JP4183023B2 - 潤滑性被覆を有する医療用具及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は潤滑性被覆を有する医療用具及びその製造方法に関し、特にカテーテルその他やこれらの付属品等の医療用具の内の潤滑性被覆を有する医療用具及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
医療用具技術の発展に伴い、その使用時に特に器官や組織等の人体に対して高度の安全性を備えた医療用具が必須となってきた。すなわち、例えば湿潤時にその表面が潤滑性を有する医療用具として初めて開示された特公平1−33181号公報の技術をはじめとして、潤滑性被覆を有する医療用具及びその製造方法に関する文献は枚挙に暇がない程である。
そして、最近公開され「表面潤滑性付与剤」と題する発明に関する代表的な文献として、例えば特開平5−300940号公報が挙げられる。
【0003】
これまでの開示技術の要点は、基材表面への親水性ポリマーの各種重合手段、又は表面に形成した反応性基と活性水素を持つ有機溶媒可溶性成分を含有する親水性ポリマーとを実質的に有機溶媒中で反応させて、基材表面に親水性を付与するものである。
また、湿潤潤滑性コーティングに関する技術は、その主要素材によって分類すると、「ガントレッツ系」、「ポリビニルピロリドン系」、「ポリエチレングリコール系」がある。そして、基材への固定方法としては、すべて、共有結合、又はイオン結合等の化学反応を利用するものである。
なお、上述の「ガントレッツ」は、GAF(ゼネラル アニリン アンド フイルム コーポレーション)社の商品名であるが、ポリ(無水マレイン酸−メチルビニルエーテル)交互共重合体として、業界では広く慣用されている材料物質名であるので、敢えて使用したものである。
【0004】
上述のような従来の湿潤潤滑コートは、基材の最外層に均一な層を形成し、その層が水に触れると多量の水を吸収し、同時にヌルヌルした感触になるようなコーティングであった。
このヌルヌルが湿潤潤滑性の付与に対して重要な因子であり、これによって医療器具の挿着時における例えば人体等に対する相対的な移動に対して、人体の器官や組織に対して物理的なだけでなく例えば抗血栓性のような生理的な円滑性をも付与するので、安全性の高い医療器具が達成できるようになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように従来の潤滑性被覆を有する医療用具及びその製造方法は、全述のように、基材への固定方法としてはすべて共有結合、又はイオン結合等の化学反応を利用するものでるから、製造方法が複雑であり、大幅なコストアップにつながるという問題があった。
また、従来の湿潤潤滑コートは、当然のことながら水を吸収した場合大きく膨潤するので、表面に皺が発生したり、残留応力のために擦ると剥げ落ち易い等の問題があった。また、このため潤滑性能の持続性も十分とは言えない問題が解決できない状況であった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る潤滑性被覆を有する医療用具は、不飽和結合を有する酸無水物の例えば無水マレイン酸と非共役型ビニルモノマーの例えばメチルビニルエーテルとの交互共重合体の溶液に、架橋剤のポリオールの溶液を加え、これにポリウレタンの溶液を加えて形成した潤滑性被覆用溶剤を医療用具の基材表面に塗布して形成した湿潤潤滑層が微細な多孔性被膜状のスポンジ体としたものである。
ここで、前記ポリオールはポリプロピレングリコールであり、前記有機溶媒はテトラヒドロフランであることが好ましい。
【0007】
本発明に係る潤滑性被覆を有する医療用具の製造方法は、不飽和結合を有する酸無水物の例えば無水マレイン酸と非共役型ビニルモノマーの例えばメチルビニルエーテルとの共重合体、架橋剤のポリオール及びウレタン樹脂を所定比率で有機溶媒に溶解して潤滑性被覆用溶剤を形成し、この潤滑性被覆用溶剤を医療用具の基材表面に塗布してスポンジ状の微細多孔性被膜を形成するものである。
この場合、前記架橋剤のポリオールにはポリプロピレングリコールを使用し、前記有機溶媒にはテトラヒドロフランを使用するのが好適である。
【0008】
また、前項の潤滑性被覆を有する医療用具の1つの製造方法においては、使用する潤滑性被覆用溶剤は液温を20℃以下で形成し、この潤滑性被覆用溶剤による医療用具の基材表面への塗布時の液温も20℃以下で浸漬・塗布して均一性被膜を形成することが必要となる。
【0009】
さらに、前前項の潤滑性被覆を有する医療用具の別の製造方法においては、潤滑性被覆用溶剤の形成において使用する無水マレイン酸とメチルビニルエーテルとの共重合体の有機溶媒への所定比率溶液は、溶解後この溶液を少なくとも72時間放置して熟成溶液としたものを使用することが可能である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明による潤滑性被覆を有する医療用具は、前述のような潤滑性被覆用溶剤を形成しこの潤滑性被覆用溶剤を、所定のコーティング法に従って医療用具の表面に塗布することによって得られる。従って、次に示す本発明の実施の形態の説明では、主として2種類の標準的な潤滑性被覆用溶剤の製造方法及びコーティング方法についてそれぞれ述べる。
【0011】
[第1の実施形態]
本実施形態においては、1つの標準的製造方法及びそのコーティング方法について説明する。
まず、無水マレイン酸とメチルビニルエーテルの共重合体として市販されているガントレッツ AN−139(GAF社製:分子量MW;約41,000)を溶媒の例えばテトラヒドロフラン(以下THFと略称する)で溶解し、ガントレッツの7%THF溶液を作製する。なお、ガントレッツのグレードはAN−139に限定されず、他の高分子タイプのものでもよい。
次いで、ポリウレタン樹脂(市販名,EA100A:以下PURと略称する)をTHFで溶解し、PURの5%THF溶液を作製する。このPURとしてもテコフレックスであれば、EG85A〜EG65Dまで使用可能である。
さらに、架橋剤のポリプロピレングリコールの10%THF溶液を作製する。このポリプロピレングリコールとしてはポリオールであればどれでもよいが、架橋効率を上げるために分子量3000、グリコールタイプのものを使用するのが好都合である。
上述のガントレッツの7%THF溶液、PURの5%THF溶液及びポリプロピレングリコールの10%THF溶液の3種の溶液を潤滑性被覆用溶剤の原料として準備しておく。
【0012】
次に、以上の3種の溶液を使用して形成する潤滑性被覆用溶剤の製造手順について述べる。
まず、ガントレッツの7%THF溶液100(重量比)に対して、10(重量比)のポリプロピレングリコールの10%THF溶液を添加する。添加後、充分に攪拌する。
攪拌により均一に溶液が得られたところで、これに100(重量比)のPURの5%THF溶液を加えて20℃以下の液温で攪拌することにより、潤滑性被覆用溶剤の製造が完了する。この場合、液温が20℃以上になると均一性がなくなるので、攪拌後は冷蔵庫中で保管する。そして、この製造方法及び保管法で、得られた潤滑性被覆用溶剤は1ケ月程度は変質しないことが確認されている。
【0013】
この潤滑性被覆用溶剤を用いて、医療用具の表面に潤滑性被覆をコーティングする要領を下記の工程順にしたがって示す。
(1)温度制御が可能な潤滑被覆形成用の容器に所定量の前述の潤滑性被覆用溶剤を入れ、溶剤を含む全体の系の温度を20℃以下に設定する。
(2)医療用具の基材として、例えばポリウレタン製のカテーテルを潤滑性被覆用溶剤中に浸漬した後、5m/分以上の比較的速い速度で引き上げる。
(3)引上げ後、カテーテルの例えば端部に溜まった液は、内腔から空気を吹き付けて飛ばしてやる。
(4)この状態で60℃×48時間、又は70℃×24時間の熱処理を行う。
(5)その後、0.1NのNaOH水溶液に浸漬した後、5m/分以上の比較的速い速度で引き上げる。
(6)さらに蒸溜水で洗浄した後、60℃×24時間の乾燥を行い、カテーテル表面への潤滑性被覆のコーティングを終了する。
【0014】
なお、本実施形態において、ガントレッツの7%THF溶液100に対して、10のポリプロピレングリコールの10%THF溶液を添加し、攪拌により均一に溶液が得られたところで、これに100(重量比)のPURの5%THF溶液を加えて20℃以下の液温で攪拌すること、さらに容器に所定量の前述の潤滑性被覆用溶剤を入れ、溶剤を含む全体の系の温度を20℃以下に設定することが必須であるが、これは液温が20℃以上になると層分離を生じ、この状態でコーティングしても持続性が十分に確保できなくなるからである。つまり被覆に均一性がなくなり、表面が若干粗になり艶消しタイプになるからである。
【0015】
以上のように第1の実施形態によれば、潤滑性被覆の基材への固定に何等の化学反応を必要としないで単に塗布膜を形成するだけで、潤滑(ヌルヌル)効果とその持続性に優れた潤滑性被覆のコーティングが達成される。
ここで、吸水時のこの潤滑性被覆を走査型電子顕微鏡のSEM像で観察したところ、写真の呈示は省略するが、平均穴径が数10μm〜数100μmのスポンジ状の被膜であることが判明した。
つまり、このようにスポンジ状(連続気泡)が形成されることによって、水を吸収して膨潤しても基材との接着面に大きな応力集中が起きなくなり、結果として、接着強度が大幅に向上した。
さらに、この場合内部の潤滑成分が徐々に表面に拡散するようになり、このため潤滑成分を効率的に利用できるようになったことによって、大幅に潤滑持続時間が増大した。
【0016】
また、この効果は潤滑性被覆用溶剤(潤滑性被覆コーティング剤といってもよい)の液温を20℃に保つことによる本実施形態特有の製造方法によるものであるが、架橋剤として用いたポリオールである水に溶けないポリプロピレングリコールを採用したためであるということがいえる。
さらに、本実施形態で得られた潤滑性被覆は、ヌルヌル性に優れたものとなっているが、これは親水性部と同時に疎水性部を持たせたためであって、つまり界面活性剤の機能特性を付与した湿潤潤滑性コーティングとなっているからである。
そして、このように基材表面に従来品よりも多量の水が膜に保持されることによって、生体適合性が増し、例えば抗血栓性が大幅に改良された。
【0017】
[第2の実施形態]
本実施形態においては、第1の実施形態とは別の標準的製造方法及びそのコーティング方法について説明する。
まず、前述のガントレッツ AN−139を溶媒の例えばTHFで溶解し、ガントレッツの7%THF溶液を作製する。そして、このガントレッツの7%THF溶液を室温で72時間以上放置したものをガントレッツの7%THF溶液の熟成溶液として準備しておく。なお、ガントレッツのグレードはAN−139に限定されず、他の高分子タイプのものでもよい。
次いで、PURをTHFで溶解し、PURの5%THF溶液を作製する。このPURとしてもテコフレックス(商品名)であれば、EG85A〜EG65Dまで使用可能である。
さらに、架橋剤のポリプロピレングリコールの10%THF溶液を作製する。このポリプロピレングリコールとしてはポリオールであればどれでもよいが、架橋効率を上げるために分子量3000、グリコールタイプのものを使用するのが好都合である。
上述のガントレッツの7%THF溶液の熟成溶液、PURの5%THF溶液及びポリプロピレングリコールの10%THF溶液の3種の溶液を潤滑性被覆用溶剤の原料として準備しておく。
【0018】
次に、以上の3種の溶液を使用して形成する潤滑性被覆用溶剤の製造手順について述べる。
まず、ガントレッツの7%THF溶液の熟成溶液100(重量比)に対して、10(重量比)のポリプロピレングリコールの10%THF溶液を添加する。添加後、充分に攪拌する。
攪拌により均一に溶液が得られたところで、これに100(重量比)のPURの5%THF溶液を加えて攪拌することにより、潤滑性被覆用溶剤の製造が完了する。この製造方法で得られた潤滑性被覆用溶剤は1ケ月程度は変質しないことが確認されている。
【0019】
この潤滑性被覆用溶剤を用いて、医療用具の表面に潤滑性被覆をコーティングする要領を下記の工程順によって示す。
(イ)任意の潤滑被覆形成用の容器に所定量の前述の潤滑性被覆用溶剤を入れる。
(ロ)医療用具の基材として、例えばポリウレタン製のカテーテルを潤滑性被覆用溶剤中に浸漬した後、5m/分以上の比較的速い速度で引き上げる。
(ハ)引上げ後、カテーテルの例えば端部に溜まった液は、内腔から空気を吹き付けて飛ばしてやる。
(ニ)この状態で60℃×48時間、又は70℃×24時間の熱処理を行う。
(ホ)その後、0.1NのNaOH水溶液に浸漬した後、5m/分以上の比較的速い速度で引き上げる。
(ヘ)さらに蒸溜水で洗浄した後、60℃×24時間の乾燥を行い、カテーテル表面への潤滑性被覆のコーティングを終了する。
【0020】
以上のように第2の実施形態によれば、潤滑性被覆の基材への固定に何等の化学反応を必要としないで、単に塗布膜を形成するだけで、第1の実施形態の場合と同様に潤滑(ヌルヌル)効果とその持続性に優れた潤滑性被覆のコーティングが達成される。ただ、第2の実施形態による効果は第1の実施形態のそれと比較すると、持続性において若干劣るものの表面は非常にスムースであり、基材の生の表面(通常の押し出し表面)よりも光沢がよいというように、潤滑性被覆としての確実性がある。
ここで、吸水時のこの潤滑性被覆を走査型電子顕微鏡によるSEM像で観察したところ、第1の実施形態の場合と同様に、平均穴径が数10μm〜数100μmのスポンジ状の被膜が形成されていることが判った。
つまり、このようにスポンジ状(連続気泡)が形成されることによって、水を吸収して膨潤しても基材との接着面に大きな応力集中が起きなくなり、結果として、接着強度が大幅に向上した。
さらに、この場合内部の潤滑成分が徐々に表面に拡散するようになり、このため潤滑成分を効率的に利用できるようになったことによって、大幅に潤滑持続時間が増大した。
【0021】
また、この効果は潤滑性被覆用溶剤の前述のガントレッツの7%THF溶液を少なくとも72時間放置して熟成溶液を得たものを使用したことによる本実施形態特有の製造方法によるものであるが、架橋剤として用いたポリオールである水に溶けないポリプロピレングリコールを採用したためであるということも第1の実施形態の場合と同様である。
さらに、本実施形態で得られた潤滑性被覆も、ヌルヌル性に優れたものとなっているが、これは基材表面に形成した潤滑性被覆に親水性部と同時に疎水性部を持たせたためであって、つまり界面活性剤の機能特性を付与した湿潤潤滑性コーティングとなっている。
そして、このように基材表面に従来品よりも多量の水が膜に保持されることによって、第1の実施形態の場合と同様に生体適合性が増し、例えば抗血栓性が大幅に改良された。
【0022】
以上、第1の実施形態及び第2の実施形態によって本発明の構成を詳細に説明したが、これらの実施形態において示した例えばガントレッツの7%THF溶液等の数値は一例であって、これらの数値に限定されないことはいうまでもない。また、医療用具の材料の一例として示したポリウレタンも、これに限定されないものである。
また、本発明は各種の医療用具の湿潤潤滑コートに適用できるばかりでなく、これらの医療用具に対する例えば抗菌コート等の形成方法に適用しても好適である。
【0023】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、不飽和結合を有する酸無水物と非共役型ビニルモノマーとの交互共重合体、架橋剤のポリオール及びウレタン樹脂を所定比率で有機溶媒に溶解して潤滑性被覆用溶剤を形成し、この潤滑性被覆用溶剤を医療用具の基材表面に塗布してスポンジ状の多孔性被膜を形成することにより潤滑性被覆を有する医療用具を得るから、潤滑性被覆の基材への固定に何等の化学反応を必要としないで単に塗布膜を形成するだけで、潤滑効果とその持続性に優れた潤滑性被覆のコーティングが達成される効果がある。
Claims (2)
- 無水マレイン酸とメチルビニルエーテルとの共重合体の溶液に、架橋剤の水に不溶性のポリプロピレングリコールの溶液を加え、これにポリウレタンの溶液を加えて形成した潤滑性被覆用溶剤を医療用具の基材表面に塗布して形成した湿潤潤滑層が微細な多孔性被膜状のスポンジ体であることを特徴とする潤滑性被覆を有する医療用具。
- 無水マレイン酸とメチルビニルエーテルとの共重合体、架橋剤の水に不溶性のポリプロピレングリコール及びウレタン樹脂を所定比率で有機溶媒に溶解して潤滑性被覆用溶剤を形成し、この潤滑性被覆用溶剤を医療用具の基材表面に塗布してスポンジ状の微細多孔性被膜を形成することを特徴とする潤滑性被覆を有する医療用具の製造方法。
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