JP4218989B2 - 樹脂成形用金型 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形品の残留応力や歪みを低減する機能を有する樹脂成形用金型に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の樹脂成形用金型による成形工程の一例を図9を参照して説明する。図9は、従来の技術による一般の樹脂成形用金型を用いた成形工程を工程順に示すもので射出充填工程を(A)に、保圧工程を(B)に、冷却工程を(C)に示すものである。図中、11はキャビティ入れ子、12はキャビティプレート、13はコア入れ子、14はコアプレート、15はキャビティ空間(空隙部)、20は溶融樹脂、20′は固化した樹脂である。
【0003】
空隙部15はキャビティ入れ子11とコア入れ子13との間に設けられ、溶融樹脂20が充填される空間である。成形の工程を下記、▲1▼〜▲4▼に説明する。
▲1▼射出充填工程(図9(A))
空隙部15に連通するランナーやゲート等の流路から空隙部15部内に、溶融樹脂20を流し込む。
▲2▼保圧工程(図9(B))
空隙部15に充填された溶融樹脂20は、外部(例えば、射出シリンダ)から所定の圧力を受けることにより加圧される。この際、熱膨張している溶融樹脂20は、外部からの圧力によりキャビティ入れ子11とコア入れ子13の間の空隙部15の表面部に押しつけられる。
▲3▼冷却工程(図9(C))
空隙部15に充填された溶融樹脂20は、このあと冷却され固化する。この際、キャビティ入れ子11とコア入れ子13の熱膨張率よりも、樹脂の熱膨張率の方が大きいため、冷却された樹脂は、キャビティ入れ子11とコア入れ13の表面部から離れる。
▲4▼突き出し(取り出し)工程(図示せず)
固化した樹脂20′をエジェクターピン等により突き出し、成形品として取り出す。
【0004】
一般に、射出成形は、樹脂の圧縮性と温度膨張がキャンセルし合って成形されるプロセスである。例えば図10に示す非晶性樹脂のP-V-T曲線(「高分子・複合材料の成形加工」P.214〜216、(株)大学図書、1992)を参照して説明すると、図中の点線は、理想的な射出成形における挙動を示すものであり、樹脂の射出充填から保圧・冷却工程においての樹脂の圧力覆歴を模式的に示したものである。この図において、樹脂の圧力が緩和されないうちに成形品が取り出されたり、冷却収縮する際に部位によって冷却性に不均一が生じると、樹脂の圧力覆歴が図10中の一点鎖線に示すような覆歴をたどり、これが残留応力や歪みの要因となる。
【0005】
このような成形品の残留応力や歪みを小さくするために、成形プロセス中の圧力や温度分布を最適に制御できる工法開発が行われてきた。例えば射出充填圧力や金型内樹脂圧力の制御に関する工法としては、下記1)〜6)のような例が報告されている。
1)射出圧縮成形
型締めタイミングにより、射出充填圧力を間接的に制御する(低圧化出来る)。(「最近の低圧成形」、花井宏志、合成樹脂、42、No3、p.36、(1996)等を参照)
2)型内真空成形
金型のキャビティ内を減圧することにより、射出充填圧力を低圧化できる。(特開平5−200803号公報等を参照)
3)低圧・高速成形
射出圧力を多段に切り替えて、射出充填圧力を制御する(低圧化出来る)。(「最近の低圧成形」、花井宏志、合成樹脂、42、No3、p.36、(1996)等を参照)
4)ガスアシスト成形
射出充填時に気体あるいは液体を樹脂中に送り込むことにより、効率的に保圧をかける。(「最近の低圧成形」、花井宏志、合成樹脂、42、No3、p.36、(1996)等を参照)
5)型内ゲートカット成形
ゲートの開閉により、金型内樹脂圧力を制御する(特開平3−61013号公報等を参照)
6)複数頭形射出成形
複数の射出シリンダーを使用することにより、射出充填圧力を低くする。(特開平5−278061号公報等を参照)
【0006】
しかしながら、上記1)〜6)に示した技術においては、各項に対応してそれぞれ以下の不具合がある。
1)特殊な射出圧縮用成形機が必要。また、薄肉で複雑な形状をもつ大物成形品の場合、射出圧縮あるいは射出プレス成形法では金型が複雑になる。
2)金型内に空気流路を設けなければならず、また、成形機と別に真空系を備えなればならない。
3)特殊な高速充填用の射出ユニットが必要となる。
4)特殊なガスインジェクション装置や成形機等が必要であり、また、金型内にも気体または液体用の流路が必要となる。
5)金型内にゲートの開閉を行う装置の付設が必要であり、またそのゲート開閉を制御するための空気シリンダーあるいは油圧シリンダーが必要となる。
6)特殊な成形機が必要となる。
【0007】
以上のように上記の従来技術においては、特殊な成形機、付帯設備、あるいは金型内に特殊な加工が必要であり、金型もしくは金型を含む成形機が高価になってしまうという問題が生じる。また、上記の従来の成形工法は全て、射出充填圧力や金型内樹脂圧力をなるべく低くして成形するようにした工法であるため、樹脂の温度膨張に関しては制御しきれず、成形品の残留応力や歪みを完全に除去できるものではなかった。
【0008】
一方、このような問題に対し、従来技術においては、下記の7)〜9)に示すような成形工法が報告されている。
7)一般の射出成形により成形された成形品をアニールする(公知技術)。
8)ヘッティンガ低圧射出成形法
加熱された金型に、樹脂を低速・低圧で射出充填し、成形品を得るようにした低圧射出成形法であり、「合成樹脂」(37、No9、p.34(1992))等にヘッティンガ低圧射出成形として紹介されている。
9)温水、油、ヒートパイプや高周波誘導加熱を利用して、金型の局部、あるいは全体を樹脂の軟化点近傍まで上昇させた後、アニールにより常温付近まで冷却して、成形品を取り出し、残留応力や歪みを小さくさせる工法(例えば、特公平4−53690号公報等に開示)。
上記、7)〜9)の工法は、樹脂の温度膨張を制御し、成形品の残留応力や歪みを小さくすることを目的としていた。
【0009】
しかしながら上記の7)〜9)に示した工法(成形品のアニール、ヘッティンガ低圧射出成形法や金型温度を樹脂の軟化点近傍まで上昇させた後、アニールする工法)は、全て、成形品あるいは金型の加熱と冷却を繰り返す工程が必要となり、この工程を実現するためには多大なエネルギーを必要とし、更に成形サイクルが長くなるという欠点があった。また、これまでの述べた1)〜9)のいずれの成形工法においても、成形機の型締め方向と非型締め方向との圧力差は従来の射出成形と同様であった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の様な実情に鑑みてなされたもので、低圧でかつ樹脂の等方性均一収縮成形が可能であり、ひいては成形品の残留応力および歪みの低減を実現し、更には、離型性及び転写性を向上させた樹脂成形金型を提供することをその解決すべき課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、キャビティプレートと、該キャビティプレートに入れ子式に嵌合するキャビティ入れ子と、コアプレートと、該コアプレートに入れ子式に嵌合するコア入れ子との4つの部材を少なくとも備えてなり、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子との間に形成された空隙部に溶融樹脂を充填して成形を行なう樹脂成形用金型において、前記キャビティプレートと前記キャビティ入れ子と、前記コアプレートと前記コア入れ子のに、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子の膨張を吸収する大きさのクリアランスを設けるとともに、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子の材料として前記溶融樹脂と同じ熱膨張率を有する材料を用い、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子の温度の上昇・下降に伴う前記空隙部の膨張・収縮と該空隙部内の溶融樹脂の膨張・収縮とが同じになるようにしたことを特徴とし、もって、射出圧力が低減でき、比較的低圧型締めの成形機でも成形でき、比較的小さい成形機が使用できることから、金型を小さくして(金型費低減)、部品の費用も安くし、更に、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みをも低減し得るものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の樹脂成形用金型において、前記クリアランスにおける前記各部材間の距離が0.01mm以上であることを特徴とし、もって、射出圧力が低減でき、比較的低圧型締めの成形機でも成形でき、比較的小さい成形機が使用できることから、金型を小さくして(金型費低減)、部品の費用も安くし、更に、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みをも低減できることを可能とする具体的数値が与えられるものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の樹脂成形用金型において、前記クリアランスの一部に弾性体を設置したことを特徴とし、もって、キャビティ入れ子とコア入れ子の位置決めを容易とし、精密な形態の金型にも対応し得るものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3記載の樹脂成形用金型において、前記弾性体としてバネを使用したことを特徴とし、もって、キャビティ入れ子とコア入れ子の位置決めを容易とし、精密な形態の金型にも対応し得るようにするとともに、金型を安価に製作することができるものである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項3記載の樹脂成形用金型において、前記弾性体としてゴムを使用したことを特徴とし、もって、キャビティ入れ子とコア入れ子の位置決めを容易とし、精密な形態の金型にも対応し得るようにするとともに、弾性体の加工が容易であり、スプリング等と比較して、高精度に加工できるため、位置決め精度が更に向上するものである。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1ないし5いずれか1記載の樹脂成形用金型において、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子が互いに接触する界面において、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子とのいずれか一方の表面にテーパブロックを設けるとともに、該テーパブロックを設けない前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子のいずれか一方の表面に、前記テーパブロックに嵌合する凹部を設けることにより、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子の位置決めを行なうことができるようにしたことを特徴とし、もって、キャビティ入れ子とコア入れ子の位置決めを簡便かつ確実に行なうことができ、高精度の金製を製作することができるものである。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1ないし6いずれか1記載の樹脂成形用金型において、前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の材料の一部に樹脂を用いたことを特徴とし、もって、成形品の溶融樹脂との熱膨張率が近いため、射出充填時の圧力を更に小さくし、成形品の残留応力や歪みを低減し得るものである。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1ないし7いずれか1記載の樹脂成形用金型において、前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の材料の一部に、鉄鋼材料よりも熱膨張率の大きい金属をバインド材料によりバインドしてなる配合物を用いたことを特徴とし、もって、エポキシなどの樹脂に比べて硬度が高いため、金型の耐久性を向上し得るものである。
【0019】
請求項9の発明は、請求項1ないし8いずれか1記載の樹脂成形用金型において、前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の少なくとも一方に、温度調整手段を備えたことを特徴とし、もって、キャビティ入れ子とコア入れ子の熱膨張や熱収縮を調整できることから、更なる射出圧力の低減が実現でき、比較的低型締めの成形機でも成形することを可能とし、さらに、比較的小さい成形機が使用できることから、金型を小さくでき、金型費を低減させることができ、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みをも低減でき、転写性をも向上し得るものである。
【0020】
請求項10の発明は、請求項9記載の樹脂成形用金型において、前記温度調整手段は加熱方式による温度調整手段であることを特徴とし、もって、キャビティ入れ子とコア入れ子の熱膨張や熱収縮を調整できることから、更なる射出圧力の低減が実現でき、比較的低型締めの成形機でも成形することを可能とし、さらに、比較的小さい成形機が使用できることから、金型を小さくでき、金型費を低減させることができ、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みをも低減でき、転写性をも向上し得るものである。
【0021】
請求項11の発明は、請求項1ないし10いずれか1記載の樹脂成形用金型において、前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の表面のうち、前記空隙部を形成する空隙部表面において、前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の少なくとも一方の前記空隙部表面に、前記溶融樹脂に対して離型性の良い材料をコーティングしたことを特徴とし、もって、成形品の金型に対する離型性を向上し得るものである。
【0022】
請求項12の発明は、請求項11記載の樹脂成形用金型において、前記コーティングを100μm以下の膜厚で設けたことを特徴とし、もって、成形品の金型に対する離型性が向上することを可能とする具体的数値が与えられるものである。
【0023】
請求項13の発明は、請求項11または12記載の樹脂成形用金型において、前記コーティングした離型性の良い材料の下層に、熱伝導率が50w/m・K以下である材料の層を設けたことを特徴とし、もって、転写性および離型性を更に向上し得るものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明は、射出成形における、射出充填圧力、金型内樹脂圧力および樹脂の温度膨張の制御に関する一工法であり、少なくとも、キャビティ入れ子、キャビティプレート、コア入れ子、およびコアプレートの4部品で構成された樹脂成形用金型において、該キャビティ入れ子とキャビティプレートとの間、ならびに該コア入れ子とコアプレートとの間に所定のクリアランスを有するようにし、一般に使用されている金型材料(鉄鋼)より高い熱膨張率と低い弾性率を有する金型材質を使用することにより、低圧環境下で樹脂の等方性収縮成形が可能であり、ひいては成形品の残留応力および歪みの低減を図るようにしたものである。
【0025】
なお、ここで言う金型材料としての鉄鋼とは、アズ・ロールド鋼(SC,SCM系)、プリハードン鋼(SC,SCM,SUS,SKD系)、焼き入れ・焼き戻し鋼(SUS,SKD11系)、時効処理鋼(マルエージング鋼、非磁性鋼)等を意味する。
また、鉄鋼より熱膨張率の大きい材料としてアルミニウム、亜鉛、銅、等が挙げられるが、この発明に使用される材料としてはこれに限る物ではなく、鉄鋼より熱膨張率が大きい材料があれば何ら問題はない。
【0026】
また、上記、金型材質に熱伝導率の比較的低い材料(50w/m・K以下)や樹脂に対して離型性の良い物質をコーティングすることにより、更に、転写性を向上でき、低圧で且つ等方性収縮成形が可能であり、ひいては成形品の残留応力および歪みの低減を可能とする樹脂成形用金型を提供するものである。
【0027】
以下に本発明による樹脂成形用金型の実施形態を添付された図面を参照して具体的に説明する。なお実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものには同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
まず、本発明による樹脂成形用金型を用いた成形工程を図1を参照して説明する。図1は、本発明による樹脂成形用金型を用いた成形工程を工程順に示すもので、射出充填工程を(A)に、保圧工程を(B)に、冷却工程を(C)に示すものである。図中、図9と同じ作用をする部分には、図9と同じ符号が付してある。本発明に係る工程においては、樹脂成形品が出来上がるまでの工程自体は従来の工程と同様に進められるが、工程中の樹脂の圧力覆歴等が従来とは異なる。
【0028】
まず、図1(A)の射出充填工程でキャビティ空間15に充填された溶融樹脂20は図1(B)の保圧工程で外部から所定の圧力に加圧される。この際、溶融樹脂20は熱膨張し、更に、外部からの圧力によりキャビティ入れ子11とコア入れ子13の表面部に押しつけられるが、キャビティ入れ子11とキャビティプレート12との間には第1の間隙(クリアランス)16が、また、コア入れ子13とコアプレート14との間には第2の間隙(クリアランス)17が設けられていて、更に、キャビティ入れ子11の上面部に第3の間隙(クリアランス)18と、コア入れ子13の下面部に第4の間隙(クリアランス)19が設けられて各入れ子がフリー状態にあるため、キャビティ空間(空隙部)15に射出充填された溶融樹脂20の熱膨張と、樹脂と同じ程度の熱膨張を有するキャビティ入れ子11ならびにコア入れ子13の熱膨張がキャンセルし合うことが可能となる。
【0029】
更に、図1(C)の冷却工程において、キャビティ空間15に充填された溶融樹脂20は、冷却されて固化するが、図1(B)の保圧工程と同様に、キャビティ空間15に射出充填された溶融樹脂20の熱膨張と、樹脂と同じ程度の熱膨張を有するキャビティ入れ子11ならびにコア入れ子13の冷却に伴う収縮がキャンセルし合う。
【0030】
次いで、本発明による樹脂成形用金型を用いて成形を行なったときの非晶性樹脂のP-V-T曲線を図2を参照して説明する。図2は、従来技術を説明した図10と同様の形態で表現してあり、図2における実線は、樹脂のP-V-T曲線を示し、点線は、理想的な射出成形における、樹脂のP-V-T覆歴を模式的に示したものである。従来の技術において説明したように、一般の射出成形における溶融樹脂20のP-V-T覆歴は、理想的には、図2中の点線をたどる。しかし、実際は、溶融樹脂20の圧力布分や温度の均一化が非常に困難であるため、一点鎖線のような覆歴をたどる。すなわち、このような一点鎖線の覆歴をたどると、成形品に残留応力や歪みが残ることになる。
【0031】
一方、本発明においては、これまで述べてきたように、図1に示した保圧工程、ならびに冷却工程において、キャビティ入れ子11とコア入れ子13が溶融樹脂20と同じ程度熱膨張し、また、比較的弾性率が低い材料を用いて製作されていることから、溶融樹脂20は図2中の二点鎖線に示すようなP-V-T覆歴をたどる。すなわち、図2に示す△Pの分だけ従来の技術に比し射出充填圧力を低減することが出来るため、比較的低圧型締めの成形機でも成形を行なうことができるだけでなく、成形品中の残留応力をも低減することができる。更に、前記のように、比較的低圧型締めの成形機で成形できることから、型締め方向と非型締め方向の圧力差による溶融樹脂20の収縮差をも低減でき、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みを低減することが可能となる。
【0032】
以下に本発明による樹脂成形用金型の構造を各実施例として具体的に説明する。
(実施例1)図3は、本発明による樹脂成形用金型の一実施例を示す断面図で、これは、請求項1および2に対応する実施例である。なお、この実施例での金型構造は、本発明の成形工程を説明した図1に適用したものである。この実施例の樹脂成形用金型において、射出充填された溶融樹脂20は熱膨張し、更に、外部からの圧力によりキャビティ入れ子11とコア入れ子13の表面部に押しつけられるが、キャビティ入れ子11とキャビティプレート1との間の第1の間隙(クリアランス)16、およびコア入れ子13とコアプレート14との間の第2の間隙(クリアランス)17が設けられていて、更に、キャビティ入れ子11の上面部とコア入れ子13の下面部にはそれぞれ第3,第4の間隙(クリアランス)18,19が設けられていて、各入れ子がフリー状態にあるため、射出充填された溶融樹脂20の熱膨張と樹脂と同じ程度の熱膨張率を有するキャビティ入れ子11ならびにコア入れ子13の熱膨張がキャンセルし合う。
【0033】
更に、溶融樹脂20の冷却工程において、充填された溶融樹脂20が、冷却され固化する際、この樹脂と同じくらいの熱膨張率を有するキャビティ入れ子11ならびにコア入れ子13が樹脂の収縮とキヤンセルし合う。これらの作用により、射出圧力が低減でき、比較的低圧型締めの成形機でも成形できる。すなわち、比較的小さい成形機が使用できることから、金型を小さく出来(金型費低減)、また、部品の費用も安くすることができる。更に、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みをも低減できる。
【0034】
(実施例2)
図4は、本発明による樹脂成形用金型の他の実施例を示す断面図で、これは、請求項3ないし5に対応する実施例である。図中、21は弾性体である。
この実施例の樹脂成形用金型において、キャビティ入れ子11とキャビティプレート12との間、およびコア入れ子13とコアプレート14との間、更に、キャビティ入れ子11の上面部とコア入れ子13の下面部のそれぞれの位置に弾性体21が設置されている。このような構成を有することにより、キャビティ入れ子11とコア入れ子13との位置決めが容易となり、精密な形態の金型にも対応出来る。
【0035】
上記弾性体21として使用されるバネ(例えばスプリング、皿バネ、ならびに板バネ等)は、市販品が多く流通しているため、入手し易く、また、単価も比較的安い。すなわち、金型を安価に製作することができる。
また、上記弾性体21として、ゴムなどを使用した際は、弾性体21の加工が容易であり、スプリング等と比較して、高精度に加工できるため、位置決め精度が更に向上する。
【0036】
(実施例3)
図5は、本発明による樹脂成形用金型の更に他の実施例を示す断面図で、これは請求項6に対応する実施例である。図中、22はテーパブロックである。この実施例の樹脂成形用金型において、キャビティ入れ子11、およびコア入れ子13との界面部に、位置決め精度を上げるためのテーパブロック22を設けているため、更なる高精度金型を製作することができる。
【0037】
(実施例4)
図6は、本発明による樹脂成形用金型の更に他の実施例を示す断面図で、これは請求項7ないし10に対応する実施例である。図中23は温度調整機構である。この実施例では、キャビティ入れ子11とコア入れ子13の材質として、例えばエポキシに代表されるような樹脂を使用すると、溶融樹脂20との熱膨張率が近いため、射出充填時の圧力を更に小さくすることができる。すなわち、成形品の残留応力や歪みを低減できる。
また、キャビティ入れ子11とコア入れ子13の材質として、アルミニウム粉末をエポキシ樹脂でバインドした配合物を使用すると、エポキシ樹脂などに比べて硬度が高いため、金型の耐久性が向上する。
ここでは、アルミ粉末に限らず、亜鉛,銅,鉛等のように、鉄鋼材に比べ熱膨張率が大きい金属であれば何ら問題はない。また、バインド材としてもエポキシ樹脂に限らず前記金属をバインドできる材料、例えば、合成樹脂接着剤,ゴム系接着剤や天然産物接着剤等であれば何ら問題はない。
【0038】
一方、キャビティ入れ子11が、キャビティプレート12、コア入れ子13、およびコアプレート14の少なくとも一つ以上に、該金型の温度調整機構23(例えば、温水配管やヒートパイプ等)を備えるようにすることにより、キャビティ入れ子11とコア入れ子13の熱膨張や熱収縮を調整できることから、更なる射出圧力の低減が実現でき、比較的低型締めの成形機でも成形することが可能となる。すなわち、比較的小さい成形機が使用できることから、金型を小さくでき、金型費を低減させることができる。更に、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みをも低減でき、更に、転写性も向上する。
【0039】
(実施例5)
図7は、本発明による樹脂成形用金型の更に他の実施例を示す断面図で、これは請求項11及び12に対応する実施例である。図中11′はキャビティ表面、24は離型性材料である。この実施例ではキャビティ入れ子11あるいはコア入れ子13の少なくともどちらか一方の空隙部表面(この実施例では、キャビティ入れ子表面11′)に離型性材料24がコーティングされているので、成形品の金型に対する離型性が向上する。このような成形される樹脂に対して離型性の良い材料として、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂があるが、この発明に使用される材料は、これに限るものではなく、成形される樹脂に対して離型性の良い材料であれば何ら問題はない。
【0040】
(実施例6)
図8は、本発明による樹脂成形用金型の更に他の実施例を示す断面図で、これは請求項13に対応する実施例である。図中、25は断熱材料である。この実施例ではキャビティ入れ子11あるいはコア入れ子38の少なくともどちらか一方の空隙部表面(ここでは、キャビティ入れ子表面11′)に断熱性材料25および離型性材料24がコーティングされているので、転写性および離型性が更に向上する。
前記の断熱性材料として、熱伝導率の比較的低い材料(50W/m・k以下)が有効であり、このような材料には、金属化物やアスベストに代表される繊維状鉱物結晶体があるが、これらに限らず、熱伝導率の比較的低い材料(50W/m・k以下)であれば何ら問題はない。
【0041】
【発明の効果】
請求項1および2の効果:キャビティ入れ子及びコア入れ子の材料として、一般の金型材質よりも熱膨張が大きく、弾性率の低い材料を使用し、このキャビティ入れ子及びコア入れ子の膨張を吸収できる空隙部を設けておくことにより、射出圧力が低減でき、比較的低圧型締めの成形機でも成形できる。すなわち、比較的小さい成形機が使用できることから、金型を小さく出来(金型費低減)、また、部品の費用も安くすることができる。更に、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みをも低減できる。
【0042】
請求項3の効果:請求項1および2の効果に加えて、キャビティ入れ子とキャビティプレートの間ならびにコア入れ子とコアプレートの間に弾性体を設けるようにすることにより、キャビティ入れ子とコア入れ子の位置決めが容易となり、精密な形態の金型にも対応することができる。
【0043】
請求項4の効果:請求項3の効果に加えて、上記弾性体として使用されるバネ(例えばスプリング、皿バネ、ならびに板バネ)等は、市販品が多く流通しているため、入手し易く、また、単価も比較的安い。すなわち、金型を安価に製作することができる。
【0044】
請求項5の効果:請求項3の効果に加えて、上記弾性体として、ゴムなどを使用した際は、弾性体の加工が容易であり、スプリング等と比較して、高精度に加工できるため、位置決め精度が更に向上する。
【0045】
請求項6の効果:請求項1および5の効果に加えて、キャビティ入れ子とコア入れ子とに、テーパブロックを設けるようにすることによって位置決めを簡便かつ確実に行なうことができ、高精度の金型を製作することができる。
【0046】
請求項7の効果:請求項1ないし6のいずれかの効果に加えて、キャビティ入れ子とコア入れ子の材料としてエポキシに代表されるような樹脂を使用すると、成形品の溶融樹脂との熱膨張率が近いため、射出充填時の圧力を更に小さくすることができる。すなわち、成形品の残留応力や歪みを効果的に低減できる。
【0047】
請求項8の効果:請求項1ないし7のいずれかの効果に加えて、キャビティ入れ子とコア入れ子材質として、アルミニウム粉末をエポキシ樹脂でバインドした配合物を使用すると、エポキシ樹脂などに比べて硬度が高いため、金型の耐久性が向上する。
【0048】
請求項9及び10の効果:請求項1ないし8のいずれかの効果に加えて、キャビティ入れ子またはコア入れ子の少なくともどちらか一方に温度調整機構を備えるようにすることにより、キャビティ入れ子とコア入れ子の熱膨張や熱収縮を調整できることから、更なる射出圧力の低減が実現でき、比較的低型締めの成形機でも成形することが可能となる。すなわち、比較的小さい成形機が使用できることから、金型を小さくでき、金型費を低減させることができる。更に、成形品中の残留応力ばかりでなく、歪みをも低減でき、更に、転写性も向上する。
【0049】
請求項11及び12の効果:請求項1ないし10のいずれかの効果に加えて、キャビティ入れ子あるいはコア入れ子の少なくともどちらか一方のキャビティ表面部に離型性材料がコーティングされているので、成形品の金型に対する離型性が向上する。
【0050】
請求項13の効果:請求項11および12の効果に加えて、キャビティ入れ子あるいはコア入れ子の少なくともどちらか一方の空隙部表面に断熱性材料および離型性材料がコーティングされているので、樹脂の転写性および離型性が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による樹脂成形用金型を用いた成形工程を工程順に示すもので、射出充填工程を(A)に、保圧工程を(B)に、冷却工程を(C)に示すものである。
【図2】 本発明による樹脂成形用金型を用いて成形を行なったときの非晶性樹脂のP−V−T曲線を示す図である。
【図3】 本発明による樹脂成形用金型の一実施例を示す断面図である。
【図4】 本発明による樹脂成形用金型の他の実施例を示す断面図である。
【図5】 本発明による樹脂成形用金型の更に他の実施例を示す断面図である。
【図6】 本発明による樹脂成形用金型の更に他の実施例を示す断面図である。
【図7】 本発明による樹脂成形用金型の更に他の実施例を示す断面図である。
【図8】 本発明による樹脂成形用金型の更に他の実施例を示す断面図である。
【図9】 従来の技術による一般の樹脂成形用金型を用いた成形工程を工程順に示すもので、射出充填工程を(A)に、保圧工程を(B)に、冷却工程を(C)に示すものである。
【図10】 従来の技術による樹脂成形用金型を用いて成形を行なったときの非晶性樹脂のP−V−T曲線を示す図である。
【符号の説明】
11…キャビティ入れ子、11′…キャビティ表面、12…キャビティプレート、13…コア入れ子、14…コアプレート、15…キャビティ空間(空隙部)、16…第1の間隙(クリアランス)、17…第2の間隙(クリアランス)、18…第3の間隙(クリアランス)、19…第4の間隙(クリアランス)、20…溶融樹脂、20′…固化した樹脂、21…弾性体、22…テーパブロック、23…温度調整機構、24…離型性材料、25…断熱材料。

Claims (13)

  1. キャビティプレートと、該キャビティプレートに入れ子式に嵌合するキャビティ入れ子と、コアプレートと、該コアプレートに入れ子式に嵌合するコア入れ子との4つの部材を少なくとも備えてなり、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子との間に形成された空隙部に溶融樹脂を充填して成形を行なう樹脂成形用金型において、前記キャビティプレートと前記キャビティ入れ子間と、前記コアプレートと前記コア入れ子の間に、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子の膨張を吸収する大きさのクリアランスを設けるとともに、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子の材料として前記溶融樹脂と同じ熱膨張率を有する材料を用い、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子の温度の上昇・下降に伴う前記空隙部の膨張・収縮と該空隙部内の溶融樹脂の膨張・収縮とが同じになるようにしたことを特徴とする樹脂成形用金型。
  2. 前記クリアランスにおける前記各部材間の距離が0.01mm以上であることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形用金型。
  3. 前記クリアランスの一部に弾性体を設置したことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂成形用金型。
  4. 前記弾性体としてバネを使用したことを特徴とする請求項3記載の樹脂成形用金型。
  5. 前記弾性体としてゴムを使用したことを特徴とする請求項3記載の樹脂成形用金型。
  6. 前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子が互いに接触する界面において、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子とのいずれか一方の表面にテーパブロックを設けるとともに、該テーパブロックを設けない前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子のいずれか一方の表面に、前記テーパブロックに嵌合する凹部を設けることにより、前記キャビティ入れ子と前記コア入れ子の位置決めを行なうことができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし5いずれか1記載の樹脂成形用金型。
  7. 前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の材料の一部に樹脂を用いたことを特徴とする請求項1ないし6いずれか1記載の樹脂成形用金型。
  8. 前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の材料の一部に、鉄鋼材料よりも熱膨張率の大きい金属をバインド材料によりバインドしてなる配合物を用いたことを特徴とする請求項1ないし7いずれか1記載の樹脂成形用金型。
  9. 前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の少なくとも一方に、温度調整手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし8いずれか1記載の樹脂成形用金型。
  10. 前記温度調整手段は加熱方式による温度調整手段であることを特徴とする請求項9記載の樹脂成形用金型。
  11. 前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の表面のうち、前記空隙部を形成する空隙部表面において、前記キャビティ入れ子及び前記コア入れ子の少なくとも一方の前記空隙部表面に、前記溶融樹脂に対して離型性の良い材料をコーティングしたことを特徴とする請求項1ないし10いずれか1記載の樹脂成形用金型。
  12. 前記コーティングを100μm以下の膜厚で設けたことを特徴とする請求項11記載の樹脂成形用金型。
  13. 前記コーティングした離型性の良い材料の下層に、熱伝導率が50w/m・K以下である材料の層を設けたことを特徴とする請求項11または12記載の樹脂成形用金型。
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