JP4229716B2 - 塩素化芳香族化合物の製造方法 - Google Patents

塩素化芳香族化合物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は芳香族置換アルコール化合物から簡便な方法で効率よく高品質の塩素化芳香族化合物を得る新規な製造方法である。
【0002】
【従来の技術】
ジクミルクロライド(p−Cl(CH3)2CC64C(CH32Cl)のような塩素化芳香族化合物は末端官能性ポリイソブチレン、あるいはポリイソブチレンをブロック成分とするブロック共重合体、例えばスチレン−イソブチレン−スチレン共重合体等をカチオン重合して製造する際の開始剤として用いられることが知られている(特許文献1)。
【0003】
このような開始剤を合成するには氷冷下、1,4−ビス(イソプロペニル)ベンゼン、1,4−CH2=C(CH3)C64C(CH3)=CH2、に塩化水素を付加する反応(非特許文献1)及び氷冷下、1、4−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン、1,4−HO(CH32CC64C(CH32OH、の溶液に塩化水素を作用させる反応(非特許文献2)が知られている。この他にクミルクロライドの合成方法としてはイソプロピルベンゼン1,4−H(CH32CC64C(CH32H、に太陽光照射下、塩素ガスを作用する反応(非特許文献3)等がある。
【0004】
しかしながら、これまでの方法では塩素化の試薬として塩化水素あるいは塩素等のガスを使用しているため、製造の際には気−液反応となることから撹拌効率等の反応条件が大きく収率に影響することや、化学量論的にも大過剰の塩素化試薬を必要としているという問題がある。更に反応温度も氷冷が必要であり、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0005】
本発明者らは1,4−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン、1,4−HO(CH32CC64C(CH32OH、などのアルコール化合物に塩酸水を作用させることにより高収率かつ簡便にジクミルクロライド等を製造する方法を見いだしている(特許文献2、特許文献3)。しかしながら、塩酸水との接触により塩素化反応と同時に脱塩酸などの副反応も一部進行するため、得られた開始剤はカチオン重合の開始剤純度としては不十分なものであった。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第4276394号明細書
【0007】
【特許文献2】
特開平8−291090号公報
【0008】
【特許文献3】
特開平10−175892号公報
【0009】
【非特許文献1】
O.Nuyken,S.D.Pask,A.Vischer and M.Walter,Makromol.Chem.,186,173−190(1985)
【0010】
【非特許文献2】
V.S.C.Chang and J.P.Kennedy,Polymer Bulletin,4,513−520(1981)
【0011】
【非特許文献3】
M.S.Kharasch and H.C.Brown,J.Am.Chem.Soc.,61,2142(1939)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題はカチオン重合の開始剤として用いることができるような高品質のジクミルクロライド等のさらに効率的な塩素化芳香族化合物の製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明者らは芳香族置換アルコール化合物を塩素化試薬として塩酸水を作用させることにより塩素化芳香族化合物を合成し、さらに水相と分離した有機相に塩化水素ガスを接触させることにより高純度化する製造方法について、鋭意検討した結果、有機相中に残留する未反応の塩化水素ガスを塩酸水と接触させることにより除去する方法を見いだし、本発明を完成するにいたった。
【0014】
すなわち本発明は、一般式(1):
Ar(CR12OH)n (1)
(式中、Arはn価の芳香環基、R1、R2は置換または非置換の一価の脂肪族炭化水素基を示し、それらは同じであっても異なっていてもよい、nは1〜5の整数)で表される化合物を有機溶剤および塩酸水存在下で反応させた後、水相と分離した有機相に塩化水素ガスを接触させ、
一般式(2):
Ar(CR12Cl)n (2)
(式中、Ar,R1、R2、nは前記と同じ)で表される塩素化芳香族化合物を得るにあたって、塩化水素ガスを接触させた後の有機相に塩酸水を接触させることにより有機相中の塩化水素ガスを除去することを特徴とする塩素化芳香族化合物の製造方法に関するものである。
【0015】
好ましい実施態様としては、前記有機溶剤が、飽和炭化水素、ハロゲン化炭化水素あるいは芳香族炭化水素であることを特徴とする塩素化芳香族化合物の製造方法に関する。
【0016】
好ましい実施態様としては、前記有機溶剤が、ペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ノルボルネン、エチルシクロヘキサン、塩化メチレン、ブチルクロライド、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする塩素化芳香族化合物の製造方法に関する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の一般式(1)および(2)で示される化合物において、Arで示される芳香環基の例としては、C65−、p−C64−、m−C64−、o−C64−、1,3,5−C63−基等を挙げることができる。R1、R2としては、メチル基、エチル基等の炭化水素基があげられ、これらは塩素原子のような置換基を有していてもよい。
【0018】
本発明の一般式(1)で示される芳香族置換アルコール化合物の具体例としては、(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン C65C(CH32OH、1,4−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン 1,4−HO(CH32CC64C(CH32OH、1,3−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン 1,3−HO(CH32CC64C(CH32OH、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン 1,3,5−((C(CH32OH)363、1,3−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン 1,3−((HOC(CH322−5−(C(CH33)C63などが挙げられる。
【0019】
本発明の一般式(2)で示される塩素化芳香族化合物の具体例としては、(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン C65C(CH32Cl、1,4−ビス(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン 1,4−Cl(CH32CC64C(CH32Cl、1,3−ビス(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン 1,3−Cl(CH32CC64C(CH32Cl、1,3,5−トリス(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン 1,3,5−(C(CH32Cl)363、1,3−ビス(2−クロル−2−プロピル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン 1,3−(C(CH32Cl)2−5−(C(CH33)C63などが挙げられる。
【0020】
本発明においては通常、有機溶剤とアルコール化合物との混合物中に塩酸水を加えて撹拌を行うことにより塩素化芳香族化合物を製造するが、添加順序は製造上の制約等の必要に応じて変更することができる。生成した目的化合物は有機溶媒に溶解することで、結果として目的化合物を含む有機相と塩酸水の水相が存在することになるが、必要なのは有機相のみであることから、この有機相と塩酸水の水相を分離する。
【0021】
この芳香族置換アルコールに塩酸水を作用させる塩素化反応において、副反応が発生しイソプロペニル基などのオレフィンが生成する。この副生成物による純度低下は、カチオン重合の開始剤に使用された場合に、重合物の品質低下をもたらす。この塩素化された化合物の溶液に塩化水素ガスを接触させることにより、副生成物のオレフィンを塩素化することができ、純度を向上させることができる。
【0022】
一方で、未反応の塩化水素ガスが溶液中に多量に存在すると、カチオン重合の開始剤に使用された場合に、開始剤溶液として塩化水素ガスが重合反応系内に加えられることとなり分子量分布が拡がるなどの悪影響を与えるため、重合用開始剤として使用するためには溶液中から塩化水素ガスを除去しておく必要がある。そこで本発明では、有機相として得られる塩素化芳香族化合物の溶液と塩酸水を接触させ化合物溶液中から塩化水素ガスを除去することにより、効率的に良好な重合品質を与える塩素化芳香族化合物のカチオン重合用開始剤を得られることを見いだし本発明に至った。またこの溶液は、特別に精製することなく重合用開始剤として使用できる。
【0023】
本反応で用いる有機溶剤としては、従来公知のものであれば特に制限無く使用することができるが、例えばペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ノルボルネン、エチルシクロヘキサン等の飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、クロロエタン、ジクロロエタン、プロピルクロライド、ブチルクロライド等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、HMPAなどを使用することが可能である。
【0024】
このうち、工業的利用がし易いという理由から、飽和炭化水素、ハロゲン化炭化水素あるいは芳香族炭化水素が好ましく、ペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ノルボルネン、エチルシクロヘキサン、塩化メチレン、ブチルクロライド、ベンゼン、トルエン、キシレン、およびエチルベンゼンがさらに好ましい。
【0025】
本発明において、塩酸水および塩化水素ガスとの接触および塩化水素ガス除去操作の温度は、通常0〜40℃が好ましく、反応速度および目的物質の安定性の点から10〜35℃がさらに好ましい。
【0026】
この際に用いる有機溶剤量としては特に制限されるものでは無いが、その後の取り扱い上の観点で芳香族置換アルコールに対して有機溶剤量が重量比で1〜100倍が好ましく、3〜10倍がさらに好ましい。
【0027】
本発明において、塩化水素ガス除去に用いる塩酸水は塩化水素ガスを吸収した後に、塩酸水重量を100とした場合の塩酸成分が27重量%以上となる量を使用することが好ましい。なかでも33重量%以上までの範囲が特に好ましい。ガス吸収後の塩酸水濃度が低い場合、塩素化芳香族化合物末端の再オレフィン化などが起こりやすく純度低下を招くためである。また有機相中の塩化水素ガスを塩酸水に吸収することで、芳香族置換アルコールの塩素化試薬の塩酸水として再利用が可能となり、コストダウン効果も期待できる。
【0028】
【実施例】
以下に、具体的な実施例を示すが、下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
セパラブルフラスコ内にp−ジオールとして1,4−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン(三井化学工業(株)製)14g、トルエン81.4gを添加した。ピッチドパドルで撹拌しながら、36.2重量%塩酸水160gを添加し室温で90分撹拌した。静置分離の後、有機相と水相ともに透明となった。水相と分離した有機相をマグネティックスターラーで撹拌しながら室温で塩化水素ガスを90分間バブリングした。その後、25重量%の塩酸水2.8gを添加して10分間撹拌し、5分間静置した後パスツールピペットを用いて水相を除去することにより有機相と水相を分離した。塩化水素ガス抽出後の水相の塩酸濃度は36.5重量%であった。有機相としてカチオン重合用開始剤である1,4−ビス(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン(p−DCC)を17.0重量%含むトルエン溶液を得た。
【0030】
塩酸水濃度は中和滴定により求めた。精秤した塩酸水2gを純水で希釈し、これにフェノールフタレイン溶液を添加して1N―水酸化ナトリウム水溶液で滴定した。
【0031】
このp−DCCを含むトルエン溶液を所定量秤量し、特別な精製処理を加えずそのまま重合用開始剤として使用した。
【0032】
反応容器にトルエン750mL、エチルシクロヘキサン250mL、イソブチレンモノマー532mL(5.69モル)、p−DCCのトルエン溶液32.1g(p−DCCとして0.232モル)、ピコリン0.79g(0.0085モル)、テトラヒドロフラン0.95mL(0.012モル)を仕込んだ。反応容器の外周部にドライアイス−エタノール浴をおいて攪拌混合しながら温度を−70℃とした。TiC14を11.7mL(0.106モル)反応容器へ添加することによって反応を開始した。重合反応終了後に、官能基を導入するためアリルトリメチルシラン8.47mL(0.0534モル)を添加した。反応終了後に反応液を大量の水中へ注ぎ込んで攪拌することによって洗浄し、有機相と水相を分離して触媒を除去した。エバポレーション操作で有機相の揮発成分を除去して重合体製品を得た。
【0033】
GPC分析によって重合体製品の分子量とその分布を測定した結果は、数平均分子量Mn=16880、分布Mw/Mn=1.19(Mw:重量平均分子量)であり分子量分布の狭い良好な重合体を得た。
【0034】
(実施例2)
実施例1において、塩酸ガス除去に使用する塩酸水濃度を31.9重量%とし、塩酸水添加量を28gとしたこと以外は同様の反応によりp−DCCを合成した。塩化水素ガス除去後の塩酸水濃度は32.8重量%であった。実施例1と同様に、得られた有機相よりパスツールピペットを用いて水相を分離した。特に精製処理を加えることなく、この溶液を所定量秤量し実施例1と同様の重合反応を実施した。
【0035】
GPC分析によって重合体製品の分子量とその分布を測定した結果、数平均分子量Mn=16893、分布Mw/Mn=1.25(Mw:重量平均分子量)であり、分子量分布の狭い良好な重合体を得た。
【0036】
(比較例1)
実施例1のうち、塩酸水による塩化水素ガス除去を実施しなかったこと以外は同様の操作を行いp−DCCを合成した。p−DCC溶液中には塩化水素ガスが過剰に残存している状態であった。この溶液に対し特に精製を加えることなく、所定量を秤量しそのまま実施例1と同様の重合反応を実施した。
【0037】
GPC分析によって重合体製品の分子量とその分布を測定した結果、数平均分子量Mn=14626、分布Mw/Mn=1.67(Mw:重量平均分子量)であり、重合物の分子量分布が増大した。分子量分布の増大は、p−DCC溶液中に塩化水素ガスが過剰に残存しているために引きおこされたものと考えられる。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、塩化水素ガスバブリングによるp−DCCの高純度化および塩酸水による塩化水素ガス除去を実施せず、塩酸水によるp−ジオールの塩素化のみを行ったp−DCC溶液をそのまま用いて実施例1と同様の重合反応を行った。
【0039】
GPC分析によって重合体製品の分子量とその分布を測定した結果は、数平均分子量Mn=16265、分布Mw/Mn=1.31(Mw:重量平均分子量)となり重合物の分子量分布が増大した。この分子量分布の増大は、塩化水素のガスバブリングによるp−DCCの高純度化を実施しておらず、p−DCCの純度が低いために引きおこされたものと考えられる。
【0040】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、カチオン重合の開始剤として有効である高品質の塩素化芳香族化合物が簡便かつ効率的に製造できる。

Claims (3)

  1. 一般式(1):
    Ar(CR12OH)n (1)
    (式中、Arはn価の芳香環基、R1、R2は置換または非置換の一価の脂肪族炭化水素基を示し、それらは同じであっても異なっていてもよい、nは1〜5の整数)で表される化合物を有機溶剤および塩酸水存在下で反応させ、水相と分離した有機相に塩化水素ガスを接触させ、一般式(2):
    Ar(CR12Cl)n (2)
    (式中、Ar,R1、R2、nは前記と同じ)で表される塩素化芳香族化合物を得るにあたって、塩化水素ガスを接触させた後の有機相に塩酸水を接触させることにより有機相中の塩化水素ガスを除去することを特徴とする、塩素化芳香族化合物の製造方法。
  2. 有機溶剤が、飽和炭化水素、ハロゲン化炭化水素、あるいは芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載の塩素化芳香族化合物の製造方法。
  3. 有機溶剤が、ペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ノルボルネン、エチルシクロヘキサン、塩化メチレン、ブチルクロライド、ベンゼン、トルエン、キシレン及びエチルベンゼンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の塩素化芳香族化合物の製造方法。
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