JP4215490B2 - 圧電基板母材のドライエッチング装置、及び圧電基板母材のドライエッチング方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はドライエッチング装置、及びドライエッチング方法の改良と、この装置及び方法によって製造される圧電基板母材、圧電振動素子、及び圧電デバイスに関し、特に圧電基板の片面に球面状の凸部を備えた圧電基板母材をドライエッチングにより製造する際の生産性を高めるための技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
水晶振動子、水晶発振器等の圧電デバイスは、従来から産業用、民生用電子機器の基準周波数源として広く用いられており、水晶振動子や水晶発振器の出力周波数は、水晶振動子や水晶発振器を構成する水晶振動素子の共振周波数によって決定される。水晶は物理的に安定した圧電結晶体であり、その共振周波数も極めて高い安定性を有する。特に、ATカット水晶振動素子は、温度−周波数特性が優れていることから、種々の分野で多用されている。ATカット水晶振動素子は、人工水晶の原石のX、Z軸に平行な面をもつY板をX軸を中心として約35°回転させたアングルで切り出すことにより得た水晶基板の表裏両面に夫々励振用の電極パターンを対向するように成膜したものである。その共振周波数は、水晶基板の板厚によって決定される。この水晶振動素子は、所要の支持構造を備えたパッケージ内に配置して封止することにより、一つの圧電デバイスとして構成される。また、プリント基板上にチップ部品等を用いて作成した発振回路ループ中に水晶振動素子を挿入することにより、水晶発振器が構成される。水晶基板に励振電極を形成することにより構成される水晶振動素子にあっては、質量の大きい部分に振動エネルギーが集中することを利用し、水晶基板の中央部に電極を形成することにより、電極の質量分だけ中央部の質量を増大させて、中央部にエネルギーを集中させている(閉じ込めている)。この結果、水晶振動素子をパッケージ内に支持する際に、その特性に影響を与えることなくその端縁をサポータ等によって支持することが可能となる。
しかし、均一な厚みを有した平板状の水晶基板を用いた水晶振動素子の中央部に閉じ込めることができるエネルギー量はたかが知れており、このため従来から水晶基板自体の肉厚が中央部に向かうほど漸増するようにしたコンベックス形状、或いはベベル形状の水晶基板が用いられている。このような形状を有した水晶基板を用いた水晶振動素子にあっては、水晶基板の面積を小さくしながら所望の振動モードでの励振を確保できるので、各種部品類の小型化の要請に対応することができる。このように中央部の肉厚が外周縁の肉厚よりも漸増する形状の水晶基板を製造する方法としては、実公昭58−22333号公報や、特公平1−42164号公報や、特開平5−110367号公報に夫々開示された技術が知られているが、いずれも研磨剤を封入したバレル、ドラム等の回転体の内部に水晶片を入れてからバレルを回転させて研磨するバレル研磨方法が一般的である。
【0003】
次に、大面積の水晶基板母材を用いたバッチ処理によってコンベックス形状、或いはベベル形状の水晶基板を製造する方法としては、ドライエッチング、或いはウェットエッチングによる加工方法がある。
図6(a)(b)はエッチングにより加工する手順を示しており、まず(a)のように水晶基板母材101の両主面の所定箇所にレジスト(保護膜)102を塗布した状態でエッチングを実施し、エッチング後にレジストを除去すると、(b)のように水晶基板の両主面の中央部が非曲面状に突出した凸部103を得ることができる。
【特許文献1】
実公昭58−22333号公報
【特許文献2】
特公平1−42164号公報
【特許文献3】
特開平5−110367号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、共振周波数の高周波化の要請を満たすために水晶基板の肉厚が数ミクロン程度に薄くなっている状況下において、バレル研磨方法により水晶基板を研磨すると、多くの水晶基板が研磨中に破損し、歩留まりが大幅に低下するという不具合がある。また、バレル研磨方法は、水晶基板母材(大型ウェハ)から切り出した多数の個片をバレルによって一括研磨し、研磨後に励振電極を蒸着等によって形成するので、水晶基板母材を用いたバッチ処理によって大量生産を行うことができないという欠点と、水晶基板個片が小型化することにより加工精度が低下するという欠点もある。
また、ドライエッチングの場合には、図6(b)に示すように形成された凸部103の外周面が基板面に対してほぼ直角に切り立っており、凸部103は曲面状(半球状、球面状)とはならない。また、ウェットエッチングの場合には図6(c)に示すように凸部103の外周面に水晶の結晶面が析出してその一部分がオーバーハング形状となり、曲面状(半球状、球面状)にはならない。このような凸部103の外周に存する段差は、不要振動(スプリアス)の原因となる可能性を有すると共に、凸部上面に形成する励振用電極と外部回路とを電気的に導通するため励振用電極から水晶基板端縁へと延びるリード電極が段差部で非導通となりやすいため、製品のスペックによっては実用に供し得ない不良品となることがある。また、ドライエッチングでは、凸部に相当する部分のエッチング速度を低下させるために当該部分に金属レジストを予め成膜する必要があるが、エッチング時に金属膜もエッチングされて金属分子が水晶基板上に付着し易く、これが経年的な周波数変動を招来する原因となる。また、金属レジストを成膜する工程の分だけ工程数が増大するという不具合もある。
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、ドライエッチング法によって、ATカット水晶基板等の圧電基板の片面中央部に対して緩やかな曲面形状を備えた半球状(凸レンズ状)の凸部を形成することを初めて可能にした圧電基板母材のドライエッチング装置、圧電基板母材のドライエッチング方法、或いはこれらの装置、方法によって製造される圧電基板母材、圧電基板、及び圧電デバイスを提供することを目的とする。
更に、エッチング後に不良品率を増大させる原因となるレジストを一切用いずに半球状の凸部を形成する技術を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1の発明に係るドライエッチング装置は、圧電基板母材の一方の主面上に球面状の凸部を複数個形成するドライエッチング装置であって、圧電基板母材を吸着する支持面を備えた第1の電極と、前記支持面に形成された複数の高インピーダンス部と、支持面上に圧電基板母材を保持させる保持手段と、第1の電極と対向配置された第2の電極と、第1及び第2の電極を収容する真空容器と、該真空容器内にエッチングガスを供給するガス供給手段と、第1及び第2の電極間に高周波電力を供給する高周波電源と、を備えたものにおいて、前記第1の電極の支持面は、一枚の圧電基板母材の面積内に包含されるように配置された少なくとも一つの高インピーダンス部群を備え、前記各高インピーダンス部は、圧電基板母材の一方の主面上に形成すべき複数の球面状の凸部に対応する位置に配置されていることを特徴とする。
水晶等の圧電材料から成る圧電基板の中央部の肉厚を他の部分よりも厚く構成することにより、質量が増大した分だけ大きな量の振動エネルギーを中央部に閉じ込めることが可能となり、小面積でありながら所望の励振モードでの励振を確保することが可能となる。このエネルギー閉じ込め効果は、従来のコンベックスタイプと異なり、圧電基板の片面中央部のみを突出させたタイプにおいても同様に発揮される。このように圧電基板の片面に形成する凸部の形状としては、なだらかな曲線状の輪郭を備えた半球状、球面状等であることが好ましい。また、このような半球状の凸部を備えた圧電基板を大量生産するためには、大面積の圧電基板母材(大型ウェハ)をドライエッチングする方法が最適である。
この発明によれば、圧電基板母材を支持する下部電極に複数の高インピーダンス部(例えば、吸引孔)を備えたドライエッチング装置を用いて、所定の手順にてドライエッチングを実施することにより、レジスト塗布等を行わないで、基板母材の所望位置に半球状(球面状)の凸部を形成することができる。凸部の突出長、径寸法等については、吸引孔の開口径、エッチングレート等を適宜変更することにより、任意に調整することが可能となり、得られる凸部の形状を均一化することができる。
【0007】
本発明は、上記ドライエッチング装置において、前記第1の電極の支持面には、一つの吸引孔群によって吸着保持される一枚の圧電基板母材を位置決めするためのガイド突起が配置されていることを特徴とする。
これによれば、第1の電極上のガイド突起に沿って加工対象物としての圧電基板母材をセットするだけで位置決めが完了するので、作業性を向上し、しかも凸部の形成位置を正確化することができる。
本発明のドライエッチング装置は、前記高インピーダンス部は、前記第1の電極の支持面に形成した孔部であることを特徴とする。
高インピーダンス部は、金属等から成る第1の電極の支持面(低インピーダンス部)よりも高いインピーダンスを有する部分であるため、プラズマから第1の電極に流れるイオン電流の高低差を形成し、エッチング速度に所望の変化を確保することができる。支持面に貫通形成した孔部(空隙)は、高インピーダンス部として機能することが明らかである。
本発明のドライエッチング装置は、前記孔部内には、前記第2の電極よりもインピーダンスが高い材料が配置されていることを特徴とする。
孔部内を空隙とする代わりに、孔部内にガラス、セラミックなど、第2の電極よりもインピーダンスが高い材料を充填してもよい。
【0008】
本発明のドライエッチング装置は、前記高インピーダンス部は、前記第1の電極の支持面に形成した吸引孔であり、前記保持手段は該吸引孔に負圧を導入することにより支持面上に圧電基板母材を吸引保持する負圧生成手段であることを特徴とする。
支持面に圧電基板母材を保持する保持手段としては、種々の構成を想定できるが、例えば高インピーダンス部としての孔部から負圧を導入して支持面に圧電基板母材を吸引保持するように構成すれば、構成を簡略化する上で有効である。ここの吸引孔とは負圧生成手段としての保持手段に連通された孔部のことであり、第2の電極よりもインピーダンスが高い高インピーダンス部として機能するものである。
本発明のドライエッチング方法は、前記ドライエッチング装置を用いて圧電基板母材の一方の主面上に球面状の凸部を複数個形成する方法であって、前記第1の電極の支持面の高インピーダンス部群上に圧電基板母材を載置するステップと、前記保持手段を作動させて支持面上に圧電基板母材を保持させるステップと、前記ガス供給手段から真空容器内にエッチングガスを供給するステップと、前記高周波電源から第1及び第2の電極間に高周波電力を供給してプラズマ状態に移行したエッチングガスにより圧電基板母材の主面をエッチングするエッチングステップと、から成り、前記エッチングステップでは、前記第1の電極の支持面に形成した高インピーダンス部に対応する圧電基板母材主面部分に、球面状の凸部を形成することを特徴とする。
これによれば、レジストを成膜する等の手数をかけずに、一連のドライエッチング工程を実施するだけで、所望箇所に、所望寸法の半球状(球面状)凸部を備えた圧電基板母材を形成することができる。なお、保持手段としては、チャック等の機械的保持手段、負圧による吸引手段等々、種々の構成を採用できる。保持手段を機械的保持手段とする場合には、高インピーダンス部としては、貫通孔としての孔部、或いは孔部に充填した絶縁材料等を採用することができる。保持手段を負圧生成手段とする場合には、高インピーダンス部として支持面に形成した孔部(吸引孔)を採用する。
【0009】
本発明に係る圧電基板母材は、上記ドライエッチング装置、又は上記ドライエッチング方法により、製造されることを特徴とする。
本発明のドライエッチング装置、及びその装置を用いたドライエッチング方法によれば、圧電基板母材の一方の主面上に、所望の配置で所望形状の半球状凸部を形成できるので、バッチ処理により圧電基板、或いは圧電振動素子の量産を実現できる。
本発明に係る圧電基板母材は、上記圧電基板母材上の各個片に対応する領域に励振電極を含む電極膜を備えたことを特徴とする。
得られた圧電基板母材上の各圧電基板に相当する部分に励振電極、リード電極を形成することにより、後は分割するだけで圧電振動素子個片を大量生産することができる。
本発明に係る圧電振動素子は、上記圧電基板母材を個片毎に分割することによって形成されることを特徴とする。
分割された圧電振動素子は、その一方の主面中央部上になだらかな曲面状の半球状凸部を有しているため、凸部内に振動エネルギーを集中させることができ、小面積でありながら所望の励振モードでの励振を確保することが可能となり、また、基板端縁は振動エネルギーと関係なくなるので、基板端縁を支持することができる。
本発明に係る圧電デバイスは、前記圧電振動素子を備えたことを特徴とする。
これによれば、圧電振動素子の基板端縁をパッケージ内に支持することが可能となり、表面実装型の圧電デバイスのパッケージ構造の設計、レイアウト自由度を高めることが可能となる。
本発明に係る圧電デバイスは、前記圧電基板の主表面に球面状の凸部と、該凸部の周辺に広がる平坦部とが一体的に構成されており、前記凸部の表面に励振用の電極が形成されていることを特徴とする。
本発明に係る圧電デバイスは、前記凸部と平坦部の表面がドライエッチングによる加工面であることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1(a)(b)及び(c)は本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置の概略構成を示す断面図、要部拡大断面図、及び更なる拡大断面図である。
このドライエッチング装置1は、大面積の水晶基板母材(大型ウェハ)51の一方の主面上に半球状の凸部52を複数個形成するための装置である。
このドライエッチング装置1は、水晶基板母材51を吸着支持する支持面12を有した第1の電極(下部電極)11と、第1の電極11と平行に対向配置された第2の電極(上部電極)21と、第1及び第2の電極11、21を収容する真空容器31と、該真空容器31内にエッチングガスGを供給するガス供給手段(ガスボンベ)35と、真空容器31内のガスGを排気するガス排気手段(真空ポンプ)36と、第1及び第2の電極11、21間に高周波電力を供給する高周波電源40と、これらを制御する図示しない制御部(CPU)と、を備えている。
第1及び第2の電極11、21と真空容器31との間は絶縁されている。第2の電極21は接地され、第1の電極11は高周波電源40と接続されている。高周波電源40の他端は接地されている。
第2の電極21の内部には、ガス供給手段35に接続するガス供給路21aが形成されており、このガス供給路21aの吹き出し口21bの前面には、通気性を有する多孔板21cが装着されている。この多孔板21cは、第2の電極21の第1の電極側の面に設けたガス吹き出し部となっている。このように第2の電極21のガス吹き出し部から第1の電極11に向かってガスを供給することにより、第1の電極11上でのエッチング速度の分布を均一化すると共に、エッチング速度を高めることができる。
第1の電極11は、一定の肉厚を有したアルミ等の導体から成り、その支持面12には複数の円形の吸引孔(高インピーダンス部)12aを有すると共に、内部には各吸引孔12aと連通する共通吸引路13を備え、共通吸引路13を介して各吸引孔12aに真空ポンプ(負圧生成手段=保持手段)14からの負圧を導入することにより、支持面12上の水晶基板母材51を吸引して密着状態で保持する。吸引孔12aは、一枚の水晶基板母材51の面積内に包含される位置関係にて集中配置された吸引孔群を構成し、各吸引孔群により夫々一枚の水晶基板母材51を吸着保持するように構成されている。この吸引孔群は、支持面12上に複数群設けることを妨げず、また、一つの支持面上の各吸引孔群を構成する個々の吸引孔の開口径を異ならせるようにしてもよい。
【0011】
本発明の特徴の一つは、吸引孔群を構成する各吸引孔12aが、個々の水晶基板母材51の一方の主面(上面)に形成すべき複数の半球状の凸部52に対応する位置に配置されている点にある。従って、半球状の凸部52を形成すべき位置に対応するように、予め各吸引孔12aを設けておくことにより、格別のレジスト等を用いることなく、エッチング完了時には、各吸引孔12aに一対一で対応する位置関係にて水晶基板母材51の主面上に半球状の凸部52が形成されることとなる。
吸引孔12aは、高インピーダンス部として機能する空隙(孔部)であり、この空隙が支持面12を構成する金属等の低インピーダンス部12bよりも高いインピーダンスを持つことにより、低インピーダンス部12bとの間にイオン電流の高低差を発生させて近傍に位置する水晶基板母材部分に対するエッチング速度に変化をもたせることが可能となる。
なお、この例では、高インピーダンス部としての吸引孔12aを真空ポンプ14に接続して水晶基板母材の保持手段を兼ねているが、水晶基板母材を保持する手段としてはチャック、その他の機械的な保持手段であってもよい。機械的な保持手段によって水晶基板母材51を支持面12に保持する場合には、高インピーダンス部として単なる貫通孔としての孔部を設けてもよいし、この孔部内にガラス、セラミック等の絶縁材料を充填した構成としてもよい。いずれの場合にも、高インピーダンス部は、第2の電極21のインピーダンスよりも高いインピーダンスをもつこととなる。
【0012】
図2(a)(b)及び(c)は、第1の電極11の支持面12の要部構成を示す斜視図、ドライエッチングを受けた水晶基板母材の外観を示す図、及び分割形成された水晶振動素子の構成図である。
第1の電極11の支持面12上には、一枚の水晶基板母材51を位置決めするためのガイド突起15が突設され、ガイド突起15は水晶基板母材51の形状に応じて、その外周縁を位置決めできる構成となっている。このガイド突起15により位置決めされる水晶基板母材51が載置される支持面の特定領域には、複数の吸引孔12aから成る吸引孔群が形成され、一つの吸引孔群上に一枚の水晶基板母材を載置したときに全ての吸引孔の上部開口が水晶基板母材によって塞がれる。
この実施形態では、矩形の水晶基板母材52を使用するため、予め基板母材の外形寸法に適合したL字型に配置されたガイド突起15に沿って、水晶基板母材52を位置決めしつつ支持面12上に載置する。この状態で負圧生成手段14を作動させて真空吸引を行いつつ、エッチングガスをプラズマ状態にしてドライエッチングを実施することにより、図2(b)に示した如く、各吸引孔12aに対応する位置に凸部52を有した水晶基板母材が形成される。
次いで、図2(b)に示した水晶基板母材52の各凸部52及びその裏面に、蒸着等により、夫々励振電極膜57a、リード電極膜57bを付着した後で、鎖線で示した切断ラインに沿って切断することにより、個片としての水晶振動素子55が完成する。即ち、この水晶振動素子55は、所定形状に切断された水晶基板56の中央部表裏両面に夫々励振電極膜57a、リード電極膜57bを夫々形成した構成を備えている。
なお、この水晶振動素子55は、水晶基板56の中央部両面に凸部を備えた従来タイプとは異なり、水晶基板56の片面中央部にのみ凸部52が形成されているが、従来タイプに劣らない程度に十分なエネルギー閉じ込め効果を備えていることが確認されている。従って、水晶振動素子として十分に機能することができる。
【0013】
次に、上記の如き構成を備えたドライエッチング装置1を用いて水晶基板母材51の一方の主面上に半球状の凸部52を複数個形成する工程は次の通りである。
まず、真空容器31の図示しない開閉蓋を開放して、下側に位置する第1の電極11の支持面12上の所定箇所に水晶基板母材51を載置する。この際、支持面上に配置された一つの吸引孔群を一枚の水晶基板母材51にて塞いだ状態となる。
次いで、前記開閉蓋を閉止してから、真空ポンプ14から共通吸引路13、吸引孔12aに負圧を導入して支持面12上の水晶基板母材51を吸着させる。
次に、ガス排気手段36を作動させて真空容器31内を減圧し、圧力が所望の値まで低下したら、ガス供給手段35から真空容器31内にエッチングガスGを供給する。
供給されるエッチングガスGの流量が安定した後に、高周波電源40から第1及び第2の電極11、21間に高周波電力を供給してエッチングガスをプラズマ状態に移行せしめ、このプラズマのエネルギーによって水晶基板母材51の主面をエッチングする。
エッチング工程では、第1の電極11の支持面12に形成した各吸引孔12aに対応する水晶基板母材の主面部分に、半球状の凸部52を形成することができる。
エッチング終了後は、高周波電源40による高周波電力の供給を停止すると共に、ガス供給手段からのエッチングガスGの供給を停止する。その後、ガス排気手段36による真空排気を停止して真空ポンプ31内の圧力を大気圧に戻し、真空ポンプ14をOFFにして第1の電極11上から水晶基板母材51を取り出し可能な状態とする。
【0014】
本発明は、次の如き現象の発見に基づいてなされたものである。即ち、本発明者は、水晶基板母材51を、第1の電極11の支持面12に設けた吸引孔12aからの真空吸引によって吸着支持した状態で、プラズマ状態にあるエッチングガスによるエッチングを実施する際には、各吸引孔12aに対応する水晶基板母材51の主面部分のみが局部的にエッチングされにくくなり、吸引孔12aが存在しない支持面(電極面12b)に対応する主面部分はエッチングされ易くなるという現象を見出した。
仮に、従来、真空吸引により電極上に吸着保持した圧電基板母材を、ドライエッチングにより加工する作業を行った当業者が、吸引孔に対応する基板母材主面に凸部が形成されることに気づいたとしても、このような凸部を有した基板母材は不良品として扱われるのが常識であった。なぜならば、基板母材主面全面を均等に削り取る目的でドライエッチングを行うからである。従って、本発明の新規性、進歩性は、ドライエッチング装置の第1の電極に形成された吸引孔を利用して圧電基板母材の主面に凸部を形成する点にあり、格別のレジストを用いることなくエッチングを実行するだけで、所望形状の凸部を備えた水晶基板母材を得ることができるという効果を有する。
本発明のドライエッチング装置、及びエッチング方法は、上述の現象を利用したものであり、図1(c)に示す如く、円形の各吸引孔12aの直上位置にある水晶基板母材の主面部分のみが略半球状の凸部52にエッチングされる。なお、ここで半球状とは、正確な意味での半球形状のみならず、凸レンズの如く断面形状が左右対称な円弧面(曲面)をなしている状態を全て含む。また、図示のようにこの半球状の凸部52の曲面形状は裾部から頂部まで全体としてなだらかな湾曲面となっている。
従って、水晶基板母材51を構成する個々の水晶基板の中心位置に対応するように個々の吸引孔12aの位置を予め設定しておくことにより、格別のレジストを用いることなく、エッチングの終了と同時に全ての凸部52の形成を一括して完了することができる。
【0015】
図3(a)は吸引孔12aとその周辺部の等価回路を示すものである。(イ)は吸引孔12aの周辺部の等価回路、(ロ)は吸引穴12aの等価回路、i1、i2はプラズマから第1の電極11に流れるイオン電流である。水晶基板母材51は誘電率ε1を有する誘電体であるから等価回路(イ)は(数1)で示されるキャパシタとなる。なお、d1は、水晶基板母材51の厚さである。
(数1)
C1∝ε1/d1
また、吸引孔12a(孔部)は、誘電率ε2を有する誘電体であるから、等価回路(ロ)は(数1)で示されたキャパシタと(数2)で示されるキャパシタの直列回路となる。なお、d2は、吸引穴12aの深さ(厚さ)である。
(数2)
C2∝ε2/d2
ここで、d1<<d2(d1は100μm以下、d2は3mm以上)なので、C1>>C2となる。
また、等価回路(イ)のインピーダンスZ1並びに等価回路(ロ)のインピーダンスZ2は、(数3)となる。
(数3)
Z1∝1/C1
Z2∝(1/C1)+(1/C2)
従って、等価回路(イ)(ロ)のインピーダンスの関係は、Z1<<Z2となるので、等価回路(イ)のイオン電流i1は等価回路(ロ)のイオン電流i2よりも大きくなる。図3(a)に示すように、イオン電流は吸引孔12aの周辺部から中央部に向かうほど漸次小さくなる。エッチング速度は、イオン電流が大きいほど速くなるので、吸引孔12a中央部ではその周辺部よりも水晶基板母材51はエッチングされにくくなる。しかも、イオン電流は吸引孔12aの周辺部から中央部に向かう程漸次小さくなるので、図3(b)の破線で示すように吸引孔12a上に位置する水晶基板母材51には袖部から頂部に向かって滑らかな曲線を有する凸部52(レンズ状の凸部)が形成される。
【0016】
次に、図4は、本発明の実施形態の具体的な実施例を示す図である。
この実施例においては、厚さ80μmのATカット水晶基板母材51を図1に示した第1の電極11の支持面12上に載置して上記手順にてドライエッチングを行った。
なお、吸引孔12aの直径は1850μm、エッチングガスは六フッ化イオウとヘリウムとの混合ガス、エッチングレートは約0.2μm/minである。
この結果、各吸引孔12aに対応する基板母材の主面上に、図示した如く最大突出高さが20000Å(2μm)で、直径が1705μmの半球状の凸部52を得ることができた。
【0017】
次に、図5は、本発明に係る水晶振動素子55を使用した圧電デバイスの一例としての水晶振動子の構成例を示す断面図である。
この水晶振動子60は、表面実装型のパッケージ61内に水晶振動素子55を気密封止した構成を備えている。即ち、パッケージ61は、セラミック等の絶縁材料から成るパッケージ本体62内部の段差63上の2つの電極63a上に夫々水晶振動素子55の表裏両面側の各リード電極57bを導電性接着剤等により接合した構成を備えている。電極63aはパッケージ底面の外部電極64と導通している。また、パッケージ本体62の上部開口には金属蓋65が溶接等により気密的に固定されている。
なお、水晶振動子60は、圧電デバイスの一例であり、本発明の水晶振動素子55は水晶発振器等の他の圧電デバイスにも適用することができる。
上記実施形態では、圧電基板母材、圧電基板として水晶材料から成るものを例示したが、本発明は水晶に限らず圧電材料一般に適用することができる。
【0018】
【発明の効果】
本発明の圧電基板母材のドライエッチング装置によれば、圧電基板母材を支持する下部電極に複数の吸引孔を備えたドライエッチング装置を用いて、所定の手順にてドライエッチングを実施することにより、レジスト塗布等を行わないで、圧電基板母材の複数の所望位置に半球状の凸部を形成することができる。凸部の突出長、径寸法等については、吸引孔の開口径、エッチングレート等を適宜変更することにより、任意に調整することが可能となり、得られる凸部の形状を均一化することができる。また、圧電基板母材には無負荷の状態で加工できるため、薄い圧電基板母材に対する加工が容易となる。
更に、第1の電極にガイド突起を設けることにより、ガイド突起に沿って加工対象物としての圧電基板母材をセットするだけで位置決めが完了するので、作業性を向上し、しかも凸部の形成位置を正確化することができる。
本発明の圧電基板母材のドライエッチング方法によれば、レジストを成膜する等の手数をかけずに、一連のドライエッチング工程を実施するだけで、所望箇所に、所望寸法の半球状凸部を複数備えた圧電基板母材を形成することができる。
本発明に係る圧電基板母材は、圧電基板母材の一方の主面上に、所望の配置で所望形状の半球状凸部を形成されているので、バッチ処理により圧電基板、或いは圧電振動素子の量産を実現できる。
本発明に係る圧電基板母材によれば、得られた圧電基板母材上の各圧電基板に相当する部分に励振電極、リード電極を形成することにより、後は分割するだけで圧電振動素子個片を大量生産することができる。
本発明に係る圧電振動素子によれば分割された圧電振動素子は、その一方の主面中央部上になだらかな曲面状の半球状凸部を有しているため、凸部内に振動エネルギーを集中させることができ、小面積でありながら所望の励振モードでの励振を確保することが可能となり、また、基板端縁は振動エネルギーと関係なくなるので、基板端縁を支持することができる。
本発明に係る圧電デバイスによれば、圧電振動素子の基板端縁をパッケージ内に支持することが可能となり、表面実装型の圧電デバイスのパッケージ構造の設計、レイアウト自由度を高めることが可能となる。
以上のように本発明によれば、エッチング後に不良品率を増大させる原因となるレジストを一切用いずにドライエッチング法によって、ATカット水晶基板等の圧電基板の片面中央部に対して所望の緩やかな曲面形状を備えた半球状(凸レンズ状)の凸部を形成することを始めて可能にしたドライエッチング装置、ドライエッチング方法、或いはこれらの装置、方法によって製造される圧電基板母材、圧電基板、及び圧電デバイスを提供することができる。特に、水晶など圧電材料の結晶軸に影響されない均一なレンズ型の凸部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)(b)及び(c)は本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置の概略構成を示す断面図、要部拡大断面図、及び更なる拡大断面図。
【図2】(a)(b)及び(c)は、第1の電極の支持面の要部構成を示す斜視図、ドライエッチングを受けた水晶基板母材の外観を示す図、及び分割形成された水晶振動素子の構成図。
【図3】(a)及び(b)は本発明の原理を説明する図。
【図4】本発明の一実施例を示す説明図。
【図5】本発明の一実施形態に係る圧電デバイスの断面図。
【図6】(a)(b)及び(c)は従来例の説明図。
【符号の説明】
1 ドライエッチング装置、11 第1の電極(下部電極)、12 支持面、12a 吸引孔、12b 電極面、13 共通吸引路、14 真空ポンプ、15ガイド突起、21 第2の電極(上部電極)、31 真空容器、35 ガス供給手段(ガスボンベ)、36 ガス排気手段(真空ポンプ)と、40 高周波電源、51 水晶基板母材(圧電基板母材)、52 凸部、55 水晶振動素子(圧電振動素子)、56 水晶基板(圧電基板)、57a 励振電極膜、57b リード電極膜、60 水晶振動素子(圧電振動素子)。
Claims (6)
- 圧電基板母材の一方の主面上に球面状の凸部を複数個形成するドライエッチング装置であって、圧電基板母材を吸着する支持面を備えた第1の電極と、前記支持面に形成された複数の高インピーダンス部と、支持面上に圧電基板母材を保持させる保持手段と、第1の電極と対向配置された第2の電極と、第1及び第2の電極を収容する真空容器と、該真空容器内にエッチングガスを供給するガス供給手段と、第1及び第2の電極間に高周波電力を供給する高周波電源と、を備えたものにおいて、
前記第1の電極の支持面は、一枚の圧電基板母材の面積内に包含されるように配置された少なくとも一つの高インピーダンス部群を備え、
前記各高インピーダンス部は、圧電基板母材の一方の主面上に形成すべき複数の球面状の凸部に対応する位置に配置されていることを特徴とするドライエッチング装置。 - 前記第1の電極の支持面には、一枚の圧電基板母材を位置決めするためのガイド突起が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のドライエッチング装置。
- 前記高インピーダンス部は、前記第1の電極の支持面に形成した孔部であることを特徴とする請求項1又は2に記載のドライエッチング装置。
- 前記孔部内には、前記第2の電極よりもインピーダンスが高い材料が配置されていることを特徴とする請求項3に記載のドライエッチング装置。
- 前記高インピーダンス部は、前記第1の電極の支持面に形成した吸引孔であり、前記保持手段は該吸引孔に負圧を導入することにより支持面上に圧電基板母材を吸引保持する負圧生成手段であることを特徴とする請求項1又は2に記載のドライエッチング装置。
- 請求項1、2、3、4又は5に記載のドライエッチング装置を用いて圧電基板母材の一方の主面上に球面状の凸部を複数個形成する方法であって、
前記第1の電極の支持面の高インピーダンス部群上に圧電基板母材を載置するステップと、
前記保持手段を作動させて支持面上に圧電基板母材を保持させるステップと、
前記ガス供給手段から真空容器内にエッチングガスを供給するステップと、
前記高周波電源から第1及び第2の電極間に高周波電力を供給してプラズマ状態に移行したエッチングガスにより圧電基板母材の主面をエッチングするエッチングステップと、から成り、
前記エッチングステップでは、前記第1の電極の支持面に形成した高インピーダンス部に対応する圧電基板母材主面部分に、球面状の凸部を形成することを特徴とするドライエッチング方法。
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