JP4178974B2 - 深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用鋼板等の使途に有用な深絞り性に優れた、引張強さが440MPa以上の複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費改善が要求されている。加えて、車両衝突時に乗員を保護する観点から、自動車車体の安全性向上も要求されている。このようなことから、自動車車体の軽量化と強化の双方を満たすための検討が積極的に進められている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に満足させるには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では高張力鋼板が自動車部品に積極的に使用されている。
【0003】
鋼板を素材とする自動車部品の多くがプレス加工によって成形されるため、自動車用鋼板には優れたプレス成形性を具備していることが必要とされる。しかし、−般に、鋼板を高強度化すると、ランクフォード値(r値)および延性(El)が低下してプレス成形性が劣化するとともに、降伏応力が上昇して形状凍結性が劣化する傾向がある。特に引張強さ(TS)と延性(El)との積TS×Elで表される、いわゆる強度伸びバランスの値が大きいほどプレス成形性には有利であり、従来から鋼板の高強度化と共に高延性化が図られてきた。
高強度と高延性を兼ね備えた鋼板については、歪み誘起塑性(TRIP)現象を利用した残留オーステナイト鋼(残留γ鋼)を始めとして、フェライト相とマルテンサイト相の2相を有するDual‐Phase鋼(DP鋼)など、いわゆる複合組織鋼についての開発研究が進められている。
【0004】
プレス成形性の良好な高張力鋼板の代表例としては、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織からなる複合組織鋼板が挙げられ、特に連続焼鈍後ガスジェット冷却で製造される複合組織鋼板は、降伏応力(YS)が低く、さらに高延性(El)と優れた焼付け硬化性とを兼ね備えている。しかしながら、上記複合組織鋼板は、加工性については概ね良好であるものの、ランクフォード値(r値)が低く、深絞り成形性に劣るという欠点があった。
【0005】
近年では、自動車の高強度化に伴い、引張強さが440MPa以上、特に590MPa級の高強度鋼板にも、高延性のみならず優れた深絞り性、すなわち高r値が要求される。
【0006】
これまでにも、複合組織鋼板のランクフォード値(r値)を上昇させて深絞り性を改善する試みがなされてきた。例えば、特許文献1では、冷間圧延後、再結晶温度〜Ac3変態点の温度で箱焼鈍を行い、その後、複合組織とするため700〜800℃に加熱した後、焼入れ焼戻しを伴う連続焼鈍を行う技術が開示されている。しかしながら、この方法では、連続焼鈍時に焼入れ焼戻しを行うため降伏応力が高く、低い降伏比が得られない。なお、ここで降伏比(YR)とは、引張強さ(TS)に対する降伏応力(YS)の比であり、YR=YS/TSである。この高降伏応力の鋼板には、プレス時にプレス部品の形状凍結性が悪いという欠点がある。
【0007】
【特許文献1】
特公昭55−10650号公報
【0008】
この高降伏応力を改善するための方法としては、特許文献2に開示されている。この方法は、高いランクフォード値(r値)を得るためにまず箱焼鈍を行うが、箱焼鈍時の温度をフェライト相(α)−オーステナイト相(γ)の2相域とし、均熱時にα相からγ相にMnを濃化させる。このMn濃化相は連続焼鈍時に優先的にγ相となり、ガスジェット程度の冷却速度でも混合組織が得られ、さらに降伏応力も低い。しかし、この方法では、Mn濃化のためα相とγ相の2相域という比較的高温で長時間の箱焼鈍が必要であり、そのため鋼板間の密着の多発、テンパーカラーの発生および炉体インナーカバーの寿命低下など製造工程上、多くの問題がある。従来、このように高いランクフォード値(r値)と低い降伏応力(YS)を兼ね備えた高張力鋼板を工業的に安定して製造することは困難であった。
【0009】
【特許文献2】
特開昭55−100934号公報
【0010】
加えて、特許文献3では、0.012質量%C-0.32質量%Si-0.53質量%Mn-0.03質量%P−0.051質量%Tiの組成の鋼を冷間圧延後、α相とγ相の2相域温度である870℃に加熱後、100℃/sの平均冷却速度にて冷却することにより、r値=1.61、YS=224MPa、TS=482MPaの非常に高いランクフォード値(r値)と低降伏応力を有する複合組織型冷延鋼板が製造可能となる技術が開示されている。しかしながら、100℃/sという高い冷却速度を、通常の連続焼鈍ラインで実現することは困難であるため、水焼入れ設備が必要となる他、水焼入れした冷延鋼板は、表面処理性の問題も顕在化するため、製造設備上および材質上の問題がある。
【0011】
【特許文献3】
特公平1-35900号公報
【0012】
一般に、高r値化には{111}再結晶集合組織を発達させることが有効であり、そのためには冷間圧延時の圧下率をある程度まで高くする、すなわち歪みエネルギーを導入することが必要になる。しかしながら、高強度鋼板では、高冷延圧下率を達成しようとすると、冷間圧延時のロールへの負荷が大きくなり、冷間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大すると共に、生産性の低下が懸念される。つまり、高強度鋼板は、1回の冷間圧延工程では、高冷延圧下率を出すことが困難であり、従って、引き続き再結晶焼鈍を施しても{111}再結晶集合組織が発達しにくくなる。
【0013】
深絞り用冷延鋼板のr値を高める方法として、2回冷間圧延と2回焼鈍を組合せた、いわゆる2回冷延−2回焼鈍法が従来から提案されている。例えば、特許文献4、特許文献5及び特許文献6では、極低炭素冷延鋼板に2回冷間圧延と2回焼鈍を施すことにより、強度レベルがTS<440MPaのフェライト単相鋼である冷延鋼板のr値を、3.0以上にまで高めることができる技術が開示されている。これらの技術は、2回の冷間圧延による高歪みエネルギーの蓄積と、2回の再結晶焼鈍による{111}再結晶集合組織形成の集積を図ったものである。
【0014】
【特許文献4】
特開平3−97812号公報
【特許文献5】
特開平3−97813号公報
【特許文献6】
特開平5−209228号公報
【0015】
しかしながら、これらの技術を本発明である、C含有量が0.01〜0.05質量%のセミ極低炭素鋼を基本組成とする、引張強さが440MPa以上の複合組織型高張力冷延鋼板に適用した場合、1次焼鈍(中間焼鈍)次第では、▲1▼鋼板が回復・再結晶による軟化を示さず、2次冷間圧下率40%以上の確保には、ロールへの負荷が高まりトラブルが多発する、▲2▼1次焼鈍中に炭化物が溶解して固溶Cが多量に生じるため2次焼鈍時に{111}再結晶集合組織が発達しない、などの問題が生じる。
【0016】
また、特許文献7には、深絞り性に優れた複合組織型冷延鋼板およびその製造方法が開示されている。そして、引張強さが590MPa以上でr値が1.9の特性が得られることが開示されている。しかしながら、そのときの冷延圧下率は、いずれも70%という高圧下率の冷間圧延であるため、設備能力によっては幅狭による圧延を余儀なくされるなど制約も多く、また、上記したように圧延時のトラブル多発といった問題点が残る。
【0017】
【特許文献7】
特開2002−226941号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を材質面でも製造面でも有利に解決したもので、鋼組成として特にCとVおよびNbの含有量を適正範囲に規制するとともに、製造条件として、特に1次焼鈍温度を制御した、2回冷延−2回焼鈍という工程を採用することにより、高いランクフォード値を有する深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板を安定して製造できる技術を提案することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、冷延鋼板のミクロ組織および再結晶集合組織におよぼす合金元素、冷間圧延条件および焼鈍条件の影響について鋭意研究を重ねた。その結果、C含有量を0.01〜0.05質量%とし、適正範囲のV、Nb量を含有することにより、再結晶焼鈍前には、固溶Cを極力低減させて{111}再結晶集合組織を発達させることにより、高いランクフォード値(r値)が得られ、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上、すなわちα相とγ相の2相域温度以上で再結晶焼鈍し、その後、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として室温まで冷却し、第2相としてマルテンサイト相を生成させることで、高強度にもかかわらず延性に優れ、さらにランクフォード値が高く、深絞り成形性にも優れる複合組織型高張力冷延鋼板が製造可能であることを見出した。特に、冷間圧延時に圧延ロールへの負荷を極力低減させた上で、高強度鋼の冷間圧下率を高くし、できるだけ{111}再結晶集合組織を発達させるためには、1回目の冷間圧延後、炭化物が殆ど溶けず(すなわち、固溶Cが少ない状態に維持)、かつ鋼板が回復を起こすような温度域である650〜780℃で焼鈍し、次いで再び2回目の冷間圧延を施し、次いで、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上かつ再結晶温度以上、950℃以下に加熱した後、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として冷却する焼鈍を施すことが有効であることを見出した。
【0020】
ここで、本発明の方法で製造した複合組織型冷延鋼板とは、主相がフェライト相であり、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織鋼板である。主相のフェライト相は主としてポリゴナルフェライト相であるが、オーステナイト域からの冷却過程により生成した転位密度の高いベイニチックフェライト相が混在していても何ら問題はない。また、第2相は、面積率で1%以上のマルテンサイト相単独としても、あるいはこれに副相として残留オーステナイト相、パーライト相、ベイナイト相などいずれかが混在していてもよい。
【0021】
まず、本発明者らが行った基礎的な実験結果について説明する。
質量%で、C:0.02%、Si:0.5%、Mn:2.0%、P:0.05%、S:0.005%、Al:0.03%、N:0.002%を基本組成とし、これにV:0.01〜0.1質量%の範囲およびNb:0.001〜0.16質量%の範囲で添加することによって、異なるVおよびNb含有量を有する種々の鋼素材(シートバー)について、1250℃に加熱しこの加熱温度で均熱保持した後、仕上圧延終了温度が880℃となるように3パス圧延を行って板厚4.0mmとした。なお、仕上圧延終了後、コイル巻取り処理として650℃×3hの保温相当処理を施した。引き続き、圧下率50%の冷間圧延を施して板厚2.0mmとして、これら冷延板に、700〜850℃で1次焼鈍を施した後、空冷した。さらに、圧下率60%の冷間圧延を施して板厚0.8mmとし、次いで、700〜970℃の温度域で2次連続焼鈍(再結晶焼鈍)を施し、その後、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として室温まで冷却する焼鈍を施した。
【0022】
得られた冷延鋼板について、引張試験を実施し引張特性を調査した。引張試験は、JIS5号引張試験片を用いて行った。引張強さTSおよび延性Elは、圧延方向に対して垂直方向に引張試験を行ったときの値である。r値は、圧延方向(rL)、圧延方向に45度方向(rD)および圧延方向に垂直(90度)方向(rc)の平均r値{=(rL +rc +2×rD)/4}として求めた。
【0023】
図1は、2回冷延(圧下率:50〜60%)−2回焼鈍(700〜800℃)工程で得られた冷延鋼板のr値と強度伸びバランス(TS×El)に及ぼすV、NbおよびC含有量の影響を示した図であり、横軸はVおよびNbの含有量とC含有量の原子比((V/51+Nb/93)/(C/12))であり、縦軸はr値と強度伸びバランス(TS×El)を上下に分けて示す。
【0024】
図1から、鋼スラブ中のVおよびNbの含有量をCとの原子比にして0.5〜2.0の範囲に制限することにより、高いr値と高い強度伸びバランスが得られ、高r値と高い延性Elを有する複合組織型冷延鋼板が製造可能となることが明らかになった。
【0025】
次に、図1で用いた冷延鋼板のうち、(V/51+Nb/93)/(C/12)=1.2の鋼素材素材に冷間圧延を施し、700〜850℃の温度範囲で1次焼鈍を施し、その後、再び2回目の冷間圧延を施してから、さらに800℃で加熱した後に、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として冷却する2次連続焼鈍(再結晶焼鈍)を施すことによって製造された種々の冷延鋼板において、一次焼鈍温度と製造された冷延鋼板のランクフォード(r値)との関係を図2に示す。
【0026】
図2の結果から、1次連続焼鈍温度を780℃以下にすることで、高いランクフォード値が得られ、深絞り性に優れた複合組織型冷延鋼板が2回冷延−2回焼鈍工程で製造可能であることがわかる。
【0027】
図3は、本発明の2回冷延−2回焼鈍工程(本発明法)と、従来の1回冷延−1回焼鈍工程(従来法)とで製造した冷延鋼板について、トータル圧下率(%)がr値に及ぼす影響を示したものである。
【0028】
図3の結果から、高圧下率に伴い、r値が上昇する(これは一般的な傾向である。)が、累積で同じトータル圧下率になる場合であっても、従来法よりも本発明法の方がr値が高くなっているのがわかる。
【0029】
本発明の冷延鋼板では、1次焼鈍過程においては、650〜780℃での焼鈍処理により、圧延組織が回復(一部再結晶)することで、2回目の冷間圧延が容易になり、トータルで高冷延圧下率を達成でき、かつ熱延板で形成されていた炭化物が殆ど溶けず、固溶Cが極力少ない状態に維持できるため、2次連続焼鈍(再結晶焼鈍)前にも固溶Cおよび固溶Nが少ない状態が保たれ、2次連続焼鈍時に再結晶温度以上に加熱した際、{111}再結晶集合組織が強く発達し、高r値が得られる。
【0030】
特許文献4、5および6に開示されているような温度域で1次連続焼鈍(再結晶焼鈍)させた場合、固溶Cが多量に存在し、これを引き続き2次冷延−2次連続焼鈍しても、{111}再結晶集合組織はさらに発達することはなく、むしろr値に好ましくない再結晶集合組織が形成することが明らかになった。
【0031】
すなわち、1次焼鈍温度は、炭化物が殆ど溶けないような温度で行うべきであり、たとえその温度で完全に再結晶せずとも、2回冷延−2回焼鈍(再結晶焼鈍)後には、強い{111}再結晶集合組織が発達し、1回冷延−1回焼鈍法よりもr値が高くなることを見出した。もちろん、炭化物が溶解しない温度域で再結晶が進行することは何ら問題ない。さらに、1次焼鈍温度は少なくとも回復が起こる650以上であることが、2回冷延−2回焼鈍(再結晶焼鈍)後の強い{111}再結晶集合組織の発達と、2回冷間圧延時における圧延ロールへの負荷軽減には不可欠であることも見出した。
【0032】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討して完成されたものであり、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)質量%で
C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%およびNb:0.001〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbとCとの含有量(質量%)が、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12
なる関係を満たす組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、その後、650〜780℃に加熱する焼鈍を施してから再び冷間圧延を施し、次いで、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上でかつ再結晶温度以上、950℃以下に加熱した後、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として冷却する焼鈍を施すことを特徴とする、深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法。
【0033】
(2)質量%で
C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、かつ、V、NbおよびTiとCとの含有量(質量%)が、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12
なる関係を満たす組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、その後、650〜780℃に加熱する焼鈍を施してから再び冷間圧延を施し、次いで、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上でかつ再結晶温度以上、950℃以下に加熱した後、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として冷却する焼鈍を施すことを特徴とする、深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法。
【0034】
(3)鋼スラブは、上記組成に加えてさらにMo:0.01〜0.5質量%を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法。
【0035】
【発明の実施の形態】
本発明の方法で製造した冷延鋼板は、引張強さTSが440MPa以上の深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板である。
【0036】
かかる複合組織型高張力冷延鋼板は、主相がフェライト相であり、さらに面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織鋼板である。主相のフェライト相は主としてポリゴナルフェライト相であるが、オーステナイト域からの冷却過程により生成した転位密度の高いベイニチックフェライト相が混在していても何ら問題はない。また、第2相は、面積率で1%以上のマルテンサイト相単独としても、あるいはこれに副相として残留オーステナイト相、パーライト相、ベイナイト相などいずれかが混在していてもよい。主相であるフェライト相は{111}集合組織が発達しており、高いr値を有する。
【0037】
低い降伏応力(YS)と高い強度伸びバランス(TS×El)を有し、優れた深絞り性を有する冷延鋼板とするために、本発明では冷延鋼板の組織を、主相であるフェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相との複合組織とする必要がある。主相であるフェライト相は、面積率で80%以上とすることが好ましい。フェライト相の面積率が80%未満では、高い強度伸びバランスを確保することが困難となり、プレス成形性が低下する傾向があるからである。また、さらに良好な延性と穴拡げ性が要求される場合には、主相のポリゴナルフェライト相中に占めるベイニチックフェライト相の割合が、面積率で5%以上とするのが好ましい。なお、複合組織の利点を利用するため、フェライト相は99%以下とするのが好ましい。
【0038】
また、第2相として、本発明では、マルテンサイト相が存在することが必要であり、組織全体に対する面積率で1%以上含有するような複合組織鋼である。マルテンサイト相が面積率で1%未満では、低い降伏比と高い強度伸びバランス(TS×El)を同時に満足させることが難しい。なお、第2相は、面積率で1%以上のマルテンサイト相単独としても、あるいは面積率で1%以上のマルテンサイト相と、副相としてそれ以外のパーライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相のいずれかとの混合としてもよい。
【0039】
1次連続焼鈍時には、炭化物が極力溶解しないことが重要である。ここで、本発明法において生成される鋼中の炭化物とは、主にVおよびNb系の複合炭化物である。2次連続(再結晶)焼鈍前には固溶C量が極力少ない方が好ましく、すなわち、1次連続焼鈍中に溶解してしまう炭化物の量は、例えば、熱間圧延した熱延板段階で析出している炭化物の50%以下とすることが好ましい。
【0040】
次に、本発明の製造方法に用いた鋼スラブの組成を限定した理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。
C:0.01〜0.05%
Cは、主相であるフェライト相とマルテンサイト相の複合組織の形成を促進し、さらに鋼板の強度を増加する元素であり、本発明では複合組織形成の観点から0.01%以上含有する必要がある。一方、0.05%を超える含有は、{111}再結晶集合組織の発達を阻害し、深絞り成形性および延性を低下させる。このため、本発明では、C含有量は0.01〜0.05%に限定した。
【0041】
Si:0.1〜1.5%
Siは、鋼板を高強度化すると同時に延性向上にも寄与する、すなわち強度伸びバランスを向上させることができる有用な強化元素であり、この効果を得るためには、Si含有量は0.1%以上とする必要がある。しかしながら、Si含有量が1.5%を超えると、延性向上の効果が小さくなると同時に深絞り性の劣化を招き、さらに表面性状が悪化する。このため、Si含有量は0.1〜1.5%に限定した。
【0042】
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、鋼を強化する作用があり、さらに主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織が得られる臨界冷却速度を低くする。つまり、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相の複合組織の形成を促進する作用を有しており、焼鈍後の冷却速度に応じ含有するのが好ましい。臨界冷却速度未満での緩慢な冷却速度ではマルテンサイト相は生成されず、代わりにベイナイト相あるいはパーライト相が生成されるが、第2相にマルテンサイト相が存在しない場合、強度伸びバランスが低下する傾向にある。したがって、マルテンサイト相の生成を容易にするため、すなわち臨界冷却速度を低くするためには、Mnの添加が有効となる。また、Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて含有するのが好ましい。このような効果は、Mnを1.0%以上含有させることで顕著となる。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、深絞り性および溶接性が劣化する。このため、本発明ではMn含有量は1.0〜3.0%の範囲に限定した。
【0043】
P:0.10%以下
Pは鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて適宜含有させることができ、この効果を得るためには、Pは0.005%以上含有することが好ましい。しかしながら、P含有量が0.10%を超えると、強度伸びバランスが低下するとともに深絞り性が劣化する傾向にある。このため、P含有量は0.10%以下に限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合には、P含有量は0.08%以下とするのが好ましい。
【0044】
S:0.02%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であるため、できるだけ低減するのが好ましいが、0.02%以下に低減すると、さほど悪影響を及ぼさなくなることから、本発明ではS含有量は0.02%を上限とした。なお、より優れた伸びフランジ成形性が要求される場合には、S含有量は0.01%以下とするのが好ましく、より好ましくは0.005%以下である。
【0045】
Al:0.005〜0.1%
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であるが、0.005%未満では添加の効果がなく、一方、0.1%を超えて含有してもより一層の脱酸効果は得られず、逆に深絞り性が劣化する.このため、Al含有量は0.005〜0.1%に限定した。なお、本発明では、Al脱酸以外の脱酸方法による溶製方法を排除するものではなく、たとえばTi脱酸やSi脱酸を行ってもよく、これらの脱酸法による鋼板も本発明の範囲に含まれる。その際、CaやREM等を溶鋼に添加しても、本発明鋼板の特徴はなんら阻害されず、CaやREM等を含む鋼板も本発明範囲に含まれるのは勿論である。
【0046】
N:0.02%以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で鋼板の強度を増加させる元素であるが、0.02%を超えて含有すると、鋼板中に窒化物が増加し、それにより鋼板の深絞り性が顕著に劣化する。このため、Nは0.02%以下に限定した。なお、よりプレス成形性の向上が要求される場合にはNは低減させることが好ましく、0.004%以下とするのが好適である。
【0047】
V:0.01〜0.2% 、Nb:0.001〜0.2%でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12の関係を満たすこと
VおよびNbは、本発明において最も重要な元素であり、再結晶前には固溶CをVおよびNb系炭化物として析出固定することにより、{111}再結晶集合組織を発達させて高いランクフォード値を得ることができる。さらに、2次焼鈍である再結晶焼鈍時には、VおよびNb系炭化物を溶解させて固溶Cを多量にオーステナイト相に濃化させ、その後の冷却過程においてマルテンサイト変態させることにより、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織鋼板を得る。このような効果を奏するには、VおよびNbの含有量がそれぞれ0.01%以上および0.001%以上でかつ、C、V、Nbの含有量(質量%)が0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)の関係を満足することが必要である。つまり、V含有量が0.01%未満若しくはNb含有量が0.001%未満であるか、あるいは、0.5×C/12>(V/51+Nb/93)では、固溶Cが多量に存在し、{111}再結晶集合組織が発達せず、高r値が得られない。一方、VおよびNbの少なくとも一方の含有量が0.2%を超えるか、あるいは、C、V、Nbの含有量(質量%)が(V/51+Nb/93)>2×C/12であると、2次焼鈍である再結晶焼鈍時にVおよびNb系炭化物の溶解が起こりにくくなるため、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相の複合組織が得られない。したがって、本発明では、V:0.01〜0.2% 、Nb:0.001〜0.2%でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12の関係を満たすことに限定した。
【0048】
また、本発明では、上記した組成に加えて、Ti:0.001〜0.3%を含有することが好ましく、この場合には、上記C、V、Nbの含有量(質量%)の関係式である0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12に代えて、上記C、V、Nb、Tiの含有量(質量%)の関係式、すなわち0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12なる関係式を満たすことが必要である。
Tiは炭化物形成元素であり、再結晶前には固溶CをV、NbおよびTi系炭化物として析出固定することにより、{111}再結晶集合組織を発達させて高いランクフォード値を得る。さらに、2次焼鈍である再結晶焼鈍時には、V、NbおよびTi系炭化物を溶解させて固溶Cを多量にオーステナイト相に濃化させ、その後の冷却過程においてマルテンサイト変態させることにより、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織鋼板を得る。このような効果を奏するには、V含有量が0.01%以上、Nb含有量が0.001%以上、Ti含有量が0.001%以上でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)の関係を満足することが必要である。つまり、V含有量が0.01%未満、Nb含有量が0.001%未満若しくはTi含有量が0.001%未満であるか、あるいは、0.5×C/12>(V/51+Nb/93+Ti/48)では、固溶Cが多量に存在し、{111}再結晶集合組織が発達せず、高r値が得られない。一方、VおよびNbの少なくとも一方の含有量が0.2%を超えるか、Ti含有量が0.3%を超えるか、あるいは、(V/51+Nb/93+Ti/48)>2×C/12であると、2次焼鈍である再結晶焼鈍で炭化物の溶解が起こりにくくなるため、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相の複合組織が得られず、加えて、過剰な固溶あるいは炭・窒・硫化物等を形成して、鋼板の延性が著しく劣化する。したがって、Tiを含有する場合には、Ti:0.001〜0.3%であって0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12なる関係を満たすことに限定した。
【0049】
また、本発明では、上記した組成に加えてさらにMo:0.01〜0.5%を含有することが好ましい。
Mo:0.01〜0.5%
MoはMnと同様に、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織が得られる臨界冷却速度を低くする。すなわち、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織の形成を促進する作用を有しており、必要に応じて含有できる。その効果は、0.01%以上のMoの含有により発揮される。しかしながら、Mo含有量が0.5%を超えると、深絞り性が低下するため、Mo含有量は0.01〜0.5%に限定した。
【0050】
なお、本発明では、上記した成分以外については、特に限定していないが、B、Ca、REM等を含有させても、通常の鋼組成の範囲内であればなんら問題はない。
【0051】
Bは、鋼の焼入性を向上する作用を有する元素であり、必要に応じ含有できる。しかし、B含有量が0.003%を超えると、効果が飽和するため、Bは0.003%以下が好ましい。なお、より望ましい範囲は0.0001〜0.002%である。
CaおよびREMは、硫化物系介在物の形態を制御する作用を有し、これにより鋼板の伸びフランジ性を向上させる効果を有する。このような効果は、CaおよびREMのうちから選ばれた1種または2種の含有量が合計で、0.01%を超えると飽和する。このため、CaおよびREMのうちの1種または2種の含有量は、合計で0.01%以下とするのが好ましい。なお、より好ましい範囲は0.001〜0.005%である。
【0052】
上記した成分以外の残部は実質的にFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、Zn、Coが挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下の範囲である。
【0053】
次に、本発明において、製造条件を限定した理由について説明する。
本発明は、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする1次冷延工程と、該冷延板に650〜780℃の温度域に加熱する1次焼鈍工程と、該冷延板に再び冷間圧延を施す2次冷延工程と、再結晶焼鈍を施す2次焼鈍(再結晶焼鈍)工程とを順次施すことにより冷延鋼板を製造する方法である。
【0054】
使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後、再度加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する方法や、わずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延する方法などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0055】
上記した素材(鋼スラブ)を加熱し、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程を施す。熱延工程は所望の板厚の熱延板が製造できる条件であればよく、通常の圧延条件を用いても特に問題はない。なお、参考のため、好適な熱延条件を以下に示しておく。
【0056】
スラブ加熱温度:900℃以上
スラブ加熱温度は、析出物を粗大化させることにより、{111}再結晶集合組織を発達させ、深絞り性を改善するため、低い方が望ましい。しかし、加熱温度が900℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大する。このため、スラブ加熱温度は900℃以上にすることが好ましい。また、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度の上限は1300℃とすることがより好適である。なお、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方法であることは言うまでもない。
【0057】
仕上圧延終了温度:700℃以上
仕上圧延終了温度(FT)は、冷間圧延および再結晶焼鈍後に優れた深絞り性が得られる均一な熱延母板組織を得るため、700℃以上にすることが好ましい。すなわち、仕上圧延終了温度が700℃未満では、熱延母板組織が不均一となるとともに、熱間圧延時の圧延負荷が高くなり、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大するからである。
【0058】
巻取温度:800℃以下
巻取温度は、800℃以下とするのが好ましい。すなわち、巻取温度が800℃を超えると、スケールが増加しスケールロスにより歩留りが低下する傾向があるからである。なお、巻取温度は200℃未満となると、鋼板形状が顕著に乱れ、実際の使用にあたり不具合を生じる危険性が増大するため、巻取温度の下限を200℃とすることがより好適である。
【0059】
このように、本発明の熱延工程では、鋼スラブを900℃以上に加熱した後、仕上圧延終了温度:700℃以上とする熱間圧延を施し、800℃以下好ましくは200℃以上の巻取温度で巻き取り、熱延板とするのが好ましい。
なお、本発明における熱間圧延工程では、熱間圧延時の圧延荷重を低滅するため、仕上圧延の一部または全部のパス間で潤滑圧延としてもよい。加えて、潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化や材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.10〜0.25の範囲とすることが好ましい。
【0060】
また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0061】
次いで、熱延板に1次冷間圧延を施し冷延板とする。なお、熱延板は通常行われているように酸洗後、冷間圧延をすることが好ましく、酸洗は通常の条件にて行えばよい。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、特に限定されないが、冷間圧延時の圧下率は30%以上とすることが好ましい。圧下率が30%未満では、次の工程である1次焼鈍工程において、回復あるいは再結晶が起こりにくく、最終的に優れた深絞り性が得られないからである。
本発明は、例えば、前述したようなセミ極低炭素鋼の場合、広幅材の圧延が困難になる70%以上の1次冷延圧下率を適用することなく70%未満という比較的低い1次冷延圧下率であっても、十分な深絞り性を得ることができる。
【0062】
次に、上記冷延鋼板に1次焼鈍工程を施す。1次焼鈍は、箱焼鈍でもかまわないが、連続焼鈍ラインで行うことが製造コストの点から好ましい。1次焼鈍温度は、熱延板の炭化物が殆ど溶けない温度域である650〜780℃で行う必要がある。1次焼鈍温度が780℃を超える高温焼鈍では、炭化物が多量に溶解するため、固溶Cが多量に存在し、引き続く2次冷間圧延と2次焼鈍(再結晶焼鈍)工程において{111}再結晶集合組織が充分に発達せず、高r値が得られない。なお、1次焼鈍温度が650℃より低い場合には、冷間圧延後の組織が回復していないため、1次焼鈍後には冷延まま材と同等の強度を有し、引き続く2次冷間圧延時において、所定の冷延圧下率を確保することができず、さらに2次焼鈍(再結晶焼鈍)時に{111}再結晶集合組織が充分に発達しない。したがって、1次焼鈍温度を650〜780℃に限定した。
【0063】
さらに、上記冷延焼鈍鋼板に2次冷間圧延を施す。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、とくに限定されないが、冷間圧延時の圧下率は40%以上とすることが好ましい。高r値には高冷延圧下率が一般に有効であり、次の工程が再結晶焼鈍工程に当たるため、圧下率は高い方が好ましい。圧下率が40%未満では、再結晶焼鈍工程において、{111}再結晶集合組織が充分に発達せず、最終的に優れた深絞り性が得られないからである。
なお、本発明では、2次冷延圧下率が比較的低い圧下率、例えば70%未満という低い圧下率であっても、十分な深絞り性を得ることができる。
【0064】
引き続き、上記冷延鋼板に再結晶焼鈍を行い冷延焼鈍板とする2次焼鈍(再結晶焼鈍)工程を施す。2次焼鈍(再結晶焼鈍)は、本発明で必要とする冷延速度を確保するため連続焼鈍ラインで行うことが好ましい。再結晶焼鈍の焼鈍温度は、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上でかつ再結晶温度以上、950℃以下の温度範囲で行う必要がある。焼鈍温度が低く、焼鈍温度が冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度未満であると、目的とする組織が得られず、低い降伏応力と高い強度伸びバランスを同時に満足させた鋼板とすることが困難となる。また、再結晶温度未満だと、未再結晶組織が残り、十分な延在が得られないとともに{111}再結晶集合組織が発達せず、高いr値が得られない。一方、950℃を超える高温では、再結晶粒が著しく粗大化し、特性が顕著に劣化する傾向があるからである。
なお、ここで冷却後フェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度とは、焼鈍をシミュレイトして種々の温度に加熱後、400℃までを平均冷却速度5℃/sで冷却する焼鈍を施した鋼板について、ミクロ組織観察を行い、フェライト相とマルテンサイト相を含む組織が確認される加熱温度である。また、再結晶温度とは、上記ミクロ組織観察において、未再結晶組織が観察されず、再結晶率が100%になる温度である。
このような冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度とするには、焼鈍中にフェライト相(α相)とオーステナイト相(γ相)の2相域温度以上、すなわちAcl変態点以上とすればよい。本発明ではこのようなα相とγ相の2相域温度以上で焼鈍することにより、VおよびNb系炭化物が溶解し、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織を形成できる。焼鈍温度がα相とγ相の2相域温度未満、すなわちAcl変態点未満では、冷却後フェライト単相組織となり、フェライト相とマルテンサイト相を含む組織を得ることができない。
なお、本発明においては、焼鈍温度を概ね750℃以上とすることにより、冷却後フェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上、かつ再結晶温度以上とすることができる。すなわち、本発明鋼では、概ね750℃以上とすることにより、VおよびNb系炭化物が溶解して、α相からγ相への変態が進みやすくなりα相とγ相の2相域温度以上となるとともに、再結晶も進み再結晶温度以上とできる。
すなわち、750℃未満では、VおよびNb系炭化物の溶解が不十分であり、α相とγ相の2相域温度以上とすることが困難となり、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織を得ることが困難となるとともに、未再結晶組織が残りやすくなる。
【0065】
なお、2次焼鈍(再結晶焼鈍)時の冷却は、マルテンサイト形成の観点から、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として室温まで冷却することが必要である。平均冷却速度が5℃/s未満だと、マルテンサイト相が形成されにくくフェライト単相組織となり、強度伸びバランスが低下するからである。したがって、本発明においては、マルテンサイト相を含む第2相の存在が必須であることから、そのためには、400℃までの平均冷却速度が臨界冷却速度以上である5℃/s以上とすることが必要である。なお、400℃以下の冷却は特に限定する必要はなく、ひきつづき冷却を行ってもよく、空冷としても良い。
【0066】
また、2次連続焼鈍後の冷延焼鈍鋼板には、形状矯正、表面粗度等の調整のための調質圧延を加えてもよい。また、樹脂あるいは油脂コーティング、各種塗装あるいは電気めっき等の処理を施しても何ら不都合はない。
【0067】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0068】
【実施例】
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。ついで、これら鋼スラブを1250℃に加熱したのち、仕上圧延終了温度:880℃、巻取温度:650℃とする熱間圧延を施す熱延工程により、板厚4.0mmの熱延鋼帯(熱延板)とした。引き続き、これら熱延鋼帯(熱延板)を酸洗した後、表2に示す圧下率で1次冷間圧延を施す冷延工程により、冷延鋼帯(冷延板)とした。次いで、これら冷延鋼帯(冷延板)に、連続焼鈍ラインで表2に示す温度にて1次連続焼鈍を行った。引き続き、表2に示す圧下率で2次冷間圧延を施した。ここで、2次冷間圧延後の鋼板を実験室的に2次連続焼鈍をシミュレイトして、加熱速度5℃/sで焼鈍温度に加熱後すぐに400℃までの冷却速度を5℃/sとして冷却し、組織観察を行い、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織を得られかつ再結晶率が100%となり未再結晶組織が認められなくなる温度の下限温度(T)を求めた。なお、焼鈍温度としては、700℃から10℃ピッチで変更して上記調査を行った。求めた上記下限温度Tを表2に示す。
次いで、連続焼鈍ラインで2次連続焼鈍を施した。また、一部の鋼帯(表2の鋼板No.4)に関しては、1次冷間圧延、および1次焼鈍工程を省略し、1回冷延−1回焼鈍工程とした。さらに、得られたそれぞれの鋼帯(冷延焼鈍鋼板)には、伸び率:0.5%の調質圧延を施した。
【0069】
また、上記の方法で製造して得られた鋼帯から試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるフェライト相の面積率および第2相の種類と面積率を求めた。また、得られた鋼帯から、JIS5号引張試験片を採取して、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強さ(TS)、伸び(El)、降伏比(YR)を求めた。なお、YS、TS、El、YRは、圧延方向に対して垂直方向に引張試験を行った時の値である。またr値は、得られた鋼帯から採取したJIS 5号引張試験片を用いて、JIS Z 2254の規定に準拠して平均r値(平均塑性ひずみ比)を求め、これをr値とした。これらの結果を表2に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示す結果から、本発明例は、いずれも、目標とする、低い降伏比(YR≦70%)、高い伸び(El≧28%)および高いランクフォード値(r値≧1.3)を有し、深絞り成形性に優れた鋼板となっている。特に本発明例では、熱処理条件を規定し、2回冷延2回焼鈍工程を採用することで、1回冷延1回焼鈍工程を採用した場合よりも、r値が飛躍的に上昇し、高強度鋼板ながらr値1.3以上を確保できる。これに対し、本発明の範囲を外れる条件で製造した比較例では、ランクフォード値(r値)が低下しているか、あるいは、強度伸びバランスが低下した鋼板となっている。
【0073】
【発明の効果】
本発明によれば、強度伸びバランスに優れるとともに、深絞り成形性にも優れた冷延鋼板を、工程に対して低負荷で且つ安定して製造することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。本発明の冷延鋼板を自動車部品に適用した場合、プレス成形が容易で、自動車車体の軽量化に十分に寄与できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 VとNbの含有量とCの含有量との関係を表す比(V/51+Nb/93)/(C/12)がランクフォード値(r値)と強度伸びバランス(TS×El)に及ぼす影響を示した図である。
【図2】 一次焼鈍温度とランクフォード(r値)との関係を示した図である。
【図3】 本発明の2回冷延−2回焼鈍工程(本発明法)と、従来の1回冷延−1回焼鈍工程(従来法)とで製造した冷延鋼板について、トータル圧下率(%)がr値に及ぼす影響を示した図である。
Claims (3)
- 質量%で
C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%およびNb:0.001〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbとCとの含有量(質量%)が、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12
なる関係を満たす組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、その後、650〜780℃に加熱する焼鈍を施してから再び冷間圧延を施し、次いで、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上でかつ再結晶温度以上、950℃以下に加熱した後、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として冷却する焼鈍を施すことを特徴とする、深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法。 - 質量%で
C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、かつ、V、NbおよびTiとCとの含有量(質量%)が、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12
なる関係を満たす組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、その後、650〜780℃に加熱する焼鈍を施してから再び冷間圧延を施し、次いで、冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上でかつ再結晶温度以上、950℃以下に加熱した後、少なくとも400℃までは平均冷却速度5℃/s以上として冷却する焼鈍を施すことを特徴とする、深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法。 - 鋼スラブは、上記組成に加えてさらにMo:0.01〜0.5質量%を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法。
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