JP4198525B2 - 既設橋桁の疲労亀裂防止方法およびその方法に使用する切断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、既設鋼橋のソールプレートの隅肉溶接部からの疲労亀裂を未然に防止する方法およびその方法に使用する切断装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
橋梁では図6に示すように、橋桁1は支承2を介して橋台3に設置されているが、橋桁1からの荷重が支承2にスムーズに伝達されるように矩形な平板状のソールプレート5を配設している。
【0003】
このソールプレート5は、一般に橋桁1の下フランジ1aに、隅肉溶接5aによって固着されているが、継手強度の面から取付ボルトで締結する手段を併用しているものも多い。
橋梁は長期間にわたる車両の通過による繰り返し荷重によって、溶接部などの応力集中部に疲労亀裂が発生するという問題がある。疲労亀裂は当初は微小なものであるが、しだいに成長するので、早期に発見して補強工事を行う必要がある。
【0004】
このため、ソールプレートを隅肉溶接した(取付ボルトの締結を併用しているものも含む)橋梁については、一定期間が経過すると、疲労亀裂が生じていないか検査している。
この検査のためには、高所の狭い場所に上らなければならず、また、超音波探傷など非破壊検査器具を持ち込むことも困難であり、点検する箇所も非常に多いので、ほとんどは、疲労亀裂の有無を外観の目視によって点検している。そして、疲労亀裂が予測される箇所については、ソールプレートを切断などで下フランジから取り外し、ソールプレートで塞がれていた部分も点検している。
【0005】
ソールプレートを取り外す場合は、図7に示すように、ジャッキ7で橋桁1を仮受けして作業空間を確保し、ソールプレートの隅肉溶接部をグラインダなどで削り取っている。ソールプレートを取り外せば、疲労亀裂の発見は容易となるが、仮受け台6を橋台3に取り付けるとともにジャッキ7が当接する橋桁1の部署に縦方向の補強材1cを固設するという工事を行わなければならない。
【0006】
しかも、検査後は橋桁1の高さ調整、仮設の復旧、状態の安定確認といった復旧工事を行わねばならず、費用が嵩むばかりでなく、準備から復旧までに1カ月ほどの期間を要してしまう。なお、この作業で亀裂が発見された場合は、それ以上亀裂が進まないように対策を行い、新しいソールプレート5を高強度の取付ボルトで下フランジ1aに締結し、隅肉熔接は行わないこととしている。
【0007】
このようにソールプレートを取り外すと大工事となるので、ソールプレート5を隅肉溶接されたままの状態にして、橋桁1の下フランジ1aの上面に補強板を置き、上から押さえ材で挟んで取付ボルトで締結し、橋桁1の荷重負荷がソールプレート5の溶接部へ伝達されないように補強するようにしたものもある(例えば、特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−288726号公報。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、ソールプレートを取り外して検査する方法は、疲労亀裂の進展状態の確認が容易であるので、検査の信頼性はあるが、多大の工数を要する。また、隅肉溶接部を削除する場合は下フランジに傷を与えないように十分注意して行う必要があり、狭いスペースで上向きの作業であることと相俟って、極めて困難なものとなっている。
【0010】
一方、上記特許文献1の方法による場合は、ソールプレートを取り外さないので、橋桁のジャッキアップを必要としないが、疲労亀裂の進展度合いが確認できず、検査としての信頼性は低い。むしろ、この方法は、疲労亀裂の発生の未然防止を行うものといえる。しかし、この方法では、フランジ部材を取付ボルトで締結するための穴明け工事などを現場で行う必要があるので、多数存在する橋桁の疲労亀裂の未然防止として行うには費用と工期がかかり過ぎるという難点がある。
【0011】
そこで、本発明は、既設のソールプレートを取り外すことなく、簡便に疲労亀裂の発生を未然に防止する方法およびその方法に使用する切断装置を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の既設橋桁のソールプレート取付部からの疲労亀裂防止方法は、橋桁と支承との間に隅肉溶接と取付ボルトによって固設されたソールプレートの隅肉溶接部からの疲労亀裂を未然に防止するため、上面が平坦なディスクグラインダを橋桁の下フランジの下面に接触させた状態で、該ソールプレートと該下フランジの下面との溶接接合部を水平に切断してソールプレートを下フランジから切り離し、ソールプレートを下フランジに締結する取付ボルトを該隅肉溶接を必要としない強度のものに更換することを特徴としている。
【0013】
本発明の既設橋桁の疲労亀裂防止方法は、ソールプレートが下フランジに隅肉溶接と取付ボルトによる締結の併用によって接合され、未だ疲労亀裂の発生していないものに適用される。
この方法は、ソールプレートと下フランジの下面との溶接接合部をディスクグラインダで水平に切断してソールプレートを下フランジから切り離し、ソールプレートを下フランジに取付ボルトによる締結のみに変更するものである。
【0014】
取付ボルトは溶接接合部の切断時に取り外す必要はない。また、取付ボルトを強度が十分なものに取り換えるが、既存の取付ボルトで継手強度が十分である場合は取り換える必要はない。
ディスクグラインダで隅肉溶接部を水平に切断する場合は、特に下フランジに傷を与えないように、十分注意しながら行う必要がある。小さな傷が疲労亀裂の要因となるからである。この作業は例えば手動のディスクグラインダで注意深く行うことによって可能であるが、狭いスペースでの上向き作業であり、かなりの熟練を要する。
【0015】
請求項2の発明は、この切断作業を簡便に行えるようにしたもので、下フランジの下面へ脱着可能な固着手段を備え、X方向およびY方向に手動で移動可能なXYテーブルに上面が平坦なディスクグラインダを搭載し、前記固着手段は、前記下フランジに対し前記ディスクグラインダの上面が平行となるように位置決め可能であることを特徴としている。
【0016】
下フランジの下面へ脱着可能な固着手段は、特に限定しないが、電磁石を使用すれば、装置全体をコンパクトにでき、作業性もよい。
XYテーブルは、ディスクグラインダをX方向(ソールプレートの辺の方向)とY方向(X方向に直角方向)に移動させることができるものであれば、その構成は特に問わないが、軽量化と操作性をよくするため手動にすることが必要である。また、X方向の移動量は、ソールプレートの辺の長さ分あればよく、Y方向の移動量はソールプレートが下フランジから切り離しできる程度とすればよい。
【0017】
ディスクグラインダは下フランジの下面に沿って隅肉溶接部に切り込まれるように、上面が平坦であるものを使用する。
なお、この切断装置はソールプレートが隅肉溶接と取付ボルトの併用によって接合されている場合のみならず、隅肉溶接のみの接合のものにも適用できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
この実施の形態では、下フランジ1aにソールプレート5を隅肉溶接と取付ボルト8で締結した橋桁1に対して、請求項2の発明の切断装置10を使用して行ったもので説明する。図1はソールプレート5の隅肉溶接部の切り離しを切断装置10で行う状態を示したもので、1は橋桁、2は支承、3は橋台である。
【0019】
切断装置10は、図2〜図4に示すように、XYテーブル12と、これに搭載されたディスクグラインダ15および電動モータ16と、XYテーブル12を下フランジ1aに固定する電磁石25とから構成されている。
XYテーブル12は、ディスクグラインダ15をX方向とY方向に移動できるようにしたもので、基台にX移動台13が移動可能に設けられ、さらに、X移動台13にY移動台14が移動可能に設けられている。なお、ここでは、X方向は、ソールプレート5の辺の方向をいい、Y方向は、X方向に直角方向(ディスクグラインダ15の切り込み深さ方向)をいうものとする。
【0020】
基台は、両端の端板12c、12dを継ぎ板12eと平行な2本のガイド部材12aで連結されたもので、X方向がソールプレート5の辺の長さより若干長い矩形の形状にしている。
基台の中央部には、送り手段12bが2本のガイド部材12aと平行に設けられている。この送り手段12bは雄ネジが全長に形成されたネジ棒であり、端板12dの外側に設けられたハンドル18に連結されている。なお、継ぎ板12eの中央部は切り欠かれている。
【0021】
X移動台13はガイド部材12aと係合して摺動可能な嵌合部材13aに圧縮バネ(図示してない)を介して弾性支持されている。また、X移動台13には送り手段12bと係合する係止金具21が固設されている。
Y移動台14は、X移動台13に設けたガイド13bと係合してY方向に移動可能に設けられている。また、X移動台13の嵌合部材13aには送り手段19が設けられており、Y移動台14とは係止金具22で連結されている。そして、X移動台13の側方向外側には送り手段19に連結されたハンドル17が設けられている。なお、図示してないが、係止金具22がY方向に移動しても干渉しないように、X移動台13の中央部にはY方向に長い穴が設けられている。
【0022】
XYテーブル12はこのように構成されているので、ハンドル18を回動させるとX移動台13がガイド部材12aに摺動してX方向へ移動し、また、ハンドル17を回動させることにより、Y移動台14がガイド13bに係合してY方向へ移動する。なお、Y移動台14の移動量は約10mmとしている。
【0023】
ディスクグラインダ15とこれを駆動する電動モータ16は、移動台14に固定されている。
ディスクグラインダ15は厚さが1〜2mmの円盤状で、上面には突起したものがなく、平坦な面に形成されている。なお、15bはディスクグラインダ15を上面から取付けるボルトで、この頭がディスクグラインダ15の表面より突出しないように埋め込まれている。また、15はガードで、ディスクグラインダ15のほぼ、外周半分を囲うように、また、ディスクグラインダ15の表面より突出しないように設けられている。
【0024】
なお、図が複雑になるので省略したが、X移動台13にはディスクグラインダ15の高さ位置を調整するための調整ネジが設けられ、また、隅肉溶接部以上に切断しないように、Y移動台14の移動量を規制するストッパも別途付設されている。
【0025】
電磁石25は基台の継ぎ板12eの両端部に固設されており、高さはディスクグラインダ15の上面にほぼ一致させている。
次に、この切断装置10を使用してソールプレート5を下フランジ1aから切り離す作業について説明する。
【0026】
ソールプレート5の四方の側端A,B,C,Dは図5に示すように、下フランジ1aの裏面に隅肉溶接と取付ボルト(図示してない)で接合されている。
ソールプレート5の下フランジ1aからの切り離しはA〜Dのいずれの位置から切断してもよいが、AからDへ順次切断する場合で説明する。
【0027】
まず、切断装置10のハンドル17とハンドル18を操作してX移動台13とY移動台14を最小ストローク(ハンドル17、ハンドル18寄り)へ移動させ、また、ディスクグラインダ15の高さを最低位置にする。
次に、切断装置10をX方向がソールプレート5の側端Aと平行になるように位置決めし、電磁石25を下フランジ1aへ吸着させて固定する。
【0028】
次に、ハンドル18を操作して、ディスクグラインダ15を側端Aの一端に位置させ、ディスクグラインダ15を上昇させて、ディスクグラインダ15の上面を下フランジ1aに当接させる。なお、X移動台13は圧縮バネで弾性支持されているので、この当接は圧縮バネが圧縮される程度とする。
【0029】
以上の準備ができたら、電動モータ16を作動させてディスクグラインダ15を回転させ、ハンドル17を操作して移動台14を隅肉溶接側へゆっくり移動させる。これにより、ディスクグラインダ15は隅肉溶接の接合部を切断しながら進入する。
【0030】
ディスクグラインダ15が隅肉溶接部を切断するまで(約6mm)移動台14を送り込んだら(このとき、移動台14はストッパに当接するようにしている)、ハンドル18を操作してX移動台13を側端Aの他端側まで移動させる。
これにより、ソールプレート5の側端Aの隅肉溶接部は下フランジ1aとほぼ同一平面で切断される。
【0031】
側端Aの切断が終了したら、ディスクグラインダ15の駆動を停止し、ディスクグラインダ15を下降させ、ハンドル17を操作してY移動台14を引き込み、切断装置10を下フランジ1aから取り外す。
次に、切断装置10をソールプレート5の側端Bに平行になるようにして下フランジ1aに固定し、上記側端Aの場合と同様にして、側端Bの隅肉溶接部を切断する。続いて、側端C、側端Dについても同様に行う。なお、図5では側端Aと側端Cの切断を行う場合の切断装置10の配置状態を示し、側端B、側端Dは図示してないが、同様である。
【0032】
次に、ソールプレート5を締結している取付ボルト8を十分な強度のものに、取り換える。なお、既に取付られている取付ボルト8が強度上十分なものである場合は、そのままでよい。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1の発明の既設橋桁の疲労亀裂防止方法は、上面が平坦なディスクグラインダを橋桁の下フランジの下面に接触させた状態で、ソールプレートと下フランジの下面との溶接接合部を水平に切断してソールプレートを下フランジから切り離し、ソールプレートを下フランジに締結する取付ボルトを隅肉溶接を必要としない強度のものに更換するようにしたので、簡便に短時間で既設橋桁の疲労亀裂の発生を防止できる。特に、既設のソールプレートを取り外さないので、従来のように仮受け台を設置して橋桁をジャッキアップするという作業を必要とせず、工事に要する時間を格段に短縮できるとともに、工事費用を安価にできる。
【0034】
また、請求項2の発明の切断装置は、下フランジの下面へ脱着可能な固着手段を備え、X方向およびY方向に手動で移動可能なXYテーブルに上面が平坦なディスクグラインダを搭載したので、橋桁の下フランジに傷をつけることなく、短時間で確実に、下フランジとの接合を切り離すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の既設橋桁の疲労亀裂防止方法の実施の形態の構成を示す説明図である。
【図2】同 請求項2の切断装置の全体を示す平面図である。
【図3】同 正面図である。
【図4】同 下面図である。
【図5】同 切断装置の使用状態を示す平面図である。
【図6】橋桁および支承の拡大側面図である。
【図7】従来の疲労亀裂防止方法の実施状態を示す側面図である。
【符号の説明】
1…橋桁 1a…下フランジ
1b…補剛材 1c…補強材
2…支承 3…橋台
5…ソールプレート 5a…隅肉溶接部
6…仮受け台 7…ジャッキ
8…取付ボルト 10…切断装置
12…XYテーブル 12a…継ぎ材
12b…送り手段 12c,12d…端板
12e…継ぎ板 13…X移動台
13a…嵌合部材 13b…ガイド
14…Y移動台 15…ディスクグラインダ
15a…ボルト 15b…ガード
16…電動モータ 17,18…ハンドル
19…送り手段 21,22…係止金具
25…電磁石
Claims (2)
- 橋桁と支承との間に隅肉溶接と取付ボルトによって固設されたソールプレートの隅肉溶接部からの疲労亀裂を未然に防止するため、上面が平坦なディスクグラインダを橋桁の下フランジの下面に接触させた状態で、該ソールプレートと該下フランジの下面との溶接接合部を水平に切断してソールプレートを下フランジから切り離し、ソールプレートを下フランジに締結する取付ボルトを該隅肉溶接を必要としない強度のものに更換することを特徴とする既設橋桁の疲労亀裂防止方法。
- 下フランジの下面へ脱着可能な固着手段を備え、X方向およびY方向に手動で移動可能なXYテーブルに上面が平坦なディスクグラインダを搭載し、前記固着手段は、前記下フランジに対し前記ディスクグラインダの上面が平行となるように位置決め可能であることを特徴とする前記下フランジに隅肉溶接で固設されたソールプレートを切り離すための切断装置。
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