JP4203543B2 - プロテインチップおよびその化学反応検出への使用 - Google Patents
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Description
【産業の属する技術分野】
本発明は、タンパク質相互間、またはタンパク質と他の化学物質との結合、さらにはその結合の阻害を解析できるプロテインチップおよびそれを用いた化学反応の検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒトを始めとする様々な生物種において、その生物種の全遺伝子情報の解析、すなわちゲノム解析が急速なスピードで展開されつつある。すでに多くの生物種でのゲノム解析が終了し、ヒトにおいてもその99%が終了したと言われている。例えばヒトの場合、体を構成する細胞のタンパク質は約10万種類からあると考えられているのに対して、ヒトゲノムがコードする遺伝子数は2万から3万の範囲にあるに過ぎないということがわかってきた。このことは、一つの遺伝子が複数のタンパク質を合成できるということを意味している。言い換えると、ゲノム解析によって生命現象の全てが把握できるという仮説が完全に否定されたということである。
【0003】
このため、研究者はゲノム解析からタンパク質の網羅的な解析であるプロテオーム解析に研究の中心を変換させつつある。プロテオーム解析は生物が合成するタンパク質全てを分離し同定することを目的とするが、タンパク質は遺伝子の場合と異なり、その構成単位が20種類のアミノ酸からなり、さらにそのアミノ酸が単に直線上に並んだ(一次構造)だけの情報では意味をなさず、アミノ酸配列内での水素結合、疎水結合、共有結合などによって複雑に折り畳まれた立体構造(二次構造、三次構造)をとることによって初めて意味のあるタンパク質として機能できることから、すべてのタンパク質の機能と構造を解析することによって初めて意味のある研究成果となる。しかし、一般にタンパク質は熱などの外的要因によって非常に不安定であり、しかもその立体構造が遺伝子と比べて遥かに複雑であることから、様々なタンパク質の機能や構造を解析するための画一的な技術の開発はまだ未着手の状態である。
【0004】
このように、ある生物種が合成している全タンパク質の分離・同定を行うプロテオーム解析に続いて、それぞれのタンパク質の機能解析、構造解析が必要となるが、現在のところ、この分離・同定については2次元電気泳動法などを中心に行われているが、機能解析や構造解析についてはほとんど進んでいないのが現状である。この最大の理由がタンパク質が不安定な分子であると同時に、非常に複雑な分子であるからである。
【0005】
タンパク質分子が不安定であること、またタンパク質分子の性質が非常に多岐に渡っていることなどから、タンパク質分子の活性を保持した状態で基材に安定に固定する画一的な技術がない。このため、現在のプロテインチップは抗体分子を固定化し、その抗体が抗原抗体反応によって結合した抗原を識別するという方法に限定されている。しかし、抗原抗体反応に依存したプロテインチップでは全タンパク質に対する抗体を準備する必要があること、またタンパク質の存在を確認したりすることに限定される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、タンパク質相互間、またはタンパク質と他の化学物質との結合、さらにはその結合の阻害を解析できるプロテインチップを提供することを目的としている。
また、本発明は、タンパク質相互間、またはタンパク質と他の化学物質との結合、さらにはその結合の阻害を解析できるプロテインチップを用いた化学反応の検出方法の提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、結晶性タンパク質封入体からなるプロテインチップを要旨としている。
【0008】
上記結晶性タンパク質封入体が、生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体であり、その場合、本発明は、生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体からなるプロテインチップである。
【0009】
上記結晶性タンパク質封入体が、100nm〜10μmの大きさを持つ昆虫ウイルスが形成するタンパク質結晶構造体であり、その場合、本発明は、生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた、100nm〜10μmの大きさを持つ昆虫ウイルスが形成する結晶性タンパク質封入体からなるプロテインチップである。
【0010】
多角体に取り込ませたタンパク質に化学物質を相互作用させ、その反応を検出するために使用するものであり、その場合、本発明は、結晶性タンパク質封入体、より具体的には生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた、100nm〜10μmの大きさを持つ昆虫ウイルスが形成する結晶性タンパク質封入体からなり、この結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質に化学物質を相互作用させ、その反応を検出するために使用するプロテインチップである。
【0011】
化学物質がタンパク質分子、低分子化学物質、もしくは高分子化学物質であり、その場合、本発明は、結晶性タンパク質封入体、より具体的には生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた、100nm〜10μmの大きさを持つ昆虫ウイルスが形成する結晶性タンパク質封入体からなり、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質にタンパク質分子、低分子化学物質、もしくは高分子化学物質である化学物質を相互作用させ、その反応を検出するために使用するプロテインチップである。
【0012】
結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質によって、他のタンパク質分子、低分子化学物質、高分子化学物質などと結合するかどうか、またこれらの化学物質が結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質と他の化学物質との結合をどのように阻害するのかを解析することで化学反応を検出しており、その場合、本発明は、結晶性タンパク質封入体、より具体的には生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた、100nm〜10μmの大きさを持つ昆虫ウイルスが形成する結晶性タンパク質封入体からなり、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質にタンパク質分子、低分子化学物質、もしくは高分子化学物質である化学物質を相互作用させ、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質によって、他のタンパク質分子、低分子化学物質、高分子化学物質などと結合するかどうか、またこれらの化学物質が結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質と他の化学物質との結合をどのように阻害するのかを解析することでその反応を検出するために使用するプロテインチップである。
【0013】
また、本発明は、上記のいずれかのプロテインチップの化学反応検出への使用を要旨としている。
【0014】
生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体をプロテインチップとして用い、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質に化学物質を相互作用させ、その反応を検出しており、その場合、本発明は、生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体をプロテインチップとして用い、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質に化学物質を相互作用させ、その反応を検出することからなるプロテインチップの化学反応検出への使用である。
【0015】
結晶性タンパク質封入体が基板の指定された位置に、好ましくは基板のμl程度の容量を持つマイクロセルに配置されており、その場合、本発明は、結晶性タンパク質封入体を、好ましくは生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体を、基板の指定された位置に、好ましくは基板のμl程度の容量を持つマイクロセルに配置させてプロテインチップとして用い、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質に化学物質を相互作用させ、その反応を検出することからなるプロテインチップの化学反応検出への使用である。
【0016】
結晶性タンパク質封入体を、基板の指定された位置に、生理活性を保持した状態で、レーザーマニピュレーションを用いることにより配置、好ましくはレーザーマイクロボンディングを用いて固定したものであり、その場合、本発明は、結晶性タンパク質封入体を、好ましくは生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体を、基板の指定された位置に、好ましくは基板のμl程度の容量を持つマイクロセルに、生理活性を保持した状態で、レーザーマニピュレーションを用いることにより配置、好ましくはレーザーマイクロボンディングを用いて固定させてプロテインチップとして用い、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質に化学物質を相互作用させ、その反応を検出することからなるプロテインチップの化学反応検出への使用である。
【0017】
本発明の上記の使用は、レーザーマニピュレーションとレーザーマイクロボンディングをもちいて、1μm以下の大きさを持つ結晶性タンパク質封入体を多数同時に補足し、配列・固定化することにより、微小領域でより効率的に化学物質と反応させることを特徴とする。
【0018】
本発明の上記の使用は、結晶性タンパク質封入体と化学物質の反応を、基板の上下に発光素子と画像検出素子を配置することにより検出することを特徴とする。
また、レーザーマニピュレーション、レーザーマイクロボンディング、および画像解析装置をもちいて、形状や蛍光スペクトルの異なる100nm〜10μmの大きさを持つ結晶性タンパク質封入体に異なる生理活性を持つタンパク質を包埋し、これらの違いにより結晶性タンパク質封入体を選別しながら配列・固定したものであることを特徴とする。
【0019】
さらにまた、レーザーマニピュレーションとレーザーマイクロボンディングをもちいて、複数の異なる性質を持つ結晶性タンパク質封入体を基板に配置し、化学物質に同時に複数種類の反応させ、発光素子と画像検出素子を用いて同時に検出することを特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
昆虫ウイルスは1辺が100nm〜10μmの多面体の構造物を感染細胞の中に形成する。この構造物は多角体と呼ばれており、ウイルスによってコードされたポリへドリンと呼ばれるタンパク質が結晶状に会合してできた結晶構造物である。ウイルスは感染の後期になるとこの多角体に取り込まれる。多角体は極めて強固な構造物であることから多角体の中に取り込まれたウイルスは非常に長期間安定に保護される。このため、この多角体が主要な2次感染源となる。多角体は非常に安定な構造物であり、酸性や中性下においては分解しないが、pH10以上のアルカリ条件下では急速に溶解して多角体に取り込まれていたウイルスが放出される。特に、リン翅目昆虫などの消化管はpHが11ぐらいのアルカリ性であることから、昆虫が多角体を餌とともに食下すると消化管の中で多角体が溶解し、中に取り込まれていたウイルスが放出され感染が生じる。
この多角体にウイルスではなくタンパク質分子だけを取り込ませる手法を開発した(J.Virol.75,988-995:特願2000-330645)。なお、この多角体を本発明では、結晶性タンパク質封入体と称する。
【0021】
本発明では、タンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体を多数作製し、これをレーザーマニュピレーションとレーザーマイクロボンディングによって基板の指定された位置に配列・固定し、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質が他のタンパク質分子、低分子化学物質、高分子化学物質などと結合するかどうか、またこれらの化学物質が多角体に取り込ませたタンパク質と他の化学物質との結合をどのように阻害するのかなどを解析できる全く新しいプロテインチップの開発に成功した。
本発明は、これまで抗原抗体反応のみに依存したプロテインチップとは異なり、結晶性タンパク質封入体に多種多様なタンパク質を生理活性を保持した状態で取り込ませることができることから、タンパク質相互間、またはタンパク質と他の化学物質との結合、さらにはその結合の阻害を解析でき、プロテインチップとしての用途が極めて広くなる。
【0022】
<タンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体の作製>
結晶性タンパク質封入体で包み込まれるタンパク質(目的タンパク質)は、いわゆる機能性タンパク質であり、好ましくは結晶状態で存在する。
目的タンパク質は、酵素・抗原・蛍光発光、高屈折率、光電変換等の光化学特性を有する光化学特性を有する機能性タンパク質・電子伝達反応、酸化還元反応等の電子授受反応の特性を有する機能性タンパク質が例示される。より具体的には、紫外線を照射するとケイ光を発するケイ光タンパク質、生体触媒作用を示す酸素タンパク質、免疫抗体タンパク質、インターフェロン、インターロイキンなどの生理活性タンパク質が例示される。
【0023】
結晶性タンパク質封入体を構成するタンパク質である多角体タンパク質は、ウィルスによってコードされた外殻タンパク質であり、昆虫の多角体病ウィルスによってコードされた多角体タンパク質である。例えば、昆虫の細胞質多角体病ウィルスコート外殻タンパク質として、カイコ細胞質多角体病ウイルス(Bombyx mori cytoplasmic polyhedrosis virus,BmCPV)の外殻タンパク質(viral capsid protein VP3)が例示される。
細胞質多角体病ウイルスはレオウイルス科(Reoviridae)のサイボウイルス属(Cypovirus)に分類される。このウイルスは昆虫の中腸皮膜組織の円筒細胞に感染し、感染した細胞の細胞質に多角体と呼ばれる大きなタンパク質の結晶を産生するという特徴を持っている。この多角体には多数のウイルス粒子が包埋されている。また、多角体はウイルスがコードする多角体タンパク質がウイルスの感染後期に発現され、結晶化したものである。
多角体の機能の一つに、ウイルス病の水平感染において外界からウイルス自身の感染力を保護することが挙げられる。すなわち、多角体は非イオン性やイオン性の界面活性剤、酸性や中性のpHの溶液にも全く溶解しない。また、紫外線照射を受けても、包埋されたウイルスには影響が及ぼされない。さらに、細菌による腐敗によっても多角体は溶解しないため、その中のウイルスは保護される。
もう一つの機能として、ウイルスを目的の場所(ウイルスが感染し、増殖できる細胞)まで確実に運ぶということである。すなわち、昆虫に摂食された多角体は強アルカリ性の消化液により溶解し、ウイルス粒子が放出され感染が生じる。カイコ細胞質多角体病ウイルス(Bombyx mori cytoplasmic polyhedrosis virus, BmCPV)のウイルスゲノムは10本に分節された二本鎖RNAである(セグメント1から10でそれぞれS1からS10と表記する)。多角体を構成するタンパク質である多角体タンパク質(ポリヘドリン、polyhedrin)はそのうちの最も小さいS10にコードされており、分子量は30kDaである。BmCPVのウイルス粒子はVP1(151kDa), VP2(142kDa), VP3(130kDa), VP4(67kDa), VP5(33kDa)の5種類のタンパク質から構成されている。125Iを用いたBmCPVの標識実験から、VP1とVP3がウイルスの外層を構成しているタンパク質であることがわかっている(Lewandowski et al. (1972) J. Virol. 10, 1053-1070)。ウサギの網状赤血球を用いたin vitro translation実験が行われ、このウイルスの外層を構成するタンパク質であるVP1とVP3はそれぞれS1とS4にコードされているものと推定された(McCrae and Mertens (1983) in Double-Stranded RNA Viruses, Elsevier Biomedicals, 35-41)。
このBmCPVの外層を構成するタンパク質の一つであるVP3をコードしているS4の解析によって、S4の全長3,259塩基で、14番目から16番目までの開始コドン(ATG)と3,185番目から3,187番目までの終了コドン(TAA)を持つ一つの大きなopen reading frame(ORF)持つことがわかった。このORFは1,057個のアミノ酸から構成されており、VP3の分子量は約130kDaであると推定される。
【0024】
細胞質多角体タンパク質分子を組み込んだウイルスベクター及び機能性タンパク質分子を組み込んだウイルスベクターの調製方法を、細胞質多角体病ウイルスとして、カイコ細胞質多角体病ウイルス(Bombyx mori cytoplasmic polyhedrosis virus)を用いた場合について説明する。
多角体タンパク質分子を組み込んだウイルスベクターの調製は、例えばオートグラファ・キャリホルニカ・核多角体病ウイルス(Autographa californica nucleopolyhedrovirus)由来のバキュロウイルスベクターに、公知方法[「ジャーナル・オブ・ジェネラル・ビロロジー(J.Gen.Virol.)」,第74巻,第99〜102ページ参照]を用いて、ポリヘドリン遺伝子を組み込むことによって行われる。
他方、機能性タンパク質分子を組み込んだウイルスベクターの調製は、例えば先ずカイコ細胞質多角体病ウイルス(BmCPV)の外層構成タンパク質の一つであるVP3のC末端に機能性タンパク質を連結した融合タンパク質をコードするキメラ遺伝子を作製し、次いで前記のオートグラファ・キャリホルニカ・核多角体病ウイルス由来のバキュロウイルスベクターに導入することによって行われる。
次に、このように調製した2種のウイルスベクターを昆虫の組織細胞に感染させるには、この2種のウイルスベクターを液体状で同時に昆虫細胞に接種し、室温で0.5〜3時間放置して、ウイルスを細胞に十分に吸着させたのち、ウイルス液を除去し、仔ウシ胎児血清を含む培養液を加え、20〜30℃の温度で2〜10日間培養する。
次いで、この培養液から感染細胞を分離し、冷却下に摩砕し、摩砕液からろ過又は遠心分離により多角体を含む固形分を回収すれば、所望のタンパク質複合結晶体が得られる。
このようにして得られる結晶性タンパク質封入体は、必要に応じ、さらに密度勾配法による分画、緩衝液による洗浄などを行って精製することができる。
このようにして、結晶性タンパク質封入体に対し、質量比1/10〜1/1000の範囲で機能性タンパク質微結晶を含むタンパク質複合結晶体が得られる。
この場合、機能性タンパク質のN末端又はC末端に細胞質多角体病ウイルスの外層を構成するタンパク質であるVP3のアミノ酸配列を導入し、この融合タンパク質をバキュロウイルスベクターで発現させるが、この際、細胞質多角体病ウイルスの多角体を発現するウイルスとともに、昆虫細胞に感染させることにより、多角体中に融合タンパク質が包理される。このために、バキュロウイルスベクターで発現させた外来タンパク質、すなわち機能性タンパク質が、細胞質多角体病ウイルスの構成タンパク質のN末端又はC末端に挿入されるように、細胞質多角体病ウイルスの構成タンパク質をコードするcDNAと外来タンパク質遺伝子とを結合させる必要がある。この際、構成タンパク質と外来タンパク質遺伝子のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームがインフレームになるようにすることが重要であり、このようにして細胞質多角体病ウイルスの構成タンパク質と外来タンパク質を1つの融合タンパク質として発現させる組み換えバキュロウイルスが形成される。
【0025】
<目的タンパク質を多角体タンパク質で包み込んだ構造の結晶性タンパク質封入体>
目的タンパク質が細胞質多角体タンパク質結晶の中に分散状態で含まれるタンパク質複合結晶体である結晶性タンパク質封入体。細胞内において、多角体タンパク質が結晶化する際に、目的タンパク質を取り込んで、好ましくは結晶状態で取り込んで、粒子状で産生されたものである。
【0026】
<結晶性タンパク質封入体を産生するための細胞>
タンパク質複合体を産生するために用いる細胞は、ウイルスに感染できる細胞であれば特に制限されるものではない。細胞は昆虫でも昆虫細胞よく、植物体でも植物細胞でもよい。
【0027】
<昆虫において産生された結晶性タンパク質封入体>
結晶性タンパク質封入体は、例えば多角体タンパク質分子を組み込んだウイルスベクターと、機能性タンパク質分子を組み込んだウイルスベクターを別々に調製し、次いでこの2種のウイルスベクターを昆虫の組織細胞に同時に感染させ、この2種のウイルスに感染した昆虫細胞中で結晶性タンパク質封入体を生成させたのち、この結晶性タンパク質封入体を結晶として取り出すことによって製造することができる。このように、細胞質多角体病ウイルスと機能性タンパク質をコードしたウイルスとを同時に感染させることにより、一挙に機能性タンパク質微結晶を内部に分散含有する結晶性タンパク質封入体が得られる。
上記の2種のウイルスベクターを感染させるために用いる昆虫は、ウイルスに感染できる細胞であれば特に制限されるものではないが、一般に、鱗翅目(Lepidoptera)に属するもの、特にシヤクガ科(Geometridae)、ヤママユガ(Salurniidae)、カイコガ科(Bombycidae)、ヒトリガ科(Arctiidae)、ヤガ科(Noetuidae)に属するものが用いられる。入手が容易で取り扱いやすい点で、カイコ(Bombyx mori L)、ムガサン(Antheraea assamensis Helfer)、ネキリムシ(Peridroma sp.)、アワヨトウ(Leucania unipunctata Howorth)などが通常用いられている。
このVP3をコードしているS4の1358番目と2711番目に存在する制限酵素サイトXbaI間を欠落させたVP3/GFPのキメラ遺伝子(VP3(XbaI)/GFP)を作製した。次に、Autographa californica nucleopolyhedrovirus (AcNPV)由来のバキュロウイルスベクターに導入し、このVP3(XbaI)とGFPの融合タンパク質を昆虫細胞Spodoptera Frugiperda由来のIPLB-Sf21-AE(Sf21)で発現させた。その際、BmCPVの立方体の多角体を形成するために、ポリヘドリン遺伝子を組み込んだ組み換えAcNPV (AcCP-H)(Mori et al. (1993) J. Gen. Virol. 74, 99-102)も同時にSf21細胞に接種した。2つのウイルスに感染したSf21細胞から多角体を精製し、この融合タンパク質が多角体の中に包埋されアルカリ条件下において多角体が溶解するのと同時に放出されるかどうかを緑色蛍光を用いて調べた。その結果、VP3(XbaI)とGFPから成る融合タンパク質はVP3とGFPから成る融合タンパク質の発現の場合と同様に、多角体の溶解に伴って放出されたことから、この融合タンパク質は多角体の中に特異的に取り込まれていることがわかった。これにより、多角体と呼ばれる粒子内に目的とするタンパク質(目的タンパク質)を取り込ませる方法、および、目的タンパク質をポリヘドリンと呼ばれるタンパク質で包み込んだ結晶性タンパク質封入体を作製する方法においてVP3を短くすることが可能であることを示した。
【0028】
本発明を、植物において産生された結晶性タンパク質封入体を例に説明する。
本発明の植物において産生されたタンパク質複合結晶体は、外殻タンパク質結晶と目的とするタンパク質微結晶との2種の結晶から構成され、目的とするタンパク質微結晶は、外殻タンパク質結晶中に分散した状態で含まれている。
カイコ細胞質多角体病ウイルス(BmCPV)の外層タンパク質の一つであるVP3のアミノ酸配列のデータベースを用いた解析から、このタンパク質は同じレオウイルス科(Reoviridae)に分類されているオリザウイルス属(Oryzavirus)やフィジウイルス属(Fijivirus)に分類されている植物レオウイルスのウイルスキャプシッドタンパク質との間で高い相同性が見られた〔Ikeda et al., (2001) Journal of Virology 75, 988-995〕。このことより、BmCPVのウイルスキャプシッドタンパク質やポリヘドリンを植物で発現させた場合、昆虫細胞と同じ様な機能を持つタンパク質にプロセッシングされるものと期待された。
<VP3/GFP多角体の植物での発現>
そこで、このVP3のC末端に、機能性タンパク質として緑色タンパク質(green fluorescent protein,GFP)を連結し、VP3とGFPから成る融合タンパク質(VP3/GFP)をコードするキメラ遺伝子を作製した。VP3/GFP−キメラ遺伝子を含むプラスミドpAcVP3/GFPと植物発現ベクターであるTiプラスミドpIG 121を用いて3段階の過程で、CaMV 35Sプロモーターの下流にVP3/GFPキメラ遺伝子をもつTi プラスミドベクターpIG 121-VP3/GFPを構築した。一方、ポリヘドリン遺伝子をpBS(KS)-HからKpn I-Sac I断片として切り出し、これをpIG 121のCaMV35Sプロモーターの下流に挿入したベクターpIG 121-Hを構築した。アグロバクテリウム法によりpIG 121-Hを導入して発現を確認した植物(ジャガイモおよびベラドンナ)に、pIG 121-VP3/GFPを導入することによって、両遺伝子をもつ形質転換植物を得た。ポリヘドリンおよびGFPタンパク質が生成されていることをウエスタンブロッティング法で確認すると共に、顕微鏡観察によって多角体が構築されていることを確認した(図面省略)。さらに顕微鏡下でこの植物組織をアルカリ処理したところ、極めて短時間で多角体は溶解することが経時的に観察され、アルカリ条件で溶解するという多角体の特徴を確認することができた(図面省略)。なおこの際、多角体の中から放出されたVP3/GFPキメラタンパク質に基づく緑色蛍光も観察されたが、植物自身の自家蛍光の妨害があるため、カイコ細胞のように明確なものではなかった。これにより、ポリヘドリン遺伝子およびVP3/GFPのキメラ遺伝子発現系を含んでいるトランスジェニック植物において、多角体と呼ばれる粒子内に目的とするタンパク質(目的タンパク質)を取り込ませる方法、および、目的タンパク質をポリヘドリンと呼ばれるタンパク質で包み込んだ結晶性タンパク質封入体を作製する方法が開発されたことを示した。
【0029】
<結晶性タンパク質封入体を応用した相互作用するタンパク質の検出>
細胞の機能と秩序は種々の高分子物質の相互作用(タンパク質とタンパク質、DNAとタンパク質)に基づいて成り立っている。相互作用するこれらの物質を検出する方法としてこれまでにファーウエスタンブロット法やtwo-hybrid system法が開発されている。これらの方法では、相互作用する分子を抗体との反応やレポーター遺伝子の活性により間接的に検出するので、特に相互作用するタンパク質を細胞内にある自然な状態で、一段階で検出(必要により単離)することが困難であるのが一般的である。組み換え多角体を利用する本方法は、このような制約を解決しようとするものである。
【0030】
不安定な機能性タンパク質結晶を安定なタンパク質結晶中に閉じ込めて安定化する方法について、昆虫の中腸皮膜組織の円筒細胞に感染し、感染した細胞の細胞質に多角体と呼ばれる大きなタンパク質の結晶を産生する細胞質多角体病ウイルスを利用することにより、上記の多角体病ウイルスタンパク質結晶中に種々機能性タンパク質結晶を分散状態で閉じ込めた結晶性タンパク質封入体を形成しうる。
細胞質多角体病ウイルス由来の多角体(細胞質多角体)に特定のタンパク質を取り込ませることにより、このタンパク質に他のタンパク質などの生体関連化学物質を結合させることができ、必要により細胞質多角体に生体関連化学物質が結合した状態で回収しうる。
細胞質多角体にタンパク質を結晶状態で取り込ませ、得られた細胞質多角体を核として、タンパク質の結晶を作製しうる。細胞質多角体のタンパク質を結晶状態で取り込ませることができるため、細胞質多角体にタンパク質を取り込ませた状態で直接X線解析する、もしくはそれを核として結晶を成長させる。後者の場合、通常、タンパク質の結晶を作製するためには結晶の核があれば、容易に結晶を得ることができるため、この細胞質多角体は結晶を作製するための重要な手法となる。
細胞質多角体にタンパク質を取り込ませる際、そのタンパク質に緑色蛍光タンパク質などを融合タンパク質として組込むことによって、発光などにより、そのタンパク質が取り込まれている状態を容易に識別できる。
細胞質多角体に目的とするタンパク質が取り込まれているかどうかを判定するには、多角体を回収し、アルカリ溶液(pH11)中でこの多角体を溶解させ、その中に取り込まれているタンパク質を取り出す。しかし、緑色蛍光タンパク質などの発光するタンパク質とともに細胞質多角体に入れることによって、細胞質多角体の発光の有無により、目的とするタンパク質の取込みが確認できる。
酵素などの有用なタンパク質を実用に供する場合に、タンパク質の性能維持が重大な問題であった。すなわち、タンパク質は、室温で保存あるは、放置することにより、その機能である触媒活性を失うことが一般的であり、ゆえに、機能を維持したままの保存には、冷蔵庫などの低温での放置あるいは保管が必要であった。その性能維持のための技術は、このタンパク質の保存性の付与、安定性の向上の課題を解決できる手法であり、室内での温度条件にて、今までのタンパク質保存方法と比べて、優れて安定に機能を維持できることが、課題である。
上記方法は、安定性向上または保護または保存性向上または、それら効果のいづれかの組み合わせた性能維持効果をもたらした酵素などの有用な目的タンパク質を提供することができる。
また、酵素などの有用タンパク質を水溶液中に存在させて、その機能を長期間維持させることが課題である。そのための技術として、有用タンパク質に保護タンパク質をコーティングする技術が必要である。コーティングする技術は、有用タンパク質への外界からの影響、すなわち、水分によるタンパク質の溶解や、微生物などによる分解作用・捕食などの有用タンパク質の機能を喪失させられる状況を回避できる。
上記方法は、保護タンパク質をコーティングした酵素などの有用な目的タンパク質を提供することができる。
また、タンパク質は、機能を有した生体高分子であるが、さまざまな発色団、光吸収分子を内包しており、その光学的特性や、電子特性などが期待されるところであるが、そのような用途に適用する場合において、アモルファス状態である乾燥標品の状態ではなく、結晶状態のタンパク質が必要と考えられ、そのような結晶状態のタンパク質を造りだすことが課題である。そのための技術として、まず、その結晶状態のタンパク質を供する技術が必要である。一般に、タンパク質の結晶は、極めて、作製が困難であり、結晶状態のタンパク質を容易に作製すること、および、均質な結晶を作製することが、該技術の解決するとする課題である。
そこで、上記の方法は、酵素などの有用な目的タンパク質を結晶状態で調製すること、より詳細には細胞内で結晶化して産生するするタンパク質を、目的タンパク質をコーティングするための保護タンパク質とすることで、酵素などの有用な目的タンパク質を結晶状態で調製することができる。また、上記の方法は、遺伝子組み換え技術を利用して、酵素などの有用な目的タンパク質を結晶状態で簡単に調製する方法を提供することができる。
細胞内で結晶化して産生するするタンパク質を利用する技術は、タンパク質のまったく新規な素材開発について、用途を開くためのきわめて有効な技術である。しかしながら、これまでのように昆虫ウイルス遺伝子発現ベクターであるバキュロウイルスベクターを用いて、昆虫細胞で多角体の作製やその中に目的タンパク質を取り込ませる場合、多角体の中にバキュロウイルスが混入する危険性がある。一方、多角体を昆虫細胞から精製する場合においてもその試料中に同様にバキュロウイルスが混入する危険性がある。目的タンパク質を取り込ませた多角体を大量に必要とする場合、昆虫細胞を何らかの方法で大量増殖させ、これに組み換えバキュロウイルスベクターを感染させる必要があり、莫大なコストが必要となる。しかし、植物において多角体を作らせることも可能であることから、これに目的タンパク質を取り込ませることにより、上記のようなウイルス混入の危険性およびコストの問題点を解決できる。
本発明における細胞質多角体病ウイルス等のウイルスの多角体タンパク質とは、細胞内で結晶化することにより、多角体と呼ばれる結晶性タンパク質封入体を形成する。この結晶化の際、この粒子に包み込まれる目的タンパク質も同様に結晶状体で取り込まれる。このため、目的タンパク質の結晶を得るために不可欠である結晶化のための核として、この粒子内に取り込まれた目的タンパク質を利用できる。
一度タンパク質分子を結晶性タンパク質封入体に取り込ませておけば、長期間安定に維持でき、また結晶性タンパク質封入体表面に位置したタンパク質分子を用いてタンパク質を始めとする様々な化学物質との結合やその結合の阻害反応を解析できる。なぜなら、多角体は本来その中に取り込んだウイルスを長期間、その増殖能力を維持できる能力があるからである。さらに、結晶性タンパク質封入体1個が光学顕微鏡で容易に観察できることから、タンパク質分子を取り込ませた結晶性タンパク質封入体1個がプロテインチップの1反応体として利用できる。また、結晶性タンパク質封入体を基板の指定された位置に配置することが必要になるわけであるが、このプロセスにおいて、結晶に包埋さらたタンパク質の生理活性を落とさないために、結晶性タンパク質封入体が塩濃度とpHの保たれた溶液中で非接触に扱われる必要がある。本発明では、レーザーマニュピレーションとレーザーマイクロボンディングを用いることにより、この課題についても解決している。
【0031】
【作用】
ところで、昆虫ウイルスは1辺が100nm〜10μmの多面体の構造物を感染細胞の中に形成する。この構造物は多角体と呼ばれており、ウイルスによってコードされたポリへドリンと呼ばれるタンパク質が結晶状に会合して出来た結晶構造物である。本発明では、この多角体を結晶性タンパク質封入体と称する。ウイルスは感染の後期になるとこの多角体に取り込まれ。多角体は極めて強固な構造物であることから多角体の中に取り込まれたウイルスは非常に長期間安定に保護される。このため、この多角体が主要な2次感染源となる。 多角体は非常に安定な構造物であり、酸性や中性下においては分解しないが、pH10以上のアルカリ条件下では急速に溶解して多角体に取り込まれていたウイルスが放出される。特に、リン翅目昆虫などの消化管はpHが11ぐらいのアルカリ性であることから、昆虫が多角体を餌とともに食下すると消化管の中で多角体が溶解し、中に取り込まれていたウイルスが放出され感染が生じる。
この多角体にウイルスではなくタンパク質分子だけを取り込ませる手法を開発した(J.Virol.75,988-995:特願2000-330645)。
本発明では、タンパク質を取り込ませた結晶性タンパク質封入体を多数作製し、これをレーザーマニュピレーションとレーザーマイクロボンディングによって基板の指定された位置に配列・固定し、結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質が他のタンパク質分子、低分子化学物質、高分子化学物質などと結合するかどうか、またこれらの化学物質が結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質と他の化学物質との結合をどのように阻害するのかなどを解析できる全く新しいプロテインチップの開発に成功した。
本発明は、これまで抗原抗体反応のみに依存したプロテインチップとは異なり、結晶性タンパク質封入体に多種多様なタンパク質を生理活性を保持した状態で取り込ませることができることから、タンパク質相互間、またはタンパク質と他の化学物質との結合、さらにはその結合の阻害を解析でき、プロテインチップとしての用途が極めて広くなる。
本発明においては、一度タンパク質分子を結晶性タンパク質封入体に取り込ませておけば、長期間安定に維持でき、また結晶性タンパク質封入体表面に位置したタンパク質分子を用いてタンパク質を始めとする様々な化学物質との結合やその結合の阻害反応を解析できる。さらに、結晶性タンパク質封入体1個が光学顕微鏡で容易に観察できることから、タンパク質分子を取り込ませた多角体1個がプロテインチップの1反応体として利用できる。また、多角体を基板の指定された位置に配置することが必要になるわけであるが、このプロセスにおいて、結晶に包埋さらたタンパク質の生理活性を落とさないために、結晶性タンパク質封入体が塩濃度とpHの保たれた溶液中で非接触に扱われる必要がある。本発明では、レーザーマニュピレーションとレーザーマイクロボンディングを用いることにより、この課題についても解決している。
【0032】
【実施例】
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
本発明のプロテインチップの構成例を図1に示す。
容器(A)と容器(B)は一体で作製され、中央にμl程度の容量のマイクロセルとそこにつづく100μm程度の微小流路からなる。図1および図2に示すように、このマイクロセル内に数10μm以下の結晶性タンパク質封入体が指定された位置に配置される。
【0034】
マイクロセルは透明な物質で作製されており、発光素子(C)と検出素子(D)をマイクロセルの上下に取り付けることにより、配列された結晶性タンパク質封入体の状態変化が検出される。このプロテインチップの使用例を図3に示す。
微小流路を通じて化学物質をマイクロセル内に注入し、結晶性タンパク質封入体と化学物質を反応させる(a)。化学物質と反応した結晶性タンパク質封入体は表面状態が変化するか、もしくは剥離すると考えられる。その変化を発光素子と検出素子により検出する。発光素子として、赤外光を発する素子を用いることでタンパク質の固有振動を、可視光を発する素子を用いることで結晶性タンパク質封入体の有無もしくは結晶性タンパク質封入体への付着物を、紫外光を発する素子を用いることでタンパク質の蛍光を検出できる。
【0035】
検出素子としてCCD,CMOSカメラ等のイメージセンサーを用いることにより、配列された結晶性タンパク質封入体の状態を個別に検出することができる。ここで、検出素子のそれぞれの画素に対して異なる結晶性タンパク質封入体を配置したと仮定すると、数μlの化学物質により、最大数100万種類のタンパク質の異なる反応を調べることができる。さらに、図4に示すようにプロテインチップを注射針に配置することにで、簡便に化学物質を調べることができる。
【0036】
本発明に必要とされるマイクロセルはレーザー光造形による方法、貫通部を含む薄膜を基板に挟み込む方法(特願2001-201128)等で作製することができる。
【0037】
本発明ではこのマイクロセル内に結晶性タンパク質封入体を指定された位置に配置することが必要になるわけであるが、このプロセスにおいて、結晶に包埋さらたタンパク質の生理活性を落とさないために、結晶性タンパク質封入体が塩濃度とpHの保たれた溶液中で非接触に扱われる必要がある。この様な課題を達成する結晶性タンパク質封入体の配列方法として、レーザートラッピングとレーザーマイクロボンディングを利用した方法が適している。
【0038】
レーザートラッピングとは、レーザーを顕微鏡対物レンズにより急激に絞り込み、光の放射圧により微粒子を補足する技術である〔特開平2-91545,A.Ashkin,J.M.Dziedzic,J.E.Bjorkholm,S.Chu:Opt.Lett.,Optical Society of America,11,(1986),288〕。さらにこの技術は、ガルバノミラーなどのレーザー光線の方向を制御する稼働ミラーと組み合わせることにより、微小物体を移動・配列できる“ピンセット“として利用されている〔K.Sasaki,M.Koshioka,H.Misawa,N.Kitamura,H.Masuhara,Jpn.J.Appl.Phys.,30(1991) L907.〕。この方法を用いることにより、溶液中にある数100nm〜数10μm程度の大きさの結晶性タンパク質封入体を補足・移動・配列することができる。
【0039】
また、レーザーマイクロボンディンとは、有機高分子固体をレーザーにより加熱・融解させ、そこで物質を融着させる方法である〔特開平11-277269,J.Won,T.Inaba,H.Masuhara,H.Fujiwara,K.Sasaki,S.Miyawaki,and S.Sato,Appl.Phys.Lett.,75,1506(1999)〕。すなわち、マイクロセル表面にあらかじめ高分子フィルムを塗布しておけば、そこに結晶性タンパク質封入体を固定することができる。ここで、レーザーマニピュレーションは光吸収のないレーザー波長、レーザーマイクロボンディングは光吸収のあるレーザー波長で起こるため、レーザー波長を選ぶことによりこれらを同時におこなうことができる(特開平1-318258,特開平3-130106)。
【0040】
本発明においては、レーザートラッピング用としてマイクロセル、高分子フィルム、および結晶性タンパク質封入体が吸収を持たない近赤外レーザーを、レーザーマイクロボンディング用としてマイクロセル上に塗布された高分子のみに吸収を持つ可視・紫外レーザーを利用することができる。
【0041】
図5にレーザートラッピングとレーザーマイクロボンディングを利用した結晶性タンパク質封入体の配列と固定化の概要図を示す。倒立顕微鏡に配置したマイクロセルに結晶性タンパク質封入体溶液を注入し、トラッピング用レーザーにより結晶性タンパク質封入体を補足・配列する(a)。次に、トラッピング用レーザーと同軸に導入されたボンディング用レーザーにより、結晶性タンパク質封入体を固定化する(b)。この方法を用いることにより、結晶性タンパク質封入体を溶液中で非接触に、かつ高分子フィルムと接していない部分に損傷を与えることなく、マイクロセル上に固定することができる。
【0042】
図6に本発明のプロテインチップ作製における結晶性タンパク質封入体の配列と固定化のプロセスを示す。マイクロセルに結晶性タンパク質封入体Aを含む溶液を注入し、レーザートラッピングとレーザーマイクロボンディングを用いて配列・固定する(a,b)。つぎに、洗浄用の溶液を注入して結晶性タンパク質封入体Aを除去する(c)。その後に、異なる結晶性タンパク質封入体Bを含む溶液を注入し、再び配列・固定・洗浄を行う(d−f)。この過程を繰り返すことにより、複数の種類の結晶性タンパク質封入体をマイクロセル上の指定された任意の位置に配列することができる。図6には一度の配列・固定・洗浄で(a−cもしくはd−f)、一種類の結晶性タンパク質封入体を配列する例を示したが、形状や蛍光スペクトルの異なる結晶性タンパク質封入体に異なる生理活性を持つタンパク質を包埋し、同時に注入し、これらの違いにより結晶を選別しながら配列・固定することにより、一度の配列・固定・洗浄で数種類の単一結晶性タンパク質封入体を同時に取り扱うことができる(特願2001-235422)。
【0043】
また、レーザートラッピングを用いることにより数100nm程度の結晶性タンパク質封入体を多数同時に補足することも可能であり、図7に示すように複数のナノメートル微粒子を同時に配列することができる。この方法により結晶性タンパク質封入体の表面積を増やすことができ、微小領域でより効率的に化学物質と結晶性タンパク質封入体を反応させることができると考えられる。
【0044】
図8にマイクロセル中で結晶性タンパク質封入体をレーザートラッピングにより配列した例を示す。トラッピング用のレーザーとしてNd3+:YAGレーザー(1064nm,100mW)を用いた。レーザーの集光位置をガルバノミラーにより制御することにより、約5μmの結晶性タンパク質封入体を縦3列、横3列に並べることができた(a)。また単純に配列するだけでなく、レーザーの集光位置を図中の矢印に従って操作することにより、任意にその配列を組み替えることができる(b,c)。この様にレーザートラッピングを用いることにより、結晶性タンパク質封入体の位置を数μm程度の精度で正確に制御することができる。
【0045】
次に、緑色蛍光タンパク質を取り込んだ結晶性タンパク質封入体と取り込んでいない結晶性タンパク質封入体を同様に配列した例を図9に示す。
顕微蛍光像(b)は顕微透過像(a)と同位置で撮影されており、顕微蛍光像の白い部分は結晶性タンパク質封入体が緑色に発光していることを示す。この例から明らかなように、顕微透過像で同様にみえる結晶性タンパク質封入体の違いを顕微蛍光像で明確に区別でき、形状のみならず蛍光スペクトルの違いからでも結晶性タンパク質封入体の違いを認識し、選別・配列することができる。さらにこの結果より、結晶性タンパク質封入体と化学物質を反応させることによってどの多角体に結合したかを、紫外線の発光素子を用いることによって蛍光像により、容易に判定できることが示された。
これらの結晶性タンパク質封入体におけるレーザートラッピングの特徴を鑑み、これまで抗原抗体反応のみに依存したプロテインチップとは異なり、多角体に多種多様なタンパク質を生理活性を保持した状態で取り込ませることができることから、タンパク質相互間、またはタンパク質と他の化学物質との結合、さらにはその結合の阻害を解析できる上述の特徴を持つプロテインチップの作製は十分に可能であると考えられる。
【0046】
【発明の効果】
本発明は、タンパク質相互間、またはタンパク質と他の化学物質との結合、さらにはその結合の阻害を解析できるプロテインチップを提供することができる。また、本発明は、タンパク質相互間、またはタンパク質と他の化学物質との結合、さらにはその結合の阻害を解析できるプロテインチップを用いた化学反応の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のプロテインチップの構成例を示す図面である。
【図2】プロテインチップ本体部分の構成例を示す図面である。
【図3】プロテインチップによる検査の具体例を示す図面である。
【図4】プロテインチップを注射針に配置した使用例を示す図面である。
【図5】レーザートラッピングとレーザーマイクロボンディングによる結晶性タンパク質封入体の配列と固定化の概要図(単一のマイクロメートル微結晶の配列)を示す。
【図6】マイクロセルにタ結晶性タンパク質封入体の配列と固定化のプロセスを示す。
【図7】レーザートラッピングとレーザーマイクロボンディングによる結晶性タンパク質封入体の配列と固定化の概要図(複数のナノメートル微結晶の同時配列)を示す。
【図8】レーザートラッピングによる結晶性タンパク質封入体の配列と移動の実施例を示す。
【図9】レーザートラッピングによる結晶性タンパク質封入体の蛍光像による判別と配列の実施例を示す。
Claims (11)
- 生理活性を保持した状態でタンパク質を取り込ませた、100nm〜10μmの大きさを持つ昆虫ウイルスが形成する多角体である結晶性タンパク質封入体をレーザーマニピュレーションとレーザーマイクロボンディングを用いて基板上に固定させたプロテインチップ。
- 1μm以下の結晶性タンパク質封入体を多数同時に基板上に固定させた請求項1のプロテインチップ。
- 結晶性タンパク質封入体が基板の指定された位置に配置されている請求項1または2のプロテインチップ。
- 基板のマイクロセルに配置されている請求項3のプロテインチップ。
- 前記結晶性タンパク質封入体が、形状や蛍光スペクトルの異なる結晶性タンパク質封入体に異なる生理活性を持つタンパク質を包埋したものであり、レーザーマニピュレーションとレーザーマイクロボンディングに加えて画像解析装置を用いて、形状や蛍光スペクトルの違いにより結晶性タンパク質封入体を選別しながら配列・固定させた請求項1ないし4のいずれかのプロテインチップ。
- 請求項1ないし5のいずれかのプロテインチップの化学反応検出への使用。
- プロテインチップの化学反応検出への使用において、結晶性タンパク質封入体と化学物質の反応を、基板の上下に発光素子と画像検出素子を配置することにより検出する請求項5のプロテインチップの化学反応検出への使用。
- 結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質に化学物質を相互作用させ、その反応を検出する請求項6の使用。
- 化学物質がタンパク質分子、低分子化学物質、もしくは高分子化学物質である請求項8の使用。
- 結晶性タンパク質封入体に取り込ませたタンパク質によって、他のタンパク質分子、低分子化学物質、もしくは高分子化学物質と結合するかどうか、またこれらの化学物質が多角体に取り込ませたタンパク質と他の化学物質との結合をどのように阻害するのかを解析することで化学反応を検出する請求項6、7または8の使用。
- 基板のマイクロセル中の微小領域で化学物質と反応させる請求項6ないし9のいずれかの使用。
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