本発明は、以上の考え方に基づいて、「現在用いられている制御」と「プロセスモデルを用いたモデルベース制御」をシームレスに結合できるような最適制御装置を提供することを目的とする。このことを図13を参照して述べるならば、本発明は、「現在用いられている制御(2010)」と「プロセスモデルを用いたモデルベース制御(2020)」とをシームレスに結合できるような最適な制御Bを提供することを目的とするということができる。
この目的を達成するために、本発明は、プロセス制御に求められる以下の3つの要求を適切に組み合わせた制御方式を提案するものである。
(1)プロセスのダイナミクスのダイナミックな補償(Dynamic Compensation)
(2)物質収支やエネルギー収支等の保存則に矛盾しない補償(ある種のStatic Compensation)
(3)コストや複数の制御目的を同時に考慮した最適化(Process optimization)。
「現在用いられている制御」の代表例であるPID制御は、上記の要求(1)のみを考慮したものである。また、特許文献1の間接的なプロセスシミュレータ応用制御(モデル予測制御)は、要求(1)と(3)を同時に考慮したものであり、(2)は間接的に考慮されている。なお、制御理論の中で開発されている各種の制御方式は、通常、要求(1)と(3)を中心に構築されており、これに、「ロバスト性」、「適応性」、「非線形性」、「非定常性」、「分布性」といった概念を加えて、現実のプロセスとのギャップを埋めるための理論が展開されている。制御理論では、「消散性」、「受動性」、「無損失」といった概念を利用することによって、間接的に要求(2)を考慮することもできる。ただし、これらの概念を利用した制御方式は、主に機械系や電気系の制御対象に適用されており、プロセス系の制御対象にはあまり利用されていない。一方、プロセス制御で良く用いられるモデル予測制御でも、一般には要求(1)と(3)を中心に考慮して制御方式が開発されている。要求(2)を積極的に考慮したものとしては、非特許文献1の「第一原理(物理法則)に基づくモデル予測制御」がある。この文献の著者は、「第一原理(物理法則)に基づく制御」の重要性を指摘しているが、双線形タイプで次数の低い比較的単純なプロセスに対しての適用しか行っていない。
本発明では、要求(1)、(2)、(3)の全てを考慮するが、この際、要求(1)から(3)までを同時に考慮したコントローラを構成するのではなく、全体のコントローラを従来のコントローラを含む形で階層(ヒエラルキー)的に構成し、このコントローラの各要素に要求(1)〜(3)のそれぞれを適切に分担させるという点に最大の特徴を持つ。この発明の基本的な考え方は、以下の通りである。
要求(1)のプロセスのダイナミックな補償は、基本的にPID制御などの従来の方法に任せる。これは、ダイナミックな補償には、必ずしも高度な制御方法を利用する必要はなく、PID制御などの従来の制御方式でも十分に通用する場合が多いからである。特に、電気系や機械系の制御対象とは異なり、通常、プロセス系の制御対象では、ダイナミックな補償による過渡特性の向上よりもスタティックな補償による定常特性の方が重要であり、ダイナミックな補償にそれほど大きな労力を払う必要性はない場合が多い。
要求(2)の物質収支やエネルギー収支といった概念を静的なプロセスモデルとしての代数方程式制約として表現する。これは、これらの収支の概念は物理法則の一つである保存則の概念であるが、定常状態を考える場合には、保存則は微分方程式や偏微分方程式ではなく代数方程式で表現できるためである。物理法則(第一原理)を考慮することの重要さがしばしば指摘されるため、第一原理に基づくプロセスモデルとしての「動的なプロセスモデル=シミュレータ」を用いることがしばしば行われるが、もし第一原理として定常状態での保存則のみが要求されるのであれば、「静的なプロセスモデル」の表現の一つである代数方程式で十分である。実際、物理法則の重要性を指摘する人々の意見を良く聞くと、実はその特殊な場合である定常状態での保存則のことを指していることが多い。したがって、定常状態での保存則のみを問題にするのであれば、代数方程式による制約で構わない。
要求(3)の最適化を、従来のモデル予測制御のような「動的制約(微分方程式制約)を持つ動的最適化」ではなく「静的制約(代数方程式制約)を持つ静的/動的最適化」によって行う。これは、プロセスのモデルを「動的なプロセスモデル」ではなく「静的なプロセスモデル」で表現していることによって可能になる。
本発明では、このような考えに従い、従来の制御方式であるPID制御部などを、下位系すなわち対象プロセスに近い例えば前述のワンループコントローラで構成できるような所に配置し、上位系すなわち対象プロセスから見て遠い、例えばEWS(エンジニアリングワークステーション)等に組み込まれる、静的なプロセスモデルとして代数方程式で表される保存則の制約を持つ最適化装置を持ったプロセス最適制御装置を提供することを第1の目的とする。
さらに、プロセス異常により最適制御を達成できなかった場合の異常診断を行う異常診断装置をも含んだプラントワイド最適制御装置を提供することを第2の目的とする。
ところで、これらの技術は、そのいずれも産業プロセスでの実現を強く指向したものであるが、プロセス制御の実現にあたっては、もう一つの重要な考え方が必要になる。それは、「ロバスト性」の概念である。「ロバスト」とは「頑健な」という意味を表す言葉であり、制御理論の分野では制御に用いるモデルの不確実性や外乱混入に対するロバスト性を主な目的としたロバスト制御理論が発展してきた。本発明の対象プロセスである上下水道プロセスなどの公共・産業プロセスにおいても、ロバスト性を考慮しなければ、実際にプロセス制御系を実プラントで実現することは困難である。しかし、これまで、具体的にロバスト性を考慮したプラント全体の最適制御方法はほとんど考えられてこなかった。そこで、本発明では、プラント全体の最適制御手法にロバスト性を持たせることを第3の目的とする。
ここで、ロバスト性にも様々なものがある。典型的なものとして、プロセスモデルのパラメータ変動に対するロバスト性、プロセスの高次ダイナミクスの影響に対するロバスト性、プロセスに混入する外乱に対するロバスト性、などがあるが、第3の目的ではこのようなロバスト性を考慮した最適プロセス制御装置を提供しようとするわけではない。第3の目的で提供するプラントワイド最適プロセス制御装置は、主に、センサ異常に起因したプロセス制御の破綻を回避するロバスト性を考慮したプロセス制御装置である。
特に、下水処理プロセスのように汚濁物が多く、センサ異常を来たし易いプロセスでは、前述の様なロバスト性よりも、センサ異常に対するロバスト性の方がプロセス制御系を実際に運用する際に求められることが多い。そこで、第3の目的に係る発明では、たとえセンサに何らかの異常が生じた場合においても、プロセスの破綻を回避しながら制御を行うことができるようにする。
請求項1に係る発明のプラントワイド最適プロセス制御装置は、対象プロセスの状態を計測することのできる少なくとも一つのプロセスセンサと、対象プロセスの状態を変化させることができる少なくとも一つのアクチュエータと、対象プロセスヘの外部入力と、を有するプロセスを制御するプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスセンサによって得られるプロセス計測値に基づいてアクチュエータを動作させ、プロセスのダイナミックな変動を望ましい特性を持つように補償するローカル制御部と、少なくともプロセスの外部入力の物質量やエネルギー量などの保存量の保存則に関する静的な制約条件を設定する制約条件設定部と、運転コストや複数の制御性能を評価する評価関数を設定する最適評価関数設定部と、制約条件設定部によって設定された制約条件を入力し、最適評価関数設定部で設定された評価関数に基づいて、ローカル制御部の最適な目標値を供給する最適目標値演算部と、を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、ローカル制御部として従来用いられている様々な制御方式を捨て去ることなく、プロセスが本質的に満たしていなければならない何らかの保存則を満たす範囲でプロセスを最適化する制御系を構成することができる。さらに、下位系のローカル制御部と上位系の最適目標値演算部分を独立に動作させることができるため、例えば外乱除去特性などのプロセスのダイナミックな特性を改善したい場合にはローカル制御部のみを調整すればよく、また、最適化の基準を変更したい場合には上位系の最適目標値演算部のみを変更すればよい、といったように、目的に応じて修正したい箇所を部分毎に独立に変更/調整することができる。さらに、プロセスが本質的に満たすべき保存則を制約条件として課しているため、このような保存則の制約条件を持たない最適化では原理的に到達できないような目標値を設定しまうことによってプロセスが不安定化してしまうこともあるのに対し、本発明によれば、例えばある種の反応が阻害されるなどしてプロセスが異常になるような場合を除いて、原理的にはかならず達成可能な目標値を設定することができる。そのため、プラントを安定して制御することができる。
請求項2に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、最適目標値演算部によって演算された最適目標値を与えらたローカル制御部がプロセスを制御した結果、プロセスセンサから導出される被制御量が最適目標値を達成できない場合に、プロセスの異常を知らせるプロセス異常通知装置を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、請求項1の効果に加えて、本来、保存則の制約条件により到達可能なはずの目標値に到達できないという異常現象をプラントの運転員等へ知らせることによって、プロセスが不安定化することを防ぐことができる。
請求項3に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、最適目標値演算部によって演算された最適目標値を与えらたローカル制御部がプロセスを制御した結果、プロセスセンサから導出される被制御量が最適目標値を達成できない場合に、プロセスを異常と判断し、その異常の原因を自動的に調査し、その調査結果をプロセス管理者へ報告するプロセス異常診断装置を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、請求項1の効果に加えて、請求項2のようにプロセス異常を運転員等へ知らせるだけでなく、その原因をも知らせることができ、プロセスを迅速に正常状態へ復旧させることを補助することができる。
請求項4に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、最適目標値演算部によって演算された最適目標値を与えられたローカル制御部がプロセスを制御した結果、プロセスセンサから導出される被制御量が最適目標値を達成できない場合に、プロセスを異常と判断し、その異常の原因を自動的に調査し、その調査結果に基づいてプロセスを自動的に復旧させる機構を組み込んだプロセス異常時制御装置を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、プロセス異常が起こらないような通常時の最適制御のみならず、プロセスが異常になった場合においても、異常時の制御が自動的に働くことにより、プロセスのロバスト性を著しく向上させることができる。
請求項5に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、最適目標値演算部と相互に切り替え可能な手動目標値演算部を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、最適演算を行った目標値に満足できない場合に、プロセス管理者や運転員が介入することができ、ローカル制御部の性能を変えることなく、プラントを自由に操作することができる。
請求項6に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、最適目標値演算部に制約付き非線形計画法を適用することを特徴とする。
この発明によれば、様々な分野で信頼のおける最適化演算法として知られている非線形計画法によって最適目標値演算を行うことにより、信頼のおける最適目標値を設定することができる、これによって、プラントワイドに最適な制御系を構築することができる。
請求項7に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、最適目標値演算部にメタヒューリスティックスによる準最適化手法を適用することを特徴とする。
この発明によれば、保存則が非線形の代数方程式による制約条件で表されたり、最適性の評価関数が非線形の評価関数であったりした場合においても、局所最適値に陥ることをなるべく避けることができ、より大域的な最適解に近い答えを得ることができるため、信頼のおける最適または準最適な目標値を設定することができる。これによって、プラントワイドに最適な制御系を構築することができる。
請求項8に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、制約条件設定部の物質収支やエネルギー収支などの保存則に関する静的な制約条件を外部入力の変化に応じて所定の周期で更新し、これと同期して、最適目標値演算部における演算を更新することを特徴とする。
この発明によれば、例えば下水の処理水質の変化や浄水の取水水質の変化といった外部の変化状況に応じて、静的な最適化を擬似動的な最適化に置きかえることができ、最適性をより緻密に評価することができる。
請求項9に係る発明は、制約条件設定部の物質収支やエネルギー収支などの保存則に関する静的な制約条件に関係する外部入力を、測定可能な変数のみから構築することを特徴とする。
この発明によれば、外部入力の測定可能な変数のみを用いて最適化演算を実施できるため、本発明の基本思想に全く手を加えることなく、直接プラントワイドな最適プロセス制御装置を直ちに実装することができる。
請求項10に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、制約条件設定部の物質収支やエネルギー収支などの保存則に関する静的な制約条件に関係する外部入力が、測定可能な変数と測定不能な変数からなり、測定不能な変数の値を推定する推定手段を有することを特徴とする。
この発明によれば、外部入力の測定不能な変数の値を推定することによって、制約条件に測定不能変数を導入することができ、結果としてプロセスをより緻密に最適化することができる。
請求項11に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、最適目標値演算部から供給された最適目標値に応じて、ローカル制御部の制御則のパラメータを変化させることを特徴とする。
この発明によれば、与えられた目標値付近の動作点において、ローカル制御に最適な性能、例えば目標値追従特性、外乱抑制特性、ロバスト性などを持たせることができ、単に評価関数による定常特性の最適化のみならず、過渡特性の最適化を図ることができる。
請求項12に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、ローカル制御部は、プロセスのダイナミックモデルを用いた制御則を有することを特徴とする。
この発明によれば、例えば下水の水質プロセスのように強い非線形性を持つようなプロセスに対してもプロセスモデルを用いて、厳密な線形化手法、入出力線形化手法、バックステッピング法、受動性に基づく制御法などを適用することにより、あらゆる目標値に対してロバスト性を持った制御系を構築することができる。
請求項13に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、最適目標値設定部の出力結果を表示する表示装置を有し、ローカル制御部を、プロセスの管理者/運転員が手動で操作することを特徴とする。
この発明によれば、実際には自動制御が用いられていなく運転員が手動で操作しているようなプラントであっても、最適な運転方法を運転員にアドバイスすることができ、結果として最適なプロセス運用を可能にすることができる。
請求項14に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、最適評価関数設定部として、放流水質を金額換算した放流水質コストと運転に関わる運転コストを同時に考慮したコスト評価関数を用いることを特徴とする。
この発明によれば、下水処理プロセスの放流水質の向上と運転コストの削減のトレードオフを考慮して、最適な下水処理プロセス制御装置を構築することができる。
請求項15に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、制約条件として、外部入力としての流入下水に関して、COD濃度に換算可能な変数と、TOCに換算可能な変数と、BODに換算可能な変数と、アンモニア濃度に換算可能な変数と、硝酸濃度に換算可能な変数と、ケルダール窒素濃度に換算可能な変数と、全窒素濃度に換算可能な変数と、リン酸濃度に換算可能な変数と、全リン濃度に換算可能な変数と、MLSS濃度に換算可能な変数と、SS濃度に換算可能な変数と、pHに換算可能な変数と、ORPに換算可能な変数と、アルカリ度に換算可能な変数と、の中の少なくとも一つの変数を用いて、物質量保存則を代数方程式で記述することを特徴とする。
この発明によれば、下水処理プロセスにおいて、計測可能な変数のみを用いて最適な制御系が構築することができる。特に窒素やリンの除去を目的とした最適制御系を構築することができる。
請求項16に係る発明は、請求項15記載のプラントワイド最適下水処理プロセス制御装置において、制約条件の変数に加えて外部入力として、CODで計測された有機物の複数の要素と、MLSSで計測された微生物を含む汚泥の複数の要素とを表す変数を用いて、物質量保存則を代数方程式で記述し、CODで計測された有機物の複数の要素と、MLSSで計測された汚泥の複数の要素とを推定する推定手段を備えることを特徴とする。
この発明によれば、例えばリン除去に重要な影響を与える酢酸系の有機物や、窒素、リンなどの除去に関わる複数種の微生物の個別の挙動を制約条件としての保存則に組み込むことができ、より厳密に下水処理最適制御系を構築することができる。
請求項17に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、ローカル制御部は、アクチュータによる制御対象の一つである曝気風量を、プロセスセンサとしてのDO計とORP計とアンモニア計と硝酸計とTN計の中の少なくとも一つのセンサの検出出力を用いて制御することを特徴とする。
この発明によれば、最適な曝気制御を行うことができ、有機物除去や窒素除去を最適化した下水処理プロセス制御を実現できるばかりでなく、曝気に伴う電力コストを低減化することができる。
請求項18に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、ローカル制御部は、アクチュータによる制御対象の一つである返送汚泥量を、プロセスセンサとしてのアンモニア計とTN計とTP計と硝酸計とリン酸計とORP計とMLSS計とUV計とCOD計とBOD計とTOC計の中の少なくとも一つのセンサの検出出力を用いて制御することを特徴とする。
この発明によれば、最適な返送汚泥量制御を行うことができ、有機物除去、窒素除去およびリン除去を最適化した下水処理プロセス制御を実施できるばかりでなく、ポンプ運転に伴う電力コストを低減化させることができる。
請求項19に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、ローカル制御部は、アクチュータによる制御対象の一つである余剰汚泥引き抜き量を、プロセスセンサとしてのリン酸計と硝酸計とアンモニア計とTP計とTN計とMLSS計の中の少なくとも一つのセンサの検出出力を用いて制御することを特徴とする。
この発明によれば、最適な余剰汚泥引き抜き量制御を行うことができ、有機物除去、窒素除去およびリン除去を最適化した下水処理プロセス制御を実施できるばかりでなく、ポンプ運転に伴う電力コストを低減化することができる。
請求項20に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、ローカル制御部は、アクチュータによる制御対象の一つである循環量を、プロセスセンサとしての硝酸計とORP計とTOC計とCOD計とBOD計とUV計とアンモニア計の中の少なくとも一つのセンサの検出出力を用いて制御することを特徴とする。
この発明によれば、最適な循環量制御を実施することができ、窒素除去を最適化した下水処理プロセス制御を実現できるばかりでなく、ポンプ運転に伴う電力コストを低減化することができる。
請求項21に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、ローカル制御部は、アクチュータによる制御対象の一つである炭素源投入量を、プロセスセンサとしての硝酸計とTN計とORP計とCOD計とUV計とBOD計とTOC計の中の少なくとも一つのセンサの検出出力を用いて制御することを特徴とする。
この発明によれば、最適な炭素源投入量制御を行うことができ、窒素除去を最適化した下水処理プロセス制御を実現できるばかりでなく、炭素源投入に伴う薬品コストを低減化することができる、
請求項22に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、ローカル制御部は、アクチュータによる制御対象の一つである炭素源投入量と循環量とステップ流入量を、プロセスセンサとしてのCOD計とUV計とTOC計とBOD計と硝酸計とTN計とORP計の中の少なくとも2つのセンサの検出出力を用いて、有機物量と硝酸量の比率が予め決めた所定の値になるように同時に制御することを特徴とする。
この発明によれば、有機物の除去と窒素の除去を同時に最適化することができ、さらに炭素源投入に伴う薬品コストと循環ポンプに伴う電力コストを低減させることができる。
請求項23に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、ローカル制御部は、アクチュータによる制御対象の一つである凝集剤投入量を、プロセスセンサとしてのリン酸計と全リン計とORP計の中の少なくとも1つのセンサの検出出力を用いて制御することを特徴とする。
この発明によれば、最適な凝集剤投入量制御を実施することができるばかりでなく、凝集剤投入に伴う薬品コストを削減することができる。
請求項24に係る発明は、請求項1記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、プロセスが下水処理プロセスであって、ローカル制御部は、アクチュータによる制御対象の一つでステップ流入量を、プロセスセンサとしてのリン酸計とTP計と硝酸計とTN計とORP計とCOD計とUV計とBOD計とTOC計の中の少なくとも1つのセンサの検出出力を用いて制御することを特徴とする。
この発明によれば、最適なステップ流入量の制御を実施することができる。
請求項25に係る発明は、対象プロセスの状態を変化させることができる少なくとも一つ以上のアクチュエータと、対象プロセスのいくつかの状態を計測することのでき、前記アクチュエータの操作量を決定するために用いられるプロセスセンサを含む、少なくとも一つ以上のプロセスセンサと、対象プロセスへの外部入力(外乱)とこれを計測する少なくとも一つ以上の外部入力センサと、を有する任意のプロセスにおいて、前記プロセスセンサが正常状態か異常状態かを判断するプロセスセンサ異常診断部と、前記外部入力センサが正常状態が異常状態かを判断する外部入力センサ異常診断部と、 少なくとも一つの前記プロセスセンサによって得られるプロセス計測値に基づいて、少なくとも一つの前記アクチュエータを動作させ、プロセスのダイナミックな変動を望ましい特性を持つように補償するローカル制御部と、前記外部入力センサ異常診断部で外部入力センサが正常の場合にはこの外部入力センサ値を、異常の場合には手分析などによって分析した外部入力値を入力することができる、前記プロセスの外部入力の物質量やエネルギー量などの保存量の保存則に関する静的な制約条件を少なくとも一つの制約条件として持つ制約条件設定部と、運転コストや複数の制御性能を評価できる評価関数を設定することのできる最適評価関数設定部と、前記制約条件設定部によって設定された制約条件を入力し、前記最適評価関数設定部で設定した評価関数に基づいて、前記プロセスセンサ異常診断部の出力が正常である場合には、前記ローカル制御部に最適な目標値を出力し、前記プロセスセンサ異常診断部の出力が異常である場合には、前記アクチュエータに最適な操作量を出力することができるプロセス最適化部と、を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、センサに異常が認められない場合には、一般的にプロセス変動に対してロバスト性を持つフィードバック制御を主としたプラントワイド最適制御装置が実現でき、もしセンサに異常が認められる場合には、フィードバック制御によるプロセス変動に対するロバスト性は諦めるものの、フィードフォワード制御によるプラントの最適操作量を決める制御装置が実現できる。このことにより、もしセンサ異常が生じた場合においても、プロセス制御系が破綻してしまうことなく、前記プロセス最適化部で用いている数式が現実のプロセスと大きくかけ離れていないという前提のもとでプロセスを最適に制御することができる。また、仮に現実のプロセスと数式が少々離れていた場合においても、理にかなった範囲でプロセスの操作量をいかなる状況においても算出することができる。結果的に、センサ故障に対してロバストなプラントワイド最適制御装置を提供できる。
請求項26に係る発明は、対象プロセスの状態を変化させることができる少なくとも一つ以上のアクチュエータと、対象プロセスのいくつかの状態を計測することのでき、前記アクチュエータの操作量を決定するために用いられる少なくとも二つ以上のプロセスセンサを含む、少なくとも二つ以上のプロセスセンサと、対象プロセスへの外部入力(外乱)とこれを計測する少なくとも一つ以上の外部入力センサと、を有する任意のプロセスにおいて、前記複数のプロセスセンサの各々が正常状態か異常状態かを判断するプロセスセンサ異常診断部と、前記外部入力センサが正常状態が異常状態かを判断する外部入力センサ異常診断部と、予め優先順位をつけられた少なくとも二つの前記プロセスセンサによるいずれかのプロセス計測値に基づいて、少なくとも一つ以上の前記アクチュエータのを動作させ、プロセスのダイナミックな変動を望ましい特性を持つように補償するローカル制御部と、前記外部入力センサ異常診断部で外部入力センサが正常の場合にはこの外部入力センサ値を、異常の場合には手分析などによって分析した外部入力値を入力することができる、前記プロセスの外部入力の物質量やエネルギー量などの保存量の保存則に関する静的な制約条件を少なくとも一つの制約条件として持つ制約条件設定部と、運転コストや複数の制御性能を評価できる評価関数を設定することのできる最適評価関数設定部と、前記制約条件設定部によって設定された制約条件を入力し、前記最適評価関数設定部で設定した評価関数に基づいて、前記ローカル制御部に最適目標値を出力する最適目標値演算部、及び前記少なくとも1つ以上のアクチュエータに対して最適操作量を出力する最適操作量演算部を有するプロセス最適化部と、を備えており、しかも、前記最適目標値演算部は、前記二つ以上のプロセスセンサのうち正常なセンサで且つ優先度の高いものから順にいずれか1つを選択し、この選択したセンサを用いた制御に係る最適目標値を前記ローカル制御部に出力するものであり、また、前記最適操作量演算部は、前記二つ以上のプロセスセンサの全てが異常である場合に、前記少なくとも1つ以上のアクチュエータに対する最適操作量の出力を行うものである、ことを特徴とする。
この発明によると、ある操作量を制御するためのプロセスセンサ情報として複数のものが考えられる場合に、複数のセンサの中から正常なセンサを利用して、プラントワイドな最適制御装置を構築できる。一般に、フィードバック制御では、適切にコントローラを構築することによって、ロバスト性を持たせることができるため、複数のセンサがある場合には、コントローラを切りかえることによってフィードバック制御によるロバスト性を保ったまま、さらにセンサ故障に対するロバスト性を付加することができる。
請求項27に係る発明は、請求項25又は請求項26記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、前記プロセスセンサ異常診断部および前記外部入力センサ異常診断部のうちの少なくともいずれかは、複数のセンサによる相関に基づく主成分分析などの統計的手法を利用する、ことを特徴とする。
この発明によれば、センサ異常を統計的手法により自動的に判断することができ、これによって、全自動のプラントワイドロバスト最適プロセス制御装置を提供できる。
請求項28記載の発明は、請求項25又は請求項26記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、前記プロセス最適化装置は、通常はフィードフォワード制御として最適操作量を出力し、前記プロセスセンサによってプロセス状態値が予め決定された変動範囲からはずれた場合には、前記プロセスセンサ異常診断部でプロセスセンサが異常でないかを確認し、異常でない場合には最適目標値を出力することによってフィードバック制御に切りかえる、ことを特徴とする。
この発明によれば、目標値への追従を目的と主目的とするような制御ではなく、ある範囲内にプロセス出力が入っていればよいような制約制御に対して、最適な操作量を与えることができ、制約外になった場合のみにフィードバック制御によるロバスト性を付加することのできるプラントワイドロバスト最適プロセス制御装置を提供できる。
請求項29記載の発明は、請求項25又は請求項26記載のプラントワイド最適プロセス制御装置において、前記プロセス最適化装置における最適目標値出力と最適操作量出力の切り替えにおいて、ヒステリシス特性を持たせた双方向の切り替えスイッチを備えた、ことを特徴とする。
この発明によれば、センサ異常などの切り替え条件の判断が微妙なクリティカルな領域において、制御系がチャタリングを起こして不安定化することを避ける事ができ、チャタリング現象に対するロバスト性を付加することができる。
本発明によれば、従来のPID制御などの制御方式をシームレスに拡張してプラントワイドな最適制御装置を提供することができる。
物理法則の中で重要視される保存則を制約条件に持つことによって、原理的に到達可能な範囲でのプラントワイドな最適化を行うことができ、プロセスの安全かつ信頼性の高い運用が可能になる。
下位系にプラントのダイナミックな補償を行う従来の制御を配置し、上位系に新たに導入したプラントのスタティックな最適化演算部を配置するヒエラルキー構造とすることによって、各層での役割を明確に分担させることができる。
プラントの異常を人間系に通知したり、自動復帰させたりすることにより、プラントの正常動作時ばかりでなく、異常時においても有効なプラントワイドな最適制御を行うことができる。
自動制御系の中に人間系を適切に介在させることができ、ヒューマンフレンドリーなプラントワイドな最適制御装置を提供することができる。
プロセスセンサの異常に起因するプロセス制御の不安定化を防ぐことができ、いかなる場合においてもプラントを適切な状態に保つことのできるロバストなプラントワイドプロセス制御装置を提供できる。
<実施の形態1>
(実施の形態1の構成)
図1は、本発明の実施形態の基本的な構成を、下水処理場の下水処理プロセス制御を行う場合について示したものである。ただし、ここで説明する実施の形態の適用対象は下水処理プロセスに限定されるものではないことに留意すべきである。
図1に示す下水処理プロセスは2段循環式硝化脱窒プロセスとして構成された下水高度処理プロセス1であり、被処理水はまず最初沈澱池101に導入され、ここから順に、第1嫌気槽102、第1好気槽103、無酸素槽104、第2好気槽105、および最終沈澱池106を通って放水される。これらの槽101〜106は被処理水を処理する反応槽である。
この下水高度処理プロセス1は、アクチュエータとして、最初沈澱池101に最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111を備え、同様に、第1嫌気槽102の出口と無酸素槽104との間にステップ流入ポンプ112、第1好気槽103に酸素を供給するブロワ113、第2好気槽105に酸素を供給するブロワ114、無酸素槽104に炭素源を供給する炭素源投入ポンプ115、第2好気槽105と無酸素槽104の間で非処理水を循環させる循環ポンプ116、最終沈澱池106の汚泥を最初沈澱池101に返送する返送汚泥ポンプ117、第2好気槽105に凝集剤を投入する凝集剤投入ポンプ118、および最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ119を備えている。各アクチュエータ111〜119は、所定の動作周期で動作する。
さらに、下水高度処理プロセス1は、計測制御ためのプロセスセンサとして、第1好気槽103のアンモニア濃度を計測するアンモニアセンサ121、無酸素槽104の硝酸濃度を計測する硝酸センサ122、槽102〜105の少なくとも一つの槽(図示の例では無酸素槽104)で活性汚泥量を計測するMLSSセンサ123、第2好気槽105のアンモニア濃度を計測するアンモニアセンサ124、第2好気槽105のリン酸濃度を計測するリン酸センサ125、最終沈澱池106から引き抜かれる汚泥のSS濃度を計測するSSセンサ126、最終沈澱池106から引き抜かれる余剰汚泥量を計測する流量センサ127、および流入下水のCOD、TN、TPなどの複数の水質要素と水量を計測できる下水流入センサ128を備えている。各プロセスセンサ121〜128は所定の計測周期で計測を行う。各プロセスセンサ121〜128によって計測された計測値は、図2に示すプロセス計測データ収集部2によって収集され、保持される。
プロセス計測データ収集部2は、第1〜第7のデータ収集部21〜27からなっている。第1のデータ収集部21は、硝酸センサ122によって計測された無酸素槽104の硝酸濃度データを収集する。第2のデータ収集部22は、アンモニアセンサ121,124によって計測された第1好気槽103および第2好気槽105のアンモニア濃度データを収集する。第3のデータ収集部23は、硝酸センサ122によって計測された無酸素槽104の硝酸濃度データを収集する。第4のデータ収集部24は、硝酸センサ122によって計測された無酸素槽104の硝酸濃度データを収集する。第5のデータ収集部25は、MLSSセンサ123によって計測された無酸素槽104の活性汚泥量データを収集する。第6のデータ収集部26は、リン酸センサ125によって計測された第2好気槽105のリン酸濃度データを収集する。第7のデータ収集部27は、MLSSセンサ123によって計測された無酸素槽104の活性汚泥量データ、SSセンサ126によって計測された、最終沈澱池106から引き抜かれる汚泥のSS濃度データ、および流量センサ127によって計測された、最終沈澱池106から引き抜かれる余剰汚泥量データを収集する。プロセス計測データ収集部2によって収集された計測データはローカル制御部3に送出される。
ローカル制御部3は、プロセス計測データ収集部2のデータ収集部21〜27に1対1で対応する第1〜第7のローカル制御回路31〜37からなっている。第1のローカル制御回路31(ステップ流入ポンプ制御回路)はステップ流入ポンプ112を制御する。同様に、第2のローカル制御回路32(ブロワ制御回路)はブロワ113,114を、第3のローカル制御回路33(炭素源投入ポンプ制御回路)は炭素源投入ポンプ115を、第4のローカル制御回路34(循環ポンプ制御回路)は循環ポンプ116を、第5のローカル制御回路35(返送汚泥ポンプ制御回路)は返送汚泥ポンプ117を、第6のローカル制御回路36(凝集剤投入ポンプ制御回路)は凝集剤投入ポンプ118を、第7のローカル制御回路37(余剰汚泥引き抜きポンプ制御回路)は最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ119をそれぞれ制御する。ローカル制御回路31〜37は、データ収集部21〜27で収集されたプロセスデータと、最適目標値演算部6から供給される最適目標値とを入力とし、各アクチュエータ111〜119の操作量を計算し決定するための制御ロジックからなっている。
最適目標値演算部6は、最適評価関数設定部4からプロセスの最適性を定量的に定義し設定した最適評価関数を、また制約条件設定部5から各種の制約値を、第8のデータ収集部28から下水流入センサ128によって計測された下水流入の各種水質と水量のデータをそれぞれ入力し、ローカル制御部3に対しその最適目標値を計算し送出する。制約条件設定部5は、プロセスのマスバランスあるいはエネルギーバランス等の保存量に関する制約条件を設定する保存量制約設定部51、プロセスの出力である水質や水量の規制値などの制約条件を設定する出力制約設定部52、およびプロセスの入力である操作量のリミットや操作量変化率の制限値(Δリミット)などの制約条件を設定する操作量制約設定部53を備えている。なお、データ収集部28は、最適目標値演算部6の最適目標値を計算する際に保存量制約設定部51から供給される保存量の制約式の一部に代入するための流入下水データを収集するものである。
(実施の形態1の作用)
図1および図2を参照して実施の形態1の作用を説明する。まず、硝酸センサ122で計測された無酸素槽104の硝酸データを所定の周期でデータ収集部21,23,24に格納する。同様に、アンモニアセンサ121,124で各々計測された第1および第2の好気層103,105のアンモニア濃度データを所定の周期でデータ収集部22に格納する。全く同様に、MLSSセンサ123で計測されたMLSSデータをデータ収集部25に、リン酸センサ125で計測されたリン酸データをデータ収集部26に格納し、データ収集部27にはMLSSセンサ123で計測された第2の好気層103のMLSSデータとSSセンサ126で計測された余剰汚泥のSSデータと、流量センサ127で計測された余剰汚泥の引き抜き流量データとを、それぞれ格納する。
最適評価関数設定部4は、下水高度処理プロセス1の最適性を評価するための最適評価関数を設定するものである。下水高度処理プロセス1では、運転コストの削減と窒素やリンの除去効率の向上が求められているが、これらはトレードオフの関係にあるため、これらのトレードオフを考慮した最適評価関数を設定することが好ましい。例えば、放流水の窒素やリンの負荷量に応じて賦課金を課すという考え方に従って、放流水質の向上を金額換算して放流水質コストとし、これと運転コストを同時に評価し、例えば、次のような評価関数Jを設定する。
J=EC+OC (1)
ここで、ECは放流水質コストであり、OCは運転コストであって、例えば次式で定義する。
ここで、COD,BOD,SS,TN,TPは、それぞれ、放流水の化学的酸素要求量、生物化学的酸素要求量、浮遊固形物量、全窒素の濃度、および全リンの濃度を表し、単位はすべて[kg/m3]である。Qef[m3/d]は放流水量を表す。Qb,Qret,Qcirc,Qex,Qpac,Qcbは、それぞれ、曝気風量、返送量、循環量、余剰汚泥引抜量、凝集剤投入量、炭素源投入量であり、単位はすべて[m3/d]である。Qsludge[kg/d]は発生汚泥量である。また、t0およびTは、それぞれ、コスト評価開始時刻およびコスト評価期間を示す。wiはコスト換算係数に対応する重みであり、例えば非特許文献6に開示されている値を用いることができる。もちろん、この最適評価関数設定部4はこのような評価関数に限定されるわけではなく、ユーザのニーズ、あるいは行政判断など様々な基準に基づいた評価関数を用いることができる。ただし、この最適評価関数設定部4では、最適性の基準を定量的に評価できる必要がある。最適評価関数のこの考え方は、下水高度処理プロセス1のトレードオフを定量的に考慮できるため、このようなトレードオフを考慮した評価関数として有効なものとなる。
次に、制約条件設定部5において、保存量制約設定部51、出力制約設定部52、および操作量制約設定部53の各々の制約条件を設定する。ここで、本発明の本質的な部分は、保存量制約設定部51を持っていることである。この保存量制約設定部51を持つことにより、以降で説明する最適目標値演算部6で演算した目標値を、原理的に必ず到達可能なものとすることができる。
保存量制約設定部51では、下水高度処理プロセス1の処理におけるマスバランスを考慮した微分方程式から導出される代数方程式による記述を行う。
まず、例えば、非特許文献7に記載されている活性汚泥モデルASM1〜ASM3などを用いて、下水高度処理プロセス1のプロセスモデル(プロセスシミュレータ)を形式的に表現すると以下のようになる。
ここで、xは反応槽内のアンモニア、硝酸、リン酸、CODの要素、SS、MLSSなどの水質要素を表すベクトル、uは、曝気量、循環量、返送量、炭素源投入量などの操作量を表すベクトル、dは流入下水の水質要素や流入下水量などの外乱を表すベクトル、θは、最大比増殖速度、半飽和定数、加水分解定数、死滅定数、などの各種パラメータを表すベクトルである。fは、ASM1〜ASM3などの水質反応と、物理的な混合と、酸素の供給などを表す関数である。
(4)式は、次式のような生物反応槽モデルと沈澱池モデルを連結させた形で表現される。
*生物反応槽モデル:
ここで、z
*(t)[g/m
3]∈R
n +は反応槽の水質要素を表すベクトル、nは状態変数の数、z
*in(t)[g/m
3]∈R
n +は対象となる反応槽に流入してくる下水の水質要素を表すベクトル、V
*[m
3]∈R
+は対象とする反応槽の容積、Q
*(t)[m
3/day]∈R
+は流入量を表す。また、S∈R
p×nは化学量論を表すマトリクス、r(・)∈R
p +は反応速度を表すベクトル、pは要素反応プロセスの数を表す。S
o2*(t)[g/m
3]∈R
+は溶存酸素濃で、z
*(t)の一つの要素(ASM1〜ASM3では2番目の要素として割り当てられている)である。/S
o2(t)[g/m
3]∈R
+は飽和溶存酸素量、KLa[1/day]∈R
+は総括酸素移動容量係数、Q
B(t)[m
3/day]∈R
+は曝気量、K[1/m
3]∈R
+は定数を表す。また、*は各反応槽の文字列を表し、例えば、*:=aerobicは好気槽である。R
nはn次の実数の集合を表し、R
n +はn次の正の実数の集合を表す。
*沈澱池モデル:
ここで、ssd(t)[g/m3]∈RS +は沈澱池の溶解性の水質要素を表すベクトル、sは溶解性水質要素の数を表す。xb sd(t)[g/m3]∈Rn−S +は沈澱池の沈澱部の浮遊性の水質要素を表すベクトルであり、xu sd(t)[g/m3]∈Rn−S +は沈澱池の上澄部の浮遊性の水質要素を表すベクトルである。αは1より小さい定数である。Qw sdout(t),Qr sdout(t),Qe sdout(t)はそれぞれ、余剰汚泥引き抜き流量、返送量、および放流量を表す。
これらの生物反応槽モデルと沈澱池モデルを下水高度処理プロセス1のプロセス構成に従って適切に連結することによって、(4)式が得られる。
さて、このプロセスモデル(シミュレータ)である(4)式の左辺の微分値をゼロと置くと、定常状態におけるマスバランス式が得られ、以下のようになる。
f(x,u,θ,d)=0 (14)
この(14)式が、保存量制約設定部51の制約条件式の一例である。(14)式と下水処理プロセスシミュレータとの違いは、(14)式が非線形の代数方程式であるのに対し、プロセスシミュレータでは、(4)式のように微分方程式であることである。微分方程式ではなく代数方程式を採用することによって、後に述べる最適目標値演算部6の最適化計算の複雑さを著しく減少させることができる。
一方、特許文献1,2に開示されているプロセスシミュレータ応用非線形制御装置や、いわゆる従来のモデル予測制御では、(4)式のような微分方程式を制約条件としているため、最適化計算が煩雑になっている。本発明では、最適化計算の煩雑さを避けるために、先に述べたようにローカル制御部3にプロセスのダイナミクスの補償を分担させ、プロセスの「定常状態」のみを上位系において最適化するという考え方に基づいている。「定常状態」の最適化のみが目的である場合は、(4)式のような「定常状態」に到達するまでの「過渡状態」をも模擬できるプロセスシミュレータを用いる必要がなく、(14)式のように取り扱いの簡単な「マスバランス式」を用いれば良い、というのが本発明の基本的な考え方である。
(14)式が、保存量制約設定部51の機能を表す基本的な式であるが、例えば活性汚泥モデルASM2などを採用する場合には、(14)式の流入下水水質や流入下水量などの外乱ベクトルdのいくつかの水質要素は実際には計測できない。例えば、活性汚泥モデルASM2では、CODの成分としてXs,Sa,Sf,Siなどのいくつかの要素に分けているが、これらを直接測定することは通常困難である。また、活性汚泥量に対応するSSやMLSSの成分として、Xh,Xaut,Xpaoといった複数の微生物があるが、これらも直接測定することが困難である。そのため、保存量に関する制約式が与えられても、保存されるべき物質量が分からないといった状況になる場合がある。このような場合には、例えば、非特許文献8に示されている呼吸速度試験などを行い、これらの値を推定して用いることができる。他の方法としては、外乱オブザーバを用いてこれらの保存されるべき物質量を推定することも考えられる。下水処理プロセスに限らず、外乱オブザーバなどの概念を用いて計測不能な外部入力の推定機構を併せ持つ保存量制約設定部51を持つプラントワイド最適プロセス制御装置を構成することもできる。このような保存量制約設定部51を持つことによって、決して達成できないような水質目標値を与えた制御を行ってプロセスが不安定化してしまう、といった状況を避けることができ、プロセスを安定的に最適化することができる。
一方、外乱オブザーバなどで保存されるべき外部入力の変数値を推定しようとしても、例えばデータの量や質が劣化しているため十分な推定ができなかったり、そもそも外乱オブザーバの構成条件を満たしていないなどの理由でこれらの値を推定することが困難であったりして、信頼性のある推定値が得られない場合も十分に考えられる。このような場合には、(14)式自体を測定可能な変数のみから構成してしまうことが考えられる。このような考え方は、(4)式のような微分方程式に対しては、モデルの低次元化/簡略化として良く知られている。(4)式のような微分方程式において、左辺=0とおけば、(14)式のような代数方程式が得られるので、モデルの低次元化の考え方は、(14)式に対しても可能である。例えば、非特許文献9では、このような観点に立ち、CODの成分を細かく分けることをやめて、(4)式に対応するモデル(プロセスシミュレータ)を構築している。このようにして構築した微分方程式で記述されるモデルにおいて、左辺=0とすることによって、測定可能な変数のみから保存量制約式を設定することができる。この考え方は、下水処理に限らず、一般のプラントにも適用することができる。このような測定可能変数のみからモデルを作る場合には、一般的にモデルがかなり簡略化されるため、本来の意味の最適化のための制約条件にはならない。しかしながら、測定可能変数のみが信頼でき、推定値が信頼できない場合には、積極的に保存量制約設定部51の構造を簡単にすることによって、結果的により最適に近い目標値演算が可能になる。
次に出力制約設定部52について説明する。出力制約設定部52では、例えば、出力である水質の規制値を設定したり、水質濃度など、決して負にはならないように制約条件を設定することができる。例えば、(14)式に加えて、次式のような制約条件を設定する。
0≦x≦xmax (15)
ここで、xmaxは水質の規制値などに対応する水質の上限値である。
次に操作量制約設定部53であるが、ここでは、プロセスのアクチュエータが取り得る範囲内のリミット値を設定することができる、例えば次式のような制約条件を設定する。
umin≦u≦umax (16)
ここで、uminおよびumaxは、操作量の上限値および下限値に対応する。
以上の設定部51〜53をまとめたものが制約条件設定部5である。
次に、最適目標値演算部6について説明する。最適目標値演算部6は、最適評価関数設定部4で設定した最適評価関数と、制約条件設定部5で設定した各種制約条件とに基づいて、アクチュエータ(112〜119)の操作量を求めるローカル制御回路31〜37に対する最適な目標値を計算する。このためには、以下の最適化問題を解けば良い。
この際、(20)式において、保存されるべき物質量として下水流入水質/水量が必要になる。そこで、データ収集部28において収集かつ保存された各種の下水流入水質/水量のデータを、例えば所定の期間にわたって平均化して、所定の期間の平均的な流入条件を与えることができる。このようにして、保存されるべき物質量が設定されると、この最適化問題を解くことができ、定常状態におけるプロセスの最適な水質濃度と最適な操作量を求めることができる。ただし、最適な操作量はあくまでも定常状態におけるものであり、この操作量を直接アクチュエータの操作量とするわけではなく、操作量はローカル制御部3において決定される。
最適目標値は、この最適化問題の答を用いて、NO3−N,NH4−N,MLSS,PO4−P,A−SRTなどを計算すればよい。形式的に書くと、
Optimal Set Points = arg N03-N,NH4-N,MLSS,PO4-P,A-SRT min Cost function subject to (Mass balance, Actuator limit, Output limit)
となる。
このように、最適化演算によって得られた最適な操作量を決めるのではなく、最適化演算によって得られた最適な目標値を決めている理由は次の通りである。最適操作量を直接決めてしまうと、外乱の影響によるプロセス状態の変化や最適化演算に用いたモデルのモデル化誤差などに対してロバスト性を持つように操作量が決定されないが、そもそも、制御系を構築する一つの重要な目的はプロセスにロバスト性を持たせることである。ロバスト性を持たせるためには、ローカル制御部3でフィードバック制御を行う必要があるため、ここでは、最適操作量ではなくローカル制御部3に対する最適目標値を演算することにしている。
この最適目標値演算を実際に行う場合には、非線形計画法を用いることができる。ここで注意すべき点は、(14)式は下水処理プロセスの場合には一般にモノー型の非線形性と双線形性を含む非線形代数方程式であるため、予め初期値を妥当な範囲に選んで局所最適解に陥らないような工夫をしておく必要があることである。この工夫がうまく行われていれば、信頼のおける非線形計画法の各種アルゴリズム、例えば共役勾配法などを用いて、信頼のおける最適目標値を演算することができる。
一方、予め何の先験情報も持たないような場合には、初期値を適切に設定することが困難な場合もある。このような場合には、例えば遺伝的アルゴリズム(GA)などのメタヒューリスティックスを用いて、準最適な目標値を演算することができる。この場合は、最適性ではなく準最適性しか保証できないが、局所的な極小解に陥りにくい点や高速に演算できる点などのメリットがある。
次に、ローカル制御部3について説明する。ローカル制御部3は各種のアクチュエータの操作量を決定するものである。まず、ローカル制御回路31は、データ収集部21において収集され保持された硝酸データを取り込むと同時に、最適目標値演算部6において計算された最適な硝酸濃度の目標値を取り込む。そうすると、最適なステップ流入量は、例えば次式のPIDコントローラによって計算することができる。
ここで、Kst p,Tst I,Tst dは各々ステップ流入量のPIDコントーラの比例ゲイン、積分時間、および微分時間を表すパラメータであり、sはラプラス演算子と微分演算子の両方を表す。また、Sref no3は最適目標値演算部6において計算された最適な硝酸濃度の目標値であり、Sno3(t)は硝酸濃度データである。tは時間を表すパラメータである。
ここで、K
st p,T
st I,T
st dのパラメータを適切に調整しておく必要がある。このためには、例えばゲインスケジューリングを行うことができる。具体的な方法として、例えば、(4)式のようなプロセスシミュレータを用いて、予め複数のステップ流入量の動作点においてステップ応答試験を行い、各動作点と対応する硝酸濃度を一覧にしておく。さらに、各ステップ応答波形から各動作点のパラメータ値を通常のPIDコントローラの調整方法に従って決めておく。この例を表1に示す。
Sref no3の値を表1の硝酸濃度の値と比較することによって、PIDコントローラのパラメータを切り替えることができる。あるいは、表1のパラメータ値を補間することによって、Sref no3の値に対応するPIDコントローラの値を計算してもよい。このようにすることによって、各目標値に応じて適切なPIDパラメータが設定され、結果として目標値への追従特性が良くなったり、流入下水負荷が変動した場合にも放流水質を適切に保つことができるといったような外乱抑制特性を向上させたりすることができる。これが、ローカル制御回路31の実施の形態である。
次にローカル制御回路32は、データ収集部22において収集され保持されたアンモニアデータを取り込むと同時に最適目標値演算部6において計算された最適なアンモニア濃度の目標値を取り込む。そうすると、最適な曝気風量は、例えば次式のPIDコントローラによって計算することができる。
ここで、Kb p,Tb I,Tb dは各々曝気風量のPIDコントーラの比例ゲイン、積分時間、および微分時間を表すパラメータである。また、Sref nh4は最適目標値演算部6において計算された最適なアンモニア濃度の目標値であり、Snh4(t)はアンモニア濃度データである。
パラメータKb p,Tb I,Tb dは、ステップ流入量のPIDコントローラのパラメータ調整と同様な方法によって行うことができる。
その他の方法として、曝気風量とアンモニア濃度の関係には強い非線形性があるので、非線形ダイナミックモデルを用いてローカル制御を実施することもできる。例えば第2好気槽105を例にとると、次のように行うことができる。
溶存酸素濃度S
02(t)とアンモニア濃度S
nh4と曝気風量Q
b(t)の関係式は、第2好気槽105に流入する酸素が無く、有機物が既に前段までの生物反応槽でほとんど消費されていると仮定すると、近似的に次のように与えられる。
ここで、μ
A,Y
A,K,K
o2,K
nh4はパラメータであり、Q(t)は流量、Vは反応槽容積、X
Aは硝化菌(独立栄養性細菌)、X
tssは反応槽のMLSS濃度を表す。ηはMLSS中に存在するX
Aの割合を表すパラメータである。/S
o2は飽和溶存酸素濃度を表す。S
in nh4(t)は前段の反応槽から流入してくるアンモニア濃度を表す。ここで、Q
b(t)を決定する必要があるが、厳密な線形化の考え方に従うと、新しい入力u(t)を導入して、Q
b(t)を以下のように変数変換する。
この変数変換を行うと、(25)式は、以下のようになる。
同様に、
を(27)式の入力とみなして、新しい入力v(t)を導入して、以下のように変数変換する。
この変数変換を行うと、(27)式は以下のようになる。
以上のような方法によって、(25)式や(27)式が厳密に線形化される。そこで、例えば、u(t)をPID制御によって制御すれば、溶存酸素濃度を制御することができる。v(t)は(31)式で溶存酸素濃度とアンモニア濃度のリンクをしているので、これは例えばバックステッピングの考え方を用いて設計すればよい。
以上がローカル制御回路32の実施の形態である。このような方法を採用することにより、プロセスの持つ非線形性を積極的に考慮したロバスト性を持つローカル制御を行うことができる。
次に、ローカル制御回路33は、データ収集部23において収集され保持された硝酸データを取り込むと同時に、最適目標値演算部6において計算された最適な硝酸濃度の目標値を取り込む。そうすると、最適な炭素源投入量は、例えば次式のPIDコントローラによって計算することができる。
ここで、Kcb p,Tcb I,Tcb dは各々炭素源投入量のPIDコントーラの比例ゲイン、積分時間、および微分時間を表すパラメータである。また、Sref no3は最適目標値演算部6において計算された最適な硝酸濃度の目標値であり、Sno3(t)は硝酸濃度データである。
Kb p,Tb I,Tb dなどのパラメータは、ステップ流入量のPIDコントローラのパラメータ調整と同様な方法によって行うことができる。また、曝気風量の厳密な線形化+バックステッピング+PIDコントローラのようなロバスト性を持つローカル制御回路を構成することも可能である。
以上がローカル制御回路33の実施の形態である。
次にローカル制御回路34は、データ収集部24において収集され保持された硝酸データを取り込むと同時に、最適目標値演算部6において計算された最適な硝酸濃度の目標値を取り込む。そこで最適な循環量は、例えば次式のPIDコントローラによって計算することができる。
ここで、Kcirc p,Tcirc I,Tcirc dは各々循環量のPIDコントーラの比例ゲイン、積分時間、および微分時間を表すパラメータである。
以上の説明より、ローカル制御回路31のステップ流入量とローカル制御回路33の炭素源投入量と、ローカル制御回路34の循環量の制御は、同じ硝酸濃度データを用いて、ほとんど同じアルゴリズムによって制御が行われることが分かる。その理由は、これらのアクチュエータの制御の目的として「脱窒」という共通のものを考えているからである。もちろん「脱窒」以外の目的に対してこれらのアクチュエータを制御することもできる。しかし、いままでの説明のように共通の目的を持つ場合に、これらの操作量を独立に操作させることは必ずしも得策ではない。そこで、例えば次のように実施することもできる。
脱窒反応は、通常、無酸素条件下で進行し、その際に硝酸と有機物(CODで計測される)を必要とする。この反応で必要となる硝酸とCODの比率は以下のようになる。
ここで、Yhは脱窒菌(従属栄養性細菌)の収率である。
この場合、ローカル制御回路33で操作量を計算する炭素源投入量とローカル制御回路31で操作量を計算するステップ流入量は脱窒のためのCOD源を供給することを目的としたものである。また、ローカル制御回路34で操作量を計算する循環量は脱窒のための硝酸の供給を目的としたものである。したがって、操作量を(35)式の比率に保つためには、硝酸量かCOD量かのいずれか一方を決めれば必然的に他方が決まる。そこで、例えば、以下のような制御を行うことができる。まず、ローカル制御回路34において、上述した通りに循環量をPI制御により決定する。次に(35)式の比率を保つような必要COD量を計算する。計算されたCOD量が決定したら、まずローカル制御回路31のステップ流入量を調整することによって計算された必要COD量を供給できるか否かを判断する。もし、ステップ流入量の調整のみで必要COD量を供給できる場合には、その必要COD量をステップ流入によって供給し、ローカル制御回路33の炭素源投入は行わない。もし、ステップ流入量の調整のみで必要COD量が供給できないと判断された場合には、不足分を計算し、不足分をローカル制御回路33の炭素源投入によって供給する。このようなアルゴリズムを採用することによって、過不足のない最適な脱窒制御を行うことができる。これがローカル制御回路31とローカル制御回路33とローカル制御回路34の実施の形態である。
次にローカル制御回路35は、データ収集部25において収集され保持されたMLSSデータを取り込むと同時に、最適目標値演算部6において計算された最適なMLSS濃度の目標値を取り込む。そうすると、最適な返送量は、例えば次式のPIDコントローラによって計算することができる。
ここで、Kret p,Tret I,Tret dは各々返送量のPIDコントーラの比例ゲイン、積分時間、および微分時間を表すパラメータである。また、Xref tssは最適目標値演算部6において計算された最適なMLSS濃度の目標値であり、Xtss(t)はMLSS濃度データである。Kret p,Tret I,Tret dなどのパラメータは、ステップ流入量のPIDコントローラのパラメータ調整と同様な方法によって行うことができる。これによって、最適な返送汚泥量の調整を行うことができる。以上がローカル制御回路35の実施の形態である。
次にローカル制御回路36は、今までの説明と同様に、データ収集部26において収集され保持されたリン酸データを取り込むと同時に、最適目標値演算部6において計算された最適なリン酸濃度の目標値を取り込む。そうすると、最適な凝集剤投入量は、例えば次式のPIDコントローラによって計算することができる。
ここで、Kpo4 p,Tpo4 I,Tpo4 dは各々凝集剤投入量のPIDコントーラの比例ゲイン、積分時間、および微分時間を表すパラメータである。また、Sref po4は最適目標値演算部6において計算された最適なリン酸濃度の目標値であり、Spo4(t)はリン酸濃度データである。
Kpo4 p,Tpo4 I,Tpo4 dなどのパラメータは、ステップ流入量のPIDコントローラのパラメータ調整と同様な方法によって行うことができる。この凝集剤投入制御は、曝気風量のローカル制御の説明で述べたように、ダイナミックなモデルを用いて行うこともできる。
これにより、最適な凝集剤投入を行うことができ、適切なリン除去を行うと共に薬品コストを削減することができる。ここで注意すべきことは、もし、最適目標値演算部6で設定されたリン酸濃度の目標値よりも計測されたリン酸濃度の方が低い場合には、結果的に凝集剤が投入されないことである。したがって、このような最適目標値設定値を持つローカル制御回路は、薬品投入が必要と判断された場合にのみ動作するインテリジェントなコントローラになっている。
次にローカル制御回路37は、今までの説明と同様に、データ収集部27において収集され保持された曝気槽内のMLSSデータと、引き抜き汚泥内のSSデータと、引き抜き汚泥量データとを取り込むと同時に、最適目標値演算部6において計算された最適なSRT(固形物滞留時間)あるいはA−SRT(好気条件の固形物滞留時間)の目標値を取り込む。そうすると、最適な余剰汚泥引き抜き量は、例えば次式のSRT制御によって計算することができる。
ここで、Xreactor tss(t),V,Xwaste tss(t),SRTrefは各々生物反応槽内のMLSS濃度、生物反応槽の容量、余剰汚泥のSS濃度、および最適目標値演算部6によって供給されるSRTの目標値である。
(38)式によって、最適な余剰汚泥の引き抜き量を計算することができる。(38)式は、余剰汚泥を連続的に引き抜くようになっているが、実際の下水処理プラントでは、余剰汚泥引き抜きは、タイマー制御されている場合が多く、簡欠的に引き抜いていることが多い。この理由の一つは、汚泥を連続的に引き抜くと汚泥の沈降が悪い場合があるのに対し、タイマー制御では、汚泥が十分に沈降している時に一気に引き抜くため、余剰汚泥の引き抜き操作がうまく働くからである。そこで、例えば、新たに汚泥界面計を設置することによって、汚泥の沈降具合を判断して間欠的に汚泥を引き抜くこともできる。例えば、汚泥界面の上限のスレッシュホールドレベルを設定しておき、界面が上限を越えるまで、(38)式の余剰汚泥引き抜き量を積分しておき、上限を越えた場合に積分した量の余剰汚泥を一定の時間をかけて引き抜くといった制御を行うことができる。このようにすることによって、実際の処理に適合した余剰汚泥引き抜き制御を実施することができる。また、最適なSRT値を最適目標値演算部6から供給しているため、最適な汚泥量の制御を行うことができる。以上がローカル制御回路37の実施の形態である。
以上のような一連の動作に従って、プラントワイドな最適な下水処理プロセス制御を行うことができる。ただし、以上の一連の動作における最適目標値は、実際には、流入してくる流入下水の量や質によって、異なったものになるはずである。特に、雨天や晴天などの天候の違い、休日と平日の違い、夜間と昼間の違い、季節の違いによって、流入下水の量や質が変化する方が普通である。そこで、最適目標値演算は適切な周期で繰り返す方がより現実的であり、所定の一定周期で最適目標値演算を行うことができる。また、一定周期ではなく、上述の天候、曜日、時間帯、季節の違いが表れる場合に最適目標値演算の再計算を行うこともできる。このような最適目標値再計算によって、下水の流入負荷状況に応じて、下水高度処理プロセスをプラントワイドに最適制御することができる。
(実施の形態1の効果)
以上の実施の形態では、従来のPID制御などのローカル制御部の上位系に、物質量保存制約条件を持つ最適目標値演算装置をスーパーバイザーとして設置することによって、以下のような効果を奏することができる。
(1)放流水質コストと運転コストを最適化した最適下水処理制御装置を提供することができる。
(2)物質量保存制約条件があるために原理的に到達できないような目標値を与えてしまう危険を回避することができる。
(3)従来行われているローカル制御部の制御装置をそのまま利用して、シームレスにプラントワイドな下水処理プロセス制御装置を提供することができる。
(4)ローカル制御装置と最適目標値演算装置を独立に設定することができ、例えば、ローカル制御装置でプラントのロバスト性や安定性を考慮し、最適目標値演算装置でプラントのプラントワイドな最適化を図る、といった役割分担を明確化することができる。
<実施の形態2>
(実施の形態2の構成)
図3および図4は、実施の形態2を示すものである。図3は制御対象として例示した図1と同様の下水高度処理プロセス1であり、図1の下水高度処理プロセス1と同一もしくは類似の構成要素には同一符号を付して示している。両者の相違点は、図3のプロセスにおいては、第2好気槽105にアクチュエータの一つとしてアルカリ剤投入ポンプ120を付加的に設け、それに対応して、プロセスセンサとして、第2好気槽105に、アルカリ度またはpHを計測するアルカリ度/pHセンサ129、およびORP値を計測するORPセンサ130を付加的に設けていることである。他は図1のプロセスとなんら変わりが無い。
図4は、図3で説明した各アクチュエータ111〜120を通して下水高度処理プロセス1を制御するプラントワイド最適プロセス制御装置を示すブロック図である。ここでは、プロセス計測データ収集部2は図2に示したデータ収集部21〜27およびデータ収集部28を包含する形で一つのブロックで示されている。ローカル制御部3も同様である。
図4のプラントワイド最適プロセス制御装置は、プロセス計測データ収集部2、ローカル制御部3、最適評価関数設定部4、制約条件設定部5、最適目標値演算部6、プロセス異常判断部7、プロセス異常通知部8、およびプロセス異常診断部9を含んで構成されている。プロセス計測データ収集部2、ローカル制御部3、最適評価関数設定部4、制約条件設定部5、および最適目標値演算部6の個々の機能はすでに述べた通りである。
プロセス異常判断部7は、プロセスデータ収集部2で収集された各種計測データと、最適目標値演算部6で計算される最適目標値とを入力し、プロセスの異常を判断する。プロセス異常通知部8は、プロセス異常判断部7で判断したプロセスの異常/正常状態をプロセスの運転員や管理者に通知する。プロセス異常診断部9は、プロセス異常判断部7で異常と判断された場合に、その異常の原因を調査し、プロセス異常の診断を行う。プロセス異常時制御部10は、プロセス異常診断部9で診断したプロセス異常の原因を復旧するように新たな制御を行う。
(実施の形態2の作用)
図3および図4を参照して実施の形態2の作用を説明する。本実施の形態の通常の作用は、プロセスの異常診断や異常判断に関わる部分を除けば、実施の形態1とほぼ同様である。したがって、以下では、プロセス異常に関わる部分の作用のみを説明する。
まず、プロセス計測データ収集部2では、アルカリ度/pHセンサ129およびORPセンサ130のデータも所定の周期で収集し、保持している。プロセス異常判断部7は、最適目標値演算部6で計算された最適目標値とプロセス計測データ収集部2に保持されている計測データとを入力する。そして、各センサの最適目標値と計測データの誤差を次式のように積分する。
ここで、XrefおよびX(t)は、ある制御したい水質の目標値および計測値である。
本実施の形態2では、制約条件設定部5においてマスバランスを考慮しているので、プロセスが正常に動作していれば、(39)式の右辺の誤差は時間が経過すれば0(ゼロ)に収束するはずである。つまり、目標値に到達できないことはない。したがって、左辺の値は無限に増加することはない。そこで、あるスレッシュホールドレベルKを設定して、次式でプロセスの正常/異常を判断する。
if|IE|≦K then 正常
if|IE|>K then 異常 (40)
このような判断により、プロセスが正常であるか、異常であるかを判断することができる。ただし、(39)式のような純粋な積分器では、わずかに誤差が残っていても左辺は無限大に増加する可能性があるので、極めて小さな正の値の忘却因子αを導入して、次式のように変更してもよい。
このように判断基準を修正すれば、実際には良く起こり得る「目標値との多少のずれ」には影響されにくくなるので、より正確にプロセスの正常/異常を判断することができる。これが、プロセス異常判断部7の実施の形態である。
プロセス異常通知部8では、プロセス異常判断部7の判断結果に基づいて、プロセスが正常であるか異常であるかを、下水高度処理プロセス1の運転員あるいは管理者に通知する。これが、プロセス異常通知部8の実施の形態であり、プロセス異常通知部を持つプラントワイドな最適下水処理プロセスの実施の形態である。このようなプロセスの正常/異常を運転員に通知することにより、プロセスをより安全に信頼性を高めて運用することができる。
一方、プロセスの正常/異常を知らせるだけでなく、その原因の候補も挙げることができれば、より信頼性と安全性の高いプラント運用が可能になる。そのために、プロセス異常診断部9が有用になる。プロセス異常診断部9は、プロセス異常判断部7の判断結果を受けて行われる。プロセス異常診断部9は、プロセス異常判断部7でプロセスが異常であると判断された場合に動作する。プロセス異常診断部9では、プロセスの異常要因を一覧表として持っておく。ここでは、ローカル制御部3で第2好気槽105のアンモニア濃度を制御している場合を想定し表2を参照して説明する。
表2に示したように、例えば、曝気量によるアンモニア濃度の制御がうまくいかない場合の要因として、
(1)曝気装置の故障による曝気風量の異常、
(2)アンモニアセンサ自身の異常、
(3)pHが極端に酸性に傾く場合などの硝化阻害、
などが考えられる。そこで、まず、これらの考えられる要因を表の縦方向に列挙しておく。次に、これらの値の正常範囲の最小値と最大値を表に書き込む。この最大値と最小値は予め固定値として与えておいても良いし、プロセスの状況に応じて可変の値を入れてもよい。例えば、最適目標値演算部6で計算したアンモニア濃度の最適目標値が1[mg/L」であり、ORPセンサ130の値が例えば130[mV]以上の十分な酸化側にある場合に、アンモニア濃度が極端に高いことは有り得ないので、この場合のアンモニア濃度の最大値を12[mg/L]とするなどのルールに従って、最小値と最大値を表に定期的に書き込む。同時に、現在計測されている実際の値を表に書き込む。さらに、この計測された実際の値が最大値と最小値の間に入っている場合には、「正常」を書き込み、最大値と最小値の間から外れている場合には、「異常」と書き込む。例えば、表2では、pHが極端に酸性になっているので、この項目に「異常」と書き込まれる。これが、プロセス異常診断部9の作用である。さらに、プロセス異常通知部8で、プロセスが異常であることと同時にその要因が、pHが極端に酸性になっていることにある可能性が高いことを通知する。もし、表2で「異常」の項目が表れない場合には、プロセスの異常要因が表2の項目ではないことを通知すると同時に異常要因不明の通知を行う。
以上により、プロセスが異常であることを運転員や管理者に通知するだけでなく、その要因をも通知することができ、プロセスをより安全にかつ高信頼性をもって運転することができる。
一方、このようなプロセス異常診断によってプロセス異常要因が分かるのであれば、その対策を同時に実施することができる。プロセス異常時制御部10を設けることによって、これが可能になる。
プロセス異常時制御部10は、プロセス異常診断部9で診断された原因に基づいて、プロセスが正常に戻るように制御を行う。表2に示したように、プロセス異常の原因がプロセスが酸性に傾きすぎたことによる硝化阻害であった場合、プロセスを中性になるようにしてやればよい。そこで、アルカリ剤投入ポンプ120によるアルカリ剤の投入量の制御を行う。まず、表2からpHの最大値と最小値の中間値を目標値として設定する。このアルカリ剤投入量の制御は、今までに繰り返し説明してきたものと同様のPID制御を用いて行う。この場合、センサとしてpHセンサ129を設けているので、そのpHセンサの出力についてPID制御を行えばよい。pHが所定の値に復帰したら、このアルカリ剤投入PID制御を停止して通常運転に戻る。
もし、プロセス異常診断部9で診断された原因がアンモニアセンサ121,124の異常であった場合には、プロセス異常時制御部10で、ORPセンサ130を用いた曝気風量PID制御に切り替えると同時に、プロセス異常通知部8にアンモニアセンサの修理を促すアナウンスを行う。もし、プロセス異常診断部9で診断された原因が曝気量の異常であった場合には、曝気のための散気装置の自動洗浄を行う。
以上がプロセス異常時制御部10の作用である。このプロセス異常時制御部10では、異常時の制御を行うと同時にプロセス異常通知部8で、異常要因の解消を促し、運転員や管理者がプロセスの異常要因を解消したら、このプロセス異常時制御部10に何らかの信号を送るように約束をしておき、この信号を受け取ったら、プロセスの制御は通常の制御に復帰するようにしておく。
以上がプロセス異常時制御装置を組み込んだラントワイド最適プロセス制御装置の実施の形態である。これにより、プロセスが異常である場合にもプロセスを自動的に正常状態に復帰させることができ、より信頼性と安全性の高いプロセス運用が可能になる。
(実施の形態2の効果)
本実施の形態から得られる主たる効果は、実施の形態1の効果に加えて、以下の諸効果を挙げることができる。すなわち、下水高度処理プロセスが正常に動作している場合のみならず、プロセスが何らかの要因で異常状態に陥った場合にも、プロセスをプラントワイドに最適に制御することができることである。そのため、プロセスをほぼ完全自動で運用することができる。
<実施の形態3>
(実施の形態3の構成)
図5は実施の形態3の説明図である。実施の形態3の構成は、図1あるいは図3に示したプロセスのいずれかとほぼ同様である。その違いは、図5に示したように手動目標値設定部11を備えていることである。
(実施の形態3の作用)
図5を用いて、実施の形態3の作用を説明する。実施の形態1の作用の項で説明したように、最適目標値演算部6は各水質センサの最適目標値を演算するが、この値が運転員にとっては満足できない場合があり得る。例えば、図2に示した最適評価関数設定部4では、(18)式や(19)式のような評価関数を設定しているが、運転員は、これらの式で考慮していない状況を経験的に評価している場合がある。このような場合には、最適目標値演算部6で求めた最適目標値を修正したいケースが起こり得る。そこで、最適目標値演算部6で求めた最適目標値をローカル制御部3に与えると同時に運転員13にも提示するようにしておく。そして、運転員13がこの目標値を修正したい場合には、最適目標値演算部6を手動目標値設定部11に切り替える。そして、手動目標値設定部11において、運転員が望ましいと思う目標値を設定する。次に手動目標値判断部12で、図1の保存量制約設定部51の条件に矛盾しない目標値であるか否かを判断する。もし、設定した目標値が矛盾するようであれば、目標値を変更するように運転員13にアナウンスを行う。もし、矛盾しないようであれば、その目標値をローカル制御部3に送信する。以上が、実施の形態3による目標値設定の態様である。
(実施の形態3の効果)
本実施の形態から得られる効果は、実施の形態1の効果に加えて、下水処理プラントの運用における人間系と自動制御系の協調が可能になり、完全自動を行いたい場合には完全自動制御を行い、人間系を介在させたい場合には、自動制御による支援のある部分自動制御を行うことができる。
<実施の形態4>
(実施の形態4の構成)
図6は実施の形態4の説明図である。実施の形態4の構成は、図1あるいは図3に示したプロセスのいずれかとほぼ同様である。その違いは、図6に示したようにローカル制御部3を切り離し、人間系が操作を行うことがあることのみである。
(実施の形態4の作用)
図6を参照して、実施の形態4の作用を説明する。実施の形態1の作用の項で説明したように、最適目標値演算部6で計算された最適目標値は、ローカル制御部3へ送られて自動制御が行われるが、下水処理プロセスの運転員や管理者にとって必ずしも自動制御がベストである場合ばかりであるとは限らない。プロセス運用に習熟した運転員は手動で各種アクチュエータ111〜120を制御したい場合もある。このような場合においても、複数ある水質をどのような値に設定すればよいかを全て運転員自身が考えることは非常に大きな労力伴う。そこで、最適目標値演算部6で計算した最適目標値を運転員13に提示すると同時に、プロセス計測データ収集部2で収集し保存したデータを時系列データとして運転員13に提示しておく。運転員13は、この最適目標値と実際の計測データを同時にディスプレイ上で見ることによって、手動で各種アクチュエータ111〜120の操作量を決定する。この場合、アクチュエータ111〜120の一部のみの操作量を手動で決定してもよい。操作量の時系列データや水質の時系列データが目標値と共に常に運転員13に提示されているため、これは人間を介したビジュアルフィードバック系になっており、これによって、ローカル制御部3の機能を代行させることができる。以上が、人間系によるローカル制御の実施の形態である。
(実施の形態4の効果)
実施の形態4によっても、実施の形態3と同様に、実施の形態1の効果に加えて、下水処理プラントの運用における人間系と自動制御系の協調が可能になり、完全自動を行いたい場合には完全自動制御を行い、人間系を介在させたい場合には、自動制御による支援のある部分自動制御を行うことができることである。
<実施の形態5>
(実施の形態5の構成)
図7は実施の形態5の構成図である。この実施の形態5は、センサ異常に対するロバスト性を有するものであり、何らかの原因でセンサ異常が発生してもプロセス制御の破綻を回避しながら制御を継続し得るプラントワイド最適プロセス制御装置を提供するものである。図8は図7における下水高度処理プロセス1の詳細な構成を示す説明図、図9は図7におけるプロセス計測データ収集部2及びローカル制御部3の詳細な構成を示す説明図である。これらの図において、図1乃至図3において既述したものと同一の構成要素には同一符号を付してある。
図7において、下水高度処理プロセス1からの計測データはプロセス計測データ収集部2により収集され、プロセス計測データ収集部2は収集したデータをローカル制御部3及びプロセスセンサ異常診断部14に送るようになっている。また、下水高度処理プロセス1からの特定の外部入力計測データは外部入力計測データ収集部15により収集され、外部入力計測データ収集部15はこれを外部入力センサ異常診断部16に送るようになっている。
外部入力センサ異常診断部16及びプロセスセンサ異常診断部14は、入力した計測データに基づきセンサ異常診断を行い、それぞれスイッチ部SW1,SW2の接点切換を行うようになっている。
制約条件設定部5は、スイッチ部SW1を介してセンサ正常時には外部入力計測データ収集部15からのデータを入力し、また、センサ異常時には手分析データ保存部17からのデータを入力するようになっている。この手分析データ保存部17には、予め求められている下水流入水質についての手分析データが保存されている。
本実施形態に係る装置は、最適評価関数設定部4及び制約条件設定部5の設定に基づき、センサ正常時及びセンサ異常時におけるプロセスの最適化を行うプロセス最適化部18を備えている。このプロセス最適化部18は、センサ正常時における最適目標値をスイッチ部SW2を介してローカル制御部3に出力する最適目標値演算部6と、センサ異常時における最適操作量をスイッチ部SW2を介して下水高度処理プロセス1のアクチュエータ112〜119に対して直接出力する最適操作量演算部19とを有している。
図8に示した下水高度処理プロセス1は、図1に示したものと略同一であり、異なる点は、下水流入センサ128の計測データが外部入力計測データ収集部15に出力されるようになっている点である。
図9に示すように、プロセス計測データ収集部2は、無酸素槽104内の硝酸センサ122からのデータを収集する第1のデータ収集部21と、好気槽103内のアンモニアセンサ121及び好気槽105内のアンモニアセンサ124からのデータを収集する第2のデータ収集部22と、無酸素槽104内の硝酸センサ122からのデータを収集する第3のデータ収集部23と、無酸素槽104内の硝酸センサ122からのデータを収集する第4のデータ収集部24と、無酸素槽104内のMLSSセンサ123からのデータを収集する第5のデータ収集部25と、好気槽105内のリン酸センサ125からのデータを収集する第6のデータ収集部26と、無酸素槽104内のMLSSセンサ123からのデータ、最終沈殿地106のSSセンサ126からのデータ、及び最終沈殿地106底部側に設けられた流量センサ127からのデータを収集する第7のデータ収集部27と、を有している。
また、ローカル制御部3は、ステップ流入ポンプ制御回路としてステップ流入ポンプ112を制御する第1のローカル制御回路31と、ブロワ制御回路としてブロワ113,114を制御する第2のローカル制御回路32と、炭素源投入ポンプ制御回路として炭素源投入ポンプ115を制御する第3のローカル制御回路33と、循環ポンプ制御回路として循環ポンプ116を制御する第4のローカル制御回路34と、返送汚泥ポンプ制御回路として返送汚泥ポンプ117を制御する第5のローカル制御回路35と、凝集剤投入ポンプ制御回路として凝集剤投入ポンプ118を制御する第6のローカル制御回路36と、余剰汚泥ひき抜きポンプ制御回路として余剰汚泥引き抜きポンプ119を制御する第7のローカル制御回路37とを有している。
そして、これらローカル制御回路31〜37のそれぞれは、データ収集部21〜27の計測値と、最適目標値演算部6からの最適目標値とを入力し、これらの入力に基づき演算した操作量をアクチュエータ112〜119に対して出力するようになっている。
また、データ収集部21〜27の各計測値はプロセスセンサ異常診断部14に対しても出力されるようになっている。プロセスセンサ異常診断部14は、これらの入力に基づきプロセスセンサの異常診断を行ってスイッチ部SW2の接点切換を行うようになっている。
(実施の形態5の作用)
次に、実施の形態5の作用を図7乃至図9を参照しつつ説明する。なお、最適評価関数設定部4及び制約条件設定部5の各設定の仕方は、実施の形態1において既述したのと同様であるが、説明の便宜上、再度説明しておく。
最適評価関数設定部4は、下水高度処理プロセス1の最適性を評価するための最適評価関数Jを、例えば、(1)式のように設定する。
J=EC+OC (1)
ここで、ECは放流水質コストであり、OCは運転コストであって、例えば次式で定義する。
ここで、COD,BOD,SS,TN,TPは、それぞれ、放流水の化学的酸素要求量、生物化学的酸素要求量、浮遊固形物量、全窒素の濃度、および全リンの濃度を表し、単位はすべて[kg/m3]である。Qef[m3/d]は放流水量を表す。Qb,Qret,Qcirc,Qex,Qpac,Qcbは、それぞれ、曝気風量、返送量、循環量、余剰汚泥引抜量、凝集剤投入量、炭素源投入量であり、単位はすべて[m3/d]である。Qsludge[kg/d]は発生汚泥量である。また、t0およびTは、それぞれ、コスト評価開始時刻およびコスト評価期間を示す。wiはコスト換算係数に対応する重みであり、例えば非特許文献6に開示されている値を用いることができる。
次に、制約条件設定部5において、保存量制約設定部51、出力制約設定部52、および操作量制約設定部53の各々の制約条件を設定する。
保存量制約設定部51では、下水高度処理プロセス1の処理におけるマスバランスを考慮した微分方程式から導出される代数方程式による記述を行う。
まず、例えば、非特許文献7に記載されている活性汚泥モデルASM1〜ASM3などを用いて、下水高度処理プロセス1のプロセスモデル(プロセスシミュレータ)を形式的に表現すると以下のようになる。
ここで、xは反応槽内のアンモニア、硝酸、リン酸、CODの要素、SS、MLSSなどの水質要素を表すベクトル、uは、曝気量、循環量、返送量、炭素源投入量などの操作量を表すベクトル、dは流入下水の水質要素や流入下水量などの外乱を表すベクトル、θは、最大比増殖速度、半飽和定数、加水分解定数、死滅定数、などの各種パラメータを表すベクトルである。fは、ASM1〜ASM3などの水質反応と、物理的な混合と、酸素の供給などを表す関数である。
(4)式は、次式のような生物反応槽モデルと沈澱池モデルを連結させた形で表現される。
*生物反応槽モデル:
ここで、z
*(t)[g/m
3]∈R
n +は反応槽の水質要素を表すベクトル、nは状態変数の数、z
*in(t)[g/m
3]∈R
n +は対象となる反応槽に流入してくる下水の水質要素を表すベクトル、V
*[m
3]∈R
+は対象とする反応槽の容積、Q
*(t)[m
3/day]∈R
+は流入量を表す。また、S∈R
p×nは化学量論を表すマトリクス、r(・)∈R
p +は反応速度を表すベクトル、pは要素反応プロセスの数を表す。S
o2*(t)[g/m
3]∈R
+は溶存酸素濃で、z
*(t)の一つの要素(ASM1〜ASM3では2番目の要素として割り当てられている)である。/S
o2(t)[g/m
3]∈R
+は飽和溶存酸素量、KLa[1/day]∈R
+は総括酸素移動容量係数、Q
B(t)[m
3/day]∈R
+は曝気量、K[1/m
3]∈R
+は定数を表す。また、*は各反応槽の文字列を表し、例えば、*:=aerobicは好気槽である。R
nはn次の実数の集合を表し、R
n +はn次の正の実数の集合を表す。
*沈澱池モデル:
ここで、ssd(t)[g/m3]∈RS +は沈澱池の溶解性の水質要素を表すベクトル、sは溶解性水質要素の数を表す。xb sd(t)[g/m3]∈Rn−S +は沈澱池の沈澱部の浮遊性の水質要素を表すベクトルであり、xu sd(t)[g/m3]∈Rn−S +は沈澱池の上澄部の浮遊性の水質要素を表すベクトルである。αは1より小さい定数である。Qw sdout(t),Qr sdout(t),Qe sdout(t)はそれぞれ、余剰汚泥引き抜き流量、返送量、および放流量を表す。
これらの生物反応槽モデルと沈澱池モデルを下水高度処理プロセス1のプロセス構成に従って適切に連結することによって、(4)式が得られる。
さて、このプロセスモデル(シミュレータ)である(4)式の左辺の微分値をゼロと置くと、定常状態におけるマスバランス式が得られ、以下のようになる。
f(x,u,θ,d)=0 (14)
この(14)式が、保存量制約設定部51の制約条件式の一例である。(14)式と下水処理プロセスシミュレータとの違いは、(14)式が非線形の代数方程式であるのに対し、プロセスシミュレータでは、(4)式のように微分方程式であることであり、実施の形態1で既述した通りである。この(14)式のマスバランス式の中には、下水処理プロセスの各種の水質ばかりでなく、操作量も含まれていることに注意しておくべきである。この事実を後に利用する。
次に出力制約設定部52について説明する。出力制約設定部52では、例えば、出力である水質の規制値を設定したり、水質濃度など、決して負にはならないように制約条件を設定することができる。例えば、(14)式に加えて、次式のような制約条件を設定する。
0≦x≦xmax (15)
ここで、xmaxは水質の規制値などに対応する水質の上限値である。
次に操作量制約設定部53であるが、ここでは、プロセスのアクチュエータが取り得る範囲内のリミット値を設定することができる、例えば次式のような制約条件を設定する。
umin≦u≦umax (16)
ここで、uminおよびumaxは、操作量の上限値および下限値に対応する。以上の設定部51〜53をまとめたものが制約条件設定部5である。
上記の設定が行われた後、プロセス計測データ収集部2による下水高度処理プロセス1からのプロセス計測データ収集が所定周期で行われ、ローカル制御部3による制御が行われる。
次に、外部入力センサ異常診断部16では、外部入力計測データ収集部15にて収集した流入下水水質や流入下水量の時系列データを用いてセンサ値の異常診断を行う。具体的な方法としては色々な方法が考えられるが、例えば以下の様に行う。例として流入下水水質のアンモニア濃度を取り上げる。
まず、流入下水水質のアンモニア濃度の典型値を調査しておく。通常、普通の都市下水であればアンモニア濃度の値は、15[mg/L]〜40[mg/L]程度である。そこで、アンモニア濃度の取り得る上限値及び下限値をそれぞれ設定する。例えば、下限値として10[mg/L]とし、上限値として40[mg/L]とする。
また、アンモニア濃度の変化の最大幅を予め設定しておく。例えば、10分周期で収集しているとして、10分間でのアンモニア濃度の最大変化率が10[mg/L]と設定しておく。さらに、アンモニア濃度の時系列データの自己相関関数を計算し、どのくらい過去のデータと現在のデータが相関を持っているかを調べておく。そして、例えば相関係数が0.8(完全相関の場合に1とした場合)以上である時間のずれを見ておく。例えば30分前までのデータは通常相関係数が0.8以上あると得られたとする。これらの事前の調査に基づいて、アンモニアセンサの正常/異常を判断するマップを例えば表3に示す様に作っておく。
表3において、いずれの項目も正常範囲に入っている場合は、「センサは正常である」と判断する。逆に全ての項目が異常範囲に入っている場合は、「センサは異常である」と判断する。いずれかの項目が異常範囲にある場合には、センサのチェックをアナウンスするような仕組みを作っておく。例えば、このようなロジックが組み込まれた外部入力センサ異常診断部16を用いて、流入下水水質や流入下水量などの計測値の正常・異常を診断する。
そして、もし外部入力センサ異常診断部16がセンサを正常と判断した場合、外部入力センサ異常診断部16はスイッチ部SW1の接点をa側とし、外部入力計測データ収集部15が収集した流入下水量や流入下水水質の時系列データについての加工データを保存量制約設定部51のdの項に入力する。
一方、もしセンサを異常と判断した場合、外部入力センサ異常診断部16はスイッチ部SW1の接点をb側とし、手分析データ保存部17に保存されているデータを保存量制約設定部51のdに対応する形になるよう適当な変換を施してdの項に入力を行う。手分析データ保存部17には、例えば1日に1回分析されたCOD、アンモニア性窒素、リン酸性リンなどのデータが予め保存されている。
なお、センサが正常であるのか異常であるのか判断がつかないような場合には、前記のアナウンスに従って正常か異常かを運転員や管理者が判断し、スイッチ部SW1を手動操作していずれか一方の入力を選択するようにする。
プロセスセンサ異常診断部14では、プロセス計測データ収集部2が収集したプロセス値の時系列データに基づいて、プロセスセンサによる計測値の異常診断を行う。この異常診断は、上述した外部入力センサ異常診断部16と同様の方法により行っても良いが、次のような、複数のセンサによる相関に基づく主成分分析などの統計的手法を利用した方法により行うことができる。
すなわち、プロセスセンサのうち、いくつかのものは非常に強い相関を持っている場合が多い。例えば、アンモニアセンサと、DOセンサと、ORPセンサとは互いに相関を持っている場合が多く、特に好気条件では相関が強いものとなる。そこで、これら3つの時系列データあるいは加工した時系列データに対して主成分分析を行う。すると、センサが正常である場合には、第1主成分の値が例えば、0.9(第1〜第3主成分の総和は1)程度になっている。そこで、スレッシュホールドレベルとして、例えば0.75を設定しておき、もし、第1主成分の値が0.75未満になったらいずれかのセンサが異常であると判断する。そして、例えば、センサが正常であればFB(フィードバック)、センサが異常であればFF(フィードフォワード)などのフラグをたててセンサ状態を保持しておく。
プロセス最適化部18では、最適評価関数設定部4で設定した最適評価関数と、制約条件設定部5設定した各種制約条件とに基づいてプロセスの最適な目標値と最適な操作量とを計算する。ここで、注意すべき点は、この最適化問題は既述した実施の形態1で与えたものと同じであるが、実施の形態1ではこの最適化問題の解の中から、ローカル制御部3に引き渡す最適目標値のみを抽出していたが、この実施の形態5では、最適目標値だけでなく最適操作量も計算している点である。
実施の形態1では、最適操作量を求めてフィードフォワード制御を行うよりも最適目標値を求めてローカル制御部3においてフィードバック制御を行う方がプラント変動に対してロバストであることを主張しているが、これは、「センサが正常である」という前提のもとである。もし、センサが異常であり、センサの計測情報が信用できないのであれば、これを使ったフィードバック制御は却ってプロセスに悪影響を与える。そこで、この実施の形態5では、センサの正常/異常の状態に応じてフィードバック制御とフィードフォワード制御を切り換えることを提案している。ここで解くべき最適化問題は、実施の形態1
と同じものであり、以下で与えられる。
この最適化問題は、制約条件設定部5及び最適評価関数設定部4において各々制約条件及び評価関数が与えられていれば解くことができ、定常状態におけるプロセスの最適な水質濃度と最適な操作量とが求まる。最適目標値は、この最適化問題の答えを用いて、 NO3-N 、 NH4-N 、 MLSS 、 PO4-P 、 A-SRT などを計算すればよい。形式的に書くと、
Optimal Reference Set Points = arg N03-N,NH4-N,MLSS,PO4-P,A-SRT min Cost function subject to (Mass balance, Actuator limit, Output limit)
となる。
最適操作量は、この最適化問題の答えそのものであり、形式的に書くと、
Optimal Actuator Set Points =arg Qstep,Qb,Qpac,Qcb,Qcirc,Qret,Qwaste min Cost function subject to (Mass balance、 Actuator limit、Output Limit)
となる。
すなわち、解くべき問題は共通の最適化問題であるが、その解の中の何を採用するかが異なっている。Optimal Reference Set Pointsを選択した場合には、結果的にフィードバック+フィードフォワード制御となり、Optimal Actuator Set Pointsを選択した場合には、純粋なフィードフォワード制御となる。
一般にフィードバック制御はロバスト性を高める効果があるといわれているが、これは、(1)プロセスモデルの不確かさ、(2)プロセス混入外乱、に対するロバスト性であり、センサが異常になった場合にまでロバスト性があるわけではない。そこで、プロセスセンサ異常診断部14は、プロセスセンサ状態がFFであり異常と判断した場合には、Optimal Actuator Set Pointsを選択すべく、スイッチ部SW2の接点d側をONにする(このとき接点c側はOFF)。これにより、アクチュエータ112〜119、すなわち、ステップ流入ポンプ112、ブロワ113,114、炭素源投入ポンプ115、循環ポンプ116、返送汚泥ポンプ117、凝集剤投入ポンプ118、及び余剰汚泥引き抜きポンプ119に対して、最適操作量演算部19が演算した各最適操作量が直接に与えられる。
ここで、通常、下水処理プロセスでは、流入下水量に対して操作量の比を一定に保つ比率一定制御が入っていることが多いため、最適操作量を流入下水量で割ることにより最適操作量比率を求め、これに時々刻々と変化する流入下水量をかけ合わせて操作量を決定する、最適比率一定制御として求めてもよい。このようにすれば、プロセスセンサが異常であって、実際にはフィードバック制御を行えない様な状況が生じた場合においても、上記(1)や(2)に対するロバスト性は失われるものの、適切な操作量を決定することができる。これは、プロセスセンサ値が異常であれば操作量を現状値に保つ(ホールドする)といった場当たり的な方法に比べて次のようなメリットを持つ。
つまり、センサ値が異常である場合に操作量をホールドした場合、センサ値を異常と判断した時点でこのセンサ情報に基づくフィードバック制御により求めた操作量は最適な操作量からはかなり外れたものになっている可能性が高い。しかし、この実施の形態5の手法によって求めた操作量は最適化問題を解いて得られる答えから求めているため、明らかにこのようなホールドされた操作量より適切な操作量を与えていることになる。
一方、プロセスセンサ異常診断部14は、プロセスセンサ状態がFBであり正常と判断した場合、Optimal Reference Set Pointsを選択すべく、スイッチ部SW2の接点c側をONにする(このとき接点d側はOFF)。これにより、最適目標値演算部6が演算した各アクチュエータ112〜119に対する最適目標値がローカル制御部3に出力される。ローカル制御部3は、この最適目標値と、プロセス計測データ収集部2からの計測データとに基づき、ステップ流入ポンプ112、ブロワ113,114、炭素源投入ポンプ115、循環ポンプ116、返送汚泥ポンプ117、凝集剤投入ポンプ118、及び余剰汚泥引き抜きポンプ119に対して制御を行う。この時の制御の内容は、実施の形態1で既述しているので、以下にブロワ114に対する制御のみを参考のため簡単に説明する。
すなわち、第2のローカル制御回路32は、第2のデータ収集部22からアンモニアセンサ124の計測データを取り込むと共に、最適目標値演算部6からのブロワ114に対する最適目標値を取り込み、最適な曝気風量Qbを下式(42)のPID演算式に基づき求める。
ここで、K
b p,T
b I,T
b d は、ブロワ114の曝気風量をPID制御する場合におけるPIDコントローラの比例ゲイン、積分時間、微分時間を表すパラメータである。また、S
ref nh4は最適目標値演算部6により演算されたアンモニア濃度の最適目標値であり、S
nh4(t)はアンモニアセンサ124により計測されたアンモニア濃度の計測値である。ここで、上記のパラメータK
b p,T
b I,T
b d は、例えばIMCチューニングといった一般に良く知られている調整法を用いて調整しておくことができる。これが、第2のローカル制御回路32が行う制御の内容である。
以上の様な実施の形態5の一連の動作に従って、プラントワイドでセンサ異常に対してロバストな最適下水処理プロセス制御を行うことができる。ただし、以上の一連の動作における最適目標値あるいは最適操作量は、実際には、流入してくる流入下水の量や質によって、異なったものになるはずである。特に、雨天や晴天などの天候の違い、休日と平日の違い、夜間と昼間の違い、季節の違いによって、流入下水の量や質が変化する方が普通である。
さらに、センサ異常はどのようなタイミングで生じるかは事前にわからないため、センサ異常の検出をプロセス最適化部18に反映させる必要があり、このような最適化演算は所定の周期で繰り返す必要がある。ただし、センサの状態によっては、各周期毎にプロセス最適化部18による最適化演算の結果が、最適操作量を出力する場合と最適目標値を出力する場合との間で頻繁に切り換わることが生じる可能性がある。このようなことが生じるとプロセスを不安定化する原因になりかねない。そこで、例えば、センサの異常診断結果を過去数周期にわたって保存しておき、異常が連続して続く場合や正常が連続して続く場合に、最適操作量と最適目標値の切り換えを行うようにしておくことが好ましい。このようなヒステリシスな特性を持たせることによって、不必要な切り換えによるプロセスの不安定化を避けることができる。
(実施の形態5の効果)
本実施の形態によれば、 センサが正常に動作している場合には、フィードバック(+フィードフォワード)制御によってプロセス制御にロバスト性を持たせ、一方、センサが異常になった場合には、フィードフォワードによる最適化制御によって近似的にプロセスを最適化することにより、結果として、センサ故障に対してロバストな最適プロセス制御装置を提供することができる。
<実施の形態6>
(実施の形態6の構成)
実施の形態6は、実施の形態5と略同様に、図7及び図9に示す構成を有している。しかし、下水高度処理プロセス1の構成は、図8ではなく、図10に示すものである。図10が図8と異なる点は、酸化還元電位差を計測するORPセンサ130、及び溶存酸素濃度を計測するDOセンサ131が好気槽105に設けられている点、並びに放流下水のCOD,TN,TPなどの複数の水質要素及び水量を計測する放流下水センサ132が最終沈殿地106に設けられている点である。
また、実施の形態5では、プロセスセンサのセンサ数は1つ又は複数のいずれの場合も含むものであるが、この実施の形態6ではプロセスセンサのセンサ数は複数であることを前提としている。そして、あるセンサが異常である場合、他のセンサの計測に基づく制御に切り換えられるようにしている。つまり、この実施の形態では、あるアクチュエータへの操作量について、複数種類の目標値のうちから、予め定めてある優先度にしたがっていずれかを選択できるようになっている。したがって、この実施の形態では、プロセスセンサの中に異常が発生しているものがあるか否かを判別するだけではなく、どのセンサに異常が発生しているかについてまで特定する必要がある。それ故、この実施の形態6では、実施の形態5で既述した主成分分析などの方法だけでは不充分であり、プロセスセンサ異常診断部14は、既述した表3を利用して各センサの正常又は異常につき判断する必要がある。
以下、この実施の形態6の制御につき、第2のローカル制御回路32が行う制御を例に取り説明する。
図11は、第2のローカル制御回路32の構成を示すブロック図である。この図に示すように、第2のローカル制御回路32は、第1乃至第4のコントローラ321〜324を有している。
第1のコントローラ321は、最適目標値演算部6から与えられるNH4最適目標値と、アンモニアセンサ124からのNH4計測値とに基づきブロワ114の曝気風量を制御できるようになっている。
第2のコントローラ322は、最適目標値演算部6から与えられるDO最適目標値と、DOセンサ131からのDO計測値とに基づきブロワ114の曝気風量を制御できるようになっている。
第3のコントローラ323は、最適目標値演算部6から与えられるORP最適目標値と、ORPセンサ130からのORP計測値とに基づきブロワ114の曝気風量を制御できるようになっている。なお、ORP値は通常のプロセスモデルには含まれないので、例えば予めDO濃度やアンモニア濃度との相関を調べておくことによって、プロセスモデルに組み込んでおく。
第4のコントローラ324は、最適目標値演算部6から与えられる放流TN−無酸素槽NO3最適目標値と、放流下水センサ132からの放流TN計測値と硝酸センサ122からの無酸素槽NO3計測値との差分とに基づきブロワ114の曝気風量を制御できるようになっている。
(実施の形態6の作用)
ブロワ114の曝気風量制御をおこなう場合、アンモニアセンサが正常であるならば、アンモニアセンサを用いた曝気風量制御が最も好ましい。これに対し、放流TNは主にアンモニアと硝酸を含んでいると考えられるので、放流TN‐反応槽末端槽NO3は、ほぼアンモニア濃度に比例すると考えて曝気風量制御を行うことができるが、あまり信頼性の高いものではない。そこで、曝気風量制御に採用するコントローラの優先順位をコントローラ321〜324の順にしておく。
したがって、プロセスセンサ異常診断部14がアンモニアセンサ124を異常と診断しない限り、プロセス最適化部18では最適目標値演算部6が第1のコントローラ321に対してアンモニア濃度の最適目標値を与える。このとき、他のコントローラ322〜324に対しては、目標値を与えない旨を示すフラグ(例えば、「10000」などの有り得ない数値を入れる)をたてるようにする。
一方、プロセスセンサ異常診断部14がアンモニアセンサ124に異常があると診断した場合、プロセス最適化部18ではこの診断結果を受けて最適目標値演算部6が、2番目の優先順位を持つ第2のコントローラ322にDO濃度の最適目標値を与える。このとき、他のコントローラ321,323,324に対しては、上記と同様に、目標値を与えない旨を示すフラグをたてるようにする。
また、プロセスセンサ異常診断部14がDOセンサ131にも異常があると診断した場合、最適目標値演算部6は、同様にして3番目の優先順位を持つ第3のコントローラ323にORPの最適目標値を与え、更に、ORPセンサ130にも異常があると診断した場合、最後の優先順位の第4のコントローラ324に放流TN−無酸素槽NO3最適目標値を与える。
そして、プロセスセンサ異常診断部14が放流下水センサ132及び硝酸センサ122にも異常があると診断した場合、つまりブロワ114の曝気風量制御に関係する全てのセンサに異常があると診断した場合、プロセスセンサ異常診断部14はスイッチ部SW2の接点cをオフにし、接点dをオンにする。これにより、コントローラ321〜324に対する最適目標値演算部6からの各最適目標値の供給が停止され、代わりに、実施の形態5で説明したように、最適操作量演算部19からの最適操作量が直接ブロワ114に出力される。
上述したブロワ114の制御に際しての各コントローラの切り換え、及び最適操作量への切り換えは、下記の5つの最適化問題の解に基づき行われるものである。
Optimal Reference Set Points1 =arg NO3-N,NH4-N,MLSS,PO4-P,A-SRT min Cost function subject to (Mass balance、 Actuator limit、 Output Limit)}
Optimal Reference Set Points2 =arg NO3-N,DO,MLSS,PO4-P,A-SRT min Cost function subject to (Mass balance、 Actuator limit、 Output Limit)}
Optimal Reference Set Points3 =arg NO3-N,ORP,MLSS,PO4-P,A-SRT min Cost function subject to (Mass balance、 Actuator limit、 Output Limit)}
Optimal Reference Set Points4 =arg NO3-N,TN-NO3,MLSS,PO4-P,A-SRT min Cost function subject to (Mass balance、 Actuator limit、 Output Limit)}
Optimal Reference Set Points5 =arg Qstep,Qb,Qpac,Qcb,Qcirc,Qret,Qwaste min Cost function subject to (Mass balance、 Actuator limit、 Output Limit)}
コントローラ321〜324は、下式(43)〜(46)の演算式に基づき曝気風量Qb(t)を演算している。これらの式におけるK
b*
p,T
b*
I,T
b*
d (*:1〜4)はPID制御の比例ゲイン、積分時間、微分時間を表すパラメータである。また、上付け添字refが付された4つの符号は、最適目標値演算部6から与えられる最適目標値を示している。これら4つの目標値のうち、1つのみに正しい値が含まれており、他の3つの目標値は前述したあり得ない数値が入ったフラグとなっている。
(実施の形態6の効果)
ある操作量を制御するために必要となるプロセス値として複数の候補がある場合には、各センサによるフィードバック制御を複数用意することによって、センサ故障に対してロバストなプラントワイド最適プロセス制御装置を供給できる。
<実施の形態7>
(実施の形態7の構成)
図12は実施の形態7の構成図である。この実施の形態7は、実施の形態5と略同様の構成を備えており、異なっている点は、図7のプロセスセンサ異常診断部14の代わりに、プロセス変動検出手段141を有するプロセスセンサ異常診断部14Aを用いている点である。
(実施の形態7の作用)
アンモニアセンサ124の場合を例に取り説明すると、例えば、アンモニアセンサ124の許容変動範囲を0[mg/L]〜4[mg/L]とし、変動の許容最大変化率を1[mg/L/10分]として予め設定しておく。プロセス変動検出手段141は、このような許容値をこえた場合に「プロセス変動がある」と判断することにしておく。
そして、プロセスセンサ異常診断部14Aは、「センサが正常である」と診断しており、更にそのときプロセス変動検出手段141が「プロセス変動が有る」と判断している場合には、実施の形態5で説明したようなフラグFBをたてておく。そうでない場合、つまり、プロセスセンサ異常診断部14Aが「センサは異常である」と診断しているか又はプロセス変動検出手段141が「プロセス変動がない」と判断している場合にはフラグFFをたてるようにする。フラグFB又はフラグFFをたてた以降の作用は実施の形態5の場合と同様である。
実施の形態7が実施の形態5と異なる点は、フラグFBをたてるときの条件である。実施の形態5では、プロセスセンサが正常であれば一律にフラグFBをたてていたが、この実施の形態7では、プロセスセンサが正常であり、且つプロセス変動が有ると判断した場合のみフラグFBをたててフィードバック制御を行うようにしている。
このことにより、例えば制御の目的がプロセス値を一定値にしたいのではなく、ある範囲内にとどめておきたいような場合には、不必要に操作量を動かすことを避けることができ、ひいては、これによって操作量に伴なうコストを削減できることがある。
(実施の形態7の効果)
制御目的がプロセスセンサ値をある一定値に制御したいのではなく、ある範囲内にとどめたいような制約を有する制御の場合に、不必要に操作量を動かすことを避けて、与えた最適評価関数の評価値を最小にするような制御を行うことができ、コスト削減を図ることができる。更に、プロセス変動が有った場合には、フィードバック制御を実行することによって、ロバスト性を付加することもできる。