JP4207306B2 - 穴部の肉盛り装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩耗やクラック修理のため等に母材の穴部に肉盛りを行う穴部の肉盛り装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
機械部品等の穴部の摩耗やクラック修理のために、穴部の内側に肉盛りを行う場合があるが、母材がアルミ合金等においても他の金属と同様に、TIG溶接法(タングステン電極を用いる不活性ガスアーク溶接法)等の溶融溶接により当該穴部の肉盛りを行っていた。
【0003】
アルミ合金等の軽金属の穴部の修理の際、TIG溶接等の溶融溶接による肉盛りを実施すると、かなりの高温になるため、熱によって部品の変形や材料の機械強度低下が発生してしまい、肉盛り不良が生じる場合があった。
この対策として、例えば、図2の(a)に示すように、アルミ合金で形成された母材3に空けられた比較的小さな穴部3aの内側を肉盛りして修理する手段として、母材3の下面側において穴部3aの開口端を閉塞するように当て板5を当てがい、穴部3a内に溶接材4を入れ、穴部3aの底に載置した状態で、摩擦棒1を回転させるとともに、図2に(b)に示すように、穴部3a内に圧入させる手段が提案されている。
【0004】
この手段によれば、高速回転する摩擦棒1と溶接材4との間、もしくは溶接材4と当て板5との間で瞬間的に大きな摩擦熱を発生させるので、塑性化された溶接材4は、摩擦棒1によって塑性流動し、摩擦棒1と母材3との隙間に押し出されて該隙間を埋めるとともに、溶接材4と母材3とが混合、接合し、穴部3aの内側が肉盛りされる。
このような穴部の肉盛り手段では、母材3の融点まで温度を上昇させず、瞬時に溶接材4を塑性流動させるため、変形や強度低下が抑えられ、穴部3aの良好な肉盛りが可能となるものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の肉盛り手段では、以下のような課題が残されている。すなわち、溶接材が摩擦棒によって押し出される際に、穴部の底で径方向への流れが発生し、この部分で穴部の変形が生じるおそれがあるとともに、母材と当て板との境界に溶接材が侵入するおそれがあった。また、溶接材の流動部と母材とが擦れることによる酸化被膜除去効果が小さくなってしまい、酸化被膜の残留により接合不良等が発生するおそれがあった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、穴部の底での変形等を防止するとともに、酸化被膜の残留を防いで良好な接合を得ることができる穴部の肉盛り装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題を解決するため、以下の構成を採用した。すなわち、請求項1記載の穴部の肉盛り装置では、貫通した穴部の一方を塞ぐ当て部材と、穴部の穴径よりも外径が小さい摩擦棒と、摩擦棒を回転させるとともに穴部に圧入する駆動手段と、を備えた穴部の肉盛り装置であって、前記当て部材には、前記穴部とほぼ同径の有底穴が設けられている技術が採用される。
【0008】
この穴部の肉盛り装置では、当て部材に穴部とほぼ同径の有底穴が設けられているので、摩擦棒の回転、圧入に伴って、有底穴の中で塑性流動した溶接材が径方向に流動するとともに穴の軸方向上方に流れが向けられ、この後に穴部と摩擦棒との間に流動させられる。したがって、穴部では、軸方向にのみ溶接材が流動することにより、穴部の底において変形等が低減されるとともに、酸化被膜の除去が良好に行われる。
【0009】
請求項2記載の穴部の肉盛り装置では、請求項1記載の穴部の肉盛り装置において、前記摩擦棒は、その先端面が圧入方向に向けて凸状に形成されている技術が採用される。
【0010】
この穴部の肉盛り装置では、摩擦棒の先端面が圧入方向に向けて凸状に形成されているので、摩擦棒の回転、圧入によって塑性化した溶接材が先端面に沿って流動することにより、径方向の流れをスムーズに軸方向へ変えることができる。
【0011】
請求項3記載の穴部の肉盛り装置では、請求項1又は2記載の穴部の肉盛り装置において、前記有底穴は、その底面が前記摩擦棒の先端面形状に応じた凹状に形成されている技術が採用される。
【0012】
この穴部の肉盛り装置では、有底穴の底面が摩擦棒の先端面形状に応じた凹状に形成されているので、塑性化した溶接材が摩擦棒の先端面に沿って流動するとともに、有底穴の底面に沿っても流動することにより、径方向の流れをさらにスムーズに軸方向へ変えることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る穴部の肉盛り装置の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。
この図において、符号11は摩擦棒、12は駆動手段、13は当て板である。
【0014】
本実施形態の肉盛り装置は、図1に示すように、例えば、アルミ合金で形成された母材3(本実施形態では、厚さが均一な板状のもの)に空けられた比較的小さな貫通状態の穴部3a(例えば、ピン用の穴部)の内側を肉盛りして修理するものであって、工具鋼で形成され回転可能なプラグである摩擦棒11と、該摩擦棒11を所定の回転数で回転駆動するとともに軸方向に進退させる駆動手段12と、母材3の下面側において穴部3aの開口端を閉塞するように当てがう当て板(当て部材)13とを備えている。
【0015】
前記摩擦棒11は、その先端面11aが先端側(圧入方向)に向けて凸状、すなわち先端に向けて暫時外径が小さくされたテーパ状に形成されている。
前記当て板13は、穴部3aに当てる位置に該穴部3aとほぼ同じ内径の有底穴13aが形成され、該有底穴13aは、その底面13bが摩擦棒11の先端面11aの形状に応じた凹状、すなわち暫時内径が深さ方向に向けて小さくなるように形成されている。
【0016】
本実施形態の肉盛り装置における穴部3aの肉盛り方法を、以下に説明する。
まず、母材3の下面側において穴部3aの開口端を閉塞するように、穴部3aに有底穴13aを一致させて当て板13を当てがう。
さらに、穴部3a内にその内径より小さい外径の円柱状に成形された溶接材4を入れ、穴部3a内(当て板13の有底穴13aの底面)に載置する。
なお、前記溶接材4は、母材3と同じ材料であるアルミ合金で形成されている。
また、摩擦棒11は、その外径が肉盛りに必要な厚さだけ穴部3aの穴径より小さく設定され、かつ穴部3aと軸線を一致させて配されている。
【0017】
次に、この状態で、摩擦棒11を駆動手段12によって、所定の回転数で回転させるとともに、図1の(a)に示すように、穴部3a内に圧入させる。
このとき、主に高速回転する摩擦棒11の先端面11aが溶接材4に接触して、摩擦棒11と溶接材4との間、もしくは溶接材4と当て板13の有底穴13aとの間で瞬間的に大きな摩擦熱を発生させる。
なお、溶接材4および母材3は、この摩擦熱によって溶接材4および母材3を形成するアルミ合金の融点より低い温度で、かつ塑性流動させるのに十分な温度まで加熱される。
【0018】
そして、塑性化された溶接材4は、図1の(b)に示すように、摩擦棒11の回転、圧入に伴って、有底穴13aの中で径方向に流動するとともに穴の軸方向上方に流れが向けられ、この後に穴部3aと摩擦棒11との間に流動させられ、摩擦棒11と母材3との隙間に押し出されて該隙間を埋める。この際、溶接材4と母材3とが混合、接合し、穴部3aの内側が肉盛りされる。なお、溶接材4は、摩擦棒11と母材3との隙間を十分に埋めることができるだけの量のものが採用される。
このように、穴部3aでは、軸方向にのみ溶接材4が流動することにより、穴部3aの底(開口端部分)において変形等が低減されるとともに、酸化被膜の除去が良好に行われる。
【0019】
また、摩擦棒11の先端面11aが圧入方向に向けて凸状に形成されているとともに、有底穴13aの底面13bが摩擦棒11の先端面11aの形状に応じた凹状に形成されているので、摩擦棒11の回転、圧入によって塑性化した溶接材4が先端面11aおよび底面13bに沿って流動することにより、径方向の流れをスムーズに軸方向へ変えることができる。
【0020】
本発明は、次のような実施形態をも含むものである。
(1)上記実施形態では、摩擦棒11の先端面11aを先端に向けて暫時外径が小さくなるテーパ状の凸形状にしたが、圧入方向に向けて凸条に形成されていれば、他の形状でも構わない。例えば、摩擦棒の先端面が半球面状に形成されていてもよい。
【0021】
(2)母材3と同じ材料の溶接材4を用いたが、溶接材料として肉盛りに適用可能な材料であれば、他の材料で溶接材を形成しても構わない。
(3)溶接材4の形状を円柱状にしたが、これに限るものではなく、他の形状のものを採用しても構わない。例えば、十分な摩擦熱が得られるものであれば、粒状の溶接材を適用してもよい。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
(1)請求項1記載の穴部の肉盛り装置によれば、当て部材に穴部とほぼ同径の有底穴が設けられているので、有底穴の中で穴の軸方向上方に溶接材の流れを向けることができ、母材と溶接材の流動部とをスムーズに擦れ合わせることができる。
したがって、製品の変形を減らすことができるとともに、母材とのせん断がスムーズに行われるようになり、酸化被膜も崩壊、除去しやすくなって良好な接合を行うことができる。
【0023】
(2)請求項2記載の穴部の肉盛り装置によれば、当て部材に穴部とほぼ同径の有底穴が設けられているので、塑性化した溶接材が先端面に沿って流動することにより、径方向の流れをスムーズに軸方向へ変えることができ、母材の変形防止および酸化被膜除去効果をより向上させることができる。
【0024】
(3)請求項3記載の穴部の肉盛り装置によれば、有底穴の底面が摩擦棒の先端面形状に応じた凹状に形成されているので、塑性化した溶接材が摩擦棒の先端面に沿って流動するとともに、有底穴の底面に沿っても流動することにより、径方向の流れをさらにスムーズに軸方向へ変えることができる。また、摩擦棒の先端面と有底穴の底面が互いに嵌合的な形状であるため、溶接材を無駄なく穴部へと押し出して流動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る穴部の肉盛り装置の一実施形態における圧入前後の状態を示す要部を破断した斜視図である。
【図2】 本発明に係る穴部の肉盛り装置の従来例における圧入前後の状態を示す要部断面図である。
【符号の説明】
3 母材
3a 穴部
4 溶接材
11 摩擦棒
11a 摩擦棒の先端面
13 当て板(当て部材)
13a 有底穴
13b 有底穴の底面
Claims (3)
- 貫通した穴部の一方を塞ぐ当て部材と、穴部の穴径よりも外径が小さい摩擦棒と、摩擦棒を回転させるとともに穴部に圧入する駆動手段と、を備えた穴部の肉盛り装置であって、
前記当て部材には、前記穴部とほぼ同径の有底穴が設けられている、ことを特徴とする穴部の肉盛り装置。 - 前記摩擦棒は、その先端面が圧入方向に向けて凸状に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の穴部の肉盛り装置。
- 前記有底穴は、その底面が前記摩擦棒の先端面形状に応じた凹状に形成されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の穴部の肉盛り装置。
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