JP4218302B2 - NOxセンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はNOXセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
ガス中のNOX(窒素酸化物)濃度を検出するためのNOX濃度検出装置(以下、NOXセンサと称す)が、特許文献1に開示されている。こうしたNOXセンサでは、様々な要因から、ガス中のNOX濃度が零であることを示すNOXセンサの出力値(いわゆる、零点)がずれることがある。この場合、NOXセンサによって、ガス中のNOX濃度が正確には検出されないこととなる。そこで、特許文献1では、ガス中のNOX濃度が零になったときのNOXセンサの出力値を零点とすることによるNOXセンサの零点較正を行うようにしている。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−148910号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特許文献1に記載のNOXセンサは、ガス中のNOX濃度のみならず、ガス中のH2(水素)濃度をも検出してしまう。すなわち、NOXセンサの出力値には、NOX濃度に対応する出力とH2濃度に対応する出力とが含まれている。したがって、NOXセンサの零点較正を行ったときのガス中のH2濃度が、NOXセンサによってNOX濃度を検出しているときのガス中のH2濃度と異なると、NOXセンサによって検出されるNOX濃度は、真のNOX濃度を示していないことになる。
【0005】
このように、様々な要因から、NOXセンサの零点がずれるといったように、NOXセンサの出力特性が変化する場合があり、この場合、NOXセンサによって真のNOX濃度を検出することができなくなってしまう。そこで、本発明の目的は、NOXセンサによってより正確にガス中のNOX濃度を検出することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、1番目の発明では、ガス中のNOX濃度を検出するためのNOX検出手段を具備し、該NOX検出手段がガス中のH2濃度をも検出可能であるNOXセンサにおいて、NOX検出手段に酸素成分を含まずH2を含むガスを供給可能なH2供給手段と、NOX検出手段に到達するガス中のH2濃度を推定するためのH2濃度推定手段とを具備し、上記H2濃度推定手段によってガス中のH2濃度を推定し、H2濃度推定手段によって推定されたガス中のH2濃度とNOX検出手段によって検出されたガス中のH2濃度とに基づいてNOX検出手段の出力に対する補正値を算出する。
ここで、NOX検出手段は、後述する実施形態においては、残留O2検出セルとNOX検出セルに相当する。また、H2供給手段、および、H2濃度推定手段は、後述する実施形態においては、ポンプセルに相当する。
2番目の発明では、1番目の発明において、上記NOX検出手段には内燃機関から排出される排気ガスが供給され、上記H2供給手段は上記NOX検出手段よりも内燃機関側に設けられて上記排気ガスからO2を除去し且つ該排気ガス中のNOXおよびH2Oを分解するポンプセルを有し、上記H2濃度推定手段は内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を検出する排気空燃比検出手段を有し、且つ、該排気空燃比検出手段によって検出された排気空燃比に基づいて上記NOX検出手段に供給されるガス中のH2濃度を推定する。
3番目の発明では、1または2番目の発明において、上記NOX検出手段がガス中のO2濃度を検出するためのO2検出セルと、ガス中のNOX濃度とO2濃度とを検出可能なNOX・O2検出セルと、O2検出セルの出力配線とNOX・O2検出セルの出力配線とが互いに逆向きに巻装せしめられたホール素子式電流センサとを有し、該ホール素子式電流センサによって検出される電流がNOX検出手段の出力とされる。
4番目の発明では、2または3番目の発明において、上記NOX検出手段の補正値の算出が行われていないときにポンプセルに所定の周波数で変動する電圧を印加し、このときのポンプセルの出力変動の振幅に基づいて該ポンプセルの故障を診断し、このときのNOX検出手段の出力変動の振幅に基づいて該NOX検出手段の故障を診断すると共にNOX検出手段の出力変動から所定周波数成分を除去することによってガス中のNOX濃度を検出する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は第1実施形態のNOXセンサのセンサ部を示している。なお、以下で説明するNOXセンサは、例えば、筒内噴射火花点火式の内燃機関や、圧縮着火式の内燃機関から排出される排気ガス中のNOX濃度を検出するために用いられる。以下では、こうした内燃機関から排出された排気ガス中のNOX濃度を検出する場合を例にとって説明する。
【0008】
NOXセンサのセンサ部は、互いに積層された6つのジルコニア等の酸素イオン伝導性の固体電解質層からなり、これら6つの固体電解質層を以下、上から順に第1層L1、第2層L2、第3層L3、第4層L4、第5層L5、第6層L6と称する。
【0009】
第1層L1と第3層L3との間に、例えば、多孔質のまたは細孔が形成されている第1の拡散律速部材1と第2の拡散律速部材2とが配置されており、これら拡散律速部材1,2間には第1室3が形成され、第2の拡散律速部材1と第2層L2との間には第2室4が形成されている。また、第3層L3と第5層L5との間には外気に連通している大気室5が形成されている。一方、第1の拡散律速部材1の外端面は排気ガスと接触している。したがって、排気ガスは第1の拡散律速部材1を介して第1室3内に流入し、斯くして、第1室3内は排気ガスで満たされている。
【0010】
一方、第1室3に面する第1層L1の内周面上には、酸素除去・空燃比検出用の陰極側第1ポンプ電極6が形成され、第1層L1の外周面上には、酸素除去・空燃比検出用の陽極側第1ポンプ電極7が形成されており、これら第1ポンプ電極6,7間には、第1ポンプ電圧源8により電圧が印加される。これら第1ポンプ電極6,7間に電圧が印加されると、第1室3内の排気ガス中に含まれる酸素が陰極側第1ポンプ電極6と接触して酸素イオンとなり、この酸素イオンは第1層L1内を陽極側第1ポンプ電極7に向けて移動する。このとき、第1ポンプ電極6,7間には、この酸素イオン量に比例した符号9で示した電流I1が流れる。また、このとき、第1室3内の排気ガス中に含まれる酸素は、第1層L1内を移動して外部に汲み出されることになる。以下の説明では、第1ポンプ電極6,7をまとめて、ポンプセル10とも称す。
【0011】
このポンプセル10によって外部に汲み出される酸素量は第1ポンプ電圧源8の電圧が高くなるほど多くなる。図1に示した例では、第1室3内の酸素濃度が1p.p.m.程度となるように、第1ポンプ電圧源8の電圧が設定されている。
【0012】
また、排気ガス中の酸素濃度が高いほど、すなわち、空燃比がリーンであるほど、第1室3から外部に汲み出される酸素量が多くなり、符号9で示した電流I1が増大する。そこで、第1実施形態では、ポンプセル10の出力値I1と空燃比との関係を予めマップ(以下、空燃比マップと称す)の形で求めておき、この空燃比マップとポンプセル10の出力値I1とから空燃比が算出される。
【0013】
なお、陰極側第1ポンプ電極6はNOXに対しては還元性の低い材料、例えば、金(Au)と白金(Pt)との合金から形成されており、したがって、排気ガス中に含まれるNOX は第1室3内ではほとんど還元されない。したがって、このNOX は第2の拡散律速部材1を通って第2室4内に流入する。
【0014】
一方、第2室4に面する第3層L3の面上には、酸素濃度検出用の陰極側第2ポンプ電極11が形成され、大気室5に面する第3層L3の面上には、酸素濃度検出用の陽極側第2ポンプ電極12が形成されており、これら第2ポンプ電極11,12間には、第2ポンプ電圧源13により電圧が印加される。これら第2ポンプ電極11,12間に電圧が印加されると、第2室4内の排気ガス中に含まれる酸素が陰極側第2ポンプ電極11と接触して酸素イオンとなり、この酸素イオンは第3層L3内を陽極側第2ポンプ電極12に向けて移動する。このとき、第2ポンプ電極11,12間には、この酸素イオン量に比例した符号14で示した電流I2が流れる。また、このとき、第2室4内の排気ガス中に含まれる酸素は第3層L3内を移動して大気室5に汲み出されることになる。以下の説明では、第2ポンプ電極11,12をまとめて、残留O2検出セル15とも称す。
【0015】
この残留O2検出セル15によって外部に汲み出される酸素量は第2ポンプ電圧源13の電圧が高くなるほど多くなり、符号14で示した電流I2が増大する。なお、図1に示した例では、第2ポンプ電圧源13によって一定の電圧が印加されている。
【0016】
また、陰極側第2ポンプ電極11もNOXに対しては還元性の低い材料、例えば、金(Au)と白金(Pt)との合金から形成されており、したがって、排気ガス中に含まれるNOXは陰極側第2ポンプ電極11と接触してもほとんど還元されない。
【0017】
一方、第2室4に面する第3層L3の面上には、NOX検出用の陰極側第3ポンプ電極17が形成され、大気室5に面する第3層L3の面上には、NOX検出用の陽極側第3ポンプ電極16が形成されている。陰極側第3ポンプ電極17はNOXに対して強い還元性を有する材料、例えば、ロジウム(Rh)や白金(Pt)から形成されている。したがって、第2室4内のNOX、実際には、大部分を占めるNOが陰極側第3ポンプ電極17上において、N2とO2とに分解される。図1に示したように、第3ポンプ電極16,17間には、第3ポンプ電圧源21によって電圧が印加されており、したがって、陰極側第3ポンプ電極17上において分解生成されたO2は酸素イオンとなって、第3層L3内を陽極側第3ポンプ電極16に向けて移動する。このとき、第3ポンプ電極16,17間には、この酸素イオン量に比例した符号18で示した電流I3が流れる。なお、以下の説明では、第3ポンプ電極16,17をまとめて、NOX検出セル19とも称す。
【0018】
第1実施形態では、NOX濃度とNOX検出セル19の出力値I3との関係をマップ(以下、NOX濃度マップと称す)の形で予め求めておき、NOX検出セル19の出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を引いた値(I3−I2)と上記NOX濃度マップとから、NOX濃度が検出される。図2に示したように、NOX濃度を示す電流I(=I3−I2)はNOX濃度に比例していることが分かる。
【0019】
なお、第5層L5と第6層L6との間には、NOXセンサのセンサ部を加熱するための電気ヒータ20が配置されており、この電気ヒータ20によって、NOXセンサのセンサ部は700℃から800℃に加熱される。
【0020】
ところで、様々な要因から、NOX濃度に対するNOX検出セル19の出力特性が初期の特性からずれてしまうことがある。したがって、NOX濃度を正確に検出するためには、定期的に、NOX検出セル19の出力特性を適切な特性へと補正する必要がある。すなわち、NOX濃度を正確に検出するためには、NOX検出セル19の一次出力値を適切な補正値によって補正し、この補正後の出力値に基づいて、NOX濃度を算出する必要がある。そこで、第1実施形態では、NOX検出セル19がH2(水素)をも検出可能である特性を利用して、NOX検出セル19の一次出力値の補正を行う。
【0021】
すなわち、ポンプセル10に印加される電圧が一定値よりも小さいときには、ポンプセル10は、主に、第1室3から酸素のみを外部に汲み出すが、ポンプセル10に印加される電圧が一定値よりも大きくなると、ポンプセル10は、第1室3内のNOXをN2(窒素)とO2とに分解し、しかも、第1室3内のH2O(水分)をH2とO2とに分解するようになる。したがって、ポンプセル10に印加する電圧を一定値よりも大きくすれば、第1室3内のNOXがN2とO2とに分解され、ここで発生したO2はポンプセル10によって外部へ汲み出され、さらに、第1室3内のH2OがH2とO2とに分解され、ここで発生したO2もポンプセル10によって外部へ汲み出されることになる。
【0022】
したがって、このとき、第2室4に流入するガスには、H2は含まれているが、O2やNOXはほとんど含まれていない。したがって、このとき、NOX検出セル19では、H2濃度が検出されることになり、NOX検出セル19からは、H2濃度に対応する出力が出力される。ここで、第2室4へ流入するガス中のH2濃度が既知の値であって、H2濃度とNOX検出セル19の出力値との関係が既知であれば、NOX検出セル19から本来出力されるべき出力値が分かり、この出力値と実際のNOX検出セル19の出力値とからNOX検出セル19の出力特性のずれが分かるはずである。
【0023】
そこで、第1実施形態では、H2濃度とNOX検出セル19の出力値との関係をマップ(以下、H2濃度マップと称す)の形で予め求めておき、さらに、後述するようにして第2室4に流入するガス中のH2濃度を求め、その後、上述したように、ポンプセル10に印加する電圧を一定値よりも高くして、NOXやH2OやO2はほとんど含まれていないがH2は含まれているガスを第2室4に供給し、このときに上記マップに基づいてNOX検出セル19から本来出力されるべき出力値を算出して、この出力値とNOX検出セル19の実際の出力値とから、NOX検出セル19の出力値に対する補正値を算出する。詳細には、NOX検出セル19から本来出力されるべき出力値をNOX検出セル19の実際の出力値によって除することによって、補正値を算出する。
【0024】
そして、第1実施形態では、NOX濃度を検出するときには、NOX検出セル19の一次出力値にこの補正値を乗じることによって、NOX検出セル19の一次出力値を補正し、この補正後の出力値と上述したNOX濃度マップとから、NOX濃度が算出される。
【0025】
なお、NOX検出セル19は、第2室4に流入するガス中に残留している酸素の濃度をも検出しているので、第1実施形態では、詳細には、補正後のNOX検出セル19の出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を引いた値(I3−I2)とNOX濃度マップとから、NOX濃度が算出される。もちろん、補正前のNOX検出セル19の一次出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を引いた値(I3−I2)を上記補正値によって補正し、その後、この補正された出力値とNOX濃度マップとから、NOX濃度を算出するようにしてもよい。
【0026】
また、NOX濃度とNOX検出セル19の出力値との関係は、H2濃度とNOX検出セル19の出力値との関係に対して、正負が逆になっているだけであり、すなわち、NOX濃度に対応してNOX検出セル19から出力される値は正であるのに対して、H2濃度に対応してNOX検出セル19から出力される値は負である。したがって、第1実施形態において、H2濃度マップの代わりにNOX濃度マップを利用してもよい。また、NOX検出セル19の出力値はH2濃度に対してリニアに出力される。すなわち、NOX検出セル19の出力値はH2濃度の一次関数であり、ここでの一次関数はNOX検出セル19の出力特性に依存する。
【0027】
次に、第2室4へ流入するガス中のH2濃度の推定方法について説明する。上述したように、ポンプセル10の出力値I1と空燃比マップとから、空燃比を算出することができる。そして、内燃機関の燃焼室内にて発生するH2Oは、後述するようにして、空燃比から算出可能であることから、空燃比が分かれば、燃焼室内にて発生するH2Oは酸素ポンプセル10によって検出される空燃比から分かる。
【0028】
そして、もともと内燃機関に吸入された空気中に含まれていたH2O、すなわち、大気中のH2Oを後述するようにして算出しておき、この大気中のH2O濃度を燃焼室内にて発生するH2Oに加えれば、NOXセンサの第1室3内に流入する排気ガス中のH2O濃度が分かる。そして、第2室4内へ流入するH2は、こうした排気ガス中のH2Oがポンプセル10によって分解されて生成されたH2であるので、この第2室4内へ流入するH2も、第1室3内に流入した排気ガス中のH2O濃度から分かる。詳細には、排気ガス中のH2OのうちH2に分解される割合を示す反応係数を排気ガス中のH2O濃度に乗ずることによって、第2室4内へ流入するH2濃度が分かる。なお、反応係数はポンプセルに印加される電圧値に依存する係数である。
【0029】
まとめると、第1実施形態では、ポンプセル10によって検出される空燃比から排気ガス中のH2O濃度を算出し、斯くして算出されたH2O濃度からポンプセル10に印加する電圧を一定値よりも大きくした場合にH2Oの分解によって発生するH2の濃度を推定する。一般的に、基準ガスを利用してNOXセンサの出力補正をする場合、数ppm〜数百ppmの濃度の成分を含む基準ガスが必要とされるが、本実施形態によれば、こうした基準ガスとして数ppm〜数百ppmの濃度のH2を含むガスを容易に作り出すことができる。
【0030】
次に、内燃機関の燃焼室にて発生するH2Oの濃度の算出方法について説明する。燃料の燃焼は、式CnC2n+2+(3n+1)O2/2→nCO2+(n+1)H2Oに従って進む。ここで、燃料がガソリンである場合には、n≒8であり、軽油である場合には、n≒16である。ここで、大気の組成をN2(分子量28):O2(分子量32)=0.8:0.2と近似し、燃料の分子量を14n+2とし、混合気内の燃料の割合をα/(1+α)とすると、空燃比Rは、R=28.8/{(14n+2)α}の式で求められる。
【0031】
さらに、燃焼後におけるN2、O2、CO2、および、H2Oの組成は、
H2:0.8/{1+(n+1)α/2}
O2:{0.2−(3n+1)α/2}/{1+(n+1)α/2}
CO2:αn/{1+(n+1}α/2
H2O:α(n+1)/{1+(n+1)α/2}
となる。
【0032】
したがって、H2Oの分圧は、2/{1+(7n+1)R/(7.2(n+1))}となる。ここで、例えば、燃料がガソリンである場合には、n≒8であるので、H2Oの分圧は、2/(1+0.88R)となる。こうして、第1実施形態では、燃焼室内にて発生するH2Oの濃度が算出される。
【0033】
次に、大気中のH2O濃度の算出方法について説明する。内燃機関の運転が停止せしめられているとき、あるいは、内燃機関の運転中であっても燃焼室への燃料の噴射が停止されているときには、燃焼室内ではH2Oが発生せず、したがって、このとき、NOXセンサ周りにあるガス、あるいは、NOXセンサに到来するガス中のH2Oは、大気中のH2Oである。このときに、ポンプセル10に印加する電圧が一定値よりも大きくされると、ポンプセル10によってH2OがH2とO2とに分解されるが、このとき、ポンプセル10によってO2が外部へ除去されるので、NOX検出セル19は、ガス中に残留しているO2とH2とに対応する出力値を出力する。
【0034】
したがって、このときのNOX検出セル19の出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を差し引いた値(I3−I2)は、大気中のH2Oの分解によって生成されたH2に対応する値である。したがって、この値(I3−I2)と上述したH2濃度マップとを用いれば、H2濃度が算出可能であり、斯くして算出されたH2濃度からNOXセンサに到来したガス、すなわち、大気中のH2O濃度が算出可能である。
【0035】
そこで、第1実施形態では、上述した条件が成立したときに、ポンプセル10に印加する電圧を一定値よりも大きくし、このときに、NOX検出セル19の出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を差し引いた値(I3−I2)を検出し、この値(I3−I2)と上述したH2濃度マップとを用いて、H2濃度を算出し、斯くして算出されたH2濃度からH2O濃度を算出する。斯くして算出されたH2O濃度は大気中のH2O濃度である。
【0036】
図3は、第1実施形態に従って排気ガス中のNOX濃度を算出するためのルーチンを示している。図3に示したルーチンでは、始めに、ステップ10において、NOX検出セル19の出力値I3が読み込まれ、次いで、ステップ11において、残留O2検出セル15の出力値I2が読み込まれる。次いで、ステップ12において、NOX検出セル19の出力値I3に、図4に示したルーチンに従って算出される補正値μを乗じることによって、この出力値I3が補正される。
【0037】
次いで、ステップ13において、補正後の出力値I3から出力値I2を差し引くことによって、NOX濃度のみを示す出力値(I3−I2)が算出され、次いで、ステップ14において、この出力値(I3−I2)と上述したNOX濃度マップとから、排気ガス中のNOX濃度が算出される。
【0038】
図4は、第1実施形態に従って補正値を算出するためのルーチンを示している。図4に示したルーチンでは、始めに、ステップ20において、ポンプセル10の出力値I1と上述した空燃比マップとから、空燃比が算出される。次いで、ステップ21において、燃焼室内にて発生するH2Oの濃度が算出され、次いで、ステップ22において、図5に示したルーチンに従って算出される大気中のH2O濃度が上記燃焼室内にて発生するH2O濃度に加えられてNOXセンサに到来する排気ガス中のH2O濃度が算出され、次いで、ステップ23において、ポンプセル10に印加する電圧を一定値よりも高くした場合に第1室3内におけるH2Oの分解によって生成するH2の濃度が算出される。次いで、ステップ24において、ステップ23で算出されたH2濃度と上述したH2濃度マップとから、H2濃度がNOX検出セル19の出力値I3’に換算される。
【0039】
一方、ステップ25では、ポンプセル10に印加する電圧が一定値よりも高くされ、次いで、ステップ26において、NOX検出セル19の出力値I3が読み込まれる。ここで、読み込まれる出力値I3は負の値である。
【0040】
さらに、ステップ27において、ステップ24で算出された出力値I3’をステップ26で算出された出力値I3で除すること(I3’/I3)によって、補正値μが算出され、次いで、ステップ28において、ポンプセル10に印加する電圧が元の値に戻される。
【0041】
図5は、大気中のH2O濃度を算出するためのルーチンを示している。図5に示したルーチンでは、始めに、ステップ30において、一定の条件が成立しているか否かが判別される。ここでの条件とは、例えば、内燃機関の運転が停止されているという条件や、内燃機関の運転中ではあるが燃焼室への燃料の供給が停止されているという条件である。
【0042】
ステップ30において、条件が成立していないと判別されたときには、ルーチンはそのまま終了するが、条件が成立していると判別されたときには、ルーチンはステップ31に進んで、ポンプセル10に印加する電圧が一定値よりも大きくされる。次いで、ステップ32において、NOX検出セル19の出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を引いた値(I3−I2)が算出され、次いで、ステップ33において、この値(I3−I2)が上述したH2濃度マップを利用してH2濃度に換算される。次いで、ステップ34において、この換算されたH2濃度からH2O濃度が算出される。
【0043】
ここでのH2O濃度は、内燃機関の運転が停止されているときにNOXセンサ周りにあるガス、あるいは、内燃機関の運転中ではあるが燃焼室への燃料の供給が停止されているときにNOXセンサに到来するガス中のH2O濃度であり、したがって、大気中のH2O濃度に相当する。
【0044】
次に、第2実施形態について説明する。上述したように、NOX濃度は、NOX検出セル19の出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を差し引いた値(I3−I2)に基づいて、算出される。ところが、これら出力値I3,I2は同じマイクロアンペアオーダーの値であり、こうした出力値I3,I2からNOX濃度を正確に把握するためには、これら出力値I3,I2の差をナノアンペアレベルで得る必要がある。ところが、第1実施形態のようなシステムでは、ナノアンペアレベルで出力値I3,I2の差を得ることは困難である。
【0045】
そこで、第2実施形態では、図6に示したようにセンサ部の電流センサ部が構成される。すなわち、第2実施形態の電流センサ部は環状の鉄心22を有し、この鉄心22に、その一方の側で、残留O2検出セル15の配線23が巻装せしめられ、他方の側で、NOX検出セル19の配線24が巻装せしめられる。ここで、残留O2検出セル15の配線23の巻装方向とNOX検出セル19の配線24の巻装方向とは、各配線23,24内を流れる電流によって鉄心22に発生せしめられる磁界の向きが互いに逆になるように、逆になっている。
【0046】
さらに、鉄心22には、ホール素子25が配設されている。ホール素子25には一定の電圧が印加されており、したがって、鉄心22内に発生せしめられた磁界によってホール素子25内に電流が発生することとなる。ここでの電流は、NOX検出セル19の出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を差し引いた値(I3−I2)に相当し、ナノアンペアオーダーの値である。この電流は、増幅器AMPによって増幅せしめられ、アナログ−デジタル変換器ADを介してデジタル変換される。
【0047】
このように、各検出セル15,19の配線23,24によって互いに打ち消し合うように磁界を鉄心22に発生させ、互いに打ち消し合った残りの磁束によってホール素子に発生せしめられる電流値は、NOX検出セル19の出力値I3と残留O2検出セル15の出力値I2との差を非常に高い精度で示している。したがって、第2実施形態によれば、非常に高い精度で、NOX濃度が検出される。
【0048】
また、各検出セル15,19の配線23,24から出力を取り出し、これら出力を増幅器によって増幅させた上で、これら出力値の差を算出するようにしていると、増幅器の出力特性がその温度などによって僅かに変化しても、算出される出力値の差は本来算出されるべき値から大きくずれてしまう。しかしながら、第2実施形態によれば、各検出セル15,19の出力値の差に相当する電流値を増幅器で増幅して出力するので、斯くして出力された出力は本来出力されるべき値から大きくずれることはほとんどない。
【0049】
なお、第2実施形態において、ホール素子25の代わりに、磁気抵抗効果を利用して磁束を検出することができるMR素子や、MI素子(磁気インダクタンス素子)を利用してもよい。また、鉄心22の代わりに、強誘電体を利用してもよい。また、上述したホール素子25式の電流センサを用いる場合において、この電流センサの定格電流値が100mAであって、検出精度が±1mAである場合には、各セルの配線23,24を100万回ほど鉄心22に巻装すればよい。
【0050】
次に、第3実施形態について説明する。上述したように、各検出セル19,15の出力値I3,I2はマイクロアンペアレベルの値であるので、これら出力値I3,I2の差がナノアンペアレベルの値ではなく、マイクロアンペアレベルの値であることもある。ところが、第2実施形態のように構成した電流センサ部のダイナミックレンジは100nA程度であり、この電流センサ部はマイクロアンペアレベルの値を検出することができない。
【0051】
そこで、第3実施形態では、図7に示したようにセンサ部の電流センサ部が構成される。すなわち、第3実施形態の電流センサ部は環状の2つの鉄心22a、22bを有し、第1の鉄心22aに、その一方の側で、残留O2検出セル15の配線23が100万回ほど巻装せしめられ、他方の側で、NOX検出セル19の配線24が100万回ほど巻装せしめられる。ここで、残留O2検出セル15の配線23の巻装方向とNOX検出セル19の配線24の巻装方向とは、各配線23,24内を流れる電流によって鉄心22に発生せしめられる磁界の向きが互いに逆になるように、逆になっている。
【0052】
一方、第2の鉄心22bには、その一方の側で、残留O2検出セル15の配線23が10万回ほど巻装せしめられ、他方の側で、NOX検出セル19の配線24が10万回ほど巻装せしめられる。ここで、残留O2検出セル15の配線23の巻装方向とNOX検出セル19の配線24の巻装方向とは、各配線23,24内を流れる電流によって鉄心22に発生せしめられる磁界の向きが逆になっているように、逆になっている。
【0053】
さらに、各鉄心22a、22bには、それぞれ、ホール素子25a、25bが配設されている。ホール素子25a、25bにはそれぞれ一定の電圧が印加されており、したがって、各鉄心22a、22b内に発生せしめられた磁界によって各ホール素子25a、25b内に電流が発生することとなる。ここでの電流は、NOX検出セル19の出力値I3から残留O2検出セル15の出力値I2を差し引いた値(I3−I2)に相当する。各電流値I3,I2は増幅器AMPによって増幅せしめられ、アナログ−デジタル変換器ADを介してデジタル変換される。
【0054】
第3実施形態によれば、非常に高い精度で、NOX検出セル19の出力値I3と残留O2検出セル15の出力値I2との差を検出することができる。そして、第1の鉄心22aを備えた電流センサ部のダイナミックレンジは100nAほどであり、第2の鉄心22bを備えた電流センサ部のダイナミックレンジは100nA〜10μAほどである。したがって、第3実施形態によれば、より広い範囲の値の電流値を検出することができる。
【0055】
次に、第4実施形態について説明する。第2実施形態および第3実施形態のように、鉄心22に各検出セル15,19の配線23,24を巻装し、この配線の巻数が非常に多い場合、この配線の巻装部分のインダクタンスによって起電力が発生する。この場合、第2ポンプ電圧源13および第3ポンプ電圧源21によって各検出セル15,19に印加される電圧の値が上記起電力によって変化してしまう可能性がある。この場合、NOX濃度が正確に検出されないことになる。
【0056】
そこで、第4実施形態では、図8に示したようにセンサ部の電流センサ部が構成される。すなわち、第4実施形態では、第2実施形態の電流センサ部において、各配線23,24の巻装部分によって発生せしめられた起電力によって、第2ポンプ電極11,12間または第3ポンプ電極16,17間に印加される電圧が低下する場合には、その分だけ、第2ポンプ電極11,12間または第3ポンプ電極16,17間に印加される電圧が高くなるように、一方、各配線23,24の巻装部分によって発生せしめられた起電力によって、第2ポンプ電極11,12間または第3ポンプ電極16,17間に印加される電圧が上昇する場合には、その分だけ、第2ポンプ電極11,12間または第3ポンプ電極16,17間に印加される電圧が低くなるように、各ポンプセル10の配線23,24内にオペアンプ26,27が配置される。これによれば、第2ポンプ電極11,12間および第3ポンプ電極16,17間には所定の電圧が印加されるので、NOX濃度が正確に検出される。
【0057】
次に、第5実施形態について説明する。第2実施形態〜第4実施形態では、鉄心22、22a、22bへの配線の巻数が非常に多い。そこで、第5実施形態では、この鉄心への配線の巻数が少なくても、電流値を精度高く検出可能とする。すなわち、第5実施形態では、図9に示したように、電流センサ部が構成される。
【0058】
第5実施形態では、電流センサ部は、MR素子28を備えた直方体の外形の環状の鉄心22を有する。鉄心22の誘電率は1500[T]である。また、図9に示したように、鉄心22の幅は一様に2mmであり、鉄心22の中央の溝の幅は1mmであり、鉄心22の厚みは2mmである。鉄心22の中央の溝の長さLは、各検出セルの配線23,24の巻数に応じて変わり、配線の直径をφとし、配線の巻数をNとすると、L=Nφである。
【0059】
第5実施形態の鉄心22に発生する磁束密度は以下のようになる。すなわち、磁束密度Bは、式B=μNI/Lから求められる。ここで、μは誘電率であり、Nは配線23,24の巻数であり、Iは電流値であり、Lは磁束の経路長である。本実施形態では、μ=1500[T]であり、IはI3−I2であり、Lは10+2Nφであるので、上述した式から、B=1500N(I3−I2)/(10×10-3+2Nφ)となる。
【0060】
ここで、I3−I2を1[nA]とし、φを0.3[mm]とすると、B=1500N×1×10-9/(10×10-3+2N×0.3×10-3)=1.5×10-3×N/(10+0.6N)となる。
【0061】
ここで、N=10である場合には、B≒0.94×10-3[T]となり、この値はMR素子28によって十分に測定可能な範囲である。
【0062】
次に、第6実施形態について説明する。NOXセンサにおいては、セルの配線が断線故障することがある。ここで、このセルの配線の断線故障を診断する方法として、例えば、ポンプセルに印加している電圧を一時的に零とし、このときにセルの出力値が大きく変動すれば、そのセルは正常であると判定し、セルの出力値がほとんど変動しなければ、そのセルは断線故障していると判定するという方法が考えられる。
【0063】
ところが、この方法では、セルの断線故障を診断するためには、ポンプセルに印加している電圧を一時的に零としなければならず、このとき、排気ガス中の酸素はポンプセルによって外部に汲み出されなくなり、したがって、第1室3および第2室4内の酸素濃度が一気に上昇する。このため、その後、セルの断線故障診断を終了し、NOX濃度の検出を開始するためにポンプセルに所定の電圧を印加したとしても、第1室3および第2室4内の酸素濃度は非常に高いので、第1室3および第2室4内の酸素濃度は即座には所定の値にまで低下せず、この間、正確なNOX濃度を検出することができない。
【0064】
すなわち、上述した方法によると、セルの断線故障診断が行われると、NOX濃度の検出精度を低下させてしまうことになる。第6実施形態では、NOX濃度の検出精度を低下させることなく、セルの断線故障を診断できるようにする。以下、第6実施形態のセルの断線故障の診断方法について説明する。
【0065】
例えば、第1実施形態において、第1ポンプ電圧源8の電圧に所定の周波数の正弦波の交流電圧が重畳されると、図11(A)に示したように、ポンプセル10に印加される電圧は一定の周期でもって上下に変動する。ここで、ポンプセル10が断線しておらずに正常である場合には、ポンプセル10によって外部に汲み出される酸素量も一定の周期でもって上下に変動するので、図11(B)に示したように、ポンプセル10の出力値I1も一定の周期でもって上下に変動する。
【0066】
したがって、ポンプセル10に印加される電圧を一定の周期でもって上下に変動させたときに、ポンプセル10の出力値I1の変動幅が一定の値よりも大きければ、ポンプセル10は正常であり、ポンプセル10の出力値I1の変動幅が一定の値よりも小さく、特に、ほぼ零であれば、ポンプセル10は断線故障していると診断することができる。
【0067】
そこで、第6実施形態では、図10に示したように、ポンプセル10の配線に発振回路OCが接続され、ポンプセル10の断線故障を診断すべきときには、この発振回路OCによって、第1ポンプ電圧源8の電圧に所定の周期の正弦波の交流電圧が重畳される。さらに、第6実施形態では、ポンプセル10の配線には、順に、共振回路RC、振幅−電圧変換器A/V、コンパレータCOが接続され、共振回路RCによってポンプセル10の出力値の所定の周期の周波数成分が取り出され、次いで、この周波数成分が振幅−電圧変換器A/Vによって電圧に変換され、次いで、この電圧値が所定値よりも大きいか否かがコンパレータCOによって判定される。ここで、電圧値が所定値よりも大きい場合には、ポンプセル10は正常であると判定され、電圧値が所定値よりも小さい場合には、ポンプセル10は断線故障していると判定される。
【0068】
また、第1ポンプ電圧源8の電圧に発振回路OCによって所定の周波数の交流電圧が重畳され、ポンプセル10が正常であるときには、第2室4に流入するガス中に残留する酸素の濃度も一定の周期でもって上下に変動する。ここで、残留O2検出セル15が断線しておらずに正常である場合には、残留O2検出セル15によって外部に汲み出される酸素量も一定の周期でもって上下に変動するので、図11(C)に示したように、残留O2検出セル15の出力値I2も一定の周期でもって上下に変動する。
【0069】
そこで、第6実施形態では、図10に示したように、残留O2検出セル15の配線23にも、順に、共振回路RC、振幅−電圧変換器A/V、コンパレータCOが接続され、共振回路RCによって残留O2検出セル15の出力値の所定の周期の周波数成分が取り出され、次いで、この周波数成分が振幅−電圧変換器A/Vによって電圧に変換され、次いで、この電圧値が所定値よりも大きいか否かが判定される。ここで、電圧値が所定値よりも大きい場合には、ポンプセル10が正常であると判定され、電圧値が所定値よりも小さい場合には、ポンプセル10は断線故障していると判定される。
【0070】
同様に、第1ポンプ電圧源8の電圧に所定の周波数の交流電圧が重畳され、ポンプセル10が正常であるときには、第2室4に流入するガス中に残留する酸素の濃度も一定の周期でもって上下に変動し、NOX検出セル19の出力値にはこの酸素濃度に対応する出力が含まれる。したがって、NOX検出セル19が断線しておらずに正常である場合には、NOX検出セル19によって外部に汲み出される酸素量も一定の周期でもって上下に変動するので、図11(D)に示したように、NOX検出セル19の出力値I3も一定の周期でもって上下に変動する。
【0071】
そこで、第6実施形態では、図10に示したように、NOX検出セル19の配線24にも、順に、共振回路RC、振幅−電圧変換器、コンパレータCOが接続され、共振回路RCによってNOX検出セル19の出力値の所定の周期の周波数成分が取り出され、次いで、この周波数成分が振幅−電圧変換器A/Vによって電圧に変換され、次いで、この電圧値が所定値よりも大きいか否かが判定される。ここで、電圧値が所定値よりも大きい場合には、NOX検出セル19が正常であると判定され、電圧値が所定値よりも小さい場合には、NOX検出セル19は断線故障していると判定される。
【0072】
なお、第6実施形態において、残留O2検出セル15の配線23に発振回路を接続し、この発振回路によって第2ポンプ電圧源13の電圧に所定の周波数の交流電圧を重畳させると共に、ポンプセル10の配線に接続されている発振回路からは交流電圧は発生させないようにし、上述した方法と同じ方法によって、残留O2検出セル15の配線23の断線故障を診断するようにしてもよい。上述した第6実施形態によれば、残留O2検出セル15の断線故障診断はポンプセル10が正常であるときにのみ可能であったが、これによれば、ポンプセル10が断線故障している場合であっても、残留O2検出セル15の断線故障を診断することができる。
【0073】
同様に、第6実施形態において、NOX検出セル19の配線24に発振回路を接続し、この発振回路によって第3ポンプ電圧源21の電圧に所定の周波数の交流電圧を重畳させると共に、ポンプセル10の配線に接続されている発振回路からは交流電圧は発生させないようにし、上述した方法と同じ方法によって、NOX検出セル19の配線24の断線故障を診断するようにしてもよい。上述した第6実施形態によれば、NOX検出セル19の断線故障診断はポンプセル10が正常であるときにのみ可能であったが、これによれば、ポンプセル10が断線故障している場合であっても、NOX検出セル19の断線故障を診断することができる。
【0074】
なお、図11(C)および図11(D)において、出力値I2,I3が比較的高いのは、第1ポンプ電圧源8の電圧に発振回路によって所定の周波数の交流電圧が重畳されたときに、ポンプセル10に印加される電圧が一時的に低くなり、第2室4に流入するガス中に残留する酸素の濃度が一時的に高くなったためである。
【0075】
ところで、図10に示したように、第6実施形態では、発振回路によって第1ポンプ電圧源8の電圧に所定の周期の交流電圧が重畳されている間、各セルの出力値I1,I2,I3はローパスフィルタLFを介して検出される。ローパスフィルタLFでは、所定の周期で上下に変動している電流値がマスキングされ、電流の周波数成分が除去される。これによれば、各セルの出力値が所定の周期でもって上下に変動しているときにも、各セルの出力値I1,I2,I3に基づいて、空燃比やNOX濃度が検出可能である。
【0076】
なお、第6実施形態において、各セルの断線故障を診断するときだけでなく、常時、発振回路から所定の周期で変動する電圧を印加しておき、NOX濃度および空燃比の検出と各セルの断線故障とを同時に行うようにしてもよい。また、発振回路から発生せしめられる正弦波の電圧の周期は、NOXセンサの制御周期とは異なり且つその倍数ではない周期である。
【0077】
図12および図13は、第6実施形態に従って各セルの異常を検出し且つ空燃比およびNOX濃度を検出するためのルーチンを示している。図12に示したルーチンでは、始めに、ステップ40において、発振回路によってポンプセル10に印加される電圧が一定の周期でもって上下に変動せしめられる。次いで、ステップ41において、図14(A)のルーチンに従ってポンプセル10の異常が診断される。
【0078】
図14に示したルーチンでは、始めに、ステップ60において、ポンプセル10の出力値I1の振幅Tが読み込まれ、次いで、ステップ61において、この振幅Tがほとんど零である(T≒0)か否かが判別される。ステップ61において、T≒0ではないと判別されたときには、ポンプセル10は正常であるので、ルーチンはそのまま終了するが、T≒0であると判別されたときには、ルーチンはステップ62に進んで、ポンプセル10が異常であること、すなわち、ポンプセル10の配線が断線故障している旨が表示される。
【0079】
図12のルーチンに戻ると、ステップ42では、ポンプセル10が正常であるか否かが判別される。ステップ42において、ポンプセル10が異常であると判別されたときには、ルーチンはそのまま終了するが、ポンプセル10が正常であると判別されたときには、ルーチンはステップ43に進んで、ポンプセル10の出力値I1が読み込まれ、次いで、ステップ44において、この出力値I1が上述したローパスフィルタLFによってマスキングされ、次いで、ステップ45において、このマスキングされた出力値I1に基づいて空燃比が算出される。
【0080】
次いで、ステップ46では、図14(B)のルーチンに従って残留O2検出セル15の異常が診断される。図14(B)に示したルーチンでは、始めに、ステップ70において、残留O2検出セル15の出力値I2の振幅Tが読み込まれ、次いで、ステップ71において、この振幅Tがほとんど零である(T≒0)か否かが判別される。ステップ71において、T≒0ではないと判別されたときには、残留O2検出セル15は正常であるので、ルーチンはそのまま終了するが、T≒0であると判別されたときには、ルーチンはステップ72に進んで、残留O2検出セル15が異常であること、すなわち、残留O2検出セル15の配線23が断線故障している旨が表示される。
【0081】
図12のルーチンに戻ると、ステップ47では、図14(C)のルーチンに従ってNOX検出セル19の異常が診断される。図14(C)に示したルーチンでは、始めに、ステップ80において、NOX検出セル19の出力値I3の振幅Tが読み込まれ、次いで、ステップ81において、この振幅Tがほとんど零である(T≒0)か否かが判別される。ステップ81において、T≒0ではないと判別されたときには、NOX検出セル19は正常であるので、ルーチンはそのまま終了するが、T≒0であると判別されたときには、ルーチンはステップ82に進んで、NOX検出セル19が異常であること、すなわち、NOX検出セル19の配線24が断線故障している旨が表示される。
【0082】
図13のルーチンに戻ると、ステップ48では、残留O2検出セル15が正常であるか否かが判別される。ステップ48において、残留O2検出セル15が異常であると判別されたときには、ルーチンはそのまま終了するが、残留O2検出セル15が正常であると判別されたときには、ルーチンはステップ49に進んで、NOX検出セル19が正常であるか否かが判別される。ステップ49において、NOX検出セル19が異常であると判別されたときには、ルーチンはそのまま終了するが、NOX検出セル19が正常であると判別されたときには、ルーチンはステップ50に進む。
【0083】
ステップ50では、残留O2検出セル15の出力値I2が読み込まれ、次いで、ステップ51において、この出力値I2が上述したローパスフィルタLFによってマスキングされ、次いで、ステップ52において、NOX検出セル19の出力値I3が読み込まれ、次いで、ステップ53において、この出力値I3が上述したローパスフィルタLFによってマスキングされ、次いで、ステップ54において、これら出力値I2,I3に基づいてNOX濃度が算出される。
【0088】
【発明の効果】
1番目の発明によれば、既知のH2濃度とNOX検出手段によって実際に検出されるH2濃度とに基づいてNOX検出手段の出力に対する補正値が算出されるので、この補正値はNOX検出手段の出力をガス中のNOX濃度に正確に対応させることができる値である。したがって、本発明によれば、ガス中のNOX濃度が正確に検出される。
2番目の発明によれば、NOXセンサを内燃機関に搭載した状態でNOX検出手段の補正値を算出可能である。
O2検出セルの出力配線とNOX・O2検出セルの出力配線とが互いに逆向きに巻装せしめられることによってホール素子には、O2検出セルの出力とNOX・O2検出セルの出力との差分に相当する出力がホール素子に発生する。そして、このようにホール素子に発生する出力はO2検出セルの出力とNOX・O2検出セルの出力との差分を精度高く示す。したがって、3番目の発明によれば、NOXセンサの出力精度が高くなる。
4番目の発明によれば、NOX検出手段の故障診断とNOX濃度の検出とを同時に実行可能であるので、NOX濃度の検出中においてもNOX検出手段の故障を診断可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態のNOXセンサのセンサ部を示す図である。
【図2】NOX濃度と電流値Iとの関係を示す図である。
【図3】第1実施形態に従ってNOX濃度を算出するためのルーチンを示す図である。
【図4】第1実施形態に従って補正値を算出するためのルーチンを示す図である。
【図5】第1実施形態に従って大気中のH2O濃度を算出するためのルーチンを示す図である。
【図6】第2実施形態のNOXセンサのセンサ部を示す図である。
【図7】第3実施形態のNOXセンサのセンサ部を示す図である。
【図8】第4実施形態のNOXセンサのセンサ部を示す図である。
【図9】第5実施形態のNOXセンサのセンサ部を示す図である。
【図10】第6実施形態のNOXセンサのセンサ部を示す図である。
【図11】発振回路によって第1ポンプ電圧源の電圧に所定の周期の交流電圧が重畳されたときにポンプセルに印加される電圧等の推移を示す図である。
【図12】第6実施形態に従って各セルの異常を検出し且つ空燃比およびNOX濃度を検出するためのルーチンの一部を示す図である。
【図13】第6実施形態に従って各セルの異常を検出し且つ空燃比およびNOX濃度を検出するためのルーチンの一部を示す図である。
【図14】(A)は図12のステップ41において行われるポンプセル異常診断ルーチンを示し、(B)は図12のステップ46において行われる残留O2検出セル異常診断ルーチンを示し、(C)は図12のステップ47において行われるNOX検出セル異常診断ルーチンを示す図である。
【符号の説明】
1…第1の拡散律速部材
2…第2の拡散律速部材
3…第1室
4…第2室
5…大気室
8…第1ポンプ電圧源
10…ポンプセル
13…第2ポンプ電圧源
15…残留O2検出セル
19…NOX検出セル
21…第3ポンプ電圧源
22、22a、22b…鉄心
23、24…配線
25、25a、25b…ホール素子
OC…発振回路
Claims (4)
- ガス中のNOX濃度を検出するためのNOX検出手段を具備し、該NOX検出手段がガス中のH2濃度をも検出可能であるNOXセンサにおいて、NOX検出手段に酸素成分を含まずH2を含むガスを供給可能なH2供給手段と、NOX検出手段に到達するガス中のH2濃度を推定するためのH2濃度推定手段とを具備し、上記H2濃度推定手段によってガス中のH2濃度を推定し、H2濃度推定手段によって推定されたガス中のH2濃度とNOX検出手段によって検出されたガス中のH2濃度とに基づいてNOX検出手段の出力に対する補正値を算出することを特徴とするNOXセンサ。
- 上記NOX検出手段には内燃機関から排出される排気ガスが供給され、上記H2供給手段は上記NOX検出手段よりも内燃機関側に設けられて上記排気ガスからO2を除去し且つ該排気ガス中のNOXおよびH2Oを分解するポンプセルを有し、上記H2濃度推定手段は内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を検出する排気空燃比検出手段を有し、且つ、該排気空燃比検出手段によって検出された排気空燃比に基づいて上記NOX検出手段に供給されるガス中のH2濃度を推定することを特徴とする請求項1に記載のNOXセンサ。
- 上記NOX検出手段がガス中のO2濃度を検出するためのO2検出セルと、ガス中のNOX濃度とO2濃度とを検出可能なNOX・O2検出セルと、O2検出セルの出力配線とNOX・O2検出セルの出力配線とが互いに逆向きに巻装せしめられたホール素子式電流センサとを有し、該ホール素子式電流センサによって検出される電流がNOX検出手段の出力とされることを特徴とする請求項1または2に記載のNOXセンサ。
- 上記NOX検出手段の補正値の算出が行われていないときにポンプセルに所定の周波数で変動する電圧を印加し、このときのポンプセルの出力変動の振幅に基づいて該ポンプセルの故障を診断し、このときのNOX検出手段の出力変動の振幅に基づいて該NOX検出手段の故障を診断すると共にNOX検出手段の出力変動から所定周波数成分を除去することによってガス中のNOX濃度を検出することを特徴とする請求項2または3に記載のNOXセンサ。
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