JP4230064B2 - 熱可塑性植物繊維マットの成形方法 - Google Patents

熱可塑性植物繊維マットの成形方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、熱可塑性植物繊維マットの成形方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、植物性繊維(例えば一年草繊維)と熱可塑性樹脂系繊維(例えばポリプロピレン繊維)を混合し抄造して得たマット(熱可塑性植物繊維マット)に表皮材を付着して所定の立体的な形状に成形する方法として、次のような方法がある。
まず、マットに接着剤を塗布し、そのマットを加熱する。加熱方法としては、輻射型ヒータを使用する場合や、熱風加熱炉を使用する場合がある。ポリプロピレンの軟化温度が約160℃のところ、マットの温度が180〜220℃になるまで加熱する。
【0003】
次に、表皮材をマット(接着剤の塗布された側)に重ね合わせるようにして、冷間プレスを行う。すなわち、成形する形状に対応した形状を有する低温の下型と上型によってマット及び表皮材をプレスする。その際、マットの温度は70℃以下となるように冷却するとともに、その成形圧力は5〜20kg/cmとする。また、上型と下型との間の間隔(クリアランス)はすべての部分において同一である。
こうして、表皮材を有し所定の立体的な形状に成形されたマットが得られる。マットの密度は、例えば0.6〜0.8g/cmとなるようにされる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、発明者の研究により、上記成形方法には次のような欠点が存在することが判明した。
すなわち、マットを加熱する工程において、その熱によってポリプロピレン繊維がシュリンクし、その結果、一年草繊維とのポリプロピレン繊維との間の十分な接着ができず、成形されたマットにおいて十分な剛性を得ることができない。
【0005】
また、平面上のマットから立体的な形状となるようにプレス成形することから、材料が余剰となる部分や材料が不足する部分が生じる。そして、特に、深い立体形状にプレス成形する場合は、材料が余剰となる部分にはシワが生じ、材料が不足する部分にはいわゆるスケが生じる。スケとは、マットの伸びの限界を超え、マットが空疎状となることをいう。このように、マットの外観が良くないものとなるとともに、マットの強度も弱いものとなる。
【0006】
そこで、本発明は、マットの成形工程において熱可塑性樹脂系繊維のシュリンクを防止し、剛性の高いマットを成形できる方法を提供することを課題とする。また、マットの成形工程において、シワやスケの発生を防止できる方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、植物性繊維と熱可塑性樹脂系繊維を主成分とする熱可塑性植物繊維マットを所定の形状に成形する方法であって、前記熱可塑性植物繊維マットを熱風によって前記熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度以下の温度に加熱する熱風加熱工程と、前記熱可塑性植物繊維マットを熱間プレスして前記熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも高い温度として、当該熱可塑性植物繊維マットを最終的成形形状に近い形状に成形する予備的成形工程と、前記熱可塑性植物繊維マットを冷間プレスして最終的成形形状に成形する最終的成形工程とを有する。
【0008】
この発明の方法によれば、熱風加熱工程において熱可塑性植物繊維マットが均一に高温状態(軟化温度以下のため、熱可塑性樹脂系繊維は本来的にシュリンクしない)となり、予備的成形工程において加圧状態で高温とされることによって、熱可塑性植物繊維マット中の熱可塑性樹脂系繊維がシュリンクすることなく最終的成形形状に近い形状に成形される。その際、熱風加熱工程において均一に高温状態とされているため、予備的成形工程においてもほぼ均一な高温状態が容易に得られる。その後、最終的成形工程において、最終的成形形状に成形される。
【0009】
すなわち、本発明者は、加圧状態では熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも高い温度にしても、その熱可塑性樹脂系繊維はシュリンクしないことを見出したのであり、この発明では、熱可塑性樹脂系繊維がシュリンクすることなく、その熱可塑性樹脂系繊維と植物性繊維とが十分接着した状態で成形されるため、成形されたマットに高い剛性が得られる。
また、予備的成形をした後に最終的成形がされるため、高温状態の予備的成形の際に材料の移動が生じ、材料に無理なく成形が行われ、成形されたマットにシワやスケが生ずることが防止される。
【0010】
なお、熱風加熱工程における「熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度以下の温度」としては、0〜40℃低い温度(同一の温度を含む)が考えられる。その中でも、その下限(実際の温度としては上限)としては0℃よりも10℃がさらに好ましく、上限(実際の温度としては下限)としては40℃よりも20℃がさらに好ましい。すなわち、最も好ましいのは10〜20℃低い温度である。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の方法であって、前記予備的成形工程において、前記熱可塑性植物繊維マットを5〜25kg/cmの圧力でプレスして、前記熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも20〜40℃高い温度にするものである。
【0012】
この発明によれば、請求項1に係る発明の効果が確実に得られる。すなわち、この数値範囲が、熱可塑性樹脂系繊維のシュリンクが生じず、熱可塑性樹脂系繊維と植物性繊維が十分接着し、材料の移動が生じつつ成形されるという作用を同時に得るのに適した範囲なのである。なお、「20〜40℃」とは、20℃及び40℃も含むものである。他においても同様である。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係る発明の方法であって、前記予備的成形工程において、前記熱可塑性植物繊維マットの材料余剰部における当該プレスを行う両型の間のクリアランスが、他の部分における同クリアランスよりも大きく設定されているものである。
【0014】
ここで、「材料余剰部」とは、仮に両型のクリアランスが一様の場合(特に材料の移動が生じない場合)、材料に余剰が生じてシワが発生する可能性が高い部分のことをいう。
【0015】
この発明によれば、材料余剰部において両型の間のクリアランスが他の部分よりも大きいため、仮にクリアランスが一様の場合に余剰となる材料が、そのクリアランスに吸収され、シワが生じることが防止される。すなわち、請求項1又は請求項2に係る発明よりもさらにシワの発生を有効に防止できるのである。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明の方法であって、前記最終的成形工程において、前記熱可塑性植物繊維マットの材料余剰部における当該プレスを行う両型の間のクリアランスが、他の部分における同クリアランスよりも大きく設定されているものである。
【0017】
請求項3に係る発明の方法においては、予備的成形工程において、材料余剰部において余剰となる材料を他の部分よりも大きなクリアランスによって吸収しシワの発生を防止したのである。このため、材料余剰部においては、材料(熱可塑性植物繊維マット)の目付量(単位面積あたりの質量)が他の部分よりも大きなものとなっている。
そして、この発明では、最終的成形工程においても、材料余剰部における両型の間のクリアランスが他の部分よりも大きい。このため、仮に最終的成形後においてクリアランスが一様の場合よりも、材料余剰部における密度と他の部分における密度の差が小さなものとなり、製品(成形された熱可塑性植物繊維マット)の品質が高いものとなる。
なお、この発明の一例として、材料余剰部とその他の部分における密度がほぼ同一となるように、材料余剰部とその他の部分における両型の間のクリアランスを設定する場合が考えられる。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
所定の大きさの平板状の熱可塑性植物繊維マット(以下、単にマットともいう)Mを用意する。
熱可塑性植物繊維マットとは、植物性繊維と熱可塑性樹脂系繊維を混合し抄造して得たマットである。その他の原料が混合されていてもよい。
植物性繊維とは、植物由来繊維であり、その原料としては木材系,草木系を問わない。例えば、一年草繊維や木質パルプが考えられる。
熱可塑性樹脂系繊維とは、熱可塑性樹脂を含有する繊維である。熱可塑性樹脂の例として、ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート等がある。2種類以上の熱可塑性樹脂を組み合わせてもよい。
植物性繊維は5重量%〜80重量%が好ましく、熱可塑性樹脂系繊維は20重量%〜40重量%が好ましい。
【0019】
例えば、図1に示すような最終的形状に成形する場合を説明する。この例における最終的形状は、テーパ状角筒部10を有し、テーパ状角筒部10の下部につば部12が設けられ、テーパ状角筒部10の上部には、縁部が高くそれ以外の部分が凹んだ凹状上板部14が設けられた形状である。前述した従来の方法で成形すると、つば部12のうち、テーパ状角筒部の近傍部分において、シワWが発生する。これは、その部分において材料が余るためであり、このように、従来の方法ではシワWが発生する可能性の高い部分が、材料余剰部である。本実施形態では、このようなシワWが発生しないように成形するのである。
【0020】
まず、上記のマットMを熱風によって加熱する。
図2に示すように、マットMを熱風炉20に収容し、マットMを熱風が通過させるようにして、マットMを加熱する。こうして、マットMを、マットM中の熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも10〜20℃低い温度にする。例えば、ポリプロピレンの場合は、軟化温度が160℃であるため、150〜170℃の熱風によって加熱し、そのマットMが140〜150℃になるようにする。ポリエチレン(軟化温度130℃)の場合は、110℃〜120℃になるようにする。ポリエチレンテレフタレート(軟化温度210℃)の場合、190〜200℃になるようにする。熱風を通過させるようにして加熱するため、ヒータ等で加熱する場合と比較して、迅速にかつ一様に高温にすることができる。
【0021】
このように、熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも10〜20℃低い温度まで高温としておくことによって、熱可塑性樹脂系繊維は本来的にシュリンクすることがないとともに、次の予備的成形において容易にほぼ均一な高温状態とすることができるのである。
【0022】
次に、熱間プレスを行って予備的成形をする。
すなわち、図3に示すように、最終的な成形形状に近い形状に対応する高温の下型30と上型32によってマットMをプレスして、予備的形状に成形する。この場合、予備的形状とは、テーパ状角筒部11の下部につば部13が設けられ、テーパ状角筒部の上部に平板状の上板部15が設けられた形状である。肉厚も最終的な成形後よりも若干厚いものである。
【0023】
両型30,32間の圧力は5〜25kg/cm である。そして、マットMが、マットM中の熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも20〜40℃高い温度となるようにする。ポリプロピレン(軟化温度160℃)の場合は180〜200℃であり、ポリエチレン(軟化温度130℃)の場合は150〜170℃であり、ポリエチレンテレフタレート(軟化温度210℃)の場合は、230〜250℃である。
このように、プレス状態において、マットMをマットM中の熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも高い温度とすることによって、その熱可塑性樹脂系繊維はシュリンクすることなく、その熱可塑性樹脂系繊維と植物性繊維とが十分接着し、両型30,32の形状に沿った形状に成形される。また、その際、両型30,32の間において、高温となった材料の移動が生じる。
【0024】
プレス状態における両型30,32の間のクリアランス(間隔)tは、次のようにする。例えば、図5に示すように、一般の部分MO(材料余剰部ME以外の部分のことをこのようにいうこととする)ではt=1.25mmとし、材料余剰部MEではt=5mmとする。このように材料余剰部MEにおけるクリアランスを一般の部分MOよりも大きくすることによって、余剰となる材料がそのクリアランスに吸収され、シワの発生が防止される。同時に、材料余剰部MEにおけるプレス圧力よりも一般の部分MOにおけるプレス圧力の方が大きいことから、一般の部分MOから材料余剰部MEへ材料が移動する。そして、例えば、目付量(単位面積あたりの質量)が、一般の部分MOにおいて0.5kg/m,材料余剰部MEにおいて1kg/mとなったとする。その際の密度(単位体積あたりの質量)は、一般の部分MOにおいて0.4g/cm,材料余剰部MEにおいて0.2g/cmとなる。
すなわち、材料余剰部MEのクリアランスは、余剰となる材料を吸収する分と、他の部分から材料が移動してくる分を考慮して、一般の部分MOよりも大きなものとするのである。
【0025】
なお、最終的な成形状態において、製品として表(おもて)になる面(意匠面という)が所定の面を形成し(図中において平面状となるように成形し)、一般の部分MOと材料余剰部MEのクリアランスの差に基づく凹凸は、意匠面とは反対側の面に現れるようにする。
【0026】
次に、冷間プレスを行って最終的成形する。
すなわち、図4に示すように、最終的な成形形状に対応した形状の低温の下型40と上型42によってマットMをプレスする。マットMが、マットM中の熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度の半分以下の温度となるようにする。すなわち、ポリプロピレン(軟化温度160℃)の場合は80℃以下、ポリエチレン(軟化温度130℃)の場合は65℃以下、ポリエチレンテレフタレート(軟化温度210℃)の場合は、105℃以下にする。
これによって、マットMが所定の形状にされつつ、熱可塑性樹脂系繊維が硬化してマットMが所定の最終的な形状に保持される。
【0027】
プレス状態における両型40,42の間のクリアランス(間隔)tは、次のようにする。すなわち、最終成形後において、一般の部分MOも材料余剰部MEも密度がほぼ同一となるようにする。予備的成形された後において最終的な冷間プレスされる際にはほとんど材料の移動が生じない(すなわち、目付量は不変である)ことを考慮して、設定する。
【0028】
例えば、上述のように熱間プレスされた後においては、図6に示すように、クリアランスは、一般の部分MOにおいてt=1mmとし、材料余剰部MEにおいてt=2mmとする。このようにして、冷間プレスすることによって、目付量は、一般の部分MOにおいて、一般の部分MOにおいて0.5kg/m,材料余剰部MEにおいて1kg/mのまま、密度は、一般の部分MOにおいても材料余剰部MEにおいても0.5g/cmとなる。このようにして、すべての部位における密度がほぼ同一のものとなる。
【0029】
なお、例えば、予備的成形によって、密度が、一般の部分MOにおいても材料余剰部MEにおいても0.4g/cmと同一になった場合は、例えば、冷間プレスにおける両型40,42の間のクリアランスtは、一般の部分MOにおいてはt=1mm,材料余剰部MEにおいてはt=4mmとする。これによって、密度は、一般の部分MOにおいても、材料余剰部MEにおいても0.5g/cmとなる。
【0030】
このように、予備的成形において、一般の部分MOよりも材料余剰部MEにおけるクリアランスが大きな状態で熱間プレスし、その結果に基づいて、最終的成形におけるクリアランスを設定する。
すなわち、適切と思われるクリアランスで一回又は数回の予備的成形し、その後の密度のデータに基づいて最終的成形の際のクリアランスを設定するのである。こうして求められたクリアランスを用いて予備的成形及び最終的成形を行うのである。
【0031】
以上のように、上記の方法によれば、予備的成形時に熱間プレスされることによって熱可塑性樹脂系繊維がシュリンクすることなく熱可塑性樹脂系繊維と植物性繊維とが接着し、その状態で、その熱可塑性樹脂系繊維が最終的成形時の冷間プレスによって硬化するため、成形されたマットMの剛性は高いものとなる。
また、熱間プレスによって予備的成形される際に高温の材料が両型30,32間において移動し、そのマットMが冷間プレスによって最終的成形されるため、まず基本的に、その成形されたマットMにシワやスケが発生することが防止される。
さらに、熱間プレスによる予備的成形時に、材料余剰部MEにおける両型30,32間のクリアランスが他の一般の部分MOよりも大きくされているために、余剰となる材料がそれによって吸収され、最終的に、その部分におけるシワの発生がより効果的に防止されるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態において成形されるマット(最終的な成形形状)を示す斜視図である。従来の成形方法において発生するシワも示されている。
【図2】本発明の一実施形態の方法の一工程を示す図である。熱風加熱工程を示す。
【図3】本発明の一実施形態の方法の一工程を示す断面図である。予備的成形工程を示す。
【図4】本発明の一実施形態の方法の一工程を示す断面図である。最終的成形工程を示す。
【図5】図3の要部の拡大図である。
【図6】図4の要部の拡大図である。
【符号の説明】
30 下型
32 上型
40 下型
42 上型
M 熱可塑性植物繊維マット
ME 材料余剰部
MO 一般の部分

Claims (4)

  1. 植物性繊維と熱可塑性樹脂系繊維を主成分とする熱可塑性植物繊維マットを所定の形状に成形する方法であって、
    前記熱可塑性植物繊維マットを熱風によって前記熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度以下の温度に加熱する熱風加熱工程と、
    前記熱可塑性植物繊維マットを熱間プレスして前記熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも高い温度として、当該熱可塑性植物繊維マットを最終的成形形状に近い形状に成形する予備的成形工程と、
    前記熱可塑性植物繊維マットを冷間プレスして最終的成形形状に成形する最終的成形工程と
    を有する、熱可塑性植物繊維マットの成形方法。
  2. 請求項1に記載の方法であって、
    前記予備的成形工程において、前記熱可塑性植物繊維マットを5〜25kg/cmの圧力でプレスして、前記熱可塑性樹脂系繊維の軟化温度よりも20〜40℃高い温度にする、熱可塑性植物繊維マットの成形方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の方法であって、
    前記予備的成形工程において、前記熱可塑性植物繊維マットの材料余剰部における当該プレスを行う両型の間のクリアランスが、他の部分における同クリアランスよりも大きく設定されている、熱可塑性植物繊維マットの成形方法。
  4. 請求項3に記載の方法であって、
    前記最終的成形工程において、前記熱可塑性植物繊維マットの材料余剰部における当該プレスを行う両型の間のクリアランスが、他の部分における同クリアランスよりも大きく設定されている、熱可塑性植物繊維マットの成形方法。
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