本発明の知見は、例示のみのために示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解することができる。引き続いて、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
[第1の実施形態]
図1を参照して積層型フィルタ1について説明する。図1は、第1の実施形態に係る積層型フィルタの斜視図である。図1に示されるように、積層型フィルタ1は、直方体状の積層体2を備えている。積層体2において、その長手方向における両端部には、入力端子電極3及び出力端子電極4が形成されており、その長手方向と直交する方向における両端面には、一対のグランド端子電極5が形成されている。
積層体2について図2及び図3を参照して説明する。図2は、第1の実施形態に係る積層型フィルタの積層体の分解斜視図である。図3は、積層型フィルタの中央断面を示す。断面は、積層体2の長手方向及び積層方向と平行な面である。
積層体2は、複数のインダクタ層61〜69が積層されてなるインダクタ積層部7と、複数のバリスタ層81〜84が積層されてなるバリスタ積層部9と、を含む。インダクタ積層部7とバリスタ積層部9とは、界面Pを形成するように配置されている。積層体2において、インダクタ層69とバリスタ層81との間に界面Pが形成されている。
インダクタ層61〜69は、電気的絶縁性を有する材料により長方形薄板状に形成されており、入力端子電極3が形成される縁部から時計回りに縁部6a,6b,6c,6dを有している。また、インダクタ層61〜69は、ZnOを主成分とするセラミック材料から構成されている。
インダクタ層61〜69を構成するセラミック材料は、ZnOのほか、添加物としてPr、K、Na、Cs、Rb等の金属元素を含有していてもよい。なかでも、Prを添加すると特に好ましい。Prの添加により、インダクタ層61〜69とバリスタ層81〜84との体積変化率の差を容易に低減することができる。また、インダクタ層61〜69には、バリスタ積層部9との接合性の向上を目的として、Cr、CaやSiが更に含まれていてもよい。
インダクタ層61〜69中に含まれるこれらの金属元素は、金属単体や酸化物等の種々の形態で存在することができる。インダクタ層61〜69に含まれる添加物の好適な含有量は、当該インダクタ層に含まれるZnOの総量中、0.02mol%以上2mol%以下であると好ましい。これらの金属元素の含有量は、例えば、誘導結合高周波プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定することができる。
バリスタ層81〜84は、長方形薄板状に形成されており、入力端子電極3が形成される縁部から時計回りに縁部8a,8b,8c,8dを有している。また、バリスタ層81〜84は、ZnOを主成分とするセラミック材料から構成されている。
このセラミック材料中には、添加物として、Pr及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Co(特定物質)並びにAl(特定物質)が更に含まれている。ここで、バリスタ層81〜84は、Prに加えてCoを含むことから、優れた電圧非直線特性、高い誘電率(ε)を有するものとなる。また、Alを更に含むことから、低抵抗となる。
Coは、バリスタ層81〜84及びインダクタ層61〜69の主成分であるZnO中に含有させることにより優れた電圧非直線特性、高い誘電率(ε)を有するので、バリスタ機能を向上させる物質であると共にインダクタ機能を阻害する物質である。また、Alは、主成分であるZnO中に含有させることにより低効率を下げる物質なので、バリスタ機能を向上させる物質であると共にインダクタ機能を阻害する物質である。すなわち、Co及びAlは、バリスタ機能のみを発現する物質である。
バリスタ層81〜84の添加物としての金属元素は、バリスタ層81〜84において、金属単体や酸化物等の形態で存在することができる。なお、バリスタ層81〜84は、更なる特性の向上を目的として、添加物として上述したもの以外の金属元素等(例えば、Cr、Ca、Si、K等)を更に含有していてもよい。
またこのように、インダクタ層61〜69とバリスタ層81〜84との構成材料と同じ構成とすることにより、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の剥離を防止することができる。引き続いて、より詳細にインダクタ層61〜69とバリスタ層81〜84について説明する。
インダクタ層61〜68は、Co及びAlを添加せず、Co及びAlを含有しないように形成される。よって、インダクタ層61〜68は、誘電率が小さく、しかも抵抗率が高いため、インダクタ層の構成材料として極めて好適な特性を有している。
インダクタ層69は、インダクタ層61〜68と同様に、Co及びAlを添加せず、Co及びAlを含有しない材料から形成される。しかし、製造工程において、インダクタ層69となるインダクタグリーンシートは、バリスタ層81となるバリスタグリーンシートに含まれるCo及びAlが拡散する。すなわち、インダクタ層69は、界面Pに沿ってCo及びAlを含有するインダクタ拡散層6D(第2領域)を有する。
インダクタ拡散層6Dは、インダクタ機能を実質的に阻害する程度にCo及びAlを含有する領域である。すなわち、インダクタ拡散層6Dは、誘電率がインダクタ層61〜68における誘電率よりも高く、インダクタ機能が阻害される。インダクタ拡散層6Dの厚さ寸法は、約100μm以上である。
バリスタ層81は、バリスタ層82〜84と同様な材料から作成される。しかし、製造工程において、バリスタ層81となるバリスタグリーンシートは、含有するCo及びAlがインダクタ層89となるインダクタグリーンシートへ拡散する。すなわち、バリスタ層81は、界面Pに沿ってCo及びAlの含有率がバリスタ層82〜84の含有率よりも低下したバリスタ拡散層8D(第1領域)を有する。
バリスタ拡散層8Dは、バリスタ機能を実質的に発現しない程度にCo及びAlを含有する領域である。すなわち、バリスタ拡散層8Dの誘電率は、バリスタ層82〜84の誘電率よりも低く、バリスタ機能を実質的に発現できない。バリスタ拡散層8Dの厚さは、約40μm以上である。
インダクタ積層部7において、インダクタ層63,67上のそれぞれには、縁部6b、縁部6c及び縁部6dに沿って延在するインダクタ導体部121,122が形成されており、インダクタ層65上には、縁部6d、縁部6a及び縁部6bに沿って延在するインダクタ導体部123が形成されている。また、インダクタ層64,68上のそれぞれには、縁部6a、縁部6b及び縁部6cに沿って延在するインダクタ導体部124,125が形成されており、インダクタ層66上には、縁部6c、縁部6d及び縁部6aに沿って延在するインダクタ導体部126が形成されている。更に、インダクタ層62上には、入力端子電極3と接続されたインダクタ導体部127が形成されており、インダクタ層69上には、出力端子電極4と接続されたインダクタ導体部128が形成されている。
そして、インダクタ導体部121の縁部6d側且つ縁部6a側の端部とインダクタ導体部124の縁部6d側且つ縁部6a側の端部とは、インダクタ層63に形成されたスルーホールを介して電気的に接続されている。また、インダクタ導体部124の縁部6c側且つ縁部6d側の端部とインダクタ導体部123の縁部6c側且つ縁部6d側の端部とは、インダクタ層64に形成されたスルーホールを介して電気的に接続されており、インダクタ導体部123の縁部6b側且つ縁部6c側の端部とインダクタ導体部126の縁部6b側且つ縁部6c側の端部とは、インダクタ層65に形成されたスルーホールを介して電気的に接続されている。更に、インダクタ導体部126の縁部6a側且つ縁部6b側の端部とインダクタ導体部122の縁部6a側且つ縁部6b側の端部とは、インダクタ層66に形成されたスルーホールを介して電気的に接続されており、インダクタ導体部122の縁部6d側且つ縁部6a側の端部とインダクタ導体部125の縁部6d側且つ縁部6a側の端部とは、インダクタ層67に形成されたスルーホールを介して電気的に接続されている。
また、インダクタ導体部127とインダクタ導体部121の縁部6a側且つ縁部6b側の端部とは、インダクタ層62に形成されたスルーホールを介して電気的に接続されており、インダクタ導体部128とインダクタ導体部125の縁部6c側且つ縁部6d側の端部とは、インダクタ層68に形成されたスルーホールを介して電気的に接続されている。
以上により、積層型フィルタ1は、インダクタ積層部7内に形成された複数のインダクタ導体部121〜128が電気的に接続されることにより構成されたコイルを含むインダクタ部(インダクタ層)10を備える。一連のインダクタ導体部121〜128は、一端が入力端子電極3と電気的に接続されると共に、他端が出力端子電極4と電気的に接続されることになる。なお、インダクタ導体部121〜128は、Ag及びPdを含む材料により形成されており、インダクタ部10は、その両端で4Ω〜100Ωの直流抵抗を有している。
バリスタ積層部9において、バリスタ層83上には、その中央部を縁部8bに沿って延在し、一端が縁部8cに到達して出力端子電極4と電気的に接続されたホット電極(バリスタ導体部)16が形成されている。また、バリスタ層82上には、その中央部を縁部8aに沿って延在し、両端が縁部8b及び縁部8dに到達してグランド端子電極5と電気的に接続されたグランド電極(バリスタ導体部)17が形成されている。
これにより、積層型フィルタ1は、出力端子電極4と電気的に接続されたホット電極16、及びグランド端子電極5と電気的に接続されたグランド電極17がバリスタ層82を挟んでバリスタ部内に形成されることにより構成された1対のバリスタ電極を含むバリスタ部(バリスタ層)20を備えることになる。なお、ホット電極16及びグランド電極17は、Ag及びPdを含む材料により形成されている。
インダクタ導体部121〜128は、インダクタ層62〜68に形成され、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の界面Pから100μm以上離れた位置に形成されている。すなわち、インダクタ導体部128とバリスタ積層部9との間に位置するインダクタ層69の厚さ寸法D1は、100μm以上である。
ホット電極16及びグランド電極17は、バリスタ層82を挟んで形成され、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の界面Pから40μm以上離れた位置に形成されている。すなわち、ホット電極16とインダクタ積層部7との間に位置するバリスタ層81の厚さ寸法D2は、40μm以上である。
次に、上述した積層型フィルタ1の製造方法について説明する。
まず、インダクタ層61〜層69となるインダクタグリーンシートを用意する。このインダクタグリーンシートは、例えば、ZnO、Pr6O11、Cr2O3、CaCO3、SiO2及びK2CO3の混合粉を原料としたスラリーをドクターブレード法によりフィルム上に塗布することで形成される。
インダクタ層61〜68となるインダクタグリーンシートは、例えば、厚さが20μm程度となるように塗布することで形成される。インダクタ層69となるインダクタグリーンシートは、焼成後の厚さ寸法D1が100μm以上となるように、厚さ20μm程度に塗布して形成したインダクタグリーンシートを複数重ねて形成される。
また、バリスタ層81〜84となるバリスタグリーンシートを用意する。このバリスタグリーンシートは、例えば、ZnO、Pr6O11、CoO、Cr2O3、CaCO3、SiO2、K2CO3及びAl2O3の混合粉を原料としたスラリーをドクターブレード法によりフィルム上に塗布することで形成される。
バリスタ層82〜84となるバリスタグリーンシートは、例えば、厚さが30μm程度となるように塗布することで形成される。バリスタ層81となるバリスタグリーンシートは、焼成後の厚さ寸法D2が40μm以上となるように、厚さ30μm程度に塗布して形成したバリスタグリーンシートを複数重ねて形成される。
続いて、インダクタ層62〜68となるインダクタグリーンシートの所定の位置(すなわち、インダクタ導体部121〜127に対してスルーホールを形成すべき位置)に、レーザー加工等によってスルーホールを形成する。
続いて、インダクタ層62〜69となるインダクタグリーンシート上に、インダクタ導体部121〜128に対応する導体パターンを形成する。この導体パターンは、Ag及びPdを主成分とする導体ペーストをインダクタグリーンシート上にスクリーン印刷することで、例えば、焼成後の厚さが14μm程度となるように形成される。なお、インダクタ層62〜68となるインダクタグリーンシートに形成されたスルーホール内には、インダクタグリーンシート上への導体ペーストのスクリーン印刷によって、導体ペーストが充填される。
また、バリスタ層82,83となるバリスタグリーンシート上に、ホット電極16及びグランド電極17に対応する導体パターンを形成する。この導体パターンは、Ag及びPdを主成分とする導体ペーストをバリスタグリーンシート上にスクリーン印刷することで、例えば、焼成後の厚さが3μm程度となるように形成される。
続いて、インダクタ層61〜69となるインダクタグリーンシートと、バリスタ層81〜84となるバリスタグリーンシートとを所定の順序で積層して圧着し、チップ単位に切断する。その後、所定の温度(例えば、1100〜1200℃程度の温度)で焼成して、積層体2を得る。
その際に、インダクタグリーンシートと隣り合って積層されたバリスタグリーンシートからインダクタグリーンシートへCo及びAlが拡散して、インダクタグリーンシート及びバリスタグリーンシートの界面P付近にそれぞれ拡散層が形成される。すなわち、Co及びAlを含有するインダクタ拡散層6Dと、Co及びAlを含有率が低下したバリスタ拡散層とが形成されることとなる。
このようにして、インダクタ導体部121〜128は、界面Pから100μm以上離れた位置に配置され、ホット電極16及びグランド電極17は、界面Pから40μm以上離れた位置に配置されることとなる。
続いて、積層体2の外表面に、入力端子電極3、出力端子電極4及びグランド端子電極5を形成して、積層型フィルタ1を完成させる。各端子電極3〜5は、積層体2の外表面に、Agを主成分とする導体ペーストを転写して所定の温度(例えば、700℃〜800℃の温度)で焼付けを行い、更に、Ni/Sn、Cu/Ni/Sn、Ni/Au、Ni/Pd/Au、Ni/Pd/Ag、又はNi/Agを用いた電気めっきを施すことで、形成される。積層型フィルタ1の完成寸法は、長さ1.0mm、幅0.5mm、厚さ0.5mmである。
以上説明したように、積層型フィルタ1は、図4に示されるように、インダクタ部10及びバリスタ部20によってL型の回路を構成し、インダクタ部10は、4Ω〜100Ωの直流抵抗を有することになる。これにより、バリスタ電圧を越える高い電圧のノイズが入力に印加された際に、バリスタ効果によって急激に流れた電流がノイズとなって通過するのを阻止することができる。
本実施形態の積層型フィルタ1によれば、隣り合うインダクタ積層部7とバリスタ積層部9とが互いに同じ成分ZnOを主成分として含有するので、インダクタ部10とバリスタ部20との間に生じる剥離を防止できる。
また、ZnO、Pr6O11、CoO、Cr2O3、CaCO3、SiO2、K2CO3及びAl2O3の混合粉を原料としたバリスタグリーンシートと、ZnO、Pr6O11、Cr2O3、CaCO3、SiO2及びK2CO3の混合粉を原料としたインダクタグリーンシートとを積層して加熱することにより、積層体2を形成するので、バリスタグリーンシートとインダクタグリーンシートとの間の界面Pに沿って拡散が起こる。すなわち、インダクタ拡散層69及びバリスタ拡散層81が形成される。
バリスタ拡散層81におけるCo及びAlの含有率は、バリスタ層82〜84におけるCo及びAlの含有率より低く、ばらつくので、バリスタ拡散層81における誘電率は低下すると共にばらつく。また、インダクタ拡散層69は、Co及びAlを含有し、その含有率はばらつくので、インダクタ層69に含まれる拡散層における誘電率は、高くなると共にばらつく。
本実施形態の積層型フィルタ1によれば、インダクタ機能が実質的に阻害されたインダクタ拡散層6Dと、バリスタ機能を実質的に発現しないバリスタ拡散層8Dとを除く部分に、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17が配置されるので、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17は、機能を実質的に発現する層に配置されることとなる。よって、フィルタ特性の低下を防止することができる。すなわち、高周波特性の低下を防止することができる。
また、本実施形態の積層型フィルタ1のインダクタ導体部121〜128は、界面Pから100μm以上離れた位置に配置され、ホット電極16及びグランド電極17は、界面から40μm以上離れた位置に配置されていることも好ましい。このようにすることにより、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17は、確実にインダクタ拡散層6D及びバリスタ拡散層8Dを除いて配置されることとなる。すなわち、より確実にフィルタ特性の低下を防止することができる。
上記実施形態では、積層型フィルタ1の外形寸法が長さ1.0mm、幅0.5mm、厚さ0.5mmであるとしたが、この寸法に限られない。外形寸法が長さ3.2mm、幅1.6mm、厚さ0.85mmの大きさより小さい小型の積層型フィルタにおいて上記効果が有効である。
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る積層型フィルタ1は、バリスタ部20の構成において第1の実施形態に係る積層型フィルタ1と相違している。
すなわち、図5に示されるように、バリスタ積層部9は、複数のバリスタ層81〜86が積層されて構成されている。バリスタ層83上には、その中央部を縁部8bに沿って延在し、一端が縁部8cに到達して出力端子電極4と電気的に接続されたホット電極161が形成されており、バリスタ層85上には、その中央部を縁部8bに沿って延在し、一端が縁部8aに到達して入力端子電極3と電気的に接続されたホット電極162が形成されている。また、バリスタ層82,84上のそれぞれには、その中央部を縁部8aに沿って延在し、両端が縁部8b及び縁部8dに到達してグランド端子電極5と電気的に接続されたグランド電極17が形成されている。
これにより、積層型フィルタ1は、出力端子電極4と電気的に接続されたホット電極161、及びグランド端子電極5と電気的に接続されたグランド電極17がバリスタ層82を挟んでバリスタ積層部9内に形成されることにより構成されたバリスタ部201と、入力端子電極3と電気的に接続されたホット電極162、及びグランド端子電極5と電気的に接続されたグランド電極17がバリスタ層84を挟んでバリスタ積層部9内に形成されることにより構成されたバリスタ部202とを備えることになる。
また、インダクタ層69には、界面Pに沿ってインダクタ拡散層6Dが形成されている。また、バリスタ層81には、界面Pに沿ってバリスタ拡散層8Dが形成されている。
インダクタ導体部121〜128は、第1実施形態と同様に、インダクタ層62〜68に形成され、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の界面Pから100μm以上離れた位置に形成されている。すなわち、インダクタ層69の厚さ寸法D1は、100μm以上である。
ホット電極161,162及びグランド電極17は、バリスタ層82〜85に形成され、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の界面Pから40μm以上離れた位置に形成されている。すなわち、バリスタ層81の厚さ寸法D2は、40μm以上である。
以上のように構成された積層型フィルタ1は、図6に示されるように、インダクタ部10及びバリスタ部201,202によってπ型の回路を構成し、インダクタ部10は、4Ω〜100Ωの直流抵抗を有することになる。これにより、バリスタ電圧を越える高い電圧のノイズが入力に印加された際に、バリスタ効果によって急激に流れた電流がノイズとなって通過するのを阻止することができる。
本実施形態の積層型フィルタ1によれば、インダクタ機能が実質的に阻害されたインダクタ拡散層6Dと、バリスタ機能を実質的に発現しないバリスタ拡散層8Dとを除く部分に、インダクタ導体部121〜128及びホット電極161,162及びグランド電極17が配置されるので、インダクタ導体部121〜128及びホット電極161,162及びグランド電極17は、機能を実質的に発現する層に配置されることとなる。よって、フィルタ特性の低下を防止することができる。すなわち、高周波特性の低下を防止することができる。
また、本実施形態の積層型フィルタ1のインダクタ導体部121〜128は、界面Pから100μm以上離れた位置に配置され、ホット電極161,162及びグランド電極17は、界面から40μm以上離れた位置に配置されていることも好ましい。このようにすることにより、インダクタ導体部121〜128及びホット電極161,162及びグランド電極17は、確実にインダクタ拡散層6D及びバリスタ拡散層8Dを除いて配置されることとなる。すなわち、より確実にフィルタ特性の低下を防止することができる。
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係る積層型フィルタ1は、アレイ状に構成されている点で第1の実施形態に係る積層型フィルタ1と相違している。
すなわち、図7に示されるように、積層体2において、その長手方向と直交する方向における両端面には、4対のグランド端子電極5が並設されている。そして、図8に示されるように、インダクタ積層部7内には、4組のインダクタ導体部121〜128が並設されており、バリスタ積層部9内には、4組のホット電極16及びグランド電極17が並設されている。
また、インダクタ層69には、界面Pに沿ってインダクタ拡散層6Dが形成されている。また、バリスタ層81には、界面Pに沿ってバリスタ拡散層8Dが形成されている。
インダクタ導体部121〜128は、第1実施形態と同様に、インダクタ層62〜68に形成され、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の界面Pから100μm以上離れた位置に形成されている。すなわち、インダクタ層69の厚さ寸法D1は、100μm以上である。
ホット電極16及びグランド電極17は、バリスタ層82〜83に形成され、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の界面Pから40μm以上離れた位置に形成されている。すなわち、バリスタ層81の厚さ寸法D2は、40μm以上である。
以上のように構成された積層型フィルタ1は、図9に示されるように、インダクタ部10及びバリスタ部20によって4組のL型の回路を構成することになる。このようにアレイ状に構成された積層型フィルタ1によっても、ダンピング効果が奏される。
本実施形態の積層型フィルタ1によれば、インダクタ機能が実質的に阻害されたインダクタ拡散層6Dと、バリスタ機能を実質的に発現しないバリスタ拡散層8Dとを除く部分に、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17が配置されるので、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17は、機能を実質的に発現する層に配置されることとなる。よって、フィルタ特性の低下を防止することができる。すなわち、高周波特性の低下を防止することができる。
また、本実施形態の積層型フィルタ1のインダクタ導体部121〜128は、界面Pから100μm以上離れた位置に配置され、ホット電極16及びグランド電極17は、界面から40μm以上離れた位置に配置されていることも好ましい。このようにすることにより、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17は、確実にインダクタ拡散層6D及びバリスタ拡散層8Dを除いて配置されることとなる。すなわち、より確実にフィルタ特性の低下を防止することができる。
[第4の実施形態]
第4の実施形態に係る積層型フィルタ1は、アレイ状に構成されている点で第2の実施形態に係る積層型フィルタ1と相違している。
すなわち、図10に示されるように、インダクタ積層部7内には、4組のインダクタ導体部121〜128が並設されており、バリスタ部内には、4組のホット電極161及びグランド電極17及び4組のホット電極162及びグランド電極17が並設されている。
また、インダクタ層69には、界面Pに沿ってインダクタ拡散層6Dが形成されている。また、バリスタ層81には、界面Pに沿ってバリスタ拡散層8Dが形成されている。
インダクタ導体部121〜128は、第1実施形態と同様に、インダクタ層62〜68に形成され、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の界面Pから100μm以上離れた位置に形成されている。すなわち、インダクタ層69の厚さ寸法D1は、100μm以上である。
ホット電極161,162及びグランド電極17は、バリスタ層82〜85に形成され、インダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間の界面Pから40μm以上離れた位置に形成されている。すなわち、バリスタ層81の厚さ寸法D2は、40μm以上である。
以上のように構成された積層型フィルタ1は、図11に示されるように、インダクタ部
10及びバリスタ部201,202によって4組のπ型の回路を構成することになる。このようにアレイ状に構成された積層型フィルタ1によっても、ダンピング効果が奏される。
本実施形態の積層型フィルタ1によれば、インダクタ機能が実質的に阻害されたインダクタ拡散層6Dと、バリスタ機能を実質的に発現しないバリスタ拡散層8Dとを除く部分に、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17が配置されるので、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17は、機能を実質的に発現する層に配置されることとなる。よって、フィルタ特性の低下を防止することができる。すなわち、高周波特性の低下を防止することができる。
また、本実施形態の積層型フィルタ1のインダクタ導体部121〜128は、界面Pから100μm以上離れた位置に配置され、ホット電極16及びグランド電極17は、界面から40μm以上離れた位置に配置されていることも好ましい。このようにすることにより、インダクタ導体部121〜128及びホット電極16及びグランド電極17は、確実にインダクタ拡散層6D及びバリスタ拡散層8Dを除いて配置されることとなる。すなわち、より確実にフィルタ特性の低下を防止することができる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
(積層型フィルタの作製)
まず、上述した積層型フィルタ1の製造方法に従い、積層型フィルタの各サンプルを製造した。まず、ZnOにPr6O11、CoO、Cr2O3、CaCO3、SiO2、K2CO3及びAl2O3を添加したバリスタ層形成用ペーストを準備するとともに、ZnOにPr6O11、Cr2O3、CaCO3、SiO2及びK2CO3を添加したインダクタ層形成用のペーストを準備した。
続いて、これらのペーストを用いて、バリスタグリーンシート及びインダクタグリーンシートを製造した。その後、各シート上に、それぞれ図2に示すようなパターンとなるように、スクリーン印刷法によりホット電極及びグランド電極(バリスタ積層部)又はインダクタ導体(インダクタ積層部)形成用の導体ペーストを塗布した。なお、ホット電極、グランド電極、及びインダクタ導体形成用のペーストとしては、Pdを主成分として含むものを用いた。
次に、導体ペーストが塗布された各シート(バリスタグリーンシート及びインダクタグリーンシート)を、図2に示す順序で積層し、圧着して、焼成することにより積層体を形成させた。そして、この積層体に、Agペーストを焼き付けることにより入出力電極及びグランド電極を形成して、図1、2及び3に示す構造を有する積層型フィルタのサンプルを得た。
なお、この実施例においては、インダクタ積層部7及びバリスタ積層部9における誘電率の特性評価を行うために、評価用の積層型フィルタS1を作成した。すなわち、各積層型フィルタにおけるインダクタ積層部7及びバリスタ積層部9中に、積層方向において平行に配置された一対の内部電極をそれぞれ設けて積層型フィルタS1を作成した。図12は、インダクタ積層部及びバリスタ積層部に2対の内部電極が設けられた状態の積層型フィルタS1の断面構造を模式的に示す図である。なお、図12においては、インダクタ導体部及びバリスタ電極対を省略している。
インダクタ積層部7中には、1対の内部電極31,32が形成されている。内部電極32が、バリスタ積層部9側に形成されている。内部電極31は、入力端子電極3が形成された積層体2の面に露出するように設けられて、内部電極31と入力端子電極3とは電気的に接続されている。内部電極32は、出力端子電極4が形成された積層体2の面に露出するように設けられて、内部電極32と出力端子電極4とは電気的に接続されている。内部電極31,32は、インダクタ導体部とは接しないように設けられている。
バリスタ積層部9中には、1対の内部電極33,34が形成されている。内部電極33が、インダクタ積層部7側に形成されている。内部電極33、入力端子電極3が形成された積層体2の面に露出するように設けられて、内部電極33と入力端子電極3とは電気的に接続されている。内部電極34は、出力端子電極4が形成された積層体2の面に露出するように設けられて、内部電極34と出力端子電極4とは電気的に接続されている。内部電極33,34は、バリスタ電極対とは接しないように設けられている。
インダクタ積層部7中のバリスタ積層部9側に形成された内部電極32と界面Pとの間の距離DS1を変化させた積層型フィルタS1を複数作成した。また、バリスタ積層部9中のインダクタ積層部7側の内部電極33と界面Pとの間の距離DS2を変化させた積層型フィルタS1を複数作成した。各積層型フィルタS1における、内部電極31と内部電極32との間の距離、及び重なる面積と、内部電極33と内部電極34との間の距離、及び重なる面積とが、同じになるように形成されている。
(インダクタ積層部及びバリスタ積層部の誘電率の評価)
各積層型フィルタS1に形成された内部電極による静電容量を測定した。インピーダンスアナライザ(4284A、ヒューレットパッカード社製)を用いて、1MHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件において静電容量を測定した。各1対の内部電極間における比誘電率は、ε´=Cd/ε0Sの式より静電容量Cの値から評価できる。なお、式中、ε0は真空の誘電率、dは1対の内部電極間の距離、Sは1対の内部電極間の重なり面積である。
上記の測定の結果を表1及び表2に示す。表1は、インダクタ積層部7における内部電極32と界面Pとの間の距離DS1と、内部電極32と内部電極31との間のインダクタ層の比誘電率に依存する静電容量と、の関係を示すものである。表2は、バリスタ積層部9における内部電極33と界面Pとの間の距離DS2と、内部電極33と内部電極34との間のインダクタ層の比誘電率に依存する静電容量と、の関係を示すものである。
表1に示すように、距離DS1が0〜40μmの範囲では、静電容量が比較的高く、インダクタ層の機能を実質的に阻害されている。また、距離DS1の値に対して誘電率の変化が大きい。距離DS1が88μm、より好ましくは、97μm以上において、静電容量の値が比較的低く、距離DS1の値に対して安定する。すなわち、インダクタ積層部7において、界面Pからの距離が約100μm以上のインダクタ層は、比誘電率の値が低く、界面Pからの距離に対して安定している。
表2に示すように、距離DS2が0〜27μmの範囲では、静電容量が比較的低く、バリスタ層の機能を実質的に発現できない。また、距離DS2の値に対して誘電率の変化が大きい。距離DS2が40μm以上において、静電容量の値が比較的低く、距離DS1の値に対して安定する。すなわち、バリスタ積層部9において、界面Pからの距離が約40μm以上のバリスタ層は、比誘電率の値が高く、界面Pからの距離に対して安定している。
(インダクタ積層部とバリスタ積層部との間の剥離の評価)
各積層型フィルタS1を観察したところ、いずれもインダクタ積層部7とバリスタ積層部9との間における剥離は認められなかった。
よって、ZnOを主成分とし、添加物としてPr、Co及びAlを含むバリスタ層と、ZnOを主成分とし、Co及びAlを実質的に含有していないインダクタ層を有する積層型フィルタにおいては、バリスタ部とインダクタ部との剥離が極めて生じ難いことが確認された。また、この積層型フィルタにおいてインダクタ導体部が形成されたインダクタ層は、比誘電率が50を下回り、また、抵抗率が1MΩを超えることから、インダクタとして十分に実用可能であることが確認された。