JP4200053B2 - イオン移動度検出器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イオン移動度検出器に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のイオン移動度検出器として、試料分子をイオン化するイオン化室と、イオン化室にてイオン化された試料分子が長手方向に移動するドリフト室と、ドリフト室内にドリフトガスを導入するドリフトガス導入手段と、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。ドリフト室内におけるドリフトガスの流れ方向は、イオン化された試料分子の移動方向と反対の方向となる。
【0003】
特許文献1に記載されたイオン移動度検出器では、ドリフト室内に導入されたドリフトガスは、イオン化室内を通って、イオン化室に設けられた排出口から排出される。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第5338931号明細書
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ドリフトガスをイオン化室に設けられた排出口から排出するように構成していたのでは、イオン化室内にてイオン化された試料分子がドリフトガス流の影響を受けてドリフト室に向けて移動し難くなってしまい、時間分解能及び検出効率が劣化するという問題点を有することとなる。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、時間分解能及び検出効率の劣化を抑制することが可能なイオン移動度検出器を提供することを課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るイオン移動度検出器は、試料分子をイオン化するイオン化室と、一端側がイオン化室に連通し、イオン化された試料分子が長手方向に移動するドリフト室と、ドリフト室の他端側に連通し、ドリフト室内にドリフトガスを導入するドリフトガス導入手段と、を備えたイオン移動度検出器であって、複数の微細な貫通孔が形成されており、イオン化室からドリフト室へのイオン化された試料分子の移動を許容し、ドリフト室からイオン化室へのドリフトガスの流入を抑制するプレートを有することを特徴としている。
【0008】
本発明に係るイオン移動度検出器では、上記プレートを有しているので、当該プレートにより、ドリフト室からイオン化室へのドリフトガスの流入が抑制されることとなる。これにより、イオン化室内にてイオン化された試料分子へのドリフトガス流の影響が低減されるので、イオン化された試料分子の挙動が複雑とはならず、イオン化された試料分子をスムーズにドリフト室に導入することができる。この結果、時間分解能及び検出効率の劣化を抑制することができる。
【0009】
また、イオン化室とドリフト室との間に設けられ、印加される電位が変化することによりイオン化された試料分子を通過させるゲート電極と、イオン化室に導入口を通して連通し、試料分子をイオン化室内に導入する試料分子導入手段と、エネルギー線をイオン化室に導入された試料分子に照射するエネルギー線照射手段と、を更に有しており、プレートは、ゲート電極と導入口との間に設けられていることが好ましい。このように構成した場合、イオン化室内に導入された試料分子自体に及ぼすドリフトガス流の影響を確実に低減することができ、イオン化された試料分子をより一層スムーズにドリフト室に導入することができる。この結果、時間分解能及び検出効率の劣化をより一層抑制することができる。
【0010】
また、イオン化室とドリフト室との間に設けられ、印加される電位が変化することによりイオン化された試料分子を通過させるゲート電極と、イオン化室に導入口を通して連通し、試料分子をイオン化室内に導入する試料分子導入手段と、エネルギー線をイオン化室に導入された試料分子に照射するエネルギー線照射手段と、を更に有しており、プレートは、ゲート電極とエネルギー線照射手段との間に設けられていることが好ましい。
【0011】
ところで、試料分子にエネルギー線を照射してイオン化する場合、照射されたエネルギー線がドリフト室内にまで到達すると、ドリフト室内で中性化した試料分子がエネルギー線により再イオン化する惧れがある。エネルギー線がドリフト室内にまで到達すると、ドリフト室内で再イオン化した試料分子は、イオン化室内にてイオン化された試料分子とは異なる態様(飛行時間(TOF)、移動軌跡等)でドリフト室内を移動することになり、時間分解能の劣化を招いてしまう。
【0012】
また、ドリフト室の他端側には、通常、イオン化された試料分子を収集するための集電極が設けられるが、この集電極にエネルギー線が到達すると、集電極からの出力にノイズが発生する惧れがある。また、エネルギー線がドリフト室を構成する物質に到達し、当該物質からの二次電子放出が発生しやすくなり、放出された二次電子がイオン化された試料分子と反応し、中性化する惧れがある。これらの要因は、信号強度やS/Nの劣化を招いてしまう。
【0013】
しかしながら、上記プレートをゲート電極とエネルギー線照射手段との間に設けると、プレートに形成されている貫通孔が微細であり、かつアスペクト比が大きいために、エネルギー線は透過し難い。したがって、プレートにより、エネルギー線照射手段から照射されたエネルギー線がドリフト室内にまで到達するのが抑制されることとなり、ドリフト室内で中性化した試料分子が再イオン化するのを防ぐことができる。また、ドリフト室を構成する物質からの二次電子放出が発生し難くなり、イオン化された試料分子の中性化を防ぐことができる。これらの結果、時間分解能及び検出効率の劣化をより一層抑制することができると共に、信号強度やS/Nの劣化を抑制することができる。
【0014】
また、プレートは、エネルギー線照射手段から照射されるエネルギー線を吸収する材料を含んでいることが好ましい。このように構成した場合、エネルギー線がプレートを透過するのをより一層抑制できる。
【0015】
また、貫通孔は、その中心軸がエネルギー線照射手段によるエネルギー線の照射方向に対して交差するように形成されていることが好ましい。このように構成した場合、エネルギー線がプレートを透過するのをより一層抑制できる。
【0016】
また、プレートは、イオン化室からドリフト室側にイオン化された試料分子を導入するための開口をドリフト室側から覆うように設けられていることが好ましい。このように構成した場合、イオン化室からドリフト室へのイオン化された試料分子の移動を許容し、ドリフト室からイオン化室へのドリフトガスの流入を抑制し得るように、プレートを確実且つ容易に配置することができる。
【0017】
また、プレートの近傍に、ドリフトガスを排出するための排出口が設けられていることが好ましい。このように構成した場合、プレートによりイオン化室への流入が抑制されるドリフトガスが排出口からスムーズに排出されることとなり、ドリフト室内のドリフトガスの流れが乱れるのを抑制することができる。
【0018】
なお、本明細書で用いる「微細な」なる用語は、1μm〜数百μmの内径を有する旨を意味する。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態に係るイオン移動度検出器について図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るイオン移動度検出器の構成を説明するための概略斜視図である。図2は、第1実施形態に係るイオン移動度検出器を示す縦断面図である。図3は、図2におけるIII−III線に沿った断面図である。図4は、図3におけるIV−IV線に沿った断面図である。イオン移動度検出器IMS1は、図1に示されるように、イオン化室1と、ドリフト室21とを有している。イオン化室1及びドリフト室21内の圧力は、大気圧相当である。なお、本第1実施形態に係るイオン移動度検出器IMS1は、試料分子を陽イオン化し、陽イオン化した試料分子のイオン移動度を検出するものである。
【0021】
イオン化室1は、図2〜図4に示されるように、両端に開口3a,3bを有する筒状部材3内に形成されており、試料分子をイオン化する領域である。筒状部材3は、電気絶縁性材料からなる。イオン化室1(筒状部材3の内部空間)は、筒状部材3の一方の開口3aを通してドリフト室21に連通している。筒状部材3には、試料導入管5と、真空紫外ランプ7が設けられている。
【0022】
試料導入管5は、キャリアガスを供給するキャリアガス供給源9及び試料分子を供給する試料分子供給源11に接続されており、試料導入管5の一端に形成された導入口13を通してイオン化室1に連通している。キャリアガス供給源9から供給されたキャリアガス及び試料分子供給源11から供給された試料分子は、混合された状態で、試料導入管5を通ってイオン化室1内に導入される。ここで、試料導入管5は、試料分子をイオン化室1内に導入する試料分子導入手段として機能する。なお、本実施形態において、キャリアガス供給源9と試料分子供給源11とは試料導入管5に対して直列に接続されているが、並列に接続されていてもよい。
【0023】
真空紫外ランプ7は、試料導入管5を通してイオン化室1に導入された試料分子に真空紫外光を照射する。真空紫外光が照射された試料分子は、イオン化されることとなる。ここで、真空紫外ランプ7は、イオン化室1に導入された試料分子にエネルギー線を照射するエネルギー線照射手段として機能する。なお、真空紫外ランプ7としては、希ガス等を利用するエキシマランプやキャピラリ放電管、水素放電ランプを用いることができる。また、真空紫外ランプ7の代わりに、紫外線やX線を放出するD2ランプ、軟X線管や、多光子吸収によってイオン化させることができるUVレーザを用いることができる。
【0024】
真空紫外ランプ7による真空紫外光の照射方向と試料導入管5を通した試料分子の導入方向とは、図1にも示されるように、互いに交差(本第1実施形態においては、直交)すると共に、ドリフト室21の長手方向中心軸Lと交差(本第1実施形態においては、直交)する方向に設定されている。なお、本第1実施形態においては、真空紫外ランプ7による真空紫外光の照射方向、試料導入管5を通した試料分子の導入方向、及び、ドリフト室21の長手方向中心軸Lは一点で交差している。
【0025】
筒状部材3には、試料導入管5を通した試料分子の導入方向で見て導入口13と対向する位置に、導入された試料分子を排出するための排出口15が形成されている。イオン化室1は、排出口15を通して外部空間に連通している。
【0026】
筒状部材3の他方の開口3bは、電子捕集電極17により塞がれている。この電子捕集電極17は、試料分子がイオン化される際に発生する電子を捕集するためのものであり、所定の正の電位が印加されている。電子捕集電極17には、筒状部材3の他方の開口3bに内挿される突出部19が形成されている。
【0027】
ドリフト室21は、図2〜図4に示されるように、ドリフト管23内に形成されており、一端側がイオン化室1に連通し、イオン化室1内でイオン化された試料分子がその長手方向に移動する領域である。ドリフト管23は、複数のリング状の電極25と、複数のリング状の電気絶縁体27とを含んでおり、電極25と電気絶縁体27が交互に積層された構成となっている。即ち、電極25と電極25との間に電気絶縁体27が配置され、電極25と電極25とは電気絶縁体27により電気的に絶縁された状態にある。電極25及び電気絶縁体27は、ドリフト室21内にイオン化された試料分子を移動させるための電界を形成する電界形成手段として機能する。なお、イオン化室1を形成する筒状部材3も、ドリフト室21を形成するドリフト管23と同様に、電極と電気絶縁体とを交互に積層した構成としてもよい。
【0028】
ドリフト管23の一端側には、ゲートシャッターとしてのゲート電極31が設けられている。ゲート電極31としては、ブラッドバリー−ニールセン・シャッター(Bradbury-Nielsen shutter)を用いることができる。ゲート電極31は、印加される電位が変化することによりイオン化された試料分子を通過させるものであり、一対の電極31aと電気絶縁性を有する枠部材32とを含んでいる。各電極31aは、基幹部と当該基幹部から交差する方向に伸びる複数の分岐部とを有した櫛歯形状を呈しており、枠部材32に互いに噛み合うように配置されている。上記一対の電極31a間の電位差を0とすることにより、イオン化された試料分子の通過が許容され、当該電位差を0より大きい所定の値とすることにより、イオン化された試料分子の通過が禁止される。したがって、ゲート電極31にパルス状の信号を供給し、所定の時間、一対の電極31a間の電位差を0とすることにより、当該所定の時間だけイオン化された試料分子がゲート電極31を通過することとなる。ゲート電極31により、イオン化室1とドリフト室21とが分離されることとなる。ゲート電極31には、電位を印加するためのリード部33がドリフト管23の径方向に突出して設けられている。なお、ゲート電極31として、ブラッドバリー−ニールセン・シャッターの代わりに、2枚のメッシュ電極を近接配置させてもよい。
【0029】
ゲート電極31と筒状部材3との間には、略円板状の電極35が配置されている。電極35は、ドリフト管23を構成する電極25と同様の形状を有する外周部37と、当該外周部37から内側方向に伸びる基部39とを有している。基部39には、筒状部材3の一方の開口3aに連通する開口39aと、当該開口39aの外周寄りの位置に形成されたガス放出口39bが形成されている。外周部37にも、ガス放出口37aが形成されている。ドリフト室21(ドリフト管23の内部空間)は、電極35の基部39に形成された開口39a及び筒状部材3の一方の開口3aを通して、イオン化室1に連通している。また、ドリフト室21(ドリフト管23の内部空間)は、ガス放出口37a,39bを通して、外部空間に連通している。
【0030】
ドリフト管23の他端側には、導電性の基板43が設けられている。基板43には、イオン化された試料分子を収集するための集電極45(本実施形態においては、アノードとして機能する。)と、ドリフトガスをドリフト室21内に導入するドリフトガス導入管47が配置されている。
【0031】
集電極45は、円板状の部材であり、基板43に電気絶縁性を有するリング状の部材46を介して設けられた支持部材にネジ止めされることにより、基板43に配置されている。リング状の部材46以外に集電極45を基板43と電気的に絶縁する手段としては、集電極45のリード部をガラス等の電気絶縁材料や絶縁性接着剤で封着したり、Oリング止めをしたりしてもよい。集電極45としては、ファラデー・カップ等を用いることができる。集電極45は、その中心軸がドリフト室21の長手方向中心軸Lと一致するように設けられている。集電極45の電位は、基板43と同じ電位に保たれている。
【0032】
ドリフトガス導入管47は、ドリフトガスを供給するドリフトガス供給源51に接続されており、ドリフトガス導入管47の一端に形成された導入口49を通してドリフト室21の他端側に連通している。ドリフトガス供給源51から供給されたドリフトガスは、ドリフトガス導入管47を通り、ドリフト室21内におけるイオン化された試料分子の移動方向に見て集電極45より前方からドリフト室21内に導入される。即ち、集電極45は、ドリフトガスの流れ方向で見て、ドリフトガス導入管47の導入口49よりも下流に位置している。
【0033】
ドリフト室21の他端側には、メッシュ形状を呈したグリッド電極53が集電極45に対向して設けられている。このグリッド電極53は、電極25のうちの最も基板43に近い電極に電気的に接続されており、当該電極と同じ電位とされている。グリッド電極53は、ドリフト室21内に形成される電界がゲート電極31における電位のパルス状の変化により変動するのを抑制する。
【0034】
集電極45の外周側には、補助電極55が配置されている。補助電極55は、板状部材からなり、その中央部に集電極45の直径よりも若干大きい内径を有する開口57が形成されている。補助電極55は、開口57内に集電極45が位置するように、集電極45と同一平面内に設けられている。補助電極55の外周部分は、基板43と接しており、当該基板43と電気的に接続されている。これにより、補助電極55の電位は、基板43と同じ電位に保たれる。また、補助電極55の電位は、集電極45の電位と同じである。
【0035】
補助電極55には、複数の貫通孔55aが形成されている。ドリフトガス導入管47の導入口13から導入されるドリフトガスは、まず、基板43と補助電極55及び集電極45とで画成される空間内に流入する。その後、ドリフトガスは、補助電極55に形成された貫通孔55a、及び、補助電極55の内周と集電極45の外周との間隙を通って、ドリフト室21内を流れていく。基板43と補助電極55及び集電極45とで画成される空間は、ドリフトガスのバッファ領域として機能する。なお、補助電極55は、貫通孔55aを有する板状部材の他に、メッシュ状の部材としてもよい。
【0036】
筒状部材3の一方の開口3a側には、図5にも示されるように、プレート41が配置されている。これにより、プレート41は、ドリフト室21の長手方向中心軸Lで見て、ゲート電極31と試料導入管5の一端に形成された導入口13との間に設けられることとなる。また、プレート41は、同じくドリフト室21の長手方向中心軸Lで見て、ゲート電極31と真空紫外ランプ7との間に設けられていることにもなる。図5は、第1実施形態に係るイオン移動度検出器に含まれるイオン化室周辺を示す断面図である。
【0037】
プレート41は、筒状部材3の一方の開口3aをドリフト室21側から塞ぐように、設けられている。プレート41には、図6にも示されるように、複数の微細な貫通孔41aが形成されている。プレート41の材料としては、試料分子をイオン化するために照射される真空紫外光を吸収する材料が好ましく、例えば鉛ガラス等を用いることができる。貫通孔41aの中心軸は、プレート41が筒状部材3に配置された状態において、ドリフト室21の長手方向中心軸Lと平行となる。本実施形態においては、貫通孔41aの内径は12μmに設定され、プレート41の厚みは480μmに設定されている。このプレート41には、キャピラリプレートや、マイクロチャネルプレート(Micro-Channel Plate)等を用いることができる。
【0038】
プレート41は、図7に示されるように、電極35の基部39に形成された開口39aをドリフト室21側から塞ぐように、電極35の基部39に設けてもよい。
【0039】
筒状部材3の一方の開口3a側に設けた場合も、電極35の基部39に設けた場合も、ガス放出口37a,39bは、プレート41の近傍に位置することとなる。ドリフト室21内に導入されたドリフトガスは、ドリフト室21内をイオン化室1方向に向かって流れ、ゲート電極31を通った後、電極35の基部39及びプレート41に衝突する。電極35の基部39及びプレート41に衝突したドリフトガスは、殆どがプレート41を透過することなくガス放出口37a,39bから外部に排出される。ドリフト室21内におけるドリフトガスの流れ方向と、イオン化された試料分子の移動方向とは、反対方向となる。
【0040】
電極25,35、電気絶縁体27、ゲート電極31、筒状部材3及び電子捕集電極17は、基板43と抑え板59とで挟持されている。抑え板59は、電極25、電気絶縁体27、ゲート電極31、筒状部材3及び電子捕集電極17を挟持した状態で、一端側が基板43に固定された支柱61の他端側に螺合するナット63により基板43に対して固定される。なお、電子捕集電極17は、抑え板59にネジ止めされている。
【0041】
ところで、基板43、電極25,35及び電子捕集電極17は、隣り合うもの同士が分圧抵抗(図示せず)により電気的に接続されている。分圧抵抗は、ブリーダ回路基板65上に形成された薄膜状の抵抗体であり、導電性を有するネジ67を通して基板43、電極25,35及び電子捕集電極17に電気的に接続される。このネジ67は、ブリーダ回路基板65を固定する機能も有している。そして、上述したように、電子捕集電極17に所定の正の電位を印加し、基板43を接地すると、図8に示されるように、イオン化室1からドリフト室21にわたって、電界が形成される。この電界により、イオン化された試料分子は、イオン化室1からドリフト室21に移動し、ドリフト室21内を集電極45に向けて移動する。このとき、イオン化室1にてイオン化された試料分子は、プレート41に形成された貫通孔41aを通って、ゲート電極31と電極35(基部39)とで画成される空間に移動する。なお、図8は、イオン化室及びドリフト室における電界分布とイオン化された試料分子の移動軌跡を示す図である。図8中、実線はイオン化された試料分子の移動軌跡を示し、一点鎖線はイオン化室1及びドリフト室21における電界電界の等電位面を示している。図8においては、また、各電極25等に設定されている電位(+)はそれぞれ、
電子捕集電極17 :2.1kV
電極35 :1.67kV
ゲート電極31 :1.57kV
ゲート電極31の隣の電極25 :1.512kV
…
グリッド電極53が電気的に接続された電極25の隣の電極25:215V
グリッド電極53が電気的に接続された電極25 :53V
基板43 :0V
である。
【0042】
筒状部材3と電極35との間には、メッシュ状電極69が配置されている。メッシュ状電極69は、筒状部材3と電極35とで挟持されており、電極35と同じ電位とされる。このメッシュ状電極69は、筒状部材3の一方の開口3a近傍に位置することとなり、イオン化室1内に形成される電界がゲート電極31における電位のパルス状の変化により変動するのを抑制する。
【0043】
メッシュ状電極69を設ける代わりに、プレート41の少なくとも一方の主面に導電性材料からなる電極膜を形成し、当該電極膜を電極35と電気的に接続することによっても、イオン化室1内に形成される電界がゲート電極31における電位のパルス状の変化により変動するのを抑制することができる。
【0044】
また、プレート41の両主面に導電性材料からなる電極膜を形成し、両電極膜に電位を印加してもよい。この場合、イオン化室1内に形成される電界がゲート電極31における電位のパルス状の変化により変動するのを抑制することができると共に、プレート41内部に均一な加速電界を形成し、イオン化された試料分子の透過効率を高めることができる。
【0045】
続いて、上述した構成を有するイオン移動度検出器IMS1の測定原理を簡単に説明する。イオン化室1にてイオン化された試料分子(以下、単にイオンと称する)を、ゲート電極31にパルス状の電圧を印加して電位を変化させることで、ドリフト室21内に導入する。ドリフト室21に導入されたパルス状のイオン群は、ドリフトガス導入管47より導入されたドリフトガスの分子の影響を受けることで時間的遅れを持って移動し、ドリフト室21内に形成されたほぼ均一の電界に沿って集電極45に到達する。集電極45に到達したイオン群はパルス状の電気信号として出力され、当該電気信号に基づいて、ゲート電極31から集電極45までの到達時間(飛行時間(TOF)、集電極45に到達したイオン群の量等が検出される。上記到達時間からイオン移動度を求めることができ、試料分子の同定が可能となる。また、電気信号の応答波形の積分値もしくはピーク値から、試料分子の定量が可能となる。
【0046】
以上のように、本第1実施形態によれば、複数の微細な貫通孔41aが形成されており、イオン化室1からドリフト室21へのイオン化された試料分子の移動を許容し、ドリフト室21からイオン化室1へのドリフトガスの流入を抑制するプレート41が設けられているので、当該プレート41により、ドリフト室21からイオン化室1へのドリフトガスの流入が抑制されることとなる。これにより、イオン化室1内にてイオン化された試料分子へのドリフトガス流の影響が低減されるので、イオン化された試料分子の挙動が複雑とはならず、イオン化された試料分子をスムーズにドリフト室21に導入することができる。この結果、イオン移動度検出器IMS1における時間分解能及び検出効率の劣化を抑制することができる。
【0047】
また、本第1実施形態においては、イオン化室1とドリフト室21との間に設けられ、印加される電位が変化することによりイオン化された試料分子を通過させるゲート電極31と、イオン化室1に導入口13を通して連通し、試料分子をイオン化室1内に導入する試料導入管5と、真空紫外光をイオン化室1に導入された試料分子に照射する真空紫外ランプ7とを有しており、プレート41は、ゲート電極31と導入口13との間に設けられている。これにより、イオン化室1内に導入された試料分子自体に及ぼすドリフトガス流の影響を確実に低減することができ、イオン化された試料分子をより一層スムーズにドリフト室21に導入することができる。この結果、イオン移動度検出器IMS1における時間分解能及び検出効率の劣化をより一層抑制することができる。
【0048】
また、本第1実施形態においては、プレート41は、ゲート電極31と真空紫外ランプ7との間に設けられている。
【0049】
ところで、試料分子に真空紫外光等のエネルギー線を照射してイオン化する場合、照射されたエネルギー線がドリフト室21内にまで到達すると、ドリフト室21内で中性化した試料分子がエネルギー線により再イオン化する惧れがある。エネルギー線がドリフト室21内にまで到達すると、ドリフト室21内でもイオン化が生じ、ドリフト室21内で再イオン化した試料分子は、イオン化室1内にてイオン化された試料分子とは異なる態様(飛行時間(TOF)、移動軌跡等)でドリフト室21内を移動することになり、時間分解能の劣化を招いてしまう。
【0050】
また、ドリフト室21の他端側には集電極45が設けられるが、この集電極45にエネルギー線が到達すると、集電極45からの出力にノイズが発生する惧れがある。また、エネルギー線がドリフト室21を構成する物質(電極25や集電極45等)に到達し、当該物質からの二次電子放出が発生しやすくなり、放出された二次電子がイオン化された試料分子と反応し、中性化する惧れがある。これらの要因は、信号強度やS/Nの劣化を招いてしまう。
【0051】
しかしながら、プレート41をゲート電極31と真空紫外ランプ7との間に設けると、プレート41に形成されている貫通孔41aが微細であり、かつアスペクト比が大きいために、真空紫外光は透過し難い。したがって、プレート41により、真空紫外ランプ7から照射された真空紫外光がドリフト室21内にまで到達するのが抑制されることとなり、ドリフト室21内で中性化した試料分子が再イオン化するのを防ぐことができる。また、ドリフト室21を構成する物質からの二次電子放出が発生し難くなり、イオン化された試料分子の中性化を防ぐことができる。これらの結果、イオン移動度検出器IMS1における時間分解能及び検出効率の劣化をより一層抑制することができると共に、信号強度やS/Nの劣化を抑制することができる。
【0052】
また、プレート41は、真空紫外ランプ7から照射される真空紫外光を吸収する材料を含んでいることが好ましい。この場合、真空紫外光がプレート41を透過するのをより一層抑制できる。
【0053】
また、本第1実施形態においては、プレート41は、イオン化室1からドリフト室21側にイオン化された試料分子を導入するための開口3a,39aをドリフト室21側から覆うように設けられている。これにより、イオン化室1からドリフト室21へのイオン化された試料分子の移動を許容し、ドリフト室21からイオン化室1へのドリフトガスの流入を抑制し得るように、プレート41を確実且つ容易に配置することができる。
【0054】
また、本第1実施形態においては、プレート41の近傍に、ドリフトガスを排出するためのガス放出口37a,39bが設けられている。これにより、プレート41によりイオン化室1への流入が抑制されるドリフトガスがガス放出口37a,39bからスムーズに排出されることとなり、ドリフト室21内のドリフトガスの流れが乱れるのを抑制することができる。
【0055】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係るイオン移動度検出器を示す縦断面図である。図10は、図9におけるX−X線に沿った断面図である。図11は、第2実施形態に係るイオン移動度検出器に含まれるイオン化室周辺を示す断面図である。第2実施形態のイオン移動度検出器IMS2は、真空紫外ランプ7による真空紫外光の照射方向の点で第1実施形態のイオン移動度検出器IMS1と相違する。なお、本第2実施形態に係るイオン移動度検出器IMS2も、試料分子を陽イオン化し、陽イオン化した試料分子のイオン移動度を検出するものである。
【0056】
イオン移動度検出器IMS2は、図9〜図11に示されるように、イオン化室1と、ドリフト室21とを有している。
【0057】
真空紫外ランプ7は、筒状部材3の他方の開口3bを塞ぐように、当該開口3b内に挿入されて設けられている。真空紫外ランプ7及び抑え板59には、真空紫外ランプ7を内挿する貫通孔が形成されている。真空紫外ランプ7による真空紫外光の照射方向は、試料導入管5を通した試料分子の導入方向と交差(本第2実施形態においては、直交)すると共に、ドリフト室21の長手方向中心軸Lと一致する方向に設定されている。
【0058】
真空紫外ランプ7の前方には、イオン化室1に臨んで、電子捕集電極17に電気的に接続されたメッシュ状の電極71が設けられている。この電極71は、試料分子がイオン化される際に発生する電子を捕集するためのものであり、電子捕集電極17を通して所定の正の電位が印加されている。
【0059】
筒状部材3の一方の開口3a側には、第1実施形態と同じく、プレート41が配置されている。プレート41の貫通孔41aは、その中心軸が、プレート41が筒状部材3に配置された状態において、真空紫外ランプ7による真空紫外光の照射方向(ドリフト室21の長手方向中心軸L)に対して交差するように形成されている。
【0060】
プレート41は、図12に示されるように、電極35の基部39に形成された開口39aをドリフト室21側から塞ぐように、電極35の基部39に設けてもよい。
【0061】
以上のように、本第2実施形態においても、上述した第1実施形態と同じく、イオン移動度検出器IMS2における時間分解能及び検出効率の劣化を抑制することができる。
【0062】
また、本第2実施形態においては、貫通孔41aは、その中心軸が真空紫外ランプ7による真空紫外光の照射方向(ドリフト室21の長手方向中心軸L)に対して交差するように形成されている。これにより、真空紫外光がプレート41を透過するのをより一層抑制できる。
【0063】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、第1実施形態においても、プレート41の貫通孔41aの中心軸が、プレート41が筒状部材3に配置された状態において、真空紫外ランプ7による真空紫外光の照射方向(ドリフト室21の長手方向中心軸L)に対して交差していてもよい。また、プレート41の材料は、絶縁体の他に、半導体又は導体等でもよく、イオン化された試料分子が貫通孔41aを通って透過できる材料であればよい。
【0064】
また、本第1及び第2実施形態においては、本発明を、試料分子を陽イオン化し、陽イオン化した試料分子のイオン移動度を検出するイオン移動度検出器IMS1,IMS2に適用しているが、これに限られることなく、試料分子を陰イオン化し、陰イオン化した試料分子のイオン移動度を検出するイオン移動度検出器にも本発明を適用することができる。陰イオン化した試料分子のイオン移動度を検出するイオン移動度検出器の場合、電位配置は、上記イオン移動度検出器IMS1,IMS2の電位配置とは逆の関係になる。また、GND(接地)の位置は、任意に設定することができる。
【0065】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、時間分解能及び検出効率の劣化を抑制することが可能なイオン移動度検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係るイオン移動度検出器の構成を説明するための概略斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るイオン移動度検出器を示す縦断面図である。
【図3】図3は、図2におけるIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図4は、図3におけるIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】第1実施形態に係るイオン移動度検出器に含まれるイオン化室周辺を示す断面図である。
【図6】第1実施形態に係るイオン移動度検出器に含まれるプレートを示す斜視図である。
【図7】第1実施形態に係るイオン移動度検出器に含まれるイオン化室周辺を示す断面図である。
【図8】イオン化室及びドリフト室における電界分布とイオン化された試料分子の移動軌跡を示す図である。
【図9】第2実施形態に係るイオン移動度検出器を示す縦断面図である。
【図10】図9におけるX−X線に沿った断面図である。
【図11】第2実施形態に係るイオン移動度検出器に含まれるイオン化室周辺を示す断面図である。
【図12】第2実施形態に係るイオン移動度検出器に含まれるイオン化室周辺を示す断面図である。
【符号の説明】
1…イオン化室、3…筒状部材、5…試料導入管、7…真空紫外ランプ、13…導入口、17…電子捕集電極、21…ドリフト室、23…ドリフト管、25…電極、27…電気絶縁体、31…ゲート電極、35…電極、37…外周部、37a…ガス放出口、39…基部、39b…ガス放出口、41…プレート、41a…貫通孔、43…基板、45…集電極、47…ドリフトガス導入管、65…ブリーダ回路基板、IMS1,IMS2…イオン移動度検出器、L…ドリフト室の長手方向中心軸。
Claims (6)
- 試料分子をイオン化するイオン化室と、
一端側が前記イオン化室に連通し、前記イオン化された試料分子が長手方向に移動するドリフト室と、
前記ドリフト室の他端側に連通し、前記ドリフト室内にドリフトガスを導入するドリフトガス導入手段と、を備えたイオン移動度検出器であって、
前記イオン化室と前記ドリフト室との間に設けられ、印加される電位が変化することにより前記イオン化された試料分子を通過させるゲート電極と、
前記イオン化室に導入口を通して連通し、前記試料分子を前記イオン化室内に導入する試料分子導入手段と、
エネルギー線を前記イオン化室に導入された前記試料分子に照射するエネルギー線照射手段と、
前記ゲート電極と前記導入口との間に設けられたプレートと、を有しており、
前記プレートには、前記イオン化室から前記ドリフト室への前記イオン化された試料分子の移動を許容し、前記ドリフト室から前記イオン化室への前記ドリフトガスの流入を抑制するように、複数の微細な貫通孔が形成されていることを特徴とするイオン移動度検出器。 - 試料分子をイオン化するイオン化室と、
一端側が前記イオン化室に連通し、前記イオン化された試料分子が長手方向に移動するドリフト室と、
前記ドリフト室の他端側に連通し、前記ドリフト室内にドリフトガスを導入するドリフトガス導入手段と、を備えたイオン移動度検出器であって、
前記イオン化室と前記ドリフト室との間に設けられ、印加される電位が変化することにより前記イオン化された試料分子を通過させるゲート電極と、
前記イオン化室に導入口を通して連通し、前記試料分子を前記イオン化室内に導入する試料分子導入手段と、
エネルギー線を前記イオン化室に導入された前記試料分子に照射するエネルギー線照射手段と、
前記ゲート電極と前記エネルギー線照射手段との間に設けられたプレートと、を有しており、
前記プレートには、前記イオン化室から前記ドリフト室への前記イオン化された試料分子の移動を許容し、前記ドリフト室から前記イオン化室への前記ドリフトガスの流入を抑制するように、複数の微細な貫通孔が形成されていることを特徴とするイオン移動度検出器。 - 前記プレートは、前記エネルギー線照射手段から照射されるエネルギー線を吸収する材料を含んでいることを特徴とする請求項2に記載のイオン移動度検出器。
- 前記貫通孔は、その中心軸が前記エネルギー線照射手段による前記エネルギー線の照射方向に対して交差するように形成されていることを特徴とする請求項2に記載のイオン移動度検出器。
- 前記プレートは、前記イオン化室から前記ドリフト室側に前記イオン化された試料分子を導入するための開口を前記ドリフト室側から覆うように設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン移動度検出器。
- 前記ドリフト室側の前記プレートの近傍に、前記ドリフトガスを排出するための排出口が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン移動度検出器。
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