JP4182300B2 - 2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物の分離方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物の分離方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
2−フルオロシクロプロパンカルボン酸は、有用な医薬、農薬等の中間体として知られている(特開平2−78644号、2−231475号、6−65140号公報)。
【0003】
かかる2−フルオロシクロプロパンカルボン酸は、例えば、2−ハロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸をエタノール中、ラネーニッケル触媒の存在下、水素加圧下で脱ハロゲン化することによって得ることができる(J.Fluorine Chemistry、49、127(1990))。
【0004】
このようにして得られる2−フルオロシクロプロパンカルボン酸は、通常シス/トランス異性体の混合物であるが、医薬、農薬等の用途には、通常どちらか一方の異性体が必要とされるため、シス/トランス異性体の混合物から目的とするどちらか一方の異性体を分離する必要がある。
【0005】
しかし、これまでのところ、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物からシス又はトランス異性体のいずれか一方を分離することについての提案は、特になされていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、これら異性体を分離する方法を開発すべく鋭意研究を重ねた。
【0007】
その過程で、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体の沸点が異なることから、分離の方法として、蒸留操作を利用することを着想した。
【0008】
しかしながら、本発明者らの研究によると、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸は熱的に不安定であり、沸点が高いために減圧下でも蒸留温度を高くせざるを得ず、蒸留時に分解して、有毒な弗化水素が発生するという問題があることが判明した。弗化水素は工業的に汎用材質であるステンレス鋼やグラスライニングに対して強い腐食性を有しているため、弗化水素が発生する操作には、ステンレス製あるいはグラスライニング製の設備は使用できず、例えば、ハステロイC22等の耐腐食性のより強い高級材質製の設備が必要となる。そのため、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を蒸留するには、工業的に汎用な材質よりも耐腐食性が強く高級な材質による蒸留設備が必要である。
【0009】
さらに、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の融点は、シス体で74℃、トランス体で54℃と常温よりも高いため、取り扱いが困難であり、例えば、蒸留の際、蒸留装置の留出配管等をその融点以上に保温し、該カルボン酸の固化による配管の閉塞等を防ぐ必要もあることが明らかとなった。
【0010】
このように、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体の混合物を蒸留によって分離する方法は、該カルボン酸が熱的に不安定であり、分解して有毒な弗化水素を発生するため、ハステロイC22等の耐腐食性が強く高級材質製の蒸留装置が必要であること、分離される異性体も常温で固体であり、蒸留操作における取り扱いが困難であること等の問題があって工業的に有利とは言えないことが明らかとなった。
【0011】
従って、本発明の目的は、弗化水素の発生が少なく、工業的に汎用な材質の装置を用いることができる工業的に有利な2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物からシス異性体またはトランス異性体を分離する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明者らが鋭意検討した結果、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸をエステル化して得た2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルが、シス体とトランス体では蒸留によって分離可能な程度に沸点に差があること、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に比し、沸点が低くて温和な条件下で蒸留できること、熱的に比較的安定であって蒸留の際に弗化水素の発生が著しく少ないこと、さらには該エステルが常温で液体であって、取り扱いも容易であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、(i)2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物をエステル化して2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物を得る工程、
(ii)該エステルのシス/トランス異性体混合物を蒸留してシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを得る工程、及び
(iii)次いで、得られたシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解して、シス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を得る工程
を包含することを特徴とする2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物の分離方法を提供するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の原料である2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物は公知の方法に従って容易に製造される。例えば、J.Fluorine Chemistry、49、127(1990)に記載の方法に従い、ブタジエン類とジハロフルオロメタンとを反応させて2−ハロ−2−フルオロ−1−ビニルシクロプロパン類を製造し、これを過マンガン酸カリウム等で酸化し、さらに脱ハロゲン化することにより製造される。
【0015】
ここで、本明細書において、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の異性体に関しては、そのシクロプロパン環上で、フッ素原子とカルボキシル基とがシス配置にあるものがシス異性体であり、フッ素原子とカルボキシル基とがトランス配置にあるものがトランス異性体である。
【0016】
また、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステル(または2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ハロゲン化物)の異性体についても同様であって、そのシクロプロパン環上におけるフッ素原子とエステル基(または酸ハロゲン化物基)とがシス配置であるかトランス配置であるかに応じて、それぞれ、シス異性体またはトランス異性体と呼ぶ。
【0017】
本発明は、上記のように、(i)2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物をエステル化して2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物を得る工程(エステル化工程)、(ii)該エステルのシス/トランス異性体混合物を蒸留してシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを得る工程(蒸留分離工程)、(iii)蒸留により得たシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解してシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を得る工程(加水分解工程)からなる。
【0018】
以下、これら工程について説明する。
【0019】
エステル化工程
エステル化工程は、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物をエステル化して、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物を得る工程である。
【0020】
2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物をエステル化する方法は、カルボン酸をエステル化する通常の方法が用いられ、例えば、(a)2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物とアルコール類とを酸触媒の存在下に直接反応させる方法、(b)2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物を酸ハロゲン化して2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ハロゲン化物のシス/トランス異性体混合物を得、該混合物をエステル化する方法が挙げられる。
【0021】
(a)2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物とアルコール類とを酸触媒の存在下に直接反応させる場合の反応温度は、通常0℃以上100℃以下、好ましくは0℃以上70℃以下である。この反応は、反応温度、反応形態、触媒量等にもよるが、通常、1〜24時間程度で完了する。
【0022】
アルコール類としては、メタノール、エタノール等の炭素数1〜5の低級アルコールが挙げられる。また、ベンジルアルコール等のフェニル置換低級アルコールをはじめとするアラルキルアルコール等も使用できる。これらのうちでも、好ましくは、メタノール、エタノールが用いられる。
【0023】
アルコール類の使用量は、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常1〜10モル倍、好ましくは1〜5モル倍である。
【0024】
酸触媒としては通常、硫酸等の鉱酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が用いられる。その使用量は2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常0.01〜0.5モル倍である。
【0025】
反応は有機溶媒の存在下でおこなってもよく、有機溶媒として、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、メチルt−ブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられ、その使用量は2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常0.5〜10重量倍、好ましくは1〜5重量倍である。
【0026】
また、反応試剤として用いた上記アルコール類をそのまま溶媒を兼ねて使用することもでき、この場合には、必要に応じて上記の使用量よりも過剰量のアルコール類が用いられる。
【0027】
エステル化反応の進行に伴い、水が副生してくるので、その水を留去しながら反応を実施することが好ましい。
【0028】
(b)2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物を酸ハロゲン化して、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ハロゲン化物のシス/トランス異性体混合物を得、該混合物をエステル化する場合の酸ハロゲン化は、カルボン酸からカルボン酸ハロゲン化物を得る通常の方法が用いられ、例えば、塩化チオニルによる酸ハロゲン化が挙げられ、該酸ハロゲン化は慣用されている条件下に行えばよい。
【0029】
さらに、酸ハロゲン化により得られた該カルボン酸ハロゲン化物のシス/トランス異性体混合物のエステル化は、カルボン酸ハロゲン化物をエステル化する通常の方法が用いられる。
【0030】
このようにして2−フルオロシクロプロパンカルボン酸をエステル化して得られる2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルとしては、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の炭素数1〜5の低級アルキルエステル、フェニル置換低級アルキルエステル等のアラルキルエステルであり、これらのうちで好ましいものとしては、例えば、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸メチル、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルが挙げられる。
【0031】
2−フルオロシクロプロパンカルボン酸をエステル化して得られた2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物は、そのまま次工程の蒸留をおこなってもよいが、未反応の2−フルオロシクロプロパンカルボン酸及び酸触媒を除去するために、次のような処理をおこなった後に蒸留することが好ましい。
【0032】
2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物を含む反応マスに、水及び水と混和しない有機溶媒を加えて抽出処理し、生成した2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを含む油層を得る。エステル化反応を水と混和しない有機溶媒の存在下で実施した場合は、通常水を加えるだけでよい。該油層はそのまま次工程の蒸留をおこなってもよいが、該油層をさらに水もしくは塩基の水溶液で洗浄処理して得られる油層について次工程の蒸留をおこなうことが好ましい。
【0033】
抽出処理する場合の水の使用量は、原料として用いた2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常0.5〜10重量倍、好ましくは1〜5重量倍である。有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、メチルt−ブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられ、その使用量は、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常0.5〜10重量倍、好ましくは1〜5重量倍である。
【0034】
エステル化反応を水溶性のアルコール類の溶媒中で実施した場合は、該アルコール類を留去した後の残存液について、前記の抽出処理をおこなうことが好ましい。
【0035】
抽出処理により得られた油層を洗浄処理する場合の水の使用量は、該油層に対して、通常0.5〜5重量倍である。
【0036】
該油層を塩基の水溶液で洗浄処理する場合の塩基としては、例えば、炭酸カリウムが挙げられ、その使用量はエステル化反応に使用した酸触媒に対して、通常1〜10モル倍であり、水溶液中の塩基濃度は、通常1重量%〜20重量%である。
【0037】
さらに、抽出処理により得られた油層あるいは該油層を洗浄処理した後に得られる油層から有機溶媒を留去して2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物を取り出して次工程に用いることもできる。
【0038】
蒸留分離工程
次に、蒸留分離工程について説明する。
【0039】
蒸留分離工程は、エステル化工程で得られた2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物を蒸留してシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを得る工程である。
【0040】
2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の沸点は、20Torrの減圧下において、トランス体で94℃、シス体で120℃であり、一方、例えば2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの沸点は、20Torrの減圧下でトランス体で45℃、シス体で65℃であることから、沸点差の大きさからすると前者の分離の方が一見容易に思われる。しかし、実際には、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の場合に比べて、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルでは、蒸留温度を低くすることが可能であり、恐らくはこのことと該エステルの熱安定性が相俟って、分解による弗化水素の発生を抑えることができるものと思われる。
【0041】
本発明において、蒸留操作は、大気圧下でも減圧下でもおこなうことができるが、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルの分解を抑える観点からは、蒸留温度は好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下である。そのため、通常は、減圧下で蒸留をおこなうことが好ましい。減圧下で蒸留を行なう場合、その圧力は、特に限定されないが、該エステルの分解を抑制する観点からは、例えば、5〜50Torr程度、特に10〜30Torr程度の圧力を採用するのが好ましい。
【0042】
蒸留は、通常用いられる方法でよく、例えば、単蒸留や多段の蒸留塔を用いる蒸留が挙げられる。
【0043】
多段の蒸留塔を用いる蒸留の場合、蒸留塔の理論段数は、分離する2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス体とトランス体の沸点差により任意に選ばれ、理論段数が多いほどシス体とトランス体の分離がよくなるが、通常3〜10段程度の理論段数の蒸留塔が用いられる。蒸留塔は、通常用いられる方式であればよく、例えば棚段方式、充填物方式等が挙げられる。
【0044】
通常の蒸留操作により、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物から、実質的にシス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのみからなる留分、及び/又は、実質的にトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのみからなる留分を容易に得ることができる。
【0045】
2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物自体、常温で液体であり、取り扱い性が良く、また、蒸留分離されたシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルも、常温で液体であるから、蒸留で得られれる留分を凝縮させても固化しないので、常温で固体である2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に比べて、取り扱い性が容易である。
【0046】
なお、目的異性体留分を蒸留分離した際に生じる残渣又は目的異性体留分以外の他の留分は、上記蒸留操作の蒸留原料としてリサイクル使用することができる。また、該残渣又は該他の留分は、通常、目的異性体とは異なる他方の異性体がリッチな状態となっているので、必要であれば、これを常法に従い、蒸留等により精製することにより、他方の異性体を得ることもできる。
【0047】
加水分解工程
次に、加水分解工程について説明する。
【0048】
加水分解工程は、蒸留分離工程で得られたシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解してシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を得る工程である。
【0049】
加水分解をおこなう2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルは、上記の蒸留で得たシス体、トランス体のうち目的とするどちらか一方でよいが、必要に応じてシス体、トランス体両方をそれぞれに加水分解してもよい。
【0050】
加水分解反応はカルボン酸エステルを加水分解する通常の方法により実施され、例えば、水の存在下で、シス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルと塩基とを反応させることにより行われるが、反応をより円滑に進ませるためにアルコール類の共存下で反応を実施することが好ましい。
【0051】
水の存在下で、シス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルと塩基とを反応させる場合の水の使用量は、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常0.1〜2重量倍、好ましくは0.3〜1.5重量倍である。
【0052】
塩基としては、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられ、そのままあるいは水溶液として用いられる。その使用量は、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常1〜3モル倍、好ましくは1〜2モル倍である。
【0053】
反応温度は、加水分解反応が進行する温度であればよく、通常0℃〜70℃、好ましくは0℃〜50℃、より好ましくは0℃〜20℃である。加水分解反応に要する時間は、塩基の量、反応温度等にもよるが、通常、1〜24時間程度である。
【0054】
加水分解反応をアルコール類の共存下で実施する場合のアルコール類としては、水と混和するものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールが挙げられる。その使用量は、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常0.1〜2重量倍、好ましくは0.5〜1重量倍である。
【0055】
このようにして、シス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸が容易に得られる。
【0056】
シス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を単離するには、加水分解反応後の反応マスに塩酸等の鉱酸を加え、そのpHが2以下となるよう酸性化処理し、さらに有機溶媒を加えて抽出処理し、得られた油層から有機溶媒を留去して取り出すことができる。加水分解反応をアルコール類の共存下で実施した場合にはアルコール類を留去した後の残存液について前記の酸性化処理及び抽出処理を実施すればよい。この場合、加水分解反応後の反応マスを塩酸等の鉱酸で中和した後にアルコール類を留去してもよい。
【0057】
抽出処理に用いる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられ、その使用量は加水分解工程に供した2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常1〜20重量倍、好ましくは2〜15重量倍である。
【0058】
【実施例】
以下、本発明について実施例により説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0059】
なお、以下の実施例において、シス/トランス比は、ガスクロマトグラフィー分析のピーク面積比である。
【0060】
実施例1 2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの合成(エステル化工程)
水分離管、冷却コンデンサー及び温度計を取り付け、磁気回転子を入れたナスフラスコに、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸10g(シス/トランス比=1/1)、無水エタノール8.9g、p−トルエンスルホン酸1水和物0.5g、クロロホルム40gを仕込んだ。撹拌しながら、内温を70℃に加熱し、生成する水を留去しながら同温度で20時間保温し、反応させた。
【0061】
反応終了後、室温まで冷却し、反応マスに水40gを加え、撹拌、静置後、油層を分液した。油層に7重量%の炭酸カリウム水溶液40gを加え、撹拌、静置後、油層を分液した。得られた油層から溶媒を留去して、2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル12g(シス/トランス比=1/1)を取得した。収率95%。
【0062】
実施例2 シス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの取得(蒸留分離工程)
実施例1で得た2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル12g(シス/トランス比=1/1)の精留を、理論段数が5段相当の精留塔を用いて還流比を5としておこなった。この時の操作圧は20Torrであり、内温は最高88℃であった。初留を留去した後、沸点61〜63℃の留分を精留塔の塔頂より抜き出し、10℃に冷却して凝縮させ、目的とするシス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル(シス/トランス比=99.2/0.8)4.4gを得た。取得率74%(シス体ベース)。
【0063】
実施例3 シス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの加水分解(加水分解工程)
冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付け、磁気回転子を入れたナスフラスコに、エタノール4.4g、水酸化ナトリウム2.1g、水5.7gを仕込み、シス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル(シス/トランス比=99.2/0.8)4.4gを滴下ロートに仕込んだ。内温を5℃に保ちながら、1時間かけてシス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを滴下し、さらに内温を5℃に保ち4時間熟成させた後、エタノールを留去した。
【0064】
留去後の残存液に濃塩酸を加え、pH1とした後、メチルt−ブチルエーテル20gで3回抽出処理した。得られた油層からメチルt−ブチルエーテルを留去して、目的のシス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸(シス/トランス比=99.2/0.8)3.4gを得た。収率98%。
【0065】
参考例(機器材質の腐食性評価)
材質腐食性を評価するため、被検材質よりも腐食に強いと考えられる容器の中に、試験液と被検材質の試験片(テストピース)を入れて、蒸留操作がおこなわれる温度条件下で一定期間保温し、試験片の表面状態、重量変化を調べ、腐食性を評価した。本評価において、JIS腐食試験方法JIS G 0576を参考にした。
【0066】
参考例1(蒸留分離工程のステンレス鋼材の耐腐食性試験)
2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル(シス/トランス比=1/1)400mlを試験液とした。試験液を容積1リットルのハステロイC276製の容器に入れ、表面を研磨加工したテストピース(材質;SUS316L(ステンレス鋼);表面積約20cm2)を試験液液相部および気相部にセットし、内温110℃で1週間保温した。
【0067】
保温終了後、テストピースを取り出し、調べたところ、腐食は全く見られず、該材質製の蒸留装置が使用可能と判断された。
【0068】
参考例2(2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を蒸留する際のステンレス鋼材の耐腐食性試験)
2−フルオロシクロプロパンカルボン酸(シス/トランス比=1/1)400mlを試験液とした。試験液を容積1リットルの四弗化エチレン樹脂製の容器に入れ、表面を研磨加工したテストピース(材質;SUS316L(ステンレス鋼);表面積約20cm2)を試験液液相部および気相部にセットし、内温150℃で1週間保温した。
【0069】
保温終了後、テストピースを取り出し、調べたところ、液相部、気相部いずれのテストピースも孔食を伴う激しい腐食がみられ、該材質製の蒸留装置を用いて2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を蒸留分離することは不可能と判断された。
【0070】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、弗化水素の発生を抑制し、工業的に汎用な材質製の装置を用いて2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物を工業的に有利に分離することができる。
Claims (3)
- (i)2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物をエステル化して2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物を得る工程、
(ii)該エステルのシス/トランス異性体混合物を蒸留してシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを得る工程、及び
(iii)得られたシス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解して、シス−またはトランス−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を得る工程
を包含することを特徴とする2−フルオロシクロプロパンカルボン酸のシス/トランス異性体混合物の分離方法。 - 上記工程(i)で得られた2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルのシス/トランス異性体混合物から、未反応の2−フルオロシクロプロパンカルボン酸及びエステル化反応の触媒を除去する工程を、上記工程(ii)の前に行うことを特徴とする請求項1に記載の分離方法。
- 上記工程(ii)において、蒸留を、蒸留温度150℃以下の条件下に行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分離方法。
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