以下、図面を参照しながら本発明に係る実施形態について詳細に説明する。
(第1実施形態)
以下、本発明に係る第1実施形態の潤滑装置としてのグリース補給システムについて説明する。
図1は、本発明に係る第1実施形態の軸受装置100の断面図である。軸受装置100は、主軸101と、ハウジング102と、主軸101に外嵌し、且つハウジング102に内嵌したアンギュラ玉軸受110,110とを有している。主軸101は、アンギュラ玉軸受110,110を介して、ハウジング102に対し回転可能である。
主軸101は、図示せぬモータ等の回転駆動機構に接続されており、回転駆動機構の駆動により回転する。本実施形態では、主軸101の最高回転速度は、22000min-1に設定されている。
各アンギュラ玉軸受110は、内輪113、外輪114、転動体としての玉115、及び、保持器116を有している。内輪113は、主軸101に外嵌しており、外周側に玉115を案内する内輪軌道113aを有している。外輪114は、ハウジング102に内嵌しており、内周側に玉115を案内する外輪軌道114aを有している。
玉115は、内輪113の内輪軌道113aと外輪114の外輪軌道114aとの間に転動自在に配置されている。保持器116は、玉115を円周方向等間隔に転動自在に保持している。外輪114は、テーパ部114cを軸方向片側に有している。以下、テーパ部が形成された軸方向一方を正面側、他方を背面側と呼ぶこととする。本実施形態においては、一対のアンギュラ玉軸受110は、それぞれの背面側が対向配置される、いわゆる背面組合せ形(DB)で配置されている。
アンギュラ玉軸受110,110の各内輪113間及び各外輪114間には、それぞれ主軸101及びハウジング102に沿って配置された内輪間座105及び外輪間座106が配置されている。各内輪113及び内輪間座105、並びに、各外輪114及び外輪間座106は、内輪押さえ部材103,107及び外輪押さえ部材104により付勢され、各軸受には予圧が与えられている。内輪押さえ部材103及び外輪押さえ部材104の間には、図示せぬ間隙が形成されており、両押さえ部材間にラビリンスを形成している。
ハウジング102上には、アンギュラ玉軸受110,110の内部に補給される追加グリースを蓄えるグリースタンク120,120が設けられている。グリースタンク120には、給脂ノズル122が連通している。給脂ノズル122は、ハウジング102を貫通する貫通孔102aを介して、アンギュラ玉軸受110,110の各外輪114,114に形成された補給孔114b内に差し込まれている。各グリースタンク120の内部に貯蔵された追加グリースの上面には、ピストン121が配置されている。追加グリースは、ピストン121の動作に従い、給脂ノズル122及び補給孔114bを介して、径方向にアンギュラ玉軸受110内へ補給される。
軸受装置100には、主軸101の回転速度を検出する回転センサ40が組み付けられている。回転センサ40は、主軸101に対向し、主軸101上に形成された、スリット、磁石、突起等の検出マークを検出することにより主軸101の回転速度に対応するパルス信号を生成する。
図2は、本実施形態の潤滑装置としてのグリース補給システムを示すブロック図である。本グリース補給システムは、抵抗型給脂装置10、制御装置20、回転センサ40、グリースタンク120、給脂ノズル122、ソレノイドバルブ130、及び、コンプレッサ140とを有する。
抵抗型給脂装置10は、制御装置20からの指示に従い、ソレノイドバルブ130,130の開閉制御を行う。抵抗型給脂装置10は、制御装置20からグリース補給指示を受けると、所定時間ソレノイドバルブ130,130を開く。
コンプレッサ140は、ソレノイドバルブ130が開状態の場合、ソレノイドバルブ130,130を介してグリースタンク120,120にエアを補給し、各グリースタンク120内のピストン121に圧力を加える。圧力を加えられたピストン121は、グリースタンク120内のグリースを下流に押し込むことにより、給脂ノズル122を介して、軸受装置100の内部に追加グリースを補給する。一方、ソレノイドバルブ130が閉状態の場合、コンプレッサ140からのエアは、ソレノイドバルブ130で遮断される。この場合、グリースタンク120には圧力が伝達されず、追加グリースは軸受装置100内に補給されない。
図3は、本実施形態の制御装置20の詳細を示すブロック図である。制御装置20は、CPU21、パルス検出器22、及び、RAM23を有している。
パルス検出器22は、回転センサ40からのパルス信号を基に、単位時間(本実施形態では1秒)毎に、すなわち、リアルタイムで軸受装置100の主軸101の回転速度を算出する。パルス検出器22は、算出した主軸101の回転速度データを単位時間毎にCPU21に送出する。
RAM23は、所定のプログラムやデータを記憶するための不揮発性の記憶部であり、制御装置20の電源がオフとなっても、電池等の補助電源により、記憶内容を保持する。本実施形態では、グリース補給間隔の可変制御プログラムがRAM23に保存されている。RAM23には、制御装置20に接続されたコンピュータ等の外部機器30からアクセス可能であり、外部機器30を介して、プログラム等を書き換え可能に構成されている。外部機器30は、LAN、インターネット等のネットワークを介して接続されていてもよい。
CPU21は、制御装置20の各部を統括的に制御する。CPU21は、RAM23に保存された可変制御プログラムを起動し、パルス検出器22から回転速度データを受け取る毎に、可変制御プログラムに従い、グリース補給タイミング算出のための処理を行う。
本実施形態の可変制御プログラムは、回転速度領域を、"停止領域"、"低速領域"、及び、"高速領域"の3領域に分け、それぞれの回転速度領域毎に所定の加算値を有している。具体的に、"停止領域"とは主軸101の回転速度が0min-1である領域、"低速領域"とは主軸101の回転速度が0min-1より大きく18000min-1以下である領域、そして"高速領域"とは主軸101の回転速度が18000min-1より大きい領域を指す。ここでは、"停止領域"に0、"低速領域"に1、そして"高速領域"に10がそれぞれ加算値として与えられている。
CPU21は、可変制御プログラムに従い、主軸101の回転速度が与えられる毎に、その時点での回転速度がどの回転速度領域に属しているか判断する。そして、対応する回転速度領域に対応する加算値を、RAM23に保存された積算値に加える。そして、CPU21は、積算値が所定の上限以上となったとき、抵抗型給脂装置10にグリース補給指示を送る。
ここでは、積算値の上限は、900000に設定されている。この値は、高速領域での連続運転時では、25時間で補給が行われる値である。これは、主軸101の最高回転速度22000min-1での軸受破壊時間が100時間であり、安全をみこして破壊時間に対し20〜40%の値にグリース補給時間が収まるように積算値の上限及び高速領域の加算値(10)を決定している。また、低速領域の加算値(1)は、低速領域と高速領域の境界値18000min-1での破壊時間が1000時間であることを考慮し、軸受装置100が低速領域内で連続運転される場合には、破壊時間の25%に相当する250時間でグリースが補給されるように積算値の上限及び低速領域の加算値を決定している。
図4は、本実施形態のグリース補給タイミング算出のための処理を示すフローチャートである。以下、本実施形態のグリース補給タイミング算出アルゴリズム(プログラム)について説明する。
制御装置20のパルス検出器22は、回転センサ40のパルス信号をもとに、1秒毎に主軸101の回転速度を算出し、CPU21に回転速度データを送る。CPU21は、回転速度データを受信し、読み込む(ステップS1)。
回転速度データを読み込んだCPU21は、まず軸101が停止しているかどうかを判断する(ステップS2)。ここで、停止している場合には、RAM23に保存されている積算値に0を加え(ステップS3)、ステップS4に移行する。一方、停止していない場合には、ステップS3を迂回し、ステップS4に移行する。
次に、CPU21は、軸101の回転速度が低速領域にあるかどうかを判断する(ステップS4)。ここで、低速領域にある場合には、RAM23に保存されている積算値に1を加え(ステップS5)、ステップS6に移行する。一方、低速領域にない場合には、ステップS5を迂回し、ステップS6に移行する。
次に、CPU21は、軸101の回転速度が高速領域にあるかどうかを判断する(ステップS6)。ここで、高速領域にある場合には、RAM23に保存されている積算値に10を加え(ステップS7)、ステップS8に移行する。一方、高速領域にない場合には、ステップS7を迂回し、ステップS8に移行する。
そして、CPU21は、RAM23に保存されている積算値を確認し、積算値が900000以上となっているかどうかを判断する(ステップS8)。積算値が900000以上となった場合には、抵抗型給脂装置10にグリース補給指示(給脂指令)を送り(ステップS9)、積算値を0にリセットする(ステップS10)。そして、次の回転速度データの到着を待ち、回転速度データを受け取るためステップS1に戻る。一方、積算値が900000より小さい場合には、回転速度データの到着を待ち、回転速度データを受け取るためステップS1に戻る。
以上により、制御装置20は、グリース補給タイミングを算出し、抵抗型給脂装置10にグリース補給指示を送出する。
その後、抵抗型給脂装置10は、ソレノイドバルブ130,130にバルブ開信号を送出し、ソレノイドバルブ130,130を所定時間の間だけ閉状態から開状態に変更する。ソレノイドバルブ130,130が開状態になると、コンプレッサ140から送出されるエアは、ソレノイドバルブ130,130を介してグリースタンク120,120に補給され、グリースタンク120,120内のピストン121,121に圧力を加える。圧力を加えられたピストン121は、グリースタンク120内のグリースを下流に押し込むことにより、給脂ノズル122を介して、軸受装置100の内部に追加グリースを補給する。所定時間が経過すると、抵抗型給脂装置10は、ソレノイドバルブ130,130を閉状態にして追加グリース補給を終了する。
図5は、本実施形態のグリース補給動作を示すタイムチャートである。図5(a)は回転速度の時間変化を、図5(b)は積算値の時間変化を、図5(c)は、上記本実施形態のグリース補給タイミング算出アルゴリズムに基づき決定された補給タイミングを、図5(d)は、一定間隔(25時間)毎に補給を行う場合の補給タイミングを、それぞれ示す図である。
図5(a)及び図5(b)からわかるように、主軸101の回転速度が高速領域にある場合には、積算値の増加の傾きは大きく、主軸101の回転速度が低速領域にある場合には、積算値の増加の傾きは小さい。また、主軸101が停止している場合には、積算値は増加しない。すなわち、回転速度が速い場合には、積算値の増加が速いため、グリース補給間隔が短くなり、回転速度が遅い場合には、積算値の増加が遅いため、グリース補給間隔が長くなる。また、主軸101が回転しない場合には、グリースは補給されない。
また、図5(c)及び図5(d)を比較すると、本実施形態に従った場合には、主軸101の回転速度に応じて、グリースの補給が為されているが、所定時間毎に補給する場合には、回転速度の大きさ、または、回転の有無に関わらず、定期的にグリースが補給されることとなる。本実施形態では、軸受装置の回転頻度、すなわち、グリースの劣化状態に応じて適切にグリースを補給しているが、従来の方法では、グリースの劣化状態に関係なくグリースを補給していることがわかる。このように本実施形態によれば、補給回数を従来に比べて減少し、且つ、適切なタイミングでグリースを補給することが可能となる。
以上、本実施形態によれば、主軸101の回転速度を1秒ごとに読み取る。回転速度領域は、回転速度に応じて、"停止領域"、"低速領域"、"高速領域"の3領域に分けられており、それぞれの領域に応じた加算値を積算値に加える。そして、積算値が所定値以上となった場合にのみ、制御装置20は、追加グリース補給を抵抗型給脂装置10に指示する。従って、軸受装置の回転頻度、すなわち、グリースの劣化状態に応じて適切にグリースを補給することが可能となる。また、制御装置20は、主軸101が回転していない場合には、積算値に0を加えることにより、積算値を増加させない。これにより、主軸101が非回転状態にあるときに、グリースを補給するような無駄は発生しない。従って、過剰グリースの攪拌抵抗による無駄な発熱を抑えることが可能である。よって、異常昇温による軸受の焼付等の故障を未然に防止し、主軸101の取付け精度を高い状態に維持し軸受の長寿命化が可能となる。
なお、本実施形態においては、グリース補給装置として、抵抗型給脂装置を使用したが、これに限られず、積算値が所定値以上となったときに、軸受110,110にグリースを補給可能な装置であればなんでもよい。例えば、定量吐出型の給脂装置等を用いることが可能である。
また、本実施形態においては、背面組合せ形のアンギュラ玉軸受110,110を用いたが、これに限られず、正面組合せ形のアンギュラ玉軸受を用いてもよい。また、他の種類の玉軸受やころ軸受等のその他の転がり軸受を用いてもよい。
また、本実施形態では、加算値を高速領域で10、低速領域で1、停止時に0としたが、これに限られず、主軸101及び軸受110の使用状態に応じて、適宜所望の値を設定することが可能である。また、積算値の最大値についても、使用状態や耐久性等を考慮して、所望の値に設定することが可能である。
また、本実施形態では、1秒毎に回転速度を算出したが、適宜所望の値に設定することが可能である。
(第2実施形態)
以下、本発明に係る第2実施形態の潤滑装置としてのグリース補給システムについて説明する。なお、本実施形態において、第1実施形態に挙げた要素と同一の要素については重複を避け、記載の説明を適宜省略する。
本実施形態では、グリース補給システムの構造は、第1実施形態の構造と同一である。本実施形態では、制御装置20内で起動、実行されるグリース補給タイミングの可変制御プログラムが一部異なる。
本実施形態の可変制御プログラムは、回転速度領域を、"停止領域"、"低速領域"、"中速領域"、及び、"高速領域"の4領域に分け、それぞれの回転速度領域毎に所定の加算値を有している。具体的に、"停止領域"とは主軸101の回転速度が0min-1である領域、"低速領域"とは主軸101の回転速度が0min-1より大きく14000min-1以下である領域、"中速領域"とは主軸101の回転速度が14000min-1より大きく18000min-1以下である領域、そして"高速領域"とは主軸101の回転速度が18000min-1より大きい領域を指す。ここでは、"停止領域"に0、"低速領域"に0.1、"中速領域"に1、そして"高速領域"に10がそれぞれ加算値として与えられている。
CPU21は、可変制御プログラムに従い、主軸101の回転速度が与えられる毎に、その時点での回転速度がどの回転速度領域に属しているか判断する。そして、対応する回転速度領域に与えられた加算値を、RAM23に保存された積算値に加える。そして、CPU21は、積算値以上となったとき、抵抗型給脂装置10にグリース補給指示を送る。ここでも、第1実施形態と同様に、積算値の上限は、900000に設定されている。
図6は、本実施形態のグリース補給タイミング算出のための処理を示すフローチャートである。以下、本実施形態のグリース補給タイミング算出アルゴリズムについて説明する。
制御装置20のパルス検出器22は、回転センサ40のパルス信号をもとに、1秒毎に主軸101の回転速度を算出し、CPU21に回転速度データ送る。CPU21は、回転速度データを受信し、読み込む(ステップS11)。
回転速度データを読み込んだCPU21は、まず軸101が停止しているかどうかを判断する(ステップS12)。ここで、停止している場合には、RAM23に保存されている積算値に0を加え(ステップS13)、ステップS14に移行する。一方、停止していない場合には、ステップS13を迂回し、ステップS14に移行する。
次に、CPU21は、軸101の回転速度が低速領域にあるかどうかを判断する(ステップS14)。ここで、低速領域にある場合には、RAM23に保存されている積算値に0.1を加え(ステップS15)、ステップS16に移行する。一方、低速領域にない場合には、ステップS15を迂回し、ステップS16に移行する。
次に、CPU21は、軸101の回転速度が中速領域にあるかどうかを判断する(ステップS16)。ここで、中速領域にある場合には、RAM23に保存されている積算値に1を加え(ステップS17)、ステップS18に移行する。一方、中速領域にない場合には、ステップS17を迂回し、ステップS18に移行する。
次に、CPU21は、軸101の回転速度が高速領域にあるかどうかを判断する(ステップS18)。ここで、高速領域にある場合には、RAM23に保存されている積算値に10を加え(ステップS19)、ステップS20に移行する。一方、高速領域にない場合には、ステップS19を迂回し、ステップS20に移行する。
そして、CPU21は、RAM23に保存されている積算値を確認し、積算値が900000以上となっているかどうかを判断する(ステップS20)。積算値が900000以上となった場合には、抵抗型給脂装置10にグリース補給指示(給脂指令)を送り(ステップS21)、積算値を0にリセットする(ステップS22)。そして、次の回転速度データの到着を待ち、回転速度データを受け取るためステップS11に戻る。一方、積算値が900000より小さい場合には、回転速度データの到着を待ち、回転速度データを受け取るためステップS11に戻る。
以上により、制御装置20は、グリース補給タイミングを算出し、抵抗型給脂装置10にグリース補給指示を送出する。
その後、抵抗型給脂装置10は、ソレノイドバルブ130,130にバルブ開信号を送出し、ソレノイドバルブ130,130を所定時間の間だけ閉状態から開状態に変更する。ソレノイドバルブ130,130が開状態になると、コンプレッサ140から送出されるエアは、ソレノイドバルブ130,130を介してグリースタンク120,120に補給され、グリースタンク120,120内のピストン121,121に圧力を加える。圧力を加えられたピストン121は、グリースタンク120内のグリースを下流に押し込むことにより、給脂ノズル122を介して、軸受装置100の内部に追加グリースを補給する。所定時間が経過すると、抵抗型給脂装置10は、ソレノイドバルブ130,130を閉状態にして追加グリース補給を終了する。
図7は、本実施形態のグリース補給動作を示すタイムチャートである。図7(a)は回転速度の時間変化を、図7(b)は積算値の時間変化を、図7(c)は、本実施形態のグリース補給タイミング算出アルゴリズムに基づき決定された補給タイミングを、図7(d)は、一定間隔(25時間)毎に補給を行う場合の補給タイミングを、それぞれ示す図である。
図7(a)及び図7(b)からわかるように、主軸101の回転速度が高速領域にある場合には、積算値の増加の傾きは大きく、主軸101の回転速度が中速領域にある場合には、積算値の増加の傾きは小さく、主軸101の回転速度が低速領域にある場合には、積算値の増加の傾きは微少である。また、主軸101が停止している場合には、積算値は増加しない。すなわち、回転速度が速い場合には、積算値の増加が速いため、グリース補給間隔が短くなり、回転速度が遅い場合には、積算値の増加が遅いため、グリース補給間隔が長くなる。また、主軸101が回転しない場合には、グリースは補給されない。
また、図7(c)及び図7(d)を比較すると、本実施形態に従った場合には、主軸101の回転速度に応じて、グリースの補給が為されているが、所定時間毎に補給する場合には、回転速度の大きさ、または、回転の有無に関わらず、定期的にグリースが補給されることとなる。本実施形態では、軸受装置の回転頻度、すなわち、グリースの劣化状態に応じて適切にグリースを補給しているが、従来の方法では、グリースの劣化状態に関係なくグリースを補給していることがわかる。このように本実施形態によれば、補給回数を従来に比べて減少し、且つ、適切なタイミングでグリースを補給することが可能となる。
以上、本実施形態によれば、主軸101の回転速度を1秒ごとに読み取る。回転速度領域は、回転速度に応じて、"停止領域"、"低速領域"、"中速領域"、"高速領域"の4領域に分けられており、それぞれの領域に応じた加算値を積算値に加える。そして、積算値が所定値以上となった場合にのみ、制御装置20は、追加グリース補給を抵抗型給脂装置10に指示する。従って、軸受装置の回転頻度、すなわち、グリースの劣化状態に応じて適切にグリースを補給することが可能となる。また、制御装置20は、主軸101が回転していない場合には、積算値に0を加えることにより、積算値を増加させない。これにより、主軸101が非回転状態にあるときに、グリースを補給するような無駄は発生しない。従って、過剰グリースの攪拌抵抗による無駄な発熱を抑えることが可能である。よって、異常昇温による軸受の焼付等の故障を未然に防止し、主軸101の取付け精度を高い状態に維持し軸受の長寿命化が可能となる。
また、本実施形態では、回転速度領域を4段階に分けて、加算値を設定しているため、第1実施形態に比べて、実際の回転状況に応じて、より精度よくグリース補給タイミングを決定することが可能となる。
なお、本実施形態においては、グリース補給装置として、抵抗型給脂装置を使用したが、これに限られず、積算値が所定値以上となったときに、軸受110,110にグリースを補給可能な装置であればなんでもよい。例えば、定量吐出型の給脂装置等を用いることが可能である。
また、本実施形態においては、背面組合せ形のアンギュラ玉軸受110,110を用いたが、これに限られず、正面組合せ形のアンギュラ玉軸受を用いてもよい。また、他の種類の玉軸受やころ軸受等のその他の転がり軸受を用いてもよい。
また、本実施形態では、加算値を高速領域で10、中速領域で1、低速領域で0.1、停止時に0としたが、これに限られず、主軸101及び軸受110の使用状態に応じて、適宜消耗の値を設定することが可能である。また、積算値の最大値についても、使用状態や耐久性等を考慮して、所望の値に設定することが可能である。
また、本実施形態では、回転速度領域を4段階に分けて、加算値を設定しているが、これに限られず、状況に応じて、回転速度領域の分割数を適宜設定してもよい。例えば、使用中の回転速度の変化が大きいものについては、分割数を増やすことにより、実際のグリースの劣化状況に即したグリース補給を行うことが容易になると考えられる。回転速度が殆ど変化しないものについては、例えば、"停止領域"と"可動領域"の二つの領域のみを用いることも可能である。
また、本実施形態では、1秒毎に回転速度を算出したが、適宜所望の値に設定することが可能である。
(第3実施形態)
以下、本発明に係る第3実施形態の潤滑装置としてのグリース補給システムについて説明する。
図8は、本発明に係る第3実施形態の軸受装置200の断面図である。軸受装置200は、主軸201と、ハウジング202と、主軸201に外嵌し、且つハウジング202に内嵌したアンギュラ玉軸受210,210とを有している。主軸201は、アンギュラ玉軸受210,210を介して、ハウジング202に対し回転可能である。
主軸201は、図示せぬモータ等の回転駆動機構に接続されており、回転駆動機構の駆動により回転する。本実施形態では、主軸201の最高回転速度は、22000min-1に設定されている。
各アンギュラ玉軸受210は、内輪213、外輪214、転動体としての玉215、及び、保持器216を有している。内輪213は、主軸201に外嵌しており、外周側に玉215を案内する内輪軌道213aを有している。外輪214は、ハウジング202に内嵌しており、内周側に玉215を案内する外輪軌道214aを有している。
玉215は、内輪213の内輪軌道213aと外輪214の外輪軌道214aとの間に転動自在に配置されている。保持器216は、玉215を円周方向等間隔に転動自在に保持している。外輪214は、テーパ部214cを軸方向片側に有している。本実施形態においては、一対のアンギュラ玉軸受210は、それぞれの背面側が対向配置される、いわゆる背面組合せ形(DB)で配置されている。
アンギュラ玉軸受210,210の各内輪213及び外輪214間には、それぞれ主軸201及びハウジング202に沿って配置された内輪間座205及び外輪間座206が配置されている。内輪213及び内輪間座205、並びに、外輪214及び外輪間座206は、内輪押さえ部材203,207及び外輪押さえ部材204により付勢され、各軸受には予圧が与えられている。内輪押さえ部材203及び外輪押さえ部材204の間には、図示せぬ間隙が形成されており、両押さえ部材間にラビリンスを形成している。
本実施形態の外輪間座206には、ハウジング202から径方向に形成された補給孔202a,202a、及び、補給孔206a,206aと連通し、アンギュラ玉軸受210,210の側面に開口した補給孔206b,206bが形成されている。
ハウジング202上には、アンギュラ玉軸受210,210の内部にそれぞれ補給される追加グリースを蓄えるグリースタンク120,120が設けられている。グリースタンク120,120には、それぞれ給脂ノズル122,122が連通している。各給脂ノズル122は、ハウジング202を貫通する貫通孔202aを介して、外輪間座206に形成された補給孔206a内にその先端が差し込まれている。追加グリースは、ピストン121の動作に従い、給脂ノズル122及び補給孔206a及び206bを介して、略軸方向にアンギュラ玉軸受210内へ補給される。
軸受装置200には、主軸201の回転速度を検出する回転センサ40が組み付けられている。回転センサ40は、主軸201に対向し、主軸201上に形成された、スリット、磁石、突起等の検出マークを検出することにより主軸201の回転速度に対応するパルス信号を生成する。
軸受装置200以外の構造は、第1実施形態または第2実施形態に記載したものと同一である。本実施形態では、第1実施形態のように、回転速度領域を3分割して、グリース補給タイミングを決定してもよいし、第2実施形態のように、回転速度領域を4分割して、グリース補給タイミングを決定してもよい。
上記の軸受装置200についても、第1実施形態又は第2実施形態と同様に、グリース補給タイミングを決定することにより、無駄な追加グリース補給を省き、適切なタイミングでグリースを補給することにより、グリース補給回数を減少させることが可能である。
(第4実施形態)
以下、図9〜図15を参照しながら、本発明に係る第4実施形態の潤滑装置としてのグリース補給システムについて説明する。
図9は、本実施形態のグリース補給システム300を示す図であり、図10は、本実施実施形態のグリース補給システム300が取り付けられた主軸装置150を示す図である。グリース補給システム300は、複数の転がり軸受を介して主軸171を回転可能に支承するスピンドル装置である主軸装置150にグリース補給ユニット310が併設された構成となっている。
この主軸装置150は、主軸ハウジング161内に外輪溝付きタイプのアンギュラ玉軸受151及び補給孔が片側に1本設けられた円筒ころ軸受152を用いて主軸171を支持している。なお、図10の主軸装置150は、例示のために異種の軸受を用いているが、同種の軸受のみから構成するようにしてもよい。
主軸ハウジング161は、ハウジング本体162と、ハウジング本体162の前端(図中左側)に内嵌固定された前側軸受ハウジング163と、ハウジング本体162の後側(図中右側)に内嵌固定された後側ハウジング164とを備えている。前側軸受ハウジング163の端部には、外輪押さえ部材165及び内輪押さえ部材166が設けられており、外輪押さえ部材165と内輪押さえ部材166との間には、ラビリンスが形成されている。主軸ハウジング161の後端面は、カバー170によって覆われている。
主軸171は、前側軸受ハウジング163に外嵌する2つのアンギュラ玉軸受151,151と、後側軸受ハウジング164に外嵌する1つの円筒ころ軸受152に内嵌することにより、主軸ハウジング161によって回転自在に支承されている。2つのアンギュラ玉軸受151,151の外輪間には、外輪間座180が配置されており、また内輪間には、内輪間座176が配置されている。
主軸171の軸方向の略中央部には、ロータ186が外嵌固定されている。ロータ186の外周面側には、ステータ187が所定距離離れて同軸配置されている。ステータ187は、ステータ187の外周面側に配置されたステータ固定部材188を介してハウジング本体162に固定されている。ハウジング本体162とステータ固定部材188との間には、主軸171の周方向に沿う方向に複数の溝178が形成されている。この複数の溝178内には、ステータ187の冷却用の冷媒が流される。
同様に、ハウジング本体162と前側軸受ハウジング163との間であって、アンギュラ玉軸受151,151の外周側にあたる部位には、ハウジングおよび軸受冷却用の冷媒が流される複数の溝177が形成されている。
この主軸ハウジング161の後端面には、軸受151,151,152のそれぞれにグリース補給を行うためのグリースが供給される3個のグリース補給口192が周方向に沿って開口している(図16には一つのみ図示)。これらの3つのグリース補給口192は、ハウジング本体162、前側軸受ハウジング163及び後側軸受ハウジング164内に形成されたグリース補給路193a,193b,193cにそれぞれ連通している(図16では、便宜上、各グリース補給路193a,193b,193cを同一断面に図示している)。これにより、本実施形態のスピンドル装置150は、外部に設けられたグリース補給ユニット310からグリース補給管340を介して主軸ハウジング161内にグリース補給可能に構成されている。
グリース補給路193aは、単列円筒ころ軸受152の外輪側に対応して形成された開口196に連通しており、グリース補給路193bは、前側(図左側)に配置されたアンギュラ玉軸受151の外輪側に対応して形成された開口194に連通しており、またグリース補給路193cは、後側(図中央)に配置されたアンギュラ玉軸受151の外輪側に対応して形成された開口195に連通している。これにより、グリース補給ユニット310から補給されたグリースは、各軸受151,151,152の外輪側まで独立に補給される。開口194,195,196は、各軸受151,151,152に形成された補給孔に連通しており、グリースは補給孔を介して軸受空間内部に独立に補給される。
次にグリース補給システム300について説明する。グリース補給システム300は、エア源301からグリース補給ユニット310にエアを供給し、グリース補給ユニット310内のグリースを主軸装置150に補給するものである。以下に、グリース補給システム300を構成する各部材について詳細に説明を行う。
エア源301とグリース補給ユニット310との間には、エアフィルタ302、レギュレータ303、ソレノイドバルブ304、およびエア用圧力センサ305が設けられている。まず、エア源301とグリース補給ユニット310との間に設けられた各部材について説明を行う。
エアフィルタ302は、エア源301から送り出されたエア中の塵埃等を除去するためのフィルタである。エアフィルタ302を通過したエアは、レギュレータ303に送られる。
レギュレータ303は、上流から送られてきたエアの圧力を所定の設定値に調節するためのものである。レギュレータ303により適切な圧力とされたエアは、ソレノイドバルブ304に送られる。
ソレノイドバルブ304は、エア源301側から送られてくるエアを下流に設置されたグリース補給ユニット310側に送り出すエア供給路330を開閉するためのバルブである。このソレノイドバルブ304は、外部に設置された制御器306から送られる電流に応じて開閉動作する。ソレノイドバルブ304の開閉条件については、後述する。
エア用圧力センサ305は、ソレノイドバルブ304の下流側近傍に設けられている。このエア用圧力センサ305は、ソレノイドバルブ304を介してグリース補給ユニット310側に流れるエアの圧力を検出し、監視するためのセンサとして機能する。具体的には、エア用圧力センサ305は、検出した圧力が所定圧力以上となると、ON信号を制御器306に送出する。これにより、エア用圧力センサ305は、所定圧力以上のエアがソレノイドバルブ304からグリース補給ユニット310側に流れていることを制御器306に通知する。
グリース補給ユニット310は、主軸装置150の各軸受151,151,152にグリースを補給するユニットである。このグリース補給ユニット310は、グリース用圧力センサ311と、レベルセンサ312と、図示せぬピストンを内部に有し、グリースを貯蔵するグリースタンク313と、グリースタンク313内のグリースを一定量ずつ吐出する定量吐出装置314と、を備えている。
グリース補給ユニット310には、図9中に示すエア供給路330を介して、エア源301からエアが供給される。このエアは、主軸装置150に補給されるグリースを所定量貯蔵するための容器であるグリースタンク313および定量吐出装置314に供給される。グリースタンク313は、グリースタンク313内にエアが流入すると、グリースタンク313内に設けられたピストンがエアによって押圧され、グリースタンク313内のグリースを加圧する。そして、加圧されたグリースは、定量吐出装置314に送り出され、定量吐出装置314内に充填される。
定量吐出装置314には、グリースタンク313と同様に、ソレノイドバルブ304がONとなると、エアが供給される。供給されたエアは、内部に設けられた図示せぬピストンを押圧し、内部に充填されたグリースを一定量ずつグリース補給管340(図9では、3本図示)に送り出すように構成されている。これら3本のグリース補給管340は、主軸装置150に開口したグリース補給孔192を介してグリース補給路193a,193b,193cにそれぞれ連通している。定量吐出装置314から吐出されたグリースは、グリース補給管340を介してグリース補給路193a,193b,193cに送られ、そして主軸装置150内部の各軸受151,151,152内部にグリースが補給される。
ここで、ソレノイドバルブ304がONとなった後の動作を簡単に説明する。ソレノイドバルブ304がONとなると、エア源301からのエアがグリースタンク313および定量吐出装置314に供給され、グリースタンク313および定量吐出装置314に設けられ各ピストンを押圧する。この状態で、グリースタンク313内部のグリースは、加圧された状態となる。一方、定量吐出装置314内のピストンは、定量吐出装置314内のグリースを加圧し、主軸装置150へグリース補給を行う。そして、ソレノイドバルブ304がOFFとなると、定量吐出装置314内のピストンが元の位置に戻る。このとき、グリースタンク313内のエア圧を一定時間保持できる機構とすることにより、グリースタンク313内のピストンに圧力が負荷された状態となり、加圧されていたグリースが定量吐出装置314内に充填される。この充填されたグリースは、次回のグリース補給時に用いられる。以上が、ソレノイドバルブ304の開閉動作にともなうグリースタンク313および定量吐出装置314内のグリースの移動の説明である。
グリース用圧力センサ311は、グリースタンク313内から定量吐出装置314に送り出されるグリース圧力を検出するセンサである。このグリース圧力センサ311は、このグリース圧力を検出することにより、グリース補給ユニット310に流入したエアによってグリースタンク313内のピストンが正常に作動しているかどうかを監視する。具体的には、グリース用圧力センサ311は、検出した圧力が所定圧力以上となると、ON信号を制御器306に送出する。これにより、グリース用圧力センサ311は、所定圧力以上のエアがソレノイドバルブ304側からグリース補給ユニット310内に流入し、グリースタンク313内のピストンが正常に作動したことを制御器306に通知する。
レベルセンサ312は、上述のグリースタンク313内のグリース残量を監視するためのセンサである。具体的に、レベルセンサ312は、グリースタンク313内のグリース残量が、例えばグリースタンク容量の5%以下に低下すると、OFF信号を制御器306に送出する。これにより、レベルセンサ312は、グリースタンク313内のグリース残量が残り少なくなり、補給、メンテナンス等の時期が近づいていることを制御器306に通知する。
主軸装置150には、主軸の回転速度を検出するための回転センサ321が取り付けられている。回転センサ321は、主軸に対向し、主軸上に形成された、スリット、磁石、突起等の検出マークを検出することにより主軸の回転速度に対応するパルス信号を生成する。検出したパルス信号は、制御器306に送出される。
制御器306は、本グリース補給システム300を統括制御するためのコントローラである。制御器306は、エア用圧力センサ305,グリース用圧力センサ311、レベルセンサ312および回転センサ321から、ON/OFF情報および回転速度情報を受信可能に構成されており、これらから受け取った信号に応じて、ソレノイドバルブ304開閉動作および主軸装置150の主軸回転速度等を制御する。
また、制御器306には、表示装置307、メモリ308及び入力装置309が接続されている。
この表示装置307は、制御器306から送られる信号を表示し、グリース補給システム300の状態をユーザに知らせるためのものである。表示装置307は、制御器306内部での判断結果を表示し、ユーザに本グリース補給システム300の動作状況を通知したり、警告を発してユーザに注意を喚起したりする。
メモリ308には、主軸装置150にグリースを補給するためのプログラムが保存されている。制御器306は、回転センサ321から送られる回転速度情報を受け取る毎に(本実施形態では、0.8秒毎に回転速度情報を受け取る毎に)、プログラムに従い、グリース補給タイミング算出のための処理を行うように構成されている。
本実施形態のプログラムは、回転速度領域を、"低速領域"、"中速領域"、及び"高速領域"の3領域に分け、それぞれの回転速度領域毎に所定の加算値を有している。具体的に、"低速領域"とは主軸装置150の主軸171の回転速度が0min-1以上かつ12000min-1以下である領域(停止状態を含む)、"中速領域"とは主軸装置150の主軸の回転速度が12000min-1より大きくかつ18000min-1以下である領域、そして"高速領域"とは主軸171の回転速度が18000min-1より大きい領域を指す。ここでは、"低速領域"に1、"中速領域"に2、そして"高速領域"に10がそれぞれ加算値として与えられている。
制御器306は、プログラムに従い、主軸171の回転速度が与えられる毎に、その時点での回転速度がどの回転速度領域に属しているか判断する。そして、対応する回転速度領域に対応する加算値を、メモリ308に保存された積算値に加える。そして、制御器306は、積算値が所定の上限以上となったとき、ソレノイドバルブ304に所定の電流を流すことにより、ソレノイドバルブ304を開状態とし、エア源301からグリース補給ユニット310へのエア供給を行い、定量吐出装置314内のグリースを主軸装置150内の各軸受へ補給する。そして、制御器306は、所定時間後にソレノイドバルブ304を閉状態とし、グリースタンク313から定量吐出装置314へのグリース供給が行われる。
ここでは、積算値の上限は、例えば900000に設定されている。この値は、高速領域での連続運転時では、25時間で補給が行われる値である。これは、主軸の最高回転速度22000min-1での軸受破壊時間が100時間であり、安全をみこして破壊時間に対し20〜40%の値にグリース補給時間が収まるように積算値の上限及び高速領域の加算値(10)を決定している。また、低速領域の加算値(1)は、中速領域と高速領域の境界値18000min-1での破壊時間が1000時間であることを考慮し、主軸装置150が低速領域内で連続運転される場合には、破壊時間の25%に相当する250時間でグリースが補給されるように積算値の上限及び低速領域の加算値を決定している。すなわち、本実施形態では、グリース補給システム300の電源がONであれば、主軸が停止している状態であっても、最長250時間で自動的にグリースが補給されるように構成されている。
入力装置309は、制御器306を介してグリース補給システム300を操作するための入力装置であり、スタート釦、リスタート釦、リセット釦等の各種釦から構成されている。ユーザは、これらの釦を介してグリース補給システム300を操作可能に構成されている。
つぎに、図11〜図15に示すフローチャートを参照しながら、本実施形態のグリース補給システム300の制御動作について説明を行う。
まず図11を参照して説明を行う。まず、グリース補給システム300の動作を開始すると、制御器306は、主軸装置150に設けられた回転センサ321から定期的に送られてくる回転速度情報を受け取り、この回転速度情報に基づき主軸装置150の主軸171の回転速度を読み取る(ステップS31)。
そして、読み取った回転速度を基に積算値Nに積算する加算値を決定し、積算処理を行う(ステップS32)。
図12は、ステップ32の積算処理の内容を示すフローチャートである。ここでは、検出した主軸の回転速度が、"低速領域"、"中速領域"、及び"高速領域"の3領域に分けられた回転速度領域のどれに該当するかに応じて、加算値を決定する。
まず、ステップS41において、検出した主軸の回転速度が低速領域(ここでは、0を含み12000min-1以下の領域)であるかどうかを判断する。そして検出した主軸の回転速度が、低速領域に該当すれば積算値Nに1を加えて積算処理を終了する(ステップS42)。
一方、検出した主軸の回転速度が、低速領域に該当しなかった場合には、ステップS43に移行し、検出した主軸の回転速度が中速領域(ここでは、12000min-1より大きく18000min-1以下の領域)であるかどうかを判断する。そして検出した主軸の回転速度が、中速領域に該当すれば積算値Nに2を加えて積算処理を終了する(ステップS44)。
また、検出した主軸の回転速度が中速領域に該当しなければ、主軸の回転速度は高速領域にあると判断し、積算値Nに10を加えて積算処理を終了する(ステップS45)。
再度、図11に戻って説明を行う。ステップS32で積算処理が終了すると、制御器306は、積算値Nが所定値より小さいかどうかについて、例えば9000000より小さいかどうかについての判断を行う(ステップS33)。ここで、積算値が所定値より小さい場合には、ステップS31に戻り、所定時間後再度回転速度を読み込んで、ステップS32で積算処理を行う。
一方、積算値Nが所定値、ここでは900000以上である場合には、グリース補給タイミングであると判断して、ステップS34に移行する。
まず、ステップS34では、制御器306は、積算値Nをリセットして0に戻す。そして、ステップS35にて、制御器306は、ソレノイドバルブ304に所定の電流を流しソレノイドバルブ304を開動作させる(ステップS35)。これにより、ソレノイドバルブ304を介してエアがグリース補給ユニット310に供給され、グリース補給ユニット310内の定量吐出装置314内のピストンを押し下げる。これにより、定量吐出装置314内のグリースが、主軸装置150内部の各転がり軸受の軸受空間内に補給される。また、同時に制御器306は、内部に設けられたグリースショット回数をカウントするグリースショットカウンタの積算値に1を加える。その後、ソレノイドバルブ304は、所定時間後に閉状態となると、定量吐出装置314内のピストンは初期位置に戻るとともに、グリースタンク313から次回供給用のグリースが定量吐出装置314内に供給される。
ここで、ソレノイドバルブ304が開となると、制御器306は、ステップS36,S37およびS38において、エア用圧力センサ305、グリース用圧力センサ311,およびレベルセンサ312からのON・OFF信号の有無を確認し、グリース補給が正常に行われているかどうかについてのチェックを行う。以下、各各チェック動作毎に説明を行う。
図13は、エア用圧力センサ305によるエア圧力チェック動作を説明するためのフローチャートである。
まず、制御器306は、エア用圧力センサ305からON信号を受信したかどうかを確認する(ステップS51)。ここで、エア用圧力センサ305がON、すなわち、エア用圧力センサ305の測定エア圧力が所定値以上となっていると、正常なエア圧力が供給されていると判断し、ステップS52に移行して、エア用圧力センサ305のOFF回数のカウントを0にリセットして、チェックを終了する。
一方、エア用圧力センサ305がOFF、すなわち、エア用圧力センサ305の測定エア圧力が所定値より小さくなっていると、制御器306は、正常なエア圧力が供給されていないと判断し、エア用圧力センサ305のOFF回数のカウントを1加算する(ステップS53)。
そして、ステップS54にて、エア用圧力センサ305のOFF回数が3となっているかどうかを判断する。これは、エア用圧力センサ305のOFF回数は、再トライに何回失敗したかを示すカウンタとなっており、カウンタが2回以下であれば、ステップS35に移行し、ソレノイドバルブ304を再度開動作する。
一方、エア用圧力センサ305のカウンタが3回となっていると、3回ソレノイドバルブ304の開動作をトライしても圧力が所定値とならず、異常が発生していると判断する。そして、ステップS55にて"アラーム1"を表示装置307に表示する。ここで、表示される"アラーム1"は、例えば「確認!エアの圧力不足です。エアの圧力を確認して下さい。」と表示され、レギュレータ303の設定エア圧が適切であるかどうか、またはエア供給路330に何らかの異常がないかどうか等の確認を行うようユーザに促す。
そして、ステップS56にて、制御器306は、主軸装置150の主軸171の最高回転速度の設定を、中速領域(12000min-1より大きく18000min-1以下の領域)の回転速度、例えば15000min-1で回転するように回転速度を落とさせるように制御する。すなわち、初期状態では最高回転速度が例えば22000min-1に設定されていた場合であっても、最高回転速度を15000min-1に制限し、主軸装置150の主軸171がそれ以上の回転速度で回転しないように制限する。
これにより、グリースが補給されないことによるグリース不足により、軸受の焼き付き等が生じにくくなるような制御が行われる。ここで、回転速度の上限を中速領域の最大値18000min-1となるように制御してもよい。
そして、この状態の後は、ステップS57にて、ユーザが何らかの対処を行い、入力装置309中のリスタート釦が押されるまで待機する。このリスタート釦が押されると、制御器306は、表示装置307に表示されていたアラーム1の表示をリセットし(ステップS58)、エア用圧力センサ305のOFF回数を0に再設定し(ステップS59)、ステップS56で設定された回転速度制限を解除して(ステップS60)、ステップS35に戻り、再度ソレノイドバルブ304を開動作する。
エア用圧力センサ305のチェック動作についての説明は以上である。
次に、グリース用圧力センサ311のグリース圧力チェック動作について説明する。図14は、グリース用圧力センサ311のチェック動作を説明するためのフローチャートである。
まず、制御器306は、グリース用圧力センサ311からON信号を受信したかどうかを確認する(ステップS61)。ここで、グリース用圧力センサ311がON、すなわち、グリース用圧力センサ311の圧力が所定値以上となっていると、グリースタンク313内のピストンが正常に作動していると判断し、そのままチェックを終了する。
一方、グリース用圧力センサ311がOFF、すなわち、グリース用圧力センサ311の圧力が所定値より小さくなっていると、グリースタンク313内のピストンが正常に動作しておらず、定量吐出装置314にグリースが供給されていないと判断し、ステップS62にて"アラーム2"を表示装置307に表示する。
ここで、表示される"アラーム2"は、例えば「異常!グリースタンクの圧力不足です。サービスマンに至急連絡をして下さい。回転速度の上限を15000min-1で制限します」と表示され、至急対処を行うようにユーザに促す。
そして、ステップS63にて、制御器306は、主軸装置150の主軸171の最高回転速度の設定を、中速領域(12000min-1より大きく18000min-1以下の領域)の回転速度、例えば15000min-1で回転するように回転速度を落とさせるように制御する。すなわち、初期状態では最高回転速度が例えば22000min-1に設定されていた場合であっても、最高回転速度を15000min-1に制限し、主軸装置150の主軸171がそれ以上の回転速度で回転しないように制限する。
これにより、グリースが補給されないことによるグリース不足により、軸受の焼き付き等が生じにくくなるような制御が行われる。ここで、回転速度の上限を中速領域の最大値18000min-1となるように制御してもよい。
そして、この状態の後は、ステップS64にて、ユーザが何らかの対処を行い、入力装置309中のアラーム解除釦が押されるまで待機する。このアラーム解除釦が押されると、制御器306は、ステップS65にて表示装置307に表示されていたアラーム2の表示をリセット(アラーム3,4が表示されている場合にはこれらも同時にリセット)し、グリースショット回数カウンタを0にリセットし(ステップS66)、ステップS63で設定された回転速度制限を解除して(ステップS67)、グリース用圧力センサ311のチェック動作を終了する。
次に、レベルセンサ312のチェック動作について説明する。図15は、レベルセンサ312のチェック動作を説明するためのフローチャートである。
まず、制御器306は、レベルセンサ312からOFF信号を受信したかどうかを確認する(ステップS71)。ここでレベルセンサ312がON状態であれば、グリースタンク313内のグリース残量は、十分な量(ここでは、グリースタンク容量の5%以上)であると判断し、そのままレベルチェック動作を終了する。
一方、レベルセンサ312がOFFである場合には、グリースタンク313内のグリース残量が、グリースタンク容量の5%未満であり、グリース補給ユニット及び主軸スピンドルのメンテナンスのタイミングが近づいていると判断し、ステップS72にて"アラーム3"を表示装置307に表示する。
ここで、表示される"アラーム3"は、例えば「注意!補給ユニット、スピンドルのメンテナンス時期が近いです。サービスマンに連絡して下さい。」と表示され、ユーザにメンテナンスを行うように促す。
そして、グリースショット回数カウンタに1を加算(ステップS73)し、カウンタを確認し、現在までのグリースショットが30回より少ないかどうかを判断する(ステップS74)。ここで、グリースショット回数が30回より少なければ、問題無しとしてレベルチェックを終了する。
一方、グリースショット回数が30回目であれば、至急グリース補給ユニット310および主軸装置150のメンテナンスが必要であると判断し、ステップS75にて"アラーム4"を表示装置307に表示する。
ここで、表示される"アラーム4"は、例えば「警告!補給ユニット、スピンドルのメンテナンスが必要です。至急サービスマンに連絡して下さい。回転速度の上限を15000min-1で制限します。」と表示され、ユーザにメンテナンスを行うように強く促す。
そして、ステップS76にて、制御器306は、主軸装置150の主軸171の最高回転速度の設定を、中速領域(12000min-1より大きく18000min-1以下の領域)の回転速度、例えば15000min-1で回転するように回転速度を落とさせるように制御する。すなわち、初期状態では最高回転速度が例えば22000min-1に設定されていた場合であっても、最高回転速度を15000min-1に制限し、主軸装置150の主軸171がそれ以上の回転速度で回転しないように制限する。
これにより、グリースタンク313内のグリース残量が少なくなった場合であっても回転速度を落としてやることによりグリース補給スパンを長くしてグリース消費量を抑制し、グリース不足により軸受の焼き付き等が生じにくくなるような制御が行われる。ここで、回転速度の上限を中速領域の最大値18000min-1となるように制御してもよい。
主軸171の回転速度が変更された後には、図14のステップS64に移行し、以後メンテナンスが終了した後は、ステップS64移行の動作を行って、正常状態に復帰する。
制御器306は、ステップS36,S37およびS38において、エア用圧力センサ305、グリース用圧力センサ311,およびレベルセンサ312からのON・OFF信号の有無を確認し、グリース補給が正常に行われているかどうかについてのチェックを行い、グリースが主軸装置150に補給されたことを確認すると、ソレノイドバルブ開動作から所定時間後にソレノイドバルブを閉状態とし、ステップS31に戻って、積算値の積算動作を再開する。
本実施形態では、以上の動作を繰り返すことにより、主軸装置150への断続的なグリース補給が行われる。
以上説明したように、本実施形態によれば、主軸の回転速度を所定時間毎に読み取り、回転速度領域は、回転速度に応じて"低速領域"、"中速領域"、"高速領域"の3領域に分けられており、それぞれの領域に応じた加算値を積算値に加える。そして、積算値が所定値以上となった場合にのみ、主軸装置150に追加グリース補給を行う。
したがって、主軸装置150の回転速度、すなわち、グリースの劣化状態に応じて適切にグリースを補給することが可能となる。また、制御器306は、主軸が回転していない場合であっても、積算値に1を加えることにより、積算値を増加させる。これにより、主軸101が非回転状態にあるときであっても、グリース補給を行う最大時間長が定められている。したがって、主軸装置が停止している場合であっても、電源がONになっていれば最大時間長内にグリースが補給されるため、停止→加速→一定速→減速→停止といったサイクルであっても常に安定したグリースを補給することが可能となる。
また、本実施形態によれば、エア用圧力センサ305およびグリース用圧力センサ311を設け、これらのエア用圧力センサ305,グリース用圧力センサ311の検出状態に応じて、適切なアラームを表示装置307上に表示させるように構成したため、ユーザがメンテナンス時期に特に気を使わなくても、適切なタイミングでユーザに適切なアドバイスを行い、グリース補給システム300を常に正常な状態に保つことが可能となる。これにより、メンテナンス不足による追加グリースの欠如等により生じる恐れのある軸受の破損を未然に防ぐことが可能となる。
また、積算値のリセット回数を積算することにより、グリースタンク内のグリース残量を推定することが可能となり、表示装置307にグリース残量を表示することも可能となり、メンテナンスの時期を予測することができる。
また、本実施形態によれば、主軸の回転状態及び異常検出のレベルに応じて、主軸の回転速度を高速領域よりも一つ下の回転領域中の回転速度に落とすように構成している。すなわち、高速領域で回転していた場合には、一つ下の速度領域である中速領域中の回転速度に落とす。これにより、グリースタンク313内のグリース残量が少なくなった場合であっても回転速度を落としてやることによりグリース補給スパンを長くしてグリース消費量を抑制し、グリース不足により軸受の焼き付き等が生じにくくなるような制御が行われ、その焼き付きが生じる可能性を低減させることが可能となる。
なお、本実施形態では、加算値を高速領域で10、中速領域で2、低速領域で1としたが、これに限られず、主軸及び軸受の使用状態に応じて、適宜消耗の値を設定することが可能である。また、積算値の最大値についても、使用状態や耐久性等を考慮して、所望の値に設定することが可能である。
また、本実施形態では、回転速度領域を3段階に分けて、加算値を設定しているが、これに限られず、状況に応じて、回転速度領域の分割数を適宜設定してもよい。例えば、使用中の回転速度の変化が大きいものについては、分割数を増やすことにより、実際のグリースの劣化状況に即したグリース補給を行うことが容易になると考えられる。
また、本実施形態では、エア圧を利用してグリース補給を行うグリース供給ユニット310を用いたが、これに限られることはなく、エア駆動以外のグリース補給ユニットを用いて、本実施形態と同様のグリース補給タイミングでグリース補給を行うように構成してもよい。
また、本実施形態では、主軸装置150を例示して、グリース補給に関する説明を行ったが、これに限られることはなく、その他の工作機械主軸用スピンドル、モータ用主軸スピンドル等に適用してもよい。
また、本実施形態では、0.8秒毎に回転速度を算出するとして説明を行ったが、これに限られることもなく、状況に応じた任意の時間間隔で回転速度の算出を行うように構成してもよい。