JP4228691B2 - 鋼板を用いた成形体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、鋼板を成形加工した成形体に係り、とくに自動車の構造部材、足周り部材といった自動車用部材などの使途に好適な、引張強さが590MPa未満の歪時効硬化特性に優れた鋼板を用いた成形体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、乗員の安全性向上という観点から、自動車の衝突安全性に対する要求が厳しくなり、耐衝突特性に優れた自動車車体の開発が進められている。また、炭酸ガス排出に関わる環境上の観点から、燃費向上のために自動車車体の軽量化が要望されている。
【0003】
このような自動車車体の耐衝突特性向上、軽量化のために、自動車用鋼板のなお一層の高強度化が望まれている。しかし、鋼板を高強度化すると、成形加工が困難になり、所望の部品寸法精度を達成することが困難になるという問題がある。とくに引張強さ:590MPa以上の鋼板を使用する場合に顕著となる。
このような、成形性向上と自動車車体の強度増加という相反する要望を両立させることができる高強度化技術として、成形加工時には軟質でありながら、成形加工後の熱処理により強度が上昇し部材の高強度化が図れる、熱処理硬化能に優れた薄鋼板が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、C:0.01〜0.200 %、Si:0.001 〜0.020 %、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.005 〜0.2 %、Al:0.005 〜2.0 %、N:0.0002〜0.01%を含み、平均結晶粒径が20μm以下を有し、かつ鋼中の鉄炭素化合物の平均粒径が1μm以下である熱処理硬化能に優れた薄鋼板が提案されている。
また、特許文献5には、C:0.01〜0.20%、Si:0.01〜3.0 %、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.002 〜0.2 %、S:0.001 〜0.020 %、Al:0.005 〜2.0 %、N:0.0002〜0.01%、Mo:0.01〜1.5 %を含み、さらにCr、Nb、Ti、V、Bのうちの1種または2種以上を特定関係式を満足する範囲内で含有する、熱処理硬化能に優れた薄鋼板が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、C:0.05%以下、Si:1.5 %以下、Mn:0.01〜1.5 %、P:0.1 %以下、S:0.01%以下、Al:0.005 〜0.1 %、N:0.01%以下、Cu:1.2 〜2.5 %、Ni:0.25〜1.5 %、およびCr、Moの1種または2種を合計で0.03〜2.5 %含有する、加工後熱処理強度上昇能に優れた薄鋼板が提案されている。
【0006】
また、成形加工時には加工がし易く、塗装時の焼付によって強度を増加させながら、常温時効性も小さい、歪時効硬化を利用した技術が提案されている。
例えば、特許文献3には、C:0.01〜0.12%、Si:2.0 %以下、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.2 %以下、Al:0.001 〜0.1 %、N:0.003 〜0.02%を含む組成と、平均結晶粒径が8μm以下のフェライトを主相とする組織とを有し、固溶N量を0.003 〜0.01%とし、フェライト結晶粒界面から±5nmの範囲内に存在する平均固溶N濃度とフェライト結晶粒内に存在する平均固溶N濃度との比が100 〜10000 の範囲である、焼付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性、耐常温時効性に優れた高張力熱延鋼板が提案されている。特許文献3に記載された技術では、加工−塗装焼付処理により、降伏強さと引張強さが同時に増加し、部材の高強度化が可能となるとしている。
【0007】
また、特許文献4には、C:0.01〜0.16%、Si:2.0 %以下、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.005 %以下、Al:0.01〜0.1 %、N:0.005 〜0.020 %のうち固溶N:0.0050〜0.0120%を含有し、かつN−(14/28)Al≦0.012 %を満足する組成と、平均結晶粒径8.0 μm以下のフェライトを主相とする組織とを有する、歪時効特性と耐常温時効性に優れた熱延鋼板が提案されている。特許文献4に記載された技術によれば、加工−塗装焼付処理相当の歪時効硬化処理後に高い変形応力を示すとしている。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−178684号公報
【特許文献2】
特開2000−319755号公報
【特許文献3】
特開2000−297350号公報
【特許文献4】
特開2001−316762号公報
【特許文献5】
特開2000-234153 号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では200 ℃以上、特許文献2に記載された技術では350 ℃以上、の高温域での熱処理が必須となっている。また、特許文献5に記載された技術では、成形を200 〜500 ℃の温間で行うことを必須としている。このような高温での熱処理や成形は、現状の自動車の生産工程に含まれる塗装焼付け処理工程を利用できないため、新たなプロセスの追加が必須となり工業的に活用するにはコスト的に不利となる。また、特許文献2に記載された技術ではCuの含有が必須であり、鋼材の再利用(リサイクル)が困難となるという問題もある。
【0010】
また、特許文献3、特許文献4に記載された技術では、歪時効硬化能が歪量や時効処理温度に依存することについては言及されているものの、これら技術を実際に自動車部品に適用した場合、耐衝突特性が所望の値を満足できるほど十分には向上しない場合があるという問題がある。さらに、現状では、このような鋼材の特性に応じて、 例えば成形方法等の鋼材の利用技術が十分に確立されているとは言いがたい。
【0011】
この発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決するものであり、引張強さが590MPa未満の比較的低強度の歪時効硬化能を有する鋼板に適正な成形加工−熱処理を施して耐衝突特性に優れた成形体とする、高強度の自動車構造部品用成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、自動車構造部品の高強度化に適切な、成形加工方法と熱処理法について鋭意検討した。その結果、引張強さが590MPa未満の比較的低強度で、歪時効硬化能を有する鋼板に成形加工を施すに際し、鋼板表面に所定以上の相当塑性歪が加わる領域、あるいは成形加工後にビッカース硬さの増加量が所定以上となる領域、が、全領域に対して15%以上の比率となるような成形加工を施した後、100 〜400 ℃の温度域において30s以上保持する熱処理を施すことにより、高強度の成形体を容易にしかも安定して得られることを見出した。
【0013】
次に、この発明の基礎になった実験結果について説明する。
鋼板A(板厚2.3mm )、鋼板B(板厚2.3mm )を成形加工し、図1に示すような断面形状を有する長さ300mm のハット型部材(成形体)とした。ここで用いた成形加工は、図2に示す押し曲げ加工、および図3に示す絞り加工の2種のプレス成形とした。なお、鋼板Aは、mass%で、C:0.08%、Si:0.01%、Mn:1.2 %、P:0.015 %、S:0.0020%、Al:0.015 %、N:0.0090%を含有する組成と、平均結晶粒径:4.8 μm のフェライト相を主相とする組織とを有し、かつ固溶N量が0.0086mass%である鋼板である。また、鋼板Bは、mass%で、C:0.16%、Si:0.01%、Mn:0.7 %、P:0.017 %、S:0.003 %、Al:0.020 %、N:0.0105%を含有する組成と、平均結晶粒径:5.1 μm のフェライト相を主相とする組織とを有し、かつ固溶N量が0.0096mass%である鋼板である。
【0014】
プレス成形後、成形体各部の相当塑性歪εeq、およびビッカース硬さHv を測定した。
相当塑性歪εeqは、プレス成形前に使用する鋼板の表裏面に2mmφのスクライブドサークルをプリントし、プレス成形後に各サークルの径を測定することにより最大主歪εx 、最小主歪εy を求め、次(1)式、(2)式を用いて求めた。
【0015】
εeq=√(2/3)×√(εx 2 +εy 2 +εt 2 ) ・・・(1)
εx +εy +εt =0 ・・・(2)
(ここで、εeq:相当塑性歪、εx :最大主歪、εy :最小主歪、εt :板厚歪)
ビッカース硬さHv は、プレス成形前に鋼板にプリントされたスクライブドサークルの中心にあたる位置を含む断面についてビッカース硬度計(荷重:300gf (2.9 N))で、JIS Z 2244の規定に準拠して実施した。各測定位置では、成形体の内面側、外面側各々の板厚の1/4 でそれぞれ測定し、これらを平均してその測定位置でのビッカース硬さ値(Hv )A とした。なお、プレス成形前の鋼板についても同様の硬さ測定を実施し、プレス成形前のビッカース硬さ値(Hv )B を求めた。
【0016】
得られた相当塑性歪について、相当塑性歪が0.05以上であるサークル数の全サークル数に対する比率を、成形体の内面および外面で各々算出し、これらを平均して、成形加工により、0.05以上の相当塑性歪が加わる領域の全領域に対する比率Pst とした。
また、得られた各測定位置における、プレス成形後のビッカース硬さ値(Hv )A からプレス成形前のビッカース硬さ値(Hv )B を差し引き、差ΔHv (=(Hv )A −(Hv )B )を求めた。そして、ΔHv が15以上となる測定位置の数の全測定位置数に対する比率を算出し、これらを成形加工によりビッカース硬さ値が15以上上昇する領域の全領域に対する比率Phv とした。
【0017】
なお、プレス成形加工に際しては、押し曲げ加工に用いるパンチ21の先端半径Rpb、および絞り加工に用いるパンチ31の肩半径Rpd、ダイ32の肩半径Rd 、しわ押え荷重Lを変化させ、Pst 、Phv を種々変化させた。
ついで、得られたハット型部材を2個、図4に示すように対向させ、フランジ部をスポット溶接により接合して、長さ300mm の四角柱状部材とした。なお、スポット溶接の間隔は30mmとした。四角柱状部材は組立てままのものと、組立て後、170 ℃×20min の熱処理を施したものとを作製した。
【0018】
これらの四角柱状部材に、軸方向に、重さ160 kgの重りを高さ11mより自由落下させる落重試験を実施した。この落重試験における四角柱状部材の変形量と荷重との関係を測定した。得られた変形量−荷重曲線を変位60mmまで積分し、吸収エネルギーEを算出した。
得られた、熱処理を施さない四角柱状部材の吸収エネルギーEO と、熱処理を施した四角柱状部材の吸収エネルギーEb とから、吸収エネルギーの熱処理による上昇割合Pen (={(Eb −EO )/EO }×100 %)を求めた。
【0019】
得られた結果を、押し曲げ加工について、Pen とPst との関係で図5に、Pen とPhv との関係で図6に示す。
図5から、Pst を15%以上とすることにより、Pen が著しく増加することがわかる。また、図6から、Phv を15%以上とすることにより、Pen が著しく増加することがわかる。なお、Pst とPhv とはほぼ同一の傾向を示している。
【0020】
絞り加工について、同様に、Pen とPst との関係を図7に、Pen とPhv との関係を図8に示す。
図7から明らかなように、絞り加工においても、Pst を15%以上とすることにより、Pen が著しく増加する。なお、Pst が15%に満たない場合にもPen が著しく増加する場合がみられた。これに対し、図8に示すPen とPhv との関係では、このようなばらつきは認められず、Pst を15%以上とすることにより、Pen が著しく増加している。絞り加工の場合には、ダイの肩(コーナー)で一度曲げられた後に、再び曲げ戻される。このような加工を付与された場合には、歪は付加されるが部品形状には変化を及ぼさないため、スクライブドサークルでは付加された歪を測定できない。このことから、図7に見られるばらつきは、スクライブドサークルでは測定できない歪が付加されたためと考えられる。したがって、形状に現れない歪が付与される場合には相当塑性歪に代えて、ビッカース硬さによる評価が有効であるといえる。
【0021】
またさらに、本発明者らは、吸収エネルギーEに及ぼす熱処理条件の影響について調査した。
押し曲げ加工で作製した四角柱状部材で、Pst が6、32、51%の場合と、絞り加工で作製した四角柱状部材で、Phv が5、33、54%の場合について、組立て後に熱処理温度を50〜700 ℃の範囲で変化させた熱処理を施した。これら四角柱状部材について、上記した試験条件と同様の条件で落重実験を実施し、各四角柱状部材の吸収エネルギーEb をそれぞれ求めた。なお、熱処理を施さない各四角柱状部材についても同様に吸収エネルギーE0 を求めた。得られた各四角柱状部材の吸収エネルギーEb 、E0 からPen を算出した。
【0022】
Pen と熱処理温度との関係を、図9(押し曲げ加工)、図10(絞り加工)に示す。これらの図から明らかなように、いずれの成形加工においても、100 〜400 ℃の温度域で熱処理を施すことにより、熱処理なしの場合に比べ、吸収エネルギーが顕著に上昇することがわかった。
この発明は、上記した知見に立脚し、さらに検討を加えて成されたものである。すなわち、この発明の要旨は、つぎの通りである。
(1)鋼板に成形加工を施し所定形状の成形体を製造するに際し、前記鋼板を、mass%で、C:0.01〜0.2 %、Si:0.4 %以下、Mn:0.2 〜2.0 %、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.001 〜0.1 %、N:0.005 〜0.02%を含有する組成と、平均結晶粒径が8μm 以下のフェライトを主相とする組織を有し、かつ固溶状態のNを0.005 mass%以上含む鋼板とし、前記成形加工を、該成形加工前の鋼板のビッカース硬さ値に対して成形加工後のビッカース硬さ値が 15 以上上昇する領域が全領域に対する比率で 15%以上となる加工とし、該成形加工後に100 〜400 ℃の温度域において30s以上保持する熱処理を施すことを特徴とする成形体の製造方法。
(2)(1)において、前記鋼板が、該鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする成形体の製造方法。
【0023】
【発明の実施の形態】
まず、この発明において使用する鋼板の組成、組織限定理由について説明する。以下、組成におけるmass%は、単に%と記す。
C:0.01〜0.2 %
Cは、鋼を強化するにあたり重要な元素であり、高い固溶強化能を有するとともに、歪時効硬化にも有効であり部材の高強度化に寄与する。このような効果は0.01%以上の含有で認められる。一方、0.2 %を超えて含有すると、溶接性が劣化する。このため、Cは0.01〜0.2 %の範囲に限定した。
【0024】
Si:0.4 %以下
Siは、高い固溶強化能を有する元素であり、所望の強度に応じて含有させることができるが、0.4 %を超えて含有させると歪時効硬化特性を低下させる。このため、Siは0.4 %以下に限定した。
Mn:0.2 〜2.0 %
Mnは、熱間脆化の防止ならびに強度確保のため添加する元素であり、0.2 %未満ではその効果に乏しく、一方、2.0 %を超えると加工性の低下を招く。このため、Mnは0.2 〜2.0 %に限定した。
【0025】
P:0.05%以下
Pは、高い固溶強化能を有する元素であり、所望の強度に応じて含有することができるが、0.05%を超えると溶接性の劣化を招くとともに、めっき性を低下させる。このため、Pは0.05%以下に限定した。
S:0.01%以下
Sは、伸びフランジ性を低下させるため、極力低減することが好ましいが、0.01%までは許容できる。
【0026】
Al:0.001 〜0.1 %
Alは、鋼の脱酸のために必要な元素であるが、0.001 %未満ではその効果に乏しく、0.1 %を超えて多量に添加してもそれ以上の効果は望めないばかりか表面性状を劣化させるとともに、AlN として歪時効硬化に必要な固溶Nを消費するため、歪時効硬化特性が劣化する。このため、Alは0.001 〜0.1 %に限定した。
【0027】
N:0.005 〜0.02%
Nは、この発明において極めて重要な元素であり、歪時効硬化特性を向上させ部材を高強度化させるために、0.005 %以上の含有量を必要とする。一方、0.02%を超える含有は成形性の低下を招く。このため、Nは0.005 〜0.02%に限定した。
【0028】
なお、上記した成分に加えて、さらに強度調整のために、Cr:1.5 %以下、Mo:1.5 %以下、Ni:1.5 %以下の1種または2種以上を含有させてもよい。また、靱性改善のために、Nb:0.1 %以下、Ti:0.1 %以下の1種または2種を含有させてもよい。
この発明で使用する鋼板では、上記した成分以外は、Feおよび不可避的不純物とすることが好ましい。
【0029】
この発明で使用する鋼板は、上記した組成に加えて、平均結晶粒径が8μm以下のフェライトを主相とする組織を有する。主相とするフェライトの平均結晶粒径が8μmを超える場合には、充分な歪時効硬化量が得られないため、部材の高強度化が困難となる。なお、ここで主相とは、面積率で80%以上存在する相を意味する。主相のフェライト以外に、面積率で20%以下のパーライト相、ベイナイト相、およびマルテンサイト相を単独または複合して含有しても何ら問題ない。
【0030】
さらにこの発明で使用する鋼板は、上記した組成、組織に加えて、Nを固溶状態で0.0050%以上含むものとする。固溶Nが0.0050%未満では、所望の歪時効硬化特性を得ることが困難であり、部材の高強度化が不可能となる。
本発明では、上記した組成、組織、および固溶Nを有する鋼板に、成形加工を施し所定形状の部材とする。この発明では、成形加工方法は、特に限定する必要はなく、例えば絞り成形加工、張出し成形加工、押し曲げ成形加工などのプレス加工やロールフォーミングやハイドロフォーミング等がいずれも適用可能である。
【0031】
本発明における鋼板に施す成形加工は、成形体表面で0.05以上の相当塑性歪が加わる領域の全領域に対する比率Pstが、成形体の内面と外面の平均で15%以上となる加工とする。なお、本発明における相当塑性歪は、鋼板の表面に、例えば、スクライブドサークルやケガキ線などの基準線を描き、成形加工後にこれをもとに各測定位置における主歪を測定し、次式
εeq=√(2/3)×√(εx 2 +εy 2 +εt 2 )……(1)
εx +εy +εt =0 ……(2)
(ここで、εeq:相当塑性歪、εx :最大主歪、εy :最小主歪、εt :板厚歪)
を用いて、算出するのが好ましい。なお、解析の精度が良好である場合には、有限要素法などによる理論解析により求めても良い。なお、基準線の基本サイズ、例えばスクライブドサークルの直径やケガキ線の間隔は、その成形体において、最も小さい曲率を有する曲面の曲率半径以下とするのが好ましい。
【0032】
本発明でいう、成形体表面で0.05以上の相当塑性歪が加わる領域の比率は、成形加工後に、上記した基本サイズの各々について測定した相当塑性歪が0.05以上である測定位置の数の、全測定位置数に対する割合であり、成形体の内面および外面で各々算出し、これを平均して求めるのが好ましい。なお、成形加工による歪の付与が全くない平面内や、同一断面形状を有する柱状の部分で成形方法が長手方向で変化の無い長手方向同一線上など、その相当塑性歪量が同一であることが明らかである場合には、代表点一点を測定し、その他の測定点はこれと同一の値を用いても良い。0.05以上の相当塑性歪が加わる領域の比率Pstが15%未満では、歪時効硬化が有効に発揮されず、部材強度を充分に高めることができない場合がある。なお、絞り加工など曲げ戻しにより形状変化を伴わない歪が付与される場合には、相当塑性歪では、必ずしも熱処理による強度上昇を正当に評価できない場合もあるが、少なくとも0.05以上の相当塑性歪が加わる領域の比率Pstが15%以上を満足するように成形加工し熱処理を施すことにより、吸収エネルギーの熱処理による上昇割合Penが15%以上という著しい特性向上を確保することができる。
【0033】
成形加工が、絞り加工のような、曲げて戻すような形状変更を伴わない加工の場合には、鋼板に導入された歪量を正当に評価することはできず、また複雑な形状に成形加工する場合には、相当塑性歪量の測定が困難であり、相当塑性歪に代えて成形体断面におけるビッカース硬さを用いることが好ましい。
成形体断面におけるビッカース硬さを用いて、成形加工を規定する場合には、鋼板に施す成形加工を、成形加工前の鋼板のビッカース硬さ値に対して成形加工後のビッカース硬さ値が15以上上昇する領域の全領域に対する比率Phvが15%以上となる加工とする。
【0034】
なお、ビッカース硬さ測定はJIS Z 2244に準拠して行うことが望ましい。ビッカース硬さ測定は、鋼板表面と板厚の中心を少なくとも2つ以上に等分割した分割点において、成形体の内面側、外面側それぞれについて行い、これら2点以上の測定で得られた値を平均し、その測定位置のビッカース硬さ値とする。ビッカース硬さ測定はその成形体で最も小さい曲率を有する曲面の曲率半径の長さを一辺とする四角形と同等の表面積あたり一点以上行うことが好ましい。
【0035】
得られた各測定位置における、成形加工後のビッカース硬さ値(Hv )A から成形加工前のビッカース硬さ値(Hv )B を差し引き、差ΔHv (=(Hv )A −(Hv )B )を求め、ΔHv が15以上となる測定位置の数を算出する。そして、このΔHv が15以上となる測定位置の数の全測定位置数に対する比率を算出し、成形加工によりビッカース硬さ値が15以上上昇する領域の全領域に対する比率Phv とする。このとき、成形加工による歪の付与が全くない平面内や、同一断面形状を有する柱状の部分で成形方法が長手方向で変化の無い長手方向同一線上など、その相当塑性歪量が同一であることが明らかである場合には、代表点一点を測定し、その他の測定点はこれと同一の値を用いても良い。Phv が15%未満では、歪時効硬化が有効に発揮されず、成形体強度を充分に高めることができない場合がある。
【0036】
Pst、Phvを15%以上とするためには、成形加工を施すに際し、例えば、パンチ肩半径、ダイ肩半径、しわ押え力に注目して成形加工することが好ましい。
本発明では、鋼板に上記したような成形加工を施し成形体としたのち、100 〜400 ℃の温度域において30s以上保持する熱処理を施す。熱処理温度が100 ℃未満あるいは400 ℃を超える場合には、充分な歪時効硬化が生じず、上記したような成形加工を実施してもなお、成形体の強度を上昇させることができない。また熱処理時間が30s未満では、同様に歪時効硬化が有効に発揮されず、成形体の強度を顕著に増加させることができない。なお、熱処理温度はその効果とエネルギーコストのバランスという観点から、100 〜200 ℃の範囲とすることが好ましく、処理時間は5〜30min の範囲内とすることが好ましい。
【0037】
【実施例】
表1に示すような組成、組織および機械的特性(引張強さ(TS)、ビッカース硬さ(Hv))を有する薄鋼板に、図2に示すような押し曲げ加工、あるいは図3に示す絞り加工を施し、図1に示すハット型の成形体とした。同一組成の鋼板では、鋼板の組織(フェライト結晶粒径)、固溶N量は、熱間圧延時圧下率、冷却速度、取巻温度を調整することにより変化させた。
【0038】
なお、鋼板の組織は、圧延方向に垂直な断面の組織を光学顕微鏡で観察して同定し、画像解析装置によりフェライト面積率およびフェライト粒径を測定した。また、固溶N量は、電解抽出法により鋼板中に窒化物として存在するNを分析し、その結果を表1のN量から差し引くことにより求めた。
なお、押し曲げ加工時のパンチの先端半径Rpb、あるいは絞り加工時のパンチのコーナー半径Rpd、ダイのコーナー半径Rd およびしわ押さえ力Lを変化させて、成形加工した。これにより、成形加工により成形体の表面で0.05以上の相当塑性歪が加わる領域の全領域に対する比率Pst、および成形加工によりビッカース硬さ値が15以上上昇する領域の全領域に対する比率Phvを変化した。
【0039】
成形加工が押し曲げ成形の場合には、相当塑性歪を用いて成形加工量の評価を行った。
成形加工前の鋼板の表裏面に2mmφのスクライブドサークルをプリントし、成形加工後に各サークルの最大主歪、最小主歪を測定し、これらの値を用い、前記した(1)式、(2)式により各サークルにおける相当塑性歪を算出した。ついで、得られた相当塑性歪が0.05以上であるサークルの数を求め、全サークル数に対する割合を、成形体の内面および外面で各々算出し、これらを平均して、0.05以上の相当塑性歪が加わる領域の比率Pstとした。なお、長手方向には同一断面形状を有するため、長手方向に11分割した断面毎に歪量を測定し、全サークル数は2100個所とした。
【0040】
成形加工が絞り加工の場合には、ビッカース硬さ値を用いて成形加工量の評価を行った。
ビッカース硬さは、ビッカース硬度計(荷重:300gf (2.9 N))でJIS Z 2244の規定に準拠して行い、成形加工後、上記したスクライブドサークルの中心にあたる位置を測定位置として、その位置を含む断面について測定した。各測定位置で、成形体の内面側、外面側各々の板厚の1/4 位置にて硬さ測定を行い、得られた値を平均してその測定位置におけるビッカース硬さ値とした。なお、プレス前の鋼板についても同様の測定を実施した。各測定位置において、成形加工後のビッカース硬さ値(Hv )A から成形加工前のビッカース硬さ値(Hv )B を差し引き、差ΔHv (=(Hv )A −(Hv )B )を求め、ΔHv が15以上となる測定位置の数を算出し、その数の全測定位置数に対する割合を算出して、成形加工によりビッカース硬さ値が15以上上昇する領域の全領域に対する比率Phvとした。
【0041】
得られた各成形体のPst、Phvを表2、表3に示す。
ついで、得られたハット型部材を2個、図4に示すように対向させ、フランジ部をスポット溶接により接合して、長さ300mm の四角柱状部材とした。なお、スポット溶接の間隔は30mmとした。四角柱状部材は組立てままのものと、組立て後、170 ℃×20min の熱処理を施したものとを作製した。なお、一部の四角柱状部材では、組立て後の熱処理を80℃、350 ℃、550 ℃で実施した。
【0042】
これらの四角柱状部材に、軸方向に、重さ160 kgの重りを高さ11mより自由落下させる、落重試験を実施した。この際の、四角柱状部材の変形量−荷重曲線を測定し、これら曲線について変位60mmまで積分し、吸収エネルギーE(J)を算出した。
得られた、熱処理を施さない四角柱状部材の吸収エネルギーEO と、熱処理を施した四角柱状部材の吸収エネルギーEb とから、吸収エネルギーの熱処理による上昇割合Pen (={(Eb −EO )/EO }×100 %)を求めた。 得られた各四角柱状部材のPen を表2、 表3に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
本発明例はいずれもPenが15%以上であり、部材強度が大きく上昇していることがわかる。本発明の範囲を外れる比較例はPenが15%未満であり、部材強度の大幅な向上が達成できていない。
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、適正な鋼板と成形加工および成形加工に適合した熱処理を組合せることにより、自動車用構造部品等の使途に好適な耐衝突特性に優れた成形体が容易に製造可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ハット型部材(成形体)の断面形状を模式的に示す断面図である。
【図2】押し曲げ加工の手順を示す説明図である。
【図3】絞り加工の手順を示す説明図である。
【図4】自由落下による落重試験用サンプルの寸法形状を模式的に示す説明図である。
【図5】押し曲げ加工におけるPenとPstとの関係を示すグラフである。
【図6】押し曲げ加工におけるPenとPhvとの関係を示すグラフである。
【図7】絞り加工におけるPenとPstとの関係を示すグラフである。
【図8】絞り加工におけるPenとPhvとの関係を示すグラフである。
【図9】Penと熱処理温度との関係に及ぼすPstの影響を示すグラフである。
【図10】Penと熱処理温度との関係に及ぼすPhvの影響を示すグラフである。
【符号の説明】
1 鋼板
21 パンチ
22 ダイ
31 パンチ
32 ダイ
33 ブランクホルダ
Claims (2)
- 鋼板に成形加工を施し所定形状の成形体を製造するに際し、前記鋼板を、mass%で、
C:0.01〜0.2 %、 Si:0.4 %以下、
Mn:0.2 〜2.0 %、 P:0.05%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.001 〜0.1 %、
N:0.005 〜0.02%
を含有する組成と、平均結晶粒径が8μm 以下のフェライトを主相とする組織を有し、かつ固溶状態のNを0.005 mass%以上含む鋼板とし、前記成形加工を、該成形加工前の鋼板のビッカース硬さ値に対して成形加工後のビッカース硬さ値が 15 以上上昇する領域が全領域に対する比率で 15%以上となる加工とし、該成形加工後に100 〜400 ℃の温度域において30s以上保持する熱処理を施すことを特徴とする成形体の製造方法。 - 前記鋼板が、該鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする請求項1に記載の成形体の製造方法。
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