JP4194706B2 - シクロオレフィン系樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シクロオレフィン重合体樹脂を含む樹脂組成物に関する。詳しくは、内包する薬剤あるいは接触する薬剤を変質させない医療機器樹脂材料、電気絶縁性、特に高周波特性に優れた電気絶縁樹脂材料、耐熱性、耐薬品性に優れた電子部品処理樹脂材料、及び透明で複屈折が小さいことを生かした光学材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
医療機器材料は反復使用によるウィルスの二次感染を防ぐために、近年は使い捨てのものに置き換えが進んでいる。例えば、注射薬等は、従来は注射の際にアンプル中から滅菌された注射器で吸引して用いていたが、最近は、予め注射器中に注射薬を吸入してあるプレフィルドシリンジが流通し、使用後の注射器は再使用されずに廃棄されるようになった。医療用の薬品容器においては、内容物の視認が容易なように、ある程度透明性が求められる。そのためガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等が従来用いられている。しかしガラスは焼却できず、割れやすく危険なため、使い捨てには廃棄物処分上の問題がある。またポリエチレン、ポリプロピレンは水分、ガスの透過性が大きく、内容物によっては医薬の変質の問題があった。またポリ塩化ビニルは可塑剤やモノマーが溶出し易く、やはり内容物によっては変質の問題があり、しかも焼却時の塩素系有害ガス発生の問題もある。
【0003】
電気絶縁材料としては、ポリ塩化ビニルやポリエチレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系樹脂が多く用いられて来た。これらは高絶縁抵抗性、高絶縁破壊電圧、低誘電率等の優れた電気特性を有すると共に、低吸水性、耐薬品性に優れる等の特長を有する。しかし耐熱性、特に高温下の剛性が不十分であり、過酷な条件では使用できない等の問題があった。またポリスチレンは高周波絶縁性が低く、耐アーク性や耐トラッキング性に劣る等の問題もあった。ポリエチレンテレフタレートは優れた電気特性と機械的強度、透明性等を兼ね備えた電気絶縁材料であるが、吸水性が大きく、熱水やアルカリによって加水分解を起こしやすい等の問題がある。
【0004】
また、シリコーンウェア・キャリア等の電子部品処理用機材においては真鍮等の金属、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンやペルフルオロアルコキシフッ素樹脂等のフッ素樹脂が用いられている。しかし、金属製の物は重く、また電子部品処理に用いる酸への耐性に劣る。ポリプロピレンやペルフルオロアルコキシフッ素樹脂は成型時の寸法精度に劣り、ポリテトラフルオロエチレンは射出成型が出来ず、削りだし加工が必要になるため生産性に劣る等の問題がある。
【0005】
本発明に係るシクロオレフィン重合体樹脂とは主鎖中にシクロパラフィン環を有する重合である。この種のシクロオレフィン重合体樹脂は既に公知である。例えば、特開平06−136035号公報にノルボルネン系重合体の水素添加物を含む樹脂組成物。特開平09−296028号公報に特定2種のノルボルネン系単量体を開環重合した後に水素添加した重合体。特開平09−324082号公報にフェニル−ノルボルネン類の開環重合体の水素添加物およびエチレン−環状オレフィン共重合体を含む樹脂組成物。特開平06−136057に水素化シクロペンタジエン系樹脂。特表08−810596号公報に特定のノルボルネン系単量体の開環重合体の水素添加物。特開平04−359027号公報にジシクロペンタジエン開環重合体の水素化物に対する開示がなされている。
【0006】
これらのシクロオレフィン系重合体は、高絶縁抵抗性、高絶縁破壊電圧、低誘電率等の優れた電気特性を有すと共に、一般に低吸水性、耐薬品性、耐熱性にも優れる。さらには透明性、低複屈折等の光学特性にも優れるという特長を有する。
【0007】
しかし、これらの重合体は、上記の優れた特長を有するものの、強度特性、特に耐衝撃性に劣るとの問題があった。
【0008】
これに対して、シクロオレフィン系樹脂の耐衝撃性を改良する提案も既になされている。例えば、シクロオレフィン系樹脂に少量のゴム質重合体を混合することによってある程度強度特性、特に耐衝撃性を改良できることも既に公知である。この種の技術の例として、特開平03−0725558号公報にノルボルネン系単量体の開環重合体とゴム質重合体との組成物。特開平03―2811563号公報に極性置換基含有ノルボルネン誘導体の水素添加重合体とゴム質重合体との組成物等の技術が開示されている。これらの技術により、シクロオレフィン重合体樹脂の特長である高絶縁抵抗性、高絶縁破壊電圧、低誘電率等の電気特性および低吸水性、耐薬品性等の特長を保持したまま、ある程度の強度特性、特に耐衝撃性を改良できる。しかしながら、一般に高温剛性で示される耐熱性が低下するとの問題があった。さらにはシクロオレフィン重合体樹脂の大きな特長の一つである光学特性、特に透明性が著しく低下するとの問題もあった。
【0009】
これに対して、特開平09−118812号公報にノルボルネンとスチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体からなる組成物の開示があり、同様な強度特性の改良効果を達成しながら光透過性を若干改良している。しかし、改良するといえども、パール光沢を有することが明細書中に記載される如く、透明というには程遠いものである。
【0010】
また、本発明の樹脂組成物で用いられる(b)成分のトリブロック共重合体も既に公知である。例えば、アメリカ特許3,333,024号にはブロック共重合体、その組成物およびそれらの製造方法に関するものである。具体的にはスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体の芳香環を含めた水素添加(以降は“環水添”と略す)により得られるビニルシクロヘキサン連鎖を含む重合体を開示している。
【0011】
さらには、特公昭53−11556号はビニル芳香族炭化水素−共役ジエンブロック共重合体の環水添加物の製造方法に関するものである。明細書中の記載によれば、得られたビニルシクロヘキサン系重合体の性質は含まれるビニルシクロヘキサン含量によって異なる。ビニルシクロヘキサン含量の高い共重合体は、硬質で光学的に透明なプラスチックであり、ビニルシクロヘキサン含量の低い共重合体は、ゴム状重合体であることが開示されている。
【0012】
この様に本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物を構成する(a)成分のシクロオレフィン重合体樹脂および(b)成分のブロック共重合体は、共に物質として公知であり、また樹脂材料としての一般的性能も公知である。しかしながら、(a)成分および(b)成分の両成分を含む樹脂組成物は、従来知られていなかった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の解決しようとする課題は、シクロオレフィン重合体樹脂の優れた特長である透明性、高剛性(高弾性率)、高耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、低水分透過性、安全衛生性等を保持したまま、欠点である強度特性、特に耐衝撃強度を改善しようとするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者はシクロオレフィン系樹脂の強度特性、特に耐衝撃性の改良について鋭意検討し、本発明を達成した。本発明は、シクロオレフィン重合体樹脂に水添共役ジエンブロックが5〜90重量%の範囲で含有するビニル芳香族炭化水素−共役ジエン−ビニル芳香族炭化水素のトリブロック連鎖を含むブロック共重合体の環水添物、特に一定の分子量の水添共役ジエンを有するブロック共重合体を少量混合することにより、強度特性、特に耐衝撃性を顕著に改善できることを見出し、本発明を達成したものである
即ち、本発明は特許請求の範囲にも示す通り、
(a)シクロオレフィン重合体樹脂 1〜99重量% と
(b)重合体連鎖中に少なくともA−B−Aの一般式で示されるトリブロック連鎖を含むブロック共重合体 99〜1重量%
から成る樹脂組成物
(式中、Aは水素添加されたビニル芳香族炭化水素を主体とし、数平均分子量10,000〜200,000の範囲の重合体ブロックであり、各Aは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Bは水素添加された共役ジエン化合物を主体とし、数平均分子量が5,000〜500,0000の範囲の重合体ブロックである。ブロック共重合体の全オレフィン性不飽和結合の90モル%以上および芳香族環の80モル%以上は水素添加されてており、共役ジエン化合物およびその水素添加物の含率は5〜90重量%の範囲である。)
本発明の樹脂組成物で用いられる(a)成分であるシクロオレフィン系樹脂とは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位から成るシクロオレフィン系重合体である。
【0015】
【化1】
【0016】
なお、上記一般式(1)において、hは0,1または2であり、iは2〜4の整数であり、しかもh+iが3もしくは4である。Rは水素原子、炭素数1〜4の間のアルキル基、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基あるいはカルボン酸のアリコールエステル基であり、各Rは同一構造でも異なった構造でも構わない。また、Rがアルキル基の場合、Rが別のRと結合してビシクロ環を形成しても構わない。jは1以上の整数、kは0もしくは1以上の整数であが、jとkは両セグメントの組成比を示す。
【0017】
具体的なシクロオレフィン系重合体の例としてはノルボルネン系重合体もしくはその水素添加物、ノルボルナジエン系重合体の水素添加物、シクロオレフィンの非開環重合体、シクロペンタジエンおよびシクロヘキサジエンの非開環重合体の水素添加物等が挙げられる。好ましい例はノルボルネン系重合体の開環重合体の水素添加物および1,3−シクロヘキサジエンの非開環重合体の水素添加物である。
【0018】
ノルボルネン系重合体の合成の反応式およびそれを構成するノルボルネン単量体の好ましい置換基の例を化学反応式(2)および化学反応式(3)に示す。
【0019】
【化2】
【0020】
【化3】
【0021】
上記の式に示す如く、ノルボルネン系単量体を開環重合した後、水素添加することによってシクロオレフィン重合体樹脂が得られる。本発明で用いられるノルボルネン系単量体は、例えばノルボルネン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−ノルボルネン等が挙げられる。
【0022】
用いる単量体は上記のノルボルネン系単量体単独あるいはノルボルネン系単量体の2種以上の混合物、あるいは共重合可能な他の単量体を少量含んでいてもよい。共重合可能な好ましい他の単量体の具体例としてシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の環状オレフィンが挙げられる。これらのシクロオレフィン系単量体は開環して直鎖状結合鎖となり、一般に樹脂の耐熱性を低下させることになる。それ故に環構造を形成する単量体が少なくとも50重量%、好ましくは70重量%、特に好ましくは90重量%以上含まなければ本発明の目的とする高耐熱性を有する樹脂としての性能が低下して好ましくない。
【0023】
開環重合に用いられる重合触媒は、通常メタセシス重合触媒と呼ばれるタングステン、モリブデン、クロム系触媒が好ましく利用でき、溶液系で重合される。
【0024】
本発明で用いられるシクロヘキサジエン重合体の好ましい合成の反応式を化学反応式(4)に示す。
【0025】
【化4】
【0026】
式中のp、qはそれぞれ0もしくは1以上の整数を表し、p+qは重合度となる。
【0027】
これらのシクロオレフィン重合体樹脂は1,3シクロヘキサジエンを、例えば有機リチウム開始剤を用いて、炭化水素溶媒中でアニオン重合した後、水素添加することによって得られる。
【0028】
シクロオレフィン重合体樹脂の合成に用いられる重合触媒は、必ずしも上記に限定されるものではない。それぞれの単量体の重合に適切な公知のアニオン重合触媒、カチオン重合触媒、チーグラー触媒、カミンスキー触媒等から選択して使用できる。またはラジカル開始剤を用いたラジカル重合あるいは熱ラジカル重合も単量体によっては好ましく利用できる。一般には重合は−100〜200℃、さらに一般には0〜150℃の範囲で行われる。
【0029】
また通常、単量体の重合は溶媒を使用して行われる。溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶媒、塩化メチル、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0030】
シクロオレフィン系重合体は、重合体構造によっては重合後、水素添加することが必要である。例えば、得られた重合体がオレフィン結合や芳香環を有する場合、この様な重合体の不飽和結合の水素添加能力を有する水素添加触媒の存在下に、水素添加して実質的に完全飽和させることが必要である。その場合の水素添加率は80モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。
【0031】
ここで使用される水素添加触媒は特に限定するものではない。例えばニッケル、コバルト、チタン、ルテニウム、ロジウム、白金、パラジウム等の金属、またはその酸化物、塩、錯体およびこれらの活性炭、珪藻土、アルミナ、シリカ等に担持したもの等が挙げられる。これらの中でも特にラネーニッケル、ラネーコバルト、安定化ニッケルおよびロジウム、ルテニウム、白金のカーボン、アルミナ、シリカ担持触媒が、触媒活性の点で好ましい。
【0032】
水素添加反応は、一般に常圧〜250kg/cm2、50〜200℃の温度にて、溶媒としてシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−オクタン、デカリン、テトラリン、ナフサ等の飽和炭化水素系溶媒、あるいはTHF等のエーテル系溶媒を用いて行う。また、水素添加反応を行う場合、アルコールやエーテル化合物を少量添加して反応性を高めることができる。そのような目的に使用されるアルコールやエーテルの添加量は溶媒100重量部に対して、0.5〜5重量部、好ましくは1〜3重量部である。
【0033】
シクロオレフィン重合体樹脂の好ましい分子量は、極限粘度[η]で示して0.1〜20dl/g、さらに好ましくは0.2〜10dl/g、特に好ましくは0.5〜5dl/gの範囲である。分子量が余りに低いと樹脂組成物の強度が著しく低くなり、分子量が余りに高いと成形加工性が大幅に低下して好ましくない。
【0034】
またシクロオレフィン重合体樹脂のガラス転位温度は、好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上、特に好ましくは120℃以上である。シクロオレフィン重合体樹脂のガラス転位温度が低いと、樹脂組成物の耐熱性低下を来たし好ましくない。
【0035】
本発明の樹脂組成物で用いられる(b)成分は重合体連鎖中に少なくともA−B−Aの一般式で示されるトリブロック連鎖を含むブロック共重合体である。すなわち、ブロック共重合体連鎖中に少なくともA−B−Aのブロックが存在しているブロック共重合体であり、Bはカップリング剤を介して複数のBブロックから構成されていてもよい。さらに具体的なブロック構造として下記式(5)〜(9)の一般式で示される。
【0036】
(A−B)n−A (5)
(A−B)m (6)
B−(A−B)m (7)
{(A−B)n}m−X (8)
{B−(A−B)n}m−X (9)
(式中、Aは環水添されたビニル芳香族炭化水素を主体とし、数平均分子量10,000〜200,000の範囲の重合体ブロックであり、各Aは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。各Bは水素添加された共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックである。本発明の趣旨からしてB−X−Bのブロック連鎖構造は、他の重合体ブロックで分割されている訳ではなく、本願のブロック分子量規定においては1つのBブロックに対応すると考える。即ち、Bブロックおよび特にB−X−Bブロック連鎖の数平均分子量の5,000〜500,0000の範囲であり、各Bは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Xは多官能性のカップリング剤である。nは1以上、mは2以上の整数で表される。ブロック共重合体の全オレフィン性不飽和結合の90モル%以上および芳香族環の80モル%以上は水素添加されており、共役ジエン化合物およびその水素添加物の含率は5〜90重量%の範囲でなければならない。)
また、本願樹脂組成物の(b)成分のトリブロック連鎖を含むブロック共重合体は、上記ブロック構造規定に該当しない不完全なブロック、例えばAの単独重合体、Bの単独重合体、あるいはA−Bジブロック共重合体等を一部含んでいても構わない。この場合でもトリブロック連鎖を含むブロック共重合体が少なくとも50重量%、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上含まれていなければ、本願が目的とする効果、即ち耐衝撃性等の強度特性の改良効果が十分には発現しない。
【0037】
これらのブロック共重合体はリビングアニオン重合法により、ビニル芳香族炭化水素系単量体と共役ジエン系単量体とを順次ブロック共重合した後、水素添加反応により、芳香環を含む不飽和結合を実質的に完全飽和することによって得られる。
【0038】
Aは環水添されたビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックである。ビニル芳香族炭化水素系単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−メチルスチレン、p−tertブチルスチレン、4−フェニルスチレン、p−メトキシスチレン、ビニルナフタレン等の1種または2種以上が挙げられる。特に代表的なものとしてスチレンが挙げられる。また、上記ビニル芳香族炭化水素と共重合可能な他の単量体を、ビニル芳香族炭化水素重合ブロックの特性が失われない範囲で含んでも構わない。
【0039】
Bは水素添加されら共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックである。共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の1種または2種以上が挙げられる。特に、1,3−ブタジエン、イソプレンが一般的である。また、少量のビニル芳香族炭化水素、またはその他の共役ジエン化合物と共重合可能な他の単量体を、共役ジエン重合ブロックの特性が失われない範囲で含んでも構わない。
【0040】
また、A、B各ブロックは完全ブロックであることが好ましいが、各A、Bブロックの境界がランダムな共重合となり、しかもその組成が漸次変化するテーパー構造と成っていても構わない。
【0041】
これら単量体を、いわゆるリビングアニオン重合法と呼ばれる公知の方法で重合する。例えば、特公昭36−19286号、特公昭43−14979号、特公昭49−36957号等に記載された方法を挙げることができる。具体的には、例えば有機リチウム化合物を開始剤とし、塊状あるいは炭化水素溶媒中での溶液重合として実施できる。特にヘキサン、ペンタン、シクロヘキサンの様な炭化水素溶媒中で、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等の第3アミン化合物を必要により混合し、共役ジエン化合物の結合様式を制御し、重合することにより容易に得ることができる。また、必要により重合完了後、末端カップリング剤としてハロゲン化炭化水素、エステル化合物、エポキシ化合物、四塩化珪素等、公知の多官能性カップリング剤を用いて分岐化あるいは放射状の構造を有するブロック共重合体を得ることができる。
【0042】
得られたブロック共重合体は重合後水素添加反応することにより、全オレフィン性不飽和結合は90モル%以上水素添加されていることが必要である。好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは97%以上である。また、芳香族環は 80モル%以上水素添加されている必要がある。好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。水素添加率が低いと、シクロオレフィン重合体樹脂との混和性の低下および樹脂組成物の熱安定性の低下を引き起こして好ましくない。
【0043】
その水素添加反応は、そのブロック共重合体の芳香族環の水素添加能力を有する水添触媒の共存下に、水素添加して得ることができる。具体的には、前記述のシクロオレフィン重合体樹脂の水素添加方法と同様の方法でできる。
【0044】
即ち、このような重合体の芳香族環の水添能力を有する水素添加触媒の存在下に水素添加して得ることができる。使用される水素添加触媒は特に限定するものではない。例えばニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、白金、パラジウム等の金属、またはその酸化物、塩、錯体およびこれらの活性炭、珪藻土、アルミナ、シリカ等に担持したもの等が挙げられる。これらの中でも特にラネーニッケル、ラネーコバルト、安定化ニッケルおよびロジウム、ルテニウム、白金のカーボン、アルミナ、シリカ担持触媒が、触媒活性の点で好ましい。
【0045】
水素添加反応は、一般に常圧〜250kg/cm2、50〜200℃の温度にて、溶媒としてシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−オクタン、デカリン、テトラリン、ナフサ等の飽和炭化水素系溶媒、あるいはTHF等のエーテル系溶媒を用いて行う。また、水素添加反応を行う場合、アルコールやエーテル化合物を少量添加して反応性を高めることができる。そのような目的に使用されるアルコールやエーテルの添加量は溶媒100重量部に対して、0.5〜5重量部、好ましくは1〜3重量部である。
【0046】
この様なブロック共重合体中の水素添加ビニル芳香族炭化水素ブロックの含有量は10〜95重量%である。好ましくは10〜50重量%、特に好ましくは20〜45重量%の範囲である。ブロック共重合体の環水添ビニル芳香族炭化水素ブロックの含有量が高すぎる場合、シクロオレフィン系樹脂組成物のモルホルジーとしての相分離が効果的に進まないためか、耐衝撃性の改良効果が十分発現しない。また、水素添加共役ジエンブロックの含有量が余りに高すぎる場合、シクロオレフィン重合体樹脂とブロック共重合体の混和性が著しく低下して、樹脂組成物の各種物性、例えば透明性や曲げ強度等が低下して好ましくない。
【0047】
また、本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物全体に対する水素添加共役ジエンセグメントの含有量は0.5〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは2〜20重量%、特に好ましくは3〜10重量%の範囲である。樹脂組成物中の水素添加共役ジエン重合体セグメントの含有量が多すぎる場合は、樹脂組成物の耐熱性、剛性が低下して好ましくない。逆に、共役ジエン重合体セグメントの含有量が少なすぎる場合は耐衝撃性の改善効果が十分発現できず、好ましくない。
【0048】
水素添加共役ジエン重合体ブロック、即ちBブロックおよびB−X−Bブロック連鎖の数平均分子量は5,000〜500,000の範囲、好ましくは20,000〜300,000の範囲、特に好ましくは50,00〜200,000の範囲である。水素添加共役ジエン重合体ブロックの重量平均分子量が低くすぎる場合、耐衝撃性の改良効果が十分発現せず好ましくない。水素添加共役ジエン重合体の含有量が高すぎる場合、シクロオレフィン重合体樹脂とブロック共重合体の混和性が著しく低下して、樹脂組成物の各種物性、例えば透明性、強度等が低下して好ましくない。
【0049】
環水添ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック、即ちAブロックの数平均分子量は10,000〜200,000、好ましくは14,000〜100,000、特に好ましくは20,000〜50,000の範囲である。環水添ビニル芳香族炭化水素ブロックの分子量が低いとシクロオレフィン重合体樹脂とブロック共重合体の混和性が著しく低下して、樹脂組成物の各種物性、例えば透明性や曲げ強度等が低下して好ましくない。分子量が余りに高い場合、耐衝撃性が低下して好ましくない。
【0050】
共役ジエンセグメントの結合様式は特に限定しない。しかしながら、水素添加後これらのセグメントから成る重合体ブロックはゴムライクな性質を示すことが好ましい。即ち、常温で結晶化やガラス化しないことが好ましい。そのため、共役ジエンが1,3−ブタジエンである場合、その1,2−結合含率は10モル%〜90モル%、さらに好ましくは20モル%〜60モル%、さらに好ましくは30モル%〜50モル%の範囲である。1,2−結合連鎖がこれより低いと、著しい結晶性が現れ、耐衝撃性の改良効果が低減して好ましくない。
【0051】
本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物は(a)シクロオレフィン重合体樹脂1〜99重量%および(b)重合体連鎖中に少なくともA−B−Aの一般式で示されるトリブロック連鎖を含むブロック共重合体99〜1重量%から成る。好ましい(b)成分の組成は40〜1重量%、さらに好ましくは30〜3重量%、特に好ましくは20〜5重量%の範囲であり、残余の重合体成分は(a)シクロオレフィン重合体樹脂である。
【0052】
(b)成分のブロック共重合体の含量がこれより高いと弾性率、特に高温下の弾性率が低下して好ましくない。またブロック共重合体の含量がこれより低いと強度特性、特に耐衝撃性が低下して好ましくない。
【0053】
上述の重合体成分の混合方法に関しては特に限定するものではない。通常は上述の重合体成分(a)成分のシクロオレフィン重合体樹脂と(b)成分のブロック共重合体とを押出機、プラストミル、バンバリーミキサー等の混練機により溶融混合する方法を用いることができる。また別途に重合あるいは水素添加した後に溶液状態のまま混合したりすることもできる。
【0054】
本発明の樹脂組成物においては、本発明に規定しない公知の樹脂添加物を添加しても構わない。例えば、無機あるいは有機フィラー、顔料、染料、安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、滑剤等を添加して、公知の作用効果を達成することは当然できる。これらの樹脂添加剤の本発明の樹脂組成物への混合時期、方法は特に限定されるものではない。重合製造時に溶液段階で混合すろこともできるし、樹脂成分の混合時に、あるいは成形加工時に混合することもできる。
【0055】
安定剤の例としては、ヒンダードフェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等が挙げられる。ヒンダードフェノール系安定剤とリン系安定剤の併用が耐熱劣化性の向上の観点から特に好ましい。
【0056】
本発明で使用できるヒンダードフェノール系安定剤の具体例としては、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン、3,9−ビス[1,1,−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10−テトラオキサスプロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。
【0057】
また、リン系安定剤の具体例としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスフォナイト、ビス(2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等が挙げられる。
【0058】
安定剤の好適な使用量は樹脂成分100重量部当たり、各0.001〜1重量部である。また、無安定剤でも、本発明の樹脂組成物はそれなりの安定性は有しており、用途により無安定剤が好ましい場合もある。
【0059】
【発明の実施の形態】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における各種重合体構造は、次の方法により測定したものである。
【0060】
(1)極限粘度[η]の測定:
25℃、トルエン中で測定した。
【0061】
(2)分子量測定:
シクロオレフィン重合体樹脂およびブロック共重合体の分子量はゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用い、THFを溶媒として測定した。
【0062】
(3)ブロック共重合体の結合単量体組成比の解析:
水素添加前のブロック共重合体のプロトンNMRから解析した。または補助的に重合時の仕込み単量体組成とその添加率から算出、確認するもできる。
【0063】
(4)重合体ブロックの数平均分子量解析:
ランダム共重合部分を含まない完全ブロック共重合体においては、各ブロックを構成する結合単量体組成比とブロック共重合体全体の分子量から算出した。
【0064】
(5)水素添加率の測定:
プロトンNMRスペクトルに基づき解析した。
【0065】
樹脂製造例−1:
窒素雰囲気下、トルエン溶媒中で、六塩化タングステン、有機アルミ系を重合開始剤、ノルボルネン単量体を開環重合した。重合後、少量のメタノールを添加して成長末端を停止させた。その後溶媒を揮発除去した後、再度シクロヘキサンに溶解し、パラジウム触媒を用い水素添加することにより、シクロオレフィン重合体樹脂を得た。分析の結果、極限粘度[η]1.1、水素添加率はほぼ100%であった。
【0066】
樹脂製造例−2:
窒素雰囲気下、少量のTHFを含むシクロヘキサンを溶媒とし、n−ブチルリチウムを重合開始剤として、スチレン−ブタジエン−スチレンを順次重合することにより、実質的にコンタミのないブロック共重合体を得た。その後、メタノールを少量添加して成長末端を停止させ、パラジウム触媒を用い水素添加することにより、A−B−Aトリブロック共重合体を得た。水素添加反応の前後で分子量分布、分子量の変化は実質的になかった。
【0067】
分析の結果、ブロック共重合体の数平均分子量9.4万、環水添および未水添のスチレン含率35重量%であった。ブタジエン部の結合様式は1,2−結合含率は45モル%であった。プロトンNMR解析結果および仕込み単量体組成から検証できた各ブロックの重量組成比はA:B:A=17.5:65:17.5である。それ故、各ブロックの数平均分子量はA,B,Aそれぞれ1.65万、6.11万、1.65万である。共役ジエン部はほぼ完全に水素添加されており、スチレン部分の水素添加率は99.2%であった。
【0068】
樹脂製造例−3:
樹脂製造例−2と同様にトリブロック共重合体を得た。単量体の仕込みを変化させることにより、ブロックの分子量を振った。各ブロックの数平均分子量はA,B,Aそれぞれ4.23万、1.36万、4.23万、環水添および未水添のスチレン含率86重量%であった。共役ジエン部はほぼ完全に水素添加されており、スチレン部分の水素添加率は99.6%であった。
【0069】
樹脂製造例−4:
樹脂製造例−2で重合したと同様の水素添加前のベース重合体を用い、チタン触媒を用い水素添加することにより、共役ジエンセグメントを選択的に水添した。得られた重合体の共役ジエン部の水素添加率は98%、スチレン部分の水素添加率はほぼ0%であった。A,B,Aそれぞれの数分子量は1.58、5.87、1.58、環水添および未水添のスチレン含率35重量%である。
【0070】
実施例1〜4、および比較例1、2
樹脂製造例−1で得たシクロオレフィン重合体樹脂(PCO)と樹脂製造例−2で得た環水添S−B−Sトリブロック共重合体(SBS)を表1記載の重量組成比で、ラボプラストミルにて混合し、圧縮成型することによりテストピースを作成し、物性を評価した。評価結果を表1に記載する。
【0071】
【表1】
【0072】
注*1)常温でゴム状あるいは極めて軟質なため、弾性率は極めて小さく測定困難、またはHDTは80℃未満となった
注*2)破断しなかった
表中の略語説明
1)PCO含率:シクロオレフィン重合体樹脂の重量含率(重量%)
2)SBS含率:樹脂組成物中の環水添スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体の重量含率(重量%)
3)ゴム含率:環水添スチレン/ブタジエンブロック重合体中の水添および未水添のブタジエンブロックの樹脂組成物における重量含率(重量%)
4)Bd連鎖長:同上のブタジエンブロックの数平均連鎖長(万)
5)弾性率:曲げ弾性率ASTM D790 (kg/cm2)
6)HDT:熱変形温度ASTM D648、荷重18.6kg/cm2(℃)
7)衝撃強度:アイゾット衝撃強度ASTM D256 ノッチ付き
(kg・cm/cm)
8)透明性:目測による透明性の判断
○:ポリスチレン同等の優れた透明性を示す
×:半透明に白濁し、透明性が劣る。
【0073】
比較例3
樹脂合成例−3で得た環水添S−B−Sトリブロック共重合体単味を圧縮成型することによりテストピースを作成し、物性を評価した。評価結果を表2に記載する。
【0074】
比較例4
樹脂製造例−4で得たブタジエン部のみを水添したA−B−Aトリブロック共重合体を、環水添トリブロック共重合体に置き換え、実施例3と同様に評価した。評価結果を表2に記載する。
【0075】
【表2】
【0076】
【発明の効果】
本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物は、シクロオレフィン重合体樹脂の優れた特長である透明性、高耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、低水分透過性等の優れた性能を保持したまま、欠点である強度特性、特に耐衝撃強度を顕著に改善するものである。
Claims (5)
- (a)シクロオレフィン重合体樹脂 1〜99重量% と
(b)重合体連鎖中に少なくともA−B−Aの一般式で示されるトリブロック連鎖を含むブロック共重合体 99〜1重量%
から成る樹脂組成物
(式中、Aは水素添加されたビニル芳香族炭化水素を主体とし、数平均分子量10,000〜200,000の範囲の重合体ブロックであり、各Aは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Bは水素添加された共役ジエン化合物を主体とし、数平均分子量が5,000〜500,0000の範囲の重合体ブロックである。ブロック共重合体の全オレフィン性不飽和結合の90モル%以上および芳香族環の80モル%以上は水素添加されてており、共役ジエン化合物およびその水素添加物の含率は5〜90重量%の範囲である。) - シクロオレフィン重合体樹脂がノルボルネン系単量体の重合体の水素添加物であることを特徴とする特許請求項1記載の樹脂組成物。
- シクロオレフィン系樹脂がシクロヘキサジエンの非開環重合体の水素添加物であることを特徴とする特許請求項1記載の樹脂組成物。
- ブロック共重合体のBブロックである水素添加された共役ジエンセグメントの含有率が組成物全体に対して0.5〜50重量%の範囲にあることを特徴とする特許請求項1ないし3項記載のシクロオレフィン系樹脂組成物。
- (b)成分の共重合体を構成するBブロックが水素添加された1,3−ブタジエンからなる重合体ブロックであって、その結合様式が1,2−結合含率10モル%〜60モル%である請求項1ないし4記載の樹脂組成物。
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