JP4240166B2 - 強度と靱性に優れた鋼材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度が450MPa以上で、靱性に優れ、特に衝撃試験において高い延性破面率が要求される構造用に適した鋼材に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼材、特に構造用鋼材においては、強度と靱性の両特性に優れていることが求められる場合が多い。Ni等の高価な元素を添加することなく前記要求を満たすために、これまでに調質処理や制御圧延等により金属組織を細粒化する方法が、種々提案され採用されてきた。
【0003】
例えば、特公昭55−30050号公報には、強靭鋼の製造方法が開示されている。この方法は、化学組成、スラブの鋳造条件および熱間圧延時のスラブ加熱条件を規定することにより、AlNを鋼中に微細に分散させ、このAlNでオーステナイト粒(以下、γ粒と記す)の成長を抑制して、細粒組織にする方法である。
【0004】
この方法によれば、確かに細粒組織を得ることが可能であるが、AlNは、連続鋳造の際にスラブの横ひび割れの原因となる析出物であり、連続鋳造という効率の高い生産方法の適用が、著しく困難になる。
【0005】
特開昭57−131320号公報には、低温靱性に優れた高張力鋼板の製造方法が開示されている。この製造方法は、圧延終了温度とその後の冷却速度を規定した方法である。しかし、この方法はオーステナイト未再結晶域から2相域に至るまでの温度で圧延する必要があるため、圧延効率が著しく低下する。また、破面遷移温度は改善されるものの、セパレーションが発生しやすくなるため、吸収エネルギーは小さくなる傾向が強い。そのため、シャルピー衝撃値で一定値以上の吸収エネルギーが要求されるような場合には、有効な方法とはいえない。
【0006】
本発明者は、特願平10−114949号において、TiNやMnSなどの介在物量を適切に低減することにより、γ粒が100μmを超えるような比較的粗大な組織であっても、実用上充分に低い破面遷移温度を示す鋼材を提示した。この鋼材は、粗大なγ粒であってもよいので、生産性を低下させる制御圧延等による組織の細粒化の必要がなくなり、圧延プロセスを簡易化することができ製造が容易となる利点がある。しかし、この鋼材は規定された化学組成の範囲内にあっても、遷移温度より高温側でも脆性破面が現れる場合があった。したがって、シャルピー衝撃試験において、遷移温度ではなく高い延性破面率が要求される場合には、規定した化学組成の範囲内における鋼材のすべてが満足できる鋼材とはなり得なかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、引張強さ(TS)が450MPa以上で、旧γ粒が粗大であっても良好な靱性を有し、特に衝撃試験における延性破面率が高い鋼材を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
強度と靱性に優れた鋼材に係わる本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
(1) 質量%で、C:0.02〜0.15%未満、Si:1%以下、Mn:0.3〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.004%未満、sol.Al:0.001〜0.1%、Ti:0.02%以下及びN:0.009%以下を含み、残部が鉄及び不純物からなり、金属組織がマルテンサイトおよびベイナイトの一方または双方を含む組織、またはこれらの焼き戻し組織であり、旧オーステナイト粒のアスペクト比の平均値が1.5以下、旧オーステナイト粒の短径の平均値が60〜700μmで、かつTi、N、Sおよび旧オーステナイト粒の短径の平均値dγが下記式(1)および式(3)または式(2)および式(3)とを満足していることを特徴とする強度と靱性に優れた鋼材。
Ti/N<3.4の場合は、
Ti+ 8.1 S≦ 0.315 /(dγ− 30 ) 1/2 − 0.0111 ・・・・・(1)
Ti/N≧3.4の場合は、
3.4 N+ 8.1 S≦ 0.315 /(dγ− 30 ) 1/2 − 0.0111 ・・・・・(2)
N−(Ti/ 3.4 )≦ 0.0045 ・・・・・(3)
ここで、元素記号は各元素の含有量を表し、その単位は重量%、dγの単位はμmとする。
【0010】
(2) 質量%で、さらに、Cr:1.5%以下、Mo:1%以下、Cu:1.5%以下及びNi:4%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記 (1) の強度と靱性に優れた鋼材。
【0011】
(3) 質量%で、さらに、Nb:0.015%以下及びV:0.15%以下のうちの1種又は2種を含有することを特徴とする、上記 (1) 又は (2) の強度と靱性に優れた鋼材。
【0012】
(4) 質量%で、さらに、Ca:0.004%以下、REM:0.004%以下及びB:0.03%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記 (1) 〜 (3) のいずれかの強度と靱性に優れた鋼材。
【0013】
ここで、旧オーステナイト粒とは、熱間加工後冷却して得られた鋼材の金属組織におけるオーステナイト粒のことを言う。旧γ粒界は、マルテンサイト、ベイナイトを含む鋼ではエッチングによって容易に現出させることができ、光学顕微鏡で識別可能で粒径も測定できる。また、鋼材はその形状はどのようなものでもよく、代表的なものとしては鋼板、鋼管や形鋼等がある。
【0014】
発明者が先に開発した上記の強度と靱性に優れた鋼材は、変態前の旧γ粒径を60μm以上と粗粒にしても靱性劣化が問題にならないため、細粒化のための圧延プロセスを大幅に省略することができ、高能率生産に適している。この鋼材を基本にして、さらに、高い延性破面率の鋼材を安定して得るため種々実験、検討した。延性破面率は、破面遷移温度+40℃以下の温度環境での使用に耐え得る鋼材とするため、破面遷移温度+40℃において80%以上を目標とした。その結果、以下のような知見を得て本発明を完成するに至った。
【0015】
a)特願平10-114949号で提示した鋼は、旧γ粒が粗大であっても、シャルピー衝撃試験の破面遷移温度で評価する限り良好な靱性示し、強度とのよいバランスを有するが、遷移温度よりも40℃程度高温での延性破面率は、安定して80%以上にならない。
【0016】
b)S含有量を低減すると、遷移温度と共に、延性破面率も向上する傾向を示すが、S<0.001%と低くしても、破面遷移温度+40℃において安定して85%以上の延性破面率は得られないので、S含有量の低減では延性破面率の改善はできない。
【0017】
c)旧γ粒が粗大な鋼材では、介在物形成元素であるTiは少ないほど破面遷移温度は改善されるが、延性破面率で見た場合、最適範囲があり、ある程度含有させることで延性破面率が向上する。
【0018】
d)そのTi含有量の最適条件はN−(Ti/3.4)がゼロになるときで、これはTiNとして固定されないNが存在せず、かつ、過剰なTiが存在しない状態である。
【0019】
e)N−Ti/3.4の値で、破面遷移温度+40℃における延性破面率を整理した場合、この値を0.0045%以下にコントロールすることで、延性破面率は大きく改善される。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の鋼材の化学組成を限定した理由を説明する(以下、%表示は質量%を示す)。
【0021】
C
Cは、強度を確保するするために必要で、0.02%未満では必要とする強度を確保することができない。一方、0.15%を超えると、溶接した場合に溶接熱影響部、母材共に靱性が劣化する。したがって、Cの含有は0.02〜0.15%とした。
【0022】
Si
Siは、脱酸作用があり、鋼板の強度上昇にも寄与する。しかし、1%を超えて含有させた場合、靭性の低下をもたらすため、1%を上限とする。また、鋼の脱酸に支障を来さない限り、Siは幾ら少なくとも問題はない。
【0023】
Mn
Mnは、焼入性を高める効果があり、強度確保に有効な成分である。含有量が0.3%未満では、焼入性の不足によって強度、靱性が得られない。一方、2.5%を超えて含有させる場合は、偏析が増すと共に、焼入性が高まり過ぎて、溶接時に溶接熱影響部、母材共に靱性が低下する。したがって、Mnの含有量は0.3〜2.5%とした。
【0024】
P
Pは不純物として鋼中に不可避的に存在する。0.05%を超えると、粒界に偏析して靭性を低下するのみならず、溶接時に高温割れを招くため、0.05%以下とする必要がある。加えて、Pは、延性破面率を悪化させ、特にX70(API規格)以上の高強度で延性破面率の低下をもたらす。したがって、X70以上の強度を得る場合には、0.02%以下にすることが望ましい。
【0025】
S
Sは、CaやREMと結合してオキシサルファイドを、またMnと結合して硫化物を形成し、介在物として鋼中に存在する。鋼の強度が低い場合、または組織が十分に細粒の場合には、これら介在物は靱性に大きな悪影響は及ぼさないが、ある程度粗大な組織である場合は、S含有量を後述の式(1)または式(2)を満足するように制限して介在物量を少なくしなければならない。しかし、これらの式を満足しても、0.004%以上含有する場合には、靱性への悪影響は避けられないので0.004%未満とする。より望ましくは、0.003%未満である。
【0026】
sol.Al
Alは、脱酸のために必須の元素であり、sol.Alで0.001%以上含有させる。それ未満の場合は脱酸不足によって鋼質の劣化を招く。しかし、0.1%を超えて含有させると、母材靭性の劣化や、溶接部靱性の低下を招くため好ましくない。したがって、0.1%を上限とする。
【0027】
Ti
通常Tiは、鋼中のNを固定して高温延性を改善させるために含有させる。しかし、TiNは破面遷移温度悪化の原因となるため、できるだけTiは含有させないことが望ましく、この観点から許容される範囲は、後述する式(1)または式(2)で限定される。
【0028】
一方、TiNとして固定されないNがあると、遷移温度よりも高温側での延性破面率の低下を招くため、Tiはある程度は含有させる必要がある。その範囲は、後述する式(3)で限定される。ただし、Nが充分に低い場合、Tiを含有させなくとも、式(2)を満足させることができるため、このような場合には含有量に下限を設ける必要はない。
【0029】
しかし、これらの式を満足しても、0.02%を超えて含有すると、靱性劣化は避けがたいので上限を0.02%とした。
【0030】
N
Nは、高温延性低下の原因となる不純物であり、同時に、衝撃試験における延性破面率を低下させる。通常は、高温延性の確保のため、Tiを添加してTiNの形で固定するが、粗大γ粒の鋼材においては、TiNそのものが無視できない靱性悪化原因となるため、TiN形成も抑制しなければならない。
【0031】
衝撃試験の破面遷移温度のみを改善する目的からは、γ粒径に応じて、式(1)に従って、N量は制限されなければならない。しかし、これだけでは、遷移温度よりも高温側での延性破面率が不十分であるため、さらに後述の式(3)を満足させ、TiNとして固定されない窒素を低減しなければならない。
【0032】
しかし、式(1)および(3)または(2)および(3)を満足しても、Nが0.009%を超えると、TiNによる靱性低下、あるいは、十分に固定されずに固溶するNによる靱性への悪影響が無視できなくなるため、0.009%を上限とする。
【0033】
また、Nの下限については、経済性の許す限り幾ら低減してもよい。
【0034】
上記の元素以外に焼入性や強度等を向上させるために、必要により下記の元素を含有させてもよい。
【0035】
Cr
Crは焼入性を高めるのに有用な元素である。前記した必須元素のみで最低限必要な焼入性は確保されるが、鋼材が厚肉の鋼管等の場合には、さらなる焼入性を確保するために含有させる。Cr含有量を0.02%以上にすると、焼入性のほかに焼戻し軟化抵抗を高める効果も得られるので0.02%以上とするのが望ましい。しかし、1.5%を超えると溶接部の靭性劣化が避けられないので1.5%以下とする。
【0036】
Mo
鋼材が厚肉の鋼管等の場合には、さらに焼入性および焼戻し軟化抵抗を高めるために含有させるのが好ましい。含有量が0.02%未満では、これらの効果が得られないので、0.02%以上とするのが望ましい。しかし、1%を超えると溶接部の靭性劣化が著しくなるので、上限は1%とするのがよい。
【0037】
Cu
Cuは強度上昇および耐食性向上に有効なので、より一層の高降伏強さおよび高耐食性が必要な場合に含有させるのがよい。含有量を0.05%以上とすると、直接焼入れにおける焼入性も高めるので0.05%以上とするのが望ましい。
しかし、1.5%を超えて添加しても、コスト上昇に見合った性能の改善が見られないため、上限は1.5%とするのがよい。
【0038】
Ni
Niは、固溶状態において鋼のマトリックス(基地)の靭性を高める効果があるので、より優れた靭性を安定して得る必要がある場合に含有させるのがよい。
含有量を0.05%以上にすると焼入性向上効果も得られるので、0.05%以上とすることが望ましい。しかし、4%を超えるとNi添加によるコストの上昇に見合った靭性の向上が得られないので、上限は4%とするのがよい。
【0039】
Nb
Nbは、いわゆる制御圧延によって製造される鋼材においては必須の添加元素であるが、本発明においては、制御圧延を基本的に利用しないため、必須元素ではない。しかし、強度をさらに高めるのに有効であり、その必要性がある場合添加する。ただし、多量に含有させると1000℃以上の高温で圧延を終了した場合には、析出強化を通して靱性を著しく損なう。そのため、含有量は0.015%以下とするのがよい。より好ましくは0.01%以下である。
【0040】
V
Vは析出強化によって強度を高める効果があり、比較的靱性への悪影響が小さく、強度アップのためには有効である。含有量を0.01%以上とすると、焼戻し軟化抵抗のほかに焼入性を向上させる効果も得られるので、0.01%以上とするのが望ましい。しかし、0.15%を超えると靭性が大きく劣化するので、上限は0.15%以下とするのがよい。
【0041】
Ca
Caは、鋼中のSと反応して溶鋼中でオキシサルファイドを生成する。この硫酸化物は、MnSなどと異なり、圧延加工によって圧延方向に伸びることがなく、圧延後も球状である。そのため、延伸した介在物の先端等を割れの起点とする溶接割れまたは水素誘起割れ(HIC:Hydrogen Induced Cracking) を抑制するので、溶接割れまたはHICを抑制する場合に含有させるのがよい。含有量を0.0002%以上とすると溶接部の靭性向上にも効果があるので0.0002%以上とするのが望ましい。しかし、0.004%を超えると、清浄度の低下によって母材靭性が低下する。また、0.004%を超えると延性破面率を低下させることがある。
【0042】
REM
REMは、溶接熱影響部の組織の微細化や、Sの固定に寄与するが、介在物となって清浄度を低下させる。しかし、REMの添加によって形成される介在物は、比較的靱性劣化への影響が小さいため、0.004%以下であれば含有させてもよい。
【0043】
B
Bは、特に焼入性を高めて強度上昇に寄与する。含有量は0.003%以下とするのがよい。
【0044】
次に、金属組織について説明する。
【0045】
1)金属組織
鋼材の金属組織は、引張り強度を450MPa以上にするために、ベイナイトおよび低温での変態で生成するマルテンサイトの一方または双方を含んだ組織、またはこれらの焼き戻し組織とする必要がある。その他にフェライト、パーライトを含む。
【0046】
このような組織は、熱間圧延後、γ域からの焼入れを行い、必要に応じて焼戻しをおこなうことにより得られる。
【0047】
2)旧γ粒のアスペクト比
旧γ粒のアスペクト比の平均値を1.5以下にするのは、異方性の低減と強度が低下するのを防止するためである。加工を受けて転位を内部に含んだγ粒は、粒内の転位からもα相が核生成するため、焼入れ性が低下して強度が低下する。
これを防止するために、γ粒を十分再結晶させて(再結晶が進んだγ粒は、アスペクト比が1に近づく)から変態させる必要がある。旧γ粒のアスペクト比の平均値を1.5以下であれば強度低下を防止することができる。
【0048】
また、アスペクト比の平均値は
、γ粒が最も伸長された面を観察することができる方位を選んで光学顕微鏡用の試料を切り出し、ミクロ組織を現出させ、画像処理によって旧γ粒を計測し、各γ粒を楕円形にて近似した場合の長径と短径の比を平均した値とする。また、下記する旧γ粒の平均短径もこの方法で求めた短径を平均した値である。
【0049】
3)旧γ粒の平均短径
本発明においては、生産効率を上げるため、組織の細粒化のための低温加工をおこなわないため旧γ粒は比較的粗粒となる。また、粗粒にすることによりTi、NおよびSの低減の靭性および強度に及ぼす効果が顕著になる。旧γ粒の平均短径が、60μm未満では焼入れ性が低下して目的とする強度が得られず、また靭性も低下する。一方、平均粒径が700μmを超えると粗粒になり過ぎ靭性が劣化する。
【0050】
4)Ti、N、Sと旧γ粒の短径の平均値との関係式(1)、(2)
TiとNの含有比Ti/Nが3.4未満である場合は、下記式(1)を満足していなければTiおよびS含有量が多くなり過ぎ、TiNおよびMnSが多量となり靭性が劣化する。この式は多くの実験によりもとめた式で、旧γ粒の短径の平均値に応じて適したTi、S量を規定するものである。
【0051】
Ti/N<3.4の場合は、
Ti+8.1S≦0.315/(dγ−30)1/2−0.0111・・・・・(1)
【0052】
また、TiとNの含有比Ti/Nが3.4以上である場合には、下記式(2)を満足しなければ、NおよびS含有が多くなり過ぎTiNおよびMnSが多量となり靭性が劣化する。
【0053】
Ti/N≧3.4の場合は、
3.4N+8.1S≦0.315/(dγ−30)1/2−0.0111・・・・・(2)
【0054】
5)NとTi含有量を規制する式(3)
粗大γ粒の鋼材では、TiNが靱性を劣化させるので、Ti含有量を適量にする必要がある。また遊離Nは延性破面率を低下させるので少なければ少ないほど好ましい。N−(Ti/3.4)がゼロになる場合が遊離Nが存在せず、かつ余分なTiが存在しない状態であるが、この値を0.0045以下とすることにより、破面遷移温度+40℃における延性破面率を85%以上にすることができる。 したがって、NおよびTi含有量は、N−(Ti/3.4)≦0.0045を満足する量とした。
【0055】
本発明の鋼材は、以下に示す製造方法により得られる。
【0056】
上記した化学組成の鋼を熱間加工する際に、熱間加工終了時のオーステナイト粒の平均短径が60〜700μmになるように熱間加工温度を制御して熱間加工を終了し、直接焼入れすることにより強度と靭性に優れ、延性破面率の高い鋼材が得られる。なお、再加熱焼入れでも直接焼入れとほぼ同様の特性が得られる。
【0057】
熱間加工終了時のオーステナイト粒の平均短径が60〜700μmになる熱間加工温度は、化学組成や熱間加工時の加工度によって異なるが、およそ、950℃以上を確保することが目安となる。なお、旧γ粒径が700μmを超えない限り、加工仕上げ温度は幾ら高くても良好な性能が得られるが、1150℃を超える加工仕上げ温度を確保することは、実際の製造ラインでは難しい。また、このような高温では、スケールの発生による鋼材のロスが増える。このような観点から、加工仕上げ温度は1150℃前後が実質的な上限となる。
【0058】
靱性の確保を目的に低温まで熱間圧延を行う必要はないが、900℃以下の温度域で30%以上の圧下をかけると、γ粒の細粒化や制御圧延の効果が現れ、強度が大きく低下する場合がある。このような性質は、鋼材を量産する場合、品質のバラツキの原因となり好ましないので、低温での加工は避けなければならない。この悪影響を回避するためには、旧γ粒径が60μmを下回らないように、また、γ粒が加工硬化していない状態から水冷されるように、熱間圧延終了温度をコントロールしなければならない。
【0059】
加工後の焼入れ処理のための冷却は、必ずしも水冷である必要はないが、少なくとも変態後の組織はベイナイト又はマルテンサイト、がミクロ組織上で40%以上の面積を占めていることが望ましく、そのようになる冷却速度は必要になる。そのような冷却条件はCCT図から推定することができる。
【0060】
【実施例】
真空溶解炉で、表1に示す化学組成の16種の鋼を溶製し、150kg丸形インゴットとした。
【0061】
【表1】
【0062】
インゴットは、鍛造により厚さ120〜170mmの厚板にし、1180〜1270℃に加熱後、表2に示す条件で熱間圧延し、厚さ25〜50mmの熱延鋼板とした。
【0063】
熱処理した各熱延鋼板からは、JIS Z2202 Vノッチ試験片、Z2201丸棒引っ張り試験片を圧延方向に対して直角の方向で採取して、それぞれ、シャルピー衝撃試験、引っ張り試験に供した。その結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
シャルピー衝撃試験で求めた延性破面率は、破面遷移温度の、およそ40℃高温で試験を行い、6本試験したうちの最低値を示す。なお、破面遷移温度が−30℃に達しなかった鋼については、延性破面率の試験はおこなわなかった。
【0066】
表2から明らかなように、本発明例である記号1〜8は、高い強度と低い破面遷移温度を有し、しかも、延性破面率も100%であった。これに対して、比較例では破面遷移温度は比較的良好であるにもかかわらず、延性破面率は100を大きく下回っている。これは、比較例の記号12、14は化学成分中のSの含有量が本発明で規定する上限を上回っており、その他の比較例は、本発明で規定するいずれかの式を満足していないためである。
【0067】
【発明の効果】
本発明の鋼材は、高強度で延性破面率の高い靱性に優れた鋼材であり、新たな設備増強をすることなく、細粒化工程の省略ができ高効率で生産ができるという利点を有する。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.02〜0.15%未満、Si:1%以下、Mn:0.3〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.004%未満、sol.Al:0.001〜0.1%、Ti:0.02%以下及びN:0.009%以下を含み、残部が鉄及び不純物からなり、金属組織がマルテンサイトおよびベイナイトの一方または双方を含む組織、またはこれらの焼き戻し組織であり、旧オーステナイト粒のアスペクト比の平均値が1.5以下、旧オーステナイト粒の短径の平均値が60〜700μmで、かつTi、N、Sおよび旧オーステナイト粒の短径の平均値dγが下記式(1)および式(3)または式(2)および式(3)とを満足していることを特徴とする強度と靱性に優れた鋼材。
Ti/N<3.4の場合は、
Ti+8.1S≦0.315/(dγ−30)1/2−0.0111・・・・・(1)
Ti/N≧3.4の場合は、
3.4N+8.1S≦0.315/(dγ−30)1/2−0.0111・・・・・(2)
N−(Ti/3.4)≦0.0045・・・・・(3)
ここで、元素記号は各元素の含有量を表し、その単位は重量%、dγの単位はμmとする。 - 質量%で、さらに、Cr:1.5%以下、Mo:1%以下、Cu:1.5%以下及びNi:4%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の強度と靱性に優れた鋼材。
- 質量%で、さらに、Nb:0.015%以下及びV:0.15%以下のうちの1種又は2種を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の強度と靱性に優れた鋼材。
- 質量%で、さらに、Ca:0.004%以下、REM:0.004%以下及びB:0.03%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の強度と靱性に優れた鋼材。
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