JP4173988B2 - 複数の金属を含む廃液の処理方法および有価金属の回収方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼板の酸洗廃液やめっき廃液等の複数の金属を含む廃液の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、鋼板の圧延や、鋼板やめっき鋼板の表面処理等を施す際には、前処理として酸洗処理やアルカリ処理を行い、鋼板の表面に生成したスケールの除去を行っている。
【0003】
この酸洗処理では、硫酸、硝酸、硝弗酸等を含む酸性の液を用いるため、鋼板の場合には、鋼板中の鉄、ニッケルなどの金属を溶解した酸性廃液が発生し、めっき鋼板の場合には、めっき液中に含まれるニッケルや亜鉛、母材中の鉄などの金属を溶解した廃液が発生する。
【0004】
この廃液は、酸又はアルカリ液を加えて中和処理を行った後、凝集剤を添加してシックナーなどの沈殿池を利用して金属水酸化物を沈殿させてスラリーとし、このスラリーを脱水してスラッジケーキに加工することによって処理される。従って、スラッジケーキ中には、鉄以外にニッケル、亜鉛などの金属水酸化物が含まれており、成分的にリサイクルが困難である。また、これらの金属水酸化物は、粒子が小さく沈降速度が遅いためスラッジケーキの含水量も高く、リサイクル使用する際、スラッジケーキの乾燥が必要になる。さらに、スラッジケーキの含水量が高いことから、多量に水を含んだ状態で搬送することになるため、輸送費用が増加する等の問題がある。
【0005】
これに対し、本発明者は、特願2001−268923号において、廃液の中和処理を複数段階に分けてpHの調整を行い、金属種類別に金属水酸化物を析出させることにより、金属水酸化物を金属種別に容易に分離回収する廃液の処理方法を提案している。また、中和処理後の廃液の攪拌をさらに行うことにより、析出した金属水酸化物の粒子同士を接触させて粒子径を大きくし、脱水の処理効率を高めて低水分量のスラッジにして有効利用を図る処理方法を提案している(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特願2001−268923号に記載された方法では、廃液中の鉄イオンの存在形態や、ニッケルイオンや亜鉛イオンの濃度によっては、金属水酸化物の粒子径を大きくできない場合があることが判明した。
【特許文献1】
特願2001−268923
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題を解決して、複数の金属イオンを含む廃液の処理方法、特に鉄イオン以外にニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンを含む酸性廃液の処理方法に関し、金属種類別に金属水酸化物を析出させ、さらに、金属水酸化物の粒子径を制御する処理方法、および有価金属の回収方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を解決するために、鉄イオン以外にニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンを含む酸性廃液の処理方法において、水酸化鉄(III )の粒子径を制御する処理方法について鋭意検討した結果、第1の処理槽において、酸性廃液のpHを3以上6未満に調整して3価鉄イオンを水酸化鉄(III )として析出させるステップで、第1の処理槽中の2価鉄イオン質量濃度を制御する、および/または、第1の処理槽に供給する廃液中の全鉄イオン質量濃度に対する2価鉄イオン質量濃度を制御し、この廃液を攪拌することにより、析出する水酸化鉄(III )の粒子径を制御できることを新たに発見した。また、第1の処理槽において、酸性廃液のpHを3以上6未満に調整して3価鉄イオンを水酸化鉄(III )として析出させるステップで、第1の容器内のpHコントロールや酸性廃液を希釈することにより、第1の反応槽内で析出する鉄イオンの質量に対する第1の容器内で析出するニッケルイオンおよび亜鉛イオン質量の比を制御し、この廃液を攪拌することにより、析出する水酸化鉄(III )の粒子径を制御できることを新たに発見した。
【0009】
すなわち、本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)複数の金属イオンとして2価鉄イオンまたは3価鉄イオンを含み、さらにニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンを含む酸性廃液を処理する方法であって、第1の反応槽で、酸性廃液を連続して第1の反応槽内に供給するとともに中和処理を行って、該廃液のpHを3以上6未満に調整するステップと、該廃液中に鉄酸化細菌を添加して、第1の反応槽内の2価鉄イオン濃度を20mg/L以下に調整するか、または、第1の反応槽内に供給する廃液中の全鉄イオンの質量濃度に対する第1の反応槽内の廃液中の2価鉄イオンの質量濃度の比を0.02以下に調整するステップと、第1の反応槽内に空気または酸素を吹き込んで、該廃液を攪拌するステップと、該廃液で生成した金属水酸化物粒子を固液分離し、液体部を第2の反応槽に供給するステップを行い、次いで、第2の反応槽で、第1の反応槽から連続して供給される廃液に中和処理を行って、該廃液のpHを6以上10以下に調整するステップと、第2の反応槽内に空気または酸素を吹き込んで、該廃液を攪拌するステップと、該廃液で生成した金属水酸化物粒子を固液分離し、液体部を系外に排出するステップを行い、前記鉄酸化細菌を添加するステップにおいて、第1の反応槽内で析出する鉄イオンの質量に対する前記第1の反応槽内で析出するニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンの質量の比を0.01以下にすることを特徴とする複数の金属を含む廃液の処理方法。
【0010】
(2)前記酸性廃液が、薄鋼板を酸洗処理した後の酸洗廃液または酸洗めっき廃液であることを特徴とする前記(1)に記載の方法。
【0011】
(3)前記第1の反応槽および前記第2の反応槽の酸性廃液中に好気性かつ従属栄養性の微生物を添加し、前記酸性廃液中の有機物を低減することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の方法。
【0015】
(4)前記固液分離操作において、分離膜を使用することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0016】
(5)分離膜の孔径を1〜100μmにしていることを特徴とする前記(4)に記載の方法。
【0017】
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の処理方法で析出した第1の反応槽内の鉄水酸化物および第2の反応槽内のニッケルおよび/または亜鉛の水酸化物をスラッジとしてそれぞれ回収することを特徴とする複数の金属を含む廃液中の有価金属の回収方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下に詳細に説明する。
本発明に係る酸性廃液の処理方法は、2価の鉄イオンまたは3価の鉄イオンを含み、かつ、ニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンを含む酸性廃液をその処理対象とする。
【0019】
本発明に係る酸性廃液の処理方法は、まず、第1の処理槽に酸性廃液を連続的に供給しながら、この処理槽中の廃液のpHを3以上6未満に調整して中和処理および攪拌を行うことにより、3価鉄イオンを水酸化鉄(III )として析出させる。ここで、pH3未満になると、酸性めっき廃液中の3価の鉄の金属水酸化物の析出が悪くなる。一方、pHが6以上になると、ニッケルや亜鉛の金属水酸化物が析出し易くなり、鉄を分離することができない。
【0020】
中和処理は、廃液中にアルカリ液を添加して行う。アルカリ液としては、苛性ソーダ、炭酸カルシウム、消石灰あるいは水酸化マグネシウム等が好ましい。
本発明に係る攪拌は、酸性廃液中に空気または酸素を吹き込むことにより行う。析出したばかりの3価鉄イオンを主体とする金属水酸化物は粒子が小さいが、攪拌および酸性廃液の連続的な供給により、析出したばかりの金属水酸化物に酸洗めっき廃液中に含まれる金属イオンとが接触して、金属水酸化物の表面にさらに金属イオンを析出させることや、金属水酸化物の粒子同士を結合させることができ、金属水酸化物の粒子径を制御することができる。この気体の吹き込み量は、反応槽の大きさにもよるが、反応槽の単位容積当り、0.003〜0.08Nm3/m3/分が好ましい。0.003Nm3/m3/分未満であると、析出した3価の金属水酸化鉄の粒子が沈降し反応槽底部に堆積し、0.08Nm3/m3/分超では送風に電力がかかりすぎ経済的でない。
【0021】
さらに、この処理工程において、第1の処理槽内の廃液中の2価鉄イオン質量濃度を150mg/L以下に調整することが好ましい。また、第1の処理槽に供給する廃液中の全鉄イオンの質量濃度に対する第1の処理槽内の廃液中の2価鉄イオンの質量濃度の比を0.12以下に調整することが好ましい。
【0022】
図1に、析出する水酸化鉄(III )の平均粒子径と第1の処理槽内の廃液中の2価鉄イオン質量濃度との関係、および、析出する水酸化鉄(III )の平均粒子径と第1の処理槽内に供給する廃液中の全鉄イオン質量濃度に対する2価鉄イオン質量濃度の比との関係を示す。廃液中の2価鉄イオン濃度が150mg/L以下、または、第1の処理槽に供給する廃液中の全鉄イオンの質量濃度に対する第1の処理槽内の廃液中の2価鉄イオンの質量濃度の比が0.12以下であれば、析出する水酸化鉄(III )の平均粒子径を2〜14μmに制御することが可能であり、平均粒子径が大きくなることで、その後の脱水処理における水酸化鉄(III )の脱水速度が上昇し、かつ、脱水スラッジケーキ中の間隙率が低下し、低含水率のスラッジを得ることが可能となる。さらに好ましくは、第1の処理槽内の廃液中の2価鉄イオン濃度が20mg/L以下、または、第1の処理槽に供給する廃液中の全鉄イオンの質量濃度に対する第1の処理槽内の廃液中の2価鉄イオンの質量濃度の比が0.02以下であれば、析出する水酸化鉄(III )の平均粒子径を10〜14μmに制御することが可能となり、平均粒子径が大きくなることで、その後の脱水処理における水酸化鉄(III )の脱水速度が上昇し、かつ、脱水スラッジケーキ中の間隙率が低下し、より含水率の低いスラッジを安定的に得ることが可能となる。
【0023】
この第1の処理槽内の廃液中の2価鉄イオン質量濃度を制御する方法としては、第1の処理槽またはその前段で廃液中に鉄酸化細菌を添加して、容器内で2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化する方法が挙げられる。鉄酸化細菌としては、中性領域で育成する糸状細菌や、酸性領域で育成する糸状細菌、非糸状細菌を用いることができる。例えば、一般に使用されている酸性領域で育成する非糸状細菌であって化学独立栄養細菌であるチオバチルス・フェロオキシダンス(Thiobachillus ferrooxidans)を用いることができる。
【0024】
図2には、廃液のpHと廃液中の金属イオンの残存比率(質量比)の関係を示すが、第1の処理槽における中和処理で、水酸化鉄(III )のほかに、2価鉄イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオンが水酸化物として微量析出する。本発明に係る処理方法では、第1の処理槽で析出する水酸化鉄(III )中の3価鉄イオンの質量に対する、前記第1の容器内で析出するニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンの質量の比を0.1以下に調整することにより、析出する水酸化鉄(III )の平均粒子径を制御することができる。さらに、前記比を0.01以下に調整することにより、より平均粒子径の大きな水酸化鉄(III )を析出することが可能となるため、より好ましい。また、前記比を制御することにより、水酸化鉄(III )中のニッケルや亜鉛の含有量を低減することが可能となる。
【0025】
図3には、3価鉄イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオンが存在する酸性廃液のpHを3以上6未満に調整して中和処理を行った場合の、析出した3価鉄イオン質量に対する析出したニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンの質量の比と、金属水酸化物の平均粒子径の関係を示すが、析出した3価鉄イオン質量に対する析出したニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンの質量の比が0.1以下であれば、金属水酸化物の平均粒子径が2〜14μmとなることがわかる。さらに、前記比が0.01以下であれば、金属水酸化物の平均粒子径は10〜14μmとなることがわかる。つまり、第1の処理槽内のpH制御値を調整したり、第1の処理槽へ供給する酸性廃液を希釈することで、析出した3価鉄イオン質量に対する析出したニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンの質量の比を制御し、その結果、平均粒子径を制御することができる。
【0026】
第1の処理槽内で大きくなった3価鉄イオンの金属水酸化物粒子は、沈降分離操作、遠心分離操作、濾過操作などの固液分離処理によって濾液と分離され、分離されたスラリーは、脱水機により脱水することで、低含水率のスラッジを得ることができる。
【0027】
前記処理の後、固液分離操作で分離した液体部を第2の処理槽に供給し、第2の処理槽で廃液のpHを6以上10以下に調整して中和処理および攪拌を行い、水酸化鉄(II)および、水酸化ニッケルおよび/または水酸化亜鉛を析出させる。中和処理は、廃液中にアルカリ液を添加して行う。アルカリ液としては、苛性ソーダ、あるいは消石灰等が好ましい。
【0028】
第2の処理槽内における攪拌は、第1の処理槽からの廃液中に空気または酸素を吹き込むことにより行う。析出したばかりの水酸化ニッケルおよび/または水酸化亜鉛を主体とする金属水酸化物は粒子が小さいが、攪拌および第1の処理槽からの濾液の連続的な供給により、析出したばかりの金属水酸化物に第1の処理槽からの廃液中に含まれる金属イオンとが接触して、金属水酸化物の表面にさらに金属イオンを析出させることや、金属水酸化物の粒子同士を結合させることができ、金属水酸化物の粒子径を制御することができる。この気体の吹き込み量は、反応槽の大きさにもよるが、反応槽の単位容積当り、0.003〜0.2Nm3/m3/分が好ましい。0.003Nm3/m3/分未満であると、析出した金属水酸化物の粒子が沈降し反応槽底部に堆積し、0.2Nm3/m3/分超では送風に電力がかかりすぎ経済的でない。
【0029】
第2の処理槽で大きくなった金属水酸化物は、沈降分離操作、遠心分離操作、濾過操作などの固液分離処理によって流体部と分離され、分離されたスラリーは、脱水機等により脱水することで、低含水率のスラッジを得ることができる。
【0030】
続いて、本発明を具体化した実施の形態について説明する。
図4には、本発明に係る酸性廃液の処理装置の一例を示す。
図4に示すように、本発明の一実施の形態に係る複数の金属を含む廃液の処理方法に適用される廃液処理装置10は、例えば、薄鋼板を硫酸、硝酸、硝弗酸等の酸液で酸洗処理した後の廃液の一例である酸洗廃液や、表面処理した後のめっき廃液からなる酸洗めっき廃液11を一旦貯蔵する廃液タンク12と、廃液タンク12からポンプ13を介して酸洗めっき廃液11を受け入れて中和処理する第1の処理槽の一例である第1の廃液処理槽16と、苛性ソーダ、炭酸カルシウム、消石灰あるいは水酸化マグネシウム等の中和剤を入れたアルカリ液タンク14と、アルカリ液を第1の廃液処理槽16に添加するためのポンプ15と、第1の廃液処理槽16の出側に設けられた第1の廃液処理槽16で処理された後の廃液を吸引して圧送するポンプ17とを有している。
【0031】
第1の廃液処理槽16には、酸洗めっき廃液11のpHを測定するpH計21と、第1の廃液処理槽16内の余剰水を濾過する分離膜の一例である膜モジュール22が取り付けられている。膜モジュール22は、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル、ポリビニールアルコール等からなる素材を用い、孔径が1〜100μmで、膜モジュール22の内部には、処理後の廃液を吸引するポンプ17が連通している。孔径が1μmより小さくなると、金属水酸化物の細かい粒子が詰まって濾過速度が著しく低下する。一方、孔径が100μmより大きくなると、分離膜の孔をそのまま通過する粒子が増加し、金属水酸化物の回収効率が低下する。さらに、図示しない圧縮気体源に連通した供給管23に接続された多数の吹き出し孔24aから気体を吹き込み、第1の廃液処理槽16内の廃液を攪拌する圧縮気体ヘッダ24が取り付けられている。圧縮気体としては、空気または酸素が好ましい。またさらに、第1の廃液処理槽16の底部には、析出した水酸化鉄を排出するスラッジ排出管25を備えている。
【0032】
また、第2の廃液処理槽20には、第1の廃液処理槽16で処理された後の廃液に添加する苛性ソーダまたは消石灰等の中和剤を入れたアルカリ液タンク18と、このアルカリ液を第2の廃液処理槽20に添加するためのポンプ19が備えられており、さらに廃液のpHを測定するpH計26と、第2の廃液処理槽20内の余剰水を濾過する分離膜の一例である膜モジュール27が取り付けられている。膜モジュール27は、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル、ポリビニールアルコール等からなる素材を用い、孔径が1〜100μmで、膜モジュール27の内部には、処理後の廃液を吸引するポンプ28が連通している。孔径が1μmより小さくなると、金属水酸化物の細かい粒子が詰まって濾過速度が著しく低下する。一方、孔径が100μmより大きくなると、分離膜の孔をそのまま通過する粒子が増加し、金属水酸化物の回収効率が低下する。さらに、図示しない圧縮気体源に連通した供給管23に接続された多数の吹き出し孔29aから気体を吹き込み、第2の廃液処理槽20内の廃液を攪拌する圧縮気体ヘッダ29が取り付けられている。圧縮気体としては、空気または酸素が好ましい。またさらに、第2の廃液処理槽20の底部には堆積した金属水酸化物の沈殿物を排出するスラッジ排出管30を備えている。
【0033】
次に、図4に基づいて、本発明の一実施の形態に係る複数の金属を含む廃液の処理方法について説明する。
薄鋼板を酸洗処理した後の酸洗廃液やめっき廃液からなる酸洗めっき廃液11を貯蔵した廃液タンク12に連結したポンプ13を作動して、酸洗めっき廃液11を第1の廃液処理槽16内に6〜3000m3/hで連続して供給を行う。6m3/h未満の場合は、対象水量が小さく、本発明を実施する投資額に対してメリットが小さく経済的でない。一方、6〜3000m3/h超の場合は、固液分離装置が大きくなりすぎ固液分離装置の安定的な操業が維持できない。一般的な酸洗めっき廃液11は、pHが2以下で、Fe、Zn、Ni等の金属を総量で0.01〜1質量%溶解しており、これらの金属は金属イオンとして存在している。
【0034】
第1の廃液処理槽16内には、酸洗めっき廃液11を連続して供給するとともに、第1回目の中和処理として、アルカリ液タンク14に連通したポンプ15を作動して、NaOH、Ca(OH)2やMg(OH)2溶液からなるアルカリ液を添加して、酸洗めっき廃液11のpHを3以上6未満の範囲に調整する。ここで、pH3未満になると、酸性めっき廃液中の3価の鉄の金属水酸化物の析出が悪くなる。一方、pHが6以上になると、ニッケルや亜鉛の金属水酸化物が析出し易くなり、鉄の金属水酸化物を分離することができない。この第1回目の中和処理によって、図2に示すように、3価鉄イオンを主体とした金属水酸化物が析出し、酸洗めっき廃液11中から3価鉄イオンを分離することができる。
【0035】
第1の廃液処理槽16には、圧縮気体ヘッダ24の吹き出し孔24aから空気または酸素を吹き込み、第1の廃液処理槽16内の酸性めっき廃液11を攪拌する。析出したばかりの3価鉄イオンを主体とする金属水酸化物は粒子が小さいが、攪拌および酸性めっき廃液の連続的な供給により、析出したばかりの金属水酸化物に酸洗めっき廃液中に含まれる金属イオンとが接触して、金属水酸化物の表面にさらに金属イオンを析出させることや、金属水酸化物の粒子同士を結合させることができ、金属水酸化物の粒子径を制御することができる。この圧縮気体ヘッダ24の吹き出し孔24aから供給する空気または酸素の量は、反応槽の大きさにもよるが、反応槽の単位容積当り、0.003〜0.08Nm3/m3/分が好ましい。0.003Nm3/m3/分未満であると、析出した3価の金属水酸化鉄の粒子が沈降し反応槽底部に堆積し、0.08Nm3/m3/分超では送風に電力がかかりすぎ経済的でない。
【0036】
第1の廃液処理槽16内には、酸性領域で生育する非糸状細菌である前述の鉄酸化細菌を添加して、鉄イオンの内の2価鉄イオンを3価に酸化し、水酸化鉄(III )を生成しやすくする。この反応は、鉄酸化細菌の反応活性が高いpH3以上6未満が好ましい。ここで、第1の廃液処理槽16内の酸性めっき廃液の2価鉄イオンを150mg/L以下に調整することが好ましい。最も好ましくは20mg/L以下である。もしくは、第1の廃液処理槽16内へ供給する酸洗めっき廃液11の全鉄イオン質量濃度に対する第1の廃液処理槽16内の廃液中の2価鉄イオン質量濃度の比を0.12以下に調整することが好ましい。最も好ましくは0.02以下である。前述のように、この条件で、析出する水酸化鉄(III )の平均粒子径を2〜14μm、前記条件がさらに好ましい範囲であれば10〜14μmに制御することが可能となり、水酸化鉄(III )の脱水性をより向上させることができる。なお、ここで析出した金属水酸化物が、鉄酸化細菌の担体として作用するため、鉄酸化細菌は第1の廃液処理槽16内に長時間にわたり滞留させることができ、2価鉄イオンの3価鉄イオンへの酸化反応を安定して連続的に行うことができる。
【0037】
また、第1の廃液処理槽16内で析出する3価鉄イオンの質量に対するニッケルイオンおよび亜鉛イオンの質量の比を0.1以下に調整することが好ましい。最も好ましくは0.01以下である。前述のように、この条件で、析出する水酸化鉄(III )の平均粒子径を2〜14μm、前記条件がさらに好ましい範囲であれば10〜14μmに制御することが可能となり、水酸化鉄(III )の脱水性をより向上させることができるとともに、ニッケルや亜鉛の含有量を低減させることができる。
【0038】
第1の廃液処理槽16の出側には吸引ポンプ17を配置し、吸引ポンプ17を作動して膜モジュール22内を負圧に吸引して廃液を濾過し、ニッケルや亜鉛等の金属イオンを含む濾過液を第2の廃液処理槽20に供給する。濾過廃液排出後の第1の廃液処理槽16内の金属水酸化物は、固形分として3〜50%にすることができ、スラッジ排出管25から排出される。
【0039】
次に、第2の廃液処理槽20内には、第1の廃液処理槽で処理された酸性めっき廃液を連続して供給するとともに、第2回目の中和処理として、アルカリ液タンク18に連通したポンプ19を作動して、NaOHやCa(OH)2溶液からなるアルカリ液を添加して、酸性めっき廃液のpHを6以上10以下の範囲に調整する。この中和処理によって、ニッケルおよび/または亜鉛を主体とする金属水酸化物が析出する。図2に示すように、pH6以上にすることでニッケル、亜鉛および残存する2価の鉄イオンは析出し、pH10以上でほぼ全量析出することができる。
【0040】
第2の廃液処理槽20には、圧縮気体ヘッダ29の吹き出し孔29aから空気または酸素を吹き込み、第2の廃液処理槽20内の廃液を攪拌する。析出したばかりの金属水酸化物は粒子が小さいが、攪拌および酸性めっき廃液の連続的な供給により、析出したばかりの金属水酸化物に廃液中に含まれる金属イオンが接触して、金属水酸化物の表面にさらに金属イオンを析出させることや、金属水酸化物の粒子同士を結合させることができ、金属水酸化物の粒子径を制御することができる。この圧縮気体ヘッダ29の吹き出し孔29aから供給する空気または酸素の量は、反応槽の大きさにもよるが、反応槽の単位容積当り、0.003〜0.2Nm3/m3/分が好ましい。0.003Nm3/m3/分未満であると、析出した金属水酸化物の粒子が沈降し反応槽底部に堆積し、0.2Nm3/m3/分超では送風に電力がかかりすぎ経済的でない。
【0041】
第2の廃液処理槽20の出側には吸引ポンプ28を配置し、吸引ポンプ28を作動して膜モジュール27内を負圧に吸引して廃液を濾過する。濾過廃液排出後の金属水酸化物は、固形分として3〜50%にすることができ、スラッジ排出管30から排出される。
【0042】
第1および第2の廃液処理槽から排出されるスラリーは、それぞれ脱水されて、スラッジケーキに加工する。脱水方法としては、フィルタープレス、真空脱水機、遠心脱水機などの脱水機を使用して脱水する方法や天日乾燥によって脱水する方法がある。この脱水されたスラッジケーキは、それぞれ資源として有効活用することができる。
【0043】
なお、前述の第1および第2の廃液処理槽内の酸性めっき廃液中に、液中の有機物や油脂等のCOD(化学的酸素要求量)成分を分解する好気性かつ従属栄養性の微生物を添加し、金属水酸化物析出過程においてCOD成分の分解を行うことにより、濾過水中に含まれる有機物や油脂等を低減することができる。
【0044】
またさらに、前述の第1および第2の廃液処理槽内の酸性めっき廃液中に凝集剤を添加して、金属水酸化物の粒子の形成・粗大化の促進と、各槽に設置された膜モジュールの目詰まりの低減を図ることができる。この凝集剤は、高分子凝集剤がよく、その添加量は、単位固形物量当り、0.02〜1mg/mg−固形物である。0.02mg/mg−固形物未満では、凝集効果は現れず、1mg/mg−固形物超を添加しても、その凝集効果は向上しない。
【0045】
各槽の膜モジュールの目詰まりは、酸性めっき廃液中に凝集剤を添加することで低減することができるが、各槽の膜モジュールの下方に設置された圧縮気体ヘッダから空気または酸素を吹き込むことで、膜モジュール表面に付着した金属水酸化物を簡単に除去することができる。また、各膜モジュールの内部に連結された配管を通じて、空気、水、酸溶液または中和処理を行っていない酸性めっき廃液を膜モジュール内に供給することにより、目詰まりした金属水酸化物を除去することもできる。
【0046】
【実施例】
(実施例)
次に、本発明の複数の金属を含む酸性廃液の処理方法の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例は、実廃水と相関関係を取りながら、室内実験で行った実施例である。酸洗めっき模擬廃液として、表1に示す有機物態炭素、2価鉄イオン、3価鉄イオン、ニッケルイオン、および亜鉛イオンを含む溶液を使用し、図4の処理装置を用いて、この酸洗めっき模擬廃液の処理を行った。第1の廃液処理槽及び第2の廃液処理槽の容量はともに3Lである。
【0047】
【表1】
酸洗めっき模擬廃液を第1の廃液処理槽16に20mL/分で連続的に供給するとともに苛性ソーダ水溶液を第1の廃液処理槽16内に添加して、第1の廃液処理槽16内の酸洗めっき模擬廃液のpHを4に中和処理し、さらに、第1の廃液処理槽16の底部に設置した圧縮気体ヘッダ24の吹き出し孔24aから空気を0.5NL/分で吹き込んで、第1の廃液処理槽16内の攪拌を行った。第1の廃液処理槽16内には予め鉄酸化細菌と好気性かつ従属栄養性の微生物を投入している。第1の廃液処理槽16内に投入された酸洗めっき模擬廃水中の2価の鉄イオンは、鉄酸化細菌によって3価の鉄イオンにほぼ全量酸化され、酸洗めっき模擬廃液中に含まれていた鉄イオンが金属水酸化物として析出した。さらに、その析出した金属水酸化物表面上に鉄イオンが金属水酸化物として析出したり、粒子間に金属水酸化物が析出することで、粒子径を大きくした。また、好気性かつ従属栄養性の微生物は有機物を餌として増殖し、有機物態炭素濃度を下げた。第1の廃液処理槽16で余剰となった液部分は、膜モジュール22で固液分離し、濾過液はポンプ17で吸引した。濾過液中には、酸洗めっき模擬廃液中と同程度の亜鉛イオンやニッケルイオンが含まれており、第1の廃液処理槽16内では亜鉛イオンとニッケルイオンはほとんど析出していない。一方、第1の廃液処理槽16内のスラリーは一部、引き抜き0.098MPaの加圧力を有する脱水機で脱水した。
【0048】
次に、第1の廃液処理槽16からの濾過液を、第2の廃液処理槽20に供給するとともに苛性ソーダ水溶液を第2の廃液処理槽20内に添加して、第2の廃液処理槽20内のpHを8.5に中和処理し、さらに第2の廃液処理槽20の底部に設置した圧縮気体ヘッダ29の吹き出し孔29aから空気を0.5NL/分で吹き込んで、第2の廃液処理槽20内の攪拌を行った。第2の廃液処理槽20内には予め好気性かつ従属栄養性の微生物を投入している。第1の廃液処理槽16からの濾過液中に含まれる亜鉛イオンおよびニッケルイオンは、金属水酸化物として析出した。さらに、その析出した金属水酸化物表面上に亜鉛イオンおよびニッケルイオンが金属水酸化物として析出したり、粒子間に金属水酸化物が析出することで、粒子径を大きくした。また、好気性かつ従属栄養性の微生物は有機物を餌として増殖し、有機物態炭素濃度を下げた。第2の廃液処理槽20で余剰となった液部分は、膜モジュール27で固液分離し、濾過液はポンプ28で吸引し処理水として放出した。一方、第1の廃液処理槽20内のスラリーは一部、引き抜き0.098MPaの加圧力を有する脱水機で脱水した。
【0049】
この際の第1の廃液処理槽16からの濾過水質、第2の廃液処理槽20からの濾過水質を表1に、第1の廃液処理槽16内および第2の廃液処理槽20内における粒子径と脱水後のスラッジケーキの成分を表2に示す。
【0050】
【表2】
以上のように、室内実験レベルではあるが、実廃水と相関させた実験であり、この実験結果は、スラッジリサイクル上、望ましい結果であり、実廃水と何ら相違ないものと考える。
【0051】
【発明の効果】
本発明の複数の金属を含む廃液の処理方法では、析出する金属水酸化物の粒子径を制御することが可能であり、これにより、低水分含有率のスラッジケーキを得ることができる。さらに、鉄をニッケルおよび亜鉛と分離して回収できるため、有価金属の有効利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸性廃液中に2価鉄イオン、ニッケルイオン、および亜鉛イオンが存在する場合の、定常状態における金属水酸化物の平均粒子径と第1の廃液処理槽内の廃液中の2価鉄イオン質量濃度との関係、および、定常状態における金属水酸化物の平均粒子径と第1の処理槽に供給する廃液中の全鉄イオンの質量濃度に対する第1の処理槽内の廃液中の2価鉄イオンの質量濃度の比との関係を示した図である。
【図2】廃液のpHと廃液中の金属イオンの残存比率(質量比)の関係を示した図である。
【図3】酸性廃液中に鉄イオンとして3価の鉄イオンのみが存在し、かつ、ニッケルイオンと亜鉛イオンが存在した場合に、第1の反応槽内で析出した全鉄イオン質量濃度に対する第1の反応槽内で析出したニッケルイオンと亜鉛イオンの質量の和の比と、第1の反応槽内で析出した金属水酸化物の平均粒子径との関係を示した図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る複数の金属を含む酸性廃液の処理方法に適用される廃液処理装置の概要図である。
【符号の説明】
10…廃液処理装置
11…酸洗めっき廃液
12…廃液タンク
13…ポンプ
14…アルカリ液タンク
15…ポンプ
16…第1の廃液処理槽
17…ポンプ
18…アルカリ液タンク
19…ポンプ
20…第2の廃液処理槽
21…pH計
22…膜モジュール
23…供給管
24…圧縮気体ヘッダ
24a…吹き出し孔
25…スラッジ排出管
26…pH計
27…膜モジュール
28…廃液ポンプ
29…圧縮気体ヘッダ
29a…吹き出し孔
30…スラッジ排出管
Claims (6)
- 複数の金属イオンとして2価鉄イオンまたは3価鉄イオンを含み、さらにニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンを含む酸性廃液を処理する方法であって、
第1の反応槽で、
酸性廃液を連続して第1の反応槽内に供給するとともに中和処理を行って、該廃液のpHを3以上6未満に調整するステップと、
該廃液中に鉄酸化細菌を添加して、第1の反応槽内の2価鉄イオン濃度を20mg/L以下に調整するか、または、第1の反応槽内に供給する廃液中の全鉄イオンの質量濃度に対する第1の反応槽内の廃液中の2価鉄イオンの質量濃度の比を0.02以下に調整するステップと、
第1の反応槽内に空気または酸素を吹き込んで、該廃液を攪拌するステップと、
該廃液で生成した金属水酸化物粒子を固液分離し、液体部を第2の反応槽に供給するステップ
を行い、
次いで、第2の反応槽で、
第1の反応槽から連続して供給される廃液に中和処理を行って、該廃液のpHを6以上10以下に調整するステップと、
第2の反応槽内に空気または酸素を吹き込んで、該廃液を攪拌するステップと、
該廃液で生成した金属水酸化物粒子を固液分離し、液体部を系外に排出するステップ
を行い、
前記鉄酸化細菌を添加するステップにおいて、第1の反応槽内で析出する鉄イオンの質量に対する前記第1の反応槽内で析出するニッケルイオンおよび/または亜鉛イオンの質量の比を0.01以下にする
ことを特徴とする複数の金属を含む廃液の処理方法。 - 前記酸性廃液が、薄鋼板を酸洗処理した後の酸洗廃液または酸洗めっき廃液であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
- 前記第1の反応槽および前記第2の反応槽の酸性廃液中に好気性かつ従属栄養性の微生物を添加し、前記酸性廃液中の有機物を低減することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
- 前記固液分離操作において、分離膜を使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 前記分離膜の孔径を1〜100μmにしていることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の方法で析出した第1の反応槽内の鉄水酸化物および第2の反応槽内のニッケルおよび/または亜鉛の水酸化物をスラッジとしてそれぞれ回収することを特徴とする複数の金属を含む廃液中の有価金属の回収方法。
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