JP4219197B2 - 結晶化ガラスおよび反射鏡用基体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶化ガラス、および、当該結晶化ガラスを構成材料とする反射鏡用基体に関する。
【0002】
【従来の技術】
結晶化ガラスは、耐熱性に優れていることから、高温に曝される用途に使用される種々の機器部品を構成する材料として有用である。高温に曝される用途に使用される機器部品の代表例としては、光源ランプが取付けられて光源ランプとともに照明機器を形成する反射鏡がある。当該反射鏡においては、光源ランプの発熱に長時間曝されて高温化されることから、高い耐熱性が要求される。
【0003】
このため、当該反射鏡を構成する基体(反射鏡用基体)には、当然のことながら、高い耐熱性が要求されることになる。従来の反射鏡用基体は、一般には、耐熱性に優れたパイレックス(登録商標)級ガラスを構成材料として形成されている。
【0004】
近年、照明装置や映写機等においては、使用される光源ランプが高輝度化される傾向にあり、高輝度の光源ランプが採用される照明機器を構成する反射鏡には、一段と高い耐熱性が要求される。かかる要求に対処すべく、反射鏡用基体を、β−スポジュウメン固溶体やβ−ユークリプタイト固溶体を主要構成成分とする結晶化ガラスにて形成することが提案されている。かかる結晶化ガラスは、低膨張結晶化ガラスとして知られているもので、耐熱性に優れていることから、高い耐熱性の反射鏡を構成することができる(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の反射鏡用基体においては、その構成材料である結晶化ガラスを形成するガラス原料は高い融点を有することから、反射鏡用基体を成形するに当たっては、ガラス原料を1500℃以上という高い温度で溶融しなければならない。また、反射鏡用基体の成形には、プレス成形、ロール成形、キャスト成形、ブロー成形等の成形方法が採られるが、これらの成形方法においては、ガラス原料を1500℃以上に溶融して成形することから、使用する成形型の型面が酸化して早期に表面荒れが発生し、成形型の寿命を縮めることになる。
【0006】
特に、成形型の型面に表面荒れが発生すると、反射鏡用基体の表面に要求される設定された高精度の面粗度が得られない。このような成形条件の下で、成形される反射鏡用基体の表面を設定された高精度の面粗度に保持するには、成形型をその型面の表面荒れに起因して早期に交換しなければならず、これに対処するには、交換のために準備する多数の成形型の費用や、成形型を交換するための交換作業の費用が大幅に増大することになる。
【0007】
本出願人は、反射鏡用基体を、β−スポジュウメン固溶体やβ−ユークリプタイト固溶体からなる結晶化ガラスとは異なる成分を主要構成成分とし、当該結晶化ガラスと同等の耐熱性を有する結晶化ガラスにて形成した、耐熱性に優れた反射鏡を提案している(特許文献2参照)。
【0008】
当該反射鏡は、結晶化ガラスからなる基体の表面に薄膜の反射膜を蒸着してなる反射鏡であり、当該反射鏡を構成する基体は、SiO2、Al23、BaOを主要構成成分とするとともにTiO2を結晶核成分とするセルジアンを主結晶相とする結晶化ガラスであって、熱膨張係数α(×10 7/℃)が30〜45の範囲にある。当該反射鏡を構成する基体は、反射鏡を構成する基体の成形に起因する上記した諸問題を解消し得る、耐熱性に優れたものである。
【0009】
また、本出願人は、上記した特許文献2に記載の反射鏡を構成する基体、および、同基体を構成する結晶化ガラスよりさらに優れた熱的特性を有する結晶化ガラスを開発し、当該結晶化ガラス、および、これを構成材料とする反射鏡用基体として特許出願している(特許文献3参照)。
【0010】
上記した特許文献3に記載の結晶化ガラスは、反射鏡用基体の構成材料である、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分としセルジアンを主結晶相とする結晶化ガラスについてさらに検討した結果得られたものである。当該結晶化ガラスの結晶の生成には、特定の修飾成分であるLi2Oが大きく拘わっていて、ガラス中のLi2Oの含有量によって、ヘキサセルジアンの結晶が皆無または極めて少なくて、結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスが得られるとの知見に基づくものである。
【0011】
【特許文献1】
特公平7−92527号公報
【特許文献2】
特開2002−109923号公報
【特許文献3】
欧州特許出願公開第1281688号(EP1281688A1)明細書
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した特許文献3にて提案した結晶化ガラスを基本とし、これよりさらに、耐熱性、機械的強度、光学特性に優れた機器部品を構成する材料として極めて有用なガラス質材料(結晶化ガラス)を提供することにある。特に、本発明の主たる目的は、反射鏡等の使用態様のごとき高温度に曝されても、熱的に安定で熱的損傷を発生させるおそれがない、優れた熱的特性を有する結晶化ガラスを提供するとともに、当該結晶化ガラスを構成材料とする高品質の反射鏡用基体を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、結晶化ガラス、および、当該結晶化ガラスを構成材料とする反射鏡用基体に関する。
【0014】
本発明に係る結晶化ガラスは、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とする結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスであり、当該結晶化ガラスは、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下では、他の結晶を発生させることなく実質的にセルジアンの単相を保持する特性を有していることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明に係る結晶化ガラスは、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とする結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスであり、当該結晶化ガラスは、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下では熱膨張係数が実質的に変化しない特性を有していることを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係る結晶化ガラスにおいて、「結晶相が実質的にセルジアンのみからなる」とは、結晶相の全てまたはそのほとんどのものがセルジアンであることを意味する。また、本発明に係る結晶化ガラスにおいて、「熱膨張係数が実質的に変化しない」とは、熱膨張係数が全くまたはほとんど変化しないことを意味する。
【0017】
本発明に係る結晶化ガラスは、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とするとともにLi2Oを修飾成分とし、同修飾成分であるLi2Oの含有量を0.05〜1.0重量%とし、かつ、Al23の含有量を当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下でのSiO2結晶の発生を規制する量とすることによって構成することができる。換言すれば、本発明に係る結晶化ガラスは、上記した組成を有するガラス原料を採用することによって形成することができる。
【0018】
本発明に係るこれらの結晶化ガラスにおいては、修飾成分として、Na2O、P25、B23、Sb23、ZnO、Bi23の群から選択される1または複数の成分を含有する構成とすることができる。
【0019】
本発明に係る反射鏡用基体は、本発明に係るこれらの結晶化ガラスを構成材料とするものである。本発明に係る反射鏡用基体においては、その熱膨張係数α(×10 7/℃)が30〜45の範囲にあること、曲げ強度が室温では120〜190Mpa、300℃では140〜210Mpa、600℃では170〜225Mpaの範囲にあること、弾性率が室温では90〜95Gpa、300℃では65〜80Gpa、600℃では40〜45Gpaの範囲にあることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る反射鏡用基体においては、当該基体を構成する結晶化ガラスを透過する光の最短波長が厚み1mmの結晶化ガラスにおいて800nm以上であること、当該基体を構成する結晶化ガラスを透過する透過率が50%の光の波長が厚み1mmの結晶化ガラスにおいて850nm以上であることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る反射鏡用基体においては、曲げ強度が室温においては120〜190Mpa、300℃においては140〜210Mpa、600℃においては170〜225Mpaの範囲にあり、弾性率が室温においては90〜95Gpa、300℃においては65〜80Gpa、600℃においては40〜45Gpaの範囲にあり、かつ、当該基体を構成する結晶化ガラスを透過する光の最短波長が厚み1mmの結晶化ガラスにおいて650nm以上であり、当該基体を構成する結晶化ガラスを透過する透過率が50%の光の波長は厚み1mmの結晶化ガラスにおいて850nm以上であることが好ましい。
【0022】
【発明の作用・効果】
本発明に係る結晶化ガラスは、結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスであって、耐熱性、機械的強度、光学特性に優れていることは勿論であるが、特に、下記の特性を有するものである。
【0023】
すなわち、本発明に係る結晶化ガラスは、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下という、当該結晶化ガラスの結晶化温度を下回る高温度下では、他の結晶を発生させることなく実質的にセルジアン単相を保持する特性を有している。当該特性は、当該結晶化ガラスがその結晶化温度に近い高温度に長時間曝される場合においても、当該結晶化ガラスには体積収縮がなくて熱的損傷が発生しないことを意味する。このため、当該結晶化ガラスは、その結晶化温度に近い高温度に長時間曝される使用態様が採られる部品の構成材料に最適である。
【0024】
また、本発明に係る結晶化ガラスは、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下という、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度を下回る高温度下に保持した時の熱膨張係数αが実質的に変化しない特性を有している。当該特性は、当該結晶化ガラスがその結晶化温度に近い高温に長時間曝される場合においても、当該結晶化ガラスには体積収縮がなくて熱的損傷が発生しないことを意味する。このため、当該結晶化ガラスは、その結晶化温度に近い高温に長時間曝される使用態様が採られる部品の構成材料に最適である。
【0025】
このように、本発明に係る結晶化ガラスは、耐熱性、機械的強度、光学特性に優れた機器部品を構成する材料として極めて有用なガラス質材料であって、高温に曝される使用態様の各種の機器部品を構成する材料として好適である。当該機器部品の代表的なものとしては、高輝度の光源ランプが取付けられて照明機器を構成する反射鏡を挙げることができる。本発明に係る結晶化ガラスは、当該反射鏡を構成する基体の構成材料として最適である。当該基体は、本発明に係る反射鏡用基体に該当する。
【0026】
本発明に係る結晶化ガラスは、例えば、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とするとともにLi2Oを修飾成分とし、同修飾成分であるLi2Oの含有量が0.05〜1.0重量%、かつ、Al23の含有量が当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下でのSiO2結晶の発生を規制する量である組成によって構成することができる。すなわち、本発明に係る結晶化ガラスは、基本的には、上記した組成と同一の組成のガラス原料を採用することによって形成することができる。なお、当該ガラス原料には、さらに修飾成分として、Na2O、P25、B23、Sb23、ZnO、Bi23の群から選択される1または複数の成分を含有させることができる。
【0027】
当該組成のガラス原料により形成されたガラスは、結晶化処理によって、必須不可欠とする修飾成分であるLi2Oが主体的に機能し、かつ、他の修飾成分が存在する場合には当該修飾成分が副次的に機能して、実質的にセルジアン(BaO・Al23・2SiO2)のみからなる結晶相を形成する。
【0028】
しかして、本発明の特徴の一は、当該ガラス組成の成分中のAl23の含有量を特定して、結晶化温度を下回るが当該結晶化温度に近い温度雰囲気においても熱安定性に優れていて、セルジアン(BaO・Al23・2SiO2)結晶相が本来有する特性を保持する結晶化ガラスを生成することにある。本発明では、Al23の含有量を、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下でのSiO2結晶の発生を規制する量に規定している。当該手段によって、当該結晶化ガラスに優れた熱的特性が付与される理由は定かではないが、本発明者等はAl23の機能を以下のように推測している。
【0029】
セルジアン(BaO・Al23・2SiO2)結晶相は、量論的には、BaO:Al23:2SiO2(モル比)を1:1:2とすることによって形成させるが、安定したガラスであるためには、SiO2のガラス相の存在が不可欠である。このためには、SiO2を当該モル比に対応する量よりも多く含有させる必要がある。
【0030】
従って、セルジアン(BaO・Al23・2SiO2)結晶相のみからなる安定な結晶化ガラスは、SiO2量が上記したモル比に対応する量より多い量の組成を基本組成とするものであり、本出願人の冒頭の先願に開示している結晶化ガラスは、当該基本組成からなるものである。当該基本組成を形成するSiO2における、当該モル比に対応する量よりも多い量を、便宜的にSiO2の余剰量と定義する。
【0031】
実質的にセルジアン結晶相のみからなる結晶化ガラスにおいては、結晶化処理中のセルジアン(BaO・Al23・2SiO2)結晶の成長に伴い、結晶粒子間に残存するガラス相では、ガラス修飾成分(Li2O,Na2O,B23,ZnO等) の比率が増大する。当該結晶化ガラスを結晶化処理温度に近い高温度に保持すると、余剰量のSiO2が存在する場合には、修飾成分の機能により、残存ガラス相内では、余剰量のSiO2に起因する新たなSiO2結晶が生成される。このため、当該結晶化ガラスにおいては、当該SiO2結晶の生成に起因して体積収縮が発生すると同時に、熱膨張係数αが増大する。従って、上記に定義しているSiO2余剰量に対応して、本発明で規定しているAl23の含有量「SiO2結晶の発生を規制する量」は、上記した基本組成のAl23量にSiO2余剰量に対処し得る余剰量を含有する量ということができる。従って、Al23のSiO2余剰量に対処し得る余剰量をAl23の余剰量と定義する。
【0032】
ガラス相中に余剰量のSiO2が存在する結晶化ガラスにおいては、この余剰量に対応する余剰量のAl23が存在している場合には、当該結晶化ガラスを結晶化処理温度に近い高温度に保持しても、余剰量のAl23が残存ガラス相内での新たなSiO2結晶の生成を規制する。このため、当該結晶化ガラスは、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度に近い高温の雰囲気にあっても、実質的にセルジアンのみからなる単相の結晶化状態を保持し、体積収縮がなくて熱膨張係数が変化しない熱的に安定した状態を維持することができるものである。
【0033】
【発明の実施の形態】
本発明に係る結晶化ガラスは、耐熱性、機械的強度、光学特性に優れた特性を有するもので、これらの特性を要求されている機器部品を構成する材料として極めて有用なガラス質材料である。また、本発明に係る反射鏡用基体は、本発明に係る結晶化ガラスを構成材料とするもので、耐熱性、機械的強度、光学特性に優れた特性を有し、これらの特性が要求されている反射鏡を構成する基体として極めて有用なものである。
【0034】
本発明に係る結晶化ガラスは、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とする実質的にセルジアンのみのからなる結晶化ガラスであって、当該結晶化ガラスにおける結晶化温度を下回る高温度では、他の結晶を発生させることなく実質的にセルジアンの単相を保持する特性を有し、および/または、当該結晶化ガラスにおける結晶化温度を下回る高温度で保持した時の熱膨張係数αが実質的に変化しない特性を有しているものである。
【0035】
本発明に係る結晶化ガラスは、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とするとともにLi2Oを修飾成分とし、同修飾成分であるLi2Oの含有量が0.05〜1.0重量%にあり、かつ、Al23の含有量が当該結晶化処理温度の75%〜90%の温度下でのSiO2結晶の発生を規制する量の組成を有するものである。従って、当該結晶化ガラスの組成は、上記した基本組成に余剰量のAl23を含有するものである。当該結晶化ガラスは、かかる組成と同様の組成を有するガラス原料にて形成することができる。当該結晶化ガラスにおいては、上記した各成分以外に、Na2O、P25、B23、Sb23、ZnO、Bi23の群から選択される1または複数の成分を修飾成分として含有していることが好ましい。
【0036】
光源ランプが取付けられて照明機器を構成する反射鏡において、優れた特性の反射鏡を構成するには、反射鏡を構成する基体(反射鏡用基体)に対しては、耐熱性、機械的強度、光学特性等の種々の特性に優れていることが要請される。また、かかる要請に対処するには、反射鏡用基体を構成する構成材料が耐熱性、機械的強度、光学特性等の特性に優れていることが必要である。本発明者等は、かかる事項に着目して、反射鏡用基体を構成する最適な構成材料についての検討をすでに行っている。
【0037】
本発明者等は、反射鏡用基体の構成材料としては結晶化ガラスが最適であるとの認識の下、セルジアンを結晶相とする結晶化ガラスを構成するSiO2−Al23−BaO系ガラスに着目して、ガラスの構成成分、結晶相、および、熱膨張係数αの関係を種々検討すべく実験を試みたところ、本出願人の先願に係る冒頭に示した特許文献2にて開示しているように、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とするガラスによって、セルジアンを主結晶相とする結晶化ガラスを構成することができること、および、当該結晶化ガラスの熱膨張係数α(×10 7/℃)が30〜45の範囲にあることの知見を得ている。
【0038】
本発明者等は、かかる知見に基づき、さらに、SiO2−Al23−BaO系ガラスに着目して、SiO2、Al23、BaOおよびTiO2を基本組成とするガラス原料の融点を低減させること、および、当該ガラス原料を成形材料とする成形体の結晶化能、および、結晶化後の耐熱性についてさらに検討している。
【0039】
本発明者等はかかる検討によって、上記した基本組成のガラス原料に所定量のLi2Oを付加することによって一層良好な結晶化ガラスが得られること、すなわち、結晶相が実質的にセルジアン(BaO・Al23・2SiO2)のみからなる結晶化ガラスが得られることを見出して、本出願人の先願に係る冒頭に示した特許文献3にて開示している。
【0040】
本発明者等は、これに加えて、SiO2、Al23、BaOおよびTiO2を主要構成成分とするガラス原料中のAl23の含有量を特定することによって、特異な熱的特性の結晶化ガラスが生成されることを見出した。
【0041】
上記した基本組成の成分を主要構成成分とするガラス原料において、少なくともLi2Oを修飾成分とすれば、融点が1500℃より著しく低い1450℃以下の融点のガラス原料を構成することができる。また、このような低融点のガラス原料を成形材料とするガラス成形体は、加熱処理により、セルジアンを主結晶相とする結晶化ガラスに変換でき、熱膨張係数α(×10 7/℃)が30〜45の範囲にある耐熱性の高い成形体を構成することができる。さらにまた、当該ガラス成形体は加熱処理温度、換言すれば結晶化温度を制御することにより、一層機械的特性および光学特性に優れた成形体を構成することができる。
【0042】
修飾成分であるLi2Oは、微量な範囲で、ガラスの溶解性を向上させ、セルジアン結晶の析出を促進し、かつ、セルジアン結晶の成長速度を増大するべく機能する。この場合のLi2Oの含有量は、0.05〜1.0重量%であることが好ましい。これにより、結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスを得ることができる。Li2Oの含有量が0.05重量%未満では溶解性の向上が低く、Li2Oの含有量が1.0重量%を越えると成形時の失透性(光学特性)が悪化するおそれがある。
【0043】
このような成分組成を有するガラス原料は、融点が1500℃より著しく低い1450℃以下の融点のガラス原料を構成することができる。また、このような低融点のガラス原料を成形材料とするガラス成形体は、加熱処理により、結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスに変換でき、熱膨張係数α(×10-7/℃)が30〜45の範囲にある耐熱性の高い成形体を構成することができる。また、ガラス成形体における結晶化ガラスの結晶粒子の粒子径を、0.1〜1μmという極めて微粒子の結晶粒子とすることができて、ガラス成形体の反射特性を著しく向上させることができる。
【0044】
以上の結晶化ガラスの特徴は、冒頭に示した本出願人の先願である特許文献3に開示している結晶化ガラスが有する特徴でもあり、本発明に係る結晶化ガラスの最大の特徴は、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下では他の結晶を発生させることなく実質的にセルジアンの単相を保持する特性を有し、および/または、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度を下回る高温度下で保持した時の熱膨張係数αが実質的に変化しない特性を有していることにある。当該結晶化ガラスの「結晶化処理温度の75%〜90%の温度」は、当該結晶化ガラスの成形体を基体とする反射鏡の使用態様における雰囲気温度を想定して設定した温度である。
【0045】
当該結晶化ガラスは、(SiO2−Al23−BaO)組成のセルジアン単結晶相を構成する基本組成に、Al23を、基本組成の成分量より余剰に付加したものである。Al23の余剰量は、当該結晶化処理温度を下回る高温度下でのSiO2結晶の発生を規制する量であり、当該基本組成に含まれている上記しているSiO2の余剰量に対応する。また、当該結晶化ガラスは、当該組成のガラス原料によって形成される。
【0046】
このような特異な熱的特性を有する結晶化ガラスは、当該結晶化ガラスの結晶化温度に近い高温に長時間曝される場合においても、熱的に極めて安定した状態にあって当該結晶化ガラスに熱的損傷が発生することがない。このため、当該結晶化ガラスは、その結晶化温度に近い高温に長時間曝される使用態様が採られる部品、例えば、高輝度の照明機器を構成する反射鏡を構成する基体(反射鏡用基体)の構成材料に最適である。
【0047】
ガラス原料および結晶化ガラスにおける上記した余剰量のAl23が、結晶化ガラスにこのような特異な熱的特性を付与する理由は定かではないが、「作用効果」の項で詳述しているように、余剰量のAl23が、ガラス相中のSiO2が結晶を生成する機能を阻止するためと推測される。
【0048】
このため、当該結晶化ガラスにおいては、当該SiO2結晶の生成に起因する体積収縮の発生が抑制される。この現象は、熱膨張係数αが増大することがないことを意味する。
【0049】
本発明に係る結晶化ガラスにおいては、ガラス原料の組成の選定と合わせて、結晶化温度を例えば800〜900℃の範囲で適宜制御することにより、曲げ強度、弾性率、透過性等の特性を異にする各種の特性の結晶化ガラスを構成することができる。これらの特性を有する結晶化ガラスから、反射鏡用基体として極めて優れた結晶化ガラスを選択して、高品質の反射鏡用基体を構成することができる。なお、このような成分組成を有するガラス原料には、修飾成分として、Li2Oの他に、Na2O、B23、Sb23、ZnOおよびBi23の群から選択される1または複数の成分を追加することができる。
【0050】
このような特殊な成分組成のガラス原料は、通常のガラス原料を用いたガラスの成形と同様に、溶融状態で成形型に供給されて、プレス成形、ロール成形、キャスト成形、ブロー成形等の成形手段により、基体と同一形状のガラス成形体に成形される。ガラス成形体の成形時におけるガラス原料の溶融温度は、ガラス原料の融点の関係から、1450℃以下に設定することができる。
【0051】
当該ガラス原料の溶融温度では、ガラス成形体の成形工程における成形型の型面での酸化の助長を抑制し得て、成形型の型面の表面荒れを大幅に低減させることができる。このため、ガラス成形体に要求される高精度の表面粗度に適合した成形型の型面の面粗度を長期間維持し得て、成形されるガラス成形体の表面の面粗度を、ガラス成形体に要求される高精度の面粗度、例えば、反射鏡用基体に要求される面粗度である0.03μm以下という面粗度に形成することができる。この場合の面粗度は、JISB0601の「中心線平均粗さRa」を意味する。
【0052】
反射鏡用基体は、上記した成分組成のガラス原料を溶融して成形されたガラス成形体を熱処理して、ガラス成形体を構成するガラスを結晶化させることにより形成される。ガラス成形体の結晶化処理は加熱炉で行い、一般的には、100℃/hr〜300℃/hrの昇温速度でガラスの変形温度以下の温度、例えば、600℃〜750℃に昇温しこの温度範囲で1〜3時間熱処理し、引き続き、800℃〜1100℃に昇温しこの温度範囲で1〜3時間熱処理をする。後者の熱処理が主たる結晶化処理であり、主たる結晶化処理の温度を結晶化温度と称している。
【0053】
かかる結晶化処理により、ガラス成形体を構成するガラスにおいては、その内部に微細で均一な結晶が生成されて、セルジアンを主結晶相としたヘキサセルジアンの結晶相が皆無または皆無に近い、実質的にセルジアン結晶相のみからなる結晶化ガラスに変換される。ガラス成形体は、実質的にセルジアン結晶相のみからなる基体に変換される。
【0054】
換言すれば、ガラス成形体は、ガラス原料中のLi2O、余剰のAl23の含有量を適正に設定することにより、また、付与すべき熱処理温度(結晶化温度)を適正に設定することにより、ヘキサセルジアン結晶相が存在しないセルジアン結晶相のみからなる結晶化ガラスに変換でき、かつ、特異な熱的特性を付与することができる。
【0055】
当該基体(反射鏡用基体)には、通常の手段で、その表面に薄膜多層の反射膜が蒸着されて反射鏡に形成される。形成された反射鏡は、高い反射率で散乱光を反射するとともに赤外線を透過し、その際、結晶化ガラスの結晶構造が透過しようとする赤外線を散乱させて、反射鏡の背面側に配設される部品の温度上昇を抑制する。
【0056】
本発明に係る反射鏡用基体は、結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスにて構成されていて、熱膨張係数α(×10 7/℃)が30〜45という低い範囲にあって高い耐熱性を有するため、反射鏡は耐熱衝撃性に優れ、高い温度での使用態様が可能な優れた反射鏡となる。また、当該基体を構成する結晶化ガラスを、結晶粒子が0.1〜1.0μmという微小の結晶粒子に形成することができて、反射率を一層向上させることができる。
【0057】
本発明に係る反射鏡用基体の最大の特徴は、特異な熱的特性(上記した熱膨張係数の特異性)を有する結晶化ガラスを形成材料としていることにある。これにより、反射鏡用基体は、形成材料である結晶化ガラスが有する熱的特性をそのまま保持することになる。このため、当該反射鏡用基体は、当該結晶化ガラスの結晶化温度に近い高温に長時間曝される使用態様が採られる高輝度の照明機器を構成する部品(反射鏡用基体)として最適である。
【0058】
得られる高品質の反射鏡用基体の特性の第1は、曲げ強度が、室温においては120〜190Mpa、300℃においては140〜210Mpa、600℃においては170〜225Mpaの範囲にあり、かつ、弾性率が、室温においては90〜95Gpa、300℃においては65〜80Gpa、600℃においては40〜45Gpaの範囲にあって、機械的特性および熱的特性に優れた耐久性の高い点にある。
【0059】
また、得られる高品質の反射鏡用基体の特性の第2は、基体を構成する結晶化ガラスを透過する光の最短波長が厚み1mmの結晶化ガラスにおいて650nm以上であり、かつ、基体を構成する結晶化ガラスを透過する透過率が50%の光の波長が厚み1mmの結晶化ガラスにおいて850nm以上であって、光学特性に優れている点にある。
【0060】
さらに、得られる高品質の反射鏡用基体の特性の第3は、曲げ強度が、室温においては120〜190Mpa、300℃においては140〜210Mpa、600℃においては170〜225Mpaの範囲にあり、かつ、弾性率が、室温においては90〜95Gpa、300℃においては65〜80Gpa、600℃においては40〜45Gpaの範囲にあり、基体を構成する結晶化ガラスを透過する光の最短波長が厚み1mmの結晶化ガラスにおいて650nm以上であり、かつ、基体を構成する結晶化ガラスを透過する透過率が50%の光の波長が厚み1mmの結晶化ガラスにおいて850nm以上であって、機械的特性、熱的特性、および光学的特性に優れている点にある。
【0061】
反射鏡用基体の最適な形態は、上記した曲げ強度および弾性率を有する厚みが3〜6mmのもので、基体を構成する結晶化ガラスを透過する光の最短波長が850nm、好ましくは1000nmのものである。本発明に係る反射鏡用基体においては、ガラス原料の選定および結晶化温度の制御により、当該形態の反射鏡用基体を容易に構成することができる。
【0062】
なお、反射鏡用基体を構成するガラス原料としては、融点が1450℃以下のものを選択することができる。この場合には、ガラス成形体を成形する際のガラス原料の溶融温度を1450℃以下という、通常のガラス原料の溶融温度である1500℃に比較して著しく低温度に設定することができる。
【0063】
このため、当該基体を成形する際に使用する成形型の型面は、1500℃以上の高温に曝されることがなくて、成形型の型面に対する高温加熱に起因する酸化の助長を抑制し得て、型面の表面荒れを抑制することができる。これにより、成形型の寿命が向上して、交換用の成形型を多数準備することに費やされる費用や、成形型の交換作業の費用を大幅に低減することができる。さらには、成形型の型面の表面荒れを抑制し得るため、当該基体に要求されている表面の面粗度(0.03μm以下)に対応して設定される成形型の型面の面粗度を長期間維持することができて、面粗度が0.03μm以下である基体を長期にわたって成形できる利点がある。
【0064】
当該基体を構成するガラス原料の組成における各成分、SiO2、Al23、BaOの成分は、結晶化ガラスの基本構造を形成するものである。当該結晶化ガラスを構成するガラス原料の組成は、主要構成成分であるSiO2が35〜55重量%、Al23が7〜25重量%、BaOが18〜38重量%、TiO2が8〜15重量%であり、かつ、修飾成分であるLi2Oが0.05〜1.0重量%、B23が3.0〜4重量%、ZnOが2.0〜2.5重量%、Na2Oが0.2〜2.0重量%、Sb23が0.1〜0.5重量%である。
【0065】
当該ガラス原料の最適な組成は、モル換算では概略、主要構成成分であるSiO2が55.8mol%、Al23が余剰分を含めて14.1mol%、BaOが13.1mol%、TiO2が9.2mol%であり、かつ、修飾成分であるLi2Oが0.8mol%、B23が3.9mol%、ZnOが2.5mol%、Na2Oが0.5mol%、Sb23が0.2〜0.5mol%である。
【0066】
当該組成中の各修飾成分のうち、ZnOはガラスの熱膨張率を低下させ化学的耐久性を向上すべく機能し、Na2Oはガラスの溶解、清澄化を容易にするが、化学的耐久性を低下させ、熱膨張率を増加すべく機能し、Sb23は溶融ガラスの清澄段階でSb25中のO2を放出して溶解ガラスを清澄化すべく機能する。
【0067】
当該基体を構成する結晶化ガラスを構成する結晶相は、実質的にセルジアンの結晶のみからなるもので、その結晶の粒子径(粒子の大きさ)は、好ましくは0.1〜1μmであり、より好ましくは0.1〜0.5μmである。結晶の粒子径が0.1μmを下回ると、当該基体の反射鏡の構成材料としての強度低下をきたし、また、結晶の粒子径が1μmを上回ると、基体を反射鏡に形成した場合の反射光の反射強度低下をきたす。また、結晶の粒子径が0.5μmの値は、反射光のうちの短波長である青色の散乱が始まる時点である。
【0068】
本発明に係る基体を構成部材とする反射鏡においては、基体を構成する結晶化ガラスが上記したごとき構成成分であって、実質的にセルジアンの結晶相のみからなる結晶化ガラスであり、結晶化ガラスの熱膨張係数α(×10 7/℃)を30〜45の範囲に設定することができるとともに、結晶化ガラスの結晶粒子を0.1〜1.0μmの微粒子状に設定できる。
【0069】
当該反射鏡は、機械的強度が向上し、結晶粒子サイズの微小化および均一化に起因して表面粗さが一層向上して研磨加工の低減を図ることができ、実質的にセルジアンのみからなる結晶相に起因して、耐熱性等の熱的特性が向上する。また、熱応力に対する耐衝撃性が向上するとともに、可視光透過率の低減等、光学特性の適正化を図ることができる。当該反射鏡は、使用態様における高温雰囲気での熱安定性に特に優れている。
【0070】
本発明においては、結晶化温度を制御することにより、透過する光の最短波長が異なるガラス成形体を得ることができること、結晶化温度を高く設定するほど、透過する光の最短波長が長いガラス成形体を得ることができる。結晶化ガラスのガラス成形体を反射鏡用基体として採用する場合には、基体からの可視光の漏れが皆無または皆無に近いほど好ましい。このような好ましい光学的特性を有する反射鏡用基体を構成する結晶化ガラスは、厚みが1mmにおける結晶化ガラスを透過する光の最短波長が650nm以上のものであり、当該結晶化ガラスはガラス成形体の結晶化温度を制御することにより容易に得られるものである。
【0071】
図1は、上記した結晶化ガラスからなる板状のガラス成形体(結晶化ガラス)分光透過特性を示すグラフであり、肉厚1mmのガラス成形体における光の各波長(nm)における透過率(%)の関係を示すグラフである。分光透過特性を示すグラフのうち、グラフ1は結晶化温度825℃で3時間結晶化させたもの、グラフ2は結晶化温度850℃で1時間結晶化させたもの、グラフ3は結晶化温度850℃で3時間結晶化させたものである。
【0072】
図1の分光透過特性を示すグラフから、結晶化温度を制御することにより、光の波長の透過率が異なるガラス成形体を得ることができること、結晶化温度を高く設定するほど、光の透過率の低いガラス成形体を得ることができることが確認される。結晶化ガラスのガラス成形体を反射鏡用基体として採用する場合には、基体からの可視光の漏れが皆無または皆無に近いほど好ましい。このような好ましい光学的特性を有する反射鏡用基体を構成する結晶化ガラスは、厚みが1mmにおける結晶化ガラスを透過する透過率が50%の光の波長が850nm以上のものであり、当該結晶化ガラスはガラス成形体の結晶化温度を制御することにより容易に得られるものである。
【0073】
ガラス成形体の結晶化温度を制御することにより、光学的特性の異なる種々の結晶化ガラスのガラス成形体を得ることができるが、これにより、曲げ強度(Mpa)および弾性率(Gpa)の異なるガラス成形体を得ることができることも確認している。結晶化ガラスのガラス成形体を反射鏡用基体として採用する場合には、基体は光源ランプにより相当高い温度に長時間曝される。この場合においても基体は高い機械的強度を保持し続けることが好ましい。このような好ましい機械的特性および熱的特性を有する反射鏡用基体は、下記の曲げ強度および弾性率を有するものである。
【0074】
すなわち、曲げ強度については、室温においては120〜190Mpa、300℃においては140〜210Mpa、600℃においては170〜225Mpaの範囲の曲げ強度を有し、弾性率については、室温においては90〜95Gpa、300℃においては65〜80Gpa、600℃においては40〜45Gpaの範囲の弾性率を有するものである。このような好適な反射鏡用基体は、結晶化温度を制御することにより容易に得ることができる。
【0075】
以上の結果、すなわち、ガラス原料、結晶化ガラス、結晶化ガラスからなる基体の特性は、本出願人の冒頭に示した特許文献3である本出願人の先願の発明において確認しているところである。
【0076】
図2および図3は、結晶相がセルジアンのみからなる結晶ガラスを構成材料とする反射鏡用基体(ガラス成形体)における、所定の加熱温度での体積膨張率の経時的挙動を示すグラフであって、後述する本発明の実施例および比較例の結果を示している。また、図4および図5は、上記したガラス成形体における、所定の加熱温度で20時間保持した後のX線回折チャートを示している。
【0077】
なお、当該X線回折データの測定には、X線回折装置RINT2100/PC(リガク社製)を採用して、測定条件として管電圧50KV、管電流30mA、測定範囲10度〜40度(回折角)、ステップ幅0.02度、ステップ送り速度0.6秒を採用した。
【0078】
図2に示すグラフは、余剰量のAl23を含有しないガラス原料からなるガラス成形体(比較例)におけるグラフであり、図3に示すグラフは、余剰量のAl23を含有するガラス原料からなるガラス成形体(実施例)におけるグラフである。また、図4に示すX線回折チャートは、余剰量のAl23を含有しないガラス原料からなるガラス成形体(比較例)におけるX線回折チャートであり、図5に示すX線回折チャートは、余剰量のAl23を含有するガラス原料からなるガラス成形体(実施例)におけるX線回折チャートである。
【0079】
各ガラス成形体においては、ガラス原料における余剰量のAl23の有無によって、体積膨張率の熱的挙動が大きく異なる。余剰量のAl23を含有しないガラス原料を構成材料とするガラス成形体(比較例)では、体積膨張率が経時的に漸次低下し、また、測定によれば熱膨張係数αは増大している。これに対して、余剰量のAl23を含有するガラス原料を構成材料とするガラス成形体(実施例)では、体積膨張率は経時的にはほとんど変化せず、また、測定によれば熱膨張係数αは変化していない。
【0080】
また、各成形体においては、ガラス原料中での余剰量のAl23の有無によって結晶状態が異なる。余剰量のAl23を含有しないガラス原料を構成材料とするガラス成形体(比較例)では、X線回折チャートの回折角2θが26.3度および20.5度の位置(矢印表示)にピークがある。これらのピークは、ガラス成形体内にSiO2が存在していることを意味している。これに対して、余剰量のAl23を含有するガラス原料を構成材料とするガラス成形体(実施例)では、X線回折チャートの回折角2θが26.3度および20.5度にピークはない。ピークがないことは、ガラス成形体内にSiO2が存在していないとを意味している。
【0081】
換言すれば、実施例に係るガラス成形体および比較例に係るガラス成形体を、結晶化処理温度の75%〜90%(650℃,700℃,750℃)の温度下では、後者のガラス成形体(比較例)内にSiO2結晶が発生して、実質的にセルジアンのみからなる結晶相(セルジアン単相)の結晶構造が損なわれること、これとは逆に、前者のガラス成形体(実施例)内には他の結晶は発生せず、実質的にセルジアンのみからなる結晶相(セルジアン単相)の結晶構造が保持されることを示している。
【0082】
このような熱的特性は、余剰量のAl23を含有するガラス原料を構成材料とするガラス成形体(実施例)では、結晶化温度に近い高温に長時間曝されても熱的に安定で熱的損傷を受けないことを教示し、また、余剰量のAl23を含有しないガラス原料を構成材料とするガラス成形体(比較例)では、結晶化温度に近い高温に長時間曝されると熱的に不安定な状態になって、熱的損傷を受けるおそれがあることを教示しているものである。
【0083】
【実施例】
本実施例では、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とするとともに、Li2O、その他の成分を修飾成分とするガラス原料を使用して結晶化ガラスを生成して、ガラス原料および結晶化ガラスの組成における「余剰量のAl23」の有無と結晶化ガラスの特性の関係を確認する実験を行った。
【0084】
(ガラス原料の調製):ガラス原料の調製では、結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスが生成される基本組成のガラス原料において、余剰量のAl23が存在するガラス原料(実施例)と、余剰量のAl23が存在しないガラス原料(比較例)の2種類のガラス原料を調製した。調製されたガラス原料の組成を表1に示す。また、表2には、表1に示すガラス原料に形成される結晶化ガラスにおいて、量論的に、セルジアン(BaO・Al23・2SiO2)が100%析出すると想定した場合の、残存ガラス成分比(モル比)を示している。これらのガラス原料の組成は、結果的には、生成される結晶化ガラスの組成である。
【0085】
【表1】
Figure 0004219197
【0086】
【表2】
Figure 0004219197
【0087】
(ガラス成形体の生成):結晶化ガラスの生成では、上記した2種類のガラス原料を1450℃で溶融して、反射鏡用基板である椀形状のガラス成形体を成形し、得られた各ガラス成形体を850℃の温度でそれぞれ結晶化処理して、各ガラス成形体を構成するガラスを結晶化ガラスに変換して、結晶相がセルジアン単相(実質的にセルジアンのみからなる結晶ガラス)の反射鏡用基体を構成した。得られた各ガラス成形体の特性を表3に示す。
【0088】
【表3】
Figure 0004219197
【0089】
(ガラス成形体の高温暴露試験):当該試験は、ガラス成形体(基体)を構成材料とする反射鏡の使用態様を想定したもので、各ガラス成形体を、反射鏡が長時間曝されると予想される温度650℃、700℃、750℃で20時間保持して、この状態での各ガラス成形体における体積膨張の経時的変化を測定した。得られた結果を図2および図3のグラフに示す。また、20時間加熱後の各ガラス成形体のX線回折を行うとともに、各成形体の熱膨張係数αを測定した。X線回折の回折チャートについては、図4および図5のグラフに示すとともに、熱膨張係数αについては表3に示す。
【0090】
(反射鏡の耐熱サイクル試験):当該試験では、生成した各ガラス成形体を基体とする各反射鏡について、エレマヒータによる耐熱サイクル試験を行って、各反射鏡の椀形形状の内周面を結晶化温度に近い高温に曝した場合の、「余剰のAl23」の有無とクラックの発生との関係を観察した。耐熱サイクル試験では、反射鏡の内周側に挿入して設置してあるエレマヒータへの通電の断続(通電2時間30分、断電30分)を1サイクルとしてこれを繰り返し行って、この間の各反射鏡におけるクラックの発生の有無を観察した。
【0091】
エレマヒータへの通電時には、エレマヒータの側部温度は1110℃となり、反射鏡の内周面におけるエレマヒータが近接する部位の温度は、エレマヒータが最も近接する内周面上部では800℃、エレマヒータが最も近接する内周面側部では650℃となった。得られた結果を表4に示す。
【0092】
【表4】
Figure 0004219197

【図面の簡単な説明】
【図1】結晶化ガラスからなる一成形体における透過する光の波長と透過率の関係(分光透過特性)を示すグラフである。
【図2】比較例に係るガラス成形体の高温雰囲気下での体積膨張率の経時挙動を示すグラフである。
【図3】実施例に係るガラス成形体の高温雰囲気下での体積膨張率の経時挙動を示すグラフである。
【図4】比較例に係るガラス成形体の高温雰囲気曝露後のX線回折チャートである。
【図5】実施例に係るガラス成形体の高温雰囲気曝露後のX線回折チャートである。

Claims (5)

  1. SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とする結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスであり、当該結晶化ガラスは、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下では、他の結晶を発生させることなく実質的にセルジアンの単相を保持する特性を有していることを特徴とする結晶化ガラス。
  2. SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とする結晶相が実質的にセルジアンのみからなる結晶化ガラスであり、当該結晶化ガラスは、当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下では、熱膨張係数が実質的に変化しない特性を有していることを特徴とする結晶化ガラス。
  3. 請求項1または2に記載の結晶化ガラスであり、当該結晶化ガラスは、SiO2、Al23、BaO、TiO2を主要構成成分とするとともにLi2Oを修飾成分とし、同修飾成分であるLi2Oの含有量は0.05〜1.0重量%であり、かつ、Al23の含有量は当該結晶化ガラスの結晶化処理温度の75%〜90%の温度下でのSiO2結晶の発生を規制する量であることを特徴とする結晶化ガラス。
  4. 請求項3に記載の結晶化ガラスであり、当該結晶化ガラスは、Na2O、P25、B23、Sb23、ZnO、Bi23の群から選択される1または複数の成分を修飾成分として含有することを特徴とする結晶化ガラス。
  5. 表面に薄膜状の反射膜が蒸着されて反射鏡を形成する基体であり、当該基体は請求項1〜4のいずれか一項に記載の結晶化ガラスにて構成されていることを特徴とする反射鏡用基体。
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