JP4214797B2 - 光学用フィルム及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば液晶表示装置に用いられる偏光板保護フィルムや位相差フィルムなどに好適な光学用フィルム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示装置には、さまざまな光学用フィルムが用いられる。液晶表示装置に用いられる光学用フィルムとしては、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム及び輝度向上フィルムなどが挙げられる。
液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置に用いる熱可塑性樹脂からなるフィルムには、光学的に透明であり、かつ複屈折が小さい他に光学的な均質性が求められる。このため、高度に延伸したポリビニルアルコールからなる偏光子を保護するための偏光板保護フィルムや、ガラス基板を樹脂フィルムに代えたプラスチック液晶表示装置用のフィルム基板の場合、複屈折の屈折率差Δnと厚みdの積で表される位相差(=Δn×d)が小さいことが要求される。また、外部の応力などによりフィルムの位相差が変化しにくいことが要求される。さらに、平面方向および厚み方向の面内でこれらの位相差のむらが小さいことが要求される。さらにまた、フィルム表面の凹凸による、いわゆるレンズ効果による画像のゆがみ現象が生じにくいことが要求される。すなわち、位相差が大きかったり、外部の応力などにより位相差が変化したり、面内における位相差の変化が大きかったり、フィルム表面の凹凸によるレンズ効果があると、液晶表示装置の画質品位を著しく低下させる。すなわち、色が部分的に薄くなるなどの色とび現象や、画像がゆがむなどの弊害が出る。
ところで、ノルボルネン系重合体などの脂環構造含有重合体は、ガラス転移温度が高く、光線透過率が高く、しかも低複屈折性を示すなどの特徴を有しており、耐熱性、透明性及び光学特性に優れた熱可塑性樹脂として注目されており、光学用フィルムへの用途展開が図られている。
【0003】
特許文献1は、偏光膜の少なくとも一面に熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを保護層として積層した液晶ディスプレイ用偏光フィルムを開示している。これによればシートの厚さむらは全面において平均厚さの±2%以内にまですることができることが記載されている。
また、特許文献2は、ガラス転移温点150℃以上の熱可塑性高分子からなり、シート厚み150〜1000μm、シートの面内厚み公差(Rmax)20μm以下、シート表面の粗さ0.1μm以下であり、かつシートの平面リターデーション20nm以下である熱可塑性高分子シートを開示している。そしてこのシートの好ましい製造方法として、熱可塑性高分子をTダイ又はコートハンガーダイからシート状に溶融押出しし、該溶融シートの表側と裏側との表面温度差を15℃以内に保持しつつ移動させ、ついで該溶融シートを冷却工程に付して固化することが開示されている。
特許文献3は、非晶性の熱可塑性樹脂からなるフィルムであって、厚みが10〜200μmで、厚みむらが5μm以下であり、かつ平面方向の位相差が10nm以下で、面内の位相差のむらが2nm以下である光学用フィルムを開示している。そして、熱可塑性樹脂からなる光学用フィルムを溶融押出し法により成膜する製造方法において、Tダイから押し出されるシート状の溶融樹脂を2つの冷却ドラムで挟み込んで冷却することを特徴とする光学用フィルムの製造方法が開示されている。
また、当出願人は、特許文献4で、表面粗さが、最大表面粗さRt表記で0.3μm以下である環状オレフィン樹脂製押出成形物を開示している。そして、この環状オレフィン樹脂製押出成形物は、極めて優れた表面平滑性を有するため、光学用途において好適に用いることができると記載されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−51117号公報
【特許文献2】
特開2000−273204号公報
【特許文献3】
特開2002−212312号公報
【特許文献4】
特開2000−280315号公報
【0005】
これらの公報に記載されているフィルムを液晶表示装置の偏光板保護フィルムや位相差フィルムなどとして用いても、偏光状態が阻害され、異常発光現象の認められることがある。また、これらのフィルムを延伸して位相差フィルムとして用いると、位相差むらや表示むらが発生することがある。通常、これらの光学用フィルムは、他の部材と粘着剤や接着剤などを介して積層されているが、使用する環境によってその境界面が剥がれてしまうことがある。そのため、さらなる改良が求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、脂環式構造含有重合体からなり、従来知られているものよりも膜厚変動が少なくて、かつ使用する環境に関係なく他の部材との接着力に優れた光学用フィルム及びこれを効率よく製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、フィルム全体の膜厚変動に加えて、特定の間隔における膜厚の変化量を少なくすることが有効であることを見出した。そしてさらに検討を進めた結果、脂環式構造含有重合体樹脂を、押出機によって溶融させて当該押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を有する光学用フィルムの製造方法において、▲1▼ダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程までを、特定の気圧下で行うこと、又は▲2▼ダイスの開口部から押出されたシート状の溶融樹脂が最初に密着する冷却ドラムまでを、囲い部材から前記ダイスの開口部及び/又は囲い部材から最初に密着する冷却ドラムまでを特定の距離になるように囲い部材で囲うことにより、上記目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、
(1)脂環式構造含有重合体樹脂からなる光学用フィルムであって、フィルム全幅における膜厚変動が基準膜厚の±3%以内で、かつ任意の10mmあたりの膜厚変化量が2μm以内である光学用フィルムの製造方法であって、脂環式構造含有重合体樹脂を、押出機によって溶融させて当該押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を有する光学用フィルムの製造方法において、
ダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程までを、50kPa以下の気圧下で行い、
ダイス開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、第1冷却ドラム、第2冷却ドラム及び第3冷却ドラムの3本の冷却ドラムに順に外接させて移送する工程を有し、
第2冷却ドラムの周速度R 2 に対する第3冷却ドラムの周速度R 3 の比R 3 /R 2 が0.999未満、0.990以上であることを特徴とする光学用フィルムの製造方法、
(2)脂環式構造含有重合体樹脂からなる光学用フィルムであって、フィルム全幅における膜厚変動が基準膜厚の±3%以内で、かつ任意の10mmあたりの膜厚変化量が2μm以内である光学用フィルムの製造方法であって、脂環式構造含有重合体樹脂を、押出機によって溶融させて当該押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を有する光学用フィルムの製造方法において、
前記ダイスの開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂が最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で囲い、かつ前記囲い部材から前記ダイスの開口部及び/又は前記囲い部材から最初に密着する冷却ドラムまでの距離Lを5〜100mmとし、
ダイス開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、第1冷却ドラム、第2冷却ドラム及び第3冷却ドラムの3本の冷却ドラムに順に外接させて移送する工程を有し、
第2冷却ドラムの周速度R 2 に対する第3冷却ドラムの周速度R 3 の比R 3 /R 2 が0.999未満、0.990以上であることを特徴とする光学用フィルムの製造方法、
(3)前記第1冷却ドラムの周速度R 1 に対する前記第2冷却ドラムの周速度R 2 の比R 2 /R 1 が0.990以上1.010未満であることを特徴とする、前記(1)又は(2)記載の光学用フィルムの製造方法。
(4)前記脂環式構造含有重合体樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対する前記第1〜第3冷却ドラムの温度を、(Tg+30)(℃)以下とすることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の光学用フィルムの製造方法。
(5)前記脂環式構造含有重合体樹脂を、前記押出機によって溶融させて前記押出機に取 り付けられたダイスからシート状に押出す前に、溶融状態の前記脂環式構造含有重合体樹脂をギヤーポンプおよび/またはフィルターに通す工程をさらに有する、前記(1)〜(4)のいずれか1項記載の光学用フィルムの製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれか 1 項記載の製造方法により得てなる光学用フィルムの片面に、偏光膜を積層してなることを特徴とする光学積層フィルム、
(7)前記(1)〜(5)のいずれか 1 項記載の製造方法により得てなる光学用フィルムを延伸して得られる位相差フィルム、
(8)位相差フィルム2枚を、各々の遅相軸が所定の角度で交差するように積層してなる光学積層体であって、その少なくとも1枚が前記(7)に記載の位相差フィルムであることを特徴とする光学積層体、及び
(9)広帯域1/4波長板である前記(8)に記載の光学積層体
がそれぞれ提供される。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の光学用フィルムは、脂環式構造含有重合体樹脂からなり、フィルム全幅における膜厚変動が基準膜厚の±3%以内で、かつ任意の10mmあたりの膜厚変化量が2μm以内であることを特徴とする。
【0009】
本発明の光学用フィルムに使用される脂環式構造含有重合体樹脂は、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有するものであり、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。
【0010】
重合体の脂環式構造としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。本発明に使用される脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、もっとも好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合がこの範囲にあるとフィルムの透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0011】
脂環式構造含有重合体樹脂は、具体的には、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、透明性や成形性の観点から、ノルボルネン系重合体がより好ましい。
ノルボルネン系重合体としては、具体的にはノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素添加物、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーとの付加型共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物が最も好ましい。
上記の脂環式構造含有重合体樹脂は、例えば特開2002−321302号報などに開示されている公知の重合体である。
【0012】
本発明に使用する脂環式構造含有重合体樹脂の分子量は、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)で測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは25,000〜80,000、より好ましくは25,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度及び成形加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0013】
本発明に用いる脂環式構造含有重合体樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.0〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
本発明に用いる脂環式構造含有重合体樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは80℃以上、より好ましくは130℃〜200℃の範囲である。この範囲において、高温下での使用においても変形や応力が生じることがなく耐久性に優れる。
【0014】
本発明の光学用フィルムは、脂環式構造含有重合体樹脂からなるものであるが、他の配合剤を含んでいてもよい。配合剤としては、格別限定はないが、無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤等が挙げられる。これらの配合剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合せて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
【0015】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、低吸水性等を低下させることなく、フィルム成形時の酸化劣化等によるフィルムの着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択されるが、脂環式構造含有重合体樹脂100重量部に対して通常0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。
【0016】
無機微粒子としては、0.7〜2.5μmの平均粒子径と、1.45〜1.55の屈折率を有するものが好ましい。具体的には、クレー、タルク、シリカ、ゼオライト、ハイドロタルサイトが挙げられ、中でもシリカ、ゼオライト及びハイドロタルサイトが好ましい。
無機微粒子の添加量は特に制限されないが、脂環式構造含有重合体樹脂100重量部に対して、通常0.001〜10重量部、好ましくは0.005〜5重量部である。
【0017】
滑剤としては、炭化水素系滑剤;脂肪酸系滑剤;高級アルコール系滑剤;脂肪酸アマイド系滑剤;脂肪酸エステル系滑剤;金属石鹸系滑剤;が挙げられる。中でも、炭化水素系滑剤、脂肪酸アマイド系滑剤及び脂肪酸エステル系滑剤が好ましい。さらに、この中でも融点が80℃〜150℃、及び酸価が10mgKOH/mg以下のものが特に好ましい。融点が80℃〜150℃をはずれ、さらに酸価が10mgKOH/mgよりも大きくなるとヘイズ値が大きくなる恐れがある。
【0018】
本発明の光学用フィルムは、フィルム全幅における膜厚変動が基準膜厚の±3%以内で、かつ任意の10mmあたりの膜厚変化量が2μm以内である。
本発明の光学用フィルムにおいて、膜厚が小さくなるほど、透明性が高まり、かつフィルムの位相差も少なくなるので、光学用フィルム、特に偏光板保護フィルムに好適である。基準膜厚は、通常20〜300μm、好ましくは40μm〜200μmである。
膜厚変動は、好ましくは基準膜厚の±2%以内である。こうすることによりフィルムに塗布した粘着剤の塗布ムラが低減され、密着性が向上し、かつ、光の屈折ムラが低減することができる。加えて、本発明の光学用フィルムを液晶表示装置に組み込んだ場合の色ムラを小さくすることができ、耐久性を向上させることができる。
膜厚変化量は、好ましくは1.5μm/10mm以内、より好ましくは1.0μm/10mm以内である。こうすることによりフィルムに塗布した粘着剤の塗布ムラが低減され、密着性が向上し、かつ、フィルムを延伸した際に延伸フィルムの位相差ムラを低減することができる。光学用フィルムをロールに巻き取った際にシワなどの不具合をなくすことができ、さらに液晶表示装置に組み込んだ場合に色ムラをなくすことができ、耐久性を向上させることができる。
【0019】
本発明の光学用フィルムにおいて、フィルムの揮発性成分の含有量が、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下である。揮発成分の含有量が前記範囲にあることにより、使用環境による寸法変化が少なくすることができ、さらに液晶ディスプレイに使用した場合に長期間使用してもディスプレイの表示ムラが発生しないなどの光学特性の安定性に優れる。
揮発性成分は、基材フィルム中に微量含まれる分子量200以下の比較的低沸点の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、脂環式構造含有重合体樹脂に微量含まれる分子量200以下の物質の合計であり、ガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0020】
本発明の光学用フィルムを成形する方法としては、特に制限されず、例えば、溶液流延法や溶融押出法などの従来公知の方法が挙げられる。中でも、溶剤を使用しない溶融押出法の方が、地球環境上や作業環境上、あるいは製造コストの観点から好ましい。
【0021】
本発明の光学用フィルムの第1の好ましい製造方法(以下、「第1の製造方法」と記す)は、脂環式構造含有重合体樹脂を、押出機によって溶融させて当該押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を有する光学用フィルムの製造方法において、ダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程までを、50kPa以下の気圧下で行うことを特徴とする。
【0022】
第1の製造方法において、ダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を行う気圧範囲は、50kPa以下、好ましくは30kPa以下である。気圧を50kPa以下とする方法としては、特に制限されず、例えば、原料タンクからフィルム巻取り機までの全部、ダイスから冷却ドラムまでの全部又はダイスから最初に密着する冷却ドラムまでの間のみを特定の圧力容器で覆い、その容器を真空ポンプなどで減圧する方法が挙げられる。前記気圧を50kPa以下にすることにより、押し出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂の放熱を抑え、徐冷することができる。
【0023】
第1の製造方法においては、前記少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程の気圧変動を20kPa以内にすることが好ましい。気圧変動を20kPa以内にすることにより、押し出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂の放熱を抑え、より安定して徐冷することができる。
ここで気圧変動は、50kPa以下の目標気圧に達した後、デジタル圧力計を用いて30秒ごとに30分間以上、同一場所を測定し、前記測定した気圧の内、最大値をPMAX(kPa)、最小値をPMIN(kPa)として、以下の式から算出される。
気圧変動(kPa)=(PMAX−PMIN)
また、第1の製造方法において、空気の漏れこみがあると漏れこんだ空気により、押し出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂が振動してしまい、厚さのばらつきが生じやすくなる傾向がある。このため、空気の漏れこみのない装置を用いるとともに漏れこんだ空気が押し出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂に直接当たらないようにバッフルなどを設けると効果的である。
50kPa以下の気圧を維持するための圧力容器は、気圧変動を小さくするために容積の大きいものを使用することが好ましい。また、使用する樹脂としては、樹脂中の残留溶媒やガス分が少ないものが、50kPa以下の気圧を容易に維持することができる点で好ましい。
【0024】
さらに本発明の光学用フィルムの第2の好ましい製造方法(以下、「第2の製造方法」と記す。)は、脂環式構造含有重合体樹脂を、押出機によって溶融させて当該押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を有する光学用フィルムの製造方法において、前記ダイスの開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂が最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で囲い、かつ前記囲い部材から前記ダイスの開口部及び/又は前記囲い部材から最初に密着する冷却ドラムまでの距離Lを5〜100mmとすることを特徴とする。
囲い部材から前記ダイスの開口部及び/又は囲い部材から最初に密着する冷却ドラムまでの距離Lを上記範囲とすることにより、溶融押出しを行う空間の雰囲気の影響を抑えることができる。
【0025】
囲い部材を構成する材料としては、例えば、合成樹脂、金属、木質材など特に制限されない。また囲い部材を成形する方法も特に制限されず、囲い部材の大きさに応じて適宜選択すればよい。
【0026】
囲い部材から前記ダイスの開口部及び/又は囲い部材から最初に密着する冷却ドラムまでの距離Lは、5〜100mm、好ましくは5〜50mmである。囲い部材から前記ダイスの開口部及び/又は囲い部材から最初に密着する冷却ドラムまでの距離Lを上記範囲とすることにより、溶融押出しを行う空間の雰囲気の影響を抑えることができる。
ここで囲い部材で囲う場合は、囲い部材がダイスの開口部、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂及び冷却ドラムに接触しないように囲う。
【0027】
ダイスとしては、特に制限されず、例えば、Tダイやコートハンガーダイなどの公知のダイスが挙げられる。ダイスの材質としては、SCM系の鋼鉄、SUSなどのステンレス材などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、ダイスとしては、その内面特にダイリップの先端部が高度に研磨されたものであって、当該内面にクロム、ニッケル、チタンなどのメッキが施されたもの、PVD(Phisical Vapor Deposition)法などにより、TiN、TiAlN、TiC、CrN、DLC(ダイアモンド状カーボン)などの被膜が形成されたもの、その他のセラミックスが溶射されたもの、表面が窒化処理されたものなどを用いることが好ましい。このようなダイスは、表面硬度が高く、樹脂との摩擦が小さいため、得られる光学用フィルムに、焼けゴミなどが混入することを防止することができると共に、ダイラインが発生することを防止することができる点で好ましい。
さらに表面精度の良いダイスを用いることにより、厚みむらを小さくすることが可能である。表面の微視的凹凸に関する表面粗さは、「平均高さRa」によって表すことができ、ダイス内面特にダイリップの先端部の平均高さRaが0.2μm以下のものを用いることが好ましい。より好ましくはRaが0.1μm以下である。
平均高さRaとは、JIS B 0601−2001によって定義される「算術平均高さRa」と同様のものであり、具体的には、測定曲線をカットオフ値0.8mmで位相補償型高域フィルターを通して粗さ曲線を求め、この粗さ曲線からその平均線の方向に一定の基準長さを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から粗さ曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均することにより求められる。
【0028】
押出機における脂環式構造含有重合体樹脂の溶融温度は、脂環式構造含有重合体樹脂のガラス転移温度よりも80〜180℃高い温度にすることが好ましく、ガラス転移温度よりも100〜150℃高い温度にすることがより好ましい。押出機での溶融温度が過度に低いと脂環式構造含有重合体樹脂の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと樹脂が劣化する可能性がある。
【0029】
ダイスの開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を冷却ドラムに密着させる方法としては、特に制限されず、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式などが挙げられる。
【0030】
本発明の第1〜第2の製造方法において、ダイス開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、第1冷却ドラム、第2冷却ドラム及び第3冷却ドラムの3本の冷却ドラムに順に外接させて移送する工程を有し、第2冷却ドラムの周速度R2に対する第3冷却ドラムの周速度R3の比R3/R2が0.999未満、0.990以上であることが好ましい。こうすることにより効率よく膜厚変動及び膜厚変化量を低減することができる。
本発明では、第2冷却ドラムの周速度R2に対する第3冷却ドラムの周速度R3の比R3/R2を0.999未満、0.990以上、好ましくは0.998未満、0.995以上に設定する。R3/R2の値が過度に大きいとシート状の脂環式構造含有重合体樹脂に延伸がかかって、得られる光学用フィルムに熱収縮や厚さむらが発生する傾向がある。一方、R3/R2の値が過度に小さい場合も、シート状の脂環式構造含有重合体樹脂が弛んで垂れ、その重さが張力となってシート状の脂環式構造含有重合体樹脂に延伸がかかり、得られる光学用フィルムに熱収縮や厚さむらが発生する傾向がある。シート状脂環式構造含有重合体樹脂を第2冷却ドラムから第3冷却ドラムへと移送するときに、第2冷却ドラム温度近辺から第3冷却ドラム温度近辺に低下することによる樹脂の収縮率に見合うように、R3/R2の設定値を決定する。上記の周速比を採ることにより、シート状の脂環式構造含有重合体樹脂が弛むことなく、適当なテンションで引っ張られながら、厚さむらが小さい光学用フィルムが製造できるようになる。
【0031】
また、第1冷却ドラムの周速度R1に対する第2冷却ドラムの周速度R2の比R2/R1を1.01未満、0.990以上に設定することが好ましく、1.000未満、0.995以上に設定することがより好ましい。R2/R1の値をこの範囲にすることにより、得られるフィルムの分子配向が特に小さくなり、巻きジワの発生を防ぐことができる。
【0032】
さらに、本発明の第1〜第2の製造方法において、前記第1冷却ドラムの周速度R1に対する第2冷却ドラムの周速度R2の比R2/R1が1.010未満、0.990以上であることが好ましい。
【0033】
本発明の第1〜第2の製造方法において、前記3本の冷却ドラムの配置としては、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。また押出機から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂の冷却ドラムへの通し方も特に制限されない。
【0034】
本発明の第1〜第2の製造方法においては、冷却ドラムの温度により、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂の冷却ドラムへの密着具合が変化する。冷却ドラムの温度を上げると密着はよくなるが、温度を上げすぎるとシート状の脂環式構造含有重合体樹脂が冷却ドラムから剥がれずに、ドラムに巻きつく不具合が発生する恐れがある。そのため、冷却ドラム温度は、好ましくはダイスから押し出す脂環式構造含有重合体樹脂のガラス転移温度をTg(℃)とすると、(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg−45)℃の範囲にする。そうすることにより滑りやキズなどの不具合を防止することができる。
【0035】
本発明の第1〜第2の製造方法においては、フィルム化の前に、用いる脂環式構造含有重合体樹脂を予備乾燥しておくことが好ましい。予備乾燥は、例えば原料をペレットなどの形態にして、熱風乾燥機などで行われる。予備乾燥を行うことにより、押し出す樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0036】
本発明の第1〜第2の製造方法においては、脂環式構造含有重合体樹脂を押出機内によって溶融して、当該押出機に取り付けられたダイスから押出す前に、溶融状態の脂環式構造含有重合体樹脂をギヤーポンプやフィルターを通すことが好ましい。ギヤーポンプを使用することにより、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚さむらを低減させることができる。また、フィルターを使用することにより、樹脂中の異物を除去し欠陥の無い外観に優れた光学用フィルムを得ることができる。
【0037】
本発明の第1〜第2の製造方法は、併用するとさらに好ましい。すなわち、脂環式構造含有重合体樹脂を、押出機によって溶融させて当該押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を有する光学用フィルムの製造方法において、ダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、ダイスの開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂が最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で囲い、かつ前記囲い部材から前記ダイスの開口部及び/又は前記囲い部材から最初に密着する冷却ドラムまでの距離Lを5〜100mmとし、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程までを50kPa以下の気圧下で行う。本発明の第1の製造方法と第2の製造方法とを併用することにより、さまざまな厚さむらの原因を同時に除くことが可能となり。各々の製造方法を用いた場合よりもさらに厚さむらが小さい光学用フィルムを得ることができる。
【0038】
本発明の光学積層フィルムは、本発明の光学用フィルムの片面に、偏光膜を積層してなることを特徴とする。
偏光膜としては特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。例えば、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜、ポリエン系偏光膜等が挙げられる。これらの偏光膜のうち、例えば、ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを延伸し、これにヨウ素あるいは二色性染料を吸着させることによって製造することができる。偏光膜を積層する場合においては、予め光学フィルムの積層面をコロナ放電処理等の表面処理を施すのが好ましい。表面処理を行うことにより、より密着性に優れる光学積層フィルムを得ることができる。
【0039】
また、長尺の光学フィルムを用いる場合には、光学フィルムの片面に接着剤又は粘着剤を介して偏光膜を直接積層することができる。例えば、ポリビニルアルコールのフィルムを延伸し、ヨウ素を吸着させ、保護フィルムを兼ねた長尺の光学フィルムを貼り合わせて積層し、乾燥し、巻取りといった工程を一本のラインで行なうことができる。もちろん、光学フィルムと偏光膜との間に保護フィルムを積層することも可能である。
接着剤又は粘着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルや合成ゴムなどの適当なポリマーをベースポリマーとするものが挙げられる。
本発明の光学積層フィルムの厚さは、60〜200μmである。
【0040】
本発明の位相差フィルムは、本発明の光学用フィルムを延伸処理して得られる。
延伸処理する方法としては、ロール側の周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法、テンター延伸機を用いて横方向に一軸延伸する方法等の一軸延伸法;固定するクリップの間隔を開いての縦方向の延伸と同時に、ガイドレールの広がり角度により横方向に延伸する同時二軸延伸法や、ロール間の周速の差を利用して縦方向に延伸した後、その両端部をクリップ把持してテンター延伸機を用いて横方向に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法;横又は縦方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機を用いてフィルムの幅方向に対して任意の角度θの方向に連続的に斜め延伸する方法;などが挙げられる。
【0041】
斜め延伸する方法により、フィルムの幅方向に対して角度θの遅相軸を有する長尺の延伸フィルムを得ることができる。すなわち、角度θを任意の値に設定することにより、面内の遅相軸方向の屈折率、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、及び厚み方向の屈折率を所望の値となるようにすることができ、所定の波長に対して1/2の位相差を与える1/2波長板、及び1/4の位相差を与える1/4波長板とすることができる。
【0042】
斜め延伸する方法としては、その幅方向に対して角度1〜50度の方向に連続的に延伸して、ポリマーの配向軸を所望の角度に傾斜させるものであれば特に制約されず、公知の方法を採用することができる。本発明に用いることができる斜め延伸の方法としては、例えば、特開昭50−83482号公報、特開平2−113920号公報、特開平3−182701号公報、特開2000−9912号公報、特開2002−86554号公報、特開2002−22944号公報等に記載されたものが挙げられる。
【0043】
延伸処理するときの温度は、前記脂環式構造含有重合体樹脂のガラス転移温度をTgとすると、好ましくは(Tg−30℃)から(Tg+60℃)の間、より好ましくは(Tg−10℃)から(Tg+50℃)の温度範囲である。また、延伸倍率は、通常1.01〜30倍、好ましくは1.01〜10倍、より好ましくは1.01〜5倍である。
【0044】
本発明の位相差フィルムとしては、所定の波長に対して1/2波長の位相差を与える1/2波長板、所定の波長に対して1/4波長の位相差を与える1/4波長板などが挙げられる。
本発明の位相差フィルムの厚さは、通常30〜120μmである。
【0045】
本発明の光学積層体は、位相差フィルム2枚を、各々の遅相軸が所定の角度で交差するように積層してなり、その少なくとも1枚が本発明の位相差フィルムであることを特徴とする。
ここに、「各々の遅相軸が所定の角度で交差するように積層する」とは、2枚の位相差フィルムにおける長手方向(幅方向)が実質的に一致するよう積層することをいう。
【0046】
本発明の光学積層体においては、製造に用いる位相差フィルムの少なくとも1枚は、本発明の光学フィルムを斜め延伸処理して得られるものであることが好ましく、用いる2枚の位相差フィルムが、ともに本発明の位相差フィルムであることがより好ましい。本発明の位相差フィルムを用いることにより、表面に傷がなく、透明性に優れる光学積層体を得ることができる。
【0047】
位相差フィルムの積層方法は特に制限されず、公知の積層方法を採用できるが、生産効率の観点から、長尺のフィルム同士を貼り合わせる、いわゆるロールトゥーロール方式を採用するのが好ましい。この方式によれば、ロール状に巻き取った第1の位相差フィルム及び第2の位相差フィルムをそれぞれ引き出し、▲1▼接着剤若しくは粘着剤を接合面に塗布して両者を積重し、この積重体を加圧ローラのニップに供給して圧着すること、又は▲2▼接着剤若しくは粘着剤を介さずに第1の位相差フィルムと第2の位相差フィルムとを積重し、この積重体の両端部のみを固定すること、により連続的に貼り合わせることができる。
【0048】
使用する接着剤又は粘着剤は、所定の接着力を有し、透明性の優れたものであれば特に限定されない。構成部材の光学特性の変化防止の観点からは、硬化や乾燥の際に高温のプロセスを要しないものが好ましく、長時間の硬化処理や乾燥時間を要しないものが望ましい。接着剤又は粘着剤としては、例えばアクリル樹脂系の接着剤や粘着剤等が挙げられる。得られた光学積層体が長尺状であれば、ロール状に巻き取って回収・保存することができる。表示装置等に組み込む際は、必要に応じ任意の大きさ、また幅方向あるいは長手方向から任意の角度で、通常は矩形に切り出して用いる。
本発明の光学積層体の厚さは、通常60〜240μmである。
【0049】
本発明の光学積層体は、広帯域1/4波長板であるのが好ましい。広帯域1/4波長板は、広い波長領域(例えば、450〜650nm)において、実質的に1/4波長の位相差を与えるものである。
【0050】
広帯域1/4波長板は、位相差フィルムの2枚(1/2波長板及び1/4波長板)を、それぞれの遅相軸が(60±3)度で交差するように積層することにより得ることができる。1/2波長板と1/4波長板とを積層した場合に、それぞれの遅相軸の交差角が57度((60−3)度)未満又は63度((60+3)度)を超える場合には、得られる長尺の積層体は「広帯域1/4波長板」として機能するものとはならない。また、1/2波長板及び1/4波長板のそれぞれの遅相軸が互いに(60±3)度で交差するように貼り合せたときに、それぞれの長手方向が実質的に一致していなければ、広帯域1/4波長板の長尺化を図ることができない。1/2波長板及び1/4波長板において、幅方向と遅相軸とのなす角度は、斜め延伸処理する際の処理条件を制御することによって適宜調整することができる。
【0051】
本発明の光学用フィルムは、上記光学積層フィルムや光学積層体に好適であるが、その他の液晶ディスプレイ装置用に低透湿性と高度な光学特性が求められるシート、例えば、液晶基板、光拡散シート、プリズムシートなどにも用いることができる。
【0052】
【実施例】
本発明の方法を、実施例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
(1)フィルムの膜厚(基準膜厚、膜厚変動値、膜厚変化量)
フィルムを長さ方向に100mm毎に切り出し、その切り出したフィルムについて、接触式ウェブ厚さ計(明産社製、RC−101)を用いて、フィルムの幅方向に0.48mm毎に測定し、その測定値の算術平均値を基準膜厚T(μm)とする。膜厚変動は、前記測定した膜厚の内最大値をTMAX(μm)、最小値をTMIN(μm)として以下の式から算出する。
膜厚変動(%)=(TMAX−TMIN)/T×100
膜厚変化量(μm/10mm)は、前記膜厚の測定値から10mmあたりの最大の変化量を算出する。
(2)フィルムの揮発性成分の含有量
ガスクロマトグラフィーにより、分子量200以下の物質の合計量を計算する。
(3)光学積層フィルム又は光学積層体の耐久性試験
光学積層フィルム又は位相差板を下記a)〜e)までの環境下に順次おき、その後の光学積層フィルム又は光学積層体(広帯域1/4波長板)の状態の変化を目視により確認する。
a)80℃、50%RH環境下に500時間
b)60℃、90%RH環境下に500時間
c)80℃、90%RHの環境下に100時間
d)−30℃、10%RHの環境下に500時間
e)80℃、90%RHの環境下で表面にウエットティッシュを載せて30分間(4)光むら
光学積層体(広帯域1/4波長板)を偏光板にクロスニコル状態ではさみ、この偏光板に光をあてて、そのときの光むらを目視により評価し、以下の2つの基準で評価する。
○:光むらが見られない
×:光むらが見られる
【0053】
(比較例1)
ノルボルネン系重合体(製品名「ZEONOR 1420R」、日本ゼオン社製;ガラス転移温度Tgは136℃)のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥機を用いて100℃で、4時間乾燥した。そしてこのペレットを、リーフディスク形状のポリマーフィルター(濾過精度30μm)を設置した50mmの単軸押出機とン内面に表面粗さRa=0.15μmのクロムメッキを施した650mm幅のT型ダイスを用いて溶融樹脂温度260℃及びダイス温度260℃で押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、第1冷却ドラム(直径250mm、温度:135℃、周速度R1:10.05m/秒)に密着させ、次いで第2冷却ドラム(直径250mm、温度125℃、周速度R2:10.05m/秒)、次いで第3冷却ドラム(直径250mm、温度100℃、周速度R3:9.98m/秒)に順次密着させて移送し、600mm幅の光学用フィルム1Aを得た。得られたフィルム1Aの揮発性成分の含有量は、0.01重量%以下であった。得られた光学用フィルム1Aの測定結果を表1に示す。
【0054】
(比較例2)
押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を冷却ドラムとタッチロールにより狭圧、冷却する他は比較例1と同様にして、600mm幅の光学用フィルム2Aを得た。得られたフィルム2Aの揮発性成分の含有量は、0.01重量%以下であった。得られた光学用フィルム2Aの測定結果を表1に示す。
【0055】
(実施例1)
T型ダイスからすべての冷却ドラム(3本)までを圧力容器にいれ、その圧力容器内の気圧を30kPaにした他は、比較例1と同様にして光学用フィルム3Aを得た。得られたフィルム3Aの揮発性成分の含有量は、0.01重量%以下であった。得られた光学用フィルム3Aの測定結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
T型ダイスの開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂が第1冷却ドラムに密着するまでの間をアルミ製の囲い部材で、前記囲い部材から第1冷却ドラムまでの距離及び囲い部材からダイス開口部までの距離が50mmとなるように囲った他は、比較例1と同様にして光学用フィルム4Aを得た。得られたフィルム4Aの揮発性成分の含有量は、0.01重量%以下であった。得られた光学用フィルム4Aの評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
(比較例3〜4、及び実施例3〜4)光学積層フィルムの製造
比較例1〜2、及び実施例1〜2でそれぞれ得られた光学用フィルム1A〜4Aを所定量カットし、その表面を空気中にてコロナ放電処理(放電量100W/m2・分)を施した。得られた処理フィルムの表面にポリビニルアルコール重合体(商品名:PVA203、ケン化度86.5〜89.5%、平均重合度300、クラレ社製)の10%水溶液(PVA水溶液)を滴下し、そこへ、光学用フィルムと同サイズの未染色ポリビニルアルコール2軸延伸フィルム(商品名:ボブロン#140、日本合成化学(株)製の偏光膜、膜厚14μm)を貼り合わせた。次いで、この積層フィルムをロールラミネーターに設置し、PVA水溶液が乾燥しないうちに圧着した。このものを40℃で72時間放置することにより、各層を完全に密着させて光学フィルム1A〜4Aにそれぞれ対応する光学積層フィルム1B〜4Bを得た。そして、得られた光学積層フィルムの耐久性試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
(比較例5〜6、及び実施例5〜6)広帯域1/4波長板の製造
比較例1〜2、及び実施例1〜2で得た光学用フィルム1A〜4Aから、100mm/secの延伸速度、延伸温度140℃の自由収縮の一軸延伸によって、光学用フィルム1A〜4Aにそれぞれ対応する位相差フィルム(1/2波長板1C〜4C、1/4波長板1D〜4D)を得た。
1/2波長板:延伸倍率1.3倍で延伸(波長550nmにおけるレタデーション265nm)
1/4波長板:延伸倍率1.5倍で延伸(波長550nmにおけるレタデーション132.5nm)
次いで、1/2波長板1C〜4Cの一面に、2液ウレタン系接着剤をロールコーターにて塗布(プレコート)し、100℃の温風を風速10m/secで90秒間吹き付けて乾燥させて、プレコートした1/2波長板1C〜4Cを得た。
2液ウレタン系接着剤として、以下に示す主剤と硬化剤とを、主剤/硬化剤=100/10の重量比で混合したものを使用した。
主剤:ポリエステル系ポリウレタン樹脂の酢酸エチル溶液(商品名:WWA−600S、日本ポリウレタン(株)製)
硬化剤:ポリイソシアネートの酢酸エチル溶液(商品名:HARDNER110、日本ポリウレタン(株)製)
【0061】
次いで、前記1/4波長板1D〜4Dと上記プレコートした1/2波長板1C〜4Cとを、それぞれの遅相軸の交差角が59度になるように貼り合わせた。さらに、偏光板を1/2波長板のもう一方の面側に偏光板の透過軸と1/2波長板の遅相軸との交差角が15度になるように貼り合わせ、熱圧着ロールにて70℃で圧着した。このものを40℃で3日間エージングすることにより、それぞれ1/2波長板1C〜4C、及び1/4波長板1D〜4Dにそれぞれ対応する広帯域1/4波長板1E〜4Eを得た。
【0062】
(広帯域1/4波長板の評価試験)
比較例5〜6、及び実施例5〜6でそれぞれ得られた広帯域1/4波長板1E〜4Eの耐久性試験及び光ムラの観察を行った。評価結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表1〜表3の結果から、以下のことがわかる。本発明の製造方法によれば、フィルム全幅における膜厚変動が基準膜厚の±3%以内で、かつ任意の10mmあたりの膜厚変化量が2μm以内である光学用フィルムを得ることができる(実施例1及び2)。そして、このフィルムを用いた光学積層フィルムは、偏光膜と積層しても使用する環境に関係なく反り、変色及び剥がれなどが発生しない(実施例3及び4)。得られた光学用フィルムを延伸処理して得られる位相差フィルムを積層した光学積層体は、使用する環境に関係なく反り、変色及び剥がれなどが発生せず、かつ光ムラが発生しない(実施例5及び6)。
一方、比較例に示すように従来の製造方法により得られる光学用フィルムは、膜厚変動及び膜厚の変化量が大きい(比較例1及び2)。このため、このフィルムを用いた光学積層フィルム及び光学積層体は、使用する環境によって、反り、変色及び剥がれなどが発生したり、光ムラが発生したりする(比較例3〜6)。
【0065】
【発明の効果】
従来知られているものよりも膜厚変動が少なくて特定の範囲での膜厚変化量が少なく、かつ使用する環境に関係なく他の部材との接着力に優れるので、広視野角や大画面が必要とされる液晶表示装置に好適である。
Claims (9)
- 脂環式構造含有重合体樹脂からなる光学用フィルムであって、フィルム全幅における膜厚変動が基準膜厚の±3%以内で、かつ任意の10mmあたりの膜厚変化量が2μm以内である光学用フィルムの製造方法であって、脂環式構造含有重合体樹脂を、押出機によって溶融させて当該押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を有する光学用フィルムの製造方法において、
ダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程までを、50kPa以下の気圧下で行ない、
ダイス開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、第1冷却ドラム、第2冷却ドラム及び第3冷却ドラムの3本の冷却ドラムに順に外接させて移送する工程を有し、
第2冷却ドラムの周速度R 2 に対する第3冷却ドラムの周速度R 3 の比R 3 /R 2 が0.999未満、0.990以上であることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。 - 脂環式構造含有重合体樹脂からなる光学用フィルムであって、フィルム全幅における膜厚変動が基準膜厚の±3%以内で、かつ任意の10mmあたりの膜厚変化量が2μm以内である光学用フィルムの製造方法であって、脂環式構造含有重合体樹脂を、押出機によって溶融させて当該押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出し、押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、少なくとも1つの冷却ドラムに密着させて成形して引き取る工程を有する光学用フィルムの製造方法において、
前記ダイスの開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂が最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で囲い、かつ前記囲い部材から前記ダイスの開口部及び/又は前記囲い部材から最初に密着する冷却ドラムまでの距離Lを5〜100mmとし、
ダイス開口部から押出されたシート状の脂環式構造含有重合体樹脂を、第1冷却ドラム、第2冷却ドラム及び第3冷却ドラムの3本の冷却ドラムに順に外接させて移送する工程を有し、
第2冷却ドラムの周速度R 2 に対する第3冷却ドラムの周速度R 3 の比R 3 /R 2 が0.999未満、0.990以上であることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。 - 前記第1冷却ドラムの周速度R 1 に対する前記第2冷却ドラムの周速度R 2 の比R 2 /R 1 が0.990以上1.010未満であることを特徴とする、請求項1又は2記載の光学用フィルムの製造方法。
- 前記脂環式構造含有重合体樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対する前記第1〜第3冷却ドラムの温度を、(Tg+30)(℃)以下とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の光学用フィルムの製造方法。
- 前記脂環式構造含有重合体樹脂を、前記押出機によって溶融させて前記押出機に取り付けられたダイスからシート状に押出す前に、溶融状態の前記脂環式構造含有重合体樹脂をギヤーポンプおよび/またはフィルターに通す工程をさらに有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の光学用フィルムの製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得てなる光学用フィルムの片面に、偏光膜を積層してなることを特徴とする光学積層フィルム。
- 請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得てなる光学用フィルムを延伸してなる位相差フィルム。
- 位相差フィルム2枚を、各々の遅相軸が所定の角度で交差するように積層してなる光学積層体であって、その少なくとも1枚が請求項7に記載の位相差フィルムであることを特徴とする光学積層体。
- 広帯域1/4波長板である請求項8に記載の光学積層体。
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