JP4191856B2 - 感光体および該感光体を搭載した画像形成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は有機半導体材からなる光導電層の上にアモルファスシリコンカーバイドもしくはアモルファスカーボンからなるフッ素含有の表面保護層を備えた感光体およびその製法ならびにこの感光体を搭載した画像形成装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機半導体材からなる光導電層により構成した、いわゆるOPC感光体(有機感光体)は高い帯電性が得られ、暗減衰が小さく、さらに長波長に対し優れた光感度が得られるという点で幅広く使用されている。しかも、OPC感光体を使用するに当たって、それを加熱するヒーターを使用しないという利点もある。
【0003】
しかしながら、このようなOPC感光体においては、その表面の硬度が小さいという課題がある。
【0004】
そこで、有機半導体材からなる光導電層の上に炭素または炭素を主成分とする高い硬度の耐磨耗性の被膜を形成する技術が提案されている(特許第2606715号参照)。
【0005】
さらに、導電性支持体上に有機半導体層、炭素、窒素、酸素のうちの少なくとも一つを含むアモルファスシリコン層(以下、アモルファスシリコンをa−Siと略記する)、およびアモルファスシリコンカーバイド層(以下、アモルファスシリコンカーバイドをa−SiCと略記する)を順次積層し、これによってオゾンにさらされたり、吸湿しても画像流れを生じなくする技術も提示されている(特開昭61−275846号参照)。
【0006】
また、特開平2−140754号においても、有機半導体層上にアモルファスシリコンカーバイド層を積層し、表面の硬度を高めとともに、電荷潜像にボケが生じないようにする技術が提示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようにa−SiC表面保護層からなる感光体を使用すると、とくに高湿環境下で耐刷をおこなうと、画像流れと呼ばれる画像不良が発生していた。
【0008】
この画像流れの発生を防止するために、ヒーターを用いて感光体を加熱して、その原因となる水分を飛散させる技術が提示されているが、これによって画像流れが改善されたが、その反面、感光体の帯電能が低下したり、感光体表面にトナーが固着したり、画像形成装置の消費電力が増大し、しかも、OPC感光体には、このようなヒーター加熱をおこなわないことで、ヒーターを用いることで余分に複雑な装置構成になり、生産コストが上がっていた。
【0009】
しかも、OPC感光体は表面硬度が低く、耐久性に劣り、そのために高速印字に適しておらず、高速印字用のOPC感光体が求められている。
【0010】
本発明者は上記事情に鑑みて鋭意研究に努めたところ、OPC感光体の表面保護層をフッ素含有量が12〜35原子%のa−SiCもしくはアモルファスカーボン(a−C)により構成して動的押し込み硬さを90kgf/mm2 以上にしたことで、画像流れおよび画像劣化が生じなくなり、さらに高速印字用として十分に実用性がある画像形成装置が提供されることを見出した。
【0011】
したがって本発明は上記知見により完成されたものであり、その目的はa−SiC表面保護層からなる感光体を使用するに当たり、感光体加熱用ヒーターを設けない程度にまで表面の疎水性を高め、表面保護層の硬度を高めるとともに優れた耐久性を得て、さらに電位特性のバラツキをなくすことで、高信頼性かつ低コストを達成した感光体および高速印字に適した画像形成装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明のさらに他の目的は感光体用のヒーターを設けないことで、構造上簡単となり、製造歩留りが向上し、さらに部品点数が少なくなることで優れた耐久性が得られ、その結果、低コストかつ高信頼性の画像形成装置を提供することにある。
【0014】
さらにまた、本発明の目的は高速印字に適した画像形成装置を提供することにある。
【0015】
ちなみに、画像流れを解消するために、特開平9−204056号には、a−SiC:H表面保護層の元素比率と自由表面の動的押し込み硬さとを規定することで、ヒーターを用いないでもクリーニング手段などにより表面を適度に研磨して、表面層に吸着した放電生成物などを除去し、これによって画像流れを解消する技術が提示されているが、その反面、弾性ローラ(摺擦ローラ)などの研磨手段を設けなければならず、設計上および構成上煩雑になり、製造歩留りを低下させたり、耐久性および信頼性が劣る原因になっていた。
【0016】
特公平7−3597号には、a−Siを主成分とする感光体層の上に水素化アモルファスカーボン(以下、水素化アモルファスカーボンをa−C:Hと略記する)からなる表面保護層を積層し、ついでフッ素を含むガスでプラズマ放電処理をおこない、表面近傍中にCF、CF2 等の官能基を形成し、これによって疎水性を高め、オゾンの照射による疎水性の劣化を抑制して耐環境性が高める技術が提示されているが、感光体用ヒーターを設けないでもよい程度の高い疎水性能は達成されていない。
【0017】
また、特開平10−177265号によれば、上記のようなプラズマ放電処理をおこなうと、膜の表面がエッチングされるにしても、成膜とエッチングを交互に複数回繰り返すことで表面保護層を形成する技術が提案されているが、同技術によれば、表面保護層をBN膜で形成し、1回のエッチングによってエッチングされる膜厚を20Å以上にすることが記載され、このような方法にてBN膜を形成すると成膜速度が低くなり、製造コストが高くなる。さらに表面保護層をBN膜で形成しても、硬度が低く、耐久性に劣ったり、原子レベルにおける結合状態が不安定であるために、電位特性にバラツキが生じていた。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る感光体は、導電性基板上に光導電層と表面保護層とを有するものであって、前記光導電層は有機半導体材からなり、前記表面保護層は、アモルファスシリコンカーバイドもしくはアモルファスカーボンからなる第1領域と、アモルファスシリコンカーバイドもしくはアモルファスカーボンにフッ素を12〜35原子%含有してなる第2領域とを交互に複数形成してなり、且つ、その動的押し込み硬さが90kgf/mm 2 以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る感光体において前記表面保護層は、前記第1領域と前記第2領域との積層が2〜15であるのが好ましい。本発明に係る感光体において、前記表面保護層における前記第1領域の厚さは、該表面保護層における前記第2領域の厚さより小さいのが好ましい。
【0020】
本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る感光体と、前記感光体に電荷を付与する帯電手段と、前記感光体の帯電領域に対して光を照射する露光手段と、前記帯電手段および前記露光手段により前記感光体に形成される静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を被転写材に転写する転写手段と、前記感光体に残留するトナーを除去するクリーニング手段と、前記感光体に残る残余静電潜像を除去する除電手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る画像形成装置において、感光体のプロセススピードA(mm/秒)と、その外径B(mm)との関係をA/B≧3.0にするのが望ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】
感光体の構成
本発明の感光体は図1に示すような積層構造にする。
同図は本発明の実施形態に係る感光体1の層構成であり、導電性基板2の上に有機半導体材からなる光導電層3を塗布形成し、この光導電層3の上にグロー放電分解法などにより表面保護層4を積層する。
【0023】
導電性基板2は銅、黄銅、SUS、Al、Niなどの金属導電体、あるいはガラス、セラミックなどの絶縁体の表面に導電性薄膜を被覆したものなどがある。この導電性基板2はシート状、ベルト状もしくはウェブ状可とう性導電シートでもよく、このようなシートにはSUS、Al、Niなどの金属シート、あるいはポリエステル、ナイロン、ポリイミドなどの高分子樹脂フィルムの上にAl、Niなどの金属もしくは酸化スズ、インジウム・スズ・オキサイド(ITO)などの透明導電性材料や有機導電性材料を蒸着などにより被覆して導電処理したものを用いる。
【0024】
光導電層3は電子供与性化合物と電子吸引性化合物があり、前者には高分子量のものとして、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ピレン−ホルミアルデヒド縮重合体などがあり、また、低分子量のものとしてオキサジアゾール、オキサゾール、ピラゾリン、トリフェニルメタン、ヒドラゾン、トリアリールアミン、N−フェニルカルバゾール、スチルペンなどがあり、この低分子物質は、ポリカーボネート、ポリエステル、メタアクリル樹脂、ポリアミド、アクリルエポキシ、ポリエチレン、フェノール、ポリウレタン、プチラール樹脂、ポリ酢酸ビニル、ユりア樹脂などのバインダに分散されて用いられる。
【0025】
また、電子吸引性化合物には2.4.7−トリニトロフルオレンなどがある。
【0026】
そして、電子供与性化合勿を選択した場合、負帯電型電子写真感光体となり、他方、電子吸引性化合物を選択した場合には正帯電型電子写真感光体となる。さらに単層型としても、電荷発生層と電荷輸送層に分けた機能分離型にしてもよい。
【0027】
また、光導電層3の厚みは10〜50μm、好適には20〜40μmの範囲内にすることで、高い表面電位が得られ、残留電位が低くなる。
【0028】
そして、上記表面保護層4については、シリコンカーバイド(SiC)もしくはカーボン(C)からなるフッ素含有のアモルファス層により構成して、動的押し込み硬さを90kgf/mm2 以上、好適には150kgf/mm2 以上にして、さらにフッ素含有量を12〜35原子%に規定したことを特徴である。
【0029】
すなわち、フッ素含有量は表面保護層4を構成する各種原子の全量に対し12〜35原子%、好適には18〜26原子%にするとよく、12原子%未満の場合には画像流れが発生し、35原子%を超えると結合状態において終端部が増え、原子間のネットワークが少なくなり、C−C、Si−Si、Si−Cというような原子間結合が減少し、これによって膜強度が弱くなり、その結果、膜削れおよびキズが発生する。
【0030】
しかも、本発明においては、フッ素含有量を規定するとともに、硬度を高めることが重要である。すなわち、上述のようにフッ素を12〜35原子%にまで多く含有させる処理(フッ素を含むガスのプラズマ化)をおこなって、表面をエッチングすると、その表面の硬度にバラツキが生じやすくなり、低い硬度になる場合もあり、そこで、原料ガスを希釈ガスでもって希釈させたり、高周波電力を高くする、というような製造条件でもって動的押し込み硬さを90kgf/mm2 以上にまで高めている。さらに一回のエッチング量を少なくすることで、膜強度のバラツキを小さくするとともに、硬度を高めている。
【0031】
本発明にて規定する動的押し込み硬さは島津製作所製の超微小硬度計DYNAMIC ULTRA MICRO HARDNESS TESTER (DUH−201・202)を使用してダイナミック硬さでもって表す。この測定方法によれば、電磁石により圧子(三角すい圧子)を試料に押しつけ、この押圧力を0.1gf〜2gfの荷重まで一定の割合で増加させ、圧子が試料に侵入していく過程で、圧子の試料への侵入深さを自動計測するものであって、その際に生じるくぼみの大きさを顕微鏡にて測定し、塑性変形分から硬さの値を得る。
【0032】
かくして上記構成のように表面保護層4のフッ素含有量を12〜35原子%にして、さらに動的押し込み硬さを90kgf/mm2 以上にしたことで、優れた耐刷性が得られ、紙などでもって擦れる度合いが著しく低減し、これによって優れた耐久性が得られ、画像流れが発生しない高性能な感光体となった。また、このように高硬度の表面保護層4が得られたことで、プロセススピード比の大きな画像形成装置に搭載することができた。
【0033】
表面保護層4の形成方法
つぎに上記構成の表面保護層4の形成方法を図3および図4により述べる。
図3(イ)〜(ニ)は表面保護層4の形成方法Aを示す各工程図であって、図4(イ)〜(ホ)は表面保護層4の他の形成方法Bを示す各工程図である。
【0034】
〔表面保護層4の形成方法Aについて〕
以下、図3の各工程(イ)〜(ニ)を述べる。
(イ)工程:光導電層3の上にグロー放電法によりシリコンカーバイド(SiC)もしくはカーボン(C)からなるアモルファス層6aを成膜形成する。この場合に、基板温度を80℃〜150℃に、好適には100℃〜135℃にする。基板温度が80℃未満の場合には残留電位が大きくなったり、成膜することができず、150℃を越えると光導電層3の一部が溶ける。このように基板温度を下げると、一般的には膜質が低下し、残留電位が高くなる傾向にあるが、高周波電力(RF電力)やガス圧を下げるなどして、最適な成膜条件に設定している。
【0035】
(ロ)工程:フッ素を含むガスによりエッチング処理する。このエッチング処理はCF4 ガス、NF3 ガス、SF6 ガス、C2 F6 ガス、F2 ガス、ClF3 ガス、CHF3 ガス、CH2 F2 ガス、CH3 Fガスなどのガスを用いて、たとえばCF4 ガスを使用した場合であれば、真空度0.35torr、基板温度120℃、高周波電力200Wという条件でもってプラズマ化し、これによってアモルファス層6aの表面から内部に漸次フッ素を侵入させると同時に、表面がエッチングされる。6bはアモルファス層6aのうちフッ素が侵入していない領域(フッ素未侵入領域)、6cはフッ素化領域、6dはアモルファス層6aのうち上層領域のエッチング処理された領域(エッチング領域)である。
【0036】
また、エッチングレートが膜質に影響することもわかり、エッチングレートを50〜500Å/分、好適には100〜250Å/分に規定することで、膜表面に対するダメージが小さくなり、膜剥がれや画像欠陥等が発生しなくなるとともに、十分にフッ素化処理される。
【0037】
フッ素化領域6cにおいては、エッチング処理されたことで、水素原子がフッ素原子に置換されたり、終端部にフッ素原子が結合し、C−F、C−F2 、C−F3 などの官能基が生成され、とくにC−F2 が多く生成される。そして、これらの生成物は疎水性を高めるのに顕著な効果がある。これら各官能基の量はフーリエ変換赤外分光光度計により測定する。
【0038】
(ハ)工程:(ロ)工程のエッチング処理によりフッ素化領域6cが形成されるが、そのエッチング処理をさらに進行させると同時にエッチング領域6dもさらに大きくすることで、実質上フッ素未侵入領域6bがない程度にまでエッチング処理を進める。これによってアモルファス層6aの全体がフッ素化されるまでエッチング処理してフッ素化アモルファス層6eとなす。
【0039】
(ニ)工程:(イ)工程〜(ハ)工程を一サイクルとして、このサイクルを繰り返すことで複数のフッ素化アモルファス層6eを積層する。たとえば、(イ)工程にてアモルファス層6aを2000Åの厚みで成膜形成し、(ロ)工程および(ハ)工程によって1000〜1500Åにする。そして、このようなサイクルを5回繰り返すことで、すなわちフッ素化アモルファス層6eを5層積層することで、表面保護層4を形成する。
【0040】
かくして表面保護層4の形成方法Aによれば、結合エネルギの大きなC−F系の官能基が形成されることで、表面自由エネルギが大幅に小さくなり、耐酸化性に優れ、これにより、放電生成物が付着されにくくなり、現像剤に働く力がほとんど静電引力となって転写性が改善され、その結果、画像流れが発生しなくなった。そして、放電生成物がわずかに付着されても、表面硬度が高くなったことで、クリーニング手段や紙などでもって容易にクリーニングができ、トナーの付着を抑制したり、防止することができる。
【0041】
本発明においては、(イ)工程〜(ハ)工程により単層のフッ素化アモルファス層6eでもって表面保護層4となしてもよいが、(ロ)工程のエッチング処理が長くなると、フッ素化領域6cの表面が荒れ、これによって膜の密着性が劣ったり、電子写真特性が低下する傾向にあり、そのためにアモルファス層6aの膜厚を小さくし、さらにエッチング処理時間を短くすることで、膜厚の小さいフッ素化アモルファス層6eを成膜形成し、このようなフッ素化アモルファス層6eを積層することで、個々のフッ素化アモルファス層6eの表面粗さを小さくして、膜の密着性が高めたり、電子写真特性を向上できる。望ましくは2層〜15層〔(ニ)工程におけるサイクル数:2〜15〕、最適には3層〜10層〔(ニ)工程におけるサイクル数:3〜10〕のフッ素化アモルファス層6eを積層することで表面保護層4を構成する。
【0042】
〔表面保護層4の形成方法Bについて〕
つぎに図4に示すような表面保護層4の他の形成方法Bを述べる。
この形成方法Bにおいては、上述した形成方法Aに比べて(ハ)工程を除いている。すなわち、(ロ)工程のエッチング処理によりフッ素化領域6cが形成されるが、フッ素未侵入領域6bが残存する程度にエッチング処理を進める。そして、つぎの(ホ)工程にて、(イ)工程および(ロ)工程を一サイクルとして、このサイクルを繰り返すことでフッ素化領域6cとフッ素未侵入領域6bとを交互に積層させ、表面保護層4をなす。
【0043】
このようにフッ素未侵入領域6bが表面保護層4内に存在してもよいが、前述の形成方法Aのようにフッ素未侵入領域6bが存在しない方が成膜の信頼性が向上し、安定した電子写真特性が得られ、さらに生産歩留りも高められる。
【0044】
表面保護層4の形成方法Aおよび形成方法Bのいずれにおいても、アモルファス層6aの膜厚を0.01〜1μm、好適には0.05〜0.5μmにするとよく、この範囲内であれば、適度な量でもってエッチングされ、膜全体に対しフッ素化が容易になるという点でよい。
【0045】
フッ素化領域6cについても、膜厚を0.005〜0.5μm、好適には0.03〜0.3μmにするとよく、この範囲内であれば、耐久性および電位特性の双方を高めるという点でよい。
【0046】
そして、このように成膜した表面保護層4の膜厚を0.1〜1.5μm、好適には0.2〜1.0μmにするとよく、この範囲内であれば、耐久性および電位特性の双方を高めるという点でよい。
【0047】
さらに形成方法Bについては、フッ素未侵入領域6bの膜厚を0.001〜0.05μm、好適には0.001〜0.01μmにするとよく、この範囲内であれば、適度な量でもってエッチングされて均等な膜厚が得られ、安定した膜厚となり、しかも、画像流れが発生しなくなるという点でよい。
【0048】
この形成方法Bにおいても、(イ)工程と(ロ)工程により単一のフッ素化領域6cと単一のフッ素未侵入領域6bとの積層でもって表面保護層4となしてもよいが、フッ素化領域6cの表面の荒れを防ぐために、望ましくは2積層〜15積層〔(ホ)工程におけるサイクル数:2〜15〕、最適には3積層〜10積層〔(ホ)工程におけるサイクル数:3〜10〕の範囲にて表面保護層4を構成する。
【0049】
〔アモルファス層6aの材質について〕
(イ)工程にて成膜形成するアモルファス層6aはシリコンカーバイド(SiC)またはカーボン(C)からなるが、a−C膜はa−SiC膜に比べて硬度が小さいことから、a−SiC膜にて形成するのがよい。そのために原子組成比率SiX C1-X のX値を0.5以下、好適には0.3以下、最適には0.1以下にするとよい。そして、このようにSiを減少させたままで含有させることで耐コロナ性が向上する。ただし、a−C膜については、ガス希釈することで硬度を大きくすることができるが、a−SiC膜にて得られる程度の硬度が得られない。
【0050】
画像形成装置の構成
図2は本発明の感光体を搭載したプリンター構成の画像形成装置7であり、8は感光体であり、この感光体8の周面にコロナ帯電器9と、その帯電後に光照射する露光器10(LEDヘッド)と、トナー像を感光体8の表面に形成するためのトナー11を備えた現像機12と、そのトナー像を被転写材13に転写する転写器14と、その転写後に感光体表面の残留トナーを除去するクリーニング手段15と、その転写後に残余静電潜像を除去する除電手段16とを配設した構成である。また、17は被転写材13に転写されたトナー像を熱もしくは圧力により固着するための定着器である。
【0051】
このカールソン法は次の▲1▼〜▲6▼の各プロセスを繰り返し経る。
▲1▼ 感光体8の周面をコロナ帯電器9により帯電する。
▲2▼ 露光器10により画像を露光することにより、感光体8の表面上に電位コントラストとしての静電潜像を形成する。
▲3▼ この静電潜像を現像機12により現像する。この現像により黒色のトナーが静電潜像との静電引力により感光体表面に付着し、可視化する。
▲4▼ 感光体表面のトナー像を紙などの被転写材13の裏面よりトナーと逆極性の電界を加えて、静電転写し、これにより、画像を被転写材13の上に得る。
▲5▼ 感光体表面の残留トナーをクリーニング手段15により機械的に除去する。▲6▼ 感光体表面を強い光で全面露光し、除電手段16により残余の静電潜像を除去する。
【0052】
なお、画像形成装置7はプリンターの構成であるが、露光器10に代えて原稿からの反射光を通すレンズやミラーなどの光学系を用いれば、複写機の構成の画像形成装置となる。また、この画像形成装置7には通常の乾式現像を用いているが、その他、湿式現像に使用される液体現像剤にも適用される。
【0053】
かくして本発明の画像形成装置7によれば、本発明の感光体8を搭載することで、そのプロセススピードA(mm/秒)と、その外径B(mm)との関係がA/B≧3.0になる程度にまで、高速印字ができるようになった。
【0054】
【実施例】
(例1)
純度99.9%のAlからなる円筒状の基板(外径30mm、長さ254mm)の上に光導電層3を塗布形成し、正帯電のレーザープリンタ用にする。この光導電層3はポリカーボネートとほぼ同量の電荷輸送材料を添加した液にて塗工をおこなう(内面圧式で液温23〜28℃、7分)。その後、端部内外面処理、後熱処理(130℃、80分)をおこなう。
【0055】
ついで表面保護層4を形成方法Aにより設ける。
まず、表1に示す(イ)工程の成膜条件によりカーボン(C)からなるアモルファス層6aを2000Åの厚みで成膜形成する。
【0056】
【表1】
【0057】
つぎに表2に示す(ロ)工程の条件によりエッチング処理する。
【0058】
【表2】
【0059】
表2のエッチング処理を続けることで、(ハ)工程を経ることで、実質上フッ素未侵入領域6bがない程度にまでエッチング処理を進め、これによって膜厚1000Åのフッ素化アモルファス層6eとなす。
【0060】
しかる後に(ニ)工程、すなわち(イ)工程〜(ハ)工程を一サイクルとして、このサイクルを5回繰り返すことでフッ素化アモルファス層6eを5層積層し、動的押し込み硬さが250kgf/mm2 であり、フッ素含有量が24原子%の表面保護層4を形成した。
【0061】
かくして得られた本発明の感光体を前記画像形成装置7(京セラ株式会社製エコシスLS−3550、乾式現像:トナー平均粒径8μm)に搭載し、この装置7に設けられた感光体加熱用ヒーターのスイッチングを常時OFFにして、感光体加熱をおこなわなかった。そして、カールソン法で画像形成して、30万枚のランニングテストをおこない、画像流れと画質を測定したところ、表3に示すような結果(a−C:H:Fからなる表面保護層)が得られた。
【0062】
【表3】
【0063】
画像流れは33℃、85%湿度の環境下で8時間放置し、その画質を3段階にて評価し、○印は画像変化がまったくない場合であり、△印は一部画像が流れた場合であり、×印は全面にわたって画像が流れた場合である。
【0064】
画質は3段階にて評価し、黒ベタ、白ベタおよびハーフトーン画像にて評価し、○印は黒ベタ濃度・白ベタにおいてかぶりにまったく問題なく、また、ハーフトーン画像にスジがまったく発生していない場合であり、△印はハーフトーン画像の一部にスジが発生している場合であり、×印はハーフトーン画像の全面にわたってスジが発生している場合である。
【0065】
比較例として、a−SiC:Hからなる表面保護層やa−C:Hからなる表面保護層を表4および表5に示すような成膜条件にて形成し、その他の層構成を本発明のとおりにして、それぞれの感光体を作製し、同様に評価したところ、表3に示すような結果が得られた。なお、表5に示すSiH4 ガス量は8.3SCCMから2.5SCCMに漸次減少させている。
【0066】
このようなa−SiC:Hからなる表面保護層の動的押し込み硬さは350kgf/mm2 であり、a−C:Hからなる表面保護層の動的押し込み硬さは200kgf/mm2 であった。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
表3に示す結果から明らかなとおり、本発明のようなa−C:H:Fからなる表面保護層を形成したことで、画像流れおよび画質の双方が向上していることがわかる。
【0070】
(例2)
(例1)にて得られた感光体に対し、水素ガスの導入量を変えることで、表面保護層4の動的押し込み硬さ64kgf/mm2 、98kgf/mm2 、290kgf/mm2 、490kgf/mm2 に設定し、それぞれの感光体について(例1)と同様に画像流れと画質を評価測定したところ、表6に示すような結果が得られた。ただし、いずれの感光体もフッ素含有量が12〜35原子%の範囲内にある。
【0071】
【表6】
【0072】
この表から明らかなとおり、表面保護層の動的押し込み硬さを90kgf/mm2 以上にすることで、画像流れおよび画質の双方が向上していることがわかる。
【0073】
(例3)
(例1)にて得られた感光体に対し、表7に示すようにRF電力を変えることで、表面保護層4のフッ素量を規定した各種感光体A〜Gを作製した。
【0074】
【表7】
【0075】
これらの感光体を画像形成装置7に搭載し、画像流れと画質を評価測定したところ、表8と表9に示すような結果が得られた。
【0076】
【表8】
【0077】
【表9】
【0078】
これらの表から明らかなとおり、本発明の試料である感光体C〜Fは画像流れと画質の双方とも優れている。しかし、感光体Gはフッ素含有量が多くなることで結合状態において終端部が増え、原子間のネットワークが少なく、膜強度が弱くなったため、膜削れおよびキズが発生した。
【0079】
(例4)
(例1)にて作製した感光体について、a−SiCの表面保護層を表10に示すようなエッチング条件でもって、表11に示すようにCF4 ガス流量をさまざまに変えることでエッチングも変え、これによって試料a〜h(感光体a〜h)を作製した。
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
そして、各感光体a〜hに対し同様に画像流れと画質を評価測定したところ、表12と表13に示すような結果が得られた。
【0083】
【表12】
【0084】
【表13】
【0085】
以上のとおり、本発明の試料c〜fのようにエッチングレートを50〜500Å/分にしたことで、画像変化がまったくなく、さらに黒ベタ濃度・白ベタにおいてかぶりにまったくなくなった。
【0086】
(例5)
(例1)〜(例4)はa−C:H:Fからなる表面保護層を形成した場合であるが、以下、これに代えてa−SiC:H:Fからなる表面保護層を形成した場合を説明する。
【0087】
(例1)に示す光導電層3の上にa−SiC:H:Fからなる表面保護層4を形成方法Aにより設ける。その場合、表14に示す(イ)工程の成膜条件によりa−SiC:Hからなるアモルファス層6aを2000Åの厚みで成膜形成する。
【0088】
【表14】
【0089】
つぎに表15に示す(ロ)工程の条件によりエッチング処理する。
【0090】
【表15】
【0091】
表15のエッチング処理を続けることで、(ハ)工程を経ることで、実質上フッ素未侵入領域6bがない程度にまでエッチング処理を進め、これによって膜厚1000Åのフッ素化アモルファス層6eとなす。
【0092】
しかる後に(ニ)工程、すなわち(イ)工程〜(ハ)工程を一サイクルとして、このサイクルを5回繰り返すことでフッ素化アモルファス層6eを5層積層し、動的押し込み硬さが300kgf/mm2 であり、フッ素含有量が21原子%の表面保護層4を形成した。
【0093】
かくして得られた本発明の感光体を前記画像形成装置7(京セラ株式会社製エコシスLS−3550、乾式現像:トナー平均粒径8μm)に搭載し、この装置7に設けられた感光体加熱用ヒーターのスイッチングを常時OFFにして、感光体加熱をおこなわなかった。そして、カールソン法で画像形成して、30万枚のランニングテストをおこない、画像流れと画質を測定したところ、表16に示すような結果(a−SiC:H:Fからなる表面保護層)が得られた。
【0094】
【表16】
【0095】
比較例として、(例1)に示すa−SiC:Hからなる表面保護層やa−C:Hからなる表面保護層を記す。
【0096】
表16に示す結果から明らかなとおり、本発明のようなa−SiC:H:Fからなる表面保護層を形成したことで、画像流れおよび画質の双方の点が著しく向上していることがわかる。
【0097】
(例6)
(例5)にて得られた感光体に対し、水素ガスの導入量を変えることで、表面保護層4の動的押し込み硬さ75kgf/mm2 、94kgf/mm2 、310kgf/mm2 、520kgf/mm2 に設定し、それぞれの感光体について画像流れと画質を評価測定したところ、表17に示すような結果が得られた。ただし、いずれの感光体もフッ素含有量が12〜35原子%の範囲内にある。
【0098】
【表17】
【0099】
この表から明らかなとおり、表面保護層の動的押し込み硬さを90kgf/mm2 以上にすることで、画像流れおよび画質の双方が向上していることがわかる。
【0100】
(例7)
(例5)にて得られた感光体に対し、表18に示すようにRF電力を変えることで、表面保護層4のフッ素量を規定した各種感光体A〜Gを作製した。
【0101】
【表18】
【0102】
これらの感光体を画像形成装置7に搭載し、画像流れと画質を評価測定したところ、表19と表20に示すような結果が得られた。
【0103】
【表19】
【0104】
【表20】
【0105】
これらの表から明らかなとおり、本発明の試料である感光体C〜Fは画像流れと画質の双方とも優れている。しかし、感光体Gはフッ素含有量が多くなることで結合状態において終端部が増え、原子間のネットワークが少なく、膜強度が弱くなったため、膜削れおよびキズが発生した。
【0106】
(例8)
(例5)にて作製した感光体について、表21に示すようなエッチング条件でもって、表22に示すようにCF4 ガス流量をさまざまに変えることでエッチングも変え、これによって試料a〜h(感光体a〜h)を作製した。
【0107】
【表21】
【0108】
【表22】
【0109】
そして、各感光体a〜hに対し同様に画像流れと画質を評価測定したところ、表23と表24に示すような結果が得られた。
【0110】
【表23】
【0111】
【表24】
【0112】
以上のとおり、本発明の試料c〜fにようにエッチングレートを50〜500Å/分にしたことで、画像流れと画質の双方とも優れている。
【0113】
(例9)
(例5)にて作製した本発明の感光体について、基板温度を表25に示すように変えることで、電位特性および成膜状況を測定したところ、同表に示すような結果が得られた。
【0114】
【表25】
【0115】
この表から明らかなとおり、基板温度を80℃〜150℃に設定することで、残留電位が小さくなり、膜の溶解もないことがわかる。
【0116】
(例10)
つぎに本発明の画像形成装置7(京セラ株式会社製エコシスFS−1700と、搭載する感光体を変えた比較例の画像形成装置7について、特性評価をおこなったところ、表26に示すような結果が得られた。
【0117】
【表26】
【0118】
本発明の画像形成装置7には(例5)にて作製した本発明の感光体を搭載し、比較例1では(例1)に示すa−SiC:Hからなる表面保護層を備えた感光体と搭載した画像形成装置である。さらに比較例2では(例5)にて作製した本発明の感光体より表面保護層4を形成しないで、その他を同じにした感光体を用いて、その感光体を搭載した画像形成装置である。
【0119】
この結果から明らかなとおり、本発明の画像形成装置7は画質および画像流れともの優れていることがわかる。また、比較例2では画質上キズが発生していた。
【0120】
(例11)
(例5)にて作製した本発明の感光体を搭載した本発明の画像形成装置7(京セラ株式会社製エコシスFS−1700について、周速およびA/Bを変えることで、画像流れと画質を測定したところ、表27に示すような結果が得られた。
【0121】
【表27】
【0122】
この表から明らかなとおり、周速が高くなり、A/Bが3以上にまで高速化してくると、本発明の画像形成装置が効果的になることがわかる。また、比較例2の画像形成装置において、A/Bが3.00ではキズが発生し、削りムラが生じ、A/Bが3.93ではハーフトーンむらが発生していた。
【0123】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明の感光体によれば、有機半導体材からなる光導電層の上に形成したフッ素含有のアモルファスシリコンカーバイド(a−SiC)もしくはアモルファスカーボン(a−C)からなる表面保護層に対し、フッ素含有量を12〜35原子%に、動的押し込み硬さを90kgf/mm2 以上に規定したことで、優れた耐刷性が得られ、紙などでもって擦れる度合いが著しく低減し、しかも、感光体加熱用のヒーターを設けない程度にまで表面の疎水性を高めて、画像流れが発生しなくなり、さらに電位特性のバラツキがなくなり、その結果、高耐久性、高性能、高信頼性、かつ低コストの感光体が提供できた。
【0124】
本発明の感光体の製法によれば、導電性基板上に有機半導体材からなる光導電層を形成し、該光導電層上に基板温度を80℃〜150℃に設定したグロー放電法によりシリコンカーバイド(SiC)もしくはカーボン(C)からなるアモルファス層を成膜形成し、ついでアモルファス層に対しフッ素を含むガスをプラズマ化してエッチング処理すると同時に、膜内に含有させる工程を経ることで、フッ素を12〜35原子%含有し、動的押し込み硬さが90kgf/mm2 以上の表面保護層を形成でき、これによって、上記のような優れた耐久性を備え、さらに高性能かつ高信頼性、低コストを達成した感光体が提供できた。
【0125】
本発明の画像形成装置は、上記本発明の感光体を装着することで、感光体用のヒーターを設けなくてもよく、これにより、構造上簡単となり、製造歩留りが向上し、さらに部品点数が少なくなることで優れた耐久性が得られ、その結果、低コストかつ高信頼性の画像形成装置が提供できた。
【0126】
また、本発明の画像形成装置によれば、表面硬度を高めたことで、感光体のプロセススピードA(mm/秒)と、その外径B(mm)との関係をA/B≧3.0になる程度にまで高速印字ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る感光体の層構成を示す断面図である。
【図2】本発明の画像形成装置の概略図である。
【図3】(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)は本発明に係る表面保護層の形成方法を示す工程図である。
【図4】(イ)、(ロ)および(ホ)は本発明に係る表面保護層の他の形成方法を示す工程図である。
【符号の説明】
1、8 感光体
2 導電性基板
3 光導電層
4 表面保護層
6a アモルファス層
6b フッ素未侵入領域
6c フッ素化領域
6d エッチング領域
6e フッ素化アモルファス層
7 画像形成装置
9 コロナ帯電器
10 露光器
12 現像機
14 転写器
15 クリーニング手段
16 除電手段
17 定着器
Claims (4)
- 導電性基板上に光導電層と表面保護層とを有する感光体であって、
前記光導電層は有機半導体材からなり、
前記表面保護層は、アモルファスシリコンカーバイドもしくはアモルファスカーボンからなる第1領域と、アモルファスシリコンカーバイドもしくはアモルファスカーボンにフッ素を12〜35原子%含有してなる第2領域とを交互に複数形成してなり、且つ、その動的押し込み硬さが90kgf/mm 2 以上であることを特徴とする、感光体。 - 前記表面保護層は、前記第1領域と前記第2領域との積層が2〜15である、請求項1に記載の感光体。
- 前記表面保護層における前記第1領域の厚さは、該表面保護層における前記第2領域の厚さより小さい、請求項1または2に記載の感光体。
- 請求項1から3のいずれかに記載の感光体と、前記感光体に電荷を付与する帯電手段と、前記感光体の帯電領域に対して光を照射する露光手段と、前記帯電手段および前記露光手段により前記感光体に形成される静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を被転写材に転写する転写手段と、前記感光体に残留するトナーを除去するクリーニング手段と、前記感光体に残る残余静電潜像を除去する除電手段とを備えることを特徴とする、画像形成装置。
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