JP4236376B2 - ヒト株化細胞が産生するヒトトロンボポエチン、その製造方法およびそれを含む医薬組成物 - Google Patents
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Description
発明の分野
本発明は、ヒト株化細胞が産生する新規なヒトトロンボポエチン糖タンパク質に関し、特に抗原性の低下や体内動態の改善等が認められる新規のヒトトロンボポエチン糖タンパク質、その製造方法、およびそれを含む医薬組成物に関する。
関連技術の開示
ヒトトロンボポエチン(thrombopoietin;「TPO」と称する)は、サイトカインのレセプタースーパーファミリーの一つであるMplのリガンドとしてクローニングされた糖タンパク質である(de Sauvageら、Nature(London)369巻、533−565頁、(1994);Bartley,T.D.ら、Cell 77巻、1117−1124頁、(1994))。これらのMplリガンドはいずれも血小板減少症の動物(例えばヒト、マウス、イヌなど)の血清や血漿中に検出され、巨核球形成や血小板形成への関与が確認されている。
血小板減少症の治療剤の開発を念頭において、本発明者らも、ラット骨髄より高度に純化した巨核球前駆細胞からの巨核球生成を促進する活性を指標にして、血小板減少症のラット血漿よりラットTPOを精製し、その部分アミノ酸配列に基づいて、ラットTPOcDNA、さらにはヒトTPOcDNAをクローニングし、遺伝子組換え技術によって大量に均一なヒトTPOを取得することに成功した(H.Miyazakiら、Exp.Hematol.22巻、838頁、(1994))。本発明者らが取得に成功したこのヒトTPOは、前述のヒトMplリガンドとして取得された因子と同一のアミノ酸配列であることが判明している(後記の配列表:配列番号1参照)。
本発明者らは、該ヒトTPOを制ガン剤や免疫抑制剤の投与、あるいは放射線照射やBMTによって骨髄抑制の起きた血小板減少症のマウスに投与したところ、血小板減少阻止効果、血小板増加促進効果、さらには、造血機能の亢進が認められ、該ヒトTPOがこれらの血小板減少症に有効であることを見いだしている。
ヒトTPOについてはこれまでに、ヒト血漿中のTPOについて報告がなされている(Matsumoto,A.ら、38th Annual Meeting of the ASH(1996))が、いまだ単離・精製されたものはないため、その構造、機能等については知られていない。
また、各種細胞でTPOを産生するものもmRNAおよびELISAレベルでは検出されている。ヒト肝臓由来細胞(HepG2)では(Hino,M.ら、Biochem Biophys Res Commun 217巻、 475−481頁、(1995))、構成的なmRNAの発現が検出されている。また、ヒト胎児腎臓細胞(HEK)ではmpl発現細胞(MO−7e,BaF3/mpl)を増殖させる活性とTPOmRNAを検出している。しかしながらこれも単離・精製されてはおらず、in vivoの活性も含めてその構造、機能等については知られていない。
一方、遺伝子組換え技術を用いた組換えヒトTPOとしては、アフリカミドリザル腎臓細胞(COS−1)において発現させたもの(Kato,T.ら、J,Biochem 118巻 229−236頁、(1995))、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)において発現させたもの(Morita,H.ら、FEBS Lett.395巻 228−334頁、(1995);Kato,T.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94巻 4669−4697頁、(1997))、大腸菌にて発現させたもの(Ann,M.F.ら、Blood 86巻 54−59頁、(1995))、Baby Hamster 腎臓細胞(BHK)で発現させたもの(Ross,C.H.ら、Biochemistry 35巻 14849−14861頁(1996))、ヒト胎児腎臓細胞(HEK293)で発現させたもの(de Sauvageら、Nature 369巻、533−538頁(1994);Bartley,T.D.ら、Cell 77巻、1117−1124頁、(1994))等が知られている。
しかし、これまでにTPO産生臓器由来ヒト株化細胞で発現させたTPOについての報告はない。
また、上記の種々の非ヒト株化細胞が産生するTPOと、ヒト株化細胞が産生するヒトTPOやヒト血中で認められるTPOとの構造の異同等については何等知られていない。ましてや、その構造の異同とTPOの機能との関係については何等報告されていないのが現状である。
一般に、TPOのような生理活性糖タンパク質の場合、主要TPO産生臓器以外にも該タンパク質を産生している臓器があり、その臓器/臓器由来細胞の種類によって、産生されている該糖タンパク質の構造が異なる場合がある。
同様に、遺伝子組換え技術を用いた組換え糖タンパク質の場合、用いる宿主細胞によって産生される糖鎖構造が異なることが知られている。特に動物細胞を用いる場合はその種類(動物種、あるいは由来する臓器の種類、細胞株等)によって付加される糖鎖構造は様々であり、その差異がタンパク質の機能、主に、抗原性、体内動態等に影響を与えることも少なくない。事実、これまでに多くの遺伝子組み換え蛋白医薬品に対する抗体産生の報告(Steisら、N.Eng.J.Med.318巻、1409−1413頁(1988)など)があるが、これは体内をめぐる天然体蛋白と構造的、機能的な差があるからに他ならない。
抗原性、体内動態に関してより優れた性質を有するヒトTPO糖タンパク質であれば、医薬品としての価値を一層高めることが期待できる。
発明の要約
本発明は、ヒト株化細胞が産生するヒトトロンボポエチン(TPO)を提供する。
本発明の実施態様において、TPOは、内在性又は外来性のヒトTPO遺伝子のヒト株化細胞における発現産物であって、単離・精製されたものである。また、ヒト株化細胞としては、TPO産生臓器由来ヒト株化細胞、例えばJHH7(FERM BP−6049)、HuH7(FERM BP−6048)等のヒト肝臓由来細胞やヒト骨髄ストローマ細胞を挙げることができる。
本発明のTPOは、SSA−レクチンカラムに親和性を有する糖鎖構造をもつものか、あるいは、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつものであることができる。そのアミノ酸配列は、例えば配列表の配列番号1に示す1位〜332位のアミノ酸を有するものである。
本発明はまた、上記定義のヒトTPOを有効成分とする医薬組成物を提供する。具体的には、該TPOは血小板増加剤、血小板障害治療剤、血小板減少症治療剤として用いることができる。本発明のTPOは、薬剤として使用されるとき、抗原性の低下や体内動態の改善などの利点を付与することができる。
本発明はさらに、TPO産生臓器由来ヒト株化細胞において外来性のヒトTPO遺伝子を発現させることを含む、ヒトTPOの製造方法を提供する。ヒト株化細胞として、上記のヒト肝臓由来細胞(例えばJHH7(FERM BP−6049)等)やヒト骨髄ストローマ細胞を用いることができる。このような方法によって得ることができるヒトTPOも本発明に包含される。
本発明はさらにまた、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOを提供する。ここで、ヒトTPOは外来性のヒトTPO遺伝子の株化細胞における発現産物であって、単離・精製されたものとすることができ、また株化細胞としては、α2,6−シアリルトランスフェラーゼ遺伝子が導入されたCHO細胞であることができる。
本発明はまた、CHO細胞にα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入し、該CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させることを含む、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法、あるいは、CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させ、該CHO、細胞にα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することを含む、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法を提供する。
発明の詳細な説明
本発明者らは、ヒトTPOの主要産生臓器が肝臓であることがmRNAレベルで確認されている(Shimada,Y.ら、Exp.Hematol 23巻、1388−1396頁、(1995);Nomura,S.ら、Exp.Hematol 25巻、565−572頁、(1995))ことから、ヒト肝臓由来株化細胞に注目した。そこで、ヒト血漿から部分精製したTPO(nativePlasmaTPO)、ヒトTPO産生肝臓由来株化細胞から精製したTPO(nativeHepTPO)、並びに該ヒトTPO産生肝臓由来株化細胞で発現させた組換えヒトTPO(recHepTPO)等を調製し、その糖鎖構造について、CHOで発現させた組換えヒトTPO(recChoTPO)との比較を行った。その結果、ヒトTPO産生肝臓由来株化細胞から精製したTPO(nativeHepTPO)と該ヒトTPO産生肝臓由来株化細胞で発現させた組換えヒトTPO(recHepTPO)は、そのN結合型糖鎖の結合パターンがCHOで発現させた組換えヒトTPOと異なっており、むしろ、ヒト血漿から精製したTPO(nativePlasmaTPO)と共通していることが判明した。
即ち、後述の実施例にあるように抗TPOモノクローナル抗体とレクチンを用いたレクチン− ELISA分析法によるとnativePlasmaTPO、nativeHepTPOおよびrecHepTPOは糖鎖末端のシアル酸付加様式がα2,6結合であることを特徴付けするSSAレクチン(Shibuya,N.ら、J.Biochem、106巻、1098−1103頁、(1989))に反応性を見せるが、recChoTPOは反応しない、一方、シアル酸付加様式がα2,3結合であることを特徴付けするMAMレクチン(Wei−Chun,W.ら、J.Biol.Chem.263巻、4576−4585頁、(1988))にはこれらすべてが反応する。つまり、recChoTPOは、N結合型糖鎖においてα2,6結合型シアル酸付加構造を有するヒト血漿由来のTPOと大きく異なり、一方、nativeHepTPOおよびrecHepTPOはヒト血漿由来のTPOと類似していると言える。
そこで、本発明によれば、ヒト株化細胞が産生する新規なTPOが提供される。好ましくは、TPO産生臓器由来ヒト株化細胞が産生する新規なヒトTPOが提供される。更に好ましくは、上記特定の糖鎖構造を有する新規なヒトTPOが提供される。
本発明の新規ヒトTPOは、抗原性の低下、体内動態の改善、連投時の血小板増多効果の低下の改善をもたらすものである。
本発明のヒトTPOとしては、遺伝子組換え技術を用いて、ヒトTPO遺伝子をヒト株化細胞に導入し、発現させ、単離・精製することによって得られる、外来性(exogenous)のヒトTPO遺伝子のヒト株化細胞における発現産物であるヒトTPOが挙げられる。あるいは、ヒトTPO遺伝子が発現されているヒト株化細胞から、単離・精製することによって得られる、内在性(endogenous)のヒトTPO遺伝子のヒト株化細胞における発現産物であるヒトTPOであってもよい。あるいは、内在性(endogenous)のヒトTPO遺伝子の発現産物であるヒトTPOには、ヒトTPO遺伝子をもつヒト株化細胞に、プロモーター等を外から導入し、該内在性(endogenous)のヒトTPO遺伝子を活性化し発現させる方法(国際公開第WO96/29411号参照)によって得られるようなヒトTPOも含まれる。
ヒト株化細胞としては、例として、HL60(ATCC 寄託番号 CCL−240)、Jurkat(ATCC 寄託番号 TIB−152)、K562(ATCC 寄託番号 TIB−152)、HeLa(理研 寄託番号 RCB0027)、HepG2(ATCC 寄託番号 CRL10741)等が挙げられる。好ましくは、TPO産生臓器由来ヒト株化細胞であり、例えばヒト肝臓由来細胞、ヒト骨髄ストローマ細胞などが挙げられる。更に好ましくは、ヒト由来肝臓細胞株である、JHH7、HuH7、HepG2等が挙げられる。JHH7は、1997年8月11日付で、日本国通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号 FERM BP−6049としてブタペスト条約下で国際寄託されている。HuH7は、1997年8月11日付で、日本国通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号 FERM BP−6048として同様に寄託されている。
本発明のヒトTPOとして、好ましくは、α2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつもの、もしくは、少なくともSSA−Lectin[正式名称:sambucus sieboldina aggulutinin lectin又はElderberry Bark lectin(Sibuya,Nら、J.Biol.Chem262:1596−1616(1987)参照]に親和性を有する糖鎖構造をもつものが挙げられる。更に好ましくは、N結合型糖鎖においてα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつもの、もしくはSSA−Lectinに親和性を有する糖鎖構造をもつものが挙げられる。
本発明のヒトTPOは、そのタンパク質部分の一次構造、即ちアミノ酸配列としては、配列番号1に示されたアミノ酸配列か、または配列番号1に示されたアミノ酸配列のうち、ヒトTPO活性を保持する限りにおいてその一部が改変(置換、欠失、挿入、および/または付加)されているようなアミノ酸配列であるものも含まれる。具体的には、国際公開第WO95/21919号(1995年8月17日)に記載されているTPO誘導体や同第WO96/25498号(1996年8月22日)に記載されたTPO誘導体、同第WO95/18858号(1995年7月13日)に記載されたTPO誘導体等に見られるようなアミノ酸残基の改変を挙げることができる。
本明細書中、「TPO活性」とは、巨核球前駆細胞の増殖および分化を促進するか、および/又は生体内で特異的に血小板の産生を刺激、または増強する活性をいう。
また、本発明によれば、上記新規なヒトTPOを製造する方法も提供される。
ヒト株化細胞から直接精製および単離する方法としては、一般にタンパク質の精製に用いられる手段、例えばイオン交換クロマトグラフィー、レクチンアフィニティークロマトグラフィー、色素吸着クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー、硫酸化ゲルクロマトグラフィー、ハイドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、金属キレーティングクロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、分取電気泳動法、および等電点電気泳動法などの一つ以上を組み合わせた方法がある。また、ヒトTPOの物理化学的な性質を利用して組み合わせることのできる方法も本発明に含まれる。さらには、TPOを認識することのできる抗体を用いた抗体カラムをも用いることができる。また、TPOはMplのリガンドであることが判明したことから(de Sauvageら、Nature 369巻 533−538頁(1994);Bartleyら、Cell 77巻 1117−1124頁(1994);Kaushanskyら、Nature 369巻 565−568頁(1994))、Mplを活性化ゲルにカップリングさせることでアフィニティーゲルカラムを調製し、これを利用することによってもTPOを精製することができる。より具体的には、Mplの細胞外領域(Mpl−X)をCHO細胞を宿主として用いた遺伝子組換え法により生産・調製し、調製されたMpl−Xカラムが挙げられる(前述のBartleyら(1994))。
また、本発明には、遺伝子組換え技術を用いた、本発明のヒトTPOの製造方法も含まれる。例えば、ヒトTPOをコードするDNAをベクターの適切な部位に組み込んだ組換えベクターでヒト株化細胞を形質転換又はトランスフェクトし、産生されたヒトTPOタンパク質を分離・精製することを特徴とする本発明のヒトTPOの製造方法が挙げられる。本発明の実施態様において、本発明は、TPO産生臓器由来ヒト株化細胞、好ましくはヒト肝臓由来細胞(例えばJHH7細胞)又はヒト骨髄ストローマ細胞にヒトTPO遺伝子を導入し、発現させることによるヒトTPOの製造方法を提供する。これらの方法におけるヒト株化細胞としては、上述のとおりである。
これらの宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトさせるために用いられるベクターとしては、pSV2−neo(SouthernとBerg;J.Mol.Appl.Genet.,1,327−341,1982).pCAGGS(Niwaら;Gene,108,193−200,1991)、あるいはpcDL−SR α296(Takebeら;Mol.Cell.Biol.,8,466−472,1988)等がある。
これらのベクターは必要に応じて複製起点、選択マーカー、プロモーターを含み、さらに真核細胞用のベクターには、必要に応じてRNAスプライス部位、ポリアデニル化シグナル等が付加される。
複製起点としては、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス由来のもの等を用いることができる。
遺伝子発現用プロモーターとしては、ウイルス由来であるレトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、SV40由来のもの等あるいは、染色体由来のもの(例えば、EF1−α)等を用いることができる。
選択マーカーとしては、ネオマイシン(neo)耐性遺伝子、ピューロマイシン(pur)耐性遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子などを用いることができる。
好ましくは、後述の実施例1の(4)にあるように、ヒトエロンゲーションファクタ−1−アルファプロモーター下流にヒトTPOcDNAを配置し、さらにSV40初期ポリアゲニル化シグルナル、DHFR遺伝子、SV40複製開始点などを付加したベクターによって、トランスフェクタム法(プロメガ社製)を用いてJHH7細胞を形質転換することによって行われる。形質転換されたJHH7細胞は恐らく内在性のヒトTPO遺伝子の発現産物であるヒトTPOに加えて導入された外来性(exogenous)のヒトTPO遺伝子に基づいたTPOを産生することになる。
また、本発明によれば、本発明のヒトTPOを含有する医薬組成物も提供される。本発明の医薬組成物は、その製剤化の目的に応じて安定化剤、希釈剤、可溶化剤、防腐剤、酸化防止剤、賦形剤及び等張化剤等を含有することができる。
本発明のヒトTPOを含有する医薬組成物は注射等の非経口、経肺、経鼻、および経口を含めた種々の投与経路に応じた剤形として、溶液剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、凍結乾燥製剤などが例示される。
本発明のヒトTPOを含有する医薬組成物は、活性成分として通常0.05μg/kg体重〜1mg/kg体重を、病状、性別及び投与経路等に応じて、一日一回〜数回程度投与することができる。
本発明によれば、本発明のヒトTPOを有効成分とし、血小板の増加を必要とする多数の疾患患者に対する血小板増加剤が提供される。
更には、制ガン剤や免疫抑制剤の投与による化学療法や放射線療法、あるいは骨髄移植(BMT)やPBSCT、CBSCT施行患者における血小板減少症の治療剤が提供される。
更に、血小板障害、例えば、血小板産生障害や血小板の寿命短縮(血小板破壊の亢進、あるいは血小板消費の亢進)による血小板減少を特徴とする多数の疾患への治療剤が提供される。
例えば、先天性のファンコニ貧血、化学療法や放射線療法に伴う再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、または骨髄移植のような骨髄形成不全による血小板減少症などが挙げられ、このような患者の血小板の回復を促進するために用いることができる。
また、TPO産生異常による血小板減少症にも有用である。血小板や巨核球の寿命短縮による血小板減少症としては例えば、特発性血小板減少性紫斑病、後天性免疫不全症候群(AIDS)、播種性血管内凝固症候群、血栓性血小板減少症などがあり、このような患者の血小板回復促進にも有用である。
更に、外科手術前にTPOを投与して自分の血小板を増加させ、その血小板を自分の手術時に輸血用血小板として用いる、いわゆる自己血小板輸血への用途としても有用である。
更に本発明のヒトTPOは、例えば他の化学薬品または医薬品、または治療的措置による一過性の血小板の欠損または損傷によってもたらされた血小板障害の治療にも有用である。本発明のヒトTPOは、そのような患者で新しい“無傷の”血小板の放出を促進するのに用いることができる。更にTPOの主たる産生臓器の一つが肝臓であることが明らかにされていることから、血小板減少をきたす各種の肝臓病、例えば、胆道閉鎖症、肝臓移植、肝硬変、肝炎などにもTPO投与の臨床応用が期待される。更に、保存血小板の止血血栓形成能を回復させる用途としても有用である。
このように、本発明の医薬組成物又は治療剤を用いることによって、抗原性がより低下すると共に、薬剤の体内動態がより改善され、より優れた血小板増加効果、血小板障害治療効果又は血小板減少症治療効果を得ることができる。
本発明はさらに、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOを提供する。ここで、ヒトTPOは外来性のヒトTPO遺伝子の株化細胞における発現産物であって単離・精製されたものであってよく、また、株化細胞はCHO細胞や、卵巣細胞同様にα2,6−シアリルトランスフェラーゼ活性が低いとされる腎臓由来のHEK293やBHKなどの細胞に、α2,6−シアリルトランスフェラーゼ遺伝子を導入したものであることができる。
本発明者らは、CHO細胞にラットα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することによって、α2,3結合型及びα2,6結合型の両シアル酸が付加された形のTPOを発現させることを試みた。この場合、ヒトTPO遺伝子を導入したCHO細胞に後からα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することによって形質転換を行ってもよいし、その順序は逆であっても、また同時であってもよい。また、後述の実施例において、CHO細胞に遺伝子導入したのはラット肝臓β−ガラクトシドα2,6−シアリルトランスフェラーゼ(Entrez accession No.M18769)であるが、たとえば成熟ラット脳由来のもの(Entrez accession No.L29554)やマウスβ−ガラクトシドα2,6−シアリルトランスフェラーゼ(Entrez accession No.D16106)を用いることも可能である。
本来CHO細胞はα2,6−シアリルトランスフェラーゼ活性を有していないが(Paulson,J.C.ら,J.Biol.Chem.264巻,10931〜10934頁、(1989))、これにLee,E.J.ら(J.Biol.Chem.264巻,13848〜13855頁、(1989))の方法にあるように強力なプロモーター下に配したα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することによって、本来細胞の有するα2,3−シアリルトランスフェラーゼ活性と競合することによってその量的優位性によってα2,6結合型シアル酸がα2,3結合型シアル酸と同一分子上に、あるいは優位に付加されたTPOが産生されることになる。ここで言う「α2,6結合型のシアル酸が優位に付加された」とは、実施例3で述べられているLectin−ELISAで測定したときにSSA−Lectin ELISAに反応し、MAM−Lectin ELISAに対する反応が測定限界以下であることを指す。CHO D−株で産生されたTPOはα2,3型の結合様式で付加されたシアル酸をもち、α2,6型の結合様式で付加されたシアル酸をもたないことが確認されているが、事実、NAM−Lectin ELISAに十分な反応性をもっていて、かつSSA−Lectin ELISAに全く反応しない。2,6−シアリルトランスフェラーゼの遺伝子導入によりこの反応性が逆転し、本来有しない2,6−型の結合様式で付加されたシアル酸に特異的に結合するSSA−Lectinが反応するようになったということは、2,6−シアリルトランスフェラーゼが遺伝子導入によって高発現するようになった結果、その活性が2,3−シアリルトランスフェラーゼのシアル酸付加活性を圧倒的に上回り、本来α2,3型の結合様式でシアル酸が付加される位置をα2,6型の結合様式のシアル酸が占めたことを意味する。
ヒトTPO遺伝子を導入したCHO細胞としては、例えば、ヒトTPOをコードするDNAを担持する適切な発現ベクターによって形質転換されたCHO細胞を用いることができる。例えば、1995年1月31日付で日本国通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号 FERM BP−4988として寄託されている、ヒト全長TPOをコードするcDNAを担持するプラスミド pDEF202−hTPO−P1によって形質転換されたCHO細胞株(CHO−DUKXB11)が挙げられる。
このように、本発明はまた、CHO細胞にα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入し、該CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させることを含む、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法を提供する。さらに本発明は、CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させ、該CHO細胞に、α2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することを含む、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法を提供する。
実施例
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるべきでない。
<実施例1>
(1)ヒト血漿からのTPOの(部分)精製…nativePlasmTPO
−80℃保存のヒト血漿、約460mlを流水中にて融解後、1350×gで遠心、不溶性沈殿を除去し、その上清457mlを等量の1mM EDTA、0.1% Tween 20、0.1% NaN3を含むDulbeccoのリン酸緩衝塩水(PBS)(DPBS:日水製薬(株)社製 Cat.No.05913)で希釈した。この2倍希釈ヒト血漿914mlに対し、プロテアーゼによる蛋白分解を阻害する目的でプロテアーゼ・インヒビター、PefablocSC(MERK社製 Cat.No.124839、最終濃度 0.1mM)、trans−epoxysuccinyl−L−leucylamido(4−guanidino)−butane(SIGMA社製 Cat.No.E3132、最終濃度 0.01mM)を添加した。これをSARTOBRAN 300(Sartorius社製 Cat.No.5231307H5−−00−−B)をもちいて0.22μろ過し、抗TPO抗体結合 NHS−activated Sepharose 4FF カラム(カラムサイズ:φ0.5cm×5cm、NHS−activated Sepharose FF ゲル:Pharmacia社製 Cat.No.17−0906−01)へ流速0.5ml/minでアプライした。その際、抗TPO抗体カラムへの非特異的吸着を避けるため、Sepharose 4FF(カラムサイズ:φ0.5cm×0.5cm、Sepharose 4FF ゲル:Pharmacia社製 Cat.No.17−0149−01)、およびnormal Rabbit IgG 結合 NHS−activated Sepharose 4FF カラム(カラムサイズ:φ0.5cm×5cm、NHS−activated Sepharose 4FF ゲル:Pharmacia社製 Cat.No.17−0906−01)をプレカラムとして、抗TPO抗体カラムに接続した。アプリケーション終了後、1mM EDTA、0.1% Tween 20、0.1% NaN3を含むDPBSバッファーでカラムを洗浄し、280nmの吸光度(A280)が0.2程度まで下がったところでプレカラムを取り外した。さらにゲルへの非特異的吸着物除去のため、0.5M NaClを含む10mM Sodium Phosphate pH7.3バッファーでカラムを洗浄した。カラム内を150mM NaClで置換した後、150mM NaCl、5mM CHAPSを含む0.1M Glycine−HCl pH2.5バッファーでTPOの溶出を行った。溶出後、ただちに各分画を1M Na2CO3により中和し、高感度TPO−ELISAへ供した。ELISAの結果をもとにTPO溶出画分をプールし、限外ろ過法により濃縮、バッファー交換を行った。限外ろ過濃縮にはULTRAFREE−MC 10Kcut(MILLIPORE社製 Cat.No.UFC3LGC00)を用い、4,000×gで遠心、濃縮し、その後、数回DPBSを添加、濃縮を繰り返した。最終的に500lの1mM EDTA、0.1% Tween 20、0.1% NaN3を含むDPBSバッファーに懸濁、部分精製ヒト血漿TPOとした。
この部分精製TPOの一部を以下の通りSDS存在下、ゲルろ過に供した。部分精製TPOに対し、5分の1容量の250mM Tris−HCl,pH6.8,50% Glycerol,5% SDS,10mM EDTAを添加し、95℃、5分処理した。これを0.1% SDS、1mM EDTAを含むDPBSで平衡化したSuperose 6 HR ゲルろ過カラム(φ 1cm×30cm:Pharmacia社製 Cat.No.17−0537−01)へアプライし、得られた分画をTPO−ELISAに供しTPOの溶出位置の同定をおこなった。その結果、ヒト血漿由来TPOは、CHO発現型TPO(1−332a.a.)とほぼ同位置にメインに溶出され、分子量約80kDと考えられた。また僅かではあるが、約20kD付近にも部分長型TPOの溶出を認めた。
(2)JHH7細胞からのTPOの(部分)…nativeHepTPO(JH H7)
JHH7細胞を培養面積225cm2の培養フラスコに入れ、10%FCSを含む1:1ダルベッコ変法イーグル培地/ハムF12(DF)培地(Gibco社製)で5%炭酸ガス培養器中にて37℃でコンフルエントになるまで培養した。その後、これを無血清のDF培地に置換して、4日間培養した後、上清を回収した。
上記培養で得られた体積4Lの上清(TPO濃度55pg/ml)を約1Lづつに分割してあらかじめ5mM potasium phosphate pH6.8で平衡化したWGA−agarose(生化学工業社製)を5ml充填したカラムにアプライした。約250mlの5mM potasium phosphate pH6.8で洗浄した後、0.4M N−アセチルガラクトサミン、5mM potasium phosphate pH6.8、15mlで溶出した。溶出液をUF15−10kcut(ミリポア社製)で濃縮しTPOサンプルとした(1.0ml,159ng/ml)。
(3)HuH7細胞からのTPOの(部分)精製…nativeHepTPO(HuH7)
HuH7細胞を培養面積225cm2の培養フラスコにいれ、10%FCSを含むDF培地で5%炭酸ガス培養器中にて37℃でコンフルエントになるまで培養した。その後、これを無血清のDF培地に置換して、4日間培養した後、上清を回収した。体積1.9Lの上清(147pg/ml)を約1Lづつに分割してあらかじめ5mM potasium phosphate pH6.8で平衡化したWGA−agarose(生化学工業社製)を5ml充填したカラムにアプライした。約250mlの5mM potasium phosphate pH6.8で洗浄した後、0.4M N−アセチルガラクトサミン、5mM potasium phosphate pH6.8各15mlで溶出した。溶出液をUF15−10kcut(ミリポア社製)で濃縮してTPOサンプルとした(1.5ml、77ng/ml)。
(4)JHH7細胞におけるTPOの発現、及び精製…recHepTPO(JHH7/7/c83)
JHH7細胞を6cm径のプレート(ファルコン社製)中、10%FOSを含むDMEM培地で培養増殖させ、これをトランスフェクタム法(プロメガ社製)を用いてpDEF202−h−TPO−P1(特開平8−228781号公報)によって形質転換した。
なお、プラスミドpDEF202−h−TPO−P1によって形質転換されたCHO細胞(CHO−DUKBII)は1995年1月31日付で日本国通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号 FERM−BP−4988として寄託されている。
即ち、pDEF202−hTPO−P1プラスミド10μg、pEFneoプラスミド1μgを500μlのDMEM培地に添加したSolution A、及び500μlのDMEM培地にトランスフェクタム(1mg/400μl EtOH)5μlを添加したSolution Bを混合し、500μlの無血清DMEM培地に置換した6cm径プレートに1ml加え、6時間、37℃、5%炭酸ガスインキュベーター内に置いた。次に、DMEM培地3.5mlを添加し、血清を最終濃度10%になるように加え、再び、37℃、5%炭酸ガスインキュベーター内に48時間置いた。なお、pEFneoプラスミドの作製は次のようにして行った。すなわち、プラスミドpRc/CMV(Invitrogen社)を制限酵素EcoRI−BamHIで処理し、アガロースゲル電気泳動でneomycin耐性遺伝子を含む小さい方の断片を回収し、T4ポリメラーゼ(宝酒造製)にて末端を平滑化した後、このフラグメントとプラスミドpEF18S(特開平8−228781号公報)を制限酵素SmaIで処理したベクターDNAをT4DNAリガーゼ(宝酒造製)で結合する。こうしてできた2種類のプラスミドのうち、エロンゲーションファクタープロモーターと同方向でneomycin耐性遺伝子が挿入されたものを選択してpEFneoとした。
ついでこれを0.05%トリプシン、53mM EDTA溶液で剥離分散し、24穴プレート10枚に分割したのちに41g/mgG418を含むDMEM+10%FCS培地で選択を行った。このうちコロニーを形成したものを FDCPhMp1635/MTS アッセイ(Morita H.ら、FEBS Lett.395巻 228−334頁、(1995))を行い高発現コロニーを選択した。選択されたコロニーについて限界希釈法によるクローニングを行い単一クローンとした。
ヒトTPOcDNAを含むpDEF202−hTPO−P1によって形質転換されたJHH7細胞株(JHH7/7/c83)は、1997年8月11日付で、日本国通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号 FERM BP−6050としてブタペスト条約下で国際寄託されている。
この組み換え型JHH7細胞株(JHH7/7/c83)を培養面積225cm2の培養フラスコに入れ、10%FCSを含むDF培地で5%炭酸ガス培養器中にて37℃でコンフルエントになるまで培養した。その後、これを無血清のDF培地に置換して、4日間培養した後、上清を回収した。
体積8.97Lの上清(TPO濃度0.55μg/ml)をpellicon−2cassette 10kcut(ミリポア社製、カタログ番号 P2B0 10A 05)にて899ml(TPO濃度5.7μg/ml)まで濃縮した。プロテアーゼによる蛋白分解を阻害する目的でプロテアーゼ・インヒビター、Leupeptin(最終濃度0.01mM)、trans−epoxysuccinyl−L−leucylamido(4−guanidino)−butane(最終濃度0.01mM)を加えた。
225mlづつに分解してあらかじめ5mM potasium phosphate pH6.8で平衡化したWGA−agarose(生化学工業社製)を5ml充填したカラム4本にアプライした。約250mlの5mM potasium phosphate pH6.8でそれぞれ洗浄した後、0.4M N−アセチルガラクトサミン、5mM potasium phosphate pH6.8各15mlで溶出した(TPO濃度73μg/ml)。
溶出液を UF15−10kcut(ミリポア社製)で濃縮、5mM potasium phosphate pH6.8に置換した(5.0ml、TPO濃度 1084μg/ml)。
これを Hydroxyl Apatite typel(BioRad社製 直径1cm、ベッド高10cm)カラムに注入し、流速1ml/minで添加した。添加終了後、引き続き5mM potasium phosphate pH6.8をカラムに注入し未吸着画分50ml(TPO濃度54μg/ml)を集めた。これに1M Tris−base溶液を加えてpHを8.5に調整した。
次に、この画分をQ−Sepharose HP(Pharmacia Biotech社、カタログ番号 直径5mm、ベッド高10cm)カラムで展開した。即ち、展開溶媒Aに20mM Tris−HCl pH7.5、展開溶媒Bに1M NaClを含む20mM Tris−HCl pH7.5を用い、20mM Tris−HCl緩衝液pH7.5で予め平衡化したカラムに流速0.3ml/minでサンプルを添加した。添加終了後、流速を0.3ml/minから0.5ml/minに上げて、0%Bから22%Bまで直線濃度勾配で展開し、1.0ml(2min)ずつポリプロピレン製チューブに集めた。
それぞれの各フラクションをELISA法により測定し、TPO画分を特定した。この結果チューブ番号34〜55(NaCl濃度で0.116〜0.2Mの範囲)にTPOの分布を見出したので、これを回収し、TPO画分FA(22ml)とした。これを、UF15−10kcut(ミリポア社製)で濃縮し、途中液量が4.1mlとなった時点でTPO濃度をELISA法で測定した(1143μg/ml)。さらにこれを濃縮を進め、200μlとした。
最終的なステップとしてSuperdex 200HR(Pharmacia Biotech社製、直径1cm、ベッド高30cm)を用いて分離を行った。即ち、リン酸緩衝塩水(PBS)にてカラムを置換した後、FA濃縮サンプル200μlを流速0.3ml/minで注入した。注入後引き続きPBSをカラムに添加し、サンプル添加開始から15分経過後から600μl(3min)ずつのフラクションとした。これを銀染色、抗ヒトTPOポリクローナル抗体、ELISA法によりフラクションを測定し、この結果チューブ番号13,14,15(添加開始からの総量で7.2〜9.0ml)にTPOの分布を見出した。この3フラクションをプールし、AccQTag法により組成分析を行ったところ1.11733mg/ml(1.8ml)であることが分かった(表1)。
このとき、ELISA法で測定したTPO量は1.1mg/mlを与え、組成分析値とほぼ同等であった。すなわちここで用いたELISAが、recHepTPOに対しても標準TPOと同等の反応性を示すといえる。
<実施例2>分子量の測定
実施例1で得られた各種TPOの分子量を測定する目的でSDS−PAGE・ウエスタンブロッティングを行った。常法にしたがって、マイクロスラブゲル(第一化学薬品製、4.0%〜20%濃度勾配ポリアクリルアミドゲル)を用いて、SDSゲル電気泳動を室温下で10mA、ついで20mAの一定電流にて約2時間かけて実施した。分子量マーカーにはプレステインド・ブロードレンジマーカー(ニューイングランドバイオラブズ社製)を用いた。
セミドライ転写装置(マリソル社製、ウエットフォー転写装置モデル KS−8640)を用いて、泳動終了後直ちに150mAの一定電流で1時間かけてPVDF膜(ミリポア社製)に電気的に転写した。陽極に0.3M Tris、20%メタノール、pH10.4、転写膜液に25mM Tris、20%メタノール、pH10.4、陰極液に25mM Tris、40mM アミノカプロン酸、20%メタノールを用いた。
転写された膜をTTBS溶液にて5分間洗浄した後、ブロックエース(雪印社製)にてブロッキング1時間を行った。これを再びTTBSにて5分間洗浄した後に、90%TTBS、10%ブロックエース、0.05%BSA溶液に抗ヒトTPOヤギ抗体を添加して1時間振とうした。ついで、この膜を再びTTBSにて5分間2回洗浄した後に、TTBS溶液に抗ヤギ、パーオキシダーゼ結合抗体を添加し1時間振とうした。この後この膜をTTBS溶液にて10分間4回洗浄し、ECL発色システム(アマシャム社製)にて発色を行い、フィルム(アマシャム社製)に感光させた。
電気泳動における見かけの分子量はrecChoTPO(CHO)、nativeHepTPO(JHH7、HuH7)、recHepTPO(JHH7/7/c83)ともにほぼ同じで80KDa付近に存在する(図1および図2)。これはアミノ酸配列から予想される分子量35KDaとは大きく異なり、それが糖鎖付加による分子量の増加であることが容易に推定される。
<実施例3>Lectin−ELISAによるシアル酸分析
レクチン−ELISAは今までに報告されている方法(Rafferty,B.ら、J.Endoeri.145巻、527−533頁)のように、固相に目的タンパクに対する特異抗体を用いることによって目的タンパクを吸着させ、ビオチン化レクチンを反応させて、続く標識アビジンの反応によって発色させ吸光度を測定することによる。
すなわち、10μg/mlの濃度で抗ヒトマウスモノクローナル抗体、TN−1(Tahara,T.ら、Br.J.Hematol 57巻、783−788頁、(1995))を96穴プレートに各穴100μlずつ分注し攪拌した後、約10時間、4℃にて放置する。これを各穴当たり350μlのTTBS溶液にて4回洗浄したのち、予め後に検出に用いるものと同じレクチンを結合させたアガロース(SSA−AgaroseまたはMAM−Agarose、何れも生化学工業社製)と4時間転倒混和させて、レクチン反応物を除去した1%BSA/TTBS溶液を各穴200μl分注し、1時間室温で攪拌した。続いてこれを捨て、30分間乾燥させた後、サンプルを前述の1%BSA/TTBS溶液に各種濃度で添加したものを各濃度3穴ずつに100μlずつ分注し4時間攪拌した。プレートを再び各穴当たり350μlのTTBS溶液にて5回洗浄したのち、レクチン−ビオチン(生化学工業社製)をSSA−ビオチンの場合最終濃度0.2μg/ml、MAM−ビオチンの場合最終濃度1.0μg/mlになるように0.5%BSA/TTBS溶液に添加し、各穴100μl分注し2時間攪拌した。再度プレートを各穴当たり350μlのTTBS溶液にて5回洗浄したのち、30分前にアビジン−アルカリフォスファターゼ/アビジン−ビオチン液を(DAKO社製)を各1μl/10mlの濃度で加え攪拌した0.25%BSA/TTBS溶液を各穴当たり100μl分注し、1時間攪拌した。最後にプレートを各穴当たり350μlのTTBS溶液にて6回洗浄し、アルカリフォスファターゼ発色キット(DAKO社製)基質液を100μl加え10分間、続いて増感発色液を100μl加えて5分間攪拌し、プレートリーダー(生化学工業社製)にて吸光度492nm、対照として630nmを測定し、その値と濃度で吸光度の温度依存曲線、すなわち各種TPOのレクチンに対する反応性をブロットした。
図3から、SSA−LectinELISAに対する反応性は、nativePlasmaTPO、nativeHepTPO(JHH7)およびnativeHepTPO(HuH7)は何れも似たような傾向を示す。特にnativePlasmaTPO、nativeHepTPO(JHH7)及びnativeHepTPO(HuH7)は高い反応性を示す。一方、recChoTPOは検出限界以下である。MAM−LectinELISAに対する反応性はnativePlasmaTPO、nativeHepTPO(JHH7)、及びnativeHepTPO(HuH7)は似たような傾向を示すが、recChoTPO及びrecHepTPO(JHH7/7/c83)は少し反応性が低かった。
<実施例4>in vivo活性
in vivo活性は原理的には各種検体をマウスに投与した際の血小板数を基に算出する。
すなわち、オス8週齢BALB/c マウスにPBSに懸濁した各種濃度の各種検体を4日連投する。連投終了日から数えて3日目に血液サンプルを採取し血小板数を測定する。このとき100mUを血中血小板数が3×106血小板/μlを与える濃度と定義した。
各種TPOを上記アッセイ法にて比較したところrecHepTPOは4.5×104U/mgとなり、recChoTPOの9.0×104U/mgに比べて低い値となった。
<実施例5>in vitro活性(FDCP−hMp1635アッセイ)
TPO存在下に継代培養しているFDC/P2細胞に全長ヒトMplを強制発現させたFDCP−hMp1635細胞(Morita,H.ら、FEBS Lett.395巻 228−334頁、(1995))を回収し、十分に洗浄後、10%FCSを含むIMDM培養液に再浮遊させた。組織培養用96穴平底プレート1穴あたりの細胞数が2.5×103個になるようにFDCP−hMp1635細胞を入れ、さらに標準品、及び被検検体を加えて、最終液量を200μl/穴にした。プレートを5%炭酸ガスに入れ、37℃で、3日間培養した。3日目の培養4時間前にMTS/PMS溶液(Promega社製)25μlを各穴に添加し、培養終了後に492nmの吸光度をプレートリーダー(生化学工業社製)にて測定した。
各種細胞由来のTPOを組換え型TPOについては組成分析値、血漿あるいは非組換え型の肝臓細胞由来TPOはELISA(Tahara,Tら、Br.J.Hematol 57巻、783−788頁、(1995))における値をもとにアッセイしたところ何れも同等の活性を示すことが分かった(図4)。
<実施例6>α2,6−シアリルトランスフェラーゼ発現ベクター(pEFneo−α2,6ST)の作製
実施例1の(4)に記載のpEFneoプラスミドをXbaIで十分に切断した後に、引き続いて短時間、XhoIを作用させることによってXbaI−XhoIの部分切断断片が得られた。この場合、XhoI部位は3個所存在するために、SV40の複製開始点(ori)を含む断片は3種類できることになる。このうち目的とする断片は2番目に長いものであるが、取り敢えずこの3種類の混合物と目的断片の連結を行い、後にpEFneoのEF−1αプロモーターの3’末端に近い位置をコードするプライマー5’−CCTCAGACAGTGGTTCAAAG−3’(配列番号2)を用いて行うシーケンスによって他の2つの可能性を排除することが可能であり、実際その通りであった。ここでいう目的断片とは、ラット肝臓由来のβ−ガラクトシドα−2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNA(Genbank M18769/Weinstein,J.ら,J.Biol.Chem.262,17735〜17743)の全長を含み5’末端にXhoI部位を有し、3’末端にXbaI部位を有するDNA断片である。
このベクターはSV40の複製開始領域、ヒトエロンゲーションファクター−1−αプロモーター、SV40初期ポリアデニル化部位、さらにSV40プロモーター領域、ネオマイシン耐性遺伝子、SV40初期ポリアデニル化部位、β−ラクタマーゼ遺伝子(Ampr)を含み、、ヒトエロンゲーションファクター−1−αプロモーター下流にβ−ガラクトシドα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAが接続されている。
<実施例7>α2,6−シアリルトランスフェラーゼ発現ベクターのCHO細胞への導入
既にヒト全長TPOを発現しているCHO29/14株(200nMメソトレキセート耐性)を3×105細胞を6cm径のプレート(Falcon社製)中10%ウシ胎児血清を含むα最小必須培地(α−MEM(−)、チミジン、ヒポキサンチン添加)で培養増殖させ、これをトランスフェクタム法(プロメガ社製)によって形質転換し、α2,6−シアリルトランスフェラーゼ発現ベクターを導入した。
すなわち、実施例6で調製したpEFneo−α2,6STプラスミド15μgにα−MEM(−)500μlを加え混合したものと、1mgトランスフェクタムを400μlのエタノールに溶解したものを5μlにα−MEM(−)500μlを加え混合したものを混合した後に室温で10分間放置した。この間に6cm径のプレート上で培養した上記細胞をウシ胎児血清を含まないα−MEM(−)に置換しておく。このDNA溶液をプレートに滴下した後、CO2インキュベーター中で約6時間培養した。プレートに2.5mlのα−MEM(−)と500μlのウシ胎児血清を加え、引き続き1日間培養した後、10%透析ウシ胎児血清含有選択培地(α−MEM(−)、チミジン、ヒポキサンチン無添加、ジエネティシン(Giboco社製)添加)での選択を行った。選択は、細胞をトリプシン処理した後、6cm径のプレート1枚あたりを24穴プレート10枚に分割した後、2〜3日後とに選択培地交換を行いながら培養を続行することにより実施した。このとき最初の2日間は最終濃度0.5mg/mlのジェネティシンを含む選択培地で、続く3日間は最終濃度1mg/mlのジェネティシンを含む選択培地で、その後は、培地交換のつど約半分の最終濃度のジェネティシンを含む選択培地に交換していき、最終的には0.2mg/mlまでジェネティシン濃度を下げていった。メソトレキセートの濃度はこの間200nMのまま維持した。細胞が増殖してきた穴については、TPO−ELISAにてその培養上清中のヒトTPO量、およびSSA−レクチンELISAにてα2,6−型の結合様式で付加されたシアル酸の相対的付加量を測定した。培養上清中にヒトTPO活性及びα2,6結合型シアル酸の付加が認められたものについては、新しいウエルに200nMのメソトレキセート、0.2mg/mlのジェネティシンを含む選択培地で1:15に細胞を分割し、培養を続行させることによりジェネティシンに耐性の細胞を増殖させてクローニングを行った結果、最終的に200nMのメソトレキセート、0.2mg/mlのジェネティシンに耐性なクローンCHO+2,6ST/19/c4及びCHO+2,6ST/21/c3を得た。
<実施例8>発現の確認
実施例7で得られた各種TPOの分子量を測定する目的で、実施例2に記載の方法でSDS−PAGE・ウエスタンブロッティングを行った。Tahara,T.らの方法(Br.J.Hematol.57巻,783〜788頁、(1995))に基づいて測定された発現量をもとに得られた、クローンCHO+2,6ST/19/c4及びCHO+2,6ST/21/c3の産生するTPOの電気泳動における見かけの分子量はrecChoTPO(CHO29c14)とほぼ同じで80KDa付近に存在する(図5参照)。これはアミノ酸配列から予想される分子量35KDaとは異なり、それが糖鎖付加による分子量の増加であることが容易に推定される。
<実施例9>レクチン−ELISAによるシアル酸分析
実施例3に記載の方法で、実施例8で得られたTPOについてシアル酸分析を行った(図6)。
この結果により、2株の細胞のうちCHO+2,6ST/19/c4は特徴としてα2,6−結合様式のシアル酸が優位に付加されたTPOを産生する細胞であり、CHO+2,6ST/21/c3はα2,3−及びα2,6−結合様式のシアル酸の両方が同一分子上に付加されたTPOを産生する細胞であることが判った。
<実施例10>in vitroにおける活性確認
実施例7で得られたTPOについて、実施例5に記載のFDCP−hMp1635アッセイ法でin vitro活性の確認を行った。
96穴プレート中、2.5×103個のFDCPhMp1635細胞を種々の濃度のTPOと共に37℃、3日間培養した後、各ウエルに20μlのMTS溶液を加えた。さらに4時間インキュベートした後、サンプルの活性を492nmでの吸光度として検出した。結果を図7に示す。
この結果から、CHO D−細胞で発現させたTPOもα2,6−シアリルトランスフェラーゼ遺伝子を導入したCHO細胞で発現させたTPOもFDCPhMp1635の増殖活性はほぼ同等であった。つまり、シアル酸の結合様式が本来CHO細胞で見られるα2,3型からα2,6型に変化してもその割合によらず細胞の増殖活性は同じであるといえる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、recChoTPO、nativeHepTPO(JHH7)およびnativeHepTPO(HuH7)の電気泳動による分子量の比較を示す写真である。検出は、エレクトロブロッティッグ後、抗TPOヤギIgG×RAG−HRPとの反応により行った。レーンあたり250pgのTPOが用いられた。
図2は、recHepTPO(JHH7/7/c83)、nativeHepTPO(JHH7)およびrecChoTPOの電気泳動による分子量の比較を示す写真である。検出は図1と同様に行った。
図3は、レクチン−ELISA法による図中に表示の各TPOとSSAレクチン又はMAMレクチンとの反応性の比較を示す。
図4は、FDCP−hMp1635アッセイ法による図中に表示のTPOのin vitro活性を示す。
図5は、クローンCHO+2,6ST/19/c4及びCHO+2,6ST/21/c3によって産生されたTPOと、クローンCHO29c14によって産生されたrecChoTPOとの分子量を、電気泳動/ウエスタンブロッティング(抗hTPOヤギポリクローナル抗体及び西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗ヤギIgG家兎ポリクローナル抗体使用)により比較した写真である。
図6は、レクチン−ELISA法による、クローンCHO+2,6ST/19/c4及びCHO+2,6ST/21/c3によって産生されたTPOのシアル酸分析の結果を示す。
図7は、FDCP−hMp1635アッセイ法による、α2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを遺伝子導入したCHO細胞(図中、19c4及び21c3と表示)及びCHO D−細胞(図中、HTCFと表示)で発現させて得られたTPOのin vitro活性の比較を示す。
Claims (2)
- CHO細胞にα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入し、該CHO細胞においてヒトトロンボポエチン(TPO)遺伝子を発現させることを含む、α2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法。
- CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させ、該CHO細胞にα2,6−シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することを含む、α2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法。
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