JP4190049B2 - 形材の引張曲げ加工方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、形材の曲げ加工に関するものであり、量産時に曲げ加工後のスプリングバックが原因で生じる寸法誤差を抑制し、高い形材精度で引張曲げ加工を行うものである。
【0002】
【従来の技術】
曲げ加工には、様々な加工装置が用いられるが、中でも加工精度が高い引張曲げ加工が注目されている。図1に引張曲げ加工の模式図を示す。曲げ加工では、加工後のスプリングバックにより形状が変化するため、所定の製品形状が得られずに、その後の接合、組立等が困難になる場合がある。このため、スプリングバック量を見越した金型及び加工条件設定が必要となってきている。しかし、特に押出形材では、ダイス摩耗等に起因する素材断面形状寸法の変化や素材の機械的特性のバラツキが大きく、量産前に加工条件の最適化を行っても、量産中にある程度の加工精度バラツキが生じる。
【0003】
このため、押し通し曲げ加工の場合には、特開平9−10852公報に見られるように、引張試験時の0.2%耐力に応じて可動型の移動量を変化させ、曲げモーメントを変化させることでスプリングバック量を調整する方法も見られる。しかし、この方法では、同一ビレット間でのバラツキに起因する加工精度の劣化を補うことができない。
この欠点を補うために、特開平9−141339公報に見られるように、押し通し曲げ加工で個々の被加工物の硬度測定を行い、これを材料の耐力に換算して加工条件を決定する方法も見られる。しかし、この方法では、個々の素材の機械的特性のバラツキには対応できても、素材断面形状のバラツキには対応できないことが問題となる。
【0004】
また、引張曲げ加工の場合には、金型に形材を押しつけることで曲げ加工を行うため、上記のような方法でスプリングバックを矯正することはできない。このため、引張曲げ加工では、張力を過大に設定することでスプリングバック量そのものを減少させ、誤差を少なくすることが行われている。しかし、例えばアルミ形材の場合、張力を増加させることで断面変形量が増大することや破断が生じることが問題となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、形材の引張曲げ加工において、量産中の個々の素材の機械的特性、断面形状のバラツキに関わらず、常に安定したスプリングバック量を保証することで加工精度バラツキを抑制し、かつ量産可能な曲げ加工方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、形材を引張曲げ加工するに当たり、形材の曲げ加工前に長手方向に耐力以上の引張応力が加わるような所定の引張ひずみεを加え、耐力に達したときの張力t1を測定した後、加工中に加える張力t2をt1に応じて設定して引張曲げ加工を行うもので、より具体的には、量産開始前の初期の条件出しで、形材の引張曲げ加工において、所定の形状が得られるときに曲げ加工中に加えた張力t2’と、その形材が耐力に達したときの張力t1’を予め基準値として求めておき、量産開始後は、個々の形材について耐力に達したときの張力t1を測定した後、曲げ加工中に加える張力t 2 を張力t 1 に応じて前記基準値を元にt2’/t1’=t2/t1となるように設定する。
なお、本発明の実施に当たっては、曲げ加工前に加える引張ひずみεは耐力をわずかに越えるレベルにとどめることが望ましい。また、張力t1、t1’はチャック部の移動量に対する張力の増加率を測定することで簡便に求めることが可能であるとともに、所定の引張ひずみεが生じたときの張力で代表することも可能である。
【0007】
【発明の実施の形態】
さて、図2に本発明に係る引張曲げ加工方法の模式図を示す。スプリングバックは、曲げ中立軸に対して、内側と外側の流動応力差が原因で生じる。この応力差は、曲げ加工で生じる応力と曲げ加工中に加える張力に起因する引張応力の相対的な関係で定まることになる。特にT5処理を施したアルミ合金形材のように塑性域での加工硬化率が小さい材料では、流動応力はおおむね0.2%耐力で代表可能であることから、スプリングバック量は0.2%耐力と張力に起因する引張応力の比で定まるといえる。また、曲げ加工による加工率が余り大きくない場合も流動応力はおおむね0.2%耐力で代表可能である。つまり、曲げ加工中に加える張力t2を(1)式に応じて決定することで、常に一定のスプリングバック量となる高精度の曲げ加工が可能となる。
t2/t1=X(Const)・・・・(1)
ここで、t1は、曲げ加工前の引張工程で部材が耐力に達したときの張力である。Xは基準値となる定数であり、初期の条件出しで所定の形状が得られたときに曲げ加工中に加えた張力t2’、その部材が耐力に達したときの張力t1’を用いて、X=t2’/t1’のように定められる。
【0008】
(1)式に従って曲げ加工中の張力t2を決定することで、素材の耐力のみならず、部材の肉厚など断面積が変化した場合にも、断面内には常に耐力に対して一定比となる引張応力が加わることになり、素材の機械的性質及び断面寸法バラツキによらず、高精度な曲げ加工製品が得られる。なお、t1は曲げ加工前に素材クランプ間距離Lに応じて0.2%以上の塑性ひずみが加わるようにクランプ部を移動させることで簡便に求まる。また、t1、t1’は耐力以上の引張応力が発生するような所定のひずみ量に達したときの張力で代表することも可能である。
【0009】
量産に対しては、チャック部の変位量が測定できるセンサー、チャック部に生じる張力が測定可能なロードセルあるいは油圧ゲージ等を利用して、t1を測定し、量産開始前の条件出しで設定した基準値と比較、t2を算出するという簡単なフィードバック装置を作成することで簡便に自動化することが可能である。
また、本発明方法では、成形前に耐力値以上の張力を加えることで、素材の長手方向のゆがみ等の矯正も可能であり、素材形状精度の向上という二次的効果も期待できる。
【0010】
成形前に加える引張ひずみ量は、材料の破断伸びの減少を抑えるために耐力をわずかに越えるレベルにとどめることが望ましい。例えばアルミ押出形材の場合は、通常、耐力値が約10〜40kgf/mm以下、弾性率が約7000kgf/mm程度であるが、引張ひずみが耐力をわずか越える程度であれば加工硬化を無視できるから(さらに、T5調質材であれば加工硬化率が小さい)、耐力をσ0.2、弾性率をEとすれば、引張ひずみεは近似的に下記式のように表すことができ、
ε=0.2+(σ0.2/E)×100・・・・(2)
これに上記の数値を当てはめれば、引張ひずみεは略0.3〜0.8%となる。従って、アルミ押出形材の場合、成形前の引張ひずみεを0.3〜0.8%の範囲内で設定するのが望ましい。また、アルミ押出形材として多方面に用いられる6000系アルミ合金のT5調質材の場合、σ0.2は略20〜25kgf/mmであるので、成形前の引張ひずみεを0.5〜0.6の範囲内で設定するのが望ましい。
【0011】
【実施例】
アルミ押出形材(□型形材)を曲げ内側半径1000Rで10.5度の曲げ角度となる製品を作成するべく曲げ加工を行った。供試材は20×20mm(板厚1.5mm)の□型断面形材、6N01−T5材である。供試材の断面形状及び加工条件を図3に示す。
まず、基本加工条件を得るために予備加工を行い、目標とする製品形状は、張力t2’=1.5ton、曲げ設定角度θ=12.8°の引張曲げ加工を行った際に得られることが確認できた。同時に、この供試材は、0.5%の引張ひずみ(ε)を加えたときに2.5tonの張力(t1’)が発生することが測定された。従って、基準値としてt2’/t1’=3/5とした。
【0012】
従来例として、形材の両端をクランプし張力を一定(1.5ton)として引張曲げ加工を行い、本発明例として、形材の両端をクランプして長さ方向に引張ひずみを0.5%加え、そのときに発生した張力(t1)を計測し、t2/t1=3/5となるように張力t2を設定して引張曲げ加工を行った。試験数は、いずれも10本である。なお、素材バラツキによる影響が出ないように、押出材先端から従来例用及び本発明例用として交互に採取し、各10本づつ割り当てた。
引張曲げ試験後、スプリングバックによる戻り角度△θを測定し、スプリングバックを表す△θ/θを計算し、これを図4及び図5に整理して示す。図中横軸は、供試材No.を示している。図中の実線は製品としての目標値である。
【0013】
図4及び図5に示すように、本発明例では顕著にスプリングバック(△θ/θ)のバラツキが少なくなっていることがわかる。各10本の△θ/θの最大値と最小値の差は、本発明例で0.02であるが、従来例では0.08であり、本発明例ではスプリングバック角度のバラツキの範囲は、従来法に比較して約1/4程度まで減少しており、本発明の引張曲げ加工方法により顕著に加工精度が向上したといえる。
【0014】
【発明の効果】
本発明によれば、量産中の個々の素材の機械的特性、断面形状のバラツキに関わらず、常に安定したスプリングバック量を保証することで加工精度バラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 引張曲げ加工の模式図である。
【図2】 本発明に係る引張曲げ加工の工程を説明する模式図である。
【図3】 実施例に用いた形材の断面図(a)、及び試験条件の説明図(b)である。
【図4】 従来例のスプリングバック量を示すグラフである。
【図5】 本発明例のスプリングバック量を示すグラフである。

Claims (3)

  1. 曲げ加工前に形材長手方向に耐力以上の引張応力が加わるような所定の引張ひずみεを加え、耐力に達したときの張力t1を測定した後、曲げ加工中に加える張力t2をt1に応じて設定して引張曲げ加工を行うもので、量産開始前の初期の条件出しとして、形材の引張曲げ加工において所定の形状が得られるときの曲げ加工中に加えた張力t2’と、その形材が耐力に達したときの張力t1’を予め基準値として求めておき、量産開始後は、量産対象の個々の形材について耐力に達したときの張力t1を測定した後、曲げ加工中に加える張力t 2 を張力t 1 に応じて前記基準値を元にt2’/t1’=t2/t1となるように設定することを特徴とする形材の引張曲げ加工方法。
  2. 張力t1及びt1’を、耐力以上の引張応力が発生するような所定の引張ひずみεに達したときの張力で代表することを特徴とする請求項1に記載された形材の引張曲げ加工方法。
  3. アルミ押出形材において、引張ひずみεを0.3〜0.8%としたことを特徴とする請求項1又は2に記載された形材の引張曲げ加工方法。
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