JP4203867B2 - 牽切用パラ系アラミド繊維トウ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な牽切用パラ系アラミド繊維トウに関し、さらに詳しくは、牽切性が良好で、スパン糸の強力利用率が高く、容易に超高級番手の製造が可能な牽切用パラ系アラミド繊維トウに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、アウトドアースポーツが盛んになり、耐切創性、耐熱性、高強力特性を有するパラ系アラミド繊維を用いたアウトドアースポーツ用衣料や防護衣料が幅広く用いられるようになった。しかし、パラ系アラミド繊維は、一般合繊に比べ紡績性が劣り、高級番手化が困難であるという問題を有し、より軽量で柔軟性を持った、軽快で安全性に優れたアウトドアースポーツ衣料の要求に応じるためにはパラ系アラミド繊維では限界があった。
【0003】
また、切創事故を起こし易い作業に幅広く用いられている防護衣料においても、軽量で柔軟性、耐切創性に優れた作業性の良い、パラ系アラミド繊維を用いた防護衣料が強く要望されている。
【0004】
一方、軽量化に向けてパラ系アラミド繊維フイラメント糸の細デニール化が試みられているが、生産性の極端な低下や設備化費用が膨大となるなどの理由で、現在上市されている最も細いデニールは200デニールである。このため細デニール化の手法として、ステープルから一般のカード方式を用いた紡績糸の細番手化が、たとえば、特公昭61−9421号に提案されている。
【0005】
細番手糸を紡績するには、パラ系アラミド繊維も一般の紡績糸と同様、単繊維の繊度を細くするか、繊維長をできる限り長くするのであるが、単繊維の繊度は1〜1.5デニール程度が限界であり、繊維長を長くするとカードでのシリンダー巻き付きやネップ、さらにはパラ系アラミド短繊維はフィブリル化による白粉が多発し、紡績糸の強力利用率の低下をきたすなど、スパン糸の品質が大幅に低下する問題があり、高品質な細番手糸が得られないという欠点を有していた。
【0006】
一方、細繊度長繊維長の可紡性向上を狙った紡績方法として牽切紡績がある。この牽切紡績は、トウを牽切してスライバーとした後、アクリルのバルキースパン糸やポリエステルの高強力スパン糸など幅広く応用されている。これらに用いられる牽切用トウは、一対または数対のローラ間で延伸牽切されることから、トウを構成する単繊維の伸度が小さいものは牽切工程通過性に優れており、特開昭53−98418号などに見られるように、トウを低伸度化する方法が提案されている。
【0007】
また、パラ系アラミド繊維トウについても、たとえば特開昭58−87323号などが提案されている。従来のパラ系アラミド繊維トウは繊維伸度は低いが、切断伸度の変動率が比較的大きく、また強力が非常に高く、分繊性、静電性も劣ることから、牽切に際して集中切断、集団切断、ミスカットなどが多発し、牽切性、生産性が著しく低いなどの理由から、パラ系アラミド繊維トウの牽切は困難であるとされてきた。また、牽切後のスライバ品質も他合繊トウより大幅に劣っていた。
【0008】
一般に、カード方式の紡績での可紡限界は、繊度(デニール)/繊維長(インチ)=1といわれ、この数値以下でないと紡績が実質的に困難である。例えば、繊度2デニールなら、繊維長は2インチ(51mm)以上でないと紡績が実質的に困難である。最近の紡績技術の向上によりアクリル系繊維など可紡性に優れた素材では、上記可紡範囲よりかなり広い可紡範囲を有するけれども、他の合繊に比べ可紡性が劣るパラ系アラミド繊維では、いまだに、ほぼ上式どおりの可紡限界となっている。
【0009】
カード方式で60S 以上のパラ系アラミド繊維100%スパン糸を得るには、1.5d以下で80mmを越える長繊維長を有するスライバが必要であるが、カード方式では満足な可紡性や、良好なスライバ品質が得られず、開発上の最大の難点になっていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記パラ系アラミド繊維トウの問題点を解決し、牽切性、スライバー品質の良好な、生産性の高いパラ系アラミド繊維100%の高級番手スパン糸を得るための新規な牽切用パラ系アラミド繊維トウを提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。すなわち、
(1)牽切用パラ系アラミド繊維トウを構成するパラ系アラミド繊維が、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維であって、トウを構成する単繊維の切断伸度が6%以下、3%伸長時の繊維伸長弾性率が70%以下で、単繊維の切断伸度の変動率が20%以下、初期引張抵抗度が200g/d以上、単繊維の切断強度が10g/d以上であることを特徴とする牽切用パラ系アラミド繊維トウ。
【0012】
(2)トウを構成する単繊維のケン縮数が、5〜14山/in、ケン縮度が6〜13%であることを特徴とする前記(1)記載の牽切用パラ系アラミド繊維トウ。
【0013】
(3)トウを構成するトータル繊度が、10〜30万デニールであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の牽切用パラ系アラミド繊維トウ。
【0014】
(4)トウを構成する単繊維の繊度が、0.6〜5デニールであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の牽切用パラ系アラミド繊維トウである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明では、牽切性良好なトウから紡績糸を得て柔軟で耐切創性に優れた編織物の製造ができ、更に、超高級番手を用いて超薄物の編織物の製造や、パラ系アラミド繊維のフイラメント細デニール糸の代替が可能となる。
【0016】
一方、細繊度、長繊維長スライバが可能なことから、従来より牽切紡績が用いられているが、従来のパラ系アラミド繊維トウの短繊維伸度は3.5〜7%と低伸度であり、伸度バラツキも大きく、さらに細繊度トウであることから、牽切紡績に適用しても満足なスライバーは得られない。
【0017】
一般の牽切装置であるトウリアクタで市販のパラ系アラミド繊維トウを牽切した場合の牽切挙動をみると、牽切機のプロセスは、クリール上での整トウ、張力調整に次いで延伸域で延伸し、牽切域で牽切し、スライバーとするのであるが、市販のパラ系アラミド繊維トウで留意すべき点は延伸域での延伸倍率と牽切域での牽切ドラフト倍率の設定である。
【0018】
延伸域は供給トウを構成する単繊維のすべてを切断伸度直前まで均一に延伸できることが重要であり、このような牽切を可能にするには、トウを構成する各単繊維の伸度のバラツキが小さいことが重要となる。バラツキが大きいと単繊維群のうち伸度の低い単繊維に合わせる必要がある。もし延伸倍率を大きく設定すると低伸度サイドにある単繊維が切断し、単繊維切れを原因とする延伸域でのローラ巻き付きとなり、操業上トラブルとなる。したがって、延伸倍率は供給単繊維群のうち低い伸度繊維に設定せざるを得ず、供給トウの延伸効率は悪くなり、その結果、大半の単繊維は不十分な延伸状態で牽切域に供給されることになり、牽切不良を招く一つの原因になっている。
【0019】
一方、牽切域では、できるかぎり小さな延伸倍率で切断することにより、安定した牽切性が得られ、生産性向上につながる。延伸域を経て牽切域で切断される単繊維は多少とも切断された瞬間に繊維が伸長回復によりもどされる。伸長回復が大きいと、先端がまるまってネップの潜在要因となるほか、延伸域での繊維の延伸効果が少なくなり、牽切域で再び前記の延伸域の作用と牽切作用を同時におこなわせる必要があり、牽切ドラフト倍率も大きくなる。その結果、牽切域での波打ち現象が起こり、集団切断による周期むらの原因となり、ついには牽切不能となるのである。
【0020】
この牽切域における繊維の伸長回復の定量化は難しいが、本発明者らは、定速伸長型引張り試験機(テンシロン)で測定した単繊維の伸長弾性率と牽切域における繊維の伸長回復との関係が深いことを見い出した。すなわち、市販のパラ系アラミド繊維トウは前記伸度バラツキの他、該繊維伸長弾性率が大きく、また単繊維の伸度は小さいが強度が非常に高いため(15〜25g/d)、伸度バラツキ、伸長弾性率の僅かの変動により牽切不良になっているのである。
【0021】
本発明において用いられるパラ系アラミド繊維としては、たとえば、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維、東レ・デュポン社製“ケブラー”などがあり、高強度、高弾性率を応用してタイヤ、自動車用タイミングベルト、コンベヤー、光ファイバーケーブル補強、ロープ、などに使用されている。また熱分解温度500℃という高さを応用して、アルミ工業、ガラス製造業などで耐熱干渉材として用いられ、さらに限界酸素指数(LOI値)29%の難燃繊維であり、消防服や耐熱作業服に用いられている、また本質的に切れにくい(木綿の2倍の切れにくさ)ことから切創防止の作業手袋として用いられている。
【0022】
本発明の牽切用パラ系アラミド繊維トウを構成するパラ系アラミド繊維は、単繊維の切断伸度が6%以下、3%伸長時の繊維伸長弾性率が70%以下、単繊維の切断伸度の変動率が20%以下であり、引張応力が200g/d以上、切断強度が10g/d以上である。また、単繊維のケン縮数が5〜14山/in、ケン縮度が6〜13%、トウのトータルデニールが10万〜30万デニール、単繊維の繊度が0.6d〜5dであることが好ましい。
【0023】
いか、さらに詳しく本発明について説明をする。
【0024】
近年産業界では安全第一、職場環境向上がさけばれている、また精密機械などの製造が多く柔軟性、耐熱性、切創性の高い薄手の防護手袋、軽量防護エプロン、薄手のコーテング防護シートなどの要望が非常に高い、またアウトドアスポーツ用衣料においても、柔軟性、耐熱性、切創性の優れた薄手のアウトドアスポーツ用衣料の要望が高い、これには50デニール〜70デニールのマルチフイラメントか紡績糸が必要であるが、現在市販されているマルチフイラメントの最も細いもので200デニールであり、また紡績糸で現在量産されているのは60S(87デニール)までであり、70S(76デニール)についてはいまだに上市されていない、現在量産されている60Sでさえスパン糸強力利用率24%±5%であり、さらに悪化すると予想され糸強力不足、糸切れによる紡績性不良となり量産不可能となる。
【0025】
以下紡績番手60S以上の高級番手紡績糸が、容易に製造可能な牽切用パラ系アラミド繊維トウに関する。
【0026】
本発明の牽切用パラ系アラミド繊維トウを構成する単繊維の切断伸度の平均値が6%以下のものを採用するものである。好ましくは4.5%以下のものである。単繊維の切断伸度の平均値が6%を越えると牽切性が不良となてくる。
【0027】
また、本発明の牽切用パラ系アラミド繊維トウを構成する単繊維の3%伸長時の繊維伸長弾性率は、70%以下のものを採用する。好ましくは60%以下のものである。単繊維の3%伸長時の繊維伸長弾性率が、70%を越えると牽切性が不良となってくる。
【0028】
本発明において繊維伸長弾性率とは、JIS L 1013 7.9 A法により試長20cm、引張り速度10cm/minとし、3%伸長時の弾性率をいう。
【0029】
延伸域での延伸倍率を効果的に設定することを容易にし、延伸後の残留伸度を小さくし、牽切域での牽切ドラフト倍率を大きく、牽切を容易にする観点から、本発明の牽切用パラ系アラミド繊維トウを構成する単繊維の切断伸度の変動率が20%以下のものを採用する。好ましくは15%以下のものである。
【0030】
パラ系アラミド繊維トウを構成する単繊維の強度は、10g/d以上のものを採用する。要求される強度特性から15g/d〜25g/dのものがより好ましい。
【0031】
初期引張抵抗度について説明する、JIS 1063−1960−5.13法により単繊維の強伸度曲線を描き、初期応力/歪み曲線の傾きを測定して、グラム/デニールで表示する。
【0032】
初期引張抵抗度は200g/d以上のものを採用する。防護衣料などの要求される特性から250g/d以上がより好ましい。
【0033】
パラ系アラミド繊維トウを構成する単繊維のケン縮数は6〜14山/in、ケン縮度は6〜13%のものが好ましい、6山、6%より少なくなるとトウ中の単繊維の分繊性が悪くなり牽切性が悪化してくる。また、14山、13%より多くなるとケン縮による挫屈が多くなり、単繊維の強力低下が生じ、牽切性不良や紡績糸の強力低下を招くようになる。
【0034】
トウの総繊度は操業性、生産性、牽切装置の能力、梱包形態などの観点から、10万〜30万デニールが好ましく、さらには、15万〜25万デニールがより好ましい。
【0035】
単繊維の断面形状、断面構造、光沢については特に制限はない。
【0036】
また、ローラ巻き付き防止、牽切性向上、を狙って、静電気防止を目的に界面活性剤を付与するのが良い、牽切時のローラ巻き付きを防止する観点から、繊維重量を基準にして、0.05〜2.0%付与することが好ましい。
【0037】
付与方法としては、浸漬法、噴霧法(スプレ法)いずれで付与してもよく、好ましくは、前記界面活性剤は浸漬法で紡糸工程中に繊維に付与される油剤として使用する。
【0038】
本発明の牽切用パラ系アラミド繊維トウは、たとえば、常法により乾湿式紡糸し得られた延伸サブトウを特殊な集束法により適当本数集束して80℃〜100℃の蒸気加熱下で1.01〜1.03倍に延伸し、続いて80〜180℃の熱ドラム上で熱処理したのち一定厚さになるよう集束し、押し込みクリンパで捲縮を付与して80〜140℃で乾燥することによって製造することができる。
【0039】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0040】
[実施例1、比較例1]
本発明のパラ系アラミド繊維のコード糸1540デニール130本を、厚さ、熱処理ムラ防止のためクリールおよびガイドバーで集束し、98℃蒸気雰囲気下1.02倍に延伸したのち、180℃のドラム上で熱処理後にムラ防止のためクリールおよびガイドバーで集束し、オイリング付与後押し込みクリンパで12山/25mmの捲縮を付与した後80℃乾熱で15分間乾燥し、単繊維繊度1.5d、総繊度20万デニールのトウを作製した(実施例1)。
【0041】
比較例1として従来市販のトウ(東レ・デュポン社製“ケブラー”トウ)を次の方法により製造した。ケブラーを常法により紡糸した後、延伸サブトウを130本集束し、厚さむら防止のためクリールおよびガイドバーで集束しオイリング付与後、押し込みクリンパで12山/25mmの捲縮を付与した後80℃乾熱で15分間乾燥し、単繊維繊度1.5d、総繊度20万デニールのトウを作製した。
【0042】
以上の2種のトウを作製し代表特性を表1に示した。
【0043】
次いで、これらトウをオーエム製作所製トウリアクタ(TR−II型)に各トウ1本(20万デニール)を供給し牽切をおこなった。各トウの適正延伸倍率を探索し牽切性を評価した。評価結果を表2に示した。なお、適性延伸倍率は三段延伸域の全倍率である。
【0044】
表2のとおり、トウリアクタ牽切性結果からわかるように、本発明の実施例1のトウは低伸度であり、伸度バラツキも小さく、伸長弾性率も低いことから牽切性良好であり、該トウから、ネップもフィブリル化繊維も少ない長繊維長のスライバが得られた。またこれを用いた編織物の品質も良好であった。
【0045】
これに対し、比較用トウ(比較例1)はトウの伸度が高いほか、変動率も大きく3%伸長時の伸長弾性率も70%以上あり、牽切ドラフト倍率が大きくなり牽切不良であった。
【0046】
【表1】
【表2】
ただし、表中
[トウリアクタ牽切性良否評価]牽切状態を5名により肉眼評価した。
【0047】
○:牽切性良好、△:牽切性若干問題あるもの、×:牽切性不良
[見掛上ネップ評価]
牽切スライバー5g、n=5を5名により肉眼評価した。
【0048】
○:ネップ無く良好、△:1〜2個ネップ含有、×:3個以上ネップ含有
【0049】
【発明の効果】
本発明により、耐切創性、耐熱性、柔軟性に優れ、薄くて軽量なアウトドアースポーツ衣料や、防護衣料の製造可能な牽切用パラ系アラミド繊維トウを提供することが可能となった。
Claims (4)
- 牽切用パラ系アラミド繊維トウを構成するパラ系アラミド繊維が、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維であって、トウを構成する単繊維の切断伸度が6%以下、3%伸長時の繊維伸長弾性率が70%以下で、単繊維の切断伸度の変動率が20%以下、初期引張抵抗度が200g/d以上、単繊維の切断強度が10g/d以上であることを特徴とする牽切用パラ系アラミド繊維トウ。
- トウを構成する単繊維のケン縮数が、5〜14山/in、ケン縮度が6〜13%であることを特徴とする請求項1記載の牽切用パラ系アラミド繊維トウ。
- トウを構成するトータル繊度が、10〜30万デニールであることを特徴とする請求項1または2に記載の牽切用パラ系アラミド繊維トウ。
- トウを構成する単繊維の繊度が、0.6〜5デニールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の牽切用パラ系アラミド繊維トウ。
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