JP3631777B2 - 薬剤投与カテーテル - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、血管またはその他の人体の器官を、薬剤により治療する薬剤カテーテルに関する。
【0002】
【従来の技術】
各種病気の治療において、人体器官、血管等の病変部位に高濃度の薬剤を投与して治療することが望ましい場合が多い。しかしながら、一般的な経口投与や静注投与では、病変部位に対して有効な薬剤量を確保するためには、人体が危険になるほどの他の部位に損傷を与えたり、悪感や苦痛を与えたりするなどの副作用を伴う薬剤がある。これらの薬剤は、その優れた薬効にもかかわらず、実際には病変部に対して使用できないことが多い。
【0003】
近年、内因的血管内狭窄、特に冠状動脈の狭窄症例において拡張用のバルーンカテーテルを使用する血管形成術が普及している。(例えば、グリュンチッヒ(Gruntig)によって、ザ・ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England Journal of Medicicin )誌、第301号、2巻、1979年、6月12日、61−68ぺージに紹介されている。この治療法は、経皮的に挿入したカテーテルについているバルーンを膨張させることによって冠状動脈の狭窄部分を拡張する方法であり、外科的な手術と比較して低侵襲であり患者への身体的負担が少ないことが特徴である。この血管形成術の課題として、拡張した血管狭窄部の再発生率が高いことがある。そのため、病巣部や拡張した血管内壁に対して、各種の再狭窄防止薬、抗血栓剤、血栓溶解剤、カルシウム溶解剤、カルシウム沈着防止剤、ある種のサイトカインや細胞増殖抑制薬の投与、近年では外来遺伝子の導入による遺伝子治療が検討されており、薬剤投与用カテーテルへの期待が高まっている。
【0004】
医薬注入孔を有するバルーンが、特開平2−283380に記載されている。医薬注入孔より薬剤を投与するバルーンカテーテルやカテーテルは、注入孔より薬液が勢いよく放出され、血管内壁や組織を損傷して新たな傷を作ることが懸念されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高濃度の薬剤をカテーテルによりアクセス可能な内腔を有する局部的な血管または器官に投与することが望ましい病気の治療や予防に使用できる薬剤投与カテーテルを提供することである。さらに、本発明の目的は、薬剤投与時にカテーテルやバルーンの外表面側(生体側)が、ゲル層を形成し、薬剤投与時に血管内壁や組織を損傷させることのなく、均一に薬剤を注入できるカテーテルを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の問題点は、下記の本発明により解決される。
【0007】
(1)細孔を有するカテーテルチューブもしくはバルーンにおいて、該細孔を有するカテーテルチューブやバルーンの外表面側(生体側)が、ゲル化層により覆われていることを特徴とする薬剤投与カテーテル。
【0008】
(2)該ゲル化層が両親媒性高分子化合物である(1)記載の薬剤投与カテーテル。
【0009】
(3)該両親媒性高分子化合物がアクリルアミド系化合物であることを特徴とする(2)記載の薬剤投与カテーテル。
(4)該両親媒性高分子化合物がビニルメチルエーテルと無水マレイン酸誘導体との共重合体であることを特徴とする(2)記載の薬剤投与カテーテル。
(5)該両親媒性高分子化合物が親水性単量体と疎水性単量体のランダムもしくはグラフトもしくはブロック共重合体であることを特徴とする(2)記載の薬剤投与カテーテル。
【0010】
本発明は、心筋梗塞などの虚血性心疾患で見られる冠状動脈の血管狭窄を例として、本発明の説明を行うが、本発明における「血管や生体組織の病変」や「カテーテルシステムの種類」等は、以下の例に限定されるものではない。
【0011】
血管狭窄の予防や治療には、抗血栓療法(血栓溶解療法、抗凝血療法、抗血小板療法)や狭窄部をカテーテル先端に取りつけたバルーンにより広げる方法[経皮的冠状動脈形成術(PTCA)]が行なわれている。本発明の薬剤投与カテーテルは、これらの血管狭窄部の拡張、薬液投与による再狭窄の予防や治療に有効に使用することができる。すなわち、本発明のPTCA拡張カテーテルは、バルーン内部に血栓溶解剤や抗血栓薬を含む液体を入れておくことにより、バルーン表面のゲル化層を介して該薬液を放出しつつ狭窄部を拡張することができる。また、再狭窄を予防する医薬をゲル層を介して薬液が投与されるため、血管内壁を物理的に損傷させることなく、徐々に血管内壁に薬剤を移行させることができることとなる。
【0012】
すなわち、図1に示すとおり、バルーンカテーテル1は、内管2と外管3からなるカテーテルチューブとバルーン4により構成されている。内管2は、先端が開口した第1のルーメン5を有している。第1のルーメン5は、ガイドワイヤー(図示せず)を挿通するためのルーメンである。外管3は、内部に内管2を挿通し、先端が内管2の先端よりやや後退した位置に設けられている。この外管3の内面と内管2に外面により第2のルーメン7が形成されている。第2のルーメン7は、その先端が後述するバルーン4内の後端部と連通し、バルーン4を膨張させるための液体(例えば抗血栓薬および血管造影剤を含有する)が流入される。そして、外管3の先端部は、第2のルーメン7を閉塞しない状態で、内管2に固定されている。具体的には、図2に示すように内管2と外管3との間に設けられた充填部材6により固定され、この充填部材6は部分的欠損部6aを有しており、この欠損部6aにより第2のルーメン7とバルーン4の内部とが連通している。
【0013】
バルーン4は、折り畳み可能なものであり、拡張させない状態では、内管2の外周に折り畳まれた状態となることができるものである。バルーン4は、血管の狭窄部を容易に拡張できるように少なくとも一部が略円筒状となっているほぼ同一径の略円筒部4aを有している。そしてバルーン4は、その後端部9が外管3の先端部に液密に固着され、先端部8は内管2の先端部に液密に固着され、バルーン4の内面と内管2の外面との間に拡張空間10を形成し、拡張空間10の後端部では充填部材6の欠損部6aを介して第2のルーメン7と連通している。また、バルーン表面には薬剤投与用の細孔12を有し、細孔12の表面にはゲル化層により覆われており、血管狭窄部を拡張する場合には細孔12を小さくした状態で圧力をかけてバルーン4を膨らませ、血管狭窄部に薬剤を投与する場合には細孔12を圧力により大きくしてバルーン表面よりゲル化層を介して薬剤を血管内に放出する。
【0014】
さらに、内管2の外面には補強体11が設けられ、補強体11はコイルスプリングからなり、X線透視下でバルーン4の位置が容易に確認できるようにするために、バルーン4のセンター付近の内管2の外面と、バルーン4のテーパー部付近(外管3の先端部付近)の内管2の外面に位置している。コイルスプリングの代わりにX線不透過性の白金マーカー等も用いられる。
【0015】
バルーン部の形状は特に限定されず、例えば、バルーンが薬液を含む層と造影剤を含む層との2層構造(ダブルバルーン)となった2重バルーンであっても良い。
【0016】
カテーテルチューブやバルーンの外表面(生態側)に覆われているゲル化層は、薬剤を含有した液体によりゲルが形成される層であればよい。ゲル化層は、両親媒性高分子化合物を構成成分としていると、疎水性の薬剤や溶媒を使用することもできるため、広範な薬剤投与が可能となる。両親媒性高分子化合物とは、親水性部位と疎水性部位とを合わせ持つ高分子化合物であり、水ばかりでなく多くの有機溶媒に可溶なことが特徴である。そのような両親媒性高分子化合物として、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどのアルキルアクリルアミド類のホモポリマーあるいはコポリマーや、ビニルメチルエーテルと無水マレイン酸誘導体との共重合体や、親水性単量体と疎水性単量体のランダム、グラフト、ブロック共重合体、例えば、親水性単量体として、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、スチレンスルホン酸、疎水性単量体として、(メタ)アクリル酸エステル類などの共重合体や、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロック共重合体など例示することができる。また、そのゲル化層の厚さは、強度を維持する上で乾燥時で1μm以上が好ましい。
【0017】
これらのゲルを構成する高分子化合物は、各薬剤との親和性や吸着性を考慮して効率的に患部に投与する構造を選定することができる。
【0018】
本発明に使用される薬剤は、病変部の治療や予防に使用するものであればよく特に限定されない。例えば、前述の血管狭窄などでは、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、プラスミノーゲンアクチベーターなどの血栓溶解剤をはじめ、ヘパリンやワーファリン、アスピリンなどが良く使用されるが、平滑筋細胞の増殖を抑制する薬剤や遺伝子治療用のベクターなども投与することが可能である。また、悪性腫瘍に対しては抗ガン剤が投与される。
【0019】
カテーテルチューブやバルーンの材質についても特に限定されない。例えば、オレフィン系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエンやその共重合体、ハロゲン化物、アイオノマーなどを、縮合系ポリマーとしては、各種のポリエステルやポリアミド及びそれらのポリエーテルなどとの共重合体、ポリウレタンなどを例示できる。カテーテルチューブやバルーンは、超弾性合金のパイプや金属よりなるコイル状物、メッシュ状物等を含んだものであってもよい。
【0020】
カテーテルチューブの形状についても特に限定されないが、病変部までスムーズにカテーテルチューブを進められるガイドワイヤーと組み合わせて使用できること、薬剤を貯蔵あるいは送り込める流路が確保されていること、薬剤を投与するための加圧液体あるいは加圧気体が得られること、カテーテルチューブの挿入部位が確認できること(X線透過画像などで不透過性の白金マーカーが用いられる)が好ましい。
【0021】
またカテーテルチューブを構成する内管2は外径が0.30〜2.50mm、好ましくは0.40〜2.40mmであり、内径が0.20〜2.35mm、好ましくは0.25〜1.80mmである。外管3は外径が0.50〜4.30mm、好ましくは0.60〜4.00mmであり、内径が0.40〜3.80mm、好ましくは0.50〜3.00mmである。バルーンは拡張されたときの円周部分の外径が1.00〜35.00mm、好ましくは1.50〜30.00mmであり、長さが3.00〜80.00mm、好ましくは10.00〜75.00mmであり、バルーン4の全体の長さが5.00〜120.00mm、好ましくは15.00〜100.00mmである。
【0022】
さらにカテーテルチューブの充填剤6は、内管2および外管3と接着性を有する材料が好適に使用され、例えば、内管2および外管3がポリオレフィン系材料からなる場合には、PE(ポリエチレン)やEVA(エチレンビニルアセテート)などが好適に使用され、充填剤6の長さとしては1〜10mm、好ましくは2〜8mmであり、図2に示すように、全周の1/3以上、好ましくは1/2以上の肉厚部分を有することが好ましい。
【0023】
本発明のバルーンに設けられた細孔の形は特に限定されるものではないが、円形、楕円形、三角形、四角形、五角形、六角形、星型、スリット型などが適当である。また、薬剤注入時に要求される細孔の大きさは、使用目的や投与する部位、薬剤の濃度、粘度等により異なるため特に限定できないが、好ましくは0.1〜1000μm程度である。
【0024】
バルーンやカテーテルチューブに細孔を作る方法は、レーザー加工法、加速粒子加工法、放電加工法、延伸法、相分離法、湿式再凝固法など、特に限定されない。例えば、エキシマレーザーを用いると、所望の位置に、孔径制御された細孔を自由に形成することができる。
【0025】
バルーンやカテーテルチューブの該表面にゲル化層を設ける方法は、グラフト法、架橋不溶化法、コーティング法、表面重合法など、材料の種類によって適宜選択することができる。例えば、グラフト法では、材料表面に重合開始点を形成させた後モノマーをグラフト重合してゲル化層を形成する方法や予め高分子を合成した後材料表面に結合させる方法などがある。また、高分子間の架橋反応を伴って材料表面に結合させる方法も、材料表面で重合と架橋を同時に行う方法や合成した高分子を架橋する方法などがある。ゲルの架橋度や強度は、投与する医薬品の分子量や電荷により、目的に応じて設定される。
【0026】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(PET)製のバルーンを成形した。バルーン肉厚は12〜16μm、4気圧の内圧をかけたときのバルーン外径は、2.5mmであった。このバルーンに、エキシマレーザー装置(住友重機械工業社製ルモニクス)を用いて、一辺が52μmの正方形の孔を100か所開けた。
【0027】
このPETバルーンの細孔を形成した領域に、グロー放電処理によりラジカルを生成させた後、メタクリル酸(MAA)ガス中で、24℃、5分間のグラフト重合を行った。続いて、1%ピリジンを含むビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体の部分開環物とポリエポキシ化合物(長瀬産業(株)、デナコールEX313)の2%テトラヒドロフラン溶液(9:1)を、バルーンにコーティングした後、60℃16時間乾燥させた。このコーティングをもう一度繰り返し、表面ゲル化層を有するバルーンを得た。このバルーンを用いて経皮的冠状動脈形成術(PTCA)に用いる図1に示すような拡張カテーテルを作製した。
【0028】
続いて、拡張カテーテル1の通常造影剤を注入する内管2と外管3の間の第2のルーメン7より、pH8.0に調整した低分子化ヘパリンを含むクエン酸緩衝液を入れ、5気圧の内圧をかけると、バルーン4は膨潤し、表面はハイドロゲル化した後、薬剤溶液がバルーンの細孔12よりゆっくりと滲みだしてきた。顕微鏡で観察によっても、薬液が噴出しないことを確認した。ヘパリンの徐放は、酢酸セルロース膜(孔径0.22μm)をバルーン表面に押し当てて、液体を吸収して乾燥させた後、トルイジンブルーによる染色で検出した。
【0029】
(実施例2)
ポリエチレン製バルーン(外径φ2.5mm)の表面に、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体ボンダインTX−8030(住友化学(株))の0.5%トルエン溶液をコーティングして乾燥した後、エキシマレーザー装置(住友重機械工業社製ルモニクス)を用いて、一辺が120μmの正方形の孔を80か所開けた。続いて、1%ピリジンを含むグリシジルメタクリリレートとジメチルアクリルアミドのブロックコポリマー(4.2:1)の3%クロロホルム溶液をコーティングし乾燥させることにより、バルーン表面にゲル化層を得た。続いて、このバルーンを用いて経皮的冠状動脈形成術(PTCA)に用いる図1に示すような拡張カテーテルを作製した。この拡張カテーテル1のバルーンの内側に、薬剤(アスピリン)を溶解した生理食塩水を入れ、6気圧の内圧をかけると、バルーン4は膨潤し、ハイドロゲル化した表面より薬剤溶液がバルーンの細孔12よりゆっくりと滲みだしてきた。顕微鏡で観察によっても、薬液が噴出しないことを確認した。
【0030】
(実施例3)
実施例2で作製した拡張カテーテルのバルーン部分を、薬剤(低分子量ヘパリン)溶液に浸漬し、外表面のゲル部分に薬剤を担持させた。続いて、バルーン内側に造影剤液をいれて6気圧の内圧をかけると、低分子ヘパリンがゆっくりと滲みだしてくるのを、実施例1と同様の方法で確認した。
【0031】
(比較例1、2)
実施例1、2で基材として使用した表面ゲル化層を持たないバルーンは、バルーン内部に6気圧の内圧をかけると、薬剤(低分子ヘパリン)溶液が、細孔より噴出することを、顕微鏡を用いて確認した。
【0032】
【発明の効果】
本発明の薬剤投与カテーテルは、薬剤がゲル化層を介して徐々に放出されるため、細孔より放出される薬液流による血管内皮や組織の損傷を生じさせることなく、また、患部にたいして均一に薬剤の局所的投与が可能となり、血管狭窄部の治療や予防に極めて有効なカテーテルとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の薬剤投与カテーテルの一実施例の先端部の拡大断面図。
【図2】図1におけるA−A線断面図。
【符号の説明】
1 カテーテル
2 カテーテルチューブの内管
3 カテーテルチューブの外管
4 バルーン
5 第1ルーメン
6 充填剤
6a 充填剤の欠損部
7 第2ルーメン
8 バルーンの先端部
9 バルーンの後端部
10 バルーンの拡張空間
11 コイルスプリング
12 細孔

Claims (5)

  1. 細孔を有するカテーテルチューブもしくはバルーンにおいて、該細孔の表面がゲル化層により覆われており、該ゲル化層を介して薬剤が放出されることを特徴とする薬剤投与カテーテル。
  2. 該ゲル化層が両親媒性高分子化合物であることを特徴とする請求項1記載の薬剤投与カテーテル。
  3. 該両親媒性高分子化合物がアクリルアミド系化合物であることを特徴とする請求項2記載の薬剤投与カテーテル。
  4. 該両親媒性高分子化合物がビニルメチルエーテルと無水マレイン酸誘導体との共重合体であることを特徴とする請求項2記載の薬剤投与カテーテル。
  5. 該両親媒性高分子化合物が親水性単量体と疎水性単量体のランダムもしくはグラフトもしくはブロック共重合体であることを特徴とする請求項2記載の薬剤投与カテーテル。
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