引下げ法において、良好な結晶性を得ようとする場合、固液境界面が形成される領域において準平衡状態が要求されるため、結晶の成長方向の温度が変化せずに安定する領域を、ある程度長く維持する必要がある。しかし、従来の装置においては、温度が安定であると共に均一な十分な長さの領域を得ることが困難であり、その結果、結晶性の高い結晶を得ることが困難であった。また、長く良好な結晶性を得る上で、固液境界面の水平方向における平坦性を維持することも重要である。しかし、従来の装置においては、固液境界面を観察するためののぞき穴を設ける必要があり、該穴の存在によって面内(水平方向)での温度ばらつきが大きくなり、平坦性を維持することが困難であった。このため、従来装置においては、このような温度ばらつきを補償するために、引き下げ方向を回転中心として結晶を回転させる回転機構の付加が必須であった。
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、引下げ法による結晶成長装置に関して、引き下げ方向における十分な長さの温度安定領域と、水平方向において温度ばらつきを低減した、良好な結晶成長を可能とする引下げ法用装置の提供を目的とするものである。
上記課題を解決するために、本発明に係る引下げ装置は、底部に孔を有する坩堝における孔から流出する溶融材料に対し、保持具に保持されて溶融材料と接触することで溶融材料の結晶時における結晶方位を定めるシードを溶融材料に接触させ、保持具を所定の軸に沿って引下げることによって溶融材料から結晶を得る引下げ装置であって、坩堝は高周波を導通可能な高融点材料からなり、坩堝と共に所定の軸を略中心軸とし、坩堝が内周部に配置される高周波放出用のコイルと、所定の軸を略中心とし、コイルの内周部であって坩堝の外周となる位置に配置され、高周波を導通可能な高融点材料からなる筒状の加熱チューブと、を有することを特徴としている。
なお、本装置により得ようとする結晶は、繊維状、円柱状、角柱状、板状、チューブ状等に形状制御されたものを対象とする。上述した溶融材料を流出させる構成は単に孔とのみ述べているが、これら形状制御を行う場合、当該孔は単一の細孔、形状規定された孔、複数の細孔を所定位置に配置したもの等に適宜変更されることが好ましい。なお、形状制御を行う上では、例えば特許文献3に述べられたように、複数の細孔を所定位置に配置し、各々から流出する溶融材料が繊維状結晶となる前の段階にてこれらを結合させ、所定の形状をすることが好ましい。
なお、上述した引下げ装置にあっては、加熱チューブの内周部であって孔の開口部周囲に配置されて所定の軸方向に延在する、高周波を導通可能な高融点材料からなる略筒状のアフターヒータを更に有することが好ましい。また、該引下げ装置は、所定の軸を略中心軸としてコイルの内周部に配置される、高周波を導通しない高融点材料からなる略筒状の保温チューブを更に有することが好ましい。更には、所定の軸方向において坩堝の下方に配置されて坩堝を支持する坩堝ステージと、所定の軸方向において加熱チューブの下方に配置されて加熱チューブを支持するチューブステージと、坩堝ステージとチューブステージとを所定の軸方向において相対的に移動可能とする調整機構と、を有することが好ましい。
本発明によれば、従来装置と比較して、水平方向の温度分布が改善され、温度の変化幅が低減される。従って、結晶の種類によっては、結晶成長時に従来必須とされていた引き下げ軸周りの回転が必要ではなくなる。また、従来装置と比較して、結晶成長方向(引き下げ方向)の温度勾配を緩やかにすることが可能となる。従って、従来、結晶成長時に発生していた結晶外周部の結晶性の劣化や組織変動が抑制され、良好な結晶成長を持続することが可能となる。
また、本発明によれば、従来構成で用いた断熱材としてのセラミックス(主としてアルミナ)からなる管状部材に替えて、高融点金属からなる管状部材を用いている。高融点金属からなる管状部材の中には、従来のセラミックス製管状部材と比較して安価なものもあり、結晶製造におけるコストを低減する効果も得られる。
また、本発明によれば、高融点金属からなる管状部材を高周波加熱することにより該部材を発熱させ、これにより材料の加熱を行っている。本発明に係る構成においては、該管状部材の径、高さ等は高周波導入に用いるコイルの径、高さ等に応じて最適な寸法を選択することも可能である。このため、材料の充填量に径或いは高さ等が規制される坩堝のみを高周波加熱した従来の場合と比較して、所謂マッチングが良好となり、効率的な加熱を実現することが可能となる。また、効率的な加熱の実施により、加熱時に要する入力電力を抑制することも可能となり、結晶成長時における高周波電源等の装置に対する負荷も低減可能となる。
また、本発明によれば、坩堝及びアフターヒータを支持するステージと、管状部材を支持するステージとを、各々独立して結晶の引き下げ方向に移動可能としている。当該構成を採用することにより、管状部材の積載が容易になると同時に、加熱領域の構造が安定したものとなる。また、個々のステージを上下動することにより加熱条件の最適化を図ることが可能となり、例えば作成しようとする結晶に応じて、結晶成長方向の温度勾配を適宜変更することも可能となる。
以下に図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る引き下げ装置の主要部であって、該装置の結晶引き下げ方向に沿った断面構成を示している。本実施形態に係る引き下げ装置1は、主たる構成として、坩堝11、アフターヒータ13、加熱チューブ15、ワークコイル17、チューブステージ19、坩堝ステージ21、インナーチューブ23、アウターチューブ25、第一の上下調整機構27、及び第二の上下調整機構29を有している。
本引き下げ装置1は、高周波誘導によって材料の加熱、溶融を行っている。高周波は、内部に冷却用の水等を導通可能な金属製のチューブを所定の内径を有するコイル状に形成したワークコイル17を介して、加熱源等に伝達される。原材料が保持され且つ溶融される坩堝11は、底面(下端面)が閉止された円筒形状を有しており、カーボン或いは高融点金属(例えば、Re、Ir、W、Ta、Mo、Pt、或いはこれらの合金)から構成される。なお、本実施形態においては、繊維状結晶を得るための装置を対象としていることから、坩堝11から溶融材料流出に用いられる孔は、細孔とされている。即ち、坩堝11の下端面中央には、坩堝内部から坩堝外部に繋がる細孔が設けられている。溶融された原材料は、該細孔から坩堝外部に引き出されて、所定の条件下において結晶化する。
該細孔から漏洩する溶融原材料に種結晶を接触させ、これを所定の引き下げ方向に沿って該細孔から徐々に離すことにより、所望の繊維状結晶が得られる。坩堝11はまた、ワークコイル17と同軸であって且つワークコイル17の長手方向における中央部分に配置される。なお、本実施形態において、坩堝11内部の原材料が効率的に使用可能となるように、該下端面は、細孔が設けられる中央部が最も凸となる円錐形に形成されている。また、結晶の引き下げ方向は後述する坩堝11等の軸方向と一致している。
坩堝11の下方には、坩堝11の下端と当接して該坩堝11を支持する、円筒形状のアフターヒータ13が配置される。アフターヒータ13は、坩堝と同様の材料より構成されており、坩堝11と同軸となるように配置されている。原材料加熱時において、該アフターヒータ13も高周波誘導によって発熱し、坩堝11の下端より漏洩する原材料を加熱可能としている。また、アフターヒータ13の長さは、ワークコイル17の長手方向において中央部に配置される坩堝11と該アフターヒータ13とを当接させて配置した際に、ワークコイル17における有効加熱領域に該アフターヒータ13が収容されるように設定されている。該アフターヒータ13の設置により引き下げ方向における均熱領域が拡大可能となり、結晶育成の条件をより広範なものとすることが可能となる。
また、本実施形態において、アフターヒータ13は、その下端において、円環状の坩堝ステージ21の上面によって支持されている。坩堝ステージ21は、セラミックス、石英等、加熱に用いる高周波に対して絶縁性を有する材料から構成されている。また、坩堝ステージ21は、下面において、該ステージ21と同様の材料からなる円筒状のインナーチューブ23の上端部によって支持されている。これら坩堝11、アフターヒータ13、坩堝ステージ21及びインナーチューブ23は、同軸となるように配置されており、結晶の引き下げ操作は該軸に沿って行われる。また、インナーチューブ23の下端部は第二の上下調整機構29と連結されており、該調整機構29によって軸方向に上下動可能とされている。
本装置において、高周波によって発熱する主たる構成として加熱チューブ15が存在する。加熱チューブ15は、坩堝11の外径よりも大きな内径を有し且つワークコイル17の内径よりも小さな外径を有する円筒形状からなり、高周波を導通可能なカーボン或いは高融点金属(例えば、Re、Ir、W、Ta、Mo、Pt、或いはこれらの合金)から構成されている。該加熱チューブ15は、坩堝11を内部側に収容し、且つ外周側にワークコイル17が存在するようにこれらと同心関係となるように配置される。また、加熱チューブ15の長さは、ワークコイル17の長手方向における有効加熱領域から該チューブ15が僅かにはみ出す程度に設定されている。
加熱チューブ15は、下端部において円環状のチューブステージ19の上面と当接し、該チューブステージ19によって支持される。チューブステージ19の円環内径は坩堝ステージ21の外径よりも大きく設定されており、これらステージが独立して軸方向に移動する際に相互に干渉することを防止している。チューブステージ19は、セラミックス、石英等、加熱に用いる高周波に対して絶縁性を有する材料から構成されている。また、チューブステージ19は、下面において、該ステージ19と同様の材料からなる円筒状のアウターチューブ25の上端部によって支持されている。これら加熱チューブ15、チューブステージ19及びアウターチューブ25は、坩堝11等と同軸となるように配置されており、内部側において、坩堝11、アフターヒータ13、坩堝ステージ21及びインナーヒータ23を収容している。また、アウターチューブ25の下端部は第一の上下調整機構27と連結されており、該調整機構27によって軸方向に上下動可能とされている。
従来の構成においては、ワークコイル17から発せられる高周波による主たる発熱部分は坩堝及びアフターヒータであり、これら発熱源から外部への熱逃げを石英等からなる保温チューブによって防止し、加熱の効率化と均熱領域の拡大を図っていた。しかし、本発明に係る構成においては、主たる発熱部分は加熱チューブ15となる。坩堝11を加熱チューブ15の内部に収容可能でさえあれば、該加熱チューブ15の長さ、内径外径及び配置はワークコイル17が最も効率的に該チューブを発熱し得る値とすることが可能である。従って、該チューブの効率的な発熱が可能となると同時に、該チューブ内部に広範な均熱領域を形成することが可能となる。即ち、当初より坩堝11を収容し得る大きさ或いはこれに近い大きさからなる均熱領域を加熱チューブ15の内部に形成することが可能となる。
なお、加熱チューブ15を介して坩堝11及びアフターヒータ13に伝達される高周波も存在し、本構成においては坩堝11及びアフターヒータ13自体も発熱する。これら発熱源と加熱チューブ15により得られた均熱領域とを好適に相関させることにより、引き下げ方向に長く且つ引き下げ方向と垂直な平面において広範な均熱領域を得ることが可能となる。また、ワークコイル17より放射される高周波を効率的に熱に変換することが可能となり、従来構成の場合と同等の高周波入力値であっても、原材料をより高い温度まで加熱することが可能となる。
また、本構成においては、加熱チューブ15と、坩堝11及びアフターヒータ13とからなる構成とを、各々独立して引き下げ軸方向に移動可能としている。結晶育成の条件を考慮した場合、例えば、坩堝11の細孔から引き下げ方向に形成される均熱領域の長さを適宜改変する必要が生じることが考えられる。この場合の対処として、従来構成においては、アフターヒータを交換する、或いはワークコイルを交換する等の手間を必要とした。しかし、本構成においては、第一の上下調整機構27と第二の上下調整機構29の少なくともいずれかを駆動させることによって、該均熱領域の長さ、より正確には均熱領域に対する結晶育成部位の配置を、簡易且つ迅速に改変することが可能となる。
次に、本発明の更なる実施形態について説明する。図2は、図1と同様の様式にて、本発明の更なる実施形態に係る引き下げ装置の主要部構成を示している。なお、図1に示す構成と同一の構成については同じ参照番号を用いることとする。また、ここでは図1に示す実施形態と異なる部分についてのみ説明することとする。
本実施形態に係る装置は、図1に示す諸構成に加え、更に保温チューブ31を有している。保温チューブ31はセラミックス、石英等の高周波を導通しない材料から構成されており、加熱チューブ15の外径よりも大きな内径と、ワークコイル17の内径よりも小さな外径を有する円筒形状からなる。また、該保温チューブ31の長さは、加熱チューブ15と同等かこれより長くなるように設定されている。該保温チューブ31は、内部に加熱チューブ15を収容し、且つ該加熱チューブ15と同心となるようにして、チューブステージ19の上面に支持される。このように保温チューブ31を配置することにより、加熱チューブ15における外周からワークコイル17方向等への輻射による放熱を抑制し、より効果的に坩堝11の加熱を行うことが可能となる。
なお、上述した実施形態において、種結晶を保持する治具、該治具を引き下げ方向に沿って上下動させる構成、坩堝細孔より漏洩する溶融材料の固液境界面を観察するのぞき窓等の構成を省略している。しかし引き下げ装置においてこれら構成は必須であり、上述の実施形態においては、単に説明の容易化のためにこれら構成が省略されたものであり、実際には従来構成と同様の構成要素が配置されている。また、得ようとする結晶によっては、雰囲気中の酸素分圧の低減、或いは特定のガスからなる雰囲気環境の形成等が必要な場合があり、上述した各構成は、内部空間の減圧、ガス置換等が可能な、密閉された空間内部に配置されることが好ましい。
また、本実施形態において各構成は円筒状或いは円環状の形状からなることとしているが、本発明はこれら形状に限定されない。例えば、坩堝等の延在方向に垂直な断面(端面)の形状が方形となる筒状或いは環状の形状から構成されても良い。この場合、各々の構成が引き下げ方向と平行な所定の軸に対して全て同心となるように配置された際に、各々の構成間に形成される間隔が略一定に保たれれば良い。また、インナーチューブ及びアウターチューブは円筒形状の部材であるとしているが、これらを単なる棒状の部材とし、坩堝ステージ及びチューブステージをこれら棒状の部材によって支持することとしても良い。
また、加熱チューブは一体のみ用いることとしているが、各々内外径の異なる複数のチューブを入れ子式に重ね、これらを一体として用いることとしても良い。また、この場合各々のチューブの長さを異ならせ、これにより均熱領域を変化させても良い。この場合、同一径であってワークコイルに対して長さの短いチューブを複数用意し、これらをワークコイルの長手方向において間隔をあけて配置する構成としても良い。或いは、加熱チューブの外側に配置される保温チューブを複数のチューブからなることとし、前述した加熱チューブと同様の変形を施しても良い。これらチューブ構成の改変により、均熱領域の拡大、加熱効率の改善、特定部位の高温加熱化等、種々の効果の促進を選択的に進めることも可能となる。また、アフターヒータを無くし、加熱チューブに対してアフターヒータの働きを担わせることとしても良い。
また、本実施形態においては、第一及び第二の上下調整機構を用いることとしている。しかしながら、本発明は当該形態に限定されない。具体的には、何れか一方の調整機構のみを配することによっても、均熱領域の調整効果を得ることは可能である。また、更なる実施形態において保温チューブを加熱チューブと同じチューブステージにて支持することとしているが、これを各々独立したステージにより支持することとし、各々のステージを独立して上下調整可能としても良い。また、保温チューブ及び加熱チューブの長さを略同一とし、更にワークコイルの長さをこれら長さより僅かに小さく設定しているが、これら長さも適宜改変されて良い。例えば、ワークコイルの長さを図示した形状より下方に延長し、それ以上に加熱チューブの長さを下方に延長しても良い。これにより加熱チューブにアフターヒータの作用を担わせることが可能となり、アフターヒータを除去することが可能となる。
本発明において、坩堝11は、内部に収容する原材料を溶融する際の温度に対して耐性を有する高融点材料であって、ワークコイル17から放出される高周波によって発熱可能となるような該高周波を導通可能な材料から構成されることを要する。従って、上述したように高融点金属から構成されることが好ましいが、例えばセラミックス表面、或いは内部に高周波が導通可能なるような材料の添加、層形成等を施してこれを形成しても良い。従って、該坩堝は高周波を導通可能な高融点材料から構成されるとして定義されることが好ましい。また、同様の理由から、加熱チューブ15、アフターヒータ13についても高周波を導通可能な高融点材料から構成されるとして定義されることが好ましい。
また、上述したように、各々の構成が円筒である必要がないことから、各々の構成は筒状として定義されることが好ましい。また、形状が円筒でなくなった場合、結晶引下げ方向である所定の軸と各々の構成の中心軸を幾何学的に一致させることが好ましいが、実際の各構成は明確な中心軸を得ることが困難となる場合も考えられ、該中心軸と一致させられるべき各構成の軸は、略中心軸として把握されることが好ましい。また、アフターヒータには結晶育成における固液境界面を観察するのぞき穴等を有する必要があり、該のぞき穴の形成条件によっては正確な意味での筒形状とは異なる可能性もある。従って、アフターヒータの形状は略筒状として把握されることが好ましい。また、第一の上下調整機構及び第二の上下調整機構は、坩堝ステージとチューブステージとを所定の軸方向において各々を相対的に移動可能であれば良い。従って、これら構成は、一体として坩堝ステージとチューブステージとを相対移動させる調整機構として把握されることが好ましい。
次に、本発明を具現化した引下げ装置として、本発明の一実施例について図面を参照して述べる。なお、先の実施形態において述べた構成と同一の作用効果を呈する構成については同一の参照符号を用いることとして、詳細な説明についてはこれを省略することとする。図3は、本実施例に係る引下げ装置を正面から見た場合の構成を示す部分的な断面図を含む正面図である。
上述した実施形態と同様、本実施例係る引下げ装置1は、結晶の引下げ軸を軸心として、ワークコイル17、加熱チューブ15、坩堝11、アフターヒータ13、チューブステージ19、坩堝ステージ21、アウターチューブ25及びインナーチューブ23を有している。アウターチューブ25及びインナーチューブ23は、各々アウターチューブ支持台35及びインナーチューブ支持台37によって各々支持されている。これら構成は、真空槽43の内部に全て配置されている。また、坩堝11の軸方向下方には、同一の軸上を駆動可能なシード保持具39と、該シード保持具39を駆動可能に支持する不図示の引下げ機構部が配置される。
真空槽43は、上下面各々が楕円形を短軸方向に切断して得られる形状を有した略柱状の槽からなり、平面となる側面は開口面43aとされている。開口面43aには不図示のドアが開閉自在に取り付けられており、開口面43aの外周部分と不図示のドアとの当接部分に配置される不図示のシール部材によって該真空槽43内部の密閉性が保たれている。真空槽43は、その底面において鉛直方向に略延在する小径のベローズ43bの上面と連結されている。また、ベローズ43bは下端部において不図示のXYテーブルの表面に密着固定されており、真空槽43、ドア、ベローズ43b及びXYテーブルの上面とにより真空空間が形成される。該真空空間は不図示の排気系15と接続されており、該排気系によって当該空間内部の排気を行い、当該空間の減圧、及び圧力制御が行われる。
シード保持具39は、ベローズ43b内部を貫通するように配置され、その下端部がXYテーブルの上面に固定されている。XYテーブルは、シード保持具39を水平面内において直交するX、Yの2軸方向に駆動する。XYテーブルは引下げ機構により鉛直方向に上下動可能に支持されており、シード保持具39は所定の速度にて鉛直方向下方に駆動される。ワークコイル17は、不図示のシール部材が挿嵌された真空槽43に設けられた導入穴43cを介して、真空槽外部の不図示の高周波発振装置及びワークコイル用上下調節機構45に接続されている。該上下調整機構45はワークコイル17を軸方向に駆動し、ワークコイル17と坩堝11との位置関係の調節及び真空槽43内部におけるワークコイル17配置の調節を行う。このワークコイル用上下調節機構45は、公知のモータ、ボールねじ、ボールねじ軸、リニアガイド等から構成されているが、該駆動装置は本発明の主たる構成ではないことからここでの説明は省略する。
真空槽43は、坩堝5の下方に形成される溶融材料と結晶との固液境界面を異なる方向から観察可能とする不図示ののぞき窓も更に有している。のぞき窓の外部には、撮影光軸が該のぞき窓を介して上述した固液境界面の略中心部に至る撮像装置が配置されていることが好ましい。該固液境界面はワークコイル17、加熱チューブ15及びアフターヒータ13に囲まれる領域に存在する。このため、加熱チューブ17及びアフターヒータ13には、その側面に対して、該固液境界面をのぞき窓から観察可能となるように不図示の貫通穴が設けられている。
アウターチューブ支持台35は、不図示のシール部材が挿嵌された真空槽43に設けられた第二の導入穴43dを介して、真空槽外部に配置された第一の上下調整機構27に接続されている。該上下調整機構27は、上述したように加熱チューブ15を軸方向に駆動し、ワークコイル17と加熱チューブ15との位置関係の調節及び加熱チューブ15と坩堝11との位置関係の調節を行う。この第一の上下調整機構27は、公知のモータ、ボールねじ、ボールねじ軸、リニアガイド等から構成されているが、該駆動装置は本発明の主たる構成ではないことからここでの説明は省略する。
インナーチューブ支持台37は、不図示のシール部材が挿嵌された真空槽43に設けられた第三の導入穴43eを介して、真空槽外部に配置された第二の上下調整機構29に接続されている。該上下調整機構29は、上述したように坩堝11及びアフターヒータ13を軸方向に駆動し、ワークコイル17と坩堝11との位置関係の調節及び加熱チューブ15と坩堝11との位置関係の調節を行う。この第二の上下調整機構29は、公知のモータ、ボールねじ、ボールねじ軸、リニアガイド等から構成されているが、該駆動装置は本発明の主たる構成ではないことからここでの説明は省略する。
真空槽43には不図示のガス供給系が接続されており、当該ガス供給形を介して、結晶成長時に求められる雰囲気ガスの真空空間への導入が図られる。また上述したバルブの何れかの開度、及びガス供給量を制御することにより、結晶成長時の圧力を制御する。また、真空槽43は不図示の真空排気系に接続されるが、該真空排気系は実際の結晶成長に必要となる引下げ速度、操作圧力、到達真空度等に応じて、適宜変更されることが望ましい。また、真空槽43の形状は、坩堝、種結晶、耐火物等の交換、メンテナンス等を行うための作業空間を確保する観点から、側面が最も大きく解放可能となる本実施例に述べた形状としているが、本発明に係る真空槽の形状はこれに限定されず、加熱条件、作業性、生産性等の観点から適宜変更されることが望ましい。
次に、実際に本装置を用いて試料の加熱テストを行った結果について述べる。図4Aは当該装置における固液境界面内(水平面内)における温度分布を、また図4Bは従来構成、即ち本発明における加熱チューブではなく従来の断熱材を配置した構成における固液境界面内における温度分布を示している。なお、両図中XY軸は、加熱チューブ等におけるのぞき窓が形成された位置を基準として、のぞき窓から見た場合の視野中心と一致する方向をY軸とし、Y軸と垂直な方向をX軸としている。また、のぞき窓がX軸上の0mm点、Y軸上の-1.5mm点の外方に位置することとしている。更に、図中に示される線の間が同一温度領域となる範囲を示しており、各線は4℃間隔で記入されている。これら図より、本発明の実施によって、固液境界面における温度分布幅の低減(20℃から5℃まで低減)と、温度分布自体の低減が達成されることが理解される。また、のぞき窓の影響も低減される。
図5に、引下げ方向における温度勾配の測定結果を示す。図においては、本実施例における温度勾配(変化)と上述した従来構成における温度勾配とを示している。なお、横軸の距離は、坩堝11の細孔の開口部分を0mmとし、この位置から軸方向の各点(引下げ軸上の各点)での温度測定を行っている。その結果、均熱領域の長さは3mmから9mmに延長され、且つ同一条件において試料温度を80℃上昇させることが確認された。即ち、本発明の実施によって、均熱領域の延長と共に、加熱効率の向上という効果が得られることが確認された。
1:引下げ装置、 11:坩堝、 13:アフターヒータ、 15:加熱チューブ、 17:ワークコイル、 19:チューブステージ、 21:坩堝ステージ、 23:インナーチューブ、 25:アウターチューブ、 27:第一の上下調整機構、 29:第二の上下調整機構、 31:保温チューブ、 35:アウターチューブ支持台、 37:インナーチューブ支持台、 39:シード保持具、 43:真空槽、 45:ワークコイル用上下調整機構