JP4189234B2 - 電波吸収蓋部材およびこれを用いた高周波装置 - Google Patents

電波吸収蓋部材およびこれを用いた高周波装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高周波素子を収容する高周波装置に用いられる電波吸収蓋部材および高周波装置に関し、特にマイクロ波帯やミリ波帯の高周波(電磁波)の吸収特性に優れる電波吸収蓋部材および高周波装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電波吸収蓋部材の断面図を図4に、従来の高周波装置の断面図を図5に示す。これらの図に示すように、11は電波吸収蓋部材、12は金属蓋体、13は電波吸収層、14は高周波装置、15は基体、16は高周波素子、Sは接合材である。
【0003】
近年、電子機器はますます高速化、高密度化、デジタル化が進み、小型、多機能化も加速傾向にある。電子機器の小型多機能化の要求から、特にマイクロ波帯やミリ波帯で使用される高周波素子16は、配線基板への部品実装密度が非常に高まり、高周波素子16のピン間、周辺回路、他の高周波素子等に電磁波障害が発生するといった問題がある。この原因は、高周波素子16としての多数の半導体素子にあり、個々の半導体素子で発生する微弱な電磁波が他の半導体素子にとっては妨害波(放射ノイズ)となり、配線の線間結合やピン間の結合の増大、放射ノイズによる電磁干渉に起因する性能劣化や異常共振等が誘起され、電磁波障害が発生するためである。
【0004】
従来、このようないわゆる電磁波障害に対しては、回路にノイズフィルタを挿入したり、高周波素子16の周囲を金属板や金属メッキ層等の導電層をコーティングしたケースで囲んで成る電磁シールディングを施したり、または電波吸収シートから成る電波吸収層13を回路基板表面、高周波装置14表面に熱硬化性樹脂、低融点ガラスあるいは半田等の低融点ロウ材などの接合材Sで貼り付けて、電磁波障害を抑制してきた(下記の特許文献1参照)。
【0005】
また、針状または扁平状であって表面に酸化被膜を有する軟磁性粉末と有機結合剤等とを含む複合磁性体で構成されているEMI(Electro Magnetic Interference:電磁的障害)対策部品を、高周波装置の上面に配置して電磁波障害を抑制することが提案されている(下記の特許文献2参照)。
【0006】
さらに、ガラスまたはセラミックスをマトリックスとし、Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Fe,Ni,Co,Cu,Al,Mg,Znおよびそれらの合金、ステンレス鋼、パーマロイおよび超耐熱性合金から選ばれる少なくとも一種である金属粒子を複合相とする複合材料から成る電波吸収材料が開示されている(下記の特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開2002−289720号公報
【0008】
【特許文献2】
特開平10−64714号公報
【0009】
【特許文献3】
特開平9−255408号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載されている、電波吸収シートから成る電波吸収層13を高周波装置14表面に貼り付けるといった手段は、高周波装置14全体の厚さが厚くなり、機器の小型化には不利である。また、電波吸収層13がゴムやエポキシ樹脂等に磁性材料を混合させたものであり、また金属蓋体12に電波吸収層13を樹脂接着剤で貼り付けているため、電波吸収層13や樹脂接着剤の耐熱性が非常に小さいことから、高周波素子16の熱等によって電波吸収層13に容易に反りが起こり、電波吸収層13が金属蓋体12から剥離するといった問題点があった。
【0011】
また、特許文献2に記載されている、EMI対策部品として用いられる扁平状、針状の軟磁性体粉末を用いた複合磁性体も有機結合材を含むため、耐熱性、寸法安定性に劣るといった問題があった。従って、この複合磁性体を高周波装置14の構成部品として用いると、熱硬化性樹脂、低融点ろう材、低融点ガラス等による接合ができないといった問題点があった。
【0012】
さらに、特許文献3に記載されている、ガラスまたはセラミックスをマトリックスとし、Ti等の金属粒子を複合相とする複合材料から成る電波吸収材料は、それ自体は耐熱性および機械的特性に優れたものである。しかしながら、特許文献3には、このような電波吸収材料を他の金属蓋体等に接合性良く被着させて、電波吸収蓋部材やパッケージ、電子装置、半導体装置等に好適に適用する点については一切開示されていない。
【0013】
従って、本発明は上記従来の問題点を鑑みて完成されたものであり、その目的は、電波吸収蓋部材に電波吸収層を直接強固に被着できるようにして、電波吸収層が熱によって剥れることのない低背化された高周波装置を作製できる電波吸収蓋部材およびこれを用いた高周波装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の電波吸収蓋部材は、金属蓋体の一主面に、Ti,ZrおよびHfのうちの1種以上を含有したAg−Cu合金を主成分とする金属層と、該金属層の酸化層と、Ni−Fe合金を主成分とする磁性材を51乃至90質量%および軟化点が250乃至500℃のガラスを10乃至49質量%含有するとともに、厚みが200乃至500μmである電波吸収層とが順次積層されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の電波吸収蓋部材は、電波吸収層が、Ni−Fe合金を主成分とする磁性材を51乃至90質量%および軟化点が250乃至500℃のガラスを10乃至49質量%含有していることから、耐熱性に優れたものとなり、高周波素子の熱や高周波装置を外部電気回路基板等に半田等で接合する際の熱によって電波吸収層が金属蓋体から剥離することがなくなる。また、電波吸収層の厚みが200乃至500μmであることから、電波吸収蓋部材の大幅な薄型化が可能となり、高周波装置の大幅な低背化につながる。
【0016】
また、電波吸収層は、Ti,ZrおよびHfのうちの1種以上を含有したAg−Cu合金を主成分とする金属層と金属層の酸化層とを介して、金属蓋体の一主面に積層されていることから、金属層に含有されるTi,Zr,Hfの活性金属が金属蓋体の金属粒界に拡散して金属蓋体と金属層とを強固に接合するとともに、金属層の酸化層の酸化物が電波吸収層中のガラスの酸化物成分と反応して金属層と電波吸収層とを強固に接合する。その結果、金属蓋体を基体にシーム溶接やロウ付けする際に230〜240℃の熱履歴が加わったとしても、電波吸収層が熱によって剥離することがなくなる。
【0017】
また、電波吸収層が電波吸収して電磁波のエネルギーを熱に変換した際に、その熱を互いに強固に接合された電波吸収層、金属層および金属蓋体を介して外部に効率良く放熱させることができる。
【0018】
本発明の高周波装置は、上面に形成された凹部の底面に高周波素子が載置される載置部を有する基体と、前記載置部に載置固定された高周波素子と、前記基体の上面の前記凹部の周囲に前記一主面が前記高周波素子に対向するように取着された請求項1記載の電波吸収蓋部材とを具備していることを特徴とする。
【0019】
本発明の高周波装置は、上記の構成により、電波吸収層が熱によって剥れることのない低背化されたものとなるとともに、内部で電磁波の共振が発生するのを抑えることができる。その結果、マイクロ波帯やミリ波帯の高周波帯域で良好にEMI対策の施された高周波装置を作製することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の電波吸収蓋部材および高周波装置を以下に詳細に説明する。 図1は、本発明の電波吸収蓋部材の実施の形態の一例を示す断面図、図2はその要部拡大断面図である。これらの図において、1は電波吸収蓋部材、2は金属蓋体、3は電波吸収体、3aは金属層、3bは電波吸収層、3cは酸化層であり、主にこれらで本発明の電波吸収蓋部材1が構成されている。
【0021】
本発明の電波吸収蓋部材1は、金属蓋体2の一主面に、活性金属であるTi,ZrおよびHfのうちの1種以上を含有したAg−Cu合金を主成分とする金属層3aと、金属層3aの酸化層3cと、Ni−Fe合金を主成分とする磁性材を51乃至90質量%および軟化点が250乃至500℃のガラスを10乃至49質量%含有するとともに、厚みが200乃至500μmである電波吸収層3bとが順次積層されている。
【0022】
本発明における金属蓋体2は、例えば42アロイ(Fe−Ni合金)、Fe−Ni−Co合金等の金属や合金から成るが好ましく、これらは電磁波シールド性や電波吸収層3bとの熱整合が良いという利点がある。そして、金属蓋体2は、Fe−Ni−Co合金等の母材を打抜き金型で打抜くことによって、四角形状等の所定の形状に製作される。
【0023】
なお、金属蓋体2の電波吸収層3bが被着されていない領域には、酸化腐食の防止とロウ付け性の向上のため、Niめっき層やAuめっき層等のめっき層が形成されている。
【0024】
本発明の電波吸収層3bは、Ni−Fe合金を主成分とする磁性材を51乃至90質量%および軟化点が250乃至500℃のガラスを10乃至49質量%含有するとともに、厚みが200乃至500μmである。これにより、従来の200℃程度の耐熱性しかないゴムや樹脂に磁性材を混入させたものと異なり耐熱性に優れ、接着剤を用いて貼り付けることもないので電波吸収層3bが金属蓋体2から剥離することもない。したがって、電波吸収層3bは、耐熱性に優れたものとなり、高周波素子の熱や高周波装置を外部電気回路基板等に半田等で接合する際の熱によって電波吸収層3bが金属蓋体2から剥離することがなくなる。また、電波吸収層3bの厚みが200乃至500μmであることから、電波吸収蓋部材1の大幅な薄型化が可能となり、高周波装置の大幅な低背化につながる。
【0025】
Ni−Fe合金を主成分とする磁性材としては、例えば36−パーマロイ(Feを36質量%含有するFe−Ni合金)、45−パーマロイ、78−パーマロイ、スーパーマロイ(急冷熱処理Mo含有Fe−Ni合金)、Cr−パーマロイ(Cr含有Fe−Ni合金)、Mo−パーマロイ(Mo含有Fe−Ni合金)などが用いられる。
【0026】
また、軟化点が250乃至500℃のガラスとしては、高周波素子6(図3)への熱的影響を小さくすること、およびガラス内の残留応力を小さくする観点から、できる限り低温で溶融可能なものが好ましく、例えば、50〜80質量%の酸化鉛と15〜20質量%のフッ化鉛とを主成分として含むガラスが、軟化点が約300℃であり耐熱性に優れたものであることから、好適に用いられる。
【0027】
磁性材が90質量%を超えると、粉体とされた磁性材のガラスへの分散性が悪くなり、電波吸収層3bの強度が著しく低下し、電波吸収層3bの剥離が発生し易くなる。一方、51質量%未満だと、高周波装置と成した際に高周波装置内部で電磁波の共振を抑えることが不十分となり、また電波吸収層3bに反りが発生して剥離し易くなる。
【0028】
ガラスが10質量%未満だと、磁性材の分散性が悪くなり、電波吸収層3bの強度が著しく低下し、電波吸収層3bの剥離が発生し易くなる。一方、49質量%を超えると、高周波装置と成した際に高周波装置内部で電磁波の共振を抑えることが不十分となり、また電波吸収層3bに反りが発生して剥離し易くなる。
【0029】
ガラスの軟化点が250℃未満だと、電波吸収蓋部材1を高周波素子6を収容した基体にシーム溶接やロウ付けする際に、電波吸収層3bが溶融し易くなる。一方、ガラスの軟化点が500℃を超えると、磁性材が凝集してしまい、その結果電波吸収層3bの強度が著しく低下して電波吸収層3bが剥離し易くなる。
【0030】
電波吸収層3bの厚みが200μm未満では、電波吸収特性が不十分となる傾向があり、厚みが500μmを超えると、電波吸収蓋部材1全体が厚くなり薄型化が困難になる。また、金属蓋体2と電波吸収層3bとの熱膨張差によって金属蓋体2に反りが発生して、電波吸収層3bが剥離し易くなる。
【0031】
本発明の電波吸収蓋部材1は、電波吸収層3bは、活性金属であるTi,ZrおよびHfのうちの1種以上を含有したAg−Cu合金を主成分とする金属層3a、金属層3aの酸化層3cを介して金属蓋体2の一主面に積層されていることから、金属層3aに含有されるTi,Zr,Hfの活性金属が金属蓋体2の金属粒界に拡散して金属蓋体2と金属層3aとを強固に接合するとともに、金属層3aの酸化層3cの酸化物が電波吸収層3b中のガラスの酸化物成分と反応して金属層3aと電波吸収層3bとを強固に接合する。その結果、金属蓋体2を基体にシーム溶接やロウ付けする際に230〜240℃の熱履歴が加わったとしても、電波吸収層3bが熱によって剥離することがなくなる。
【0032】
また、電波吸収層3bが電波吸収して電磁波のエネルギーを熱に変換した際に、その熱を互いに強固に接合された電波吸収層3b、金属層3aおよび金属蓋体2を介して外部に効率良く放熱させることができる。
【0033】
このような電波吸収層3b、金属層3aは以下の方法により金属蓋体2に被着される。まず、Ag−Cu合金粉末とTi,ZrおよびHfのうちの1種以上の活性金属粉末、アクリル樹脂等の有機バインダ、トルエン,アセトン等の溶剤を混合して得た活性金属ペーストを、金属蓋体2に厚みが約70μmとなるようにスクリーン印刷し、還元雰囲気中、約800℃の温度で熱処理して金属蓋体2に密着させる方法により金属層3aを被着する。次に、Ni−Fe合金を主成分とする磁性材と軟化点が250乃至500℃のガラスに有機溶剤、溶媒を添加混合して得た磁性材ペーストを、金属蓋体2に厚みが200乃至500μmとなるようにスクリーン印刷して、電波吸収層3bとなる磁性材ペースト層を形成し、大気中、約350℃で焼成させることで、電波吸収層3bのガラス成分と金属層3aの活性金属が酸化して形成された酸化層3cが同時に形成される。これにより、金属層3aに電波吸収層3bが酸化層3cを介して強固に被着される。
【0034】
金属層3aの厚みは50〜100μmが好ましい。50μm未満では、活性金属が酸化して形成される酸化層3cが十分な厚さとならない傾向にある。100μmを超えると、還元雰囲気中で熱処理した際、金属層3a内で不均一な部分を生じることがある。
【0035】
酸化層3cの厚みは1〜3μmが好ましい。1μm未満では、金属層3aと電波吸収層3bとの接合強度が弱くなり、熱により電波吸収層3bが金属層3aから剥れ易くなる。3μmを超えると、過剰酸化となり、酸化層3cと電波吸収層3bとの接合界面において気泡をまき込み易くなるため、接合面積が減少して電波吸収層3bが金属層3aから剥れ易くなる。
【0036】
次に、本発明の電波吸収蓋部材1を用いた高周波装置4について、図3に基づいて詳細に説明する。同図は、本発明の高周波装置4の実施の形態の一例を示し、(a)は金属から成る基体5aを用いた高周波装置の断面図、(b)は絶縁体から成る基体5bを用いた高周波装置の断面図である。これらの図に示すように、2は金属蓋体、3は電波吸収体、4は高周波装置、5a,5bは基体、6は高周波素子、7はメタライズ層、8は封止材である。
【0037】
本発明の高周波装置は、上面に形成された凹部の底面に高周波素子6が載置される載置部を有する基体5a,5bと、載置部に載置固定された高周波素子6と、基体5a,5bの上面の凹部の周囲に一主面が高周波素子6に対向するように取着された本発明の電波吸収蓋部材1とを具備している。
【0038】
本発明における基体5a,5bは、上面の中央部に高周波素子6を収容するための凹部が設けられており、この凹部の底面に高周波素子6が低融点ガラス、樹脂接着剤、ロウ材等の接着剤を介して接着固定される。また、基体5a,5bの凹部の側面や底面から外面にかけて、複数のメタライズ配線層や複数のリード端子(図示せず)が、基体5a,5bの表面をつたって、または基体5a,5bを貫通するとともにガラスで気密封止されて設けられている。このメタライズ配線層やリード端子の凹部の底面に位置する部位は、高周波素子6の各電極がボンディングワイヤ等(図示せず)を介して電気的に接続され、基体5a,5bの外面に導出された部位は、外部電気回路基板の配線導体(図示せず)にボンディングワイヤ等の導電性接続部材を介して電気的に接続される。
【0039】
金属からなる基体5aは、42アロイやFe−Ni−Co合金等のから成るのが好ましく、それらの金属の母材を打抜き金型で打ち抜いたり、切削などの機械加工を施すことによって、凹部を有する所定の形状のものとして製作される。なお、基体5aの表面に、耐食性に優れ、Au−Snロウ材や半田等のロウ材との濡れ性の良好な金等の金属をめっき法等により、0.1〜1μmの厚さに被着させておくのが好ましい。
【0040】
そして、基体5aの上面の凹部の周囲と電波吸収蓋部材1の下面の外周部とを、シーム溶接などの抵抗溶接で接合する。または、電波吸収蓋部材1の下面の外周部に被着形成されたロウ材から成る封止材8を介して接合したり、さらにはシーム溶接とロウ付けとを組み合わせても構わない。
【0041】
例えば、基体5aと電波吸収蓋部材1とをシーム溶接する場合、基体5aの上面の凹部の周囲に電波吸収蓋部材1を載置し、窒素雰囲気の下で、電波吸収蓋部材1の上面の外周部に通電されたローラー電極を当てて、電波吸収蓋部材1を基体5a側にローラー電極で一定圧力で押圧しつつローラー電極を周回させて、0.5〜10分間圧着させることにより、気密に接合する。
【0042】
一方、絶縁体からなる基体5bの場合、基体5bは、酸化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体、窒化アルミニウム質焼結体、炭化珪素質焼結体、ガラスセラミックス等を主成分とする焼結体(セラミックス)等の無機材料、または樹脂から成る。例えば、基体5bが酸化アルミニウム質焼結体から成る場合、先ずアルミナ(Al)やシリカ(SiO)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)等の原料粉末に適当な有機溶剤、溶媒を添加混合して泥漿状と成し、これを従来周知のドクターブレード法やカレンダーロール法等によりシート状に成形してセラミックグリーンシート(以下、グリーンシートともいう)を得る。その後、グリーンシートを所定形状に打ち抜き加工するとともに複数枚積層し、約1600℃の温度で焼成することにより製作される。
【0043】
そして、基体5bの場合、その上面の凹部の周囲には、電波吸収蓋部材1に接合するための枠状のメタライズ層7が被着される。このメタライズ層7や凹部の側面や底面に形成されたメタライズ配線層は、タングステンやモリブデン、マンガン等の高融点金属から成り、これらの粉末に有機溶剤、溶媒を添加混合した金属ペーストをそれぞれグリーンシートの所定位置に従来周知のスクリーン印刷法により所定パターンに被着形成させておき、グリーンシートと同時に焼成することにより形成される。なお、メタライズ層7の表面には、耐食性に優れ、Au−Snロウ材や半田等のロウ材との濡れ性の良好な金等の金属を、めっき法等により0.1〜1μmの厚さに被着させておくのがよく、フラックスを用いることなく金属蓋体2と接合することが可能となる。
【0044】
なお、半田等に含まれるフラックスは、高周波装置4内部に飛散すると、高周波素子6の電極を腐蝕し断線を発生させる原因となることから、メタライズ層7の表面には、金等の金属をめっき法等により被着させておき、メタライズ層7と電波吸収蓋部材1との接合をフラックスを用いずに行なうことが好ましい。そして、メタライズ層7に電波吸収蓋部材1が、その下面の外周部に被着形成された封止材8を介して接合される。
基体5bと電波吸収蓋部材1との接合は、基体5b上面の凹部の周囲に形成されたメタライズ層7と電波吸収蓋部材1との間に封止材8が挟まるように電波吸収蓋部材1を基体5b上面に載置し、電波吸収蓋部材1を基体5b側に一定圧力で押圧しながらピーク温度が約280〜300℃で窒素雰囲気のシール炉に0.5〜10分間入れて、封止材8を溶融させることにより、封止材8が流れ出しフィレットを形成して気密に接合されることとなる。
【0045】
かくして、本発明の電波吸収蓋部材1および高周波装置4は、基体5a,5bの凹部底面の載置部に半導体素子等の高周波素子6を樹脂接着剤等を介して載置固定し、高周波素子6の各電極をボンディングワイヤ等を介してリード端子やメタライズ配線層に接続し、しかる後、基体5aの上面の凹部の周囲に電波吸収蓋部材1をシーム溶接で接合したり、あるいは電波吸収蓋部材1の下面の外周部に被着された封止材8を加熱溶融させ、メタライズ層7に接合することにより、基体5と電波吸収蓋部材1とを封止することによって、製品としての高周波装置4となる。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を施すことは何等差し支えない。例えば、上述の実施の形態では高周波素子6としてIC,LSI等の半導体素子を用いた例について説明したが、高周波素子6として圧電振動子や弾性表面波素子等の電子部品を用いることもできる。また、電波吸収蓋部材1を平板状とし、基体5a,5bを上面の中央部に凹部を有する形状としたが、基体5a,5bを平板状とし、基体5a,5bの上面の外周部に枠体をロウ材や樹脂接着剤で取着した高周波装置であってもよい。また、基体5a,5bを平板状とし、電波吸収蓋部材1を、基体5a,5bと対向する面に凹部を有する形状としてもよい。
【0047】
【実施例】
本発明の電波吸収蓋部材の実施例を以下に説明する。
【0048】
図1の電波吸収蓋部材1を以下のようにして製作した。まず、寸法が縦21.1mm×横19.6mm×厚み0.3mmの四角形の板状で、Fe−Ni−Co合金から成る金属蓋体2を準備し、その電波吸収層3bが形成される部位以外の部位の全面に厚さ2.0μmのNiめっき層と厚さ0.5μmのAuめっき層を被着た。
【0049】
まず、金属蓋体2の一主面の電波吸収層3bが形成される部位に、活性金属としてTiを3質量%(Ag−Cu合金を100質量%とする)含有したAg72質量%−Cu28質量%のAg−Cu共晶からなる金属層3aを、スクリーン印刷で厚さ70μmに形成し、還元雰囲気中、800〜850℃の温度で熱処理して金属蓋体2に被着した。
【0050】
電波吸収層3bは、パーマロイ(Fe42質量%、Ni58質量%のFe−Ni合金)から成る磁性材と、酸化鉛−フッ化鉛系ガラス(PbOを56質量%、PbFを19質量%主成分として含有する軟化点280℃のガラス)を、種々の割合(下記表1参照)で混合し、これに多価アルコールエステル系有機溶剤(「CK-172」互応化学工業株式会社製)を少量添加し、スクリーン印刷法によって、縦19.1mm×横17.6mmの大きさ、および焼成後に種々の厚み(下記表1参照)となるようにして、金属蓋体2の一主面の酸化層3c上に塗布した。これを、炉中で温度300℃〜350℃で焼成して、厚さ1.5μmの酸化層3cを形成し、電波吸収層3bを金属蓋体2に被着形成した。
【0051】
得られた各種試料について、電波吸収蓋部材1の反り、金属蓋体2と電波吸収層3bとの接着強度、電磁波減衰効果を測定した。
【0052】
なお、電波吸収蓋部材1の反りについては、通炉前と通炉後を比較して、通炉後に反りが0.15mm未満であったものを○、0.15mm以上であったものを×とした。
【0053】
接着強度の測定は、金属蓋体2の一主面に電波吸収層3bが被着されている状態で、49N(ニュートン)の荷重で3点曲げ試験を行ない、プッシュプルゲージが1.0mmまで下降した際に電波吸収層3bが剥がれなかったものを○、剥がれたのものを×とした。
【0054】
電磁波減衰効果の測定は、図3(a)に示すように、基体5aの凹部の底面に高周波素子6をAu−Snロウ材で接合し、電波吸収蓋部材1を基体5aにシーム溶接した高周波装置4の各試料を作製して、キャビティ共振抑制効果の評価を行った。すなわち、ネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社製「HP8510C」)を用いて、Sパラメータ(高周波入出力の比)の値からキャビティ共振抑制効果を測定した。
【0055】
具体的には、高周波装置4内にマイクロストリップスルーラインが形成された配線基板を配置し、基体5aの凹部の側面に取り付けられた高周波入出力端子とマイクロストリップスルーラインをAu−Sn合金ロウ等のロウ材で電気的に接続して、高周波入出力端子とネットワークアナライザーを接続した。基体5aの上面の凹部の周囲に電波吸収蓋部材1を配置することにより、高周波装置4内部は空洞共振器となり、試料サイズから決まる共振周波数とネットワークアナライザーから入射される高周波信号の周波数が一致したとき、マイクロストリップスルーラインからの放射を共振させてSパラメータを測定した。このとき、電波吸収層3bがない状態を基準とし、キャビティ共振抑制効果はその基準に対して共振量が20dB以下であれば○、20dB以上であれば×とした。評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
Figure 0004189234
表1より、パーマロイが90質量%以上のもの(No.1)は、電波吸収層3bにおける磁性材の分散性が悪いために接着強度が弱くなり、電波吸収層3bが金属蓋体2から剥離して接着不良が発生した。また、パーマロイが50質量%未満のもの(No.7,8)は、通炉後にキャビティ共振抑制効果が劣化した。これは、キャビティ共振抑制効果が電波吸収層3bにおける磁性材の粒子間距離に依存するためであり、磁性材の含有量が少ないと通炉後にガラス成分が固化して均一な粒子間距離が得られないからと考えられる。
【0057】
これに対し、パーマロイの含有量が51乃至90質量%でガラスの含有量が10乃至49質量%である本発明のもの(No.2〜6)は、いずれも反りが小さく、接着強度、キャビティ共振抑制効果も優れていた。
【0058】
また、ガラスの軟化点が250℃未満のもの(No.9)は、電波吸収蓋部材1を金属製の基体5aにシーム溶接した際にガラスが溶融軟化したため、製品として使用できなくなった。また、ガラスの軟化点が500℃を超えるもの(No.14)は、500℃を超える高温下で通炉するので電波吸収蓋部材1の反りが大きくなり、製品として使用できなくなった。
【0059】
これに対して、ガラスの軟化点が250乃至500℃である本発明のもの(No.10〜13)は、いずれも反りが小さく、接着強度、キャビティ共振抑制効果も優れていた。
【0060】
次に、電波吸収層3bの厚みが200μm未満のもの(No.15)は、キャビティ共振抑制効果が悪く、製品として使用できなくなった。また、電波吸収層3bの厚みが500μmを超えるもの(No.19)は、電波吸収蓋部材1全体が薄型化できず、またスクリーン印刷の作業性が悪いので実用的でなかった。
【0061】
これに対し、電波吸収層3bの厚みが200乃至500μmである本発明のもの(No.16〜18)は、いずれも反りが小さく、接着強度、キャビティ共振抑制効果も優れていた。
【0062】
電波吸収層体3として、上記のNo.17の試料において金属層3aを有していないものを比較例(No.17A)とし、No.17の試料において金属層3aの種類を変えた試料(No.20〜24)を作製した。これらについて、上記と同様に、電波吸収蓋部材1の反り、金属蓋体2と電波吸収層3bとの接着強度、キャビティ共振抑制効果を測定し、その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
Figure 0004189234
【0064】
表2より、金属層3aがTi、ZrおよびHfのうちの1種以上の活性金属を含有したAg−Cu合金を主成分とするものである試料(No.20〜24)は、電波吸収蓋部材1の反りがいずれも小さく、キャビティ共振抑制効果も優れていた。さらに接着強度についても、3点曲げ試験でプッシュプルゲージが1.0mmまで下降した際に全く問題なく、さらに下降させ2.0mmでも金属層3aおよび電波吸収層3bが剥がず、非常に強固に被着されたものとなった。なお、表2で、2.0mmまで下降しても剥がれないものを◎とした。
【0065】
【発明の効果】
本発明の電波吸収蓋部材は、電波吸収層が、Ni−Fe合金を主成分とする磁性材を51乃至90質量%および軟化点が250乃至500℃のガラスを10乃至49質量%含有していることから、耐熱性に優れたものとなり、高周波素子の熱や高周波装置を外部電気回路基板等に半田等で接合する際の熱によって電波吸収層が金属蓋体から剥離することがなくなる。また、電波吸収層の厚みが200乃至500μmであることから、電波吸収蓋部材の大幅な薄型化が可能となり、高周波装置の大幅な低背化につながる。
【0066】
また、電波吸収層は、Ti,ZrおよびHfのうちの1種以上を含有した金属層と金属層の酸化層とを介して、金属蓋体の一主面に積層されていることから、金属層に含有されるTi,Zr,Hfの活性金属が金属蓋体の金属粒界に拡散して金属蓋体と金属層とを強固に接合するとともに、金属層の酸化層の酸化物が電波吸収層中のガラスの酸化物成分と反応して金属層と電波吸収層とを強固に接合する。その結果、金属蓋体を基体にシーム溶接やロウ付けする際に230〜240℃の熱履歴が加わったとしても、電波吸収層が熱によって剥離することがなくなる。
【0067】
また、電波吸収層が電波吸収して電磁波のエネルギーを熱に変換した際に、その熱を互いに強固に接合された電波吸収層、金属層および金属蓋体を介して外部に効率良く放熱させることができる。
【0068】
本発明の高周波装置は、上面に形成された凹部の底面に高周波素子が載置される載置部を有する基体と、載置部に載置固定された高周波素子と、基体の上面の凹部の周囲に前記一主面が高周波素子に対向するように取着された本発明の電波吸収蓋部材とを具備していることにより、電波吸収層が熱によって剥れることのない低背化されたものとなるとともに、内部で電磁波の共振が発生するのを抑えることができる。その結果、マイクロ波帯やミリ波帯の高周波帯域で良好にEMI対策の施された高周波装置を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電波吸収蓋部材の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1の電波吸収蓋部材の要部拡大断面図である。
【図3】(a),(b)は本発明の高周波装置についてそれぞれ実施の形態の例を示す断面図である。
【図4】従来の電波吸収蓋部材の断面図である。
【図5】従来の高周波装置の断面図である。
【符号の説明】
1:電波吸収蓋部材
2:金属蓋体
3a:金属層
3b:電波吸収層
3c:酸化層
4:高周波装置
5a,5b:基体
6:高周波素子

Claims (2)

  1. 金属蓋体の一主面に、Ti,ZrおよびHfのうちの1種以上を含有したAg−Cu合金を主成分とする金属層と、該金属層の酸化層と、Ni−Fe合金を主成分とする磁性材を51乃至90質量%および軟化点が250乃至500℃のガラスを10乃至49質量%含有するとともに、厚みが200乃至500μmである電波吸収層とが順次積層されていることを特徴とする電波吸収蓋部材。
  2. 上面に形成された凹部の底面に高周波素子が載置される載置部を有する基体と、前記載置部に載置固定された高周波素子と、前記基体の上面の前記凹部の周囲に前記一主面が前記高周波素子に対向するように取着された請求項1記載の電波吸収蓋部材とを具備していることを特徴とする高周波装置。
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