JP4224313B2 - アミラーゼ阻害物質の調製方法 - Google Patents
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、小麦粉または小麦グルテンからアミラーゼ阻害物質を、簡単な工程で、生産性よく高収率で調製する方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
近年、食習慣の変化などにより、糖尿病をはじめとする代謝性疾患が急増している。過剰の栄養摂取はインシュリンの大量分泌を誘導するため間接的に代謝バランス崩壊の原因となり、耐糖機能の低下(高血糖)、糖尿病、高脂血症、動脈硬化等の代謝性疾患につながる。特に、糖尿病患者ではインシュリン作用が不足し耐糖能が低下しているので、食後の血糖値の上昇が著しく、毛細血管の損傷や動脈硬化などの合併症の原因となっている。
【0003】
上記したような疾患の予防および治療には、必要な栄養を摂取しても血糖値が上昇しにくい効果や、インシュリンの大量分泌を抑制できる効果を有する薬剤や食品の摂取が有効であるとされている。そのため摂取した澱粉が糖に分解するのを抑制または阻害し得る物質およびインシュリンの分泌を抑制し得る物質が求められてきた。
【0004】
上記の点から、澱粉を糖に分解するアミラーゼの活性を阻害する作用を有するいわゆるアミラーゼ阻害物質に対する研究が色々行われるようになっており、小麦中にもアミラーゼ阻害物質が含まれていることが報告されて以来、小麦由来のアミラーゼ阻害物質に関する研究や開発が種々なされるようになった。
小麦由来のアミラーゼ阻害物質としては、124個のアミノ酸からなる分子量13,337のサブユニット2個から構成され、ポリアクリルアミドゲル電気泳動では移動度0.19の位置に単一のバンドが認められる蛋白質である「0.19AI」(AI: Amylase Inhibitor)(Swiss Port: ID=IAA1_WHEAT)、および、123個のアミノ酸からなる分子量13,326のサブユニット2個から構成され、ポリアクリルアミドゲル電気泳動では移動度0.28の位置に単一のバンドが認められる蛋白質である「0.28AI」(特許文献1参照,Swiss Port: ID=IAA2_WHEAT)、124個のアミノ酸からなる分子量13,185のサブユニット2個から構成され、ポリアクリルアミドゲル電気泳動では移動度0.53の位置に単一のバンドが認められる蛋白質(特許文献2参照,Swiss Port: ID=IAA5_WHEAT)などがあり、これらが血糖値上昇の抑制、インシュリン分泌調節に効果があることが知られている。ここで、ポリアクリルアミドゲル電気泳動による移動度は、非特許文献1に記載のように、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(7.5%、pH9.5)でブロムフェノールの移動度を1としたときの移動度である。
【0005】
また、特許文献3および特許文献4は、小麦から水、酸または含水アルコールで抽出したアミラーゼ阻害物質を糖尿病や肥満などの治療に用いることを開示している。しかし、これらの従来技術により得られる小麦由来のアミラーゼ阻害物質は、人間に経口で投与した場合に期待どおりの効果が見られず、特に米飯のような加熱調理した澱粉の消化に対しては糖への分解抑制作用が低く、しかも高価であるなどの欠点を有する。
【0006】
特許文献5は、小麦、小麦粉または小麦グルテンを、水、希酸、希アルカリまたは含水アルコールで抽出して得た抽出液、或いは小麦粉等から澱粉を取得した後の澱粉廃液に、アルギン酸ナトリウムなどの多糖類を加えて不溶性の複合体を形成させて分取し、該複合体を溶媒に溶解もしくは分散させ、次いでこの複合体中の多糖類を分離除去した後に、得られた溶液を更に陽イオン交換樹脂で処理する工程を施し、その陽イオン交換樹脂通過画分からアミラーゼ阻害物質を回収することからなるアミラーゼ阻害物質の調製方法を開示している。また、当該方法により得られるアミラーゼ阻害物質が極めて高いアミラーゼ阻害活性を有する一方でトリプシン阻害活性を示さないこと、およびアミラーゼ阻害物質が、膵液中に含まれるアミラーゼに対して高い阻害活性を有していて、インシュリンの分泌節約に極めて有効であることを開示している。
【0007】
さらに、特許文献6には、処理量が多くなってもロスの発生を抑制しながら、良好な操作性で目的とするアミラーゼ阻害物質を大量に取得できる方法を記載している。前記方法は、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性の複合体から多糖類を分離除去した後のアミラーゼ阻害物質を含む液から、アミラーゼ阻害物質を含有する液中の蛋白質の40〜70%の蛋白質を沈殿させる工程、沈殿した蛋白質を水に溶解させてアミラーゼ阻害物質を含有する液を再度得る工程、その液にカルシウムイオンとリン酸イオンを加えてアミラーゼ阻害物質を含む不溶性複合体を生成させ、その不溶性複合体を分別する工程、次いで分別した不溶性複合体からアミラーゼ阻害物質を水に可溶化させてアミラーゼ阻害物質を含有する液を得る工程からなる。そしてその結果得られる最終生成物はアミラーゼ阻害物質の含有率が高く、より強いアミラーゼ阻害活性を有している。
【0008】
前記特許文献5および特許文献6に記載の方法によれば、トリプシン阻害活性がないかまたは極めて低く、しかもアミラーゼ阻害活性の極めて高いアミラーゼ阻害物質0.19AIを多く含むアミラーゼ阻害物質を得ることができ、これらの方法により得られるアミラーゼ阻害物質は、膵液中に含まれるアミラーゼに対する阻害活性が高く、インシュリンの分泌抑制に有効であり、米飯のように加熱調理された澱粉が糖に分解されるのを効果的に抑制することができる。
【0009】
しかし、特許文献5に記載の方法は、陽イオン交換樹脂を使用する必要があり、それに伴ってアミラーゼ阻害物質の取得に用いた陽イオン交換樹脂を使用後に洗浄・再生する必要がある。また、上記特許文献6の方法は操作が多く工程が長く複雑である。このため、より簡単な工程で、しかも短い処理時間で、アミラーゼ阻害物質を生産性よく調製することができる効率のよい方法の出現が求められてきた。
【0010】
【特許文献1】
特開平7−41499号公報
【特許文献2】
特開平9−194392号公報
【特許文献3】
特開昭46−1833号公報
【特許文献4】
特開昭61−171431号公報
【特許文献5】
特開平5−301898号公報
【特許文献6】
特開平7−48268号公報
【非特許文献1】
J Sci. Food Agric., 20, p.260-261 (1969)
【0011】
【発明の目的】
本発明は、アミラーゼ阻害物質、特にアミラーゼ阻害活性の高い0.19AIを多く含むアミラーゼ阻害物質を、簡単な工程でかつ短い時間で、高収率で生産性良く得ることのできるアミラーゼ阻害物質の調製方法を提供することを目的としている。
【0012】
【発明の概要】
本発明は、アミラーゼ阻害物質の調製方法であって、
(A)下記(A1)、(A2)または(A3)によりアミラーゼ阻害物質を含有する原料液を得る工程;
(A1)小麦粉または小麦グルテンを水、希酸、希アルカリまたは含水アルコールを用いて抽出処理する;
(A2)小麦粉または小麦グルテンを水、希酸、希アルカリまたは含水アルコールを用いて抽出処理した後に、酸処理および/または熱処理を行って、夾雑する不要な蛋白質を変性させて除去する;
(A3)前記(A1)または(A2)の方法によって得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、多糖類を加えて、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を生成させ、生成した不溶性複合体から多糖類を不溶性多糖類の形態で分離させて除去する;
(B)前記工程(A)で得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、塩を加えてアミラーゼ阻害物質を不溶物として塩析させ、塩析した不溶物を回収する工程;および、
(C)前記工程(B)で回収した不溶物をそのまま乾燥処理するか、または該不溶物を水に溶解して水溶液にし該水溶液から塩を除去した後の水溶液を乾燥処理して、アミラーゼ阻害物質を回収する工程;
を有することを特徴としている。
【0013】
本発明の方法において、前記工程(B)で塩析に用いる塩は塩化ナトリウムであることが好ましく、前記工程(B)の塩析時に、液中にカルシウムイオンを存在させることも好ましい。また、前記工程(B)の塩析を、液のpHを3〜4に調整して行うことも好ましい。
さらに、上記アミラーゼ阻害物質の調製方法では、工程(B)および工程(C)のうちの少なくとも1つの工程を、アスコルビン酸および/またはシステインを添加して行うことが好ましい。
【0014】
また、前記工程(B)の塩析に用いるアミラーゼ阻害物質を含有する液が、工程(A)で得られたアミラーゼ阻害物質を含有する原料液を濃縮してなる濃縮液であることが好ましく、濃縮液のタンパク質濃度が1〜100mg/cm3であることがより好ましい。
本発明のアミラーゼ阻害物質の製造方法においては、前記工程(A3)が、前記(A1)または(A2)の方法によって得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、(I)アミラーゼ阻害物質を含有する原料液のpHを4.5〜5.5の範囲に調整し、これに多糖類を加えて、アミラーゼ阻害物質と多糖類との会合体溶液を調製した後、pHを3.0〜4.0の範囲に調整することにより、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を生成させ、次いで、(II)該不溶性複合体を液から分取して、不溶性複合体から多糖類を不溶性多糖類の形態で分離させて除去し、アミラーゼ阻害物質を溶液として回収する工程であることが好ましい。
【0015】
上記方法においては、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体からの多糖類の分離を、グルカナーゼの作用下に行い、分離した不溶性多糖類を濾過して除去することが好ましく、不溶性多糖類の濾過を濾過助剤を添加して行うことがより好ましい。さらに、多糖類の分離時または分離後に、アミラーゼ阻害物質を含有する液を50℃以上の温度に加熱することが好ましい。
【0016】
【発明の具体的説明】
以下、本発明のアミラーゼ阻害物質の調製方法について具体的に説明する。
工程(A)
工程(A)では、小麦粉または小麦グルテンから、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液を調製する。アミラーゼ阻害物質を含有する原料液は、下記(A1)、(A2)または(A3)のいずれかにより得るのが好ましい。
(A1)小麦粉または小麦グルテンを水、希酸、希アルカリまたは含水アルコールを用いて抽出処理する;
(A2)小麦粉または小麦グルテンを水、希酸、希アルカリまたは含水アルコールを用いて抽出処理した後に、酸処理および/または熱処理を行って、夾雑する不要な蛋白質を変性させて除去する;
(A3)前記(A1)または(A2)の方法によって得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、多糖類を加えて、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を生成させ、生成した不溶性複合体から多糖類を不溶性多糖類の形態で分離させて除去する。
【0017】
工程(A1)または(A2)における抽出処理は、水、希酸、希アルカリまたは含水アルコールのいずれを用いて行ってもよい。
工程(A1)または(A2)における抽出処理を、水を用いて行う場合、その抽出条件などは特に制限されず、任意の方法で小麦粉または小麦グルテンからの抽出水溶液を得ることができる。
【0018】
たとえば、一般に小麦粉から澱粉やグルテンを採取する際には、小麦粉に水を加えて混練してドウ(生地)またはバッターをつくり、これをねかせてグルテンを充分に水和させた後、加水しながら生地の洗浄を繰り返し、グルテンと澱粉乳(グルテン洗液)とに分離し、この澱粉乳から機械的分離等により澱粉を回収する方法が広く採用されている。その際発生する水溶液中には、アミラーゼ阻害物質が含まれているので、この水溶液を本発明の方法における原料液とすることができる。この場合、小麦粉からマーチン法またはバッター法により澱粉およびグルテンを製造する際に廃液として排出される水溶液を有効利用することができるため極めて好ましい。
【0019】
工程(A1)または(A2)における抽出処理を、希酸を用いて行う場合には、塩酸、リン酸などの無機酸、酢酸などの有機酸で、pHを約2〜6、好ましくは2〜4に調整した酸性水溶液を用いるのが望ましい。
工程(A1)または(A2)における抽出処理を、希アルカリを用いて行う場合には、アンモニア、水酸化ナトリウムなどで、pHを約8〜10に調整したアルカリ性水溶液を用いるのが望ましい。
【0020】
工程(A1)または(A2)における抽出処理を、含水アルコールを用いて行う場合には、アルコール濃度約1〜50重量%のアルコール水溶液を用いるのが望ましく、その際のアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等を用いることができる。
また、工程(A1)または(A2)における抽出処理は、通常、約10〜40℃の温度、例えば室温で撹拌しながら行う。
【0021】
工程(A1)では、抽出処理後、遠心分離、濾過、静置等の任意の方法で固形分を除去することによって、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液を得ることができる。
また、工程(A2)では、抽出処理後、酸処理および/または熱処理を行って、夾雑する不要な蛋白質を変性させて除去することによって、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液を得ることができる。酸処理は、アミラーゼ阻害物質を含有する抽出液をpH2〜4に調整して静置する方法、熱処理は温度70〜90℃、好ましくは85〜90℃に加熱する方法が好ましく採用される。前記変性処理を行うことによって、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液中に含まれていた不要な蛋白質が変性されて水不溶性となるので、その水不溶性の不要蛋白質を遠心分離、濾過、静置等の任意の方法で除去することによって、次の工程(B)に用いるアミラーゼ阻害物質を含有する原料液を得ることができる。
【0022】
さらに、工程(A3)では、工程(A1)または(A2)によって得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、アミラーゼ阻害物質と不溶性複合体を形成し得る多糖類を加えて、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を生成させ、生成した不溶性複合体を分取し、不溶性複合体から多糖類を不溶性多糖類の形態で分離・除去し、アミラーゼ阻害物質を含有する液として回収する。この工程(A3)によりアミラーゼ阻害物質を濃縮し、高濃度の原料液を調製することができる。
【0023】
工程(A3)において用いる多糖類は、アミラーゼ阻害物質と不溶性の複合体を形成し得る多糖類であればいずれでもよいが、例えばアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、κ−カラギーナン、ι−カラギーナン、λ−カラギーナンなどのカチオン交換機能を有する多糖類、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム等を挙げることができる。収率などの点からアルギン酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
多糖類は、工程(A1)または(A2)で得られるアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、通常、50〜600ppmの量になるようにして添加する。
工程(A3)では、原料液のpHを通常2〜5.5、好ましくはpH4.5〜5.5の範囲に調整し、これに多糖類を加えて、アミラーゼ阻害物質と多糖類との会合体を形成させる。次いで、pHを3.0〜4.0に調整することにより、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を形成させる。この工程によれば、濾過やその他の分離手段で分離し易い、大きな塊状の不溶性複合体を形成させることができる。
【0025】
(A3)の方法における、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体の形成は、加温下で行うこともできるが、室温または冷却下で行うのが好ましい。生成した不溶性複合体は、自然沈降、濾過、遠心分離、その他適当な方法で液から分取することができる。
次いで、得られたアミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体から、多糖類を解離液中で不溶性多糖類として分離・除去し、アミラーゼ阻害物質を溶液として回収する。
工程(B)
工程(B)は、前記工程(A)で得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、塩を加えてアミラーゼ阻害物質を不溶物として塩析させ、塩析した不溶物を回収する工程である。
【0026】
工程(B)では、工程(A1)、または(A2)で得られた原料液をそのまま用いてもよいし、工程(A1)、または(A2)で得られた原料液を工程(A3)またはその他公知の濃縮法に供して得られる濃縮された原料液を用いてもよい。
濃縮液を用いると、液中のアミラーゼ阻害物質の含有量が高くなって、塩の添加によってアミラーゼ阻害物質が高率で塩析され、アミラーゼ阻害物質の回収率を向上させることができるため好ましい。濃縮の程度は、濃縮前の抽出液中に含まれるアミラーゼ阻害物質の量などに応じて調整し得るが、通常は、濃縮後の液中のタンパク質濃度が1〜100mg/cm3の範囲になる程度に濃縮するのが、アミラーゼ阻害物質の回収率、不純物の混入抑制、操作の容易性などの点から好ましい。
【0027】
アミラーゼ阻害物質を含有する抽出液の濃縮は、工程(A3)の他、減圧濃縮、限外濾過などの方法により行うことができる。
工程(B)の塩析を行うに当たって、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液中に、アミラーゼ阻害物質以外の不純蛋白質などの不純物が不溶物として懸濁または沈殿している場合は、そのような不純物を濾過、遠心分離、デカンテーションなどによって除去してから塩析を行うことが望ましい。
【0028】
特に、濃縮液を用いる場合は、アミラーゼ阻害物質以外の不純蛋白質などの不純物が液中に懸濁していることが多いので、そのような不純物を例えば酸処理、アルギン酸処理などにより除去してから塩析を行うのが望ましい。
工程(B)において、アミラーゼ阻害物質の塩析に用いる塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸カルシウムなどを挙げることができ、そのうちでも塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムが好ましく、塩化ナトリウムが特に好ましい。塩化ナトリウムを用いると、工程(A)で得られたアミラーゼ阻害物質を含有する原料液中のアミラーゼ阻害物質が良好に析出し、しかも次の工程(C)において塩の除去が容易であり、その上環境汚染の問題が少ない。
【0029】
塩析に用いる塩の量は、塩の種類、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液中でのアミラーゼ阻害物質の濃度、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液の濃縮の有無や濃縮の程度などに応じて調整し得るが、一般的には、液中の塩の濃度が1〜20重量%、特に3〜15重量%程度になるような量で用いると、アミラーゼ阻害物質を良好に析出させることができ、しかもアミラーゼ阻害物質以外のタンパク質の析出を防止できるので好ましい。
【0030】
また、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩を用いて塩析させる場合に、それらの塩を単独で用いて塩析してもよいが、カルシウムイオンを生成する化合物(例えば、塩化カルシウム、臭化カルシウム、炭酸カルシウムなど)を併用して、カルシウムイオンの存在下に塩析を行うと、アミラーゼ阻害物質をより高率で塩析させることができる。その場合のカルシウムイオンの液中濃度は、100〜10,000ppm程度であることが塩析促進効果の点から好ましい。
【0031】
工程(B)における塩析時の液の温度は、50℃以下、特に30℃以下であることが、アミラーゼ阻害物質の塩析が円滑に行われる点から好ましい。液の温度が50℃を超えると、アミラーゼ阻害物質の変性や失活が起きる場合がある。
塩析時の液のpHは2〜8の範囲であることが、アミラーゼ阻害物質の塩析が効率よく行われる点から好ましく、3〜4の範囲であることがより好ましい。液のpHが2未満であったり、または8を超えると、塩析効率が低下してアミラーゼ阻害物質の回収率が低下する。
【0032】
塩析により生成したアミラーゼ阻害物質を含有する不溶物(塩析物)を液から分離・回収する。塩析物の分離・回収方法は特に制限されず、例えば、デカンター、濾過、遠心分離、自然沈降などにより行うことができる。工程(B)で得られる塩析物は液層から容易に分離するので、一般に用いられている固液分離方法を採用することにより円滑に分離・回収することができる。
【0033】
このような工程(B)により得られた塩析物は、次工程(C)に用いる。
工程(C)
本工程は、(i)前記工程(B)で回収した不溶物をそのまま乾燥処理する工程、または(ii)工程(B)で回収した不溶物を水に溶解し、該水溶液から塩を除去した後に乾燥処理して、アミラーゼ阻害物質を回収する工程である。
【0034】
上記(ii)の方法の場合には、アミラーゼ阻害物質を含有する不溶物(塩析物)を水に溶解する際の水温が、10〜85℃、特に20〜40℃であることが、塩析物の水への溶解が促進され、かつアミラーゼ阻害物質の変性などが生じないことから好ましい。
また、その際の水の使用量は、塩析物の質量に対して、3〜30質量倍であることが好ましい。
【0035】
上記(ii)の方法において、塩析物の水溶液から塩を除去するに当たっては、限外濾過、透析、イオン交換などの方法を採用することができるが、そのうちでも限外濾過が装置メンテナンスの容易さなどの点から好ましい。
上記(ii)の方法では、塩析物の水溶液から塩を除去する前、除去時または除去した後に、必要に応じて不純物や菌などを除去するための処理(例えば濾過処理など)を行ってもよい。不純物や菌などの除去は、例えば、精密濾過膜、多孔質高分子膜、セラミックフィルターなどを用いて行うことができる。
【0036】
工程(C)におけるアミラーゼ阻害物質を回収するための乾燥処理は、例えば、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、ボール乾燥などにより行うことができる。そのうちでも、凍結乾燥、減圧乾燥がアミラーゼ阻害物質の変性防止の点から好ましい。さらに、アミラーゼ阻害物質を含有する水溶液を乾燥処理に供してもよいし、または該水溶液を濃縮してから乾燥処理を行ってもよい。そのうちでも、後者の方法が乾燥効率、仕上り品の嵩比重などの点から好ましい。
【0037】
また、工程(B)および工程(C)のうちの少なくとも1つの工程を、アスコルビン酸および/またはシステインを添加して行うことが好ましい。この場合には、液の着色が抑制され、その結果として白色またはそれに近い色調を有する、色調に優れるアミラーゼ阻害物質を得ることができる。
アスコルビン酸および/またはシステインの使用量は、液量に対して、1〜1,000g/m3であることが好ましい。アスコルビン酸およびシステインが、アミラーゼ阻害物質を含有する液の着色抑制作用を有する理由は、液中に含まれていて液の着色に関与する酵素の活性をアスコルビン酸およびシステインが失活または低減させることによるものと考えられる。
【0038】
本発明のアミラーゼ阻害物質の調製方法では、上記した工程(A)、(B)および(C)によって、アミラーゼ阻害活性の高い0.19AIなどを多く含むアミラーゼ阻害物質を、極めて簡単な工程で、短い時間で、多量に、生産性よく製造することができる。
次に、本発明のアミラーゼ阻害物質を含有する原料液の濃縮方法について説明する。
【0039】
この方法は、
(I)アミラーゼ阻害物質を含有する原料液のpHを4.5〜5.5の範囲に調整し、これに多糖類を加えて、アミラーゼ阻害物質と多糖類との会合体溶液を調製した後、pHを3.0〜4.0の範囲に調整することにより、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を生成させ、次いで
(II)該不溶性複合体を液から分取して、不溶性複合体から多糖類を不溶性多糖類の形態で分離させて除去し、アミラーゼ阻害物質を溶液として回収することからなる。
工程(I)
本発明の濃縮方法において用いるアミラーゼ阻害物質を含有する原料液は、特に限定されないが、本発明のアミラーゼ阻害物質の調製方法の工程(A1)または(A2)で得られる原料液が好ましい。
【0040】
この工程(I)で用いる多糖類としては、アミラーゼ阻害物質と不溶性の複合体を形成し得る多糖類であればいずれでもよく、具体例としては、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、κ−カラギーナン、ι−カラギーナン、λ−カラギーナンなどのカチオン交換機能を有する多糖類、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム等を挙げることができる。そのうちでもアルギン酸ナトリウムが収率などの点から好ましい。
【0041】
多糖類は、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、通常、50〜600ppmの量になるようにして添加するのがよい。
工程(I)では、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液のpHを予め4.5〜5.5の範囲に調整し、多糖類を加えて会合体を生成させ、次いで混合液のpHを3.0〜4.0の範囲に調整することが必要である。
【0042】
pH4.5〜5.5の範囲に調整した原料液に多糖類を加えることによって、アミラーゼ阻害物質と多糖類とからなる会合体が高い効率で形成され、その後にpHを3.0〜4.0の範囲に調整することにより、大きな塊状の不溶性複合体が形成される。その不溶性複合体は、自然沈降や遠心分離などによって液から容易に分離できる。その結果、原料液からアミラーゼ阻害物質を、高収率で回収することができる。通常、原料液中に含まれているアミラーゼ阻害物質の回収率は80重量%以上である。
【0043】
原料液のpHが4.5未満または5.5を超える状態で多糖類を添加すると、アミラーゼ阻害物質と多糖類が充分に会合せず、アミラーゼ阻害物質の回収率が低下する場合がある。
原料液のpH調整には、原料液のpH値などに応じて、塩酸、リン酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを適宜用いることができる。
【0044】
工程(I)におけるアミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体の形成は、加温下でも行いうるが、室温または冷却下、1〜30℃で行うのが好ましい。一般には、約1〜30℃において、原料液のpHを予め4.5〜5.5の範囲に調整した後に多糖類を添加して数十分〜数時間撹拌し、次いでpHを3.0〜4.0の範囲に調整して数十分〜数時間撹拌を続けると、大きな塊状の不溶性複合体が形成される。このため生成した不溶性複合体は、工程(II)において、自然沈降、濾過、遠心分離、その他適当な方法で液から分取することができる。このように工程(I)によれば、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体が大きな塊状で形成されるので、不溶性複合体を簡単に分取することができる。
工程( II )
本工程では、上記工程(I)で得た不溶性複合体を液から分取して、不溶性複合体から多糖類を不溶性多糖類の形態で分離させて除去し、アミラーゼ阻害物質を溶液として回収する。
【0045】
不溶性複合体は、自然沈降、濾過、遠心分離、その他適当な方法で液から分取することができる。
工程(II)において、不溶性複合体から多糖類の分離は、通常、分取した不溶性複合体に解離液を加えて、解離液中で行う。解離液中では、不溶性複合体を形成していたアミラーゼ阻害物質と多糖類とは互いに解離して、これらは解離液中に溶解または膨潤する。解離液としては、単に水でもよく、或いはアンモニア、炭酸水素アンモニウム等を含む弱アルカリ性の水溶液、またはカルシウム、カリウムを含まない塩類の水溶液を使用してもよい。
【0046】
不溶性複合体のアミラーゼ阻害物質と多糖類への解離は、室温下でも起こり得るが、通常約30℃以上の加温下に行うと解離がより促進されるので好ましい。
特に、不溶性複合体からアミラーゼ阻害物質と多糖類の分離処理時または分離処理後にアミラーゼ阻害物質含有液の温度を50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上に少なくとも一度加温すると、通常褐色を呈する液が無色またはそれに近い色調(淡黄色)になり、その結果最終的に得られるアミラーゼ阻害物質の乾燥粉末の色調が白色またはそれに近いものになるため好ましい。
【0047】
互いに解離したアミラーゼ阻害物質と多糖類を含む液に、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの金属イオンを添加すると、多糖類はゲル化して固形状の不溶物となり、一方アミラーゼ阻害物質はそのまま液中に溶存するので、この液を適当な分離処理に供することにより、ゲル化した不溶性多糖類を除去し、アミラーゼ阻害物質を含有する液を回収することができる。
【0048】
多糖類がアルギン酸ナトリウム、κ−カラギーナン、ι−カラギーナン、λ−カラギーナンなどである場合には、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの金属イオンの添加により、これら多糖類は容易に不溶性のゲル化物(不溶性多糖類)を生成する。例えば、解離したアルギン酸ナトリウムを含む液に塩化カルシウムを添加すると、アルギン酸カルシウムのゲル化物が容易に生成される。
【0049】
生成した不溶性多糖類の分離または除去には、濾過、遠心分離などの分離法を採用することができるが、濾過法がアミラーゼ阻害物質の回収率、純度などの点で好ましい。
アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体から分離した不溶性多糖類を濾過によって分離除去するに当たっては、該不溶性多糖類は濾過性が悪く、フィルターの目詰まりなどによって長い濾過時間を要する。
【0050】
そのため、多糖類からなる不溶性の固体分(不溶性多糖類)を分離する際に、液中にグルカナーゼを添加して、グルカナーゼの作用下に不溶性複合体のアミラーゼ阻害物質と多糖類への解離および/または解離した多糖類の不溶化(ゲル化)を行うと、分離した不溶性多糖類の濾過性能が向上し、不溶性多糖類を効率よく濾過・除去することができる。
【0051】
グルカナーゼは、グルコースの多糖(グルカン)を加水分解してオリゴ糖またはグルコースを生成する酵素の総称であり、本発明ではいずれのグルカナーゼ、例えば「セルロシン」(阪急共栄物産株式会社)などのグルカナーゼを使用してもよい。
グルカナーゼは、不溶性複合体の懸濁液に最初(不溶性複合体から多糖類を解離させる前)、不溶性複合体のアミラーゼ阻害物質と多糖類との分離(解離)処理中、または分離した多糖類の不溶化(ゲル化)の際に添加してもよい。グルカナーゼは、不溶性複合体の分離(解離)処理中に添加することが、生成したゲル化多糖類(不溶性多糖類)の濾過性の向上の点から好ましい。
【0052】
グルカナーゼの添加量は、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体またはその解離物を含む溶液または懸濁液1リットルに対して、0.1mg以上であることが好ましく、1〜100mgであることがより好ましい。
また、不溶性複合体から分離した不溶性多糖類を濾過して除去するに当たって、グルカナーゼと共に濾過助剤を添加すると、不溶性多糖類の濾過性が一層向上し、不溶性多糖類の分離除去をより円滑に行うことができる。このような濾過助剤としては、例えば、昭和化学工業社製の各種ラヂオライト、セライトコーポレーション製の各種セライト、タルクなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0053】
濾過助剤の使用量は、被濾過固形物(主として不溶性多糖類)の質量の1/40以上であることが好ましく、1/30以上であることがより好ましい。
濾過助剤は、不溶性複合体から多糖類を解離させる前、不溶性複合体のアミラーゼ阻害物質と多糖類との分離(解離)処理中、または分離した多糖類の不溶化(ゲル化)の際に添加してもよい。不溶性複合体の分離(解離)処理中に濾過助剤添加することが、ゲル化多糖類(不溶性多糖類)の濾過性が一層良好になる点から好ましい。
【0054】
不溶性多糖類を分離するに当たっては、加圧濾過機、遠心分離機などの分離装置を用いることができ、そのうちでも加圧濾過機が精密濾過の点から好ましく用いられる。加圧濾過機の形式などは特に制限されず、従来既知の装置を使用することができ、例えば自動薮田式濾過圧搾機、自動八重垣式濾過圧搾機などを挙げることができる。
【0055】
上記の工程(II)で回収されたアミラーゼ阻害物質含有溶液は、必要に応じてさらに殺菌処理、除菌処理、陽イオン交換樹脂処理(トリプシンインヒビターの除去など)などに供してもよい。不純物や菌などの除去は、例えば、精密濾過膜、多孔質高分子膜、セラミックフィルターなどを用いて行うことができる。
また、上記のように回収したアミラーゼ阻害物質を含有する溶液を、適当な方法で乾燥することによって、粉末などの固形状のアミラーゼ阻害物質を取得することができる。この場合、本発明の方法により得られたアミラーゼ阻害物質の濃縮液をそのまま直接乾燥処理するか、またはさらに任意の方法、例えば減圧濃縮、限外濾過で濃縮して乾燥処理し、アミラーゼ阻害物質の乾燥粉末を得る。ここで、乾燥処理は、例えば、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、ボール乾燥などにより行うことができる。
【0056】
或いは、アミラーゼ阻害物質の濃縮液は、本発明のアミラーゼ阻害物質の調製方法の工程(B)に供して、この濃縮液に塩を加えてアミラーゼ阻害物質を不溶物として析出(塩析)させ、析出したアミラーゼ阻害物質から必要に応じて塩を除去し、工程(C)にて乾燥処理してアミラーゼ阻害物質の乾燥粉末を得ることができる。
【0057】
上述した本発明の調製方法により得られるアミラーゼ阻害物質は、そのままで、または公知の担体や助剤等を使用して液剤、顆粒剤、錠剤等の形態にして血糖値上昇抑制剤および/またはインシュリン分泌調節剤として用いることができる。更に、食品、特に澱粉質を多く含むパン、クッキー等の炭水化物系食品に添加して使用したり、お茶類、スープ類、ふりかけやバター、ジャム等のスプレッド類に添加して使用することができる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、高いアミラーゼ阻害活性を有する0.19AIなどを多く含むアミラーゼ阻害物質を、従来よりも簡単な工程でかつ短い処理時間で、生産性よく製造することができる。
また、本発明の調製方法によって得られるアミラーゼ阻害物質は、高いアミラーゼ阻害活性を有する一方でトリプシン阻害活性をもたず、特に膵液中に含まれるアミラーゼに対して高い阻害活性を有しているため、インシュリンの分泌を効果的に抑制することができ、高血糖症、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、肥満などの予防および/または治療に有効である。さらに、本発明の方法で得られるアミラーゼ阻害物質は、摂取した場合に下痢や吐き気等の副作用がなく、口当たりが良好で経口摂取し易い。
【0059】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の例において、0.19AI含有量の測定方法は以下の通りである。
0.19AI含有量の測定
アミラーゼ阻害物質を含有する溶液およびアミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体については、水分を蒸発除去して残留した固形分を水分含量が5重量%以下になるまで凍結乾燥して得た粉末を試料として用いた。また、最終的に得られたアミラーゼ阻害物質粉末については該粉末をそのまま試料として用いた。これらの試料を0.1重量%トリフルオロ酢酸水溶液に溶解し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過したものを、下記表1に示す条件の高速液体クロマトグラフィーに供して、クロマトグラム中の0.19AIのピーク面積を測定した。一方、0.19AI標品(純度100%)を同じ条件下に高速液体クロマトグラフィーに供してクロマトグラム中の0.19AIのピーク面積を測定し、下記式(1)により試料中の0.19AIの含有量(重量%)を算出した。
【0060】
試料中の0.19AI含有量(重量%)=(Sa/St)×100 …(1)
(式中、Saは試料の0.19AIのピーク面積を、Stは標品の0.19AIのピーク面積をそれぞれ示す)
以下の例において、高速クロマトグラフィーの条件は以下の通りである。
【0061】
【表1】
【0062】
【実施例1】
(1)アミラーゼ阻害物質を含有する水溶液の調製:
小麦粉50,000kgに水30m3を加え、混練して生地を形成させた。この生地を400m3の水を用いて洗浄して、グルテン30,000kg(湿質量)および小麦澱粉30,000kg(乾燥質量)を分離し、抽出液312m3を得た。この抽出液に塩酸を加えてpH3に調整し30分放置した後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整すると不溶物が沈殿した。ドラバル型遠心分離機を用いて沈殿を除去して上澄み液310m3を回収した。上記した方法で測定したところ、この上澄み液は1m3当たり、0.19AIを130gの割合で含有していた。
(2)不溶性複合体の形成:
塩酸および水酸化ナトリウム水溶液を用いて上記(1)で回収した上澄み液310m3(0.19AIの含有量=40.3kg)のpHを4.9に調整した後(液温25℃)、アルギン酸を300ppmの割合で添加して30分間撹拌し、次いで塩酸を加えて液のpHを4.0にして30分間撹拌した後、2時間静置した。生成したアミラーゼ阻害物質とアルギン酸ナトリウムとの不溶性複合体の沈殿物をデカンターにより分離回収した後、ドラバル型遠心分離機(アルファラバル社製「BRPX−617」)で濃縮して不溶性複合体6m3(湿潤物)を得た。これにより得られた不溶性複合体中の0.19AIの含有量を上記した方法で測定したところ37.5kgであり、原料液中に含まれていた0.19AIの93重量%が不溶性複合体として回収された。
(3)不溶性複合体からの多糖類の分離とアミラーゼ阻害物質含有液の分取:
(i)上記(2)で回収した不溶性複合体6m3に30℃の精製水2m3を加えて60分間撹拌して懸濁液8m3を調製した後、その懸濁液にカルシウム濃度が5,000ppmとなるように塩化カルシウムを添加すると共に濾過助剤(昭和化学工業株式会社製「ラヂオライト#700」)60kgを添加して30℃で2時間撹拌し、次いでグルカナーゼ(阪急共栄物産株式会社製「セルロシンTP25」)40gを添加して30℃で更に2時間撹拌した。
【0063】
(ii)上記(i)で得られた懸濁液を加圧濾過機(薮田機械株式会社製「自動薮田式濾過圧搾機100D−70/48型」)を用いて加圧濾過した。加圧濾過に際しては、加圧濾過機の濾布に予め100kgのラヂオライト#700と56.8kgの「セライト505」(セライトコーポレーション製)を29.4kPa(0.3kgf/cm2)の圧力下にコーティングしておいた。ここに懸濁液を29.4〜147.1kPa(0.3〜1.5kgf/cm2)の範囲内の圧力で圧入することにより濾過を行った。この加圧濾過操作中に、圧力は29.4〜147.1kPa(0.3〜1.5kgf/cm2)の範囲内で、流量一定で濾過を行うことができ、8m3の懸濁液を1.5時間で濾過することができる。更に精製水1.5m3を注入して分離した不溶性多糖類を洗浄し、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液8m3を回収した。
(4)塩析工程:
上記(3)で得られたアミラーゼ阻害物質を含有する濾液8m3に硫酸アンモニウム1,000kgを加えて8〜10℃で2時間撹拌して塩析を行い(塩析時の液のpH3.5)、アミラーゼ阻害物質を含有する不溶物(塩析物)を生成させた。生成した不溶物をデカンターにより回収し、それを等量の10%(w/v)硫酸アンモニウム水溶液で洗浄した後、不溶物250kg(湿潤状態)を遠心分離により回収した。
(5)塩析物の回収と脱塩:
上記(4)で得られた湿潤状態の不溶物(塩析物)250kgに、精製水2m3を加え、50℃に加温しながら撹拌して水に溶解した後、それにより得られた水溶液を上記(3)で用いたのと同様の小型加圧濾過機で濾過し、次いでセラミックフィルター(日本濾水機製「S−86」)を用いて除菌濾過を行い、さらに限外濾過膜(ダイセンメンブレンシステムズ社製、ポリスルホン系、分画分子量30,000ダルトン)により濃縮・脱塩して、アミラーゼ阻害物質を含有する濃縮液を調製した。
(6)アミラーゼ阻害物質の乾燥粉末の調製:
上記(5)で得られたアミラーゼ阻害物質の濃縮液−20℃で24時間凍結後、気圧133.3Pa(1Torr)の条件下に温度を0℃から段階的に50℃まで上昇させて凍結乾燥を行い、乾燥粉末102.9kgを得た。
【0064】
これにより得られた乾燥粉末中の0.19AIの含有量を測定したところ、38.6kgであり、0.19AIの回収率は95.8重量%であった。
なお、この実施例1において、上記の(4)〜(6)の処理に要した日数は3日間であった。
【0065】
【実施例2】
(1)実施例1の(1)と同様の操作を行って、アミラーゼ阻害物質を含有する上澄み液を調製した。
(2)上記(1)で得られたアミラーゼ阻害物質を含有する上澄み液のpHを、塩酸および水酸化ナトリウム水溶液を用いて4、4.5、5、5.5および6にそれぞれ調整した後(液温25℃)、実施例1の(2)と同様にして不溶性複合体(湿潤物)を得た。それにより得られた不溶性複合体における0.19AIの回収率(原料液中に含まれていた0.19AIの量に対する回収率)は、下記の表2に示すとおりであった。
【0066】
【表2】
【0067】
上記の表2の結果にみるように、本発明における工程(I)(アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を形成する工程)において、アミラーゼ阻害物質含有液のpHを4.5〜5.5の範囲に予め調整してから多糖類を加えると、アミラーゼ阻害物質が高率で不溶性複合体として回収される。
【0068】
【実施例3】
(1)実施例1の(1)および(2)と同様の工程を行って、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を回収した。この不溶性複合体450cm3に25℃の精製水150cm3を加えて30分間撹拌して懸濁液600cm3を調製した後、その懸濁液にカルシウム濃度が5000ppmとなるように塩化カルシウムを添加すると共に活性炭(武田薬品工業株式会社製「タケコール」)1gを添加して30℃で1時間撹拌した。次いで、その液を6等分してそれぞれの液温を30℃、40℃、50℃、60℃、70℃および80℃にして更に4分間インキュベートした。その後速やかに液温を30℃に冷却し、得られた懸濁液を3,000rpmで5分間遠心分離して、不溶性複合体から分離した不溶性多糖類などの固形分を沈殿物として除去して、アミラーゼ阻害物質を含有する上澄み液をそれぞれ約95cm3回収した。
【0069】
アミラーゼ阻害物質を含有する上澄みの色調を同定するため、分光光度計(日立製作所製「U−2010」)用いて波長380nmおよび280nmでの吸光度を測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
(2)上記(1)で得られたアミラーゼ阻害物質を含有する上澄み液を、実施例1の(6)と同様にして凍結乾燥して、アミラーゼ阻害物質を含有する乾燥粉末を得た。得られたアミラーゼ阻害物質中の0.19AIの回収率、アミラーゼ阻害物質(乾燥粉末)の目視による色調および標準カラーインデックス(財団法人日本色彩研究所監修、日本色研事業株式会社製「新配色カード199a」)を用いて測定した色調は、下記の表3に示すとおりであった。
【0070】
【表3】
【0071】
上記の表3にみるように、本発明の方法において、アミラーゼ阻害物質を含有する液を60℃以上の温度に短時間加熱することによって、液の褐色化が抑制されて、無色またはそれに近い色調になり、それに伴って白色または白色に近い、色調に優れるアミラーゼ阻害物質粉末を得ることができる。
【0072】
【実施例4】
(1)実施例1−(1)および(2)と同様の操作を行って、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を回収した。
グルカナーゼを、下記の表4に示す量で用いた以外は、実施例1−(3)と同様の操作を行って、不溶性複合体から分離した不溶性多糖類を加圧濾過して除き、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液をそれぞれ8m3ずつ回収した。分離した不溶性の多糖類を加圧濾過した際の濾過(圧入)に要した時間は、下記の表4に示すとおりであった。
(2)上記(1)で回収した濾液に対して、実施例1−(4)〜(6)と同様の処理を行って、アミラーゼ阻害物質を乾燥粉末として得た。
【0073】
【表4】
【0074】
上記の表4の結果に見るように、不溶性多糖類を濾過して除去する際に、グルカナーゼを存在させると、多糖類の濾過除去が円滑に行われる。特に、不溶性複合体(多糖類を分離する前の不溶性複合体)1m3に対して、グルカナーゼを0.5〜24gの割合で使用すると、不溶性多糖類の濾過がより円滑に行われる。
【0075】
【実施例5】
(1)実施例1−(1)および(2)と同様の操作を行って、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を回収した。
濾過助剤(ラヂオライト#700)を、下記の表5に示す量で用いた以外は、実施例1−(3)と同様の操作を行って、不溶性複合体から分離した不溶性多糖類を加圧濾過して除き、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液をそれぞれ8m3ずつ回収した。分離した不溶性多糖類を加圧濾過した際の濾過(圧入)に要した時間は、下記の表5に示すとおりであった。
(2)上記(1)で回収した濾液に対して実施例1−(4)〜(6)と同様の処理を行って、アミラーゼ阻害物質を乾燥粉末として得た。
【0076】
【表5】
【0077】
上記の表5の結果に見るように、不溶性多糖類を濾過して除去する際に、濾過助剤を用いると不溶性多糖類の濾過除去が円滑に行われる。特に、不溶性複合体1m3に対して、濾過助剤を5〜20gの割合で使用すると、分離した不溶性多糖類の濾過がより円滑に行われる。
【0078】
【参考例1】
(1)実施例1−(1)〜(3)と同様の工程を行って、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液8m3を回収した。
(2)上記(1)で回収したアミラーゼ阻害物質を含有する濾液8m3をリン酸で中和し、中和液を80℃に30分間加熱した後、生成した不溶性物質を実施例1−(3)で用いたのと同じ加圧濾過機で分離して上澄み液を回収、この上澄み液を限外濾過膜(ダイセンメンブレンシステムズ社製、ポリスルホン系、分画分子量30,000ダルトン)にて濃縮すると共に液中に含まれている余剰カルシウム塩の脱塩を行って濃縮液4m3を得た。
(3)上記(2)で得た濃縮液4m3に水を加えて全量を10m3に希釈すると共に水酸化ナトリウム水溶液にてpH7.5に調整し、陽イオン交換樹脂(三菱化成株式会社製「ダイアイオンHPK−55」を充填したカラム(長さ1.7m、直径1m)に1m3/時間の流速で通液して、陽イオン交換樹脂に吸着せずに溶出した画分を採取した。この溶出画分を実施例1−(3)で用いたのと同じ加圧濾過機で濾過してから、セラミックフィルター(日本濾水機社製「S−86」)で除菌濾過し、上記(2)と同じ限外濾過膜で濃縮・脱塩を行った後、実施例1−(6)と同様にして凍結乾燥して、アミラーゼ阻害物質の乾燥粉末38.4kgを得た。なお、この参考例1において、上記(2)およびこの(3)の処理に要した日数は8日間であり、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液から粉末状のアミラーゼ阻害物質を得るまでの要処理時間は、実施例1に比べて長いものであった。
【0079】
【実施例6】
(1)アミラーゼ阻害物質を含有する原料液の調製(工程(A)):
実施例1−(1)に従って、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液310m3を回収した。この原料液は1m3当たり、0.19AIを130gの量で含有していた。
(2)塩析(工程(B)):
上記(1)で得た原料液310m3を減圧下で77.5m3まで濃縮し(濃縮液のタンパク質濃度10.8mg/cm3)、塩酸を用いて濃縮液のpHを3.5に調整した後、その濃縮液に塩化ナトリウム11,600kg(濃縮液中の塩化ナトリウム濃度15重量%)および塩化カルシウム860kg(液中のカルシウムイオン濃度4,000ppm)を加えて4℃で2時間撹拌して塩析を行い(塩析時の液のpH3.5)、アミラーゼ阻害物質を含有する不溶物(塩析物)を生成させた。生成した不溶物をフィルタープレスにより回収し、それを等量の15%(w/v)塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、フィルタープレスにより不溶物(塩析物)320kg(湿潤状態)を回収した。なお、液のタンパク質濃度はバイオラット社製の「DCプロテインアッセイキット」を用いて測定した。
(3)アミラーゼ阻害物質の脱塩・回収(工程(C)):
上記(2)で得られた不溶物(塩析物)320kgに、精製水4m3を加え、40℃に加温しながら撹拌して水に溶解した後、得られた水溶液を濾過装置(薮田式濾過圧搾機66−D−22型)で濾過し、次いでセラミックフィルター(日本濾水機社製「S−86」)を用いて除菌濾過を行った。さらに限外濾過膜(ダイセンメンブレンシステムズ社製、ポリスチレン系、分画分子量30,000ダルトン)により濃縮・脱塩して、アミラーゼ阻害物質を含有する濃縮液を調製した。この濃縮液を、−20℃で24時間凍結後、気圧133.3Pa(1Torr)の条件下に、温度を0℃から段階的に50℃まで上昇させて凍結乾燥して、乾燥粉末192kgを得た。乾燥粉末中の0.19AIの含有量は、40.3kgであり、0.19AIの回収率は100重量%であった。
【0080】
【実施例7】
実施例6の(2)において、塩化ナトリウムおよび塩化カルシウムを添加する前の濃縮液(濃縮した上澄み液)のpHを、2.5、3.0、3.5、4.0および4.5にそれぞれ調整し、それ以外は実施例6と同様の操作を行って、アミラーゼ阻害物質の乾燥粉末を調製した。得られた乾燥粉末中の0.19AIの含有量を測定し、0.19AIの回収率を求めた。これらの結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
上記の表6にみるように、塩化ナトリウムを添加する際のアミラーゼ阻害物質含有溶液のpHが3〜4の範囲内であるとき、特にpH3.5のときにアミラーゼ阻害物質(0.19AI)の回収率が高い。
【0083】
【実施例8】
(1)実施例6−(2)において、塩酸を加えてpH3.5に調整したアミラーゼ阻害物質を含有する溶液の濃縮の程度および塩析時の溶液中の塩化ナトリウム濃度およびカルシウムイオン濃度を以下の表7に示すように調整し、それ以外は実施例6と同様の操作を行って、アミラーゼ阻害物質の乾燥粉末を調製した。上記において塩析前の上澄み液またはその濃縮液中のタンパク質の濃度は下記の表7に示すとおりであった。なお、溶液中のタンパク質濃度は、実施例6と同様にして測定した。
(2)得られた乾燥粉末中の0.19AIの含有量を測定し、0.19AIの回収率を求めた。これらの結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
【実施例9】
(1)アミラーゼ阻害物質を含有する水溶液の調製(工程(A)):
小麦粉50,000kgに水30m3を加え、混練して生地を形成させた。この生地を400m3の水を用いて洗浄して、グルテン30,000kg(湿質量)および小麦澱粉30,000kg(乾燥質量)を分離し、抽出液312m3を得た。この抽出液中のタンパク質濃度を実施例1と同様にして測定したところ、4.2mg/cm3であった。また、この抽出液は1m3当たり、0.19AIを129.2g含有していた。
(2)塩析(工程(B))、アミラーゼ阻害物質の脱塩・回収(工程(C)):
上記(1)で得られた抽出液312m3をそのまま用いて、実施例6−(2)と同様の操作を行い、その際に塩酸を加えてpH3.5に調整したアミラーゼ阻害物質を含有する抽出液の濃縮の程度および塩析時の液中の塩化ナトリウム濃度およびカルシウムイオン濃度を以下の表8に示すように調整し、それ以外は実施例6と同様にして、アミラーゼ阻害物質の乾燥粉末を調製した。上記において塩析前の抽出液またはその濃縮液中のタンパク質の濃度は実施例6と同様にして測定した。その結果を下記の表8に示す。
(3)得られた乾燥粉末中の0.19AIの含有量を測定し、0.19AIの回収率を求めた。これらの結果を表8に示す。
【0086】
【表8】
【0087】
【実施例10】
塩析用の塩として、塩化ナトリウム11,600kgの代わりに硫酸アンモニウム12,000kgを用いた以外は実施例6と同様の操作を行って、アミラーゼ阻害物質の乾燥粉末202kgを得た。アミラーゼ阻害物質乾燥粉末中の0.19AI含有量を上記した方法で測定したところ、0.19AIの回収率は100重量%であった。
【0088】
【実施例11】
(1)実施例6の(1)と同様にして得られたアミラーゼ阻害物質を含有する上澄み液310m3を減圧下に水分を留去することによって77.5m3まで濃縮し(濃縮液中のタンパク質濃度10.8mg/cm3)、塩酸を用いて濃縮液のpHを3.5に調整した。これにより得られた濃縮液の色は褐色であった。
(2)上記(1)で得られた濃縮液77.5m3に、塩化ナトリウム11,600kg(濃縮液中の塩化ナトリウム濃度15重量%)および塩化カルシウム860kg(液中のカルシウムイオン濃度4,000ppm)を加えると共に、アスコルビン酸を下記の表9に示す量で加えて、4℃で2時間撹拌して塩析を行い、アミラーゼ阻害物質を含有する不溶物(塩析物)を生成させた。生成した不溶物をデカンターにより回収し、それを等量の10%(w/v)硫酸アンモニウム水溶液で洗浄した後、塩析物(湿潤状態)をデカンターにより回収した。
(3)上記(2)で得られた塩析物に対して実施例6の(3)と同様の濃縮・脱塩処理および乾燥処理を行って乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末中の0.19AIの含有量を測定して、0.19AIの回収率を求めたところ、アスコルビン酸の添加量に拘わらず、いずれの場合もほぼ100重量%であった。また、得られた乾燥粉末の色調を目視で観察すると共に、実施例3−(2)と同様に明度を測定した。その結果を表9に示す。
【0089】
【表9】
【0090】
上記の表9の結果にみるように、アミラーゼ阻害物質を含有する液にアスコルビン酸を添加すると着色が抑制されて、白色または白色に近い色調を有する、色調に優れるアミラーゼ阻害物質粉末が得られる。
【0091】
【実施例12】
実施例9の(2)において、アスコルビン酸の代わりに、システインを用いた以外は実施例9の(1)〜(3)と同様の操作を行って、アミラーゼ阻害物質の乾燥粉末を調製した。それにより得られた乾燥粉末中の0.19AIの含有量を測定して、0.19AIの回収率を求めたところ、システインの添加量に拘わらず、いずれの場合もほぼ100重量%であった。また、得られた乾燥粉末の色調を目視で観察すると共に、実施例11と同様に明度を測定した。この結果を表10に示す。
【0092】
【表10】
【0093】
上記の表10の結果にみるように、アミラーゼ阻害物質を含有する液にシステインを添加すると着色が抑制されて、白色または白色に近い色調を有する、色調に優れるアミラーゼ阻害物質粉末が得られる。
【0094】
【実施例13】
(1)実施例6の(1)と同じ操作を行って、アミラーゼ阻害物質を含有する原料液310m3を得た。この上澄み液1m3当たりの0.19AIの含有量は130gであった。
(2)上記(1)で得られた原料液310m3(0.19AIの含有量=40.3kg)にアルギン酸を300ppmの割合で添加した後、塩酸および水酸化ナトリウム水溶液を用いて液のpHを4.9に調整した(液温25℃)こと以外は、実施例1−(2)〜(3)と同様にして、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液8m3を回収した。
(3)上記(2)で得られた濾液8m3に塩化ナトリウム500kgを加えて8〜10℃で2時間撹拌して塩析を行い(塩析時の液のpH3.5)、アミラーゼ阻害物質を含有する不溶物(塩析物)を生成させた。生成した不溶物をデカンターにより回収し、それを等量の10%(w/v)塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、不溶物250kg(湿潤状態)をデカンターにより回収した。
(4)上記(3)で得られた不溶物250kgに、精製水2m3を加え、50℃に加温しながら撹拌して水に溶解した後、それにより得られた水溶液を小型加圧濾過機(薮田機械株式会社製の自動薮田式濾過圧搾機)で実施例1−(5)と同様の条件にて濾過し、次いでセラミックフィルター(日本濾水機社製「S−86」)を用いて除菌濾過を行い、さらに限外濾過膜(ダイセンメンブレンシステムズ社製、ポリスルホン系、分画分子量30,000ダルトン)により濃縮・脱塩して、アミラーゼ阻害物質の濃縮液を調製した。
(5)上記(4)で得られたアミラーゼ阻害物質を含有する濃縮水溶液を−20℃で24時間凍結後、気圧133.3Pa(1Torr)の条件下に温度を0℃から段階的に50℃まで上昇させて凍結乾燥して、乾燥粉末109.7kgを得た。この乾燥粉末中の0.19AIの含有量は39.5kgであり、0.19AIの回収率は98重量%であった。
【0095】
また、本実施例において、上記の(3)〜(5)の処理に要した日数は3日間であった。
(6)また、上記(3)の塩析処理を、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液のpHを3または4に変えて、同様の操作を行ったところ、濾液がpH3のときには最終的な0.19AIの回収率は87重量%、pH4のときには最終的な0.19AIの回収率は89重量%であった。
【0096】
上記の結果から、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液のpHを3.5に調整して塩析を行うと、0.19AIの回収率が極めて高くなることが判明した。
【0097】
【実施例14】
実施例13−(3)の塩析処理において、塩化ナトリウムを下記の表11に示す量で添加した以外は実施例13と同じ操作を行って、アミラーゼ阻害物質(乾燥粉末)を調製した。0.19IAの回収率を下記の表11に示す。
【0098】
【表11】
【0099】
【実施例15】
実施例13−(3)の塩析処理において、塩化ナトリウム500kgの代わりに硫酸アンモニウム1,000kgを使用した以外は実施例13と同じ操作を行って、アミラーゼ阻害物質を調製した。その結果、0.19AIの回収率は95.8重量%であった。
【0100】
【実施例16】
(1)実施例13−(1)〜(2)と同様の工程を行って、アミラーゼ阻害物質を含有する濾液8m3を回収した。この濾液の色調は褐色であり、また波長380nmおよび280nmでの吸光度を分光光度計(日立製作所製「U−2010」)を使用して測定したところ、それぞれ1.28および14.98であった。(2)上記(1)で得られたアミラーゼ阻害物質を含有する濾液8m3に硫酸アンモニウム1000kgと、下記の表12に示す量のアスコルビン酸を加えて、8〜10℃で2時間撹拌して塩析を行い、アミラーゼ阻害物質を含有する不溶物(塩析物)を生成させた後、該不溶物をデカンターにより回収し、等量の10%(w/v)硫酸アンモニウム水溶液で洗浄し、次いで洗浄した不溶物250kgをデカンターにより回収した。
(3)上記(2)で得られた不溶物(塩析物)250kgに精製水2m3を加えて溶解し、実施例13−(4)と同様にして濃縮・脱塩を行って、アミラーゼ阻害物質を含有するそれぞれの濃縮水溶液を調製した。それぞれの濃縮水溶液の色調を目視により観察すると共に、波長380nmおよび280nmでの吸光度を上記(1)で用いたのと同じ分光光度計で測定した。その結果を下記の表12に示す。
(4)上記(3)で得られたアミラーゼ阻害物質を含有する濃縮液を実施例13−(5)と同様に処理して、アミラーゼ阻害物質を乾燥粉末として得た。得られた乾燥粉末の色調を目視にて、および明度を実施例11と同様に測定した。これらの結果を表12に示す。また、0.19AIの回収率は94〜96重量%であった。
【0101】
【表12】
【0102】
上記の表12の結果にみるように、アミラーゼ阻害物質を含有する液にアスコルビン酸を添加すると着色を抑制することができ、特にアスコルビン酸の添加量がアミラーゼ阻害物質を含有する液1m3当たり1〜1,000gのときに着色抑制効果に優れている。
【0103】
【実施例17】
(1)実施例16−(2)において、アスコルビン酸の代わりに、システインを用いた以外は実施例16−(1)〜(2)と同様の操作を行って、アミラーゼ阻害物質を含有する濃縮液を調製した。この濃縮液の色調を目視により観察すると共に、波長380nmおよび280nmでの吸光度を実施例16と同様にして測定した。その結果を下記の表13に示す。
(2)上記(1)で得られた濃縮液を実施例13−(5)と同様に処理して、アミラーゼ阻害物質を乾燥粉末として得た。得られた乾燥粉末の色調を目視にて、および明度を実施例11と同様に測定した。これらの結果を表13に示す。
【0104】
【表13】
【0105】
上記の表13の結果にみるように、アミラーゼ阻害物質を含有する液にシステインを添加すると着色を抑制することができ、特にシステインの添加量がアミラーゼ阻害物質を含有する液1m3当たり15〜10,000gのときに着色抑制効果に優れている。
Claims (11)
- アミラーゼ阻害物質の調製方法であって、
(A)下記(A1)、(A2)または(A3)によりアミラーゼ阻害物質を含有する原料液を得る工程;
(A1)小麦粉または小麦グルテンを水、希酸、希アルカリまたは含水アルコールを用いて抽出処理する;
(A2)小麦粉または小麦グルテンを水、希酸、希アルカリまたは含水アルコールを用いて抽出処理した後に、酸処理および/または熱処理を行って、夾雑する不要な蛋白質を変性させて除去する;
(A3)前記(A1)または(A2)の方法によって得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、多糖類を加えて、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を生成させ、生成した不溶性複合体から多糖類を不溶性多糖類の形態で分離させて除去する;
(B)前記工程(A)で得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、塩を加えてアミラーゼ阻害物質を不溶物として塩析させ、塩析した不溶物を回収する工程;および、
(C)前記工程(B)で回収した不溶物をそのまま乾燥処理するか、または該不溶物を水に溶解し、該水溶液から塩を除去した後の水溶液を乾燥処理して、アミラーゼ阻害物質を回収する工程;
を有することを特徴とするアミラーゼ阻害物質の調製方法。 - 工程(B)で塩析に用いる塩が、塩化ナトリウムである請求項1に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。
- 工程(B)の塩析時に、液中にカルシウムイオンを存在させる請求項1または2に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。
- 工程(B)の塩析を、液のpHを3〜4に調整して行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。
- 工程(B)の塩析に用いるアミラーゼ阻害物質を含有する液が、工程(A)で得られた
アミラーゼ阻害物質を含有する原料液を濃縮してなる濃縮液である請求項1〜4のいずれか1項に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。 - 濃縮液のタンパク質濃度が1〜100mg/cm3である請求項5に記載のアミラーゼ
阻害物質の調製方法。 - 工程(B)および工程(C)のうちの少なくとも1つの工程を、アスコルビン酸および/またはシステインを添加して行う請求項1〜6のいずれか1項に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。
- 工程(A3)が、前記(A1)または(A2)の方法によって得たアミラーゼ阻害物質を含有する原料液に、
(I)アミラーゼ阻害物質を含有する原料液のpHを4.5〜5.5の範囲に調整し、こ
れに多糖類を加えて、アミラーゼ阻害物質と多糖類との会合体溶液を調製した後、pHを3.0〜4.0の範囲に調整することにより、アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体を生成させ、次いで、
(II)該不溶性複合体を液から分取して、不溶性複合体から多糖類を不溶性多糖類の形態で分離させて除去し、アミラーゼ阻害物質を溶液として回収する工程である請求項1〜7のいずれか1項に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。 - アミラーゼ阻害物質と多糖類との不溶性複合体からの多糖類の分離を、グルカナーゼの作用下に行い、分離した不溶性多糖類を濾過して除去する請求項1〜8のいずれか1項に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。
- 不溶性多糖類の濾過を、濾過助剤を添加して行う請求項9に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。
- 多糖類の分離時または分離後に、アミラーゼ阻害物質を含有する液を50℃以上の温度に加熱する請求項1〜10のいずれか1項に記載のアミラーゼ阻害物質の調製方法。
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