JP4660974B2 - 微粒子分散液、ドープの調製方法、セルロースエステルフィルム、偏光板用保護フィルム、偏光板及び画像表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学用途に利用されるセルロースエステルフィルムの作製に使用する微粒子分散液及びドープの調製方法に関するものであり、特に液晶表示装置等に用いられる位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム、また、有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等に適したセルロースエステルフィルム、偏光板用保護フィルム、偏光板及び画像表示装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ノートパソコン、液晶モニターの大画面化、高精細化、薄型軽量化の開発が進んでいる。それに伴って、液晶用偏光板用の保護フィルムもますます高性能化、薄膜化の要求が強くなってきている。偏光板用保護フィルムには、一般的に透明性、屈折率などの理由から、セルロースエステルフィルムが広く使用されている。しかしながら、セルロースエステルフィルムを単純に薄膜にすると、いろいろ問題が発生する。
【0003】
従来偏光板用保護フィルムに使用されるセルロースエステルフィルムには、フィルムのブロッキング防止のためにマット剤が添加されている。セルロースエステルフィルムを薄膜のものにすると、1本の元巻ロールに巻かれるフィルムの長さ(以下巻数と記載)が長くなり、且つフィルムの剛性が低下するため、ブロッキングや変形が発生し易くなる。そのために、マット剤の添加量を増やす必要がある。しかしながら、マット剤の添加量を単純に増加させると、透明性が低下したり(ヘイズが大きくなる)、フィルム中の異物が増加する。フィルム中に異物が存在することによって、ノートパソコンや液晶モニターの大画面化、高精細化に伴って画面に問題が生じるばかりでなく、それを取り除くことによって、大面積の偏光板の製造中の歩留まりの低下が著しく、セルロースエステルフィルム中の異物を減らす要求も更に厳しくなって来ている。また、ドープ中のマット剤が凝集して濾過器に目詰まりを起こし、濾過器の交換を行うことによって生産性を低下させたり、濾過器でマット剤が取られることによって、セルロースエステルフィルムのマット剤が不足し、ブロッキングやすり傷が増加したり不都合が増大する。特開平7−11055号公報には、シリカ系のマット剤の表面にメチル基を有するものを使用することにより、目詰まりが軽減するとしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような方法によっても、目詰まりが起こり易く、改善には至っていない。また、マット剤の分散液を、別に調製されたセルロースエステル溶液に流延の直ぐ手前でインライン混合することによって時間的な凝集を防ぐ方法や、セルロースエステル溶液と別に調製するマット剤の分散液の調製時にドープに使用するのと同じセルロースエステルを分散助剤として使用する方法なども考えられたが何れも解決には至らなかった。特にドープに使用するセルロースエステルを用いてマット剤の分散液を調製した結果、調製の方法によっては、むしろ濾過器の目詰まりが激しくなることもしばしばあった。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その第一の目的は、マット剤の分散液でのマット剤の凝集がなく、濾過器の目詰まりもないマット剤分散液及びドープの調製方法を提供することにあり、第二の目的は、異物が少なく、ブロッキングがない優れたセルロースエステルフィルムを提供することにある。更に、第三の目的は生産性に優れ高収率で得られる偏光板用保護フィルム、偏光板及び画像表示装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、上記従来の課題を解決する事が出来るよう鋭意検討した結果、これらの問題点は、添加液中の微粒子の分散状態が不安定なことが、原因であることを突きとめ、また、ドープに使用すると同じセルロースエステルを分散助剤として使用することが分散状態の不安定化につながることも見い出した。そこで、分散状態を安定化させるために、分散助剤に使用する樹脂の分子量を小さくすることによって、また分散助剤としての樹脂の種類を変えることによって安定化することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は以下の構成よりなる。
(1) 溶液流延製膜方法によりセルロースエステルフィルムを製造する際に添加する微粒子、エチレン性不飽和単量体単位を有する単独重合体または共重合体であり、3,000〜90,000重量平均分子量を有する樹脂及び有機溶媒を含有する微粒子分散液であって、調製後添加前の該微粒子分散液を用いて、別に作製したセルロースエステルフィルムの上に乾燥膜厚10μmのフィルムとした時のヘイズ値が50%未満であることを特徴とする微粒子分散液。
(2) 溶液流延製膜方法によりセルロースエステルフィルムを製造する際に添加する微粒子、樹脂及び有機溶媒を含有する微粒子分散液であって、樹脂がエチレン性不飽和単量体単位を有する単独重合体または共重合体であり、3,000〜90,000の重量平均分子量を有することを特徴とする微粒子分散液。
(3) 樹脂がアクリル酸またはメタクリル酸エステル単独重合体または共重合体であることを特徴とする(1)または(2)に記載の微粒子分散液。
(4) 樹脂がメタクリル酸メチルエステル単独重合体または共重合体であることを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の微粒子分散液。
(5) 微粒子が二酸化珪素微粒子であることを特徴とする(1)乃至(4)の何れか1項に記載の微粒子分散液。
(6) 二酸化珪素微粒子が1次平均粒子径が20nm以下であり、且つ見かけ比重が70g/L以上であることを特徴とする(5)に記載の微粒子分散液。
(7) (1)乃至(6)の何れか1項に記載の微粒子分散液を、セルロースエステル及び有機溶媒を含有するセルロースエステル溶液に添加混合することを特徴とするドープの調製方法。
(8) (1)乃至(6)の何れか1項に記載の微粒子分散液を導管で移送し、別の導管で移送するセルロースエステル及び有機溶媒を含有するセルロースエステル溶液と合流管でインライン添加させた後、導管混合機(インラインミキサー)で混合することを特徴とするドープの調製方法。
(9) 微粒子分散液が絶対濾過精度が30〜60μmの金属濾過器で濾過したものであることを特徴とする(7)または(8)に記載のドープの調製方法。
(10) (7)乃至(9)の何れか1項に記載の方法で調製したドープを用いて溶液流延製膜により作製したことを特徴とするセルロースエステルフィルム。
(11) セルロースエステルのアシル基がアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも一つのものであり、アシル基の全置換度が2.40〜2.98であり、且つアセチル基の置換度が1.4以上であることを特徴とする(10)に記載のセルロースエステルフィルム。
(12) 膜厚が20〜65μmであることを特徴とする(10)または(11)に記載のセルロースエステルフィルム。
(13) (10)乃至(12)の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムを使用したことを特徴とする偏光板用保護フィルム。
(14) (13)の偏光板用保護フィルムと偏光膜を貼り合わせて作製したことを特徴とする偏光板。
(15) (14)の偏光板を使用したことを特徴とする画像表示装置。
【0024】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0025】
〔ドープを形成する材料〕
本発明において、セルロースエステル及び有機溶媒を含有するセルロースエステル溶液とマット剤、樹脂及び有機溶媒を含有するマット剤分散した微粒子分散液を混合したものをドープといい、これをもって溶液流延製膜しセルロースエステルフィルムを形成せしめるものである。
【0026】
〈セルロースエステル〉
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
【0027】
本発明に係わるセルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応が行われる。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することが出来る。セルロースエステルはアシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
【0028】
本発明のセルロースエステルフィルムに用いることが出来るセルロースエステルには特に限定はないが、全アシル基が2.4から2.98で、アシル基のうちアセチル基が1.4以上である。
【0029】
本発明のセルロースエステルはセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基あるいはブチレート基が結合したセルロースエステルであることが好ましい。なお、ブチレートは、n−の他にiso−も含む。プロピオネート基の置換度が大きいセルロースアセテートプロピオネートは耐水性が優れる。
【0030】
アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することが出来る。
【0031】
本発明のセルロースエステルの重量平均分子量は、120,000〜600,000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に140,000〜400,000が好ましい。
【0032】
本発明における重量平均分子量の測定はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することが出来る。
【0033】
〈有機溶媒〉
セルロースエステルを溶解しセルロースエステル溶液またはドープ形成に有用な有機溶媒としては、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒がある。塩素系の有機溶媒としてメチレンクロライド(塩化メチレン)を挙げることが出来、セルロースエステル、特にセルローストリアセテートの溶解に適している。昨今の環境問題から非塩素系有機溶媒の使用が検討されている。非塩素系有機溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることが出来る。これらの有機溶媒をセルローストリアセテートに対して使用する場合には、常温での溶解方法も使用可能であるが、高温溶解方法、冷却溶解方法、高圧溶解方法等の溶解方法を用いることにより不溶解物を少なくすることが出来るので好ましい。セルローストリアセテート以外のセルロースエステルに対しては、メチレンクロライドを用いることは出来るが、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンが好ましく使用される。特に酢酸メチルが好ましい。本発明において、上記セルロースエステルに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0034】
本発明に係るドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらはドープを金属支持体に流延後溶媒が蒸発をし始めアルコールの比率が多くなるとドープ膜(ウェブ)がゲル化し、ウェブを丈夫にし金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースエステルの溶解を促進する役割もある。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることが出来る。これらのうちドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は単独ではセルロースエステルに対して溶解性を有していないので、貧溶媒という。
【0035】
ドープ中のセルロースエステルの濃度は15〜40質量%、ドープ粘度は100〜50Pa・sの範囲に調製されることが良好なフィルム面品質を得る上で好ましい。
【0036】
〈添加剤〉
ドープ中に添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、染料、マット剤等がある。本発明において、マット剤以外の添加剤についてはセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。液晶画像表示装置に使用する偏光板には耐熱耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線防止剤などを添加することが好ましい。下記に添加剤を説明する。
【0037】
《可塑剤》
本発明に係わるセルロースエステル溶液またはドープには、いわゆる可塑剤として知られる化合物を、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水蒸気透過率低減、レターデーション調整等の目的で添加することが好ましく、例えばリン酸エステルやカルボン酸エステルが好ましく用いられる。リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることが出来る。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルホスフェート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることが出来る。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン、等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることが出来、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく、特にエチルフタリルエチルグリコレートが好ましく用いられる。またこれらアルキルフタリルアルキルグリコレートを2種以上混合して使用してもよい。また、重合体可塑剤を用いてもよい。例えば、脂肪族二塩基酸と脂肪族ジオールとのポリエステル、例えば、アジピン酸と1,3−ブチレングリコールのポリエステル(重量平均分子量600)、やアクリル酸エステル単独重合体また共重合体、例えば、アクリル酸メチルエステル(重量平均分子量3,000)等を用いることが出来、これらに限定されない。
【0038】
これらの化合物の添加量は目的の効果の発現及びフィルムからのブリードアウト抑制などの観点(低分子可塑剤の場合)から、セルロースエステルに対して1〜20質量%が好ましい。また、延伸及び乾燥中の加熱温度が200℃程度まで上がるため、可塑剤としてはブリードアウトを抑制させるためには、200℃における蒸気圧が1400Pa以下のものであることが好ましい。
【0039】
これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0040】
《紫外線吸収剤》
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることが出来るが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号、特開平8−337574号記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0041】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を好ましく使用出来る。高分子紫外線吸収剤としては、大塚化学社製の反応型紫外線吸収剤RUVA−93を例として挙げることが出来る。
【0042】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
【0043】
本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。
【0044】
紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、ドープ中で紫外線吸収剤が溶解するようなものであれば制限なく使用出来るが、本発明においては紫外線吸収剤をメチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソランなどのセルロースエステルに対する良溶媒、または良溶媒と低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)のような貧溶媒との混合有機溶媒に溶解し紫外線吸収剤溶液としてセルロースエステル溶液に添加してドープとする方法が好ましい。
この場合出来るだけドープ溶媒組成と紫外線吸収剤溶液の溶媒組成とを同じとするか近づけるのが好ましい。紫外線吸収剤の含有量は0.01〜5質量%、特に0.5〜3質量%である。
【0045】
《酸化防止剤》
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0046】
《マット剤》
本発明におけるマット剤をセルロースエステルフィルム中に含有させることによって、搬送や巻き取りをし易くすることが出来る。マット剤は出来るだけ微粒子のものが好ましく、微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることが出来る。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点、また、フィルムのヘイズを小さく出来るので好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下出来るため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどを挙げることが出来る。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmがより好ましく、5〜12nmがさらに好ましい。1次粒子の平均径が小さい方がヘイズが低く好ましい。見かけ比重は90〜200g/L以上が好ましく、100〜200g/L以上がより好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の微粒子分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が発生せず好ましい。
【0047】
本発明におけるマット剤の添加量は、セルロースエステルフィルム1m2当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがより好ましく、0.08〜0.16gが更に好ましい。
【0048】
本発明に好ましい二酸化珪素の微粒子としては、例えば、日本アエロジル(株)製のアエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されているものを挙げることが出来、アエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812を好ましく用いることが出来る。酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、何れも使用することが出来る。
【0049】
ポリマーの微粒子の例として、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることが出来る。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(東芝シリコーン(株)製)を挙げることが出来る。
【0050】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが本発明のセルロースエステルフィルムの濁度を低くし、且つ摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましい。
【0051】
本発明において、マット剤は、セルロースエステル溶液とは別に、有機溶媒と後述の樹脂を含有する微粒子分散液に含有される。
【0052】
《微粒子分散液に使用する樹脂》
微粒子分散液とセルロースエステル溶液をインラインで混合する場合、微粒子を単に有機溶媒に分散しただけの、または粘度の低い分散液を使用するとセルロースエステル溶液中に粘度の違いから力負けして添加しにくく、混合がうまくいかない。そこで、通常、微粒子分散液に添加して粘度を高める物質としてセルロースエステル溶液に使用するものと同じセルロースエステルを使用するケースがある。しかし、そのような場合、マット剤の分散性が悪化し、凝集物が多数発生し、最終濾過器を目詰まりが起こり易く濾材交換を頻繁に行う必要があり、著しく生産性が低下する。この原因はいくつか考えられるが、先ず、使用するセルロースエステルの重量平均分子量が120,000〜600,000と高いこと、第2にセルロースエステルとマット剤とのアフィニティーが悪いことなどが考えられる。
【0053】
本発明においては、微粒子分散液の粘度を100〜500mPa・sの範囲にコントロールすることが好ましい。
【0054】
そこで、本発明者らは、種々の樹脂について、樹脂の種類、分子量を変化させて検討した結果、樹脂については下記のようなものが好ましく、また、重量平均分子量については、3,000〜90,000のものであれば広範囲の樹脂を使用することにより微粒子分散液の分散状態を著しく改善することが出来るばかりでなく、セルロースエステル溶液との相溶性もよく、凝集物のないドープを形成することも出来ることを見い出した。重量平均分子量について、より好ましくは5,000〜50,000、更には10,000〜30,000のものが好ましい。樹脂としては、特に限定がなく従来公知のものを広く使用することが出来るが、下記のごとき樹脂がより好適に使用出来る。
【0055】
本発明のマット剤分散液において好ましく用いられる樹脂として、エチレン性不飽和単量体単位を有する単独重合体または共重合体を挙げることが出来、より好ましくは、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸プロピル、ポリアクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸アルキルの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸アルキルエステル共重合体等のアクリル酸またはメタクリル酸エステルの単独重合体または共重合体であり、更にアクリル酸またはメタクリル酸のエステルは透明性、相溶性に優れ、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル単位を有する単独重合体または共重合体、特に、アクリル酸またはメタクリル酸メチル単位を有する単独重合体または共重合体が好ましい。具体的にはポリメタクリル酸メチルが好ましい。ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸シクロヘキサンのようなアクリル酸またはメタクリル酸の脂環式アルキルエステルは耐熱性が高く、吸湿性が低い、複屈折が低い等の利点を有し好ましい。
【0056】
この他の樹脂としては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のアシル基の置換度が1.8〜2.80のセルロースエステル樹脂;セルロースメチルエーテル、セルロースエチルエーテル、セルロースプロピルエーテル等のアルキル基置換度2.0〜2.80のセルロースエーテル樹脂;アルキレンジカルボン酸とジアミンとの重合物のポリアミド樹脂;アルキレンジカルボン酸とジオールとの重合物、アルキレンジオールとジカルボン酸との重合物、シクロヘキサンジカルボン酸とジオールとの重合物、シクロヘキサンジオールとジカルボン酸との重合物、芳香族ジカルボン酸とジオールとの重合物等のポリエステル樹脂;ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル共重合体等の酢酸ビニル樹脂;ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール樹脂;下記に示すようなエポキシ樹脂、下記に示すようなケトン樹脂、アルキレンジイソシアナートとアルキレンジオールの線状重合物等の下記に示すようなポリウレタン樹脂等を挙げることが出来、これらから選ばれる少なくとも一つを含有することが好ましい。エポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上持った化合物が、開環反応によって樹脂を形成したもので、以下に示すようなエポキシ樹脂を挙げることが出来、代表的な市販品としてアラルダイドEPN1179及びアラルダイドAER260(旭チバ(株)製)がある。なお、アラルダイトEPN1179は重量平均分子量が約405である。nは重合度を示す。
【0057】
【化1】
【0058】
また、ケトン樹脂としては、ビニルケトン類を重合して得られるもので、以下に示すようなケトン樹脂を挙げることが出来、代表的な市販品として、ハイラック110及びハイラック110H(日立化成(株)製)がある。nは重合度を示す。
【0059】
【化2】
【0060】
上記の樹脂について、本発明者らは、更に、後述のような分散方法を工夫することにより、上記重量平均分子量範囲外(3,000未満90,000を超える)ものであっても良好なマット剤の分散性が改善出来、凝集性のほとんどない微粒子分散液を形成することが出来ることを見い出した。
【0061】
上記の樹脂は重量平均分子量に制限なく使用することが出来るが、重量平均分子量が小さい方が使用し易く、重量平均分子量として300〜40,000程度の範囲が好ましく、500〜20,000がより好ましく、5,000〜20,000が更に好ましい。重量平均分子量が小さい程ドープのセルロースエステルとの相溶性、マット剤の分散性に優れ、大きい程少量の樹脂で微粒子分散液の粘度を調整することが出来るため好ましい。
【0062】
本発明において、微粒子分散液中の微粒子の含量は、有機溶媒質量に対して、0.1〜2.0質量%が好ましく、また樹脂の濃度は、分子量に依存するが、おおむね5〜50質量%が好ましい。
【0063】
《その他の添加剤》
この他カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩などの熱安定剤を加えてもよい。更に帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加える場合がある。
【0064】
〔溶液流延製膜方法〕
本発明のセルロースエステルフィルムは、溶液流延製膜法により製膜される。
ここで、本発明に係わる溶液流延製膜方法について図1を用いて説明する。
【0065】
図1は、本発明に係わる溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程及び乾燥工程を模式的に示した図である。
【0066】
▲1▼セルロースエステル溶液調製工程:前述のセルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒に溶解釜1中でセルロースエステルやマット剤を除く添加剤を攪拌しながら溶解し、セルロースエステル溶液を形成する工程である。溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う高温溶解方法、冷却して溶解する冷却溶解方法、かなりの高圧で行う高圧溶解方法等種々の溶解方法があるが、本発明においては、高温溶解方法が好ましく用いられる。溶解後セルロースエステル溶液をポンプ2で濾過器3(フィルタープレス型)で濾過し、ストックタンク4で静置して脱泡し、流延のために送液ポンプ5(加圧型定量ギヤポンプのようなもの)で溶液を移送し、濾過器6を経てマット剤分散液と合流する合流管20で混合するためにに導管8で移送する。
【0067】
濾過については、このセルロースエステル溶液をフィルタープレス用の濾紙などの適当な濾材を用いて濾過する。本発明における濾過材としては、不溶物などを除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題点あり、絶対濾過精度8μm以下の濾材が好ましく、1〜8μmの範囲の濾材がより好ましく、3〜6μmの範囲の濾材が更に好ましい。濾紙としては、例えば市販品の安積濾紙(株)のNo.244や277などを挙げることが出来、好ましく用いられる。
【0068】
更なる濾過の濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することが出来るが、ポリプロピレン、テフロン(R)等のプラスチック製の濾材やステンレス等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過は通常の方法で行うことが出来るが、加圧下で、使用有機溶媒の常圧での沸点以上で、且つ有機溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱または保温しながら濾過する方法が、濾過材前後の差圧(以下、濾圧とすることがある)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度範囲は使用有機溶媒に依存はするが、45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃の範囲であることが更に好ましい。濾圧は小さい方が好ましく、0.3〜1.6MPaであることが好ましく、0.3〜1.2MPaであることがより好ましく、0.3〜1.0MPaであることが更に好ましい。
【0069】
▲2▼微粒子分散液調製工程:ドープに使用すると同様な有機溶媒、前述の樹脂及び前述のマット剤を含有する微粒子剤分散液の調製方法は、十分に液中に均一に分散することが出来る方法であれば特に制限ないが、次の方法が好ましい。
【0070】
a)溶解釜中に有機溶媒と樹脂を導入し、攪拌溶解し、樹脂溶液とする。これとは別に準備した有機溶媒とマット剤微粒子の液を送液ポンプでマントンゴーリーやサンドミル等の分散機に移送し分散を行い、前記の樹脂溶液に添加し、攪拌し濾過器で凝集物を取り除き、微粒子分散液としストックする(図1と若干異なる)。調製された微粒子分散液は何回か循環させてもよい。
【0071】
b)溶解釜10中に有機溶媒と樹脂を加え、攪拌溶解して樹脂溶液とし、この樹脂溶液にマット剤微粒子を加えて、マントンゴーリー、サンドミル等の分散機(図示してない)で分散し、それを送液ポンプ11で濾過器12に送って凝集物を除き微粒子分散液とする(何回か同様な操作を繰り返し循環させてもよい)。そして微粒子分散液を切り替え弁16からストックタンク13に移送し、静置脱泡後、送液ポンプ14(例えば加圧型定量ギヤポンプ)で移送し、濾過器15で濾過して導管16で移送する。この際、上記二つの液に紫線吸収剤も添加してもよい。
【0072】
本発明の上記のような微粒子分散液を調製する際に使用する分散機は、大きくはメディアレス分散機とメティア分散機とに分けられ、どちらも使用することが出来る。メディアレス分散機としては、高圧力を利用して分散するタイプのマントンゴーリーなどがある。メティア分散機としては、ガラスビーズ、セラミックビーズなどのメディアの衝突力を利用して分散するタイプのサンドミル、ボールミルなどがある。特に好ましいのは、メディアの破片などの混入のないメディアレス分散機である。
【0073】
本発明において微粒子分散液の分散や、濾過が適切に行われているか否かについて事前チェック確認することが好ましく、本発明者らは微粒子分散液の膜を作製し、そのヘイズを測定することで微粒子分散液の分散状態を評価出来ることを見い出した。すなわち微粒子分散液を最終の濾過器6の前で採取し、その微粒子分散液を別に用意したセルロースエステルフィルム上に乾燥膜厚10μmになるように塗布し、常温で自然乾燥させる。乾燥後の膜のヘイズが50%以下であれば微粒子分散液が凝集もほとんどなく安定性に優れており、セルロースエステル溶液と混合して形成したドープを使用することにより、凝集物や異物のないセルロースエステルフィルムを製造することが出来る。本発明は、微粒子分散液の品質を、この方法によるヘイズが50%以下であることを確認することにより達成される。
【0074】
本発明において、微粒子分散液は、最終の濾過器6及び15で濾過後は、ストックタンクなどに停滞させることなく、また送液ポンプを介すことなく導管で移送され、一方、導管で移送されて来る前述のセルロースエステル溶液と、合流管20で合流される。それにより両液の停滞や、送液ポンプによる新たな凝集物の発生がなく好ましい。これらの濾過はインラインミキサーの直前に配置されており、例えば濾材交換等に伴い経路から発生する大きな凝集物を送液中の微粒子分散液から、一度の濾過で、比較的大きな異物を確実にとるための濾材で、前記の絶対濾過精度を有する長期に亘り使用が可能な耐溶剤性を有する金属製の濾過器が好ましい。濾材としては、耐久性の観点から金属、特にステンレス鋼が好ましい。目詰まりの観点から60〜80%の空孔率を有していることが好ましい。従って、最も好ましくは、絶対濾過精度30〜60μmであって、かつ空孔率60〜80%の金属製濾材で濾過することであり、これにより、長期に亘り、確実に粗大な異物を除くことが出来好ましい。絶対濾過精度30〜60μmでかつ空孔率60〜80%の金属製濾材としては、例えば、日本精線(株)製ファインポアNFシリーズのNF−10、同NF−12、同NF−13などを挙げることが出来る。
【0075】
本発明において、絶対濾過精度は以下のように定義される。
JIS Z 8901に規定される粒径の異なる試験用粉体のガラスビーズと純水をビーカーに入れ、スターラーで撹拌しながら、図2に示すような装置で吸引濾過を行う。図2は絶対濾過精度を測定する装置を模式的に示した図である。ここにおいて、Aは測定しようとする濾材試料、Bは被濾過液、Cは濾液を表す。被濾過液BはスターラーSで攪拌されており、低圧真空ポンプPにより大気圧から−4kPaの圧力に維持して濾過する。Vは開閉出来るバルブ、Mはマノメータである。この時の被濾過液Bと濾液C中のガラスビーズの個数を顕微鏡で観察し、以下の式で粒子捕集率を求める。粒子捕集率95%の時の粒子径を絶対濾過精度とした。
【0076】
粒子捕集率(%)=(被濾過液中の個数−濾液中の個数)/(被濾過液中の個数)×100
本発明において、絶対濾過精度は30〜60μmが好ましい。
【0077】
上記濾材の空孔率は60〜80%であることが好ましく、65〜75%がより好ましい。空孔率が大きい方がと圧力損失が小さくなる点で好ましく、空孔率の小さい方が耐圧性に優れるため好ましい。空孔率を求めるには、まず濾材を表面張力の低い溶媒中に浸漬し、濾材中の空気を取り除き、溶媒の増加した量から濾材の空孔量を求め、濾材の体積で割れば、算出することが出来る。
【0078】
本発明において、微粒子の粒径を測定することは、かなり困難なことで、例えば、特開平7−11055号公報記載されている遠心式粒度分布測定機を使用する方法では、粘度が高く測定が難しく、測定出来る粘度まで有機溶媒で希釈すると微粒子の分散状態が変化していまうので実際の結果とは合いにくい。そこで、本発明においては、最終濾過器を通す前に、前述の試験法により微粒子分散液の分散の度合いをチェックすることが重要である。
【0079】
▲3▼ドープ調製工程:セルロースエステル溶液及び微粒子分散液それぞれを送液ポンプ5及び14により移送し濾過器6及び15で濾過した導管8及び16中を移送し合流管20で両液を合流させる。合流した両液は導管内を層状で移送するためそのままでは混合しにくい。そこで、本発明においては、両液を合流後、インラインミキサーのような混合機21で十分に混合しながら次工程▲4▼に移送する。本発明で使用出来るインラインミキサーとしては、例えば、スタチックミキサーSWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer、東レエンジニアリング製)が好ましい。インラインミキサーを用いる場合、セルロースエステルを高圧下で濃縮溶解したドープに適用することも出来る。
【0080】
本発明において、ドープ中の固形分濃度は15質量%以上に調製することが好ましく、特に18〜35質量%が好ましい。ドープ中の固形分濃度が高すぎるとドープの粘度が高くなりすぎ、流延時にシャークスキンなどが生じてフィルム平面性が劣化する場合があるので、35質量%以下であることが望ましい。
【0081】
▲4▼流延工程:インラインミキサーで調製したドープをダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属支持体31、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体31上の流延位置に、ダイ30からドープを流延する工程である。金属支持体31の表面は鏡面となっている。ダイ30(例えば加圧型ダイ)は口金部分のスリット形状を調製出来、膜厚を均一にし易いため好ましい。ダイ30には、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるためにダイを金属支持体31上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。
【0082】
流延用の金属支持体の表面温度は10〜55℃、溶液の温度は25〜60℃、更に溶液の温度を支持体の温度と同じまたはそれ以上の温度にすることが好ましく、5℃以上の温度に設定することが更に好ましい。
【0083】
溶液温度、支持体温度は、高いほど溶媒の乾燥速度が速く出来るので好ましいが、あまり高すぎると発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
【0084】
支持体の温度の更に好ましい範囲は、使用する有機溶媒に依存するが、20〜55℃、溶液温度の更に好ましい範囲は、35〜45℃である。
【0085】
▲5▼溶媒蒸発工程:ウェブ(金属支持体上にドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)32を金属支持体31上で加熱し金属支持体31からウェブ32が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ32側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体31の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0086】
▲6▼剥離工程:金属支持体31上で溶媒が蒸発したウェブ32を、剥離位置33で剥離する工程である。剥離されたウェブ32は次工程▲7▼に送られる。剥離する時点でのウェブ32の残留溶媒量(後述の式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体31上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブ32の一部が剥がれたりする。本発明において、薄手のウェブを金属支持体から剥離する際、平面性の劣化やつれがないように行うには、剥離張力として剥離出来る最低張力から170N/m以内の力で剥離することが好ましく、140N/m以内の力がより好ましい。
【0087】
製膜速度を上げる方法(残留溶媒量が出来るだけ多いうちに剥離するため製膜速度を上げることが出来る)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。それは、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体31上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることが出来るのである。金属支持体31上でのウェブ32の乾燥が条件の強弱、金属支持体31の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが出来るが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブ32が柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易く、経済速度と品質との兼ね合いで剥離残留溶媒量を決められる。従って、本発明においては、該金属支持体31上の剥離位置における温度を10〜40℃、好ましくは15〜30℃とし、且つ該剥離位置におけるウェブ32の残留溶媒量を10〜120質量%とすることが好ましい。
【0088】
製造時のセルロースエステルフィルムが良好な平面性を維持するために、金属支持体から剥離する際の残留溶媒量を10〜150質量%とすることが好ましく、より好ましくは80〜150質量%であり、更に好ましくは100〜130質量%である。残留溶剤中に含まれる良溶剤の比率は50〜90%が好ましく、更に好ましくは、60〜90%であり、特に好ましくは、70〜80%である。
【0089】
本発明においては、剥離残留溶媒量は下記の式で表わすことが出来る。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量で、下記のガスクロマトグラフィーにより測定した質量であり、Nは該Mを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。測定はヘッドスペースサンプラーを接続したガスクロマトグラフィーで測定する。本発明では、ヒューレット・パッカード社製ガスクロマトグラフィー5890型SERISIIとヘッドスペースサンプラーHP7694型を使用し、以下の測定条件で行った。
【0090】
ヘッドスペースサンプラー加熱条件:120℃、20分
GC導入温度:150℃
昇温:40℃、5分保持→100℃(8℃/分)
カラム:J&W社製DB−WAX(内径0.32mm、長さ30m)。
【0091】
▲7▼乾燥工程:剥離後、一般には、ウェブ32をジグザグに配置したロールに交互に通して搬送するロール乾燥装置35及び/またはクリップでウェブ32の両端をクリップして搬送するテンター装置34を用いてウェブ32を乾燥する。図1では、テンター装置34の後にロール乾燥装置35が配置されている。乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。全体を通して、通常乾燥温度は40〜250℃の範囲で行われる。使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。37は出来上がったセルロースエステルフィルムの巻き取りである。セルロースエステルフィルムの乾燥工程において、残留溶媒量を3質量%以下にすることが好ましく、0.5質量%以下にして巻き取ることがより好ましい。
【0092】
〔セルロースエステルフィルム、偏光板用保護フィルム、偏光板及び画像表示装置〕
上記で得られる本発明のセルロースエステルフィルムは、適度な滑り性、高い寸法安定性、良好な紫外線カット性能、優れた光学特性等を有し液晶表示用部材に用いられる。液晶表示用部材とは液晶画像表示装置に使用される部材のことで、例えば、偏光板、偏光板用保護フィルム、位相差板、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム等を挙げることが出来る。
【0093】
《セルロースエステルフィルム》
液晶画像表示装置(後述)として様々な目的で使用されるセルロースエステルフィルムに求められる性質としてレターデーションがある。本発明において、上記のようにして製膜されたセルロースエステルフィルムの面内方向におけるレターデーションR0(nm)は小さいほど好ましい。本発明のセルロースエステルフィルムは用途により1000nm未満ものが適宜用いられる。
【0094】
セルロースエステルフィルムとしては、R0が20nm未満のものが好ましく、更に好ましくは10nm未満であることが望まれる。特に好ましくは0〜5nmのものが好ましく用いられる。
【0095】
本発明のセルロースエステルフィルムの面内方向におけるレターデーションR0(nm)は小さいほど良く、100nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることが更に好ましい。また、本発明のセルロースエステルフィルムの製膜方向(長手方向に相当する)と遅相軸とのなす角度θ1が0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。ただし、θ1は製膜方向と遅相軸とがなす狭い角度であり、+90°〜−90°の範囲にある。こうすることによって本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板の偏光度が向上する。ここで遅相軸とはフィルム面内の屈折率が最も高くなる方向である。更に好ましくはθ1と面内方向のレターデーションR0が下記の関係にあることがより好ましい。
【0096】
P≦1−sin2(2θ1)×sin2(πR0/λ)
ここで、Pが0.999である時にθ1とR0が上式を満たすことが好ましく、より好ましくはPが0.9995である時にθ1とR0が上式を満たすことが好ましく、更に好ましくはPが0.9998である時にθ1とR0が上式を満たすことが好ましく、より更に好ましくはPが0.9999、更に好ましくはPが0.99995、特に0.99999である時にθ1とR0が上式を満たすことが好ましい。λはθ1とR0を求めるための三次元屈折率測定の際の光の波長を表し、380〜650nmの範囲にある。好ましくはλが590nmの時に上式を満たすことが好ましく、更に好ましくはλが400nmの時に上式を満たすことである。また、本発明のセルロースエステルフィルムでは厚み方向のレターデーションRtは0〜300nmであるものが好ましく、更に30〜150nmのものが好ましく、特に40〜120nmであるものが特に好ましく用いられる。Rtは液晶表示装置の設計に合わせて、適宜好ましい値のものが用いられる。
【0097】
なお、R0、Rt、θは下記の方法で求めることが出来る。
レターデーション値(Rt、R0)及び遅相軸角度の測定は、自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて試料を23℃、55%RHの環境下で、590nmの波長において3次元屈折率測定を行い、遅相軸角θ及び屈折率Nx、Ny、Nzを求める。厚み方向のレターデーション値Rtと面内方向のレターデーション値R0は下記式によりを算出する。
【0098】
Rt値=〔{(Nx+Ny)/2}−Nz〕×d
R0値=(Nx−Ny)×d
式中、Nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、Nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、Nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す。
【0099】
本発明のセルロースエステルフィルムを位相差板(例えば1/4λ板、1/2λ板等)として利用する場合は、R0が100〜500nmのものが好ましく用いられ、θは約0°(長尺方向)、約45°、約90°(幅手方向)であるものが用途あるいは使用方法に応じて適宜選択される。例えば、2枚の偏光板保護フィルムで偏光子をサンドイッチして作られる偏光板において、一方の偏光板保護フィルムを1/4λ板とし、偏光子の透過軸方向と1/4λ板の遅相軸方向とが約45°となるように配置されることによって円偏光板を得ることが出来る。
【0100】
本発明の偏光板用保護フィルムは、一般に行われている方法により作製することが出来る。例えば、セルロースエステルフィルムを40℃の2.5mol/lの水酸化ナトリウム水溶液で60秒間程度表面鹸化処理を行い、3分間水洗、乾燥することによって得られる。
【0101】
《偏光板用保護フィルム》
本発明の偏光板は偏光膜と偏光板用保護フィルムを貼り合わせる通常の方法で得られる。偏光膜は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。これらは、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0102】
《偏光板》
本発明の偏光板は、本発明の偏光板用保護フィルムを用い、一般的な方法で作製することが出来る。例えば、本発明の偏光板用保護フィルムを、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせて作製する。
【0103】
《画像表示装置》
このようにして得られた偏光板は、種々の画像表示装置に使用出来る。画像表示装置としては、液晶表示装置、有機電解発光素子、プラズマディスプレー等があり、例えば、一枚偏光板反射型液晶表示装置の場合、その構成は、表側から、偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明のセルロースエステルフィルム(光学フィルム)/ガラス基盤/ITO透明電極/配向膜/TN型液晶/配向膜/金属電極兼反射膜/ガラス基板である。従来の場合、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/位相差板/ガラス基盤/ITO透明電極/配向膜/TN型液晶/配向膜/金属電極兼反射膜/ガラス基板の構成となる。従来の構成では、位相差板の波長に対する位相差特性が不十分であるため着色が見られるが、本発明のセルロースエステルフィルムを用いることで着色のない良好な液晶表示装置が得られる。
【0104】
また、コレステリック液晶からなる反射型偏光素子の場合は、バックライト/コレステリック液晶層/本発明のセルロースエステルフィルム(光学フィルム)/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で用いることが出来る。また、本発明のセルロースエステルフィルムを四分の一波長板として用いた偏光板の場合、自然偏光を円偏光に変換出来る円偏光板となる。これは、プラズマディスプレーや有機ELディスプレー等の前面板に設置することで反射防止フィルムや防眩フィルムとして働き、着色や視認性の劣化を防止出来る。また、タッチパネルの反射防止にも使用出来る。
【0105】
有機電解発光素子は有機EL素子とも呼ばれ、例えばジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス第25巻773項(1986年)等で紹介されているものである。その構成は、例えば、透明基盤/陽極/有機発光層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/電子注入輸送発光層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/電子注入輸送層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/有機発光層/電子注入輸送層/陰極などの順で構成されている。この構成では、外部からの光が透明基盤側から入り、陰極表面で反射した光が写ってしまい視認性が悪い。ところが、透明基盤の表面に偏光板を設けることで、陰極表面での反射光を遮断出来るので視認性に優れたディスプレイとなるのである。
【0106】
【実施例】
本発明を下記実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0107】
以上をディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。分散後の液濁度は93ppmであった。
【0108】
(樹脂溶液の調製)
樹脂(表1に記載) 表1記載の質量部
チヌビン326 2質量部
チヌビン109 3質量部
チヌビン171 3質量部
メチレンクロライド 50質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、ポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1NとTCW−PPS−10N(アドバンテック東洋(株)製)で順次濾過した。
【0109】
(微粒子分散液の調製)
上記樹脂溶液50質量部に上記二酸化珪素分散液12質量部を撹拌しながら加えて、さらに30分間撹拌した後、ワインドカートリッジフィルターTCW−PPS・10N及び20Nと順次に濾過精度上げて濾過し、微粒子分散液を調製し、一時ストックタンクで静置した。
【0110】
〔ヘイズの評価〕
別に作製し用意したセルロースエステルフィルム(膜厚80μm、ヘイズ0.1%以下)の上に、最終濾過前の各微粒子分散液を乾燥膜厚が10μmになるように塗布し、結露しない条件で常温で自然乾燥させた試料を作製した。ASTM−D1003−52に従って試料及び別に作製し、塗布してないセルロースエステルフィルム各1枚のヘイズを3回測定し、平均を算出した。試料のヘイズ値から該セルロースエステルフィルムのヘイズ値を引いた値を算出し、下記のレベルにランク分けを行い評価した。ヘイズの測定はT−2600DA(東京電色(株)製)を用いて測定した。
【0111】
A:10%未満
B:10%以上20%未満
C:20%以上35%未満
D:35%以上50%未満
E:50%以上。
【0112】
評価の結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
(結果)
微粒子分散液の樹脂が3,000〜90,000の重量平均分子量を有していると、ヘイズが低く、良好な分散状態の微粒子分散液が得られることが表1より明白である。
【0115】
実施例2
(セルロースエステル溶液調製)
リンター綿からのセルローストリアセテート 85質量部
木材パルプからのセルローストリアセテート 15質量部
トリフェニルホスフェート 11.5質量部
メチレンクロライド 475質量部
エタノール 50質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、セルロースエステル溶液を調製した。これを一時ストックタンクで静置貯蔵し、脱泡を行った。
【0116】
(ドープの調製)
実施例1で調製した微粒子分散液を用い、ストックタンクから加圧型定量ギアポンプで移送し、ファインメットNF(日本精線(株)製、絶対濾過精度50μm)の濾過器で濾過し、合流管へと移送した。一方、セルロースエステル溶液Aを定量加圧ポンプで移送し、ファインメットNF(絶対濾過精度50μm)の濾過器で濾過し、導管を通して合流管へ移送した。濾過されたセルロースエステル溶液を100質量部に対して、微粒子分散液を表1記載の添加量で合流管で合流させ、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分混合しドープを連続的に調製する。
【0117】
(セルロースエステルフィルムの作製)
《流延・剥離》
続けて、ダイにドープを導管を通して移送し、温度33℃の表面温度を持つ、1500mmのステンレスベルトの上に均一に流延した。ステンレスベルト上で、残留溶媒量が100質量%になるまで溶媒を蒸発させ、ウェブをステンレスベルトから剥離張力127N/mで剥離した。
【0118】
《乾燥》
剥離したウェブを1550mm幅に裁ち落とし、その両端をクリップで把持してテンター乾燥機で幅方向に90℃で、1.05倍延伸し、120℃、135℃のロール乾燥機でロール搬送しながら乾燥を終了させ、再び1330mm幅に裁ち落とし、両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施しから巻き取り、セルローストリアセテートフィルム1〜10を得た。このときのセルローストリアセテートフィルムの膜厚は40μm、巻長さは4000mであった。
【0119】
(偏光板用保護フィルム)
《アルカリケン化処理》
4000m巻きのセルロースエステルフィルムを下記の鹸化処理を行い、偏光板用保護フィルムを作製した。
【0120】
ケン化工程(2mol/LのNaOH) 50℃ 90秒
水洗工程 30℃ 45秒
中和工程 (10質量%HCl水溶液) 30℃ 45秒
水洗工程 30℃ 45秒
上記条件でフィルム試料を鹸化、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで80℃で乾燥を行った。
【0121】
(偏光板の作製)
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、沃素1kg、ホウ酸4kgを含む水溶液100kgに浸漬し50℃で縦方向に6倍に延伸して偏光膜を作った。この偏光膜の両面にアルカリケン化処理を行った偏光板用保護フィルムを完全ケン化型ポリビニルアルコール5質量%水溶液を粘着剤として各々貼り合わせ偏光板を作製した。
【0122】
(液晶画像表示装置の作製)
15型TFT型カラー液晶ディスプレイLA−1529HM(NEC製)の偏光板を剥がし、液晶セルを挟むようにして、前記作製した偏光板2枚を偏光板の偏光軸がもとと変わらないように互いに直交するように貼り付け、15型TFT型カラー液晶ディスプレイを作製した。
【0123】
〔評価・測定方法〕
〈動摩擦係数〉
JIS−K−7125(1987)に準じ、セルロースエステルフィルム試料を100×250mmの大きさに2枚切り出し、表裏面が互いに接触するように重ね、200gの錘を載せ、片方のフィルムを錘を載せたまま移動し、移動速度を100mm/分、接触面積を80mm×200mmとして錘とフィルム共に水平引っ張り、錘を移動するに必要な平均荷重(F)を測定し、下記式より動摩擦係数(μ)を求めた。
【0124】
動摩擦係数=F/錘の質量
〈異物数〉
巻き取り部の直前にオンライン欠陥検査機を設置し、セルロースエステルフィルム100m2当たりの100μm以上の異物数をカウントした。
【0125】
〈偏光板作製収率〉
4000m巻のセルロースエステルフィルムを、下記に記載するアルカリ鹸化処理、偏光板用保護フィルムを作製し、この偏光板用保護フィルムを偏光膜の両面に貼り合わせて偏光板の作製した。作製した偏光板を383mm角に100枚打ち抜き、1枚ずつ目視による外観検査を行った。外観検査は偏光板1枚中に50μm以上の欠陥が3個以上あった場合に不良品とした。収率は下記の式で求めた。
【0126】
収率(%)=良品枚数÷(良品枚数+不良品枚数)×100
A:収率が100%であった
B:収率が90〜99%であった
C:収率が80〜89%であった
D:収率が60〜79%であった
E:収率が59%以下であった。
【0127】
〈画質の評価〉
液晶画像表示装置をホワイト表示にして目視による画質の評価を行った。
【0128】
A:表面に異物が無く、画面が見易い
B:表面に非常に小さな異物が僅かに少しあり、若干光って見えるが、画面は見易い
C:表面に小さな異物が少しあり、光って見え、画面がやや見にくい
D:表面に小さな異物がやや多くあり、光って見えるため、画面が見にくい
E:表面に小さな異物が多くあり、かなり光って見えるため、画面が非常に見にくい。
【0129】
【表2】
【0130】
(結果)
ヘイズ50%未満の微粒子分散液を、合流管でセルロースエステル溶液に添加混合して製膜したセルロースエステルフィルムは滑り性に優れ、異物故障が少なく、収率が高く、生産性に優れていることが表2から明白である。また、このセルロースエステルフィルムを使用した偏光板用保護フィルム、それを使用した偏光板、更にこの偏光板を使用した液晶画像表示装置は異物がほとんどなく非常に見易く、優れていた。
【0131】
【発明の効果】
液晶のような画像表示装置に有用なセルロースエステルフィルムを作製するための濾過器の目詰まりもないドープの調製方法を提供出来、またその結果、異物がほとんどない品質に優れたセルロースエステルフィルム、偏光板用保護フィルム及び偏光板を提供出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程及び乾燥工程を模式的に示した図である。
【図2】絶対濾過精度を測定する装置を模式的に示した図である。
【符号の説明】
1、10 溶解釜
3、6、12、15 濾過器
4、13 ストックタンク
5、14 送液ポンプ
8、16 導管
20 合流管
21 混合機
30 ダイ
31 金属支持体
32 ウェブ
33 剥離位置
34 テンター装置
35 ロール乾燥装置
A 濾材試料
B 被濾過液
C 濾液
M マノメータ
P 低圧真空ポンプ
S スターラー
V バルブ
Claims (15)
- 溶液流延製膜方法によりセルロースエステルフィルムを製造する際に添加する微粒子、エチレン性不飽和単量体単位を有する単独重合体または共重合体であり、3,000〜90,000重量平均分子量を有する樹脂及び有機溶媒を含有する微粒子分散液であって、調製後添加前の該微粒子分散液を用いて、別に作製したセルロースエステルフィルムの上に乾燥膜厚10μmのフィルムとした時のヘイズ値が50%未満であることを特徴とする微粒子分散液。
- 溶液流延製膜方法によりセルロースエステルフィルムを製造する際に添加する微粒子、樹脂及び有機溶媒を含有する微粒子分散液であって、樹脂がエチレン性不飽和単量体単位を有する単独重合体または共重合体であり、3,000〜90,000の重量平均分子量を有することを特徴とする微粒子分散液。
- 樹脂がアクリル酸またはメタクリル酸エステル単独重合体または共重合体であることを特徴とする請求項1または2項に記載の微粒子分散液。
- 樹脂がメタクリル酸メチルエステル単独重合体または共重合体であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の微粒子分散液。
- 微粒子が二酸化珪素微粒子であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の微粒子分散液。
- 二酸化珪素微粒子が1次平均粒子径が20nm以下であり、且つ見かけ比重が70g/L以上であることを特徴とする請求項5に記載の微粒子分散液。
- 請求項1乃至6の何れか1項に記載の微粒子分散液を、セルロースエステル及び有機溶媒を含有するセルロースエステル溶液に添加混合することを特徴とするドープの調製方法。
- 請求項1乃至6の何れか1項に記載の微粒子分散液を導管で移送し、別の導管で移送するセルロースエステル及び有機溶媒を含有するセルロースエステル溶液と合流管でインライン添加させた後、導管混合機(インラインミキサー)で混合することを特徴とするドープの調製方法。
- 微粒子分散液が絶対濾過精度が30〜60μmの金属濾過器で濾過したものであることを特徴とする請求項7または8に記載のドープの調製方法。
- 請求項7乃至9の何れか1項に記載の方法で調製したドープを用いて溶液流延製膜により作製したことを特徴とするセルロースエステルフィルム。
- セルロースエステルのアシル基がアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも一つのものであり、アシル基の全置換度が2.40〜2.98であり、且つアセチル基の置換度が1.4以上であることを特徴とする請求項10に記載のセルロースエステルフィルム。
- 膜厚が20〜65μmであることを特徴とする請求項10または11に記載のセルロースエステルフィルム。
- 請求項10乃至12の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムを使用したことを特徴とする偏光板用保護フィルム。
- 請求項13の偏光板用保護フィルムと偏光膜を貼り合わせて作製したことを特徴とする偏光板。
- 請求項14の偏光板を使用したことを特徴とする画像表示装置。
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