ1とローラクラッチ2との入力側、即ち、多板クラッチ1のクラッチアーム11aおよびローラクラッチ2の内輪11b間には共通な回転衝撃吸収用ダンパー9が設けられている。ダンパー9は、多板クラッチ1またはローラクラッチ2を締結する際に生じる回転方向の衝撃を吸収するための部材である。この場合、多板クラッチ1およびローラクラッチ2の個々に設ける必要のあるダンパーが1つになることで、複合クラッチ装置を構成する部品点数が最小限に済むため、コストの軽減を図ることができる。なお、図9(c)で例示の如く、入力シャフトに外輪40を形成し、この外輪40内にカム面42fを有する出力シャフト42を突き当てした実施形態の場合は、多板クラッチ1とローラクラッチ2との出力側に共通な回転衝撃吸収用ダンパを設けることにより、同様な効果が得られる。
【0054】
図2は、本発明による複合クラッチ装置の作用を説明する制御フローである。まずステップ100にて、エンジンおよびトランスミッション間の締結指令、即ち、アクセルペダルON、または、エンジンブレーキONの指令を受けて、多板クラッチ1の制御を開始し、この多板クラッチ1を作動させると同時に、ステップ110にて、タイマーをスタートさせる。このタイマーは、ステップ130で計測される時間が所定時間t1に達するまで繰り返しカウントされる。
【0055】
ステップ120では、車速Vを検出し、タイマーが所定の時間t1に達する前に車速Vが所定値V0を下回った場合、即ち、車両がほぼ停止状態になってしまった場合は、ステップ150に移行し、このステップ150にて、多板クラッチ1の制御を中止させ、複合クラッチ装置を制御するためのフローを終了する。
【0056】
この場合、多板クラッチ1による締結動作は、車速Vが所定の車速V0を下回った場合に解除されるようにしたから、クラッチを直結する必要がない車両の停止状態になった場合の判断が容易で、クラッチ締結を速やかに中止することができる。
【0057】
ステップ130にて車速Vが所定時間t1まで所定値V0を下回るがことなければ、ステップ140に移行し、このステップ140にて、多板クラッチ1が直結にあると判断して、ローラクラッチ2の締結動作を開始する。その後、ステップ150にて、多板クラッチ1の締結動作を終了させると、回転ローラ6がクサビ効果によって、ローラクラッチ内輪のカム面11bfと出力外輪の内周面12fとの間に食い込むため、ローラクラッチ内輪11bと出力外輪12との間が締結され、ローラクラッチ内輪11bからのトルクは出力シャフト13に伝達される。
【0058】
本形態の複合クラッチ装置によれば、ローラクラッチ2の締結動作を開始させる際の判断が、多板クラッチ1の締結動作の開始から所定時間t1 を経過後になされるようにしたから、ローラクラッチ2の締結動作を開始させるための判断を容易に行うことができる。
【0059】
なお、ローラクラッチ2は、電磁ソレノイド19に供給される制御電流をOFFしても締結状態が維持されるから、ステップ160のプログラムを付加し、このステップ160にて、ローラクラッチ2の締結動作を終了してもよい。このように、ローラクラッチ2による締結が完了した後は、多板クラッチ1による締結を解除するようにすれば、入力要素11および出力要素12間を継続的に締結させるために必要なエネルギの軽減に最も効果的である。
【0060】
図3は、本発明による複合クラッチ装置の作用を説明する他の制御フローである。この実施形態では、複合クラッチ装置内の多板クラッチ1を制御するために出力されるトルク指令値Tを用い、このトルク指令値Tが締結に必要な値を超えるかどうかで、クラッチ締結を判断するものである。
【0061】
まずステップ200にて、エンジンおよびトランスミッション間の締結指令、即ち、アクセルペダルON、または、エンジンブレーキONの指令を受けて、多板クラッチ1の制御を開始し、多板クラッチ1を作動させると同時に、ステップ210にて、多板クラッチ1のトルク指令値Tを検出する。この検出は、トルク指令値Tが所定値T0以上になるまで繰り返し行われる。
【0062】
ステップ210にて、トルク指令値Tが所定値T0以上になれば、多板クラッチ1が直結状態であると判断してステップ220に移行し、このステップ220にて、ローラクラッチ2の締結動作を開始する。その後、ステップ230に移行し、このステップ230にて、多板クラッチ1の締結動作を終了させる。この場合、回転ローラ6がクサビ効果によって、ローラクラッチ内輪のカム面11bfと出力外輪の内周面12fとの間に食い込むため、ローラクラッチ内輪11bと出力外輪12との間が締結され、ローラクラッチ内輪11bからのトルクは出力シャフト13に伝達される。
【0063】
なお、ローラクラッチ2は、電磁ソレノイド19に供給される制御電流をOFFしても締結状態が維持されるから、ステップ240のプログラムを付加し、このステップ240にて、ローラクラッチ2の締結動作を終了してもよい。このように、ローラクラッチ2による締結が完了した後は、多板クラッチ1による締結を解除するようにすれば、入力要素11および出力要素12間を継続的に締結させるために必要なエネルギの軽減に最も効果的である。また、クラッチ締結の判断に用いたトルク指令値Tは、多板クラッチ1を制御する電磁ソレノイドに供給される電流値Iを用いてもよい。
【0064】
本形態の複合クラッチ装置によれば、ローラクラッチ2の締結動作を開始させる際の判断が、多板クラッチ1への制御信号が所定値以上になったときになされるようにしたから、ローラクラッチ2の締結動作を開始させるための判断を容易に行うことができる。
【0065】
図4は、本発明による複合クラッチ装置の作用を説明するさらに他の制御フローである。この実施形態では、入力側回転数、例えば、入力シャフト10の回転数Niと、出力側回転数、例えば、出力シャフト13の回転数Noとを検出し、これら入出力側回転数NiおよびNoとの回転差から、クラッチ締結を判断するものである。
【0066】
まずステップ300にて、エンジンおよびトランスミッション間の締結指令、即ち、アクセルペダルON、または、エンジンブレーキONの指令を受けて、多板クラッチ1の制御を開始し、多板クラッチ1を作動させると同時に、ステップ310にて、入力側回転数Ni および出力側回転数No を検出する。この検出は、入力側回転数Ni が出力側回転数No と等しくなるまで繰り返し行われる。
【0067】
ステップ310にて、入力側回転数Ni が出力側回転数Noと等しく(Ni=No)なれば、多板クラッチ1が直結状態であると判断してステップ320に移行し、このステップ320にて、ローラクラッチ2の締結動作を開始する。その後、ステップ330に移行し、このステップ330にて、多板クラッチ1の締結動作を終了させる。この場合、回転ローラ6がクサビ効果によって、ローラクラッチ内輪のカム面11bfと出力外輪の内周面12fとの間に食い込むため、ローラクラッチ内輪11bと出力外輪12との間が締結され、ローラクラッチ内輪11bからのトルクは出力シャフト13に伝達される。
【0068】
なお、ローラクラッチ2は、電磁ソレノイド19に供給される制御電流をOFFしても締結状態が維持されるから、ステップ340のプログラムを付加し、このステップ340にて、ローラクラッチ2の締結動作を終了してもよい。このように、ローラクラッチ2による締結が完了した後は、多板クラッチ1による締結を解除するようにすれば、入力要素11および出力要素12間を継続的に締結させるために必要なエネルギの軽減に最も効果的である。
【0069】
本形態の複合クラッチ装置によれば、ローラクラッチ2の締結動作を開始させる際の判断が、入力側および出力側間の回転差が所定値以下になったときになされるようにしたから、ローラクラッチ2の締結動作を開始させるための判断を容易に行うことができる。
【0070】
上述したことから明らかなように、本発明複合クラッチ装置は、入出力シャフト10,13間での動力伝達を、多板クラッチ1のクラッチプレート3,4を押圧することによってこれらクラッチプレート3,4間に生じる摩擦力で行い、例えば、複合クラッチ装置のスリップ制御を可能にする。入出力要素10,13間の締結に際しては、初めに、多板クラッチ1による締結を開始し、その後、ローラクラッチ2による締結を開始する。
【0071】
この場合、入力シャフト10および出力シャフト13間を直結状態するに際しては、ローラクラッチ内輪のカム面11bf および出力外輪の内周面12f間に介在する回転ローラ6がこれらカム面11bf および内周面12f間に形成されたクサビ形状部に押し込まれることによって生じるクサビ力を締結力として、多板クラッチ1をローラクラッチ2よりも先に締結させるようにしたから、入力要素11および出力要素12間の締結は、入出力要素11,12間を継続的に締結するために必要なエネルギが小さく済むローラクラッチ2によって行われる。このため、クラッチプレート3,4を押圧するために大きなエネルギを必要とする多板クラッチ1の締結は、少なくとも、ローラクラッチ2の締結が完了するまでの短時間でよい。
【0072】
従って、本発明複合クラッチ装置によれば、すべり摩擦力が締結力となる多板クラッチ1に、クサビ力が締結力となるローラクラッチ2を付加することによって、スリップ制御などの細かな締結力の調整が可能な多板クラッチ1の機能を確保しつつ、入力要素11および出力要素12間、即ち、入力シャフト10および出力シャフト13間を継続的に直結状態にさせるために必要なエネルギを軽減することができる。
【0073】
特に、本形態の複合クラッチ装置は、ローラクラッチ2の締結が電磁力、即ち、電磁ソレノイド19によって解除されるものであるから、ローラクラッチ2の締結がON,OFF制御による短時間で行われる。このため、多板クラッチ1を締結させておく時間も短時間で済み、締結で消費されるエネルギをさらに軽減させることができる。
【0074】
上述したところは、本発明の好適な実施形態を示したにすぎず、当業者によれば、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。他のすべり制御型クラッチとしては、例えば、特開平8−219190号公報に記載されたパウダークラッチがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明である複合クラッチ装置の一実施形態を側面から示した断面図である。
【図2】 本発明装置の作用を説明する制御フローである。
【図3】 本発明装置の作用を説明する他の制御フローである。
【図4】 本発明装置の作用を説明するさらに他の制御フローである。
【図5】 すべり制御型クラッチである多板クラッチを側面から示した断面図である。
【図6】 同多板クラッチを側面から示した断面図である。
【図7】 (a)は、クサビ力制御型クラッチであるローラクラッチを正面から示した断面図、(b)は、ローラクラッチを側面から示した断面図である。
【図8】 (a)は、電磁コイルOFF時のローラクラッチを正面から示した断面図、(b)は、同ローラクラッチを側面から示した断面図、(c)は、電磁コイルON時のローラクラッチを正面から示した断面図、(d)は、同ローラクラッチを側面から示した断面図である。
【図9】 (a)は、図7のローラクラッチにクサビ力が生じたときの正面から示した断面図、(b)は、図7のローラクラッチにクサビ力が生じないときの正面から示した断面図、(c)は、他のローラクラッチにクサビ力が生じたときの正面から示した断面図である。
【符号の説明】
1 多板クラッチ(すべり制御型クラッチ)
2 ローラクラッチ(クサビ力制御型クラッチ)
3 入力側クラッチプレート
4 出力側クラッチプレート
5 クラッチピストン
6 回転ローラ
7 保持器
8 アーマチュア
9 衝撃吸収用ダンパ
10 入力シャフト
11a クラッチアーム
11b ローラクラッチ内輪
11bf カム面
12 出力シャフトの外輪
12f 出力外輪の内周面
13 出力シャフト
15 油圧ピストン
16 ハウジング
17 油路
18 ケーシング
19 電磁ソレノイド
B1,B2 軸受

Claims (7)

  1. 入出力要素それぞれに摩擦部材を有し、これら入出力要素間の締結に際しては、摩擦部材を押圧し該摩擦部材間に生じるすべり摩擦力を締結力とするすべり制御型クラッチを具えるクラッチ装置において、入出力要素間に回転体が介在し、これら入出力要素間の締結に際しては、前記回転体が前記入出力要素間に形成されたクサビ形状部に押し込まれることによって生じるクサビ力を締結力とするクサビ力制御型クラッチを付加して具え、前記クサビ力制御型クラッチを前記すべり制御型クラッチと並列に配置し、入出力要素間の締結に際しては、前記すべり制御型クラッチを前記クサビ力制御型クラッチよりも先に締結し、前記クサビ力制御型クラッチによる締結が完了した後は、前記すべり制御型クラッチによる締結を解除するようにしたことを特徴とする複合クラッチ装置。
  2. 前記クサビ力制御型クラッチの締結は、電磁力によって解除されるようにしたことを特徴とする請求項に記載の複合クラッチ装置。
  3. 前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断は、前記すべり制御型クラッチの締結動作の開始から所定時間を経過後になされることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合クラッチ装置。
  4. 前記すべり制御型クラッチによる締結動作は、車速が所定の速度以下になった場合に解除されることを特徴とする請求項に記載の複合クラッチ装置。
  5. 前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断は、該すべり制御型クラッチへの制御信号が所定値以上になったときになされることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合クラッチ装置。
  6. 前記クサビ力制御型クラッチの締結動作を開始させる際の判断は、入出力要素間の回転数差が所定値以下になったときになされることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合クラッチ装置。
  7. 前記クサビ力制御型クラッチと、前記すべり制御型クラッチとの入力側または出力側に共通な回転衝撃吸収用ダンパーを設けることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の複合クラッチ装置。
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