JP4203282B2 - アブラナ科植物の抽出物とその用途 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アブラナ科植物の抽出物とその用途に関し、より詳細には、アブラナ科植物に含有される肝臓保護作用を有する抽出液又は抽出エキスを有効成分とする肝疾患の予防又は治療剤及び新規化合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
アブラナ科 (Cruciferae) 植物のアナスタチカ属アンザンジュ(Anastatica hierochuntica)は、一年生植物で、中央アジアからアフリカ北部の砂漠地帯に分布する。Marian Hand (聖母マリアの手)と通称され、最もよく知られているエジプト民間薬であり、エジプトの各都市のハーブ店などで広く市販されている。その全草は難産、子宮出血などの婦人病の治療に有効であると言われている。
アンザンジュのエキスには、抗炎症作用や抗菌作用があることが報告されており、その主成分としては、パラフィン(C25H52, C29H60, C31H64)、ステロール類(主にβ−シトステロール)及びフラボノイドが含有されると報告されている(Abou-Mandour A.及びHartung W.、 Plant Cell Report, 14, 657-661(1995)ならびにRizk A. M.、Hamouda F. M、Ismail S. I.ら、Int. J. Pharmacog., 31,327-329(1993))。
しかし、アンザンジュをはじめとするアブラナ科植物に含有される他の成分の詳細については未だ完全に解明されていない。
【0003】
【課題を解決するための手段】
本発明の発明者らは、エジプト生薬の機能性成分の探索研究の一環として、アブラナ科植物に含まれる機能性成分について鋭意研究を行った結果、今までに報告されたことがない新規化合物を見出し、その化学構造を決定するとともに、アブラナ科植物の抽出物について、特に、抽出物の主要成分、例えば、フラボノイド、芳香族化合物、リグナン、フラボノリグナン等の成分に、従来知られていなかった肝臓保護作用が認められることを新たに見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明によれば、アブラナ科植物から低級脂肪族アルコール又はその含水物による抽出によって得られる抽出液又は抽出エキスを有効成分として含有する肝疾患の予防又は治療剤が提供される。
また、本発明によれば、式(1)〜式(3)
【0004】
【化2】
のいずれか1つに表される新規化合物が提供される。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の肝疾患の予防又は治療剤は、アブラナ科植物(Cruciferae)を用いて抽出した抽出液又は抽出エキスを有効成分として含有する。アブラナ科植物としては、アナスタチカ属(Anastatica)に属するものが挙げられ、さらに具体的には、アンザンジュ(hierochuntica)及びその同属植物が挙げられる。アブラナ科植物は、一年生植物で、その産地は特に限定されるものではないが、一般に、中央アジアからアフリカ北部の砂漠地帯に分布する。特に、エジプト産のものが好ましい。これらの植物は、通常、全草が用いられるが、その一部を用いてもよい。また、全草又はその一部は乾燥したものであってもよいし、そのままの形態であってもよい。
【0006】
アブラナ科植物から抽出液を得るために、例えば、全草をそのまま、粉砕して及び/又は乾燥し、1〜50倍(重量)程度、好ましくは1〜30倍程度の低級脂肪族アルコール又はその含水物を用いて抽出することが適当である。低級脂肪族アルコールとしては、炭素数1〜4の脂肪族アルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等が挙げられる。なかでも、メタノール又はエタノールが好ましい。また、1〜30重量%程度の水を含有する低級脂肪族アルコール含水物であってもよい。
【0007】
抽出は、温浸又は熱浸等で行うことができる。例えば、50〜85℃程度の温度で、振盪下又は非振盪下に、上述した全草を上述した溶媒に浸漬することによって行うことが適当である。振盪下に浸漬する場合には、30分間〜10時間程度行うことが適当であり、非振盪下に浸漬する場合は、1時間〜20日間程度行うことが適当である。なお、上記の温度より低い温度で浸漬することも可能であるが、その場合には、上述したよりも長時間浸漬することが適当である。抽出処理は、同一原料について1回のみ行ってもよいが、複数回、例えば、2〜5回程度行うことが好ましい。
【0008】
得られた抽出液は、濃縮して抽出エキスとしてもよい。濃縮は、低温低圧下で行うことが好ましい。この濃縮は乾固するまで行ってもよい。なお、濃縮する前にろ過し、ろ液を濃縮してもよい。また、抽出エキスは、濃縮したままの状態であってもよいし、粉末状又は凍結乾燥品等としてもよい。濃縮する方法、粉末状及び凍結乾燥品とする方法は、当該分野で公知の方法を用いることができる。
【0009】
得られた抽出液は、濃縮する前後に、精製処理に付してもよい。精製処理は、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法、溶媒による分配抽出等を単独又は組み合わせて採用することができる。例えば、クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等のいずれか又はそれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。
【0010】
なかでも、抽出液を濃縮して抽出エキスとしたものを、酢酸エチル及び水を用いて分配抽出して、酢酸エチル可溶画分として得ることが好ましい。分配抽出は、当該分野で通常行われる方法にしたがって行うことができる。例えば、室温下、振盪下又は非振盪下に、抽出エキス等に対して、酢酸エチルと水とを1〜30(重量)倍程度(1:10〜10:1)加えて行うことが適当である。さらに、得られた酢酸エチル可溶画分を上記したような精製処理に付してもよい。
【0011】
本発明の抽出液又は抽出エキスは、通常、上記に示す式(1)〜式(3)の化合物及び下記に示す式(4)〜式(38)の化合物のいずれか1つを含有することが好ましく、式(1)〜式(14)、式(17)〜式(38)の化合物のいずれか1つを含有することが好ましく、さらに、式(1)〜式(3)、式(5)〜式(10)、式(21)、式(29)、式(37)及び式(38)の化合物のいずれか1つを含有することが好ましい。
【0012】
【化3】
【0013】
【化4】
【0014】
【化5】
【0015】
【化6】
【0016】
【化7】
【0017】
【化8】
【0018】
これらの化合物は、アブラナ科植物、特にアンザンジュの全草の低級脂肪族アルコール又はその含水物による抽出によって得られる抽出液を濃縮して得た抽出エキスを酢酸エチル/水で分配抽出した場合の酢酸エチル可溶画分に主に含有され、その中から単離することができる。単離の方法は、当該分野で公知の方法によって行うことができる。
これらの化合物のうち、式(4)以降の化合物は既知化合物であるが、式(1)〜式(3)のいずれかで表される化合物は、新規化合物として見出された。これらの化合物は、いずれも、単独でD−ガラクトサミン誘発肝細胞毒性抑制作用、つまり、肝臓保護作用を有することが本願において初めて見出された。したがって、これらの化合物は、直接肝疾患の予防又は治療剤として用いることができる。
【0019】
上記のような抽出液又は抽出エキス、式(1)〜式(38)の化合物は、それぞれそのままの状態又は適当な媒体で希釈して、医薬品等の製造分野において公知の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等の種々の医薬品の形態で使用することができる。これらの形態においては、適当な媒体を添加してもよい。適当な媒体としては、医薬的に受容な賦形剤、例えば結合剤(例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガント又はポリビニルピロリドン);充填剤(例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトール又はグリシン);錠剤用滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール又はシリカ);崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉)又は受容な湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。錠剤は、通常の製薬の実際に周知の方法でコートしてもよい。液体製剤は、例えば水性又は油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ又はエリキシルの形態であってもよく、使用前に水又は他の適切な賦形剤と再生する乾燥製品として提供してもよい。こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁剤(例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂);乳化剤(例えばレシチン、ソルビタンモノオレエート又はアラビアゴム);(食用脂を含んでいてもよい)非水性賦形剤(例えばアーモンド油、分画ココヤシ油又はグリセリン、プロピレングリコール又はエチルアルコールのような油性エステル);保存剤(例えばメチル又はプロピルp−ヒドロキシ安息香酸塩又はソルビン酸)及び所望により着色剤等を含んでいてもよい。
【0020】
また、上記抽出液又は抽出エキス、式(1)〜式(38)の化合物は、健康食品に利用することができる。健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等の目的とした食品を意味し、例えば、液体又は半固形、固形の製品、具体的には、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記抽出液等を混合又は塗布、噴霧などして添加して、健康食品とすることができる。
【0021】
上記抽出液又は抽出エキス、式(1)〜式(38)の化合物の使用量は、濃縮、精製の程度、活性の強さ等、使用目的、治療又は予防等の対象疾患、その疾患の程度、体重、年齢、症状等によって適宜調整することができ、例えば、成人1回につき抽出液又は抽出エキスでは精製度や水分含量等に応じて、1〜20000mg程度が挙げられ、化合物では、1〜10,000mg程度が挙げられ、食前30分位に1日3回服用するのが望ましい。また、健康食品としての使用時には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し、上記抽出液又は抽出エキス、式(1)〜式(38)の化合物を、10〜100,000mg程度の範囲で用いることが適当である。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の抽出物、新規化合物及びそれらの作用についての実施例を具体的に説明する。
アンザンジュ全草のメタノール抽出
図1に示したように、アンザンジュ全草3.5 kg(エジプト産)を粉砕し、メタノール[ナカライテスク社製、特級](10 L)を加え、加熱還流下3時間抽出した。抽出後、ひだ折りろ紙(アドバンテック社製、No. 2ろ紙)にてろ過し、抽出残査にさらにメタノール(10 L)を加え、3時間加熱還流し、同様にろ過作業を行った。合計3回の抽出を行い、その抽出液をあわせ、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下、溶媒留去し、アンザンジュのメタノール抽出エキス183.5 g(生薬からの収率5.24%)を得た。
【0023】
アンザンジュメタノール抽出エキスの溶媒分画
アンザンジュのメタノール抽出エキス(153.4 g)を水(2 L)に懸濁させ、分液ロートを用いて酢酸エチル[ナカライテスク社製、特級](2 L)で分配抽出した。
水層に、さらに酢酸エチル(2 L)を加えて溶媒抽出し、同様の操作を計3回行い、酢酸エチル層を得た。
酢酸エチル抽出液を合して減圧下、溶媒留去して酢酸エチル移行部エキス(69.8 g, 2.39%)を得た。
また、水層も同様に減圧下、溶媒留去し、水移行部エキス(81.3 g, 2.78%)を得た。
【0024】
酢酸エチル移行部エキスの分離・精製
酢酸エチル移行部エキス(54.6 g)を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー[富士シリシア社製、BW-200、150〜350メッシュ、1.65 kg、移動相:n−ヘキサン(ナカライテスク社製、特級):酢酸エチル(20:1−10:1−5:1−2:1−1:1)−クロロホルム(ナカライテスク社製、特級):メタノール:水(10:3:1、下層)−メタノール]にて順次溶出し、フラクション1(1.65 g)、2(1.21 g)、3(31.40 g)、4(1.38 g)、5(1.68 g)、6(1.86 g)、7(14.17 g)を得た。
【0025】
このうちフラクション4(1.38 g)について、逆相オクタデシルシリル(以下ODS)カラムクロマトグラフィー[富士シリシア社製、Chromatrex ODS DM1020T、100〜200メッシュ、42 g、移動相:メタノール:水(45:55−75:25)−メタノール]および高速液体クロマトグラフィー(以下HPLC)[検出器:島津示唆屈折型検出器RID-6A、ポンプ:島津LC-10A、HPLCカラム:YMC社製YMC Pack-ODS-A、20 mm i.d. × 250mm、移動相:メタノール:水(35:65または50:50)]にて分離、精製し、7種の化合物p−ヒドロキシ安息香酸(p-hydroxybenzoic acid、0.00020%)、p−メトキシ安息香酸(p-methoxybenzoic acid、0.00075%)、trans-桂皮酸(trans-cinnamic acid、0.00059%)、p−ヒドロキシベンズアルデヒド(p-hydroxybenzaldehyde、0.00093%)、バニリン(vanillin、0.0036%)、コニファーアルデヒド(coniferaldehyde、0.0013%)及びアセトバニロン(acetovanillone、0.00066%)を単離、同定した。
【0026】
フラクション5(1.68 g)について、ODSカラムクロマトグラフィー[50 g、移動相:メタノール:水(20:80−45:55−60:40)−メタノール]およびHPLC[移動相:メタノール:水(30:70、45:55、50:50または70:30)]にて分離し、精製して2種の新規化合物(以下、アナスタチンA(anastatin A)及びアナスタチンBと称す)アナスタチンA(0.0010%)及びアナスタチンB(0.00098%)を単離し、構造決定するとともに、10種の化合物(2R,3R)-(+)-3'-O-メチルタキシフォリン( (2R,3R)-(+)-3'-O-methyltaxifolin、0.00038%)、(2R,3R)-(+)-アロマデンドリン((2R,3R)-(+)-aromadendrin、0.00081%)、(2S)-エリオジクチオール((2S)-eriodictyol 、0.0027%)、(2S)-ナリンゲニン((2S)-naringenin 、0.0038%)、p-ヒドロキシ安息香酸(0.00095%)、3,4-ジヒドロキシ安息香酸(0.00082%)、3-メトキシ-4-ヒドロキシ安息香酸(0.0068%)、trans-フェルラ酸(trans-ferulic acid 、0.00079%)、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド(0.0016%)および2,4'-ジヒドロキシ-3'-メトキシアセトフェノン(0.0011%)を単離し、同定した。
【0027】
フラクション6(1.86 g)について、ODSカラムクロマトグラフィー[60 g、移動相:メタノール:水(30:70−45:55−60:40)−メタノール]およびHPLC[移動相:メタノール:水(20:80、45:55または55:40)]にて分離、精製して5種の化合物(2R,3R)-(+)-タキシフォリン((2R,3R)-(+)-taxifolin、0.044%)、(2S,3R)-(+)-エピタキシフォリン((2S,3R)-(+)-epitaxifolin 、0.0035%)、ケルセチン(quercetin、0.0010%)、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、0.0017%)および(+)-ピノレシノール((+)-pinoresinol 、0.00047%)を単離、同定した。
【0028】
フラクション7(14.10 g)について、ODSカラムクロマトグラフィー[420 g、移動相:メタノール:水(30:70−50:50−70:25−85:15)−メタノール]およびHPLC[移動相:メタノール:水(20:80、30:70、35:65、50:50または55:45)およびアセトニトリル(関東化学社製、HPLC大量分取用):水(25:75、30:70または35:65)]にて分離、精製して1種の新規化合物(以下、ヒエロキン(hierochin)と称す)ヒエロキン(0.00046%)を単離、構造決定するとともに、17種の化合物(−)-エボフォリンB((−)-evofolin B 、0.00093%)、(2S,3R)-フィクサール((2S,3R)-ficusal 、0.0011%)、(+)-シリクリスチン((+)-silychristin、 0.0011%)、(−)-シリクリスチン(0.00073%)、シリビン(silybin、0.0025%)、イソシリビン(0.0024%)、ω-ヒドロキシプロピオグアヤコン(ω-hydroxy- propioguaiacone 、0.0015%)、(6R,7S,8S)-(+)-イソライシロシノール((6R,7S,8S)-(+)-isolaicirosinol 、0.0013%)、(2S,3R)-バラノフォニン(2S,3R)-balanophonin 、0.00045%)、(+)-2,3-ジヒドロキシ-1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-プロパノン(0.0015%)、(+)-1,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-プロパン-1,3-ジオール(0.0011%)、(1S,2R)-(+)-1,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-プロパン-1,3-ジオール(0.0029%)、(2S,3R)-デヒドロキシロジコニフェリルアルコール((2S,3R)-dehydroxy-rodiconiferyl alcohol 、0.0011%)、(2R,3S)-2,3-ジヒドロ-2-(3,4-ジメトキシフェニル)-3-ヒドロキシメチル -5-(2-ホルミルビニル)-7-ヒドロキシベンゾフラン(0.0061%)、4-[2-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(ヒドロキシメチル)-エトキシ]-3-メトキシベンズアルデヒド(0.00060%)、3-[4-[2-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシ
-3-メトキシフェニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]-3-メトキシフェニル]-2-プロペナール(0.00019%)および3-ヒドロキシ-1-[4-[2-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]-3-メトキシフェニル]-1-プロパノン(0.00024%)を単離、同定した。
【0029】
新規化合物の物性
・アナスタチンAの物性値
性状:黄色粉末
旋光度:[α]D 24 +121.3° (c=0.63, MeOH)
高分解能質量分析(High-resolution EI-MS):
理論値 C21H14O7 (M+) : 378.0739
実測値 : 378.0741
円二色性スペクトル (MeOH, Δε, nm): +0.04 (231), −0.19 (258), +0.12 (271), −0.32 (287), +0.09 (327)
紫外吸収スペクトル(MeOH, nm, log ε): 214 (4.3), 247 (4.1), 268 (4.3), 297 (4.2), 371 (3.3)
赤外吸収スペクトル (KBr, cm− 1): 3677, 3432, 3282, 1655, 1647, 1569, 1509, 1458, 1154, 1088, 831
質量分析[EI-MS (%)]: m/z 378 (M+, 72), 258 (100)
核磁気共鳴スペクトル:
1H-NMR (500 MHz, アセトン-d6): δ[2.87 (1H, dd, J=2.7, 17.1 Hz), 3.34 (1H, dd, J=13.1, 17.1 Hz), 3-H2], 5.56 (1H, dd, J=2.7, 13.1 Hz, 2-H), 6.63 (1H, s, 8-H), 6.92 (2H, d, J=8.6 Hz, 3', 5'-H), 7.07 (1H, s, 3″-H), 7.44 (2H, d, J=8.6 Hz, 2', 6'-H), 7.46 (1H, s, 6″-H), 12.93 (1H, br s, 5-OH).
13C-NMR (125 MHz, アセトン-d6): δc 80.4 (2-C), 43.9 (3-C), 199.6 (4-C), 158
.4 (5-C), 108.0 (6-C), 163.6 (7-C), 92.4 (8-C), 161.6 (9-C), 104.9 (10-C), 130.7 (1'-C), 129.1 (2', 6'-C), 116.2 (2', 5'-C), 158.8 (4'-C), 114.9 (1″-C), 150.9 (2″-C), 99.2 (3″-C), 143.3 (4″-C), 145.9 (5″-C), 107.8 (6″-C)。
【0030】
・アナスタチンBの物性値
性状:黄色粉末
旋光度:[α]D 24 +149.0° (c=0.52, MeOH)
高分解能質量分析(High-resolution EI-MS):
理論値 C21H14O7 (M+) : 378.0739
実測値 : 378.0741
円二色性スペクトル (MeOH, Δε, nm): −0.25 (214), −0.10 (248), +0.17 (266), −0.25 (291), +0.10 (339)
紫外吸収スペクトル(MeOH, nm, log ε): 243 (4.2), 263 (4.3), 295 (4.2), 365 (3.4)
赤外吸収スペクトル (KBr, cm− 1): 3630, 3590, 1630, 1605, 1518, 1509, 1152, 1016
質量分析[EI-MS (%)]: m/z 378 (M+, 50), 258 (100)
核磁気共鳴スペクトル:
1H-NMR (500 MHz, アセトン-d6): δ[2.93 (1H, dd, J=2.7, 17.1 Hz), 3.41 (1H, dd, J=13.1, 17.1 Hz), 3-H2], 5.77 (1H, dd, J=2.7, 13.1 Hz, 2-H), 6.59 (1H, s, 6-H), 6.98 (2H, d, J=8.6 Hz, 3', 5'-H), 7.05 (1H, s, 3″-H), 7.25 (1H, s, 6″-H), 7.53 (2H, d, J=8.6 Hz, 2', 6'-H), 12.19 (1H, br s, 5-OH).
13C-NMR (125 MHz, アセトン-d6): δc 80.8 (2-C), 43.8 (3-C), 198.5 (4-C), 162
.5 (5-C), 92.9 (6-C), 163.8 (7-C), 106.8 (8-C), 157.3 (9-C), 104.9 (10-C), 130.6 (1'-C), 129.1 (2', 6'-C), 116.4 (2', 5'-C), 158.9 (4'-C), 106.8 (1″-C), 150.9 (2″-C), 99.3 (3″-C), 145.9 (4″-C), 143.3 (5″-C), 107.6 (6″-C)
【0031】
・ヒエロチンの物性値
性状:淡黄色粉末
旋光度:[α]D 24 −32.2° (c=0.53, MeOH)
高分解能質量分析(High-resolution EI-MS):
理論値 C20H22O6 (M+) : 358.1416
実測値 : 358.1408
円二色性スペクトル (MeOH, Δε, nm): +1.62 (234), −3.46 (287)
紫外吸収スペクトル(MeOH, nm, log ε):279 (4.2)
赤外吸収スペクトル (KBr, cm− 1): 3432, 3282, 1655, 1630, 1518, 1509, 1275, 1034
質量分析[EI-MS (%)]: m/z 358 (M+, 100)
核磁気共鳴スペクトル:
1H-NMR (500 MHz, アセトン-d6): δ3.29, 3.82 (3H each, both s, 12, 3'-OCH3)
, 3.54 (1H, m, 3-H), 3.83 (2H, m, 13-H2), 4.01 (2H, dd, J=1.2, 6.1 Hz, 12-H2), 5.55 (1H, d, J=6.7 Hz, 2-H), 6.11 (1H, dt, J=15.8, 6.1 Hz, 11-H), 6.49 (1H, dt, J=15.8, 1.2 Hz, 10-H), 6.83 (1H, d, J=8.2 Hz, 5'-H), 6.85 (1H, d, J=1.8 Hz, 7-H), 6.89 (1H, dd, J=1.9, 8.2 Hz, 6'-H), 6.91 (1H, d, J=1.8 Hz, 5-H), 7.06 (1H, d, J=1.9 Hz, 2'-H).13C-NMR (125 MHz, アセトン-d6): δc 88.6 (2-C), 55.0 (3-C), 130.4 (4-C), 115
.0 (5-C), 131.6 (6-C), 115.1 (7-C), 142.0 (8-C), 148.0 (9-C), 133.1 (10-C), 124.3 (11-C), 73.7 (12-C), 64.6 (13-C), 134.4 (1'-C), 110.5 (2'-C), 148.4 (3'-C), 147.3 (4'-C), 115.7 (5'-C), 119.7 (6'-C), 57.7 (12-OCH3), 56.3 (3'-OCH3)
【0032】
新規化合物の構造
上述した通り、構造決定した3種の新規化合物を以下に示す。
【化9】
【0033】
マウスにおけるD - ガラクトサミンとリポ多糖とに誘起された肝障害に対する作用
Tiegsらの方法(Tiegs G., Wolter M., Wendel A., Biochem. Pharmacol., 38, 627-631 (1989))に準じて実験を行った。すなわち、約20時間絶食させたddY系雄性マウス(6週齢、体重約25 g)に対し、5% (w/v) アラビアゴム末(半井)により、水性懸濁液とした被験物質を10mL/kg (BW)の液量で胃ゾンデを使用して経口投与した。
1時間後、生理食塩水に溶解した塩酸D-ガラクトサミン(350mg/kg、和光純薬工業) およびリポ多糖(10g/kg、Sigma) 混液を10mL/kg (BW) の液量で腹腔内投与した。
10時間、絶食絶水下飼育した後、無麻酔下、眼窩静脈叢より採血し、血液サンプルを得た。得られた血液サンプルを遠心分離(3,000rpm、10分、4℃)して得られた血清を、トランスアミナーゼ活性を測定するまで凍結(−20℃)して保存した。
血清中トランスアミナーゼ(s-GPT、s-GOT)活性は、市販キット エス.ティーエーテストワコー(和光純薬工業)を使用して測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
初代培養マウス肝細胞への D- ガラクトサミン誘発の細胞毒性に対する効果
体重約40 gのddY系雄性マウスにネンブタール注射液(50mg/mL ペントバルビタールナトリウム、大日本製薬)を腹腔内投与(0.1mL/mouse)して麻酔した。麻酔下、開腹し Seglenの方法(Seglen P. O., Methods Cell Biol., 13, 29−83 (1976))に準じてコラゲナーゼ灌流法により、肝細胞を採取した。すなわち、門脈にカテーテルを挿入後、肝臓灌流液(pH 7.2、137mM NaCl、5.4mM KCl、0.34mM Na2HPO4、0.44mM KH2PO4、4.2mM NaHCO3、10mM HEPES (2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル] エタンスルホン酸)、0.5mM EGTA (エチレングリコールビス (β−アミノエチルエーテル)-N,N,N', N'-テトラ酢酸)、5.6mMグルコース、56μM フェノールレッド)を約100mL 灌流して肝臓を脱血した。その後、速やかに灌流液をコラゲナーゼ溶液(pH7.5、0.5mg/mL コラゲナーゼ・タイプI (ライフテクノロジーズ)、137mM NaCl、5.4mM KCl、0.34mM Na2HPO4、0.44mM KH2PO4、4.2mM NaHCO3、10mM HEPES、5.0mM CaCl2、5.6mMグルコース、56μM フェノールレッド)に交換した。肝臓の消化が進行したところで灌流を停止し、直ちに肝臓を採取した。
【0036】
得られた肝細胞を10% FCS (ウシ胎仔血清、ライフテクノロジーズ)、100units/mL ペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン(ライフテクノロジーズ) 含有ウィリアムスE培地 (Sigma) 中に懸濁後、ガーゼにより濾過した。
濾液中の肝細胞を遠心分離 (700rpm、2分、4℃) により集め、上清を除去後、さらに約10mLの培地で細胞を洗浄し、遠心分離して得られた細胞塊を約10mLの培地中に懸濁した。細胞の生存はトリパンブルー排出能試験により確認した。得られた肝細胞懸濁液を上記培地にて4×105cells/mLの細胞密度に希釈後、96 ウェルマイクロプレート(住友ベークライト)に100μL/wellずつ播種した。5% CO2存在下、37℃にて細胞を4時間培養した後、100μLのPBS (−) により細胞を洗浄し、培地を1mM 塩酸D−ガラクトサミン及び被験物質を含有する培地に交換し、さらに44時間5% CO2存在下、37℃にて細胞を培養した。
【0037】
培養後、培地に5mg/mL MTT [3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニルテトラゾィウムブロマイド、同仁化学研究所] を 10μL/wellずつ添加し、4時間培養した。培地を除去後、生成したホルマザンを0.04M HCl 含有2-プロパノール(100μL/well) にて溶解したのち、マイクロプレートリーダーにより吸光度を測定した(測定波長:562nm、参照波長:660nm)。得られた吸光度より、次式に従って障害抑制率を算出した。
なお、上記でメーカー名を付してない試薬については和光純薬工業社製試薬を使用した。
障害抑制率 (%) = [(O.D.sample−O.D.control) / (O.D.normal−O.D.control)]×100
(式中、O.D.normalは正常群のO.D.、O.D.controlはコントロール群のO.D.、O.D.sampleはサンプル添加群のO.D.である)
その結果を表2及び表3に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のアンザンジュの抽出方法を説明するための図である。
Claims (5)
- 前記式(1)〜式(3)で表される化合物が、アナスタチンA、アナスタチンBおよびヒエロキンである請求項1に記載の肝疾患の予防又は治療剤。
- アブラナ科植物がアナスタチカ属のアンザンジュである請求項1または2に記載の肝疾患の予防又は治療剤。
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