JP4230667B2 - 歯列矯正器具を正確に結合配置する方法および装置 - Google Patents

Description

【０００１】
発明の背景
１．発明の分野
本発明は、ブラケットなどのような歯列矯正器具を患者の歯に結合する方法および装置に関する。本発明は、詳細には、患者の歯に対する各々の器具の正確な配置が、一部には転移トレー、および転移トレーに接続された固定要素を使用して行われる歯列矯正器具の結合方法に関する。
【０００２】
２．関連技術の説明
歯列矯正処置は、異常位置にある歯を歯列矯正的に正しい位置に移動させることを含む。処置の際、多くの場合、ブラケットとして周知されている小型器具を患者の前歯、犬歯および小臼歯に固定し、各ブラケットのスロット内にアーチワイヤを配置する。アーチワイヤは、歯が所望の市に移動するのを案内する進路を形成する。アーチワイヤの両端は多くの場合頬側管に接続され、頬側管は患者の大臼歯に固定される。ブラケット、頬側管およびアーチワイヤは、一般に「歯列矯正器」と総称される。
【０００３】
１つのタイプの歯列矯正処置技術は、「水平歯列弓」技術と呼ばれ、「Ｕ」形アーチワイヤが処置の終りにほぼ水平な平面に延在するように、患者の歯上の選択した特定位置にブラケットを配置することを含む。アーチワイヤを最初にブラケット上に取り付ける時、異常位置の歯によって、ワイヤは、水平に見て正常な平面構成、および平面で見て正常に円滑な曲線構成から逸脱する場合がある。しかし、アーチワイヤに固有の弾力性はブラケット、ひいては関連する歯を水平な配列に向けて圧迫する傾向があり、アーチワイヤは、正常な平面構成および円滑な曲線構成を再び取る。水平歯列弓技術について、多くの歯列矯正医は納得できると考えているが、その理由は、アーチワイヤに屈曲もしくは段を形成するか、またはその他の調整を行う必要性が減少し、多くの場合は不要になり、その結果歯列矯正医および患者双方にとって時間の節約になるからである。
【０００４】
周知のとおり、水平歯列弓技術の成功の程度は一部には、患者の歯上におけるブラケットおよび頬側管の位置および向きに関連する。たとえば、ブラケットの１つが、隣接する歯のブラケットの位置に比べて患者の歯肉（つまり、患者の歯茎）に近すぎる位置にある患者の歯に結合される場合、ブラケット全体を水平配列に整列すると、この歯は、処置の終りに、隣接する歯に比べて咬合方向（つまり、患者の歯の外側先端に向かう方向）に過度な距離にわたって外側に突出する。このような場合、歯列矯正医は、ブラケットの各々の側に隣接する位置でアーチワイヤに屈曲または段を形成して異常位置の歯の向きを補正することができるが、こうした処置は、歯列矯正医にとっては追加の作業になり、治療時間全体の長さも増加することになる。
【０００５】
したがって、器具を患者の歯に結合する手順を行う時に、歯列矯正器具の配置の正確さを改善するため、過去において多くの提案が行われてきた。たとえば、十分に周知されている「Ｂｏｏｎｅ」ゲージは、関連する歯の咬合側縁部に関する歯上の器具の所望位置を示す手段になる。Ｂｏｏｎｅゲージは、歯の咬合側縁部上に配置される平坦な表面を有し、この平坦な表面から離間配置された固定ピンが、器具のアーチワイヤスロットの所望咬合側−歯肉側位置を指示するマークを歯上に印する。マークが印された後、少量の接着剤を器具の基部上に配置するか、またはバターを塗るように塗り、ピンセットまたはその他の携帯手段を使用して、選択した歯上に器具を配置する。次に、器具は、選択した位置に器具を移動させるのに必要なだけ移動される。
【０００６】
多少類似する装置は、位置決め冶具として周知されており、選択した歯に器具を正しく配置した後に処分される構成要素として、器具のメーカーから供給される。歯列矯正ブラケットとともに使用される位置決め冶具の一例は、米国特許第５，４２９，２２９号に記載されており、ブラケットの連結ウィングの咬合側および歯肉側縁部上に収容される支え金具を有する可撓性プラスチック材料から作製される。米国特許第５，４２９，２２９号に記載される治具は、適切な携帯手段により把持して、ブラケットを歯に配置して結合する時にブラケットを支持することができる。この治具は、選択した歯の咬合側縁部に整列させるように意図されている階段状部分を備える。接着剤が硬化し、ブラケットが歯に結合したら、支え金具が連結ウィングから外れるまで治具を曲げて、位置決め冶具をブラケットから外す。
【０００７】
その他のタイプの器具位置決め装置は、たとえば米国特許第４，４５５，１３７号および第４，８５０，８６４号に記載されている。米国特許第４，８５０，８６４号の装置では、器具は対向する把持部によって把持され、この装置も、歯の咬合側縁部から予め決められた距離にある位置で歯の表面上に器具を配置するゲージを備える。位置決め装置のもう１つの実施例は、「Ｄｏｕｇｈｅｒｔｙ」ゲージとして周知されており、このゲージは、器具のアーチワイヤスロット内に収容されて、結合時に器具を支持する刃を有する。Ｄｏｕｇｈｅｒｔｙゲージも、刃から一定距離だけ離間配置されるアームを有し、このアームは、結合時に歯の咬合側縁部に接触して配置され、その結果、器具は、歯の咬合側縁部から予め決められた距離に配置される。
【０００８】
医師によっては、上記の結合技術を十分であると考えているが、こうした技法に固有の欠点がある。たとえば、特定の異常位置の歯（たとえば、小臼歯および大臼歯）の表面に触れることは難しい場合がある。場合によっては、特に後部の歯の場合、歯科医は、歯の表面に対するブラケットの正確な位置を探すのが難しい場合がある。上記技術のもう１つの問題は、ブラケットを個々の歯各々に配置して結合する手順を行うのに要する時間が非常に長いことであり、患者と歯列矯正医双方にとって面倒なことである。患者が結合手順の完了を待つ時間が長くなれば、患者の唾液により微量液体が汚染する危険性も増大する。上記の要素はさらに、歯にブラケットを配置する正確さを過度に損なうか、および／または最終的な接着結合が、歯列矯正処置の過程で歯にブラケットを保持するのに十分な強度を持たない可能性を高める。
【０００９】
「間接結合」として周知されている結合技術は、上記の問題の多くを回避する。一般に、間接的な結合技術では、患者の一方の歯列弓の少なくとも一部の構成に適合する形状を有する転移トレーを使用する。ブラケットの集合は、予め決められた特定の位置でトレーに取り外し可能に接続される。接着剤を各ブラケットの基部に塗布した後、接着剤が硬化する時点までトレーを患者の歯上に配置する。次に、トレーを歯およびブラケットから取り外すと、多くの場合、前にトレーに接続されたブラケットのすべてが、次に、特定の意図された予め決められた位置で個々の歯に結合する。この手順は、患者の他方の歯列弓について繰り返されることが多い。
【００１０】
さらに詳細には、間接結合に関して周知されている１つの方法は、患者の歯列弓の痕跡を取るステップと、この痕跡から複製の硬膏つまり「石造」模型を作製するステップを含む。シール溶液（たとえば、３Ｍから市販されているＬｉｑｕｉｄ Ｆｏｉｌブランドのシール溶液）を石造模型に塗布し、乾燥させる。必要なら、模型の歯に鉛筆で印を付けると、ブラケットを理想の位置に配置するのに役立つ。
【００１１】
次に、シールされた石造模型にブラケットを一時的に結合する。選択的に、結合接着剤は、化学硬化剤（たとえば、３Ｍが市販しているＣｏｎｃｉｓｅブランドのもの）、または光硬化性接着剤（たとえば、３Ｍが市販しているＴｒａｎｓｂｏｎｄ ＸＴもしくはＴｒａｎｓｂｏｎｄ ＬＲ接着剤）で良い。選択的に、ブラケットは、米国特許第５，０１５，１８０号、第５，１７２，８０９号、第５，３５４，１９９号または第５，４２９，２９９号に記載されているような接着剤を予備塗布したブラケットで良い。
【００１２】
次に、模型上、および模型上のブラケット上にマトリックス材料を配置して、転移トレーを作製する。たとえば、プラスチックシートマトリックス材料を模型およびブラケット上に配置してから、オーブン内で加熱する。真空源を使用して、マトリックス材料と模型との間の空気を排出する。マトリックス材料を加熱したら、プラスチックシート材料を模型上に引き下げると、プラスチックシート材料は、石造模型および隣接するブラケットの形状に正確に一致する構成を取る。
【００１３】
次に、プラスチック模型を冷却して硬化させ、トレーを形成する。次に、このトレーおよびブラケット（トレーの内壁中に埋め込まれている）を石造模型から取り外し、必要に応じてトレーの側部をトリミングする。このトレーは、結合時に配置しやすくするために、小さめの部分に切断しても良い。ブラケットを模型から取り外した後、硬化した接着剤がブラケット基部上に残っていれば、この接着剤は、患者の歯の輪郭に一致してきちんと嵌合する輪郭を有する特別に作られた結合表面として役立つ。
【００１４】
患者が診療室に戻ったら、多少の接着剤を各ブラケットの基部上（または、硬化した接着剤がある場合は、この接着剤上）に配置してから、埋め込まれたブラケットを含むトレー（またはトレー断片）を患者の歯列弓の一致する部分上に配置する。トレー内部の溝の構成は、患者の歯列弓の各部分に密接に一致するので、各ブラケットは、石造模型上の同じブラケットの以前の位置に対応する正確に同じ位置において、患者の歯上に最終的に配置される。
【００１５】
光硬化性接着剤および化学硬化接着剤はどちらも、器具を患者の歯に固定するために、間接的な結合技術に使用されてきた。光硬化性接着剤を使用する場合、トレーは透明または半透明であることが好ましい。二成分化学硬化剤を使用する場合、これら成分は、ブラケットに塗布する前に混合するか、あるいは一方の成分を各ブラケットの基部上（または硬化した接着剤がある場合、その接着剤上）に配置し、他方の成分を歯の表面上に配置すると良い。何れの場合にも、埋め込まれたブラケットを含むトレーを患者の歯列弓の対応する部分に配置することにより、ブラケットを一組として比較的短時間で歯に結合することができる。こうした技術を使用すると、各々のブラケットを歯に順次個々に配置して位置決めする必要がなくなる。
【００１６】
間接結合などのような特定の結合技術を使用すると、器具を患者の歯にきわめて容易に配置することができ、患者が治療室に座っている時間を短縮することができることは明白であるが、配置の正確さを高め、歯科医の時間の活用を最適化し、さらに器具と歯との間の結合強度を改善するために、現在の結合技術を改善する必要性が当業界で継続して存在する。さらに、歯科医および患者の費用を相応に減少できるように、転移トレーの作製に関連する時間をおよび費用を減少する必要性が当業界に存在する。
【００１７】
発明の要約
本発明はその１つの態様で、歯列矯正器具を歯に結合する方法に関する。この方法は、患者の歯構造の複製を形成するステップと、少なくとも１つの固定要素をこの複製に取り外し可能に接続するステップであって、各固定要素が、歯列矯正器具の類似物と、この器具類似物に接続されたアームとを備え、各器具類似物が、歯列矯正器具が収容される患者の歯構造上の位置に対応する位置において複製上に配置されるステップとを含む。この方法は、マトリックス材料を複製の少なくとも一部分上に配置して転移トレーを作製し、転移トレーを複製から取り外すステップをさらに含む。この方法はさらに、各々の器具類似物を歯列矯正器具と置き換えるステップと、患者の歯構造および各々の歯列矯正器具の少なくとも一方に歯列矯正接着剤を塗布するステップとをさらに含む。この方法は、転移トレーを歯の表面上に配置するステップと、各アームを転移トレーに対して移動させて、各々の歯列矯正器具を患者の歯の構造に接触させるステップとをさらに含む。
【００１８】
本発明のもう１つの態様は、歯列矯正器具を歯に結合する方法に関する。この態様では、この方法は、患者の歯構造の複製を形成するステップと、少なくとも１つの固定要素を複製に取り外し可能に接続するステップであって、各々の固定要素が、歯列矯正器具が収容される患者の歯構造上の位置に対応する位置において複製上に配置されるステップとを含む。この方法は、マトリックス材料を複製の少なくとも一部分上、および少なくとも１つの固定要素の少なくとも一部分上に配置して転移トレーを作製するステップと、転移トレーを複製から取り外すステップとをさらに含む。この方法はさらに、少なくとも１つの固定要素の少なくとも一部分を転移トレーから外すステップと、少なくとも１つの歯列矯正器具を、外した固定要素または固定要素の断片の少なくとも１つの以前の位置に対応する個々の位置において転移トレーに接続するステップとをさらに含む。この方法は、患者の歯構造および結合される各歯列矯正器具の少なくとも一方に歯列矯正接着剤を塗布するステップと、各歯列矯正器具を含む転移トレーを患者の対応する歯構造上に配置して、各歯列矯正器具を歯構造に結合するステップとをさらに含む。
【００１９】
本発明のもう１つの態様は、歯列矯正器具を歯に結合する方法であって、患者の歯構造の少なくとも一部分の負の像に対応する転移トレーを作製するステップと、少なくとも１つの支持アームがトレーに対して移動可能であるように、少なくとも１つの支持アームをトレーに接続するステップとを含む方法に関する。この方法は、歯列矯正器具を少なくとも１つの支持アームに取り外し可能に結合するステップと、トレーを患者の歯構造上に配置するステップとを含む。この方法は、歯列矯正接着剤を患者の歯構造および各器具の少なくとも一方に塗布するステップと、少なくとも１つの支持アームをトレーに対して移動させて、当該アームに連結された器具を患者の歯構造に結合するステップとを含む。転移トレーを作製するステップは、少なくとも１つの器具の近心側および遠心側に沿って延在する部分を器具から離れた位置に形成して、過剰な接着剤を除去しやすくするステップを含む。
【００２０】
さらにもう１つの態様では、本発明は、間接結合のための歯列矯正用転移トレー組立体に関する。この組立体は、少なくとも１つの歯列矯正器具と、各支持アームが対応する歯列矯正器具に接続された少なくとも１つの支持アームとを備える。この組立体は、患者の歯構造の咬合側部分上に延在する咬合側部分と、患者の歯構造の頬唇側部分上に延在する頬唇側部分とを有する転移トレーをさらに備える。各支持アームは、トレーに連結する。頬唇側部分は、各々の器具を収容するためのほぼ「Ｕ」形の凹部を備える。各々の凹部は、器具が患者の歯構造に接触する場合、対応する器具の近心側、咬合側および遠心側に沿って器具から離間配置された関係で延在する。
【００２１】
本発明はまた、少なくとも１つの歯列矯正器具と、各支持アームが対応する器具に接続された少なくとも１つの支持アームとを含む、歯列矯正用転移トレーに関する。この組立体は、患者の歯列弓に沿って延在するほぼ「Ｕ」形の溝を有する転移トレーを備える。このトレーは、舌側部分と、頬唇側部分と、舌側部分と頬唇側部分とを相互に接続する咬合側部分とを備える。舌側部分および頬唇側部分は弾性であり、取り外し可能に歯構造と係合するトレーを自己保持するために、対応する歯構造上にスナップ嵌合するアンダーカット領域を形成するのに十分な深さをほぼ咬合側−歯肉側方向に有する。トレーは、個々の支持アームを収容するために咬合側部分に延在する少なくとも１つの通路をさらに備える。
【００２２】
本発明はまた、歯列矯正患者のための転移トレー組立体を作製する方法に関する。この方法は、間隔を置いて選択した位置に少なくとも２つの歯列矯正器具または器具類似物を支持するステップと、対応するアームを各々の歯列矯正器具または器具類似物に連結するステップとを含む。多少のマトリックス材料を各アームの少なくとも一部分上に配置して、アームを一緒に接続する。マトリックス材料の少なくとも一部分は、歯列矯正患者の歯列弓の少なくとも一部分に一致する構成を有する。このマトリックス材料は、硬化してトレーを形成することができる。
【００２３】
本発明のもう１つの実施形態は、歯列矯正患者のための転移トレーを作製する方法に関する。この実施形態による方法は、患者の歯構造の複製を形成するステップと、少なくとも１つの固定要素を複製に取り外し可能に接続するステップとを含む。各々の固定要素は、歯列矯正器具類似物と、この器具類似物に接続されたアームとを備える。各々の器具類似物は、歯列矯正器具が収容される患者の歯構造上の位置に対応する位置において複製上に配置される。マトリックス材料は、複製の少なくとも一部分上、および少なくとも１つの固定要素のアームの少なくとも一部分上に配置される。転移トレーを複製から取り外して、各々の器具類似物を歯列矯正器具と置き換える。
【００２４】
本発明の方法および装置は、多くの理由で有利である。本発明のいくつかの実施形態による器具類似物の使用は、器具類似物を何度も再利用して異なる転移トレーを作製することができ、転移トレーが作製されるまで、最終的に患者の歯に結合される器具を入手または使用する必要がないという点で有利である。その結果、器具の汚染またはその他の損傷の危険性が減少する。器具の近心および遠心側に沿って延在し、器具に対して離間配置されている部分を有する転移トレーを目的とする本発明のその他の態様は、結合手順時に、トレーから妨げられずに過剰な接着剤を器具の基部から絞り出すことができ、接着剤が硬化する前に、探針またはその他の歯科手段を使用して容易に除去することができる。各固定要素の少なくとも一部分上にマトリックス材料を配置して転移トレーを作製するステップを含む本発明のその他の態様は、各固定要素が転移トレーに対して正しく方向付けられ、手動調節などの必要がないという点で有利である。
【００２５】
本発明のその他の詳細は、請求項の種々の特徴として定義する。
【００２６】
好適な実施形態の詳細な説明
以下の説明は、本発明の現在好ましい実施形態により歯列矯正器具を歯に結合する方法および装置を詳細に記載するものである。以下に記載する方法および装置は、具体的に示す目的でのみ本発明の実施例を表し、当業者は代わりに多くの変形および追加を使用することができるので、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【００２７】
図１は、患者の上顎歯列弓の模型または複製歯列弓１０の一例を示す。複製歯列弓１０は、多数の複製歯１２と、患者の軟組織つまり「歯茎」に形状が類似している複製軟組織１４の隣接部分とを備える。好ましくは、必須ではないが、複製歯列弓１０は、患者の上顎（または下顎）歯列弓内のすべての歯の複製を備える。痕跡を正確に取り、複製歯列弓１０を念入りに作製すると、複製歯１２および複製軟組織１４は、歯列矯正患者の対応する歯および軟組織の構成および向きと同じ構成および向きを有する。
【００２８】
複製歯列弓１０は、周知されている多くの適切な方法のどれかで作製することができる。たとえば、複製歯列弓１０は、過度な歪みを防止するように注意しながら、患者の上顎歯列弓の痕跡を最初に取って作製する。好ましくは、アルギナート痕跡材料、たとえば３Ｍ Ｕｎｉｔｅｋから市販されているＵｎｉｊｅｌ−ＩＩブランドのアルギナート痕跡材料を使用する。あるいは、親水コロイドまたはビニルポリシロキサン痕跡材料、たとえば３Ｍが市販しているＩｍｐｒｉｎｔブランドのビニルポリシロキサン痕跡材料を使用する。次に、複製歯列弓１０は、たとえば焼石膏などのような材料を使用して、各痕跡から作製する。複製歯列弓には実質的に空隙がないことが好ましい。空隙が存在すると、この空隙に、焼石膏などのような少量の適切な材料がさらに充填される可能性がある。
【００２９】
あるいは、複製歯列弓１０は、患者の上顎歯列弓の形状を画定するディジタル情報を生成して、このディジタル情報を使用して複製を形成して作製する。たとえば、ディジタル情報は、ＰＣＴ出願第ＷＯ９７／０３６２２に記載されている方法により生成する。簡単に説明すると、ＰＣＴ出願第ＷＯ９７／０３６２２号は、患者の歯列弓の痕跡を作製し、次にこの痕跡から１つの層を除去して（あるいは、痕跡から作製した模型から１つの層を除去して）平坦な表面を形成し、次に、ビデオカメラまたはその他の装置を使用して、平坦な表面のディジタルデータを収集し、最後に、データを結合して、患者の歯列弓の構成を表すデータ集合を得ることにより患者の歯列弓のディジタル情報を生成する方法を記載している。
【００３０】
患者の歯列弓のディジタル情報を生成するその他の手段を使用しても良い。たとえば、ディジタル情報は、レーザ走査、写真測量法、音波測距、ディジタルビデオ走査により電子機械的に（たとえば針走査）、または磁気的に生成することができる。情報を生成する装置の例は、Ｒｅｋｏｗの論文「Ｃｏｍｐｕｔｅｒ Ａｉｄｅｄ Ｄｅｓｉｇｎ ａｎｄ Ｍａｎｕｆａｃｔｕｒｅ ｉｎ Ｄｅｎｔｉｓｔｒｙ：Ａ Ｒｅｖｉｅｗ ｏｆ ｔｈｅ Ｓｔａｔｅ ｏｆ ｔｈｅ Ａｒｔ」（歯科医術におけるコンピュータ支援設計および作製）第５８巻、５１２ページ（１９８７年）に記載されており、この内容は、引用することにより本明細書に包含する。その他の例は、米国特許第５，０７８，５９９号、第５，１３１，８４４号、第５，３３８，１９８号、第４，６１１，２８８号および第５，３７２，５０２号、並びに「Ｔｈｒｅｅ−ｄｉｍｅｎｓｉｏｎａｌ ｄｅｎｔａｌ ｃａｓｔ ａｎａｌｙｚｉｎｇ ｓｙｓｔｅｍ ｗｉｔｈ ｌａｓｅｒ ｓｃａｎｎｉｎｇ」（レーザ走査による３次元歯科注型品分析システム）という表題の論文（Ｋｕｒｏｄａ等、Ａｍ．Ｊ．Ｏｒｔｈｏ．Ｄｅｎｔ．Ｏｔｈｒｏｐ．第１１０巻［４］，１９９６年１０月、３６５〜６９ページ）に記載されている。
【００３１】
複製歯列弓１０を作製したら、必要なら１層の分離媒体を複製歯列弓１０に貼付する。たとえば、複製歯列弓１０を焼石膏から作製する場合、３Ｍが市販しているＬｉｑｕｉｄ Ｆｏｉｌブランドのシール溶液またはＤｅｎｔｓｐｌｙが市販しているＡｌ−Ｃｏｔｅブランドの分離媒体などのような分離媒体の薄い層を複製歯列弓１０に貼付してから乾燥させる。
【００３２】
次に、患者の対応する歯に最終的に結合する時の各歯列矯正器具に意図する好ましい位置を決定し、この位置を複製歯に表示する。一例として、３Ｍ Ｕｎｉｔｅｋが市販しているＢｏｏｎｅブラケット位置決めゲージ（カタログ番号８０７−００２）などのような高さゲージを使用して、各複製歯１２の唇側表面を横断して鉛筆で印を付ける。鉛筆の線は、各複製歯１２の唇側表面を横断して近心−遠心方向に、好ましくは患者の歯上における各歯列矯正器具のアーチワイヤスロットの最終的な位置に関する位置設定ガイドとして描く。あるいは、鉛筆の線は、各複製歯１２の唇側表面を横断してほぼ咬合側−歯肉側方向に描き、歯１２の中心長軸を標示しても良い。
【００３３】
複製歯１２の咬合側縁部からの近心−遠心の鉛筆線の距離は、歯科医が使用する処置技術および歯科医が使用する歯列矯正器具の種類によって異なる。たとえば、複製歯１２の咬合側縁部からの鉛筆線の距離は、歯の種類によっても異なる。たとえば、複製前歯の咬合側縁部からの鉛筆線の距離は、複製犬歯および小臼歯の咬合側縁部からの鉛筆印の距離より短い場合がある。その他の種類のゲージ、たとえば３Ｍ Ｕｎｉｔｅｋが市販しているＤｏｕｇｈｅｒｔｙブラケット位置決めゲージを使用しても良い。
【００３４】
次に、固定要素１６は、転移トレーを使用して結合される各複製歯１２に一時的に固定する。図２では、固定要素１６は、複製大臼歯を除く各複製歯１２に固定した。各固定要素１６は、歯列矯正器具類似物１８と、各器具類似物１８に接続される固定アーム２０とを備える。間接結合のための３Ｍ Ｕｎｉｔｅｋ実験用接着剤（カタログ番号７０４−０５０）などのような接着剤を使用すると、器具類似物１８を複製歯１２に一時的に結合することができる。あるいは、機械的結合または保持具を使用して、以下に記載するように、トレーを作製する後続のステップ時に、器具類似物１８を対応する複製歯１２に取り外し可能に接続することができる。
【００３５】
各固定アーム２０は、側面から見てほぼＬ形構成を有し、関連する器具類似物１８から咬合側方向に延在する第１部分と、第１部分の咬合側端部から舌側方向に延在する第２部分とを備える。固定アーム２０の第１部分および第２部分はともに、固定要素１６を複製歯１２に固定する時に、対応する複製歯１２のそれぞれ頬唇側および咬合側から離間配置することが好ましい。
【００３６】
固定アーム２０は、非円形断面形状を有することが好ましい。図示の実施形態では、固定アームはほぼ「Ｔ」形構成を有する。矩形、「Ｘ」形、「Ｌ」形など、その他の断面構成を使用しても良い。好ましくは、器具類似物１８は、患者の対応する歯上に最終的に収容する歯列矯正器具の基部の近心−遠心寸法全体よりも近心−遠心方向（つまり、歯列弓の長さに沿って延在する方向）に大きい関連する複製歯１２に面する基部を有する。さらに、器具類似物１８は、好ましくは同じ器具の咬合側−歯肉側寸法全体よりも咬合側−歯肉側方向に大きい基部を有する。好ましくは、固定要素１６は、何度も再利用するのに適する材料、たとえば工具鋼などから作製する。
【００３７】
選択的に、器具類似物１８は、器具類似物１８を対応する各複製歯１２の唇側表面に以前に付けた近心−遠心および咬合側−歯肉側の鉛筆印に容易に整列させるために、罫書きマーク、塗料標示、印またはその他の特徴を有する。たとえば、固定要素１６を手で複製歯１２上に配置する場合、固定要素１６は、複製歯１２上に最初に配置した後、必要に応じてわずかに移動させて、罫書きマークまたはその他の印を複製歯１２上の鉛筆印と正確に整列させることができる。もう１つの選択肢として、固定要素１６は、複製歯１２の咬合側縁部に接触させるかまたは目視整列させるように考えられたタブまたはゲージを備え、タブを同じ複製歯の咬合側縁部に接触または整列させる時に、器具類似物１８を複製歯１２上の咬合側−歯肉側方向に正確に配置することができる。
【００３８】
代案として、その他の種類の配置装置を使用して、米国特許第４，４５５，１３７号および第４，８５０，８６４号に記載されている装置など、類似物１８を複製歯１２上に配置することができる。たとえば、類似物１８を取り外し可能に把持する携帯装置を使用することができる。こうした装置は、類似物１８を複製歯１２の正確な位置に配置するためのゲージまたは治具を備えることが好ましい。もう１つの実施例として、間接結合手順に有用な結合配置装置、たとえば米国特許第４，８１２，１１８号に記載されている装置を使用しても良い。
【００３９】
もう１つの代案のとして、図２ａに示すコンピュータ制御によるロボットアーム２１などのような自動化装置を使用して、関連する複製歯１２上に各固定要素１６を正確に配置する。この場合、ソフトウェアを使用して器具類似物１８の配置を決定することができるので、器具類似物１８を整列するために複製歯１２上に鉛筆印を使用するのを省略することができる。たとえば、ディジタル情報を使用して複製歯列弓１０を作製する場合、コンピュータを使用して、患者の歯上における各歯列矯正器具の理想的な位置を計算し、次に、ロボットアーム２１の移動を制御するための一連の命令としてこの情報を使用し、関連する複製歯１２の対応する選択された位置に器具類似物１８を配置する。あるいは、一連のロボットアームを使用して、以下に説明するトレーの作製ステップ時に、対応する複製歯１２に固定要素１６を取り外し可能に接続する。
【００４０】
器具類似物１８を複製歯１２に結合するか、さもなければ接続した後、少量のマトリックス材料を複製歯列弓１０および固定要素１６の一部分に塗布する。特に、マトリックス材料は、複製歯列弓１０および固定アーム２０の舌側に延在する第２部分に塗布するが、アーム２０の第１部分上または器具類似物１８上には塗布しないことが好ましい。図３は、固定要素１６を収容した複製歯１２、および隣接する複製大臼歯に塗布されたマトリックス材料を示す。次に、マトリックス材料を硬化させるか、または硬化させて放置し、転移トレー２２を形成する。
【００４１】
適切なマトリックス材料の例としては、液体または半流動体で後に硬化する材料、軟化して後に硬化するシート材料が挙げられる。あるいは、２層のマトリックス材料を使用する。つまり、下にある表面の正確な複製を提供する液体材料の第１層と、この層に続く半流動体またはパテの稠度を有する材料の第２層である。
【００４２】
選択的に、マトリックス材料は２つ以上の層を含んでも良いが、この場合、結果として得られる転移トレー２２は、内側層より剛性の外側層を有する。外側層は転移トレー２２に剛性を与えるが、より可撓性の内側層は、特に転移トレー２２が患者の歯列弓のアンダーカット領域内に収容される部分を含む場合、転移トレー２２を複製歯列弓１０から後に取り外すのを容易にする。
【００４３】
好ましくは、転移トレー２２は、複製歯列弓１０の長さに沿って延在するほぼ「Ｕ」形の溝を備える。トレー２２は、舌側部分と、頬唇側部分と、舌側部分と頬唇側部分とを相互に接続する咬合側部分とを備える。好ましくは、舌側部分と頬唇側部分はともに、複製軟組織に隣接する隣接面領域の少なくとも一部上を通過するのに十分な距離だけ歯肉側方向に延在する。これら領域は、多くの場合、転移トレー２２を患者の歯列弓に後に固定して連結するのに役立つアンダーカット領域および突出領域を備える。
【００４４】
図３に示すように、咬合部分２４は、複製歯１２の咬合側縁部から咬合方向に突出する。固定アーム２０の第２部分（つまり、唇側−舌側方向）は、咬合側部分２４に埋め込まれ、咬合側部分２４を完全に貫通して延在することが好ましい。好ましくは、固定アーム２０の第２部分を収容する咬合側部分２４の領域は、比較的剛性の材料から作製する。
【００４５】
好ましくは、転移トレー２２の頬唇側部分は、器具類似物１８の近心および遠心側に沿って延在する部分２６（図３）を備える。選択的に、必須ではないが、近心および遠心部分２６は、器具類似物１８の近心および遠心側に接触し、器具類似物１８の近心および遠心側の長さの少なくとも大部分に沿って歯肉側方向に延在する。さらに、近心および遠心部分２６の少なくとも一部は、器具類似物１８の歯肉側を越えて歯肉側方向に任意に延在しても良い。
【００４６】
次に、転移トレー２２および固定要素１６を複製歯列弓１０から取り外す。選択的に、固定要素１６は、転移トレー２２を複製歯列弓１０から分離する前に、転移トレー２２から取り外す。固定要素１６は、必要なら、アーム２０をマトリックス材料中に埋め込んで形成した通路からアーム２０が外れるまで、固定アーム２０の第２部分を頬唇側方向に摺動させて転移トレー２２から解放する。選択的に、固定アーム２０は、固定要素１６が通路内で摺動するのを容易にするために、フルオロポリマーなどのような低摩擦の潤滑性および／または剥離性材料から作製するか、またはこうした材料を塗布する。エアロゾールとして市販されており、固定アーム２０上に噴霧される適切な潤滑材料の一例は、Ｍｉｌｌｅｒ−Ｓｔｅｐｈｅｎｓｏｎから市販されているＭＳ−１２２フルオロカーボン剥離剤乾燥潤滑剤である。
【００４７】
次に、転移トレー２２は、過剰な材料を除去する必要に応じてトリミングする。選択的に、転移トレー２２は、以下の後続のステップを容易にするために、患者の上顎歯列弓の各四分区間に対応する２つの部分に切断する。その他の代案として、転移トレー２２は、さらに多数の部分に切断し、結果として得られる各部分は、患者の上顎歯列弓の１四分区間未満に相当する。転移トレー２２は、必要なら１つの歯のみに相当する小部分に選択的に切断しても良い。
【００４８】
次に、各固定要素１６を歯列矯正器具２８および支持体または支持アーム３０と置き換える。これらの２つの例を図４に示す。固定要素１６は、手動手順で、またはロボットアームなどを使用する自動化手順で器具２８と置き換える。図示の実施形態では、支持アーム３０は、図５および図６にさらに詳細に示す一対の可撓性支え金具３２により器具２８に取り外し可能に接続する。支え金具３２は、器具２８の咬合側および歯肉側連結ウィングの後のノッチにスナップ嵌合し、器具２８を支持アーム３０に取り外し可能に接続する。
【００４９】
選択的に、支持アーム３０は、器具２８を支持アーム３０に接続する時に、器具２８のアーチワイヤスロット内に収容されるスロット部分（図示しない）をさらに備える。スロット部分は、器具２８を安定させ、器具２８が支持アーム３０に対して過度に移動するのを妨げるのに役立つ。選択的に、スロット部分は、アーチワイヤスロットとの締り嵌め部分を有するか、または拡張してアーチワイヤスロット内に緊密に嵌合する可動部分を有するので、支え金具３２は省略することができる。
【００５０】
その他の結合構造は、あるいは、歯列矯正器具２８に支持アーム３０を取り外し可能に接続するために使用する。たとえば、支持アーム３０には、米国特許第５，４２９，２２９号に記載されているタイプの可撓性支え金具を備えることができる。あるいは、支持アーム３０は、器具２８の近心および遠心側を取り外し可能に固締する可動把持部を有する。もう１つの代案として、粘着性の稠度を有するか、および／または接着特性を示す物質を一時的な連結具として使用しても良い。その他の選択肢として、支持アーム３０および歯列矯正器具２８を脆性ウェブにより最初に一緒に一体結合しても良い。この脆性ウェブは、器具２８を患者の歯に結合した後に、たとえば屈曲または切断して破砕する。
【００５１】
次に、転移トレー２２は、複製歯１２に対応する患者の歯構造上に配置する。図４に示す実施例では、転移トレー２２は、歯３８を含む患者の上顎歯列弓３６上に配置した。
【００５２】
転移トレー２２を歯列弓３６上に配置する前、支持アーム３０は、器具２８の基部上の接着剤がトレー溝の頬唇側から頬唇側に位置するのを確実にするために、通路４０内に十分に引っ込める。その結果、接着剤は、転移トレー２２を配置する時に、患者の歯を汚したり、さもなければ患者の歯に接触したりせず、多くの従来の間接結合法に比べて明らかに有利である。転移トレー２２を所定の位置に配置すると、器具２８の基部上の影響を受けない接着剤は、支持アーム３０を舌側に移動した後の都合の良い時点で、患者の歯に接触させることができる。
【００５３】
好ましくは、転移トレー２２は、転移トレー２２が患者の歯３８に対して比較的不動であるように、患者の上顎歯列弓３６上に固定された状態で取り外し可能に収容される。この目的のため、上記のとおり、転移トレー２２のアンダーカット領域および突出領域は、上顎歯列弓３６上の転移トレー２２の不動化を促進する。さらに、転移トレー２２の近心および遠心部分２６は、器具２８に隣接して下にある歯構造に係合し、転移トレー２２の不動化をさらに促進する。
【００５４】
適切な歯列矯正結合接着剤は、各々の歯列矯正器具２８の基部に塗布される。適切な結合接着剤の例としては、３Ｍ Ｕｎｉｔｅｋが市販しているＴｒａｎｓｂｏｎｄ ＸＴまたはＴｒａｎｓｂｏｎｄ ＬＲなどのような光硬化性接着剤が挙げられる。もう１つに選択肢として、一緒に混合された時に硬化を開始する２成分化学硬化接着剤、たとえば３Ｍが市販しているＣｏｎｃｉｓｅブランドの接着剤が挙げられる。２成分接着剤を使用する場合、これら成分を一緒に混合してから器具２８に塗布する。あるいは、器具の基部が歯の表面の構成に密接に一致する場合、２成分接着剤の一方の成分を歯の表面に塗布し、他方の成分を器具２８に塗布して、器具２８を歯３８に対して圧迫した時に成分が混合されるようにする。適切な２成分接着剤の一例は、米国特許出願第０９／１２６，０６９号「Ｉｎｄｉｒｅｃｔ Ｂｏｎｄｉｎｇ Ｍｅｔｈｏｄ ａｎｄ Ａｄｈｅｓｉｖｅ ｆｏｒ Ｏｒｔｈｏｄｏｎｔｉｃ Ｔｒｅａｔｍｅｎｔ」（歯列矯正処置用の間接結合方法および接着剤）に記載されており、この特許出願は、本出願と共同所有され、引用することにより本明細書に包含する。接着剤または接着剤の成分は、任意の適切な方法、たとえば「バターを塗る」ような技法、ブラシで塗る、または拭い取るなどにより器具および／または歯の表面に塗布することができる。
【００５５】
図４は、転移トレー２２の咬合側部分２４を貫通して延在する通路４０を示す。通路４０は、上記のとおり以前にマトリックス材料中に埋め込まれた固定アーム２０の第２部分により形成されたものであり、固定アーム２０を転移トレー２２から分離すると咬合側部分２４に留まる。好ましくは、支持アーム３０は、舌側に延在する咬合部分を有し、この部分は、対応する固定アーム２０の第２部分の断面構成と同じ断面構成を有するので、支持アーム３０は通路４０内で長手方向に摺動可能であるが、側方に移動する（つまり、近心−遠心方向または咬合側−歯肉側方向に移動する）のを実質的に妨げられる。
【００５６】
好ましくは、支持アーム３０および関連する器具２０は、転移トレー２２を患者の上顎歯列弓３６上に配置する前に転移トレー２２に接続する。しかし、代案として、転移トレー２２は、先ず患者の歯列弓３６上に配置し、その後、支持アーム３０を個々の通路４０内に挿入することにより、各々の支持アーム３０を関連する器具２８とともにトレー２２に接続しても良い。
【００５７】
次に、器具２８は、好ましくは指圧を使用して支持アーム３０を舌側方向に摺動させることにより、患者の歯３８の頬唇側表面に結合する。有利なことに、指圧を使用すると触覚で感触を得ることができるので、歯科医は、十分な力で器具２８を患者の歯３８の表面にいつ着座させると、完全な結合を形成することができるかを決定することができる。触角による感触は、接着剤が適切な粘度を有し、十分な量だけ存在することを歯科医が確認するのにも役立つ。あるいは、しかし、機械的または空気圧式装置を使用して（たとえば、ピストンおよびシリンダ組立体またはソレノイド組立体）、アーム３０を舌側（および選択的に唇側）方向に移動させても良い。
【００５８】
好ましくは、十分な結合接着剤を塗布して、器具を歯の表面に圧迫する時に少量の接着剤が器具２８の４面すべてから押し出されるようにする。この方法では、接着剤中に小さい空隙または凹部が存在する可能性が実質的に減少する。こうした凹部および空隙が存在すると、器具２８と関連する歯３８との間の結合強度が低下するため、接着剤中の凹部および空隙を防ぐことが好ましい。凹部および空隙は、食品またはその他の残骸が集まる位置を形成して虫歯が生じる可能性もある。
【００５９】
上記のとおり、歯列矯正器具２８の基部の全体的な近心−遠心および咬合側−歯肉側の寸法は、器具類似物１８の対応する全体的な近心−遠心および咬合側−歯肉側の寸法よりも小さいことが好ましい。したがって、近心および遠心部分２６を含む転移トレー２２は、器具２８を歯３８の外面に押し付けて結合する時に、器具２８の隣接側から離間配置される。器具２８と転移トレー２２との間の間隔は、器具２８を歯３８方向に圧迫する時に、接着剤を器具２８の基部から自由に絞り出すことができる領域を提供し、歯科医が、接着剤を器具２８の少なくとも一方の側から少なくとも多少はみ出すのに十分な接着剤が存在することを目視で確認することを可能にする。
【００６０】
さらに、器具２８とトレー２２の隣接部分との間の空間は、器具２８の基部と歯３８との間の領域からはみ出した接着剤を一掃するのを容易にする。この空間は、歯科用の探針またはその他の工具が器具２８の側面すべてに沿って移動し、器具２８の縁部に隣接する歯の表面から過剰な接着剤を除去するのを可能にする。
【００６１】
光硬化性接着剤を使用して器具２８を歯３８に結合すると、接着剤を過度に早く硬化させなくても、歯科医の都合の良い時に過剰な接着剤を除去することができるという点で有利である。選択的に、光を接着剤に向けるのを容易にするため、転移トレー２２は化学線に対して透明または半透明である。器具２８と転移トレー２２との間の上記の空間も、光が接着剤に到達するのに役立つ。
【００６２】
選択的に、器具２８は、メーカーが塗布した光硬化性接着剤のコーティングを有する基部を有する。こうした接着剤を予め塗布された器具は、たとえば米国特許第５，０１５，１８０号、第５，１７２，８０９号、第５，３５４，１９９号および５，４２９，２９９号に記載されている。
【００６３】
器具２８は、ブラケット、頬側管などのような結合可能な歯列矯正装置で良い。器具２８は、金属（たとえばステンレス鋼）、セラミック（たとえば半透明の多結晶質アルミナもしくは半透明の単結晶アルミナ）、またはプラスチック（たとえば半透明のポリカーボネート）などのような適切な材料から作製する。適切な器具２８の例としては、本質的にすべての市販の直接結合ブラケットおよび頬側管、並びに特許文献を含む文献で公知の各種器具が挙げられる。
【００６４】
１つの選択肢として、転移トレー２２は、歯科技工所で作製するか、または患者の歯列弓を表す痕跡もしくは電子データファイルを受領後に歯列矯正器具メーカーが作製する。したがって、歯科技工所またはメーカーは、固定要素１６を何度も再利用することができる。転移トレー２２を作製した後、器具２８と、支持アーム３０と、転移トレー２２（またはトレー部分）とを組み立てて、単一のユニットとして歯列矯正医に出荷し、歯列矯正医の診療所でさらに準備する必要性が最小限であり、すぐに使用できるようにすることが好ましい。
【００６５】
好ましくは、支持アーム３０は、１回使用した後に処分することができるプラスチックなどのような比較的安価な材料から作製する。選択的に、固定アーム２０は支持アーム３０としても役立つ。この場合、固定アーム２０は器具類似物１８に取り外し可能に接続されるので、アーム２０は、器具２８などのような器具に取り外し可能に連結される。支持アーム３０に関連する様々な形態の上記の釈放自在な連結具を使用して、器具類似物１８を固定アーム２０に着脱自在に接続することができる。
【００６６】
もう１つの選択肢として、各固定アーム２０は多少異なる断面形状を有することができ、この場合、支持アーム３０と、固定アーム２０に関連する通路とは、類似して対応する断面形状を有する。たとえば、固定アーム２０の１つは矩形の断面形状を有し、別のアーム２０は、図４に示すようなほぼ「Ｔ」形構成を有するが、他の固定アーム２０は、断面図で「Ｘ」形構成または楕円形構成を有することができる。こうした異なる断面形状は、単一の転移トレー２２に関連して使用する場合、キーおよび嵌合するキー溝として機能し、各通路４０が支持アーム３０を確実に収容するのに役立つ。したがって、歯科医は確実に、正しい器具２８を対応する正しい歯３８に最終的に結合することができる。
【００６７】
選択的に、コンピュータを使用すると、歯３８を所望の位置に移動させるのに必要な個々の歯３８上における器具２８の正しい向きを計算するのに役立つ。こうした方法は、患者の顎に関連して咬合異常な歯の形状および位置を画定するディジタル情報を上記のように生成する場合に特に有用である。一例として、米国特許第５，０１１，４０５号に記載されている方法を使用すると、歯３８上における器具２８の正しい位置を計算することができる。こうした方法は、顎に配置された咬合異常歯の数学モデルをディジタル化情報から生成するステップと、咬合異常歯を移動させる顎内の最終的な位置をディジタル化情報から計算するステップとを選択的に含む。ディジタル情報は、必要なら特別注文の器具を作製するか、または標準の器具を変更して処置を容易にするために使用することができる。たとえば、特定の患者特有の特性、たとえば特定のトルクおよび／または角のある部分などを持つブラケットを作製することができる。さらに、ディジタル情報は、器具とともに使用するアーチワイヤを形成するために使用することができる。上記の自動化されたロボット機器は、こうした方法を実施する時に使用することができる。
【００６８】
もう１つの代案として、上記のように患者の顎に関する咬合異常歯の形状および位置を画定するディジタル情報は、転移トレー（転移トレー２２など）またはトレー部分を作製するために使用することができ、物理的な複製歯列弓１０を作製する必要がない。この代替実施形態により、ディジタル化情報をたとえば立体石版印刷装置と関連して使用すると、患者の歯列弓もしくは歯列弓断片を表すディジタルデータにより、またはコンピュータで作製した仮想複製歯列弓もしくは歯列弓断片により決定した患者の歯列弓の形状を補完する溝を備える転移トレー２２を特別に作製することができる。図７に示す主取付具４２は、転移トレー２２を作製するときにコンピュータプログラムで決定された所望の向きに個々の固定要素（固定要素１６など）または器具を支持するために設けられる。この方法では、器具類似物（類似物１８など）の使用は任意であり、あるいは器具２８を取り外し可能に支持する支持アーム３０を、転移トレー２２を作製する時に転移トレー２２に埋め込むことができる。選択的に、主取付具４２は、可動ロボットアーム４４の配列を備え、各々のアームは、ディジタルデータに従って、または効果的な歯列矯正処置に最適な向きを決定するソフトウェアにより、器具または器具類似物の１つを他の器具または器具類似物に対して特定の向きに保持する。
【００６９】
さらに他の代案として、患者の顎に関する咬合異常歯の形状および位置を画定するディジタルデータを使用して転移トレー（トレー２２など）またはトレー断片を作製し、物理的な複製歯列弓１０を作製する必要がなく、トレーまたはトレー断片を作製する時に、固定アーム（アーム２０）または支持アーム（アーム３０）をマトリックス材料中に埋め込む必要もない。この代案では、立体石版印刷装置を使用して、トレーまたはトレー断片を特別に作製し、通路（通路４０など）も作製する。選択的に、通路は、たとえば機械加工工程を使用して後続のステップで、トレーまたはトレー断片として切断される。トレーまたはトレー断片を作製したら、手または自動化工程で支持アームを通路内に挿入する。
【００７０】
さらに、転移トレーは、必ずしも、下にある患者の歯構造のすべてに完全に一致する必要はない。たとえば、トレーは、特定の離間配置された領域でのみ歯構造に接触して良い。こうした部分的な接触は、これら領域が、歯科医が過度に努力しなくても、トレーを口腔内の正しい向きに確実に配置するのに十分なサイズおよび構成であれば十分である。
【００７１】
様々な実施形態における上記方法は、水平歯列弓技術および歯科医が選ぶその他の技術に使用することができる。選択的に、器具およびアーチワイヤは、上記のディジタル情報をある程度使用して特別に作製するか、または「標準」器具およびアーチワイヤの集合から選択することができる。選択的に、最適な器具およびアーチワイヤの自動化選択は、市販の在庫製品から作製する。
【００７２】
接着剤が、下にある歯３８に器具２８を結合するのに十分に硬化した後、支持アーム３０を頬唇側方向に移動させて器具２８を外す。こうした移動時、支え金具３２は外側に歪み、スロット部分（存在する場合）は器具２８のアーチワイヤスロットを離脱させて、器具２８が支持アーム３０から外れるのを可能にする。選択的に、支持アーム３０は、転移トレー２２を患者の口腔から取り出す前に、転移トレー２２から引っ込めて取り外すことができる。もう１つの代案として、支持アーム３０は、転移トレー２２を口腔から取り出す際に、転移トレー２２に接続された状態を保つことができる。
【００７３】
上記の方法は、患者の上顎歯列弓の歯列矯正処置に関連して説明してきたが、下顎歯列弓の処置にも使用することができる。上記実施形態のその他の変形例および変更例も使用することができる。したがって、本発明は、上記に詳細に記載する現在好ましい実施形態に限定されると考えるべきではなく、以下の公正な請求の範囲およびこれと等価なものによってのみ限定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の一態様による歯列矯正ブラケットを結合する方法を部分的に行うのに有用な患者の上顎歯列弓の具体的な複製の側立面図である。
【図２】 説明のために固定要素が複製の歯のいくつかに接続されている点を除いて、図１に類似する図である。
【図２ａ】 ロボットアームを使用して固定要素を複製歯上に配置する点を除いて、図２に類似する図である。
【図３】 転移トレーを作製するために、多量のマトリックス材料がいくつかの複製歯上、および固定要素のアーム断片上に配置されている点を除いて、図２に類似する図である。
【図４】 部分的に略した形態で示す患者の上顎および下顎歯列弓の側立面図であって、図３に示す転移トレーが患者の上顎歯列弓の歯構造上に配置されており、図３に示す固定要素が取り外されて、場合によって、模範的な歯列矯正ブラケットおよびブラケットに接続された支持アームと置き換えられている。
【図５】 図４に示す歯列矯正器具の１つおよび関連する支持アームの部分の拡大側立面図である。
【図６】 器具の咬合側に向かって見た図５に示す器具および支持アームの拡大平面図である。
【図７】 本発明の代替実施形態による固定要素または歯列矯正器具を支持するための主取付具を示す略図である。

Claims (1)

1. 歯列矯正患者のための転移トレー組立体を作製する方法であって、
   複製歯上で互いに離れた選択された位置に、少なくとも２つの歯列矯正器具と少なくとも２つの器具類似物とのいずれか一方を支持するステップと、
   前記少なくとも２つの歯列矯正器具と少なくとも２つの器具類似物とのいずれか一方の各々に、対応するアームを連結するステップと、
   前記アームの各々の一部分の上に該アームと接触するようにマトリックス材料を配置してそれらアームを一体的に接続するステップであって、該配置したマトリックス材料の少なくとも一部分が、歯列矯正患者の歯列弓の少なくとも一部分に適合する形状を有するステップと、
   前記マトリックス材料を硬化させてトレーを形成するステップと、
   前記マトリックス材料が硬化した後、該マトリックス材料と当接する摺動によって前記アームの各々を前記トレーに対して摺動させるステップと、
   を含むことを特徴とする方法。

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