JP4180060B2 - シゾンを選択的に培養する培地 - Google Patents
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Description
このように、シゾンは、現在地球上に存在する全ての生物の生命の基になる物質を含んでいるとともに、構造が単純であるため、実験や解析がやりやすいという特徴を持っている。また、シゾンは、細胞壁を持っていないため、細胞内物質を取り出しやすいという生化学的な解析に有利であるとともに、本願の発明者らによってゲノム解読も完了しているので、その情報を基盤に応用的な研究に利用することも可能である。
なお、シゾンは、pH1.5、温度45℃という極限環境に棲息するので、培養するためには強酸性の環境が必要である。このような強酸性の培地として、アレン培地を用いることがある。
上記アレン培地とは、強酸性の液体培地であり、その組成は、図8の表5に示すとおりである。なお、上記表5中のP4metalの組成を、図9の表6に示している。
そこで、この発明の目的は、他の生物の混入を防止して、シゾンのみを選択的に培養することが可能な培地を提供することである。
第2の発明は、上記第1の発明を前提とし、アクチン重合阻害剤がサイトカラシンである点に特徴を有する。
第3の発明は、上記第1または第2の発明を前提とし、クエン酸を添加した点に特徴を有する。
第4の発明は、上記第1〜第3の発明を前提とし、ゲル状を維持するための支持体を用いてプレート状にした点に特徴を有する。
第4の発明によれば、プレート培地が得られるので、液体培養ではできない、生成した藻類のコロニーを個別に分離して採取することが可能になる。
これに対し、他の、ほとんど全ての真核細胞は、アクチンタンパク質からなる収縮リング(アクチンリング)を利用して細胞分裂を行うことがわかっている。
一方、シゾンは、細胞分裂、すなわち増殖にアクチンリングを利用しないので、アクチン重合阻害剤によって増殖が抑制されることがない。
つまり、アクチン重合阻害剤を含むとともに、シゾンの増殖が可能な強酸性である、この発明の培地を用いれば、シゾンとともに混入した他の藻類やカビなどは、棲息できなくなる。その結果、この培地では、シゾンだけが選択的に培養されることになる。
まず、この発明のプレート培地の、大まかな作成手順を図1に示す。
なお、培地作成の作業は全てクリーンベンチを用いた無菌作業である。
上記成分のうち、P4metal以外、すなわち、(NH4)2SO4(硫酸アンモニウム)と、KH2PO4(リン酸水素二カリウム)と、MgSO4(硫酸マグネシウム)と、CaCl2/2H2O(塩化カルシウム)とを、それぞれ5.24(g)、1.08(g)、1.00(g)、0.28(g)を1(l)の水に溶解し、それにH2SO4(硫酸)を添加して溶液のpHを1.5に調整する。この溶液を121℃で20分間の加熱加圧滅菌処理をする。
上記支持体溶液は、ゲランガム溶液であり、水1(l)にゲランガム10(g)を溶解して作製する。
そして、上記ゲランガム溶液と、サイトカラシン溶液とを別々に、121℃で20分間の加熱加圧滅菌処理を行う。その後、あら熱を取り、上記基礎培養体、ゲランガム溶液、サイトカラシン溶液のそれぞれが、70℃位になったところで、基礎培養体とゲランガム溶液とを1:1で混合し、サイトカラシン溶液を、溶液1(l)に対して、サイトカラシン量が10〜15(mg)だけ混合し、培地用溶液を作製する。
また、実際に、シゾンを培養する際には、シャーレ内の上記プレート培地上にシゾンを含んだ溶液を滴下し、インキュベータ内で、42℃〜45℃、湿度約70%、光量5000(lx)を維持する。インキュベータ内で、上記シャーレには蓋を被せるとともに、その周囲をテープで密閉し、乾燥を防ぐようにする。
(実験1)
上記した第1実施例のプレート培地と同様にして、培地1(l)に対してサイトカラシンを8(mg)、10(mg)含んだ培地と、サイトカラシンを含まない培地(コントロール)とを作成し、各培地でシゾンを培養した。
上記3つの培地は、インキュベータ内で、42℃〜45℃、湿度約70%、光量5000(lx)という、全て同じ培養条件下においた。そして、培養開始から1週間後にカビの発生状体を顕微鏡観察し、その結果を図3の表2に示す。
なお、この実験によって確認されたカビは、高温、強酸性の環境下で棲息可能なカビである。
一方、サイトカラシンを10(mg/l)含有した培地では、カビの発生は全く見られず、シゾンのコロニーが生成されていた。また、カビ以外の、高温、強酸性の環境下で棲息可能な生物、例えば、シゾン以外の、紅藻のシアニジウム属の棲息もなかった。
このように、サイトカラシンにより、シゾン以外の生物の発生を抑制して、シゾンを選択的に培養することができた。
クエン酸を含有したこの第2実施例の培地は、図4に示すように、基礎培養体、サイトカラシン溶液、支持体溶液を、上記第1実施例の培地と同様に作成するとともに、さらに、20(%)のクエン酸溶液を作製する。
そして、クエン酸溶液も、121℃で20分間の加熱滅菌処理を行い、加熱滅菌処理を済ませた他の溶液と一緒に混合して、培地用溶液を作成する。そして、この培地用溶液をシャーレに流しこんで冷やし固め、プレート培地を作製する。
なお、4種の溶液を混合する際には、予め、あら熱をとり、50℃くらいにしておく。また、クエン酸溶液以外の3種の溶液の混合比は、上記第1実施例と同じであり、これら3種の混合液1(l)に対して、上記クエン酸溶液を混合する。ただし、クエン酸溶液の混合量は、培地に対するクエン酸濃度に応じて調整する。
(実験2)
上記した作成手順に従って、クエン酸濃度を0.05(%)、0.1(%)、1.0(%)、2.0(%)、5.0(%)にした培地と、クエン酸を含まない培地(コントロール)とを作成し、各培地で、紅藻のシアニジウム属としてシゾンを培養した。この際、各培地に植えつけるシゾンの細胞密度は、2.7×106(匹/ml)とした。
なお、培地に植えつける細胞密度が1.0×106(匹/ml)以上の場合、1.0×106(匹/ml)未満の場合と比べて、増殖率が高いことを確認している。
シゾンの培養の際、上記6つの培地は、インキュベータ内で、42℃〜45℃、湿度約70%、光量5000(lx)という、全て同じ培養条件下においた。そして、培養開始から1週間後にカビの発生状体を顕微鏡観察し、その結果を図5の表3に示す。
この実験2で用いるコントロールは、上記第1実施例の培地と同じ、サイトカラシンを含んだ培地である。
また、詳細は省略するが、クエン酸の替わりに酢酸を含んだ培地についても実験を行ったが、酢酸の場合、コントロールとの差はなかった。
シゾンなどの光合成は、細胞内の葉緑体で行われ、太陽エネルギーを使って、CO2(二酸化炭素)と水から、デンプンを合成して酸素を放出する。合成したデンプンは、ミトコンドリア内のTCA(トリカルボン酸)回路で酸素を使って分解され、エネルギー源(ATP)となる。このエネルギー源が豊富ならば、生物の生育が早まり、その結果増殖率も高まると考えられる。
また、ミトコンドリア内の細胞内呼吸では、糖分がピルビン酸に分解され、ピルビン酸はミトコンドリア内にあるTCA(トリカルボン酸)回路に入り、エネルギー源(ATP)を合成し、その過程でCO2を放出する。
そこで、上記カルビン回路やTCA回路を早く回転させることによって、代謝活性が上がり、その結果としてシゾンの増殖率を高めることができると考えられる。
なお、クエン酸以外の物質についても、増殖率を高める効果がないか確認するために、実験3を行い、その結果を図7の表4に示す。
上記した第2実施例の培地の作製方法に従って、クエン酸の代わりに、図7の表4に示すアミノ酸、核酸、糖、その他の各物質を用いて、それぞれプレート培地を作製した。具体的には、クエン酸溶液の代わりに、各物質の水溶液を作成し、その水溶液を加熱滅菌後、それぞれ加熱滅菌後の、上記基礎培養体およびゲランガム溶液に混合して冷やし固めた。
そして、それぞれの培地に、シゾンを植え付け、42℃〜45℃、湿度70%を保ち、光量なども同一条件で培養した。
ただし、プレート培養なら、例えば、生育状態の異なる突然変異体を採取することが可能であるが、液体培養では、個々の細胞を区別することは、ほとんど不可能である。
特に、基礎培養体には、硫酸とアンモニウムを含むことが好ましい。硫酸によって、硫酸環境に生息するシゾンにとって好ましい環境を作ることができる。また、アンモニウムは、光合成を行う際の窒素源となるからである。
Claims (4)
- シゾンが増殖可能な強酸性であって、アクチン重合阻害剤を含んだことを特徴とするシゾンを選択的に培養する培地。
- 上記アクチン重合阻害剤がサイトカラシンである請求項1に記載のシゾンを選択的に培養する培地。
- クエン酸を添加した請求項1または2に記載のシゾンを選択的に培養する培地。
- ゲル状を維持するための支持体を用いてプレート状にした請求項1〜3のいずれか1に記載のシゾンを選択的に培養する培地。
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