JP4179307B2 - 弾性表面波素子およびその製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、弾性表面波共振子または弾性表面波フィルタのような弾性表面波素子およびその製造方法に関するもので、特に、弾性表面波素子の電極の構造および形成方法に関するものである。
弾性表面波素子は、周知のように、機械的振動エネルギーが固体表面付近にのみ集中して伝搬する弾性表面波を利用した電子部品であり、一般に、圧電性を有する圧電基板と、この圧電基板上に形成された、信号を印加するためのインタディジタル電極および/またはグレーティング電極のような電極とをもって構成される。
このような弾性表面波素子において、電極材料としては、電気抵抗率が低く、比重の小さいAlまたはAlを主成分とするAl系合金を用いるのが一般的である。
しかしながら、Alは耐ストレスマイグレーション性が悪く、大きな電力を投入すると、電極にヒロックやボイドが発生し、やがては、電極が短絡または断線して、弾性表面波素子が破壊に至ることがある。
上述した問題の解決を図るため、電極の成膜法として、イオンビームスパッタを用い、結晶配向性を向上させることによって、耐電力性を向上させる方法が、特開平7−162255号公報(特許文献1)において提案されている。また、Alをエピタキシャル成長させることによって、結晶方位を一定方向に配向させ、それによって、耐電力性を向上させる方法が、特開平3−48511号公報(特許文献2)において提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、高周波、大電力用途に向けられるとき、耐電力性が不十分であるという問題がある。
また、特許文献2に記載の技術は、実質的に水晶基板に対してのみ適用可能であり、そのため、圧電性が大きく、フィルタ等に広く用いられている、LiNbO3 またはLiTaO3 基板上では、結晶性の良好なエピタキシャル膜を得ることが困難であるという問題がある。
特開平7−162255号公報 特開平3−48511号公報
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、弾性表面波素子およびその製造方法を提供しようとすることである。
この発明は、LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板と、この圧電基板上に形成された電極とを備える、弾性表面波素子にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、次のような構成を備えることを特徴としている。
すなわち、この発明は、上述の電極が、Alを主成分とするAl電極層を備え、このAl電極層が、Al結晶の(111)面の法線方向と圧電基板の結晶のZ軸とが実質的に一致するように一定方向に配向する結晶方位を有していることを特徴としている。
上述のAl電極層の結晶は、双晶構造を有していることが好ましい。
上述の電極は、Al電極層と圧電基板との間に設けられる、Alの結晶性を向上させるための下地電極層をさらに備えていることが好ましい。
上述の下地電極層は、好ましくは、TiおよびCrの少なくとも一方を主成分とする。
また、好ましくは、この発明において、圧電基板は、64°Y−XカットのLiNbO3 基板である。
また、この発明において、Al電極層の表面および側面を覆う電気絶縁性の保護膜をさらに備えていてもよい。
この発明は、また、LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板と、この圧電基板上に形成された電極とを備え、上述の電極が、AlからなるまたはAlを主成分とするAl電極層を備え、このAl電極層が、Al結晶の(111)面の法線方向と圧電基板の結晶のZ軸とが実質的に一致するように一定方向に配向する結晶方位を有している、上述のような弾性表面波素子の製造方法にも向けられる。
この製造方法は、LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板を用意する工程と、圧電基板の表面の加工変質層を取り除く工程と、圧電基板上に電極を形成する工程とを備え、この電極形成工程は、圧電基板上に、TiおよびCrの少なくとも一方を主成分とする下地電極層を100℃以下の温度で真空蒸着法によって形成する工程と、この下地電極層上に、AlからなるまたはAlを主成分とするAl電極層を形成する工程とを備えることを特徴としている。
上述した製造方法において、好ましくは、64°Y−XカットのLiNbO3 基板が用いられる。
この発明に係る弾性表面波素子によれば、LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板上に形成された電極が、Alを主成分とするAl電極層を備え、このAl電極層の結晶方位が、Al結晶の(111)面の法線方向と圧電基板の結晶のZ軸とが実質的に一致するように一定方向に配向する結晶方位となるようにされているので、ストレスマイグレーションによる電極のヒロックやボイドの発生を抑制でき、弾性表面波素子の耐電力性を改善することができる。
この発明に係る弾性表面波素子において、Al電極層の結晶が、双晶構造を有していると、結晶粒界を通じての電極構成原子の自己拡散によるヒロックやボイドの成長を防ぐ効果が発揮されるとともに、塑性変形のしにくさによる耐電力性を高める効果が発揮され、したがって、弾性表面波素子の耐電力性をより改善することができる。
上述した弾性表面波素子において、Al電極層と圧電基板との間に、TiおよびCrの少なくとも一方を主成分とする下地電極層が設けられると、Al電極層におけるAlの結晶性をより向上させることができる。
また、この発明に係る弾性表面波素子の製造方法によれば、LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板を用意し、この圧電基板の表面の加工変質層を取り除き、圧電基板上に電極を形成する、各工程を備え、この電極形成工程においては、圧電基板上に、TiおよびCrの少なくとも一方を主成分とする下地電極層を100℃以下の温度で真空蒸着法によって形成する工程と、この下地電極層上にAlからなるまたはAlを主成分とするAl電極層を形成する工程とが実施されるので、このAl電極層の結晶方位を、Al結晶の(111)面の法線方向と圧電基板の結晶のZ軸とが実質的に一致するように一定方向に配向する結晶方位となるようにすることができる。したがって、耐電力性が改善された弾性表面波素子を得ることができる。
上述の製造方法において、圧電基板として、64°Y−XカットのLiNbO3 基板が用いられると、Al電極層のAl結晶の(111)面の法線方向と圧電基板の結晶のZ軸とが実質的に一致するように一定方向に配向する結晶方位をより確実に与えることができる。
図1は、この発明の一実施形態による弾性表面波素子1の一部を示す断面図であり、圧電基板2上に電極3が形成された部分を示している。
圧電基板2は、LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶から構成される。また、電極3は、AlからなるまたはAlを主成分とするAl電極層4を備え、さらに、Al電極層4と圧電基板2との間には、Alの結晶性を向上させるための下地電極層5が設けられる。下地電極層5は、たとえば、Tiから構成される。
なお、図示しないが、Al電極層4の表面および側面を覆う電気絶縁性の保護膜がさらに形成されてもよい。
圧電基板2としては、好ましくは、64°Y−XカットのLiNbO3 基板が用いられる。したがって、圧電基板2の結晶のY軸方向およびZ軸方向は、それぞれ、図1に矢印で示した方向に向いている。X軸方向は、紙面に垂直な方向にある。
圧電基板2上に電極3を形成するにあたって、たとえばイオンエッチングによる前処理が施される。これは、研磨等によって圧電基板2の表面に生じた厚さ数nmの加工変質層を取り除くためのものであり、それによって、圧電基板2の表面にエピタキシャル成長可能な結晶面を露出させることができる。
上述した加工変質層を取り除いた結果、図2に示すように、圧電基板2の表面は、Z面6をテラスとした非常に微小な階段状構造となる。このZ面6の最表面は、図3(a)において白抜きの円によって図解的に示すように、酸素原子7が、0.297nm間隔に並んでいる状態となっている。
次いで、上述のように酸素原子7が配列された圧電基板2のZ面6上に、下地電極層5が成膜される。下地電極層5を形成するため、たとえば、最小原子間隔が0. 292nmで六方最密構造のTiを成膜すると、図3(b)において濃度の比較的高い網かけを施した円によって図解的に示すように、Ti原子8の結晶の(001)面が圧電基板2のZ面6に平行になる方向にエピタキシャル成長する。
図3(b)に示すように、Ti原子8の最小原子間隔は、LiNbO3 基板からなる圧電基板2のZ面6における酸素原子7の最小原子間隔にほぼ一致するため、結晶性が非常に良好なTi薄膜を得ることができる。
Ti原子8は、酸素原子7と結び付きやすく、また、その最小原子間隔が、Alの最小原子間隔よりも、圧電基板2としてのLiNbO3 基板上の酸素原子7の間隔に近いため、後述するAl電極層4を圧電基板2上に直接成膜するよりも、良好な結晶性が得られる。なお、図3(b)に示したTi原子8の原子配列は、その(001)面の最下面の原子配列を示している。
上述した下地電極層5の形成にあたっては、100℃以下の温度で真空蒸着法によって形成する方法が適用される。この真空蒸着法において、100℃より高い温度を付与すると、Ti原子8の配向方向が変わるため、後述するAl電極層の成膜において、Al結晶の(111)面または(110)面が圧電基板2に垂直に成長するように変化し、良好な結晶性を得にくい。
次いで、下地電極層5上にAl電極層4が形成される。より詳細には、最小原子間隔が0. 286nmで面心立方構造のAlを、Ti原子8が配列された下地電極層5上に成膜すると、図3(c)において濃度の比較的低い網かけを施した円によって図解的に示すように、Al原子9の結晶の(111)面がTiの(001)面に平行になるようにエピタキシャル成長する。
この結果、図3(c)に示すように、Al原子9の入り方によって、圧電基板2のZ軸方向に延びる軸を回転軸として、互いに180°回転させたような2種の結晶方位を持った結晶構造を有するAl電極層4が成膜される。このような結晶構造は、一般に双晶と呼ばれる。上述の2種の結晶方位は、それぞれ、1/2の確率で現れ、得られたAl電極層4は、太い破線10で示すような位置に結晶粒界すなわち双晶面を有する多結晶となる。
なお、図3では、図示を簡単化するため、Ti原子8を1原子層分だけ図示したが、実際には、数ないし数100の原子層が形成される。
図3(c)において、Al結晶の(200)、(020)および(002)方向が矢印で示されている。なお、実際には、これらの軸は、図3(c)の紙面上にはなく、約35°紙面より手前側に向いている。
このようにして、図1に示すように、64°Y−XカットのLiNbO3 基板からなる圧電基板2上に、そのZ面6(図2および図3参照)に平行に(111)面が成長したAl電極層4を得ることができる。
一般に、Al電極層における結晶粒界の存在は、弾性表面波素子の耐電力性を劣化させると言われている。これは、ストレスマイグレーションによって、結晶粒界を通じて、Alが自己拡散し、ヒロックやボイドと呼ばれる欠陥が成長するからである。しかしながら、この発明に従って得られた多結晶のAl電極層4にあっては、結晶粒界は1原子間隔以下であり、この結晶粒界を通じての自己拡散は実質的に起こらない。
一方、金属の機械的強度については、単結晶よりは多結晶の方が高い。これは、金属の塑性変形メカニズムによる。すなわち、塑性変形は、外力(弾性表面波素子の分野にあっては、圧電効果による振動)等による結晶のすべり変形を生じさせるが、単結晶では、最も活動しやすいすべり系の活動だけで引き起こされるのに対し、多結晶では、複数のすべり系の活動が要求されることに起因する(参考文献:丸善「金属便覧」改訂5版・第337〜343頁)。このようなことから、塑性変形の起きにくさは、ストレスマイグレーションによる電極破壊の起きにくさにもつながり、粒径の小さい電極構造が高い耐電力性をもたらす。
これらのことから、Al電極層4を、双晶構造を持つ配向膜とすることによって、結晶粒界を通じての電極構成原子の自己拡散によるヒロックやボイドの成長を防ぐ効果と、塑性変形のしにくさに起因する高耐電力性とを併せ持つ、非常に耐電力性に優れたものとすることができる。
上述した実施形態では、Al電極層4を、双晶構造を持つ配向膜としたが、LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板を備える、弾性表面波素子の場合、Al電極層は、その結晶が必ずしも双晶構造を有している必要はない。すなわち、Al電極層は、単に、Al結晶の(111)面の法線方向と圧電基板の結晶のZ軸とが実質的に一致するように一定方向に配向する結晶方位を有してさえいればよく、1軸配向であっても、3軸配向であってもよい。
また、上述した実施形態では、圧電基板2として、64°Y−XカットのLiNbO3 基板を用いたが、前処理により表面の加工変質層を取り除き、エピタキシャル成長可能な結晶面を露出させることができるため、異なるカット角を持つ基板に対しても有効である。また、結晶構造が酷似するLiTaO3 基板においても同様の効果が得られる。
また、Al電極層4の材料としてAlを用いたが、耐電力性向上に効果がある添加物、たとえば、Cu、Mg、Ni、Mo等をAlに微量添加した合金を用いてもよい。
また、下地電極層5の材料として、Tiを用いたが、Tiを主成分とする合金を用いても、さらには、Alの結晶性向上に効果がある他の金属、たとえば、CrまたはCrを主成分とする合金を用いてもよい。
また、圧電基板2の前処理のために、イオンエッチングを用いたが、化学機械研磨、スクラバ洗浄等、他の方法を用いてもよい。
この発明の実施例に係る弾性表面波フィルタを作製するため、まず、64°Y−XカットのLiNbO3 圧電性基板に対して、イオンエッチングによる前処理を行ない、基板表面に存在する厚さ数nmの加工変質層を取り除いた。
次に、電子ビーム蒸着法により、Tiからなる下地電極層を、基板温度50℃において、5nmの厚さとなるように形成し、続いて、AlからなるAl電極層を、200nmの厚さとなるように形成した。このようにして、Al電極層を、その結晶の(111)面が圧電基板におけるLiNbO3 のZ軸に垂直となるように、エピタキシャル成長させることができた。
次いで、上述の下地電極層およびAl電極層からなる電極をフォトリソグラフィ技術およびドライエッチング技術を用いて、インタディジタル形状に加工し、実施例に係る弾性表面波フィルタを得た。
上述の実施例による電極に備えるAl電極層のXRD極点図が図4に示されている。図4は、Alの(200)面からの反射をとったもので、図の中心が基板の法線方向を示している。図4に示すように、中心から約23°傾いた所に中心を持つAlの(200)面の6回対称のスポットが現れている。
このことから、図1に示すように、Al電極層4の(111)軸方向が、圧電基板2の法線方向から約23°傾いて一定方向に配向しており、圧電基板2のZ軸にほぼ沿って、エピタキシャル成長していることがわかる。また、図4のように、Alの(200)面からの反射信号の検出点が6回対称を示すことから、Alの結晶がAlの(111)面を中心に180°回転したような2種の結晶方位を持つ双晶構造であることがわかる。そして、このAl電極層4は、格段に優れた結晶性を示すことが確認された。
比較例として、イオンエッチングによる処理を行なわず、TiおよびAlの成膜を、基板温度200℃において行なったところ、エピタキシャル膜は得られず、Alの(111)面が基板に垂直に成長する1軸配向膜となった。この比較例のXRD極点図を図5に示す。図5は、Alの(002)面からの反射をとったものである。
耐電力性の比較を行なったところ、実施例に係る弾性表面波フィルタは、比較例に係る弾性表面波フィルタと比較すると、一定電力を加えたときの故障発生に至る時間が1000倍以上と長くなった。
この発明の一実施形態による弾性表面波素子1の一部を示す断面図である。 図1に示した圧電基板2の表面を図解的に示す断面図であり、その表面の加工変質層を取り除いた後に露出されるZ面6を示している。 図2に示したZ面6の平面図であり、(a)は、その上に配列される酸素原子7を図解的に示し、(b)は、さらにその上に配列されるTi原子8を示し、(c)は、さらにその上に配列されるAl原子9を図解的に示している。 この発明の特定の実施例に係るAl電極層のXRD極点図である。 比較例に係るAl電極層のXRD極点図である。
符号の説明
1 弾性表面波素子
2 圧電基板
3 電極
4 Al電極層
5 下地電極層
6 Z面
8 Ti原子
9 Al原子

Claims (8)

  1. LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板と、前記圧電基板上に形成された電極とを備える、弾性表面波素子であって、
    前記電極は、Alを主成分とするAl電極層を備え、前記Al電極層は、Al結晶の(111)面の法線方向と前記圧電基板の結晶のZ軸とが実質的に一致するように一定方向に配向する結晶方位を有している、弾性表面波素子。
  2. 前記Al電極層の結晶は、双晶構造を有する、請求項1に記載の弾性表面波素子。
  3. 前記電極は、前記Al電極層と前記圧電基板との間に設けられる、Alの結晶性を向上させるための下地電極層をさらに備える、請求項1または2に記載の弾性表面波素子。
  4. 前記下地電極層は、TiおよびCrの少なくとも一方を主成分とする、請求項3に記載の弾性表面波素子。
  5. 前記圧電基板は、64°Y−XカットのLiNbO3 基板である、請求項1ないし4のいずれかに記載の弾性表面波素子。
  6. 前記Al電極層の表面および側面を覆う電気絶縁性の保護膜をさらに備える、請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波素子。
  7. LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板と、前記圧電基板上に形成された電極とを備え、前記電極は、AlからなるまたはAlを主成分とするAl電極層を備え、前記Al電極層は、Al結晶の(111)面の法線方向と前記圧電基板の結晶のZ軸とが実質的に一致するように一定方向に配向する結晶方位を有している、弾性表面波素子の製造方法であって、
    LiNbO3 またはLiTaO3 の単結晶からなる圧電基板を用意する工程と、前記圧電基板の表面の加工変質層を取り除く工程と、前記圧電基板上に電極を形成する工程とを備え、
    前記電極形成工程は、前記圧電基板上に、TiおよびCrの少なくとも一方を主成分とする下地電極層を100℃以下の温度で真空蒸着法によって形成する工程と、前記下地電極層上に、AlからなるまたはAlを主成分とするAl電極層を形成する工程とを備える、弾性表面波素子の製造方法。
  8. 前記圧電基板を用意する工程において、64°Y−XカットのLiNbO3 基板が用意される、請求項7に記載の弾性表面波素子の製造方法。
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