JP4196511B2 - 偏光板保護フィルム及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はハロゲン化銀感光材料や液晶画像表示装置に有用な、セルロース混合アシレート、セルロース混合アシレートドープの調製方法、セルロース混合アシレートフィルムの製造方法及びセルロース混合アシレートフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、使用されているセルローストリアセテートフィルムの溶液流延製膜方法について、図1で概略的に説明する。図1は溶液流延製膜装置の概略見取り図である。セルローストリアセテートの溶液(ドープと呼ぶ)をダイ2から流延用支持体3上にドープ膜として流延し、ドープ中の溶媒を蒸発させウェブ1(ドープ膜が乾燥されたものをウェブと呼ぶ)となし、剥離可能になったところで剥離ロール4で流延用支持体3からウェブ1を剥離する。この時点ではウェブ中の溶媒は5〜100%程度残っており、更に乾燥が必要である。流延用支持体3から剥離されたウェブ1は、複数のロール群6により搬送されながら、乾燥装置5により溶媒量2%以下のセルローストリアセテートフィルムに乾燥される。7は乾燥風である。
【0003】
セルローストリアセテートフィルムは、強靱性、耐水性、光学的等方性等の優れた性質から、ハロゲン化銀写真感光材料の支持体や液晶画像表示装置の保護フィルムに使用されている。そして、最近の写真撮影ショット数の増加、液晶表示画面の多様化と急速な普及からセルローストリアセテートフィルムそのものの需要も、今後益々増加するとの予測がされている。
【0004】
一般に、セルローストリアセテートフィルムは、上記のように、メチレンクロライドを主溶媒としてセルローストリアセテートを溶解したドープを溶液流延製膜方法によって作製される。しかし、昨今、環境問題に配慮してメチレンクロライドのような塩素系有機溶媒が規制される方向にある。そのような中、ドープの更なる高濃度化や非塩素系有機溶媒の使用が考えられている。例えば非ハロゲン系有機溶媒を用いてセルローストリアセテートを溶解する場合、常圧常温付近で溶解出来ず、後述の零度以下に冷却して溶解する冷却溶解法によって、また、同様に後述の高圧状態にして溶解する高圧溶解法によって、ドープを調製する方法があるが、いずれもドープ濃度を高く出来なかったり、ドープ停滞安定性が悪くドープ品質に問題があり、最近の厳しい要求品質には応えられないようなものであった。
【0005】
一方、近年のコンピュータ、情報通信の発展、それに伴う表示機器の利用が急速に広がりを見せており、様々な課題が出てきている。例えば、VA型液晶画像表示装置(後述する)において、このものに使用するセルローストリアセテートフィルムが、フィルムの膜厚がある程度以上厚くなると、割れやすくなったり、しなやかさに欠け加工し難かったりする問題も出てきた。
【0006】
液晶画像表示装置は、低電圧、低消費電力で、IC回路への直結が可能であり、そして、特に、薄型化が可能であることからワードプロセッサーやパーソナルコンピュータ等に広く採用されている。このような液晶画像表示装置の基本的な構成は、例えば液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。このような液晶画像表示装置において、コントラストの観点から、ツイスト角が90°のツイステッドネマティック(TN)液晶を用いた液晶画像表示装置が、ツイスト角が160°以上のスーパーツイステッドネマティック(STN)液晶を用いた液晶画像表示装置に変わりつつある。
【0007】
しかし、STNを用いた液晶画像表示装置は、液晶の複屈折を利用したものであることから、TNを用いた液晶画像表示装置におけるノーマルホワイトが、白い背景が青色あるいは黄色に着色するという問題があり、このため、白黒表示ではコントラストや視野角が狭いこと、また、カラー表示ではカラー化するのに困難な課題があるという問題がある。
【0008】
これらの問題を解決する手段として、複屈折分を補償してやるために上側の偏光板の下に位相差板を用いるという技術が提案された。この技術によれば、前記着色の問題は解決されるものの、視野角についてはほとんど改善に至っていない。更に、この問題を解決するために、厚さ方向の屈折率が複屈折の光軸に垂直な方向の屈折率よりも大きな複屈折フィルムを作製し、これを位相差板として用いる技術が提案された。
【0009】
ところで、低電圧、低消費電力、薄型化の上で、液晶画像表示装置は他の表示装置には無い大きな特徴を有している。しかし、液晶画像表示装置における最大の問題は視野角が狭いことである。そこで、この視野角に関する改善に対する要求は益々強まる一方である。このことに対する一つの技術として、TNやSTNタイプとは異なるタイプの例えばバーチカルアリンメント型の液晶が提案された。TNやSTNタイプの液晶セルは、電圧オフの時には液晶分子が配向板に平行で、電圧オンの時には液晶分子が配向板に垂直に配向するタイプのものであるのに対し、バーチカルアリンメント型は、電圧オフの時には液晶分子が配向板に垂直で、電圧オンの時には平行のタイプで、誘電異方性が負のネガ型液晶を用いたものである。このバーチカルアリンメント(VA)型液晶画像表示装置は、上記の配向モードを有しているので、黒がしっかり黒として表示され、コントラストが高く、TNやSTN型のものに比べて、視野角が比較的広いという利点を有している。しかしながら、液晶画面が大きくなるに従って、更に視野角を広げる要望が高まって来ているが、偏光板用保護フィルムには、従来からセルローストリアセテートフィルムが使用されているため、厚み方向のレターデーション値を大きくするにも限界があった。そして、より大きな厚み方向のレターデーション値を得るためには、更にフィルムの厚さを厚くする必要があった。ところが、昨今液晶画像表示装置も携帯性が要求されて来ており、その小型化、特に薄くすることも求められている。つまり、膜厚が薄く且つ大きな厚み方向のレターデーション値を有する偏光板保護フィルムが求められている。
【0010】
そこで、セルローストリアセテートフィルムに代わるフィルムが求められていた。
【0011】
先ず、透明性を有し、且つ機械的性質の優れたフィルム素材、また非塩素系の有機溶媒を使用して製膜出来るフィルム素材で、更に溶解性を向上させるために、セルローストリアセテートのアセチル基を他のアシル基、例えば、プロピオニル基やブチリル基に1部を置換したセルロース混合アシレートを用いる方法も考案されている。
【0012】
一方、最近、セルロースを構成するセロビオース単位中の二つのグルコース単位の水酸基の位置にアセチル基が特定の割合で導入されたセルローストリアセテートについての技術が公開された。特開平9−286801号公報は、セルローストリアセテートの全置換位置のアセチル基の全平均置換度は2.60以上であり、2位及び3位における合計平均置換度が1.97以下で、6位における平均置換度が全平均置換度の31.0%以下とすることにより、溶解性に優れ、且つ濃厚溶液とした時溶液粘度が低いセルローストリアセテートが得られると記載している。また、特開平11−5851号公報には、セルローストリアセテートの2位、3位及び6位のアセチル基置換度の合計が2.67以上で、且つ2位及び3位のアセチル基置換度が1.97以下とすることにより、フィルムにした場合の、厚み方向のレターデーション値が低いことが開示されている。
【0013】
セルロースを構成するセロビオース単位中の二つのグルコース単位には、それぞれに2位、3位及び6位に3個の水酸基がある(下記一般式(I))。これら水酸基をアシル基で置換したものをセルロースアシレートというが、アシル基が全てアセチル基のものがセルローストリアセテートであり、アセチル基が各々2位、3位及び6位に置換されていて、ハロゲン化銀写真感光材料や液晶画像表示装置の偏光板等に使用されるセルローストリアセテートのアセチル基の全平均置換度は通常2.6〜3.0のものである(下記一般式(II))。しかし、これらの位置にアセチル基が全て等価に置換されているわけではなく、置換位置によって若干異なっている。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
ここで、Acyはアシル基で、COCH3、COC2H5、COC3H7であり、1〜6の番号はグルコース単位の炭素原子の位置を示している。
【0017】
グルコースの水酸基の置換位置を知る方法が、Y.Tezuka & Y.Tsuchiyaは、Carbhydrate Research、第273巻、83〜91頁(1995年)に記載されており、13C−NMR法を用いて2位、3位及び6位へのアセチル基及びプロピオニル基またはブチリル基の置換の状態を測定する方法を報告している。
【0018】
また、特開平8−231761号及び同10−45804号公報には、セルロース混合脂肪酸エステルのアセチル基及び炭素原子数3以上のアシル基を置換位置の規定なしに平均的な置換度として範囲を示している。これらに記載されている炭素原子数が3以上のアシル基(実際的には、プロピオニル基またはブチリル基)の平均的置換度のものを得る方法により製造したセルロース混合アシレートフィルムの性質、また、特開平9−95544号及び同9−95557号公報には、セルロース混合アシレートの冷却溶解方法により溶解したドープの性質については、上記のセルロース混合アシレートから調製されたドープは、調整後の停滞中にドープ濁りが発生したり、ゲル化が起こったりして、長時間安定して貯蔵しておくことが難しかった。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、セルロース混合アシレートフィルムを溶液流延製膜方法で作製する場合、ステンレスベルト支持体からウェブの剥離性が悪くなるという欠点がある。セルローストリアセテートに比べ炭素原子数の多いプロピオニル基やブチリル基を導入したことで、ウェブのステンレスベルト支持体の密着性がよくなり過ぎることに起因すると考えられるが、剥離性を良くするために、剥離時のウェブが持っている残留溶媒が少なくなるようにすると製膜速度が遅くなり生産性が落ちることになる。また、出来上がったフィルムとした場合、弾性率が低下することが問題となる。
【0020】
本発明は上記に鑑みなされたもので、本発明の第1の目的は、溶解性に優れ且つ流延支持体から剥離し易いセルロース混合アシレートを提供することにある。本発明の第2の目的は、薄膜化しても厚さ方向のレターデーションが大きく、液晶画像表示装置に適したセルロース混合アシレートを提供することにある。更に、本発明の第3の目的は、折れにくく、加工し易いセルロース混合アシレートフィルムを提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者が、グルコース単位の2位、3位及び6位の水酸基をアセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基で置換したセルロース混合アシレートを検討していたところ、アセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基の置換基の位置あるいは置換度によってセルロース混合アシレートの性質が異なることを見出した。
【0022】
本発明者らは、これらの検討の結果、セルロース混合アシレートは厚み方向のレターデーションが大きく、セルローストリアセテートと比較して同等の視野角拡大効果を得る膜厚が大幅に薄膜化出来ることを見いだした。また、本発明のセルロース混合アシレートは耐折度が非常に高く、しなやかなため、厚みを増しても加工適性に優れており、生産性を落とすことがないこともわかった。
【0023】
本発明は下記の構成よりなる。
(1) アセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基を置換基として有するセルロース混合アシレートにおいて、Y6に少なくともプロピオニル基及び/またはブチリル基を有し、下記式を満足する平均置換度を有するセルロース混合アシレートを用いるセルロース混合アシレートフィルムであり、VA(バーチカルアリンメント)型液晶画像表示装置に使用することを特徴とする偏光板保護フィルム。
【0024】
3.00≧(X2+X3+X6+Y2+Y3+Y6)≧2.45
0.95≧(X6+Y6)≧0.10
ここで、X2は2位の、X3は3位の、またX6は6位のそれぞれの水酸基を置換したアセチル基の平均置換度、Y2は2位の、Y3は3位の、またY6は6位のそれぞれの水酸基を置換したプロピオニル基及び/またはブチリル基の平均置換度であり、(X6+Y6)は6位の水酸基を置換したアシル基(アセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基)の平均置換度である。
【0025】
(2) (X6+Y6)が下記式を満足する平均置換度を有することを特徴とする(1)に記載の偏光板保護フィルム。
【0026】
0.87≧(X6+Y6)≧0.10
(3) 下記式を満足することを特徴とする(1)または(2)に記載の偏光板保護フィルム。
【0027】
0.34≧Y6≧0.10
ここで、X2は2位の、X3は3位の、またX6は6位のそれぞれの水酸基を置換したアセチル基の平均置換度、Y2は2位の、Y3は3位の、またY6は6位のそれぞれの水酸基を置換したプロピオニル基及び/またはブチリル基の平均置換度であり、(X6+Y6)は6位の水酸基を置換したアシル基(アセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基)の平均置換度である。
【0028】
(4) 前記セルロース混合アシレートをメチレンクロライド、酢酸メチル及びフルオロアルコールから選ばれる少なくとも1つを主溶媒とし、2〜30質量%の炭素原子数4以下のアルコールを含有して溶解するセルロース混合アシレートドープを調製し、前記ドープを用いて、溶液流延製膜方法により製膜することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の偏光板保護フィルム、の製造方法。
【0033】
本発明を詳述する。
本発明のセルロース混合アシレートは、セルロースを構成しているセロビオース単位の2個のグルコース単位のそれぞれの2位、3位及び6位の水酸基に、アセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基が下記の式を満足する置換度を有するものである。ここで、アセチル基の2位、3位及び6位の平均置換度をそれぞれX2、X3及びX6とし、プロピオニル基またはブチリル基の2位、3位及び6位の平均置換度をそれぞれY2、Y3及びY6とする(水酸基のままの置換されていない位置については表示していない)。
【0034】
3.00≧(X2+X3+X6+Y2+Y3+Y6)≧2.45
0.95≧(X6+Y6)≧0.10
(但し、Y6に少なくともプロピオニル基及び/またはブチリル基を有する)または、
3.00≧(X2+X3+X6+Y2+Y3+Y6)≧2.45
0.95≧(X6+Y6)≧0.10
0.34≧Y6≧0.10
である。
【0035】
(X2+X3+X6+Y2+Y3+Y6)は水酸基の全位置にアセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基が全部または部分的に置換している合計平均置換度を表し、(X6+Y6)は6位の水酸基がプロピオニル基及び/またはブチリル基が全部または部分的に置換している平均置換度を表し、また、Y6は、6位のアシル基の平均置換度である。
【0036】
本発明のアシル基のグルコース単位の各位置への置換度の測定方法については、前出のY.Tezuka & Y.Tsuchiyaの論文に記載されている13C−NMR法により行うことが出来る。この方法を用いると、アセチル基の13C−NMRのシグナルとプロピオニル基のシグナル及びブチリル基のシグナルが明瞭に分かれ、しかも2位、3位及び6位のシグナルも近接した3つのピークに分かれ各々の識別と、ピークの高さから置換度がわかる。
【0037】
本発明のセルロース混合アシレート、例えばセルロースアセテートプロピオネートの製造方法は、中置換度のセルロースアセテートにピリジン及び4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン等の触媒のもと、無水プロピオン酸を反応させて得る方法、セルローストリアセテートを硫酸で部分加水分解してから、上記の方法で得る方法、セルロースを酢酸またはプロピオン酸及び触媒として硫酸を用いて、無水プロピオン酸で反応して、先ずセルロースプロピオネートを製造し、次いで無水酢酸によりアセチル化を行い得る方法(この場合、硫酸触媒量、反応温度、反応時間を制御して、位置を特定出来るようにする)、無水酢酸及び無水プロピオニル酸または無水酪酸を硫酸触媒の量、反応温度、酢酸マグネシウム等の中和剤の添加量等を変化して得る方法、また、ピリジン中で塩化トリチルを反応させ、次いで4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンを加え、無水酢酸でアセチル化を行い、臭化水素酸の酢酸溶液中で脱トリチルを行い、更に続いて4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン触媒プロピオニル化を行い得る方法などを挙げることが出来るが、本発明の目的を達成することの出来る製造方法なら制限なく行うことが出来る。また、セルロースアセテートブチレートもセルロースアセテートプロピオネートブチレートも同様な方法で製造出来る。
【0038】
本発明者らの検討で、溶解性やドープの停滞安定性に関して、6位の置換度が大きく関係することがわかった。溶解性やドープの停滞安定性はセルロース混合アシレートの凝集力と溶媒−溶質(この場合セルロース混合アシレート)間の相互作用の大きさのバランスで決まると本発明者は考えている。本発明のセルロース混合アシレートにおいて、6位のプロピオニル基及び/またはブチリル基の平均置換度(Y6)、及び6位のアシル基の平均置換度(X6+Y6)についてコントロールすることが特に重要である。本発明のセルロース混合アシレートの性質は、6位はアシル基平均置換度(X6+Y6)ばかりでなく、6位の未置換の水酸基の度合、あるいはアシル化後の加水分解度合にも影響される。6位は、アシル化反応では他の2位または3位よりも早く反応し、また加水分解では、他の位置より早くアシル基が脱離し易く、6位のアシル基は反応中、あるいは加水分解において、特異的な反応をする。また、6位はグルコース単位を形成するピラノーズ環から炭素1個分だけ飛び出しており、その立体的な構造から、置換基の立体障害が起こり水酸基の分子間水素結合が弱まりセルロース混合アシレートの凝集力の低下することにより、また、特に6位にプロピオニル基やブチリル基のようなアセチル基より立体的にかさ高い基が導入されることにより、また適度にその場所が水酸基であったりすることにより、下記のような特異な性質が現れるのではないかと本発明者らは考えている。これに対して、そのような意味で、セルローストリアセテートは、6位に特異にアセチル基が配置されたとしても、凝集力が強すぎ、メチレンクロライドのような良溶媒には溶解するものの、非塩素系溶媒には通常の方法では溶解せず、後述の冷却溶解法とか高圧溶解法のような特殊な溶解法で溶解したドープを停滞しておくとゲル化が起こり易いのではないかと本発明者は考えている。
【0039】
本発明において、アセチル基の他のプロピオニル基及び/またはブチリル基が上記のような特定の位置に上記の割合で入っていることが特徴であり、すなわち、6位におけるアシル基(X6+Y6)の置換度が0.10〜0.95、好ましくは0.10〜0.87で、特に6位におけるプロピオニル基及び/またはブチリル基の平均置換度(Y6)が0.10〜0.34であるセルロース混合アシレートが、ドープの溶解性と剥離性、厚さ方向のレターデーションが薄手フィルムでも大きく、更に、フィルムの耐折度を著しく向上する効果が顕著である。
【0040】
本発明において、他の位置におけるアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基の平均置換度は本発明においては規定してないが、例えば、(Y2+Y3+Y6)/(X2+X3+X6)は0.03〜1.32が好ましく、0.20〜0.40がより好ましい。
【0041】
本発明のセルロース混合アシレートの粘度平均重合度は200以上が好ましい。更に好ましくは400〜800である。
【0042】
本発明のセルロース混合アシレートのドープ調製方法について述べる。
本発明のセルロース混合アシレートドープに用いることの出来る主な有機溶媒は、セルロース混合アシレートに対して良溶媒であり、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、アセト酢酸メチル、フルオロアルコール、メチレンクロライドを挙げることが出来る。上記の有機溶媒は2種以上混合して使用してもよい。本発明において、上記のうち、好ましく用いる有機溶媒としては酢酸メチル、フルオロアルコール及びメチレンクロライドである。しかし、現在セルローストリアセテートの溶解に多く使われるメチレンクロライドは、前述のごとく、本発明のセルロース混合アシレートは問題なく溶解するが、地球環境保護や作業環境の安全等の観点から出来るだけ使用する量を控えるのが好ましい。また、フルオロアルコールはフィルムの乾燥工程で蒸発乾燥し易いものであればよく、このようなフルオロアルコールは沸点が165℃以下のものがよく、好ましくは111℃以下がよく、更に80℃以下が好ましい。フルオロアルコールは炭素原子数が2から10程度、好ましくは2から8程度のものがよい。またフルオロアルコールはフッ素原子含有脂肪族アルコールで、置換基があってもなくともよい。置換基としてはフッ素原子含有或いはなしの脂肪族置換基、芳香族置換基などがよい。このようなフルオロアルコールとしては、例えば(以下括弧内は沸点である)、2−フルオロエタノール(103℃)、2,2,2−トリフルオロエタノール(80℃)、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール(109℃)、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール(55℃)、1,1,1,3,3,3−ヘキサ−2−メチル−2−プロパノール(62℃)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(59℃)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール(80℃)、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール(114℃)、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール(97℃)、パーフルオロ−t−ブタノール(45℃)、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール(142℃)、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1,5−ペンタンジオール(111.5℃)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール(95℃)、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−1−オクタノール(165℃)、1−(ペンタフルオロフェニル)エタノール(82℃)、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジルアルコール(115℃)を挙げることが出来る。これらのフルオロアルコールは二種以上混合して使用してもよい。
【0043】
本発明のセルロース混合アシレートに対する上記良溶媒に貧溶媒あるいはこれに準ずる溶媒を加えてもよく、これらの貧溶媒またはこれに準ずるものとしては、上記溶媒を除いた炭素原子数3〜12のエーテル類、炭素原子数3〜12のケトン類、炭素数4〜12のエステル類、炭素数1〜8のアルコール類、炭素原子数1〜12のニトロ炭化水素類、あるいは炭素原子数5〜8の炭化水素類を用いることが出来る。例えば、エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブタチルエーテル、アニソール、またはフェネトール等、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、またはシクロヘキサノン等、エステル類としては、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、またはエチレングリコールジアセテート等、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、またはシクロヘキサノール等、ニトロ炭化水素類としては、ニトロメタン又はニトロエタン等、炭化水素類としては、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン等を挙げることが出来る。これらの有機溶媒のうち、炭素原子数1〜6の低級アルコールを含有させることが好ましく、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、s−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノールがより好ましい。また、シクロヘキサンもこれらのアルコールと共に好ましく用いることが出来る。これらの非溶媒またはそれに準ずる有機溶媒の含有量としては、全有機溶媒量に対して2〜30質量%が好ましく、5〜25質量%がより好ましい。
【0044】
これらの貧溶媒を前記主溶媒と共に用いたセルロース混合アシレートドープ(以降、単にドープと呼ぶことがある)を支持体に流延後に主溶媒の蒸発が進むことにより、また流延時の支持体の温度を下げることによってドープはゲル化し、製膜速度を増大させることが出来るようになる他、出来上がりのフィルムの平面性をも良化ならしめる効果もあり、可能な限り主溶媒と貧溶媒あるいはこれに準ずる溶媒を混合して用いることが好ましい。
【0045】
本発明のセルロース混合アシレートドープの調製方法としては、制限なく用いることが出来るが、現在セルローストリアセテート溶液を調製している圧力1013〜3040Pa下で使用する主溶媒の沸点付近で溶解する方法、溶媒とセルロース混合アシレートの混合物の冷却状態でドープを調製する冷却溶解方法、9.8×105〜4.9×108Paの圧力下で溶解する高圧溶解方法を用いることが出来る。
【0046】
通常の溶解方法は、セルロース混合アシレートを良溶媒と貧溶媒の混合溶媒中に混合し(良溶媒または貧溶媒をセルロース混合アシレートを混合した後に別々に混合してもよい)、1013〜3040Paの耐圧密閉容器中で、主要溶媒の沸点付近で気圧に応じて変化させ、攪拌しながら溶解する方法である。この場合主溶媒としては、メチレンクロライド、酢酸メチル及びフルオロアルコールから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を使用するのが好ましい。
【0047】
また、本発明においては冷却溶解方法によりドープを調製することが出来る。冷却溶解方法は、J.M.G.Cowie等、Die Makromolekulare Chemie、143巻、105−114頁(1971年)によるセルロースアセテート(酢化度60.1%〜61.3%)をアセトン中で−80〜−70℃に冷却した後、加温することによって0.5〜5質量%溶解した希薄溶液を得る方法、また、上出健二他の論文”三酢酸セルロースのアセトン溶液からの乾式紡糸”(繊維学会誌、34巻、P57〜61 1981年)による10〜25質量%のセルローストリアセテート溶液を得る方法、またそれらを応用した特開平9−95544号、同9−95557号、同9−95538号公報等、また特願平9−218567号、同10−110789号等に記載されている方法を使用することが出来る。本発明における冷却溶解方法の1例について説明する。アシル基の全平均置換度((Y2+Y3+Y6)/(X2+X3+X6+Y2+Y3+Y6))の80%以上をアセチル基が占める場合、冷却溶解方法により、溶解させるのがよい。最初に、室温で有機溶媒中、例えば酢酸メチル中、あるいは酢酸メチルと低級アルコールの混合溶媒中に、セルロース混合アシレートを攪拌しながら徐々に添加する。この段階では、セルロース混合アシレートはほぼ溶解するが、アセチル化度によっては膨潤状態のままになっていたり、多少ヘーズの高い混合液もあるが、濾過することによって、澄明なドープとすることが出来る。冷却溶解方法において、有機溶媒を前もって冷却しておいたものにセルロース混合アシレートを添加混合しても、また混合してから冷却してもよく、混合物が冷却状態にあればよい。冷却温度としては、使用溶媒の凝固点以上の温度であればよく、−100〜−10℃の温度範囲を用いる。冷却後次に、この混合物を0〜50℃の温度に加温すると、透明度の非常に高い、均一な溶液が得られる。なお、冷却溶解の効果を高めるために、冷却、加温の操作を繰り返してもよい。冷却溶解方法に使用し得る有機溶媒としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、フルオロアルコール等を主溶媒として挙げることが出来、酢酸メチル、フルオロアルコールが好ましい。フルオロアルコールは前出のものと同様である。主溶媒は全有機溶媒の50質量%以上あるものを指す。その他の混合してもよい有機溶媒としては、前出のように製膜速度を向上させるために、メタノール、エタノール、ブタノール、シクロヘキサン等を5〜30質量%添加してもよく、好ましくは10〜25質量%である。
【0048】
また、本発明において高圧溶解方法によりドープを調製することも出来る。高圧溶解方法については、特願平9−178284号、同10−131999号、同10−132000号に記載されているが、本発明において、これらを好ましく使用することが出来る。セルロース混合アシレートの高圧溶解方法は、通常室温溶媒と混合する方法でも溶解出来るが、導入されるアシル置換基のうちアセチル基が80%以上をしめる場合は高圧法により溶解すると、より物性の優れたフィルムを得ることが出来る。この方法は、固体状態あるいは膨潤状態のセルロース混合アシレートへの有機溶媒の浸透を加圧状態で容易にし、セルロース混合アシレートの分子がほぐれ易くなり溶媒和し易くなると考えられている。
【0049】
本発明における高圧溶解方法は、まず加圧容器中の主溶媒(例えば、酢酸メチル)を主成分とする有機溶媒にセルロース混合アシレートを加え、9.8×105〜4.9×108Paの加圧を行い、常圧に戻すだけでドープを調製することが出来る。高圧溶解容器としては、ドープを取り出すことが容易で、かつ9.8×105〜4.9×108Paの圧力が加えられる装置であればよい。加圧圧力は9.8×105〜4.9×108Paの範囲であるが、好ましくは4.9×106〜2.9×108Paで、更に好ましくは9.8×106〜2.0×108Paである。加圧方法及び加圧装置としては加圧出来る装置で行う方法であれば特に制限はないが、加圧方法及び加圧装置は他業界で使用されている方法及び装置が使用出来、例えばセラミックの成型などに用いられる静水圧加圧法(Cold Isosatatic Press、略してCIP、或いはラバープレス法もこれに含まれる)が安全に高圧を加えることが可能な方法及び設備として好ましい。この静水圧による加圧方法及び装置はセルロース混合アシレートと有機溶媒の混合物に対して均一に全方向から静水圧を加えることが出来、溶解状態の優れたセルロース混合アシレートドープが得られるので好ましいものである。静水圧加圧法において混合物を封入する容器の材質にはゴムや圧力で容易に変形し得る金属、例えばアルミニウム容器を用いてもよい。またゴムのような変形し易い密閉容器中に混合物を封じ込み、静水圧を加えながら密閉容器中を移動し移送する方法により断続的に調製する方法もとることが出来る。また、上下にスライド可能な蓋を有する容器の中に混合物を入れ、蓋を押し込むことにより混合物を圧縮する手段も取ることが出来る。また加圧型押出機を用いて、混合物を混練して押し出してもよい。本発明のセルロース混合アシレートドープの調製中に加圧を断続的に行ってもよく加圧と常圧とを繰り返すことによって溶解速度を増すことも出来る。加圧装置には撹拌装置が装備されていても、なくてもよい。この高圧溶解方法は、圧力が高いほど溶解時間が短縮出来るが、あまり高過ぎると設備が大型になるため、溶解時間短縮効果が薄れるから、9.8×107〜2.9×108Paであれば充分な効果が得られる。本発明における高圧溶解方法に用いる有機溶媒としては、上記冷却溶解方法と同様なものが好ましい。
【0050】
本発明において、ドープは濾過器により濾過され、静置して脱泡後、直ぐ溶液流延製膜装置に送液されるか、また暫く貯蔵した後に送液される。濾過器は、濾紙を挟んだ枠を何段にも重ねたフィルタープレスやステンレス等金属綿を焼結したリーフディスクフィルターが好ましく用いられる。これらの濾過器を2種以上組み合わせて使用してもよい。最近では、フィルム品質への要求が、写真画質向上や液晶表示の高精細化に伴い更に厳しくなる方向にあり、小さな不溶解物による欠点も許されない状況になっている。この様な欠点を無くすためにドープを濾過するフィルターの目を細かくしたり、フィルターを何重にも重ねたりするが、溶解性の悪いドープはすぐに濾圧が上昇してしまい生産性を非常に落とすこととなる。また、濾過後の停滞中にドープが変化しては製膜性ばかりでなく、製膜後のフィルムへの品質にも影響も及ぼす。濾過済みのドープが停滞中にゲル化などを起こすと、流延装置にドープを送液できなくなるので、再度濾過が必要となる。しかし、ゲルは濾過しにくく、濾材を通り抜けフィルムの品質を低下させるため、貯蔵中にゲル化が起こらないドープを必要とする。
【0051】
本発明のセルロース混合アシレートによるドープは、貯蔵中にゲル化を起こすことがなく、濾過圧の上昇もなく、濾材の交換頻度が低く、剥離性もスムースで、剥離による平面性の劣化もなく、優れた品質のフィルムを得ることが出来る。
【0052】
本発明のセルロース混合アシレートフィルムを製造する設備としては、前述の溶液流延製膜装置のような、従来のセルローストリアセテートフィルムの製造に用いられているものが利用出来る。その設備と製造方法の概略を述べると、濾過後のドープは、例えば回転数によって高精度に定量送液出来る加圧型精密ギャポンプから加圧ダイに送り込まれた、加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに回転している流延用支持体の上に均一に流延され、流延用支持体がほぼ一周したところで、生乾きのセルロース混合アシレートフィルムとして流延用支持体から、回転しているロール群に通されながら乾燥され、乾燥されたセルロース混合アシレートフィルムは搬送後巻き取り機で所定の長さに巻き取られる。
【0053】
本発明のセルロース混合アシレートフィルムを製造するのに使用されるエンドレスの流延用支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。
【0054】
本発明に有用な流延方法としては、調製されたドープをギアポンプ等で流量を調製しながらダイから流延用支持体上に均一に押し出す方法、一旦流延用支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、ダイによる方法が好ましい。ダイは押し出しダイとも呼ばれており、コートハンガータイプやTダイタイプ等があるがいずれも好ましく用いることが出来る。
【0055】
本発明のセルロース混合アシレートフィルムの製造に用いられるダイの流延用支持体上への配置は1基あるいは2基以上の設置でもよい。好ましくは1基または2基である。2基以上設置する場合には流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギャポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液する。
【0056】
本発明のセルロース混合アシレートフィルムの製造に係わる流延用支持体上における溶液の乾燥は、一般的には流延用支持体であるドラムあるいはベルトの表面側、からウェブ(ドープを流延し流延用支持体に密着してから剥離後乾燥までの間のフィルムをウェブということもある)の表面に熱風を当てる方法、ドラムあるいはベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムの溶液流延面の反対側の裏面から接触させて、伝熱によりドラムあるいはベルトを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。セルロース混合アシレートフィルムを製造する速度はベルトの長さ、乾燥方法、溶液溶媒組成等によっても変化するが、ウェブをベルトから剥離する時点での残留溶媒の量によってほとんど決まってしまう。つまり、溶液膜の厚み方向でのベルト表面付近での溶媒濃度が高過ぎる場合には、剥離した時、ベルトに溶液が残ってしまい、次の流延に支障を来すため、剥離残りは絶対あってはならないし、さらに剥離する力に耐えるだけのセルロース混合アシレートフィルム強度が必要であるからである。剥離時点での残留溶媒量は、ベルトやドラム上での乾燥方法によっても異なり、溶液表面から風を当てて乾燥する方法よりは、ベルトあるいはドラム裏面から伝熱する方法のほうが効果的に残留溶媒量を低減することが出来るのである。剥離時のウェブの残留溶媒量は20〜150質量%、好ましくは50〜100質量%である。残留溶媒量は下記の式で表せる。
【0057】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0058】
流延される前の流延用支持体の表面温度及びドープの温度は、20℃以上主溶媒の沸点以下が好ましい。ドープ温度、流延用支持体温度は、高いほど溶媒の乾燥速度が早く出来るので好ましいが、あまり高すぎると発泡したり平面性が劣化する場合がある。更に剥離する際の流延用支持体温度を10℃〜主溶媒の沸点とすることでウェブと流延用支持体との密着力を低減出来好ましい。
【0059】
通常、ドープを流延して流延用支持体からウェブとして剥離する時、溶解性のよいドープは流延後ウェブとして剥離するのが難しい場合が多いが、本発明のセルロース混合アシレートを使用したドープは溶解性が良好でしかも剥離性に優れている。
【0060】
流延用支持体の温度を溶液流延部とウェブ剥離部で異なる温度条件に設定する方法は、特に限定はないが、例えば流延用支持体がエンドレスベルトであれば、流延部と剥離部で温度制御ユニットを別々に設置することで容易に実施出来る。
【0061】
本発明に係わるセルロース混合アシレートフィルムの乾燥方法について述べる。流延用支持体が1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロール群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップで把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送しつつ、搬送中のウェブ両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウェーブなどの加熱手段などを用いる方法によって乾燥が行われる。乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。
【0062】
流延用支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブは巾方向に収縮しようとする。高温度で乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮は可能な限り抑制しながら乾燥することが、出来上がったセルロース混合アシレートフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程あるいは一部の工程を巾方向にクリップでウェブの巾両端を巾保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)も好ましく用いることが出来る。
【0063】
本発明において、セルロース混合アシレートフィルム(ウェブ)の乾燥工程における乾燥温度は主溶媒の沸点以上から250℃、特に180℃までが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。
【0064】
以上のようにして得られたセルロース混合アシレートフィルムは、最終仕上がりセルロース混合アシレートフィルムの残留溶媒量で2.0質量%以下、さらに0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なセルロース混合アシレートフィルムを得る上で好ましい。
【0065】
これら流延から乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。
【0066】
本発明において、セルロース混合アシレートフィルムの巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることが出来る。
【0067】
本発明の出来上がり(乾燥後)のセルロース混合アシレートフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、30〜200μmの範囲であり、ハロゲン化銀写真感光材料用フィルムでは、50〜150μmが好ましく、80〜130μmが更に好ましい。また、液晶画像表示装置用フィルムとしては、20〜120μmが好ましく、30〜100μmが更に好ましい。セルロース混合アシレートフィルムの厚さの調製は、所望の厚さになるように、溶液中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、流延用流延用支持体の速度等を調節すればよい。
【0068】
本発明に係わるセルロース混合アシレートドープ中に、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、有機または無機微粒子等も添加してもよい。
【0069】
ハロゲン化銀写真感光材料用には機械的性質の向上あるいは柔軟性を付与するために可塑剤が、またその他ライトパイピング防止用の着色剤には、染料や紫外線防止剤等が添加される。また液晶画面表示装置用には可塑剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑り剤または擦り傷防止剤としての微粒子などを添加することが好ましい。
【0070】
本発明に係わるセルロース混合アシレートドープの可塑剤としては、リン酸エステル、カルボン酸エステル、グリコール酸エステルなどが好ましく用いられる。リン酸エステルの例としては、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDPP)、オクチルジフェニルホスフェート(ODPP)、ジフェニルビフェニルホスフェート(DPBPP)、トリオクチルホスフェート(TOP)、トリブチルホスフェート(TBP)、リン酸2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム等、カルボン酸エステルの例としては、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)、クエン酸アセチルトリエチル(TEAC)、クエン酸アセチルトリブチル(TBAC)、オレイン酸ブチル(BO)、リシノール酸メチルアセチル(AML)、セバシン酸ジブチル(DBS)等、グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン(TA)、トリブチリン(TB)、ブチルフタリルブチルグリコレート(BPBG)、エチルフタリルエチルグリコレート(EPEG)、メチルフタリルエチルグリコレート(MPEG)等、ソルビトール類の例としては、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール等を挙げることが出来る。中でもTPP、TCP、CDPP、TBP、DMP、DEP、DBP、DOP、DEHP、TA、EPEG、BPBG、DPBPPが好ましい。特にTPP、DEP、EPEG、BPBG、BDPが好ましい。これらの可塑剤は2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量はセルロース混合アシレートに対して2〜30質量%、特に8〜16質量%が好ましい。これらの化合物は、ドープの調製の際に、セルロース混合アシレートや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0071】
着色剤は、通常のハロゲン化銀写真感光材料用支持体に見られる様なグレーに着色出来る染料が好ましく、含有量は、セルロース混合アシレートに対する質量割合で10〜1000ppmが好ましく、50〜500ppmが更に好ましい。この様に染料を含有させることにより、ハロゲン化銀写真感光材料のフィルム支持体の切り口から光が入りライトパイピング現象を起こし、ハロゲン化銀写真感光材料の中程まで光が進入するカブリを無くすことが出来る。好ましい染料としては、特願平9−355097号に記載のライトパイピング防止用着色剤を挙げることが出来る。これらの化合物は、ドープの調製の際に、セルロース混合アシレートや溶媒と共に添加してもよいし、ドープ調製中や調製後に添加してもよい。
【0072】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることが出来る。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0073】
本発明のセルロース混合アシレートフィルムは、擦り傷防止剤または滑り剤として、フィルムの動摩擦係数を改善し、巻き取り工程の負荷低減、耐傷性のアップに効果のある微粒子を添加してもよい。微粒子は平均粒径1.0μm以下の微粒子で、使用有機溶媒に溶解あるいは膨潤をしないものが選ばれ、無機微粒子が好ましい。例えば、微粒子二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等が上げられる。無機化合物の微粒子は表面処理により分散安定性等の機能を付与してもよい。また、上記の無機化合物微粒子の他に架橋有機高分子系微粒子を用いてもよい。これらは、目的に応じて混合して用いてもよい。架橋有機高分子としては、例えば、架橋ポリメチルメタクリレート、架橋ポリエチルメタクリレート、架橋ポリブチルメタクリレート、架橋ポリスチレン、架橋ポリアミドイミド、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン−メラミン−ホルムアルデヒド縮合物等を用いることができる。微粒子の平均粒径は1.0μm以下が好ましく、平均粒径0.1〜1.0μmがより好ましい。微粒子はセルロース混合アシレートに対して0.001〜0.5質量%添加することが好ましく、0.01〜0.3質量%がより好ましい。微粒子の添加時期は、ドープ調製のいずれの段階で行ってもよいが、特に高圧溶解方法や冷却溶解方法によるドープの場合、ドープを製造した後に添加して、充分に攪拌してから使用するか、ドープを高濃度で調製し、希釈溶媒に微粒子を分散して、添加して、ドープを希釈攪拌してもよい。
【0074】
紫外線防止剤を有するセルロース混合アシレートフィルムは、ハロゲン化銀写真感光材料に対して有害な紫外線をカットしたり、液晶画像表示装置においては、装置が長時間紫外線に曝されても劣化しない経時安定性を有する。紫外線防止剤としては、ベンゾフェノン化合物として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシベンゾフェノン等、ベンゾトリアゾール系化合物として、2−(2′−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−ジ−t−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等、サリチル酸系化合物として、サリチル酸フェニル、サリチル酸メチル等を挙げることが出来る。紫外線防止剤の添加量は、セルロース混合アシレートフィルムに対して、0.5〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0075】
また、本発明のセルロース混合アシレートドープには、必要に応じて更に、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等を添加してもよい。
【0076】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0077】
〔評価方法・測定方法〕
〈粘度平均重合度(DP)〉
粘度平均重合度はオストワルド粘度計で測定することが出来、測定されたセルロース混合アシレートの固有粘度[h]から下記の方法によって求めることが出来る。
【0078】
絶乾したセルロース混合アシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロライド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶媒100mlに溶解する。これをオストワルド粘度計にて、25℃で落下数秒を測定し、重合度を以下の式によって求める。
【0079】
hrel=T/Ts
[h]=(ln hrel)/C
DP=[h]/Km
ここで、T:測定試料の落下数秒
Ts:溶媒単独の落下数秒
C:濃度(g/l)
Km:6×10-4
である。
【0080】
〈平均置換度の測定〉
前記Y.Tezukaらの13C−NMR法に記載された方法により、各置換位置におけるアセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基平均置換度を13C−NMRスペクトルのカルボニル炭素のシグナルの面積から計算して求める。
【0081】
〈溶解性の評価〉
調製されたドープを濾過後、1lの蓋付きの透明な瓶に800ml入れ、蓋をして、25℃で2週間経時させて、ドープの透明性、均一性、ゲルの発生を瓶を逆さにしたりして観察し、
A:全く、透明性、均一性及びゲル化の兆候もなかった
B:透明性はよいが、ほんの少し不均一部分がある
C:透明性はよいが、若干不均一部分があり、瓶を逆さにするとつぶつぶの感じのゲルがある。
【0082】
D:透明性はあるが、瓶を逆さにすると全体的にぶつぶつがあり、ころっとした感じで塊になって下りてくる
E:透明性がややなく、白濁した感じで、全体がゲルのつぶつぶになっている
F:やや白色になっており、全体が動けないほどゲル化している
のごとく評価する。
【0083】
〈剥離性の評価〉
ドープを流延用支持体(ステンレスベルト)に流延し、溶媒を蒸発させながら流延用支持体が1回転する手前の剥離位置(剥離ロールのある位置)でウェブを剥離し、剥離ロールを通して搬送する際、剥離ロールと流延支持体からウェブが離れる位置との関係(流延用支持体と剥離ロール中心軸の水平線との交点の位置関係)で、
◎:流延用支持体と剥離ロールの中心軸の水平線との交点より下方で、流延用支持体からウェブが剥離点の変動もなく一定に剥離
○:流延用支持体と剥離ロールの中心軸の水平線との交点付近で、流延用支持体からウェブが剥離点の変動もほとんどなく剥離
△:流延用支持体と剥離ロールの中心軸の水平線との交点付近を中心に、流延用支持体からウェブが息をするように剥離点が上限しながら剥離
×:流延用支持体と剥離ロールの中心軸の水平線との交点より上方で、流延用支持体からウェブが剥離点を大きく変動しながら剥離
のごとく評価する。
【0084】
〈レターデーションの測定〉
自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmにおいて、3次元屈折率測定を行い、縦、横、厚さの各方向の屈折率nx、ny、nzを求める。下記式
Rt値(nm)={(nx+ny)/2−nz}×d
に従って、レターデーション値(Rt値)を算出する。ここで、nxはフィルムの製膜方向に平行な方向での屈折率、nyは製膜方向に対して幅方向に水平な方向での屈折率、nzはフィルムの厚さ方向での屈折率を表す。
【0085】
〈視野角の測定と評価〉
下記のごとく作製した液晶表示装置試料に、(株)エーエムティ製VG365Nビデオパターンジェネレーターにて、白色表示、黒色表示およびグレー8段階表示を行い、白色/黒色表示時のコントラスト比を大塚電子(株)製LCD−7000にて、上下左右の角度60°の範囲で測定した。コントラスト比≧10を示す角度を視野角とする。また、上記測定値とは別に視野角を目視で観察し、
◎:視野60°の角度の範囲でコントラストが明瞭
○:視野60°の角度の範囲でコントラストがほぼ明瞭
△:視野60°の角度の範囲でコントラストがかなり不明瞭
×:視野60°の角度の範囲でコントラストが不明瞭
のごとく評価した。
【0086】
〈耐折度の測定〉
ASTMD2176−69に準じて、フィルムの膜厚を100μmに統一し、テンションは19.6Nで行い、フィルムが断裂するまでの回数を数える。断裂するまでの回数が大きい程優れている。
【0087】
実施例1
リンターパルプからのセルロース100質量部とセルロースに対して100質量部の氷酢酸を室温にて均一に撹拌混合した混合物を、無水酢酸245質量部、酢酸365質量部及び触媒の硫酸15質量部の反応釜中の冷却した混合液中に投入し、47℃60分間で酢化反応を行った。酢化反応終了時に45.5質量部の加水分解及び中和のための酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を加え、過剰に存在する無水酢酸の加水分解と硫酸の中和を行った。その後、反応液を60℃まで昇温しながら約12.8質量部の熟成のための酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を添加した。その後、水を添加した後、70℃で40分間熟成反応を行った。熟成反応終了後、約20質量部の反応終了後の酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を加え、硫酸を完全に中和して反応を停止した。反応終了後、大過剰の水で沈殿、洗浄、乾燥を行った。得られたセルロースアセテートの残留水酸基の部分をプロピオネート化するために、セルロースアセテート1000質量部、ピリジン1000質量部、無水プロピオン酸1500質量部、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン50質量部を混合し、攪拌しながら100℃、1時間加熱し、反応終了後、混合液を大過剰のメタノールに注ぎ沈殿させ、更にメタノールで洗浄して、得られたフレークを真空乾燥してセルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネート19.2質量部を酢酸メチル/エタノール混合溶媒(混合比80/20質量%)76.8質量部およびエチルフタリルエチルグリコレート1.2質量部の混合溶液に撹拌しながら投入した。このまま撹拌を1時間行ったところ透明で均一なセルロースアセテートプロピオネート溶液(ドープ)を得た。得られたドープを35℃とした鏡面ベルト上に乾燥後の膜厚が100μmになるように流延し、乾燥し、残留溶媒量60質量%で剥離し、幅保持を行い110℃で乾燥し、巻き取りセルロースアセテートプロピオネートフィルムを得た。巻き取った直前のフィルムの残留溶媒量は0.15質量%であった。
【0088】
実施例2
触媒の硫酸を11質量部、加水分解及び中和のための酢酸マグネシウム水溶液を35.5質量部、熟成のための酢酸マグネシウム水溶液を9.8質量部、終了後の酢酸マグネシウム水溶液を10質量部、無水プロピオン酸を1500質量部とした以外は実施例1と同様に行った。
【0089】
実施例3
触媒の硫酸を17質量部、加水分解及び中和のための酢酸マグネシウム水溶液を46.5質量部、熟成のための酢酸マグネシウム水溶液を10.8質量部、終了後の酢酸マグネシウム水溶液を13.5質量部、無水プロピオン酸を1800質量部とした以外は実施例1と同様に行った。
【0090】
実施例4
触媒の硫酸を11質量部、終了後の酢酸マグネシウム水溶液を10質量部、無水プロピオン酸を1500質量部とした以外は実施例1と同様に行い、その置換度の結果を実施例1と同様に行った。
【0091】
実施例5
触媒の硫酸を10質量部、反応温度を45℃とし、加水分解及び中和のための酢酸マグネシウム水溶液を30.5質量部、終了後の酢酸マグネシウム水溶液を10質量部、無水プロピオン酸を1800質量部とした以外は実施例1と同様の合成方法でセルロースアセテートプロピオネートを得た。平均置換度は表1に示した。得られたセルロースアセテートプロピオネート19.2質量部をメチレンクロライド/エタノール(85/15)76.8質量部およびエチルフタリルエチルグリコレート1.2質量部の混合溶液に撹拌しながら投入した。このまま撹拌を2時間行ったところ透明で均一なセルロースアセテートプロピオネートドープを得た。このドープを用い実施例1と同様に溶液流延製膜を行い、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを得た。
【0092】
実施例6
リンターパルプからのセルロース100質量部とセルロースに対して100質量部の氷酢酸を室温にて均一に撹拌混合した混合物を、無水酢酸300質量部、無水酪酸200質量部、酢酸75質量部、酪酸50質量部及び触媒の硫酸10質量部の反応釜中の冷却した混合液中に投入し、47℃で60分間で酢化反応を行った。続いて、反応液を60℃に上昇しながら200質量部の50質量部の酢酸水溶液を加えて、70℃で40分間熟成反応を行った。反応終了後、30質量%の酢酸マグネシウム水溶液を230質量部を加え硫酸を完全に中和して反応を停止した。その後、大過剰の水で沈殿させ洗浄し、乾燥を行い、セルロースアセテートブチレートを得た。平均置換度は表1に示した。得られたセルロースアセテートブチレート19.2質量部を酢酸メチル/エタノール混合溶媒(混合比80/20質量%)76.8質量部およびエチルフタリルエチルグリコレート1.2質量部の混合溶液に撹拌しながら投入した。このまま撹拌を2時間行ったところ透明で均一なセルロースアセテートブチレートドープを得た。このドープを用い実施例1と同様に溶液流延製膜を行い、セルロースアセテートブチレートフィルムを得た。
【0093】
比較例1
リンターパルプからのセルロース100質量部とセルロースに対して100質量部の氷酢酸を室温にて均一に撹拌混合した混合物を、無水酢酸260質量部、酢酸365質量部及び触媒の硫酸10質量部の反応釜中の冷却した混合液中に投入し、45℃で60分間で酢化反応を行った。酢化反応終了時に27.7質量部の加水分解及び中和のための酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を加え、過剰に存在する無水酢酸の加水分解と硫酸の中和を行った。その後、反応液を60℃まで昇温しながら9.5質量部の熟成のための酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を添加した。その後、濃度が約85質量%となるように水を添加した後、70℃で40分間熟成反応を行った。熟成反応終了後、約10質量部の反応終了後の酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を加え、硫酸を完全に中和して反応を停止した。反応終了後、大過剰の水で沈殿、洗浄、乾燥を行い、セルローストリアセテートを得た。プロピオニル化は行わなかった。平均置換度は表1に示した。得られたセルロースアセテート19.2質量部を酢酸メチル/エタノール混合溶媒(混合比80/20質量%)76.8質量部およびエチルフタリルエチルグリコレート1.2質量部の混合溶液に撹拌しながら投入した。このまま撹拌を1時間行ったところやや白濁したセルロースアセテート溶液が出来た。更に1時間撹拌を続けたところ透明で均一なセルロースアセテート溶液を得た。得られた溶液を肉厚100μmのアルミニウム製容器に満たし、空気が入らない様にアルミニウム箔で蓋をして、かしめる様に密封した。この密閉された容器をゴム製の袋につめ、軽く脱気後ゴム袋を封入した。このゴム袋をセラミック成型型様ゴム製静水圧加圧装置(神戸製鋼製)にセットし20℃に保ちながら9.8×107Paの圧力で2時間加圧した。その後、ゆっくりと大気圧に戻し30分静置した。この加圧〜解放のサイクルを3回繰り返してドープを得た。このドープを用い実施例1と同様に溶液流延製膜を行い、膜厚100μmのセルロースアセテートフィルムを得た。
【0094】
比較例2
リンターパルプからのセルロース100質量部とセルロースに対して100質量部の氷酢酸を室温にて均一に撹拌混合した混合物を、無水酢酸280質量部、酢酸365質量部及び触媒の硫酸10質量部の反応釜中の冷却した混合液中に投入し、47℃で60分間で酢化反応を行った。酢化反応終了時に27.7質量部の加水分解及び中和のための酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を加え、過剰に存在する無水酢酸の加水分解と硫酸の中和を行った。その後、反応液を60℃まで昇温しながら約9.5質量部の熟成のための酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を添加した。その後、水を添加した後、70℃で40分間熟成反応を行った。熟成反応終了後、約10質量部の反応終了後の酢酸マグネシウム水溶液(30質量%)を加え、硫酸を完全に中和して反応を停止した。反応終了後、大過剰の水で沈殿、洗浄、乾燥を行い、セルローストリアセテートを得た。プロピオニル化は行わなかった。酢酸メチル/エタノール混合溶媒(混合比80/20質量%)76.8質量部およびエチルフタリルエチルグリコレート1.2質量部の混合溶液を−70℃に冷却し、そこへ良く撹拌しながら19.2質量部の得られたセルロースアセテートを添加した。約10分後、セルロースアセテートが膨潤してきたので撹拌を止め、−70℃に保ったまま1時間放置した。その後冷却した混合物を50℃に加温して30分静置した。混合物の冷却−加温のサイクルを2回繰り返し、透明で均一なドープを得た。このドープを用い、溶液流延製膜を実施例1と同様に行い、膜厚100μmのセルロースアセテートフィルムを得た。
【0095】
以上実施例1〜6の試料につき、セルロースアセテートプロピオネートとセルロースブチレートの2位、3位、6位のアセチル基及びプロピオニル基それぞれの平均置換度を13C−NMRの測定によって求め、合計平均置換度(X2+X3+X6+Y2+Y3+Y6)、6位のアセチル基及びプロピオニル基の平均置換度(X6+Y6)、6位のプロピオニル基平均置換度を表1に示す。粘度平均重合度は全て400であった。
【0096】
また、比較例1及び2の試料につき、セルローストリアセテートの2位、3位、6位のアセチル基の置換度を13C−NMRの測定によって求め、合計平均置換度(X2+X3+X6)、6位のアセチル基の置換度(X6+Y6、但しY6=0)を表1に示す。
【0097】
〈液晶画像表示装置用試料の作製〉
上記実施例1〜6及び比較例1〜2のフィルムを40℃で2.5mol/l水酸化ナトリウム水溶液で60秒間鹸化処理を行い、3分間水洗して表面鹸化を行い、鹸化フィルムを得た。次に厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光膜を作製した。この偏光膜の両面に上記鹸化処理フィルムを、完全鹸化度のポリビニルアルコール5質量%の水溶液を粘着剤として各々貼り合わせ偏光板を作製した。次にこれをVA型液晶セルの両面に設置し、液晶画像表示装置試料を作製した。
【0098】
上記実施例1〜6及び比較例1〜2のセルロース混合アシレートについて溶解性を調べ、それらのドープを流延用支持体に流延してから剥離点で剥離して剥離性を調べ、出来たフィルムの耐折性を測定し、またレターデーションを評価し、更に液晶画像表示装置試料により視野角(上下左右)の測定と評価を行った結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
(結果)
セルロースのグルコース単位の6位のアセチル基だけの置換のセルローストリアセテートに対してアセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基を本発明の範囲で置換したセルロース混合アシレートは、溶解性、剥離性、レターデーション、視野角、耐折度が優れていることがわかった。また塩素系有機溶媒を使用したドープの調製及びフィルムの作製が可能であることがわかった。
【0101】
【発明の効果】
セルロース混合アシレートのプロピオニル基及び/またはブチリル基のグルコース単位の6位の置換位置及びその置換度により、溶解性がよくドープが安定であり、レターデーション、視野角、耐折性が極めて良いものが得られ、優れた液晶画像表示装置用フィルムを提供出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 溶液流延製膜装置の概略見取り図である。
【符号の説明】
1 ウェブ
2 ダイ
3 流延用支持体
4 剥離ロール
5 乾燥装置
6 ロール群
7 乾燥風
Claims (4)
- アセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基を置換基として有するセルロース混合アシレートにおいて、Y6に少なくともプロピオニル基及び/またはブチリル基を有し、下記式を満足する平均置換度を有するセルロース混合アシレートを用いるセルロース混合アシレートフィルムであり、VA型液晶画像表示装置に使用することを特徴とする偏光板保護フィルム。
3.00≧(X2+X3+X6+Y2+Y3+Y6)≧2.45
0.95≧(X6+Y6)≧0.10
(ここで、X2は2位の、X3は3位の、またX6は6位のそれぞれの水酸基を置換したアセチル基の平均置換度、Y2は2位の、Y3は3位の、またY6は6位のそれぞれの水酸基を置換したプロピオニル基及び/またはブチリル基の平均置換度であり、(X6+Y6)は6位の水酸基を置換したアシル基(アセチル基及びプロピオニル基及び/またはブチリル基)の平均置換度である。) - (X6+Y6)が下記式を満足する平均置換度を有することを特徴とする請求項1に記載の偏光板保護フィルム。
0.87≧(X6+Y6)≧0.10 - 下記式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の偏光板保護フィルム。
0.34≧Y6≧0.10 - 前記セルロース混合アシレートをメチレンクロライド、酢酸メチル及びフルオロアルコールから選ばれる少なくとも1つを主溶媒とし、2〜30質量%の炭素原子数4以下のアルコールを含有して溶解するセルロース混合アシレートドープを調製し、前記ドープを用いて、溶液流延製膜方法により製膜することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光板保護フィルム、の製造方法。
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