JP4200232B2 - トリシクロデセニルホスホン酸環状エステル及びその製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トリシクロデセニルホスホン酸環状エステル及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明の二級ホスホン酸環状エステルとジシクロペンタジエンとの反応生成物であるトリシクロデセニルホスホン酸環状エステルは、ホスホン酸エステル化合物としてはこれまで知られていない全く新規な化合物である。
今までトリシクロデカン骨格を有するホスホン酸エステル化合物としては、米国特許第3,784,652号明細書に記載のヘキサクロルメタノインデニルホスホネートが知られており、ヘキサクロルメタノインデニルブロマイドとトリアルキルホスファイトからアルブゾフ反応により合成している。
また、オレフィンへの亜リン酸エステルの付加反応としては、例えば、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアテイ,2000年,第122巻,5407頁(J.Am.Chem.Soc.,2000,122,5407)に記載の方法が知られており、種々のアルキル置換基を有するホスホン酸エステル化合物を製造する非常に優れた方法である。
しかし、上記何れの報告もトリシクロデセニル骨格を有するホスホン酸エステルに関する記載は全くなく、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアテイ,2000年,第122巻,5407頁(J.Am.Soc.,2000,122,5407)に記載の方法も、ジシクロペンタジエンの様なオレフィンを2つ有する化合物への適用はなく、それに関する記述もない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した如き状況に鑑みなされたもので、新規なトリシクロデセニルホスホン酸環状エステル類、及び、副反応や副生成物が殆どなく簡便な操作かつ高収率でトリシクロデセニルホスホン酸環状エステル類が得られる、トリシクロデカニル環状ホスホン酸エステル類の工業的に有利な製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、ホスホン酸エステル化合物の製造法について鋭意検討を重ねた結果、二級ホスホン酸環状エステルとジシクロペンタジエンとの反応生成物である有機合成上有用なトリシクロデセニルホスホン酸環状エステルを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、式(1)
【化6】
[式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味する。]
及び/又は式(2)
【化7】
[式中、R1、R2、R3及びR4は前記に同じ。]
で表わされるトリシクロデセニルホスホン酸環状エステル、ならびに式(3)
【化8】
[式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味する。また、R1〜R4がアルキル基及び/又はアリール基の場合、それらR1〜R4のいずれか二つは、それぞれの基から水素原子を除いてなる残基で互いに結合し、環状構造を形成していても良い。]
で表わされる二級ホスホン酸環状エステルを、パラジウム触媒の存在下、ジシクロペンタジエンと反応させることを特徴とする、式(1)
【化9】
[式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味する。]
及び/又は式(2)
【化10】
[式中、R1、R2、R3及びR4は前記に同じ。]
で表わされるトリシクロデセニルホスホン酸環状エステルの製造法に関するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
尚、本明細書中「n」はノルマルを「i」はイソを「s」はセカンダリーを「t」はターシャリーをを意味する。
まず、置換基R1、R2、R3及びR4について説明する。
置換基R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味する。
アルキル基としては、炭素数1〜12、好ましくは1〜8のアルキル基が挙げられ、これらは直鎖状、分枝状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アリール基としては、炭素数6〜14,好ましくは6〜12のアリール基が挙げられ、その具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基などが例示される。
また、R1〜R4がアルキル基及び/又はアリール基の場合には、それらR1〜R4のいずれか二つは、それぞれの基から水素原子を除いてなる残基で互いに結合し、環状構造を形成していても良い。このようにしてR1〜R4のいずれか二つから形成される環構造としては、1,2−シクロヘキシレン基、オルトフェニレン基等が例示される。
工業的入手の容易さの面から、置換基R1、R2、R3及びR4は、独立に水素原子又はメチル基から選ぶのが好ましい。
【0007】
本発明の式(1)及び式(2)で表されるトリシクロデセニルホスホン酸環状エステルは、式(3)の二級ホスホン酸環状エステルをパラジウム触媒の存在下ジシクロペンタジエンと反応させることにより製造することができる。
原料である式(3)の二級ホスホン酸環状エステルは、カナディアン・ジャーナル・オブ・ケミストリ,1967年、第45巻,2501頁(Can.J.Chem.,1967,45,2501)及びカナディアン・ジャーナル・オブ・ケミストリ,1996年,第61巻,6015頁(Can.J.Chem.,1996,61,6015)等に記載の、三塩化リンあるいはリン酸とジオール又は2価フェノールから容易に合成することができる。
ジシクロペンタジエンの使用量は、式(3)の基質に対して0.5モル当量〜10モル当量の範囲であり、特に、0.8モル当量〜3モル当量の範囲が好ましい。
【0008】
触媒であるパラジウムとしては、種々の構造のものを用いることができるが、好適なものはいわゆる低原子価のパラジウム錯体であり、特に3級ホスフィンや3級ホスファイトを配位子とするゼロ価錯体が好ましい。
配位子としての3級ホスフィンや3級ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、フェニルジメチルホスフィン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等が挙げられ、これらの配位子の2種以上を混合して含む錯体も好適に用いられる。
触媒として、3級ホスフィンや3級ホスファイトを含まないパラジウム錯体、及び/又は、3級ホスフィンや3級ホスファイトを含む錯体と、前記した配位子を組み合わせて用いることも好ましい態様である。
前記配位子に組みあわせて用いられる、3級ホスフィンや3級ホスファイトを含まない錯体としては、ビス(ベンジリデンアセトン)パラジウム、酢酸パラジウム等が挙げられ、また3級ホスフィンや3級ホスファイトを既に配位子として含む錯体としては、ジメチルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジメチルビス(ジフェニルメチルホスフィン)パラジウム、(エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらパラジウム触媒の使用量は、いわゆる触媒量で良く、一般的には、式(3)の基質に対して20モル%以下で十分であり、通常5モル%以下である。
【0009】
本反応は特に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて溶媒中で実施することもできる。
反応溶媒としては、反応に関与しないものであれば特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロルベンゼン及びo−ジクロルベンゼン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−オクタン及びn−デカン等の脂肪族炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム及び四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン及びジオキサン等のエーテル類等が挙げられ、好ましくは、ベンゼン、トルエン及びジオキサンが挙げられる。
更に、これらの溶媒は、単独又は組み合わせて使用することも出来る。
【0010】
反応温度は、通常0℃から使用する溶媒の沸点まで可能であるが、好ましくは0℃〜150℃の範囲がよい。
反応時間は、基質の反応性にもよるが、通常0.1〜1000時間である。
反応終了後は、溶媒の減圧留去、蒸留、再結晶、クロマトグラフィー等により、目的とするトリシクロデセニルホスホン酸環状エステルを単離する事が出来る。
【0011】
【実施例】
以下、実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例にて採用した分析条件等は以下の通りである。
【0012】
実施例1
アルゴン置換した反応フラスコに、4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オキサイド(16.41g,100mmol)、酢酸パラジウム(561.1mg,2.5mmol)及び1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(2.085g,3.75mmol)を仕込み、その中に、ジシクロペンタジエン(18.51g,140mmol)の1,4−ジオキサン(300mL)溶液を25℃で加え、100℃に昇温した。
100℃で20時間撹拌した後、室温まで冷却後、反応液をセライトでろ過し、ろ液を減圧下濃縮した。
濃縮残渣にヘキサン(1000mL)を加え、還流させ上澄みをデカンテーションした。更に、残渣にヘキサン(1000mL)を加え、還流させ上澄みをデカンテーションした。
この操作を再度繰り返した。
3回分の合わせたヘキサン溶液を約3分の1量まで濃縮し、そこに活性炭(5g)を加えて、還流下1時間撹拌し、セライトろ過した。
更に、ろ液に活性炭(5g)を加えて、還流下1時間撹拌し、セライトろ過した。
ろ液を、減圧下濃縮乾固し、白色固体として目的物(16.07g,収率54%)を得た。
【化11】
と
【化12】
との混合物
融点;119.0℃
MS (FAB+) m/Z=297 (m+1)
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ1.32 (brs, 9H), 1.34 (brs, 3H), 1.47 (brs, 12H), 1.58-2.41 (m,16H), 2.53-2.71 (m, 4H), 3.00-3.09 (m, 1H), 3.10-3.20 (m, 1H), 5.46 (dt, Jbc = 5.8 Hz, Jcd = 2.3 Hz, 1Hc), 5.58 (dt, JBC = 5.7 Hz, JCD = 2.0 Hz, 1HC), 5.65 (ddd, JBC = 5.7 Hz, JAB = 3.9 Hz, JBD = 1.9 Hz (遠隔), 1HB), 5.77 (ddd, Jbc = 5.8 Hz, Jab = 4.1 Hz, Jbd = 1.8 Hz (遠隔), 1Hb)
31P NMR (162MHz, CDCl3) δ47.6, 48.0
【0013】
実施例2
実施例1と同様な条件下で、Me2Pd[PPh2(CH2)4PPh2](二級環状ホスホン酸原料に対して5モル%)触媒を用い、反応を行ったところ、目的物が93%の収率で得られた。
実施例3
実施例2と同様な条件下で、Me2Pd[dppf](dppf = 1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)触媒を用い、反応を行ったところ、目的物が100%の収率で得られた。
【0014】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、新規なトリシクロデセニルホスホン酸環状エステルを効率的に製造することができ、分離精製も容易である。従って、本発明の工業的意義は多大である。
トリシクロデセニルホスホン酸環状エステルは、医・農薬等生理活性物質、及び機能性材料等の重要な中間体である。そして、医・農薬等の中間体として使用されるほか、染料の染色向上剤、塗料における顔料の分散向上剤、及び成型体、接着剤等高分子組成物の難燃性付与剤として使用される種々のファインケミカル製品となる。
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