JP4198348B2 - 感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテル - Google Patents

感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテル Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管、胆管、腸管等の体腔内に生じる狭窄部、癌等の治療時に、感温性高分子のゲルの性質を利用して目的部位に局部的に薬剤を導入することのできる感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテルに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、血管、胆管、腸管等の体腔内に生じる狭窄部、癌等の治療に際し、目的部位に薬剤を導入するため体腔内に導入される挿入部材としては、バルーンカテーテルのバルーン部、ステント等が使用されている。そして、バルーン表面に親水性ゲルを被覆したものを、血管内に導入して薬剤をバルーン拡張部位に導入する試みは、既になされている(Therapeutic Research vol.21 no.9 2000、第2127頁、右欄19行〜第2128頁、左欄8行参照)が、この試みでは、まだ十分な薬剤量を目的部位に導入するには至っていなかった。
【0003】
そこで、本発明者は、先に、体腔内に導入されるバルーンカテーテルのバルーン部、ステント等の挿入部材に、薬剤を含浸させた、体温ないし体温より若干高い相転移温度を有する感温性高分子のゲルを被覆した薬剤注入装置を発明し、特許出願した(特願2000−125311)。
【0004】
ここで、感温性高分子のゲルは、溶媒中で、ある温度未満では、水分等を吸収して膨潤し、この温度を越えるとゲル中に含有する水分等を放出して収縮する体積相転移を示す。本明細書において、この温度変化により体積相転移を示すその温度を、相転移温度と称する(以下、同様)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この体温ないし体温より若干高い相転移温度を有する感温性高分子のみを、挿入部材の被覆に使用する場合には、感温性高分子被覆層の、薬剤注入装置(医療用具)の表面への固定化が不十分となり、その結果、十分な量の薬剤を目的部位に導入できないことも多々あった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、感温性高分子被覆層を不溶化し、感温性高分子被覆層の、医療用具の表面への十分な固定化を図って、十分な量の薬剤を目的部位に導入することのできる、感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテルを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そのため、請求項1に記載の感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテルは、体腔内に導入される挿入部材に被覆層を設けてなり、その被覆層が、体温ないし体温より若干高い相転移温度を有するN−ビニルアセトアミド−ビニルアセテート共重合体よりなる感温性高分子と、分子鎖中にベンゾフェノン基を有し、かつ前記感温性高分子との相溶性がよい反応性高分子とを含有ゲル化してなることを特徴とする。
【0010】
請求項に記載のものは、請求項1に記載の感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテルにおいて、前記被覆層が、さらに薬剤を含有することを特徴とする。
【0011】
請求項に記載のものは、請求項1に記載の感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテルにおいて、前記挿入部材がバルーンカテーテルのバルーン部であることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテルは、体腔内に導入される挿入部材に被覆層を設けたもので、その被覆層は、体温ないし体温より若干高い相転移温度を有する感温性高分子と、分子鎖中にベンゾフェノン基を有し、かつ前記感温性高分子との相溶性がよい反応性高分子とを含有する。
【0015】
体腔内に導入される挿入部材としては、たとえば血管、胆管、腸管等の体腔内に生じる狭窄部、癌等の治療に際して体腔内に導入されるバルーンカテーテルのバルーン部、である
【0016】
バルーンカテーテルとしては、たとえば経皮的経管冠動脈形成術(以下、PTCAと称す)に使用のPTCAバル−ンカテーテル、PTAバルーンカテーテル、胆管バルーンカテーテル、脳バルーンカテーテル等がある。通常、バルーンカテーテルはシャフトの先端にバルーン部を装着してなる。
【0017】
バルーン部は、たとえばナイロン、ナイロンエラストマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド、これらの高分子化合物からなる複合材料、これらの高分子化合物の多層成形材料等で形成されている。
【0020】
挿入部材に設ける被覆層に含有される感温性高分子としては、体温(個人差はあるが、通常35〜38℃)ないし体温より若干高い温度(個人差はあるが、通常前記体温より1〜10℃、好ましくは1〜5℃、特に好ましくは1〜3℃高い温度、即ち、約36〜約48℃、好ましくは約36〜約43℃、特に好ましくは約36〜41℃)の相転移温度を有するものが使用される。
【0021】
そして、このような体温ないし体温より若干高い相転移温度を有する感温性高分子のゲルは、この相転移温度未満では、水分等を吸収して膨潤し、この相転移温度を越えると体積相転移して収縮し、ゲル中に含有する水分等を放出する。
【0022】
本発明で使用する感温性高分子としては、N−ビニルアセトアミド−ビニルアセテート共重合体が使用される。
【0027】
反応性高分子としては、分子鎖中にベンゾフェノン基を有し、かつ前記感温性高分子との相溶性がよいものが使用される。たとえば分子鎖中にベンゾフェノン基を有し、波長330〜350nmの紫外線照射により反応性ラジカルが誘起される高分子化合物などが挙げられる。
【0028】
感温性高分子と反応性高分子を被覆層に含有させるには、感温性高分子と反応性高分子を共に含有する溶液に浸漬・乾燥すればよい。
【0029】
そして、感温性高分子と反応性高分子とを共に含有する被覆層を、さらにゲル化して、感温性高分子被覆層を不溶化し、挿入部材表面に固定化する。
【0031】
本発明においては、挿入部材に設ける被覆層に、感温性高分子だけでなく、前記のような反応性高分子を含有させることにより、その感温性高分子単独では挿入部材の表面への被覆層の固定化が不十分な場合であっても、感温性高分子被覆層を不溶化し、感温性高分子被覆層の挿入部材表面への固定化を十分なものとすることができる。
【0032】
本発明の感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテルは、感温性高分子と反応性高分子を含有する被覆層を挿入部材に被覆してなるもの、またはさらにこの被覆層をゲル化してなるものであるが、薬剤投与に際しては、その被覆層にさらに薬剤を含有させる。
【0033】
本発明で使用する薬剤としては、患部の狭窄部の改善に対して有効な薬剤、たとえば、塩酸チクロピジン、オザグレルナトリウム等の血小板凝集抑制薬、ワルファリンカリウム、ヘパリン等の血液凝固阻止薬、アルガトロバン等の抗トロンビン薬などの抗血栓薬、たとえばウロキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)等の血栓溶解薬、たとえばカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム等の止血薬、たとえば、塩酸プロプラノロール等のβ遮断薬、塩酸プラゾシン等のα遮断薬、塩酸ヒドラジン等の血管拡張薬、塩酸ニカルジピン等のカルシウム拮抗薬、カプトプリル等のACE阻害薬などの降圧薬、たとえば、ベザフィブラート等のクロフィブラート系薬、ニコモール等のニコチン酸系薬、プラバスタチンナトリウム等のHMG−Co還元酵素阻害薬、コレスチラミン等のコレステロール吸収阻害薬などの高脂血症治療薬が使用される。
【0034】
また、癌等の治療に有効な薬剤、たとえば、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮特異的増殖因子(VEGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)等の遺伝子治療薬、
細胞周期制御に関連する転写因子E2Fのデゴイ等の核酸関連代謝拮抗薬、タキソール等の抗悪性腫瘍薬、ラパマイシン等の抗生薬なども使用される。
【0035】
これらの薬剤を被覆層に含有させるには、感温性高分子溶液中に予め薬剤を含有させた溶液に浸漬・乾燥してもよいし、また、一旦感温性高分子溶液に浸漬・乾燥して被覆層を形成後に、薬剤液に浸漬・乾燥してもよい。
【0036】
そして、この薬剤を含有した被覆層を設けた挿入部材を体腔内に導入すると、血液、体液等の液分を吸収して被覆層のゲルが膨潤する。この際、挿入部材の表面の潤滑性が向上して目的部位に到達しやすくなる。挿入部材を目的部位に固定後、造影剤等の加温流体を挿入部材内に供給して感温性高分子の相転移温度(体温ないし体温より若干高い温度)を越えるように加温すると、ゲルが体積相転移して収縮し、ゲル中に含有する液分とともに薬剤が目的部位に放出される。
【0037】
以下、図面を用いて、本発明の感温性高分子被覆層を有する医療用具の概略構成とその使用方法を説明する。
図1は、挿入部材がバルーンカテーテルのバルーン部の場合について、本発明のバルーンカテーテルの一例を示す概略構成説明図である。
【0038】
バルーンカテーテル11は、シャフト12の先端にバルーン部13(挿入部材)を装着してなる。バルーン部13の外周には、被覆層14を設ける。被覆層14は、感温性高分子と反応性高分子を含有し、さらにゲル化されており、また被覆層14には薬剤15も含浸されている。
【0039】
シャフト12の側面からシャフト12内およびバルーン部13内を経て、バルーン部13の先端に至るまで、ガイドワイヤー用チューブ17が配置されている。ガイドワイヤー用チューブ17の先端と後端は、それぞれ開口部18Fおよび18Bを有する。ガイドワイヤー用チューブ17の内部は、バルーンカテーテル11をこれに沿わせて体腔内の目的部位まで導くためのガイドワイヤーを通すガイドワイヤー用ルーメン19となっている。
【0040】
また、ガイドワイヤー用チューブ17とシャフト12との間は、バルーンカテーテル11を目的部位に固定後、造影剤等の加温流体をバルーンカテーテル11内に供給するための流体供給ルーメン16となっている。
【0041】
バルーン部13の両端にはたとえば金、白金等のX線不透過なものでマーカー20を形成してもよい。
【0042】
そして、図1に示す本発明の感温性高分子被覆層を有する医療用具を使用するに際しては、まず、バルーンカテーテル11のバルーン部13を目的部位の内壁面21に固定する。
【0043】
次ぎに、バルーン部13内に流体供給ルーメン16を介して、体温以上に加温した造影剤等の加温流体を供給して、バルーン部13を拡張し、被覆層14の外周を目的部位の内壁面21に密着させる。
【0044】
これにより、被覆層14中の感温性高分子のゲルが加温により収縮して薬剤15を含む液分を放出し、その結果、薬剤15が目的部位に局部的に、かつ短時間に集中的に十分な量で導入される。
【0045】
図1では、モノレール型PTCAバルーンカテーテルの場合について説明したが、オーバーザガイドワイヤー型PTCAバルーンカテーテルの場合も同様に使用できる。
【0053】
実施例1
N−ビニルアセトアミド16.5gおよびビニルアセテート83.5gを三口フラスコに仕込み、これにエタノール150mlを添加して窒素でバブリングした後、60℃に加温した。この反応液に、開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル1.6gを添加して35分間反応させた。
【0054】
反応終了後、この三口フラスコを室温に冷却し、再沈殿溶媒であるジエチルエーテル中に滴下した。沈殿ポリマーを回収後、水に再溶解して透析膜中に入れて2時間水中で透析を行い精製すると、感温性高分子であるN−ビニルアセトアミド−ビニルアセテート共重合体が得られた。400MHzのNMRスペクトルで同定した結果、この共重合体中のN−ビニルアセトアミド含有量は37.3mol%であった。この共重合体の相転移温度は40.5℃であった。
【0055】
一方、エタノール100mlおよび水50mlの混合溶液に、上記で得られたN−ビニルアセトアミド−ビニルアセテート共重合体14gと、分子鎖中にベンゾフェノン基を有する反応性高分子(ベンゾフェノン基を有するポリビニルピロリドン共重合体)1.2gおよび光反応性スルホン酸ナトリウム0.18gとを溶解して被覆液を調製した。
【0056】
得られた被覆液をPTCAバルーンカテーテルのバルーン部に塗布して、室温で一晩乾燥した後、このバルーン部に波長260nmの紫外線を光源強度5mWa/cmで照射して、被覆層をゲル化し、感温性高分子の被覆層を不溶化し、バルーン部の表面に固定化した。
【0057】
次いで、このバルーン部を、25℃のシロスタゾール(大塚製薬(社)製血小板凝集抑制薬)水溶液中に浸漬した後、ゲル表面に付着した余分のシロスタゾールを25℃の大過剰の水中に5秒間浸漬して除去した。
【0058】
更に、このバルーン部を5mlの生理食塩水溶液中に浸漬した後、25℃および45℃の血管造影剤にて、それぞれバルーン部を拡張したときの、水中へのシロスタゾール放出量を液体クロマトグラフィにて測定した。
【0059】
45℃でバルーン部を拡張したときは、25℃で拡張したときの約1.8倍量のシロスタゾールを放出した。
【0060】
実施例2
バルーン部への被覆処理および紫外線照射をそれぞれ3回ずつ繰り返した以外は、実施例1と同様に処理して、バルーン部に被覆層を形成し、シロスタゾール放出量を測定した。
【0061】
45℃でバルーン部を拡張したときは、25℃で拡張したときの約2.7倍量のシロスタゾールを放出した。この結果から、3層被覆すると、実施例1に示す1層被覆の場合に比して、シロスタゾール放出量が増えることが分かる。
【0062】
【発明の効果】
本発明の感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテルによれば、挿入部材に設ける被覆層が、体温ないし体温より若干高い相転移温度を有するN−ビニルアセトアミド−ビニルアセテート共重合体よりなる感温性高分子だけでなく、分子鎖中にベンゾフェノン基を有し、かつ前記感温性高分子との相溶性がよい反応性高分子をも含有するから、この被覆層をゲル化すると、感温性高分子被覆層を不溶化し、感温性高分子被覆層の、挿入部材表面への固定化を十分なものとすることができ、その結果、被覆層に含浸させる薬剤量を多くでき、十分な量の薬剤を目的部位に導入することができる。
【0063】
しかも、本発明のバルーンカテーテルは、目的部位に到達するまでは挿入部材の表面が潤滑であるため、血管等の体腔内での通過性が良好であり、また、目的部位に到達後はゲルが収縮して潤滑性が低下するため、バルーン拡張時に目的部位での挿入部材のスリップを確実に防止することができ、その結果、安全に治療を行うことができる。
【0064】
更に、挿入部材に多層被覆することにより、被覆層を厚くして多量の薬剤を含浸させることができ、その結果、より多量の薬剤を目的部位へと導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の医療用具の一例を示す概略構成説明図である。
【符号の説明】
11 バルーンカテーテル
12 シャフト
13 バルーン部
14 被覆層
15 薬剤
16 流体供給ルーメン
17 ガイドワイヤー用チューブ
18F、18B 開口部
19 ガイドワイヤー用ルーメン
20 マーカー
21 目的部位の内壁面

Claims (3)

  1. 体腔内に導入される挿入部材に被覆層を設けてなり、その被覆層が、体温ないし体温より若干高い相転移温度を有するN−ビニルアセトアミド−ビニルアセテート共重合体よりなる感温性高分子と、分子鎖中にベンゾフェノン基を有し、かつ前記感温性高分子との相溶性がよい反応性高分子とを含有し、ゲル化してなることを特徴とする、感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテル
  2. 前記被覆層が、さらに薬剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテル
  3. 前記挿入部材がバルーンカテーテルのバルーン部であることを特徴とする、請求項1に記載の感温性高分子被覆層を有するバルーンカテーテル
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