JP4221452B2 - 耐摩耗性及び耐食性に優れた筬羽又はヘルド用ステンレス鋼材 - Google Patents

耐摩耗性及び耐食性に優れた筬羽又はヘルド用ステンレス鋼材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性及び耐食性が要求されるステンレス鋼材に関する。詳細には、耐摩耗性及び耐食性を要求される材料、例えば、筬羽、ヘルド等のような機料品用途に適した高強度ステンレス鋼材に関する。
【0002】
【従来の技術】
図7の織機の模式図を用いて機織の基本動作について説明する。図7中の筬羽、ヘルドは、それぞれ経糸、緯糸をガイドするために用いられるものである。緯糸は、ヘルドによって支えられて交互に上下運動し、等間隔に配列された筬羽の間を通過する。一方、経糸は、緯糸が交互に上下運動する毎に、例えばエアージェットやウオータージェットの動力により駆動され、緯糸の間を通過する。次に、経糸の通過後に筬羽が前後に動いて、緯糸、経糸が織物へと織られる。
【0003】
ところで、機織時には糸は高速で通過するので、上記のように緯糸、経糸と接触している筬羽、ヘルドは一定期間使用すると摩耗してくる。筬羽、ヘルドが摩耗すると、摩耗部が糸切れや毛羽立ちの原因となるため、その都度交換が必要となる。そのため、筬羽、ヘルドの糸に対する耐摩耗性は、筬羽、ヘルドの寿命を決定する最も重要な品質の一つと言える。
【0004】
機織時の雰囲気については、ウオータージェット方式の織機では常時湿潤環境にある。また、エアージェット方式の織機の場合でも、染料などにより腐食環境にさらされる場合が多い。そのため、筬羽、ヘルドに錆が発生した場合には、摩耗を受けた場合と同様、錆発生箇所が糸切れや毛羽立ちの原因となる。従って、筬羽、ヘルドについては、耐食性も要求される。
【0005】
このような、耐摩耗性及び耐食性が要求される機料品(筬羽、ヘルド)には、従来より、SUS301ハード材に代表される高強度オーステナイト系ステンレス鋼が用いられてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、SUS301オーステナイト系ステンレス鋼は、耐摩耗性及び耐食性が要求される機料品(筬羽、ヘルド)用には耐摩耗性が不十分である。そのため、マトリックスの硬質化、摩耗を受ける表層部の硬質化等により耐摩耗性を向上する対応策がとられてきた。
【0007】
マトリックスの硬質化の場合には、鋼材等を冷間圧延して加工硬化する方法、例えば高圧延率で冷間圧延を行う等の方法が用いられてきた。工業的には、圧延率を70〜85%程度として冷間圧延法が実施されている。ところが、この方法では、これ以上に硬質化するには限界があり、圧延率を高めると一般に延性が低下するため、圧延破断の危険が高まるといった問題があった。
【0008】
一方、摩耗を受ける表層部を硬質化する方法には、セラミックコーティング方法等がある。ところが、このような表面処理方法は、製造コストが高くなるといった問題点があった。
【0009】
例えば、特開平11−286852号公報では、耐摩耗性に優れたマルテンサイトとフェライトの2相ステンレス鋼を提案しているが、本合金系は炭化物が析出していないため、十分な耐摩耗性を有しているとは言えなかった。
【0010】
また、SUS420J2に代表される、炭化物を含有するマルテンサイト系ステンレス鋼が使用される場合もある。ところが、このステンレス鋼はSUS301オーステナイト系ステンレス鋼に比べ耐摩耗性が良好であるが、強度を確保するため焼き入れ、焼戻し処理を行うので製造コストが高くなるということがある。また、耐食性に劣るため使用中に錆が発生するので、摩耗していなくても交換せざるを得ない場合もあった。
【0011】
従って、本発明の目的は、耐摩耗性及び耐食性が要求される材料、例えば、筬羽、ヘルド等のような機料品用途に適し、耐摩耗性及び耐食性に優れた材料を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、下記の成分組成(以下%は重量ベースである)を備えたことを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材である。
(a) C:0.03〜0.30%、Si:3.0%以下、Mn:3.0%以下、Ni:5.0〜20.0%、Cr:15.0超え〜30.0%、N:0.30%以下を含有し、かつ残部がFe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼材であって、
(b) 前記ステンレス鋼材の金属組織中に析出した炭化物および炭窒化物の占める面積率が3〜30%の範囲である。
【0013】
本発明の第2の態様は、前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにMoを4.0%以下含有することを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼である。
【0014】
本発明の第3の態様は、前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにV:1.0%以下、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、Zr:1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材である。
【0015】
本発明の第4の態様は、前記炭化物および炭窒化物は、Crを主体とする析出物であることを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材である。
【0016】
本発明の第5の態様は、前記析出した炭化物および炭窒化物の直径の最大値が直径10μm以下であることを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材である。
【0017】
本発明の第6の態様は、前記ステンレス鋼材が、耐摩耗部材用であることを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材である。
【0018】
本発明の第7の態様は、前記ステンレス鋼材が、筬羽又はヘルド用であることを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材である。
【0019】
本発明の第8の態様は、下記の工程を備えたことを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材の製造方法である。
(a) C:0.03〜0.30%、Si:3.0wt%以下、Mn:3.0%以下、Ni:5.0〜20.0%、Cr:15.0超え〜30.0%、N:0.30%以下を含有し、かつ残部がFe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼材のスラブを用意し、
(b) 前記スラブに熱間圧延加工を行ってから、温度が700〜950℃、時間が30分〜36時間の範囲で炭化物析出熱処理を施し、
(c) その後冷間圧延する。
【0020】
本発明の第9の態様は、前記冷間圧延に引き続いて700〜950℃で軟化焼鈍を行ってから、その後さらに冷間圧延することを特徴とする請求項8に記載の耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材の製造方法である。
【0021】
本発明の第10の態様は、下記の工程を備えたことを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材の製造方法である。
(a) C:0.03〜0.30%、Si:3.0wt%以下、Mn:3.0%以下、Ni:5.0〜20.0%、Cr:15.0超え〜30.0%、N:0.30%以下を含有し、かつ残部がFe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼材のスラブを用意し、
(b) 前記スラブに熱間圧延加工を行ってから、固溶化熱処理、次いで冷間圧延を行い、
(c) 引き続いて、温度が700〜950℃、時間が30分〜36時間の範囲で炭化物析出熱処理を施し、
(d) その後冷間圧延する。
【0022】
本発明の第11の態様は、前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにMoを4.0%以下含有することを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材の製造方法である。
【0023】
本発明の第12の態様は、前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにV:1.0%以下、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、Zr:1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れたステンレス鋼材の製造方法である。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について以下に説明する。本発明では、マトリックスを硬質化したり、表面処理により表層を硬質化させるのではなく、オーステナイトに硬質な炭化物及や炭窒化物を析出、分散させることで耐摩耗性を向上させ、かつ耐食性も確保することができる。
【0025】
炭化物や炭窒化物の析出は、SUS430等のフェライトステンレス鋼、SUS420J2等のマルテンサイトステンレス鋼の一部で認められるが、フェライト系ステンレス鋼ではマトリックスの硬度を上げるには限界がある、すなわち、硬度を上げようとすると靭性が劣化して、工業規模で製造できなくなるためHV400程度が限界である。つまり、耐摩耗性には炭化物のみの効果しかないため、耐摩耗性の向上にはおのずと限界がある。
【0026】
一方、マルテンサイト系ステンレス鋼は、マトリックスの硬度を確保することも可能であるが、マルテンサイト組織を得るには耐食性に有効なCr量を増加することができないので、耐食性に問題がある。実際に、SUS420J2を機料品として使用した場合には、しばしば錆の問題を起こすことがある。また、マルテンサイト系ステンレス鋼では、製造コストが高くなるほか、成分バランス上耐食性に有効なCr量を増やすことができないので、耐食性を上げるには限界がある。
【0027】
そのため、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた高磨耗性、高耐食性鋼について検討を進めた。しかしながら、オーステナイト系ステンレス鋼では、耐摩耗性を向上させるためにCrを主体とした炭化物を積極的に利用しようとした例はなく、一般に炭化物は完全に固溶した状態にあるか、またその析出量は僅かであった。このように、炭化物が利用されなかった理由は、炭化物が析出するとステンレス鋼の特徴である耐食性を劣化させることにある。
【0028】
しかしながら、成分バランス及び炭化物析出量を規定することで、耐摩耗性及び耐食性は両立可能であり、オーステナイト系ステンレス鋼をベースに炭化物を析出、分散を図ることで耐摩耗性及び耐食性を向上することができる。
【0029】
本発明において、高強度ステンレス鋼は以下で説明するような成分組成を有している。成分組成を限定した理由について以下に述べる。
【0030】
Cは強力なオーステナイト形成元素であるばかりか、炭化物、炭窒化物を構成する元素であるため、耐摩耗性向上には多いほど好ましく、0.03wt%以上は必要である。しかしながら、0.30wt%を超えて含有すると、粗大な未固溶炭化物が生成し冷間圧延破断の危険が高まるばかりか、耐食性も劣化させるため、0.03〜0.30wt%、好ましくは0.05〜0.25wt%、より好ましくは0.10〜0.25wt%とする。
【0031】
Siは、脱酸に必要な元素であるとともに高強度化に有効な元素であるが、3.0wt%を超えて含有すると冷間圧延破断の危険が高まるため3.0wt%以下とする。
【0032】
MnもSi同様に脱酸に必要な元素であり、かつオーステナイト形成元素であるため、オーステナイト組織を得るのに必要であるが、3.0wt%を超えて含有すると焼鈍酸洗時に異常酸化の原因を招き、歩留まり低下につながるため3.0wt%以下とする。
【0033】
Niは、強力なオーステナイト形成元素であり、5wt%以上必要である。しかしながら高価な元素であり、上限を20wt%とし、5.0〜20.0wt%、好ましくは5.0〜15.0wt%とする。
【0034】
Crは、炭化物を形成する元素であり、かつ耐食性向上にも有効なことから、15.0wt%を超えて含有することが必要である。しかしながら30.0wt%を超えて含有すると、σ相が析出し、逆に耐食性を害するほか、製造性も劣化させるので上限を30.0wt%とし、15.0超え〜30.0wt%、好ましくは15.0超え〜25.0wt%とする。
【0035】
Nは、0.30wt%を超えて含有すると冷間圧延破断の危険が高まるため0.30wt%以下とする。ただし、高強度化や耐食性向上に有効であるため、これらの効果を必要とする場合には、好ましくは0.02〜0.25wt%、より好ましくは0.05〜0.20wt%とする。
【0036】
Pは、スクラップ中に含有する元素であり、かつ精錬での除去が困難な元素であるが、0.045%を超えて含有すると耐食性を劣化させるため、0.045wt%以下が望ましい。
【0037】
Sは、スクラップ中に含有する元素であり、精錬での除去にはコストがかかるが、0.01wt%を超えて含有すると耐食性を劣化させるほか、熱間加工性も劣化させるため、0.01wt%以下が望ましい。
【0038】
さらに、Moは、耐食性向上に有効な元素であるが、非常に高価な元素であるため、4.0wt%以下で含有しても構わないとする。
【0039】
また、さらに、本発明の実施の形態では、V,Ti,Nb、Zrのいずれか1種以上を1.0wt%以下添加することができる。V,Ti,Nb、ZrはCまたはNと結合し、安定な炭化物、または窒化物を形成してオーステナイト組織を微細化する。従って、本発明の炭化物析出熱処理を行った場合には、Cr炭化物の生成サイトとなって、Cr炭化物形成に有利に作用するため、1.0wt%以下の範囲であれば添加してもかまわない。しかし、いずれの元素も高価であることや、1.0wt%を超えて添加すると、粗大な炭化物を形成して製造性を害するため、1.0wt%以下、好ましくは0.5wt%以下の範囲であれば添加してもかまわない。
【0040】
次に、上記成分組成の鋼材を用い、熱間圧延加工を行ってから、温度が700〜950℃、時間が30分〜36時間の範囲で炭化物析出熱処理を施し、その後冷間圧延する。
【0041】
別の方法では、上記炭化物析出熱処理後に冷間圧延を行い、続いて700〜950℃で軟化焼鈍を行ってから、その冷間圧延する。
【0042】
さらに、別の方法では、熱間圧延加工を行ってから、固溶化熱処理、次いで冷間圧延を行い、引き続いて、温度が700〜950℃、時間が30分〜36時間の範囲で炭化物析出熱処理を施し、その後冷間圧延する。
【0043】
上記方法により得られたステンレス鋼材の組織は、オーステナイト、冷間圧延により形成された加工誘起マルテンサイト、それにバッチ焼鈍によって析出した炭化物および炭窒化物からなる。
【0044】
本発明では、炭化物および炭窒化物とを合わせたものの面積率が3〜30%である。炭化物および炭窒化物の析出により耐摩耗性を大幅に向上できるが、3%未満では効果が少ない。そこで下限を3%とする。炭化物および炭窒化物の析出量は多いほど耐摩耗性は向上するが、30%を超えて含有させると耐食性が劣化するばかりか加工性が劣化し、冷間圧延で割れが発生する。そこで3〜30%とし、好ましくは5〜25%、より好ましくは10〜25%とする。
【0045】
さらに、本発明では、炭化物および炭窒化物の直径が10μm以下である。耐摩耗性が良好であるためには、炭化物および炭窒化物が微細に分散していることが望ましい。また、炭化物および炭窒化物の直径が10μmを超えると、炭化物および炭窒化物が冷間圧延破断の起点になった製造性を害するので、最大の炭化物および炭窒化物の直径は10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下とする。ここで、炭化物および炭窒化物の面積率や直径は、電子顕微鏡により撮影した写真を用いて求めることができる。
【0046】
上記の炭化物および炭窒化物は、Crを主体とする析出物である。上記のように炭化物および炭窒化物を形成するために、炭化物析出熱処理を行う。炭化物をおよび炭窒化物を析出させるために、熱処理方法はバッチ法により、長時間行うことが望ましいが、連続法としても支障はない。また、温度は低い方が望ましい。
【0047】
ところが、炭化物析出熱処理温度を低くしすぎると、必要十分な析出量を得るために、熱処理時間を長くする必要があるだけでなく、熱処理後に延性に乏しくなって、その後の圧延工程で破断の危険が高まる。従って、工業的には700℃以上で実施する必要がある。一方、熱処理温度を高温にした場合、炭化物の析出時間は短くなるが、析出量は減少する。そこで上限は950℃とした。なお好ましくは、800〜900℃とする。
【0048】
さらに、上記のように炭化物を形成するために、本発明では熱処理時間を30分〜36時間とする。熱処理時間は、長くするほうが炭化物の析出には有利であり、少なくとも30分は必要である。しかしながら、36時間を超えて熱処理を行っても析出量は飽和する傾向にあることや、多量のスケールが形成されるので、その後の酸洗工程に支障をきたしコストアップの原因となる。従って上限を36時間とする。なお、好ましくは4〜24時間である。
【0049】
さらに、上記のように炭化物を形成するために、本発明では熱処理雰囲気は、焼鈍後にデスケーリング工程を容易にするためにも、H2ガス雰囲気が好ましいがN2ガス雰囲気、または大気でも構わない。
【0050】
さて、所定の板厚の冷延板を製造するために、本発明では軟化焼鈍を行う。軟化焼鈍は短時間であり、例えば5分以内で熱処理すれば良い。短時間焼鈍するために、焼鈍方法は連続法とする方が望ましい。軟化焼鈍はその後の冷間圧延に耐え得る延性を付与することが目的であり、700℃以上の温度が必要である。しかしながら、950℃以上の高温とすると、炭化物が再固溶して耐摩耗性が劣化するため、上限を950℃とする。なお、好ましくは750〜900℃とする。
【実施例】
本発明の実施例について、まず図1としての表1、および図2としての表2を用いて説明する。表1、表2のA〜Fは本発明例である。A〜Fについては、表に示した成分組成で板厚が3.5mmの熱延板について、1100℃で1分間の固溶化熱処理を施した後、冷間圧延を行って板厚を1.0mmまで加工した。得られた冷延板に、800℃で12時間の炭化物析出熱処理を施して炭化物を析出させた。その後、冷間圧延を行って板厚を0.3mmとした。表1のG〜Jは、比較例および先行技術例であり、G、Hは成分組成が本発明と異なり、IはSUS301材、JはSUS420J2材である。
【0051】
図3としての表3のa〜hは本発明例である。a〜eについては、表に示した成分組成で板厚が3.5mmの熱延板について、1100℃で1分間の固溶化熱処理を施した後、冷間圧延を行って板厚を1.0mmまで加工した。得られた冷延板に、各種温度と時間で炭化物析出熱処理を施して炭化物を析出させた。その後、冷間圧延を行って板厚を0.3mmとしたものである。
【0052】
表3、4のf〜hは、表に示した成分組成で板厚が3.5mmの熱延板について、各種温度、時間で炭化物析出熱処理をした後、冷間圧延を行って板厚を1.0mmまで加工したものである。得られた冷延板に、各種温度と時間で軟化焼鈍を施した。その後、冷間圧延を行って板厚を0.3mmとしたものである。
【0053】
表3,4のi〜nは比較例である。i〜lは板厚が3.5mmの熱延板について、1100℃で1分間の固溶化熱処理を施した後、冷間圧延を行って板厚を1.0mmまで加工した。得られた冷延板に、各種温度と時間で炭化物析出熱処理を施した。その後、冷間圧延を行って板厚を0.3mmとした。表3、4のm〜nの比較例は、板厚が3.5mmの熱延板について、各種温度、時間で炭化物析出熱処理を行った後、冷間圧延を行って板厚を1.0mmまで加工した。得られた冷延板に、各種温度と時間で軟化焼鈍を施した。その後、冷間圧延を行って板厚を0.3mmとしたものである。
【0054】
表2、4には評価結果をまとめた。まず、金属組織について説明する。得られた板材の組織は、オーステナイト、冷間圧延により形成された加工誘起マルテンサイト、それにバッチ焼鈍によって析出した炭化物からなる。代表的な組織を図5としての写真に示した。図5の写真は本発明品例のE鋼について示したものである。写真中で白い点状に見えるものが炭化物、炭窒化物を示している。板材の組織観察は電子顕微鏡を用いて行った。なお、前処理は、製造した板厚0.3mmの板材を、圧延方向に直角に切断して表面研磨し、次に塩酸とピクリン酸アルコールの混液を用いてエッチングして行った。
【0055】
次に、炭化物の面積率について説明する。炭化物の面積率は、電子顕微鏡により撮影した3000倍の写真を用い点算法で求める。具体的には、写真視野上に縦、横が5mm間隔の桝目を設け、例えば縦に10個、横に10個、計100個の桝目の格子点に触れる、又は格子点上にある炭化物の数を求める。この作業を10視野繰り返し、その平均値を面積率とする。
【0056】
すなわち、面積率は以下の式で示されるものである。
n÷(p×f)×100=炭化物面積率(%)であり、n、p、fは以下を示す。
p:視野内の総格子点数
f:視野数
n:f個の視野における炭化物によって占められる格子点中心の数
【0057】
炭化物の大きさについては、電子顕微鏡により撮影した3000倍の写真を用い、写真視野内の粒子が大きいもの数個を選択して円相当直径を求め、この作業を10視野行いその平均値を求め、炭化物および炭窒化物の最大値とする。硬さは、JISG0555に準じて求めたビッカース硬度を示した。
【0058】
耐摩耗性は、糸を一定張力(35g)で一定時間(5時間)供試材の表面を通過させて加速度的に摩耗を形成させ、形成した摩耗痕の最大深さを表面荒さ計(メーカー:(株)東京精密、型番:1400A−3DF)で求めた。その結果は表2、4に合わせて示した。図6に、摩耗痕の最大深さ(μm)と炭化物面積率(%)との関係を示した。これから、炭化物面積率が高いほど、すなわち炭化物析出量が多いほど良好な耐摩耗性を示すことがわかる。特に炭化物の面積率が3%以上でその効果が大きい。本発明例では、摩耗痕深さは15μm以下であり、SUS301の23μmに比べて、耐摩耗性が優れており、もちろんSUS420J2の15μmと比べても遜色ない値である。
【0059】
耐食性については、孔食電位測定(JISG0577に準じた方法)を求めて評価した。孔食電位が高いほど耐食性が優れることを意味する。本発明品は、いずれもSUS420J2に較べ優れた耐食性を示し、SUS301に較べても遜色がない。
【0060】
本発明品について製造工程上の問題点の有無について評価した。その結果を表2,4に示したが、特に製造上の問題はなかった。本発明鋼は、良好な耐摩耗性、耐食性を示し、かつ製造上の問題もない。
【0061】
【発明の効果】
本発明によれば、オーステナイトをベースに炭化物および炭窒化物を析出、分散させることで良好な耐摩耗性、耐食性および製造性を有するステンレス鋼が得られる。従って、本発明品を用いることで、耐摩耗性及び耐食性が要求される分野、例えば、筬羽、ヘルドなどの機料品、プレスプレート、スイッチコネクター、刃物等に使用した場合、寿命を延ばすことができる等の効果があり、本発明鋼の存在は極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1として示した表1であり、成分組成一覧表である。
【図2】図2として示した表2であり、表1成分組成品の熱処理条件および評価結果一覧表である。
【図3】図3として示した表3であり、成分組成一覧表である。
【図4】図4として示した表4であり、表3成分組成品熱処理条件および評価結果一覧表である。
【図5】本発明ステンレス鋼組織の代表写真である。
【図6】摩耗痕の最大深さと炭化物面積率との関係を示した図である。
【図7】織機の模式図である。

Claims (5)

  1. 下記の成分組成(以下%は重量ベースである)を備えたことを特徴とする耐摩耗性及び耐食性に優れた筬羽又はヘルド用ステンレス鋼材。
    (a) C:0.03〜0.30%、Si:3.0%以下、Mn:3.0%以下、Ni:5.0〜20.0%、Cr:15.0超え〜30.0%、N:0.30%以下を含有し、かつ残部がFe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼材であって、
    (b) 前記ステンレス鋼材の金属組織中に析出した炭化物および炭窒化物の占める面積率が3〜30%の範囲である。
  2. 前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにMoを4.0%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性及び耐食性に優れた筬羽又はヘルド用ステンレス鋼材。
  3. 前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにV:1.0%以下、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、Zr:1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐摩耗性及び耐食性に優れた筬羽又はヘルド用ステンレス鋼材。
  4. 前記炭化物および炭窒化物は、Crを主体とする析出物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐摩耗性及び耐食性に優れた筬羽又はヘルド用ステンレス鋼材。
  5. 前記析出した炭化物および炭窒化物の直径の最大値が10μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐摩耗性及び耐食性に優れた筬羽又はヘルド用ステンレス鋼材。
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