JP4171918B2 - 圧電体膜積層体およびその製造方法、表面弾性波素子、周波数フィルタ、発振器、電子回路、並びに、電子機器 - Google Patents

圧電体膜積層体およびその製造方法、表面弾性波素子、周波数フィルタ、発振器、電子回路、並びに、電子機器 Download PDF

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Description

本発明は、圧電体膜積層体およびその製造方法、表面弾性波素子、周波数フィルタ、発振器、電子回路、並びに、電子機器に関する。
携帯電話などの移動体通信を中心とした通信分野の著しい発展に伴い、表面弾性波素子の需要が急速に拡大している。表面弾性波素子の開発の方向としては、小型化、高効率化、高周波化の方向にある。そのためには、より大きな電気機械結合係数(k)、より安定な温度特性、より大きな表面弾性波伝播速度、が必要となる。例えば表面弾性波素子を高周波フィルタとして用いる場合には、損失の小さく帯域幅の広い通過帯域を得るためには高い電気機械結合係数が望まれる。共振周波数を高周波化するためには、インターディジタル型電極(Inter−Digital Transducer)のピッチのデザインルールの限界からしても、より音速の速い材料が望まれている。さらに、使用温度領域での特性の安定化を得るためには、中心周波数温度係数(TCF)が小さいことが必要となる。
表面弾性波素子は、従来、主として圧電体の単結晶上にインターディジタル型電極を形成した構造が用いられてきた。圧電単結晶の代表的なものとしては、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)などがある。例えば、広帯域化や通過帯域の低損失化が要求されるRFフィルタの場合には、電気機械結合係数の大きいLiNbOが用いられる。一方、狭帯域でも安定な温度特性が必要なIFフィルタの場合は、中心周波数温度係数の小さい水晶が用いられる。さらに、電気機械結合係数および中心周波数温度係数がそれぞれLiNbOと水晶の間にあるLiTaOはその中間的な役割を果たしている。ただし、電気機械結合係数の最も大きいLiNbOでも、電気機械結合係数は20%程度であった。
最近、ニオブ酸カリウム(KNbO)(a=0.5695nm、b=0.5721nm、c=0.3973nm、以下斜方晶としては本指数表示に従う)単結晶において、大きな電気機械結合係数の値を示すカット角が見出された。Eletron.Lett.Vol.33(1997)193.に記載されているように、0°YカットX伝播(以下、「0°Y−X」という)KNbO単結晶板は、電気機械結合係数が53%と非常に大きな値を示すことが計算によって予測された。さらに、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.37(1998)2929.に記載されているように、0°Y−XKNbO単結晶板は電気機械結合係数が50%の大きな値を示すことが実験でも確認され、45°から75°までの回転Y−XKNbO単結晶基板を用いたフィルタの発振周波数が、室温付近で零温度特性を示すことが報告されている。これらの0°Y−Xを含めた回転Y−XKNbO単結晶板は、特開平10−65488号公報に記載されている。
圧電単結晶基板を用いた表面弾性波素子では、電気機械結合係数、温度係数、音速などの特性は材料固有の値であり、カット角および伝播方向で決定される。0°Y−XKNbO単結晶基板は電気機械結合係数に優れるが、45°から75°までの回転Y−XKNbO単結晶基板のような零温度特性は室温付近において示さない。また、伝播速度は同じペロブスカイト型酸化物であるSrTiOやCaTiOに比べて遅い。このように、KNbO単結晶基板を用いるだけでは、高音速、高電気機械結合係数、零温度特性を全て満足させることはできない。
そこで、何らかの基板上に圧電体薄膜を堆積し、その膜厚を制御して、音速や電気機械結合係数、温度特性を向上させることが期待される。Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)2337.に記載されているようなサファイア基板上に酸化亜鉛(ZnO)薄膜を形成したもの、あるいはJpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)L745.に記載されているようなサファイア基板上にLiNbO薄膜を形成したものなどが挙げられる。従って、KNbOについても、基板上に薄膜化して、諸特性を全て向上させることが期待される。
ここで圧電薄膜としては、その電気機械結合係数、温度特性を引き出すために最適な方向に配向することが望ましく、リーキー波伝播に伴う損失をなるべく小さくするためには、平坦で緻密なエピタキシャル膜であることが望ましい。電気機械結合係数が50%のY−XKNbOは、擬立方晶(100)に相当し、電気機械結合係数が10%の90°Y−XKNbOは、擬立方晶(110)に相当する。従って例えば、SrTiO(100)あるいは(110)単結晶基板を用いることで、電気機械結合係数が50%のY−XKNbO薄膜あるいは電気機械結合係数が10%の90°Y−XKNbO薄膜を得ることが期待される。
しかし、現在のところ、ニオブ酸カリウムの単相薄膜、ならびにY−Xエピタキシャルニオブ酸カリウム薄膜を大面積の絶縁体基板上に作製することができていない。
特開平10−65488号公報 Eletron.Lett.Vol.33(1997)193. Jpn.J.Appl.Phys.Vol.37(1998)2929. Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)2337. Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)L745.
本発明の目的は、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜とニオブ酸カリウム膜とが積層された圧電体膜積層体、およびその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記表面弾性波素子を含む周波数フィルタ、発振器、電子回路、および、電子機器を提供することにある。
本発明に係る圧電体膜積層体は、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜と、ニオブ酸カリウム膜とが積層されている。
本発明に係る圧電体膜積層体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、正方晶(110)または(101)配向で、あるいは菱面体晶(110)配向で、エピタキシャル成長しており、
前記ニオブ酸カリウム膜は、斜方晶の指数を21/2b<a<cと定義するとき、斜方晶(111)、(100)または(001)配向で、エピタキシャル成長していることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜および前記ニオブ酸カリウム膜は、面内で2回対称性を有することができる。
本発明に係る圧電体膜積層体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、5モル%以上、30モル%以下のニオブを含むことができる。
本発明に係る圧電体膜積層体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、さらに、0.5モル%以上のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むことができる。
本発明に係る圧電体膜積層体において、さらに、前記ニオブ酸カリウム膜の上に他のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を有することができる。
本発明に係る圧電体膜積層体において、サファイア基板の上に、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜とニオブ酸カリウム膜とがこの順序で形成されていることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体において、前記サファイア基板は、R面(1−102)であることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、正方晶(110)配向のときの[001]軸、正方晶(101)配向のときの[010]軸、あるいは菱面体晶(110)配向のときの[001]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行であることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体において、前記ニオブ酸カリウム膜は、斜方晶(111)配向のときの[10−1]軸、斜方晶(100)または(001)配向のときの[010]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行であることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体は、前記ニオブ酸カリウム膜の代わりに、ニオブ酸カリウム固溶体膜を有することができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法は、
サファイア基板を準備する工程と、
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を形成するための前駆体を含む前駆体組成物であって、前記前駆体は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムを含み、かつ一部にエステル結合を有する、前駆体組成物を準備する工程と、
前記サファイア基板上に、前記前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を形成する工程と、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜の上に、ニオブ酸カリウム膜を形成する工程と、
を含む。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記前駆体は、さらに鉛を含むことができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記前駆体組成物は、前記前駆体が有機溶媒に溶解もしくは分散されていることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記有機溶媒は、アルコールであることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、
前記前駆体組成物は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムの金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合して得られ、
前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を含むことができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルは、2価のカルボン酸またはカルボン酸エステルであることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記2価のカルボン酸エステルは、コハク酸エステル、マレイン酸エステルおよびマロン酸エステルから選択される少なくとも1種であることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに金属カルボン酸塩を用いたゾルゲル原料を含むことができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記金属カルボン酸塩は、鉛のカルボン酸塩であることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに有機金属化合物を含むことができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらにシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むゾルゲル原料を用いることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記ゾルゲル原料として、少なくともPbZrO用ゾルゲル溶液、PbTiO用ゾルゲル溶液、およびPbNbO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法において、前記ゾルゲル原料として、さらにPbSiO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いることができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法は、さらに、前記ニオブ酸カリウム膜の上に、前記前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより、他のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を形成する工程を有することができる。
本発明に係る圧電体膜積層体の製造方法は、前記ニオブ酸カリウム酸の代わりに、ニオブ酸カリウム固溶体膜を形成する工程を有することができる。
本発明に係る表面弾性波素子は、本発明の圧電体膜積層体を有する。
本発明に係る周波数フィルタは、本発明の表面弾性波素子を有する。
本発明に係る発振器は、本発明の表面弾性波素子を有する。
本発明に係る電子回路は、本発明の周波数フィルタおよび前述の発振器のうちの少なくとも一方を有する。
本発明に係る電子機器は、本発明の電子回路を有する。
以下、本発明に好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
1.第1の実施形態
1.1. 図1(C)は、本実施形態に係る圧電体膜積層体100を模式的に示す断面図である。
図1(C)に示すように、本実施形態に係る圧電体膜積層体100は、基板11と、基板11上に形成された、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12とニオブ酸カリウム膜13との圧電体膜積層体と、を含むことができる。
基板11としては、R面サファイア基板を用いることができる。R面サファイア基板を用いることは、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12をエピタキシャル成長させることができる点、大面積基板を安価に入手できる点、さらに、エッチング液への耐性があり、繰り返して利用できる点で好ましい。
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zn,Ti,Nb)O(以下、「PZTN」ともいう)膜12は、結晶構造の特徴として、後述する実施例からも明らかなように、正方晶(110)または(101)配向で、あるいは菱面体晶(110)配向で、エピタキシャル成長している。さらに、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、面内で2回対称性を有する。すなわち、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、従来の膜では得られなかった単結晶構造を有し、さらに、2回対称性を有することから、分極処理等によりあるいは自発的に、異なったドメインを有さないシングルドメイン構造を有する。
また、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、正方晶(110)配向のときの[001]軸、正方晶(101)配向のときの[010]軸、あるいは菱面体晶(110)配向のときの[001]軸は、それぞれサファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。
ニオブ酸カリウムKNbO膜13は、結晶構造の特徴として、後述する実施例からも明らかなように、斜方晶の指数を21/2b<a<cと定義するとき、斜方晶(111)、(100)または(001)配向で、エピタキシャル成長している。さらに、ニオブ酸カリウム膜13は、面内で2回対称性を有する。すなわち、ニオブ酸カリウム膜13は、単結晶構造を有し、さらに、2回対称性を有することから、分極処理等によりあるいは自発的に、異なったドメインを有さないシングルドメイン構造を有する。
また、ニオブ酸カリウム膜13は、斜方晶(111)配向のときの[10−1]軸、斜方晶(100)または(001)配向のときの[010]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。
本実施形態では、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12が配向制御性を有するバッファ層として機能し、ニオブ酸カリウム膜13がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上にエピタキシャル成長することによって、上述した結晶特性を有すると考えられる。
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、組成の特徴として、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、30モル%以下のニオブを含むことができる。また、本実施形態に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、5モル%以下のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むことができる。
以下に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12がニオブを含むことによる特徴について述べる。
ニオブは、チタンとサイズがほぼ同じで(イオン半径が近く、原子半径は同一である)、重さが2倍あり、格子振動による原子間の衝突によっても格子から原子が抜けにくい。また原子価は、+5価で安定であり、たとえ鉛が抜けても、Nb5+により鉛抜けの価数を補うことができる。また結晶化時に、鉛抜けが発生したとしても、サイズの大きな酸素が抜けるより、サイズの小さなニオブが入る方が容易である。
また、ニオブは+4価も存在するため、Ti4+の代わりは十分に行うことが可能である。更に、ニオブは共有結合性が非常に強く、鉛も抜け難くなっていると考えられる(H.Miyazawa,E.Natori,S.Miyashita;Jpn.J.Appl.Phys.39(2000)5679)。
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(PZTN)膜12によれば、ニオブを前述した特定の割合で含むことにより、鉛の欠損による悪影響を解消し、優れた組成制御性を有する。その結果、PZTNは、通常のPb(Zr,Ti)O(PZT)に比べて極めて良好な電気機械結合係数、圧電性および絶縁性などを有する。
これまでも、PZTへのニオブのドーピングは、主にZrリッチの稜面体晶領域で行われてきたが、その量は、0.2〜0.025モル%(J.Am.Ceram.Soc,84(2001)902;Phys.Rev.Let,83(1999)1347)程度と、極僅かなものである。このようにニオブを多量にドーピングすることができなかった要因は、ニオブを例えば10モル%添加すると、結晶化温度が800℃以上に上昇してしまうことによるものであったと考えられる。
PZTN膜に、更にシリコンを例えば、0.5〜5モル%の割合で添加することが好ましい。これによりPZTNの結晶化エネルギーを低減させることができる。すなわち、ニオブの添加とともに、シリコンを添加することでPZTNの結晶化温度の低減を図ることができる。また、シリコンの代わりに、シリコンとゲルマニウムを用いることもできる。
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12の膜厚は、特に限定されず、ニオブ酸カリウム膜13がエピタキシャル成長するのに十分であればよく、例えば10nmないし100nmであることができる。また、ニオブ酸カリウム膜13の膜厚も特に限定されず、圧電体膜積層体100が適用されるデバイスに応じて選択され、例えば100nmないし100μmであることができる。
以上のように、本実施形態に係る圧電体膜積層体を構成する、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13は、エピタキシャル成長した単結晶であって、しかも分極処理等によりおよび自発的にシングルドメイン構造を有するので、ドメインバウンダリーが存在しない。したがって、このニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13は、結晶粒界におけるエネルギー損失が小さく、そのため表面弾性波の伝播損失が小さく、結果として電気機械結合係数が大きい、といった特徴を有する。
本実施形態の圧電体膜積層体を表面弾性波素子に適用した場合には、主にニオブ酸カリウム膜13がその特性を左右するので、該ニオブ酸カリウム膜13が上述した特徴を有することによって、電気機械結合係数が大きく、周波数フィルタとして用いるときに通過帯域幅を大きくできる、発振器として用いるときにIDTの対数が少なくて済み小型化できる、といった点で優れた表面弾性波素子を得ることができる。
1.2. 次に、本実施形態に係る圧電体膜積層体100の製造方法について図1(A)〜(C)を参照して述べる。
(1) まず、図1(A)に示すように、R面サファイア基板からなる基板(以下「R面サファイア基板」ともいう)11を用意する。R面サファイア基板11は、予め脱脂洗浄されている。脱脂洗浄は、R面サファイア基板11を有機溶媒に浸漬させ、超音波洗浄機を用いて行うことができる。ここで、有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばエチルアルコールとアセトンとの混合液を使用することができる。
(2) ついで、図1(B)に示すように、R面サファイア基板11上に、前駆体組成物を塗布した後、熱処理することによりニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12を形成する。ここで、前駆体組成物の塗布法としては、特に限定されず、公知の塗布方法、例えば、スピンコート法、ディッピング法などを用いることができる。また、熱処理としては、少なくとも前駆体組成物を結晶化させるための熱処理を含む。かかる熱処理としては、特に限定されず、公知の方法、例えばラピッドサーマルアニール(RTA)法などを用いることができる。
前駆体組成物は、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛を形成するための前駆体を含む。該前駆体は、少なくともニオブ、チタン、およびジルコニウムを含み、かつ一部にエステル結合を有する。前駆体は、有機溶媒に溶解もしくは分散されている。有機溶媒としては、アルコールを用いることができる。アルコールとしては、特に限定されないが、ブタノール、メタノール、エタノール、プロパノールなどの1価のアルコール、または多価アルコールを例示できる。かかるアルコールとしては、例えば以下のものをあげることができる。
1価のアルコール類;
プロパノール(プロピルアルコール)として、1−プロパノール(沸点97.4℃)、2−プロパノール(沸点82.7℃)、
ブタノール(ブチルアルコール)として、1−ブタノール(沸点117℃)、2−ブタノール(沸点100℃)、2−メチル−1−プロパノール(沸点108℃)、2−メチル−2−プロパノール(融点25.4℃,沸点83℃)、
ペンタノール(アミルアルコール)として、1−ペンタノール(沸点137℃)、3−メチル−1−ブタノール(沸点131℃)、2−メチル−1−ブタノール(沸点128℃)、2,2ジメチル−1−プロパノール(沸点113℃)、2−ペンタノール(沸点119℃)、3−メチル−2−ブタノール(沸点112.5℃)、3−ペンタノール(沸点117℃)、2−メチル−2−ブタノール(沸点102℃)、
多価アルコール類;
エチレングリコール(融点−11.5℃,沸点197.5℃)、グリセリン(融点17℃,沸点290℃)。
本実施形態で用いられる前駆体組成物は、後に詳述するように、前駆体がポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有していて可逆的反応が可能なため、高分子化された前駆体を分解して金属アルコキシドとすることができる。そのため、この金属アルコキシドを前駆体原料として再利用することができる。
さらに、本実施形態で用いられる前駆体組成物には、以下のような利点がある。市販されているPZTゾルゲル溶液では、一般に鉛原料として酢酸鉛が用いられるが、酢酸鉛は他のTiやZrのアルコキシドと結合し難く、鉛が前駆体のネットワーク中に取り込まれ難い。これに対し、本実施形態では、後に詳述するように、これまで困難であった前駆体での鉛のネットワーク化が容易であり、鉛を取り込んだネットワーク(前駆体)を含むことができる。そのため、本実施形態で用いられる前駆体組成物は、従来のゾルゲル原料に比べて、組成制御性が高く、PZTNの鉛抜けを防止できる。
例えば2価のポリカルボン酸であるコハク酸を例にとって説明する。コハク酸の2つのカルボキシル基のうち、初めに酸として働くどちらか一方の第1カルボルシル基はその酸性度がpH=4.0と酢酸のpH=4.56よりも小さく、酢酸よりも強い酸であるため、酢酸鉛は、コハク酸と結合する。つまり弱酸の塩+強酸→強酸の塩+弱酸となる。更に、コハク酸の残った第2カルボルシル基が、別のMOD分子或いはアルコキシドと結合するため、前駆体での鉛のネットワーク化が容易となる。
本実施形態で用いられる前駆体組成物は以下のようにして得られる。
前駆体組成物は、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合することによって得られる。ゾルゲル原料は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムを含む。このようにして得られた前駆体組成物は、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を含む。
図4および図5に、本実施形態の製造方法における前駆体の生成反応を模式的に示す。
前駆体の生成反応は、大別すると、図4に示すような第1段目のアルコキシ基の置換反応と、図5に示すような第2段目のエステル化による高分子ネットワークの形成反応とを含む。図4および図5では、便宜的に、ポリカルボン酸エステルとしてコハク酸ジメチルを用い、有機溶媒としてn−ブタノールを用いた例を示す。コハク酸ジメチルは非極性であるがアルコール中で解離してジカルボン酸となる。
第1段目の反応においては、図4に示すように、コハク酸ジメチルとゾルゲル原料の金属アルコキシドとのエステル化によって両者はエステル結合される。すなわち、コハク酸ジメチルはn−ブタノール中で解離し、一方のカルボニル基(第1カルボニル基)にプロトンが付加した状態となる。この第1カルボニル基と、金属アルコキシドのアルコキシ基との置換反応が起き、第1カルボキシル基がエステル化された反応生成物とアルコールが生成する。ここで、「エステル結合」とは、カルボニル基と酸素原子との結合(−COO−)を意味する。
第2段目の反応においては、図5に示すように、第1段目の反応で残った他方のカルボキシル基(第2カルボキシル基)と金属アルコキシドのアルコキシ基との置換反応が起き、第2カルボキシル基がエステル化された反応生成物とアルコールが生成する。
このように、2段階の反応によって、ゾルゲル原料に含まれる、金属アルコキシドの加水分解・縮合物同士がエステル結合した高分子ネットワークが得られる。したがって、この高分子ネットワークは、該ネットワーク内に適度に秩序よくエステル結合を有する。なお、コハク酸ジメチルは2段階解離し、第1カルボキシル基は第2カルボキシル基より酸解離定数が大きいため、第1段目の反応は第2段目の反応より反応速度が大きい。したがって、第2段目の反応は第1段目の反応よりゆっくり進むことになる。
本実施形態において、前述したエステル化反応を促進するためには、以下の方法を採用できる。
(a) 反応物の濃度あるいは反応性を大きくする。具体的には、反応系の温度を上げることにより、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの解離度を大きくすることによって反応性を高める。反応系の温度は、有機溶媒の沸点などに依存するが、室温より高く有機溶媒の沸点より低い温度であることが望ましい。反応系の温度としては、例えば100℃以下、好ましくは50〜100℃であることができる。
(b) 反応副生成物を除去する。具体的には、エステル化と共に生成する水、アルコールを除去することでエステル化がさらに進行する。
(c) 物理的に反応物の分子運動を加速する。具体的には、例えば紫外線などのエネルギー線を照射して反応物の反応性を高める。
前駆体組成物の製造方法に用いられる有機溶媒は、前述したようなアルコールであることができる。溶媒としてアルコールを用いると、ゾルゲル原料とポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの両者を良好に溶解することができる。
ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの使用量は、ゾルゲル原料およびPZTNの組成比に依存するが、ポリカルボン酸が結合する、例えばPZTゾルゲル原料、PbNbゾルゲル原料、PbSiゾルゲル原料の合計モルイオン濃度とポリカルボン酸のモルイオン濃度は、好ましくは1≦(ポリカルボン酸のモルイオン濃度)/(原料溶液の総モルイオン濃度)、より好ましくは1:1とすることができる。ポリカルボン酸の添加量は、例えば0.35モルとすることができる。
すなわち、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの添加量は、結合させたい原料溶液の総モル数と等しいかそれ以上であることが望ましい。両者のモルイオン濃度の比が1:1で、原料すべてが結合する。エステルは、酸性溶液中で安定に存在するので、エステルを安定に存在させるために、原料溶液の総モル数よりも、ポリカルボン酸を多く入れることが好ましい。また、ここで、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルのモル数とは、モル数を価数で割ったモルイオン濃度のことである。つまり、2価のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルであれば、1分子のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルが、2分子の原料分子を結合することができるので、2価のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルであれば、原料溶液1モルに対して、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル0.5モルで1:1ということになる。
また、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルも、初めから酸ではなく、ポリカルボン酸のエステルをアルコール中で解離させて、ポリカルボン酸となる。この場合、添加するアルコールは、1≦(アルコールのモル数/ポリカルボン酸エステルのモル数)であることが望ましい。全てのポリカルボン酸エステルが十分に解離するには、アルコールのモル数が多いほうが、安定して解離するからである。ここで、アルコールおよびポリカルボン酸エステルのモル数とは、アルコールのモル数およびポリカルボン酸エステルのモル数をそれぞれの価数で割った、いわゆる、モルイオン濃度を意味する。
前駆体組成物の製造方法において、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルは、2価以上であることができる。ポリカルボン酸としては、以下のものを例示できる。
3価のカルボン酸としては、Trans−アコニット酸、トリメシン酸、4価のカルボン酸としては、ピロメリット酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸等が挙げられる。また、アルコール中で解離してポリカルボン酸として働くポリカルボン酸エステルとしては、2価のコハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジエチル、3価のクエン酸トリブチル、1,1,2−エタントリカルボン酸トリエチル、4価の1,1,2,2−エタンテトラカルボン酸テトラエチル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリメチル等が挙げられる。
これらのポリカルボン酸エステルは、アルコール存在下で解離してポリカルボン酸としての働きを示す。以上のポリカルボン酸またはそのエステルの例を図3A〜図3Dに示す。また、本実施形態で用いられる前駆体組成物は、ポリカルボン酸を用いて、ネットワークをエステル化で繋げていくことに特徴があり、例えば酢酸や酢酸メチルといった、モノカルボン酸およびそのエステルでは、エステルネットワークが成長しない。
前駆体組成物の製造方法において、2価のカルボン酸エステルとしては、好ましくは、コハク酸エステル、マレイン酸エステルおよびマロン酸エステルから選択される少なくとも1種であることができる。これらのエステルの具体例としては、コハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マロン酸ジメチルをあげることができる。
ポリカルボン酸エステルの分子量は、150以下であることが好ましい。ポリカルボン酸エステルの分子量が大きすぎると、熱処理時においてエステルが揮発する際に膜にダメージを与えやすく、緻密な膜を得られないことがある。また、ポリカルボン酸エステルは、室温において液体であることが好ましい。ポリカルボン酸エステルが室温で固体であると、液がゲル化することがある。
前駆体組成物の製造方法において、ゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合する際に、さらに金属カルボン酸塩を用いたゾルゲル原料を含むことができる。かかる金属カルボン酸塩としては、代表的に、鉛のカルボン酸塩である酢酸鉛、さらに図2に示すような、オクチル酸鉛、オクチル酸ニオブ、オクチル酸鉛ニオブなどを挙げることができる。
前駆体組成物の製造方法において、ゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合する際に、さらに有機金属化合物(MOD原料)を用いることができる。このように、前駆体組成物の製造方法においては、アルコキシド原料同士をエステル結合するだけでなく、MOD原料とアルコキシド原料をエステル結合することができる。
かかる有機金属化合物としては、例えばオクチル酸ニオブを用いることができる。オクチル酸ニオブは、図2に示したように、Nbが2原子共有結合して、その他の部分にオクチル基が存在する構造である。この場合、Nb−Nbは2原子が結合しているが、それ以上のネットワークは存在しないため、これをMOD原料として扱っている。
カルボン酸とMOD原料のネットワーク形成は、主にアルコール交換反応で進行する。例えば、オクチル酸ニオブの場合、カルボン酸とオクチル基の間で反応し(アルコール交換反応)、R−COO−Nbという、エステル化が進行する。このように、本実施形態では、MOD原料をエステル化することにより、MOD原料とアルコキシドとの縮合によってMOD原料の分子を前駆体のネットワークに結合することができる。
前駆体組成物の製造方法において、ゾルゲル原料として、少なくともPbZrO用ゾルゲル溶液、PbTiO用ゾルゲル溶液、およびPbNbO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いることができる。例えば、PbNbO用ゾルゲル溶液は、オクチル酸鉛とオクチル酸ニオブを混合して形成され、両者のアルコール交換反応によって得られるオクチル酸鉛ニオブ(図2参照)を用いることができる。
さらに、前駆体組成物の製造方法においては、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料として、シリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むゾルゲル原料を用いることができる。これらのゾルゲル原料を加えることによって、既に述べたように結晶化温度を下げることができる。このようなゾルゲル溶液としては、PbSiO用ゾルゲル溶液を単独で、もしくはPbSiO用ゾルゲル溶液とPbGeO用ゾルゲル溶液の両者を用いることができる。このようなシリコンやゲルマニウムを含むゾルゲル原料を用いることにより、成膜時の温度を低くすることができ、450℃程度からPZTNの結晶化が可能である。
前駆体組成物の前駆体は、複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有しているので、可逆的反応が可能である。そのため、前駆体において、図3に示す左方向の反応を進行させることで、高分子化された前駆体(高分子ネットワーク)を分解して金属アルコキシドの縮合物とすることができる。
(3) ついで、図1(C)に示すように、レーザーアブレーション法によって、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上にニオブ酸カリウム膜13を形成する。
具体的には、レーザー光をニオブ酸カリウム膜用のターゲット、例えばK0.6Nb0.4ターゲットに照射し、このターゲットからカリウム、ニオブおよび酸素原子を叩き出すレーザーアブレーション法により、プルームを発生させる。そして、このプルームは、R面サファイア基板11上に向けて出射されてニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12に接触し、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上にニオブ酸カリウム膜13が形成される。
このレーザーアブレーション法においては、カリウムおよびニオブのプラズマが十分基板に到達できるならば、特に限定されない。レーザー光の照射時の条件としては、例えば、レーザーエネルギー密度が2J/cm以上4J/cm以下、レーザー周波数が5Hz以上20Hz以下、ターゲット基板間距離が30mm以上100mm以下、基板温度が600℃以上800℃以下、堆積中の酸素分圧が1×10−2Torr以上1Torr以下とすることができる。
この工程では、ニオブ酸カリウム膜13は、下のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12によってエピキャシタル成長し、前述した特定の配向を有する単結晶構造となる。
なお、所望の原子をターゲットから叩き出す方法としては、前述したようにレーザー光をターゲット表面に照射する方法の他、たとえば、アルゴンガス(不活性ガス)プラズマや電子線等をターゲット表面に照射(入射)する方法を用いることもできる。ただし、これらの中では、レーザー光をターゲット表面に照射する方法が好ましい。このような方法によれば、レーザー光の入射窓を備えた簡易な構成の真空装置を用いることにより、原子をターゲットから容易にかつ確実に叩き出すことができる。
ターゲットに照射するレーザー光としては、波長が150〜300nm程度、パルス長が1〜100ns程度のパルス光が好適に用いられる。具体的には、レーザー光としては、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザー等のエキシマレーザー、さらにYAGレーザー、YVOレーザー、COレーザーなどが挙げられる。これらの中でも、特にArFエキシマレーザーまたはKrFエキシマレーザーが好適とされる。ArFエキシマレーザーおよびKrFエキシマレーザーは、いずれも取り扱いが容易であり、また、より効率よく原子をターゲットから叩き出すことができる。
以上の工程によって、R面サファイア基板11上に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13が順に積層された圧電体膜積層体100が得られる。
以上のプロセスでは、ニオブ酸カリウム膜13を形成するための工程(3)において、K0.6Nb0.4ターゲットを用いたが、ターゲットの組成比はこれに限定されない。例えば、ニオブ酸カリウム層の形成には、Tri−Phase−Epitaxy法、すなわち、気相原料を固液共存領域の温度に保持した基板に堆積し、液相中から固相を析出させることができるのに適した組成比のターゲットを用いることができる。具体的には、所定の酸素分圧におけるKNbOと3KO・Nbとの共晶点Eにおける温度およびモル組成比をTおよびxとするとき(xは、KNb1−xで表現されるときのカリウム(K)とニオブ(Nb)とのモル組成比)、基体(この例では、サファイア基板11と、該基板11上に形成されたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12とからなる)上に堆積させた直後の液相状態の組成xが、0.5≦x≦xの範囲となる気相状態の原料であるプラズマプルームを基体に供給する。そして、この酸素分圧およびこのxにおける完全溶融温度をTとするとき、基体の温度TをT≦T≦Tの範囲に保持することにより、プラズマプルーム24から基体上に堆積させたKNb1−xの残液を蒸発させながら、KNb1−xからKNbO単結晶を基体上に析出させることができる。
また、ニオブ酸カリウム膜13の成膜方法として、レーザーアブレーションを用いたが、成膜方法はこれに限定されず、例えば蒸着法、MOCVD法、スパッタ法を用いることができる。
本実施形態では、上述したニオブ酸カリウム膜13の代わりに、ニオブ酸カリウムのニオブおよびカリウムの一部が他の元素で置換されたニオブ酸カリウム固溶体の膜であってもよい。このようなニオブ酸カリウム固溶体としては、例えば、K1−xNaNb1−yTa(0<x<1、0<y<1)で表される固溶体を挙げることができる。
本実施形態の製造方法によれば、以下のような特徴を有する。
まず、本実施形態によれば、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、前駆体組成物をR面サファイア基板11上に塗布した後、熱処理することにより得られるので、気相法に比べ容易なプロセスで得られる。そして、R面サファイア基板11上に、単結晶でしかもドメインが揃ったニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12を形成することができる。このニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、配向制御性を有するバッファ層として機能する。そして、該ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上に形成されるニオブ酸カリウム膜13は、エピタキシャル成長によって、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12と同様に、単結晶でしかもドメインが揃った膜となる。
このニオブ酸カリウム膜13は、前述したように、優れた電気機械結合係数、圧電性、絶縁性などを有していて極めて有用であり、表面弾性波素子をはじめとして各種の用途に適用できる。
本実施形態の製造方法において、上述したニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(PZTN)膜12が得られるメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下に述べる前駆体組成物の影響によるところが大きいと考えられる。すなわち、本実施形態の製造方法においては、前駆体組成物の有機溶媒中で、ポリカルボン酸によって、ゾルゲル原料の金属アルコキシドの加水分解・縮合物(複数の分子ネットワーク)同士がエステル結合によって縮重合した高分子ネットワークが得られる。したがって、この高分子ネットワークには、上記加水分解・縮合物に由来する複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有する。そして、エステル化反応は、温度制御などで容易に行うことができる。
本実施形態で用いられる前駆体組成物は、前述したように、複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有しているので、可逆的反応が可能である。そのため、PZTN膜の成膜後に残った組成物において、高分子化された前駆体(高分子ネットワーク)を分解して金属アルコキシド(もしくはその縮合物からなる分子ネットワーク)とすることができる。このような金属アルコキシド(もしくはその縮合物からなる分子ネットワーク)は、前駆体原料として再利用することができるので、鉛などの有害とされる物質を再利用でき、環境の面からもメリットが大きい。
本実施形態で用いられる前駆体組成物は、これまで困難であった前駆体での鉛のネットワーク化が容易となり、鉛を取り込んだ分子ネットワーク(前駆体)を含むことができ、高い組成制御性を有することができる。
1.3. 実施例1
本実施例では、以下の方法により圧電体膜積層体100(図1(C)参照)を形成した。本実施例では、単結晶のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛およびニオブ酸カリウムの薄膜を得ることができた。
まず、R面サファイア単結晶基板からなるR面サファイア基板11を有機溶媒に浸漬させ、超音波洗浄機を用いて脱脂洗浄を行った。ここで、有機溶媒としては、エチルアルコールとアセトンの1:1混合液を使用した。
本実施例では、次のようにして前駆体組成物を得た。前駆体組成物は、Pb、Zr、Ti、およびNbの少なくともいずれかを含む第1ないし第3の原料溶液と、ポリカルボン酸エステルとしてのコハク酸ジメチルと、有機溶媒としてのn−ブタノールとを混合して得られた。混合液は、ゾルゲル原料とコハク酸ジメチルとを1:1の割合(モルイオン濃度)でn−ブタノールに溶解したものである。
第1の原料溶液としては、PZTNの構成金属元素のうち、PbおよびZrによるPbZrOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
第2の原料溶液としは、PZTNの構成金属元素のうち、PbおよびTiによるPbTiOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
第3の原料溶液としては、PZTNの構成金属元素のうち、PbおよびNbによるPbNbOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
上記第1、第2および第3の原料溶液を用いて、PbZr0.2Ti0.6Nb0.2(PZTN)膜を形成する場合、(第1の原料溶液):(第2の原料溶液):(第3の原料溶液)=2:6:2の比で混合する。さらに、PZTN膜の結晶化温度を低下させる目的で、第4の原料溶液として、PbSiO結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を、3モル%の割合で上記混合溶液中に添加した。すなわち、ゾルゲル原料として上記第1、第2、第3および第4の原料溶液の混合溶液を用いることで、PZTNの結晶化温度を700℃以下の温度で結晶化させることが可能となる。
サンプルは、以下の方法で得た。
まず、室温にて、上記第1ないし第4の原料溶液と、コハク酸ジメチルとをn−ブタノールに溶解して溶液を調製した。そして、この溶液を80℃で60分間加熱して溶液(前駆体組成物)を調整した。ついで、この溶液をスピン塗布法によってR面サファイア基板11上に塗布し、ホットプレートを用いて150〜180℃(150℃)で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300〜350℃(300℃)で脱脂熱処理を行った。さらに、結晶化アニール(焼成)により、膜厚50nmのPZTN膜12を得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中でラピッドサーマルアニール(RTA)を用いて、650〜700℃(700℃)で行った。
次に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12が形成されたサファイア基板11を基板ホルダーに装填したあと、室温での背圧1×10−8Torrの真空装置内に基板ホルダーごと導入し、5×10−5Torrの酸素分圧になるように酸素ガスを導入し、赤外線ランプを用いて20℃/分で400℃まで加熱昇温した。
次に、K0.6Nb0.4ターゲットの表面に、エネルギー密度3J/cm、周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマレーザーのパルス光を入射し、K、Nb、Oのプラズマプルームを、基板温度750℃、酸素分圧1×10−1Torrの条件で、ターゲットから70mm離れた位置にあるサファイア基板11に240分間照射し、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上にニオブ酸カリウム膜13を1μmの厚さで堆積した。
以上の工程により、圧電体膜積層体100(図1(C)参照)のサンプルを得た。このサンプルについてX線解析を行ったところ、次の結果が得られた。
図6は、サンプルのニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13のX線回折パターン(2θ−θスキャン)を示す。図6のX線回折パターンに示される全てのピークは、サファイア、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛およびニオブ酸カリウムに帰属し、それ以外の化合物に帰属するピークは観察されなかった。従って、本実施例で得られたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛を正方晶の面指数で表記すると、(110)配向(または(101)配向)、およびニオブ酸カリウムを斜方晶の面指数で表記すると、(110)配向(または(111),(001)配向)のピークが観察された。なお、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛のピークとニオブ酸カリウムのピークは、図6において、重なっている。
図7(A)、(B)はそれぞれ、サファイア(0006)(2θ=41.7゜)と、PZTN(200),KNbO(200)PC(2θ=44.8゜)のX線回折極点図を示す。この結果から、PZTN(200)およびKNbO(200)PCは2回対称性を有しており、面間でKNbO(110)PC/PZTN(110)/サファイア(1−102)、面内でKNbO[001]PC//PZTN[001]//サファイア[11−20]のエピタキシャル成長方位関係になっていることが確認された。すなわち、PZTNは、正方晶(110)または(101)配向で、あるいは菱面体晶(110)配向で、エピタキシャル成長しており、正方晶(110)配向のときの[001]軸、正方晶(101)配向のときの[010]軸、あるいは菱面体晶(110)配向のときの[001]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。またKNbOは、斜方晶の指数を21/2b<a<cと定義するとき、斜方晶(111)、(100)または(001)配向で、エピタキシャル成長しており、斜方晶(111)配向のときの[10−1]軸、斜方晶(100)または(001)配向のときの[010]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。従って、本実施例に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13は、単結晶状で、しかも、分極処理等によりあるいは自発的に結晶の成長方向が揃ったシングルドメイン構造を有することが確認された。
2.第2の実施形態
2.1. 図8は、本実施形態に係る圧電体膜積層体200を模式的に示す断面図である。
図8に示すように、本実施形態に係る圧電体膜積層体200は、基板11と、基板11上に形成された、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12、ニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14の圧電体膜積層体と、を含むことができる。基板11,第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13は、第1の実施形態の圧電体膜積層体100と実質的に同じである。本実施形態は、ニオブ酸カリウム膜13上にさらに第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14を設けた点で、第1の実施形態と異なるので、第1の実施形態と同様な部材については詳細な説明を省略する。
基板11としては、第1の実施形態と同様に、R面サファイア基板を用いることができる。
第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zn,Ti,Nb)O(以下、「PZTN」ともいう)膜12は、第1の実施形態と同様に、結晶構造の特徴として、正方晶(110)または(101)配向で、あるいは菱面体晶(110)配向で、エピタキシャル成長している。さらに、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、面内で2回対称性を有する。すなわち、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、従来の膜では得られなかった単結晶構造を有し、さらに、2回対称性を有することから、異なったドメインを有さないシングルドメイン構造を有する。
また、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、正方晶(110)配向のときの[001]軸、正方晶(101)配向のときの[010]軸、あるいは菱面体晶(110)配向のときの[001]軸は、それぞれサファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。
ニオブ酸カリウムKNbO膜13は、第1の実施形態と同様に、結晶構造の特徴として、斜方晶の指数を21/2b<a<cと定義するとき、斜方晶(111)、(100)または(001)配向で、エピタキシャル成長している。さらに、ニオブ酸カリウム膜13は、面内で2回対称性を有する。すなわち、ニオブ酸カリウム膜13は、従来の膜では得られなかった単結晶構造を有し、さらに、2回対称性を有することから、異なったドメインを有さないシングルドメイン構造を有する。
また、ニオブ酸カリウム膜13は、斜方晶(111)配向のときの[10−1]軸、[010]軸、斜方晶(100)または(001)配向のときの[010]軸が、それぞれサファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。
第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、ニオブ酸カリウム膜13上に形成され、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12と同様の特徴を有する。すなわち、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、結晶構造の特徴として、正方晶(110)または(101)配向で、あるいは菱面体晶(110)配向で、エピタキシャル成長している。さらに、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、面内で2回対称性を有する。すなわち、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、単結晶構造を有し、さらに、2回対称性を有することから、分極処理等によりあるいは自発的に異なったドメインを有さないシングルドメイン構造を有する。
また、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、正方晶(110)配向のときの[001]軸、正方晶(101)配向のときの[010]軸、あるいは菱面体晶(110)配向のときの[001]軸は、それぞれサファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。
以上のように、本実施形態に係る圧電体膜積層体200を構成する、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12、ニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、エピタキシャル成長した単結晶であって、しかもシングルドメイン構造を有するので、ドメインバウンダリーが存在しない。したがって、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12、ニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、結晶粒界におけるエネルギー損失が小さく、そのため表面弾性波の伝播損失が小さく、結果として電気機械結合係数が大きい、といった特徴を有する。
第1および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12,14は、組成の特徴として、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、30モル%以下のニオブを含むことができる。また、本実施形態に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、5モル%以下のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むことができる。ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12,14がニオブを含むことによる特徴については、第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
以上のように、本実施形態に係る圧電体膜積層体200によれば、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12、ニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14が特定の配向を有する単結晶であって、かつシングルドメイン構造をすることにより、極めて優れた特性、例えば、高い電気機械結合係数、圧電性、絶縁性を有する。
また、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12,14は、極めて良好な表面モフォロジーを有することから、該膜上に形成される他の膜、例えば導電膜との界面を良好にすることができる。
したがって、この第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12、ニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14を有する圧電体膜積層体200は、後述するように、表面弾性波素子、周波数フィルタ、発振器などに好適に適用できる。
第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12の膜厚は、特に限定されず、ニオブ酸カリウム膜13がエピタキシャル成長するのに十分であればよく、例えば10nmないし100nmであることができる。ニオブ酸カリウム膜13の膜厚も特に限定されず、圧電体膜積層体100が適用されるデバイスに応じて選択され、例えば100nmないし100μmであることができる。第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14の膜厚は、特に限定されず、例えば圧電体膜積層体の表面モフォロジーを改善することができれば良く、例えば10nmないし100nmであることができる。
2.2. 次に、本実施形態に係る圧電体膜積層体200の製造方法について図8を参照して述べる。第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13の形成方法は、第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
(1) まず、R面サファイア基板からなる基板(以下「R面サファイア基板」ともいう)11を用意する。
(2) ついで、R面サファイア基板11上に、前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12を形成する。
この工程で用いられる前駆体組成物については、第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
(3) ついで、レーザーアブレーション法によって、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上にニオブ酸カリウム膜13を形成する。
具体的には、レーザー光をニオブ酸カリウム膜用のターゲット、例えばK0.6Nb0.4ターゲットに照射し、このターゲットからカリウム、ニオブおよび酸素原子を叩き出すレーザーアブレーション法により、プルームを発生させる。そして、このプルームは、R面サファイア基板11上に向けて出射されてニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12に接触し、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上にニオブ酸カリウム膜13が形成される。このレーザーアブレーション法の条件も第1の実施形態と同様である。
この工程では、ニオブ酸カリウム膜13は、下のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12によってエピキャシタル成長し、前述した特定の配向を有する単結晶構造となる。
(4) ついで、ニオブ酸カリウム膜13上に第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14を形成する。このニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14の形成方法は、(2)の第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12の形成方法と同様である。すなわち、ニオブ酸カリウム膜13上に前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14を形成する。この第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、下のニオブ酸カリウム膜13によってエピキャシタル成長し、前述した特定の配向を有する単結晶構造となる。
以上の工程によって、R面サファイア基板11上に、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12、ニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14が順に積層された圧電体膜積層体200が得られる。
以上のプロセスでは、ニオブ酸カリウム膜13を形成するための工程(3)において、K0.6Nb0.4ターゲットを用いたが、ターゲットの組成比はこれに限定されない。例えば、ニオブ酸カリウム層の形成には、第1の実施形態で述べたと同様なTri−Phase−Epitaxy法、すなわち、気相原料を固液共存領域の温度に保持した基板に堆積し、液相中から固相を析出させることができるのに適した組成比のターゲットを用いることができる。また、ニオブ酸カリウム膜13の成膜方法として、レーザーアブレーションを用いたが、成膜方法はこれに限定されず、例えば蒸着法、MOCVD法、スパッタ法を用いることができる。
本実施形態では、上述したニオブ酸カリウム膜13の代わりに、ニオブ酸カリウムのニオブおよびカリウムの一部が他の元素で置換されたニオブ酸カリウム固溶体の膜であってもよい。このようなニオブ酸カリウム固溶体としては、例えば、K1−xNaNb1−yTa(0<x<1、0<y<1)で表される固溶体を挙げることができる。
本実施形態の製造方法によれば、以下のような特徴を有する。
まず、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、前駆体組成物をR面サファイア基板11上に塗布した後、熱処理することにより得られるので、気相法に比べ容易なプロセスで得られる。そして、この工程で得られる第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、単結晶でしかもドメインが揃った結晶構造を有する。この第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12は、配向制御性を有するバッファ層として機能する。そのため、該第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上に形成されるニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、エピタキシャル成長によって、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12と同様に、特定の配向を有する単結晶で、しかもドメインが揃った膜となる。
このニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は、前述したように、優れた電気機械結合係数、絶縁性などを有している。また、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14は優れた表面モフォロジーを有するので、例えば該膜上に良好な界面状態を有する導電膜を形成することができる。したがって、本実施形態の圧電体膜積層体200は、表面弾性波素子をはじめとして各種の用途に適用できる。
本実施形態の製造方法において、上述したニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(PZTN)膜12、14が得られる理由については、第1の実施形態で述べたと理由と同様である。
2.3. 実施例2
本実施例では、以下の方法により圧電体膜積層体200(図8参照)を形成した。本実施例では、単結晶のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛およびニオブ酸カリウムの薄膜を得ることができた。
まず、R面サファイア単結晶基板からなるR面サファイア基板11を有機溶媒に浸漬させ、超音波洗浄機を用いて脱脂洗浄を行った。ここで、有機溶媒としては、エチルアルコールとアセトンの1:1混合液を使用した。
本実施例では、1.3.の実施例1で述べた前駆体組成物と同様のものを用いた。
サンプルは、以下の方法で得た。
まず、室温にて、実施例1と同様にして溶液(前駆体組成物)を調整した。ついで、この溶液をスピン塗布法によってR面サファイア基板11上に塗布し、ホットプレートを用いて150〜180℃(150℃)で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300〜350℃(300℃)で脱脂熱処理を行った。さらに、結晶化アニール(焼成)により、膜厚50nmの第1のPZTN膜12を得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中でラピッドサーマルアニール(RTA)を用いて、650〜700℃(700℃)で行った。
次に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12が形成されたサファイア基板11を基板ホルダーに装填したあと、室温での背圧1×10−8Torrの真空装置内に基板ホルダーごと導入し、5×10−5Torrの酸素分圧になるように酸素ガスを導入し、赤外線ランプを用いて20℃/分で400℃まで加熱昇温した。
次に、K0.6Nb0.4ターゲットの表面に、エネルギー密度3J/cm、周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマレーザーのパルス光を入射し、K、Nb、Oのプラズマプルームを、基板温度750℃、酸素分圧1×10−1Torrの条件で、ターゲットから70mm離れた位置にあるサファイア基板11に240分間照射し、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上にニオブ酸カリウム膜13を1μmの厚さで堆積した。
次に、ニオブ酸カリウム膜13膜上に、実施例1と同様の前駆体組成物を塗布したのち、第1のPZTN膜12と同様にして、膜厚50nmの第2のPZTN膜14を得た。
以上の工程により、圧電体膜積層体200(図18参照)のサンプルを得た。このサンプルについてX線解析を行ったところ、図6および図7(A),(B)と同様の結果が得られた。
すなわち、本実施例で得られた、第1、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛を正方晶の面指数で表記すると、(110)配向(または(101)配向)、およびニオブ酸カリウムを斜方晶の面指数で表記すると、(110)配向(または(111),(001)配向)のピークが観察された。また、X線回折極点図の結果から、PZTN(200)およびKNbO(200)PCは2回対称性を有しており、面間でKNbO(110)PC/PZTN(110)/サファイア(1−102)、面内でKNbO[001]PC//PZTN[001]//サファイア[11−20]のエピタキシャル成長方位関係になっていることが確認された。すなわち、PZTNは、正方晶(110)または(101)配向で、あるいは菱面体晶(110)配向で、エピタキシャル成長しており、正方晶(110)配向のときの[001]軸、正方晶(101)配向のときの[010]軸、あるいは菱面体晶(110)配向のときの[001]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。またKNbOは、斜方晶の指数を21/2b<a<cと定義するとき、斜方晶(111)、(100)または(001)配向で、エピタキシャル成長しており、斜方晶(111)配向のときの[10−1]軸、斜方晶(100)または(001)配向のときの[010]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である。従って、本実施例に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12、14およびニオブ酸カリウム膜13は、単結晶で、しかも結晶の成長方向が揃ったシングルドメイン構造を有することが確認された。
3.第3の実施形態
次に、本発明を適用した第3の実施形態に係る表面弾性波素子の一例について、図面を参照しながら説明する。図9は、本実施形態に係る表面弾性波素子300を模式的に示す断面図である。図9において、図1に示す圧電体膜積層体100の部材と実質的に同じ部材には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
表面弾性波素子300は、基板11と、基板11上に形成されたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13からなる圧電体膜積層体と、ニオブ酸カリウム膜13上に形成されたインターディジタル型電極(以下、「IDT電極」という)18,19と、を含む。IDT電極18,19は、所定のパターンを有する。
本実施形態に係る表面弾性波素子300は、本発明に係る圧電体膜積層体、例えば、図1に示す圧電体膜積層体100を含む。従って、表面弾性波素子300を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13は、第1の実施形態で述べたと同様の特徴を有する。すなわち、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13は、特定の配向性を有し、かつ2回対称性をもったエピタキシャル成長による単結晶構造を有する。
本実施形態に係る表面弾性波素子300は、本発明に係る圧電体膜積層体を用いて、例えば以下のようにして形成される。
まず、図1に示す圧電体膜積層体100のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上に、例えば真空蒸着法により金属層を形成する。金属層としては、例えばアルミニウムを用いることができる。次に、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いて金属層をパターニングすることにより、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12上にIDT電極18,19を形成する。
本実施形態に係る表面弾性波素子300は、本発明に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12およびニオブ酸カリウム膜13を有する。従って、本実施形態によれば、電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を実現することが可能となる。
次に、本実施形態に係る表面弾性波素子300について行った実験例について述べる。
前述した第1の実施形態における実施例の圧電体膜積層体100を用いて、実施例の表面弾性波素子300を形成した。なお、IDT電極としては、厚さ100nmのアルミニウム膜を用いた。また、IDT電極のラインアンドスペース(L&S)は、1.25μmであった。
得られた表面弾性波素子300について、IDT電極18,19の間での表面弾性波の伝播時間Vopenを測定した。その結果から求められた音速は、5000m/sであった。また、IDT電極18,19の間を金属薄膜で覆った場合の表面弾性波の伝播速度Vshortとの差から求められた電気機械結合係数は5%であった。
なお、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12を用いないで、サファイア基板上にニオブ酸カリウム膜を直接形成した場合には、電気機械結合係数は2%であった。したがって、本実施例によれば、ニオブ酸カリウム膜12上にニオブ酸カリウム膜13を形成することにより、電気機械結合係数が改善することが確認された。
4.第4の実施形態
次に、本発明を適用した第4の実施形態に係る表面弾性波素子の一例について、図面を参照しながら説明する。図10は、本実施形態に係る表面弾性波素子400を模式的に示す断面図である。図10において、図8に示す圧電体膜積層体200の部材と実質的に同じ部材には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
表面弾性波素子400は、基板11と、基板11上に形成された、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12、ニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14からなる圧電体膜積層体と、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14上に形成されたインターディジタル型電極(以下、「IDT電極」という)18,19と、を含む。IDT電極18,19は、所定のパターンを有する。
本実施形態に係る表面弾性波素子400は、本発明に係る圧電体膜積層体、例えば、図8に示す圧電体膜積層体200を含む。従って、表面弾性波素子400を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12,14およびニオブ酸カリウム膜13は、第2の実施形態で述べたと同様の特徴を有する。すなわち、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12,14およびニオブ酸カリウム膜13は、特定の配向性を有し、かつ2回対称性をもったエピタキシャル成長による単結晶構造を有する。
本実施形態に係る表面弾性波素子400は、本発明に係る圧電体膜積層体を用いて、例えば以下のようにして形成される。
まず、図8に示す圧電体膜積層体200の第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14上に、例えば真空蒸着法により金属層を形成する。金属層としては、例えばアルミニウムを用いることができる。次に、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いて金属層をパターニングすることにより、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14上にIDT電極18,19を形成する。本実施形態では、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14を有することにより圧電体膜積層体の表面モフォロジーが非常に良好になり、例えば界面状態の優れたIDT電極18,19を形成することができる。
本実施形態に係る表面弾性波素子400は、主にデバイス特性を決めるニオブ酸カリウム膜13および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14を有する。従って、本実施形態によれば、電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を実現することが可能となる。
次に、本実施形態に係る表面弾性波素子400について行った実験例について述べる。
前述した第2の実施形態における実施例の圧電体膜積層体200を用いて、実施例の表面弾性波素子400を形成した。なお、IDT電極としては、厚さ100nmのアルミニウム層を用いた。また、IDT電極のラインアンドスペース(L&S)は、1.25μmであった。
得られた表面弾性波素子400について、IDT電極18,19の間での表面弾性波の伝播速度Vopenを測定した。その結果から求められた音速は、5000m/sであった。また、IDT電極18,19の間を金属薄膜で覆った場合の表面弾性波の伝播速度Vshortとの差から求められた電気機械結合係数は10%であった。
なお、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜12を用いないで、サファイア基板上にニオブ酸カリウム膜を直接形成した場合には、電気機械結合係数は2%であった。したがって、本実施例によれば、ニオブ酸カリウム膜12上にニオブ酸カリウム膜13を形成することにより、電気機械結合係数が改善することが確認された。さらに、本実施例では、ニオブ酸カリウム膜13上にさらにニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜14を形成することにより、第3の実施形態の実施例に比べてさらに電気機械結合係数が改善されることが確認された。
5.第5の実施形態
次に、本発明を適用した第5の実施形態に係る周波数フィルタの一例について、図面を参照しながら説明する。図11は、本実施形態の周波数フィルタを模式的に示す図である。
図11に示すように、周波数フィルタは基体140を有する。この基体140としては、本発明に係る圧電体膜積層体、例えば図1または図8に示す圧電体膜積層体100,200を用いることができる。
基体140の上面には、IDT電極141、142が形成されている。また、IDT電極141、142を挟むように、基体140の上面には吸音部143、144が形成されている。吸音部143、144は、基体140の表面を伝播する表面弾性波を吸収するものである。一方のIDT電極141には高周波信号源145が接続されており、他方のIDT電極142には信号線が接続されている。
次に、前述の周波数フィルタの動作について説明する。
前記構成において、高周波信号源145から高周波信号が出力されると、この高周波信号はIDT電極141に印加され、これによって基体140の上面に表面弾性波が発生する。IDT電極141から吸音部143側へ伝播した表面弾性波は、吸音部143で吸収されるが、IDT電極142側へ伝播した表面弾性波のうち、IDT電極142のピッチ等に応じて定まる特定の周波数または特定の帯域の周波数の表面弾性波は電気信号に変換されて、信号線を介して端子146a、146bに取り出される。なお、前記特定の周波数または特定の帯域の周波数以外の周波数成分は、大部分がIDT電極142を通過して吸音部144に吸収される。このようにして、本実施形態の周波数フィルタが有するIDT電極141に供給した電気信号のうち、特定の周波数または特定の帯域の周波数の表面弾性波のみを得ること、すなわちフィルタリングをすることができる。
6.第6の実施形態
次に、本発明を適用した第6の実施形態に係る発振器の一例について、図面を参照しながら説明する。図12は、本実施形態の発振器を模式的に示す図である。
図12に示すように、発振器は基体150を有する。この基体150としては、前述した周波数フィルタと同様に、本発明に係る圧電体膜積層体、例えば図1または図8に示す圧電体膜積層体100,200を用いることができる。
基体150の上面には、IDT電極151が形成されており、さらに、IDT電極151を挟むように、IDT電極152、153が形成されている。IDT電極151を構成する一方の櫛歯状電極151aには、高周波信号源154が接続されており、他方の櫛歯状電極151bには、信号線が接続されている。なお、IDT電極151は、電気信号印加用電極に相当し、IDT電極152、153は、IDT電極151によって発生される表面弾性波の特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分を共振させる共振用電極に相当する。
次に、前述の発振器の動作について説明する。
前記構成において、高周波信号源154から高周波信号が出力されると、この高周波信号は、IDT電極151の一方の櫛歯状電極151aに印加され、これによって基体150の上面にIDT電極152側に伝播する表面弾性波およびIDT電極153側に伝播する表面弾性波が発生する。これらの表面弾性波のうちの特定の周波数成分の表面弾性波は、IDT電極152およびIDT電極153で反射され、IDT電極152とIDT電極153との間には定在波が発生する。この特定の周波数成分の表面弾性波がIDT電極152、153で反射を繰り返すことにより、特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分が共振して、振幅が増大する。この特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分の表面弾性波の一部は、IDT電極151の他方の櫛歯状電極151bから取り出され、IDT電極152とIDT電極153との共振周波数に応じた周波数(または、ある程度の帯域を有する周波数)の電気信号を端子155aと端子155bに取り出すことができる。
図13および図14は、前述した発振器をVCSO(Voltage Controlled SAW Oscillator:電圧制御SAW発振器)に応用した場合の一例を模式的に示す図であり、図13は側面透視図であり、図14は上面透視図である。
VCSOは、金属製(アルミニウムまたはステンレススチール製)の筐体60内部に実装されて構成されている。基板61上には、IC(Integrated Circuit)62および発振器63が実装されている。この場合、IC62は、外部の回路(不図示)から入力される電圧値に応じて、発振器63に印加する周波数を制御する発振回路である。
発振器63は、基体64上に、IDT電極65a〜65cが形成されており、その構成は、図12に示す発振器とほぼ同様である。基体64としては、前述した図12に示す発振器と同様に、本発明に係る圧電体膜積層体、例えば図1または図8に示す圧電体膜積層体100,200を用いることができる。
基板61上には、IC62と発振器63とを電気的に接続するための配線66がパターニングされている。IC62および配線66が、例えば金線等のワイヤー線67によって接続され、発振器63および配線66が金線等のワイヤー線68によって接続されている。これにより、IC62と発振器63とが配線66を介して電気的に接続されている。
図13および図14に示すVCSOは、例えば、図15に示すPLL回路のVCO(Voltage Controlled Oscillator)として用いられる。図15は、PLL回路の基本構成を示すブロック図である。PLL回路は、位相比較器71、低域フィルタ72、増幅器73、およびVCO74から構成されている。位相比較器71は、入力端子70から入力される信号の位相(または周波数)と、VCO74から出力される信号の位相(または周波数)とを比較し、その差に応じて値が設定される誤差電圧信号を出力するものである。低域フィルタ72は、位相比較器71から出力される誤差電圧信号の位置の低周波成分のみを通過させるものである。増幅器73は、低域フィルタ72から出力される信号を増幅するものである。VCO74は、入力された電圧値に応じて発振する周波数が、ある範囲で連続的に変化する発振回路である。
このような構成のもとにPLL回路は、入力端子70から入力される位相(または周波数)と、VCO74から出力される信号の位相(または周波数)との差が減少するように動作し、VCO74から出力される信号の周波数を入力端子70から入力される信号の周波数に同期させる。VCO74から出力される信号の周波数が入力端子70から入力される信号の周波数に同期すると、その後は一定の位相差を除いて入力端子70から入力される信号に一致し、また、入力信号の変化に追従するような信号を出力するようになる。
以前述べたように、本実施形態に係る周波数フィルタおよび発振器は、本発明に係る電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を有する。従って、本実施形態によれば、周波数フィルタおよび発振器の小型化を実現することが可能となる。
7.第7の実施形態
7.1. 次に、本発明を適用した第7の実施形態に係る電子回路および電子機器の第1の例について、図面を参照しながら説明する。図16は、本実施形態に係る電子機器の電気的構成を示すブロック図である。電子機器とは、例えば携帯電話機である。
電子機器300は、電子回路310、送話部80、受話部91、入力部94、表示部95、およびアンテナ部86を有する。電子回路310は、送信信号処理回路81、送信ミキサ82、送信フィルタ83、送信電力増幅器84、送受分波器85、低雑音増幅器87、受信フィルタ88、受信ミキサ89、受信信号処理回路90、周波数シンセサイザ92、および制御回路93を有する。
電子回路310において、送信フィルタ83および受信フィルタ88として、図11に示す周波数フィルタを用いることができる。フィルタリングする周波数(通過させる周波数)は、送信ミキサ82から出力される信号のうちの必要となる周波数、および、受信ミキサ89で必要となる周波数に応じて、送信フィルタ83および受信フィルタ88で個別に設定されている。また、周波数シンセサイザ92内に設けられるPLL回路(図15参照)のVCO74として、図12に示す発振器、または図13および図14に示すVCSOを用いることができる。
送話部80は、例えば音波信号を電気信号に変換するマイクロフォン等で実現されるものである。送信信号処理回路81は、送話部80から出力される電気信号に対して、例えばD/A変換処理、変調処理等の処理を施す回路である。送信ミキサ82は、周波数シンセサイザ92から出力される信号を用いて送信信号処理回路81から出力される信号をミキシングするものである。送信フィルタ83は、中間周波数(以下、「IF」と表記する)の必要となる周波数の信号のみを通過させ、不要となる周波数の信号をカットするものである。送信フィルタ83から出力される信号は、変換回路(図示せず)によってRF信号に変換される。送信電力増幅器84は、送信フィルタ83から出力されるRF信号の電力を増幅し、送受分波器85へ出力するものである。
送受分波器85は、送信電力増幅器84から出力されるRF信号をアンテナ部86へ出力し、アンテナ部86から電波の形で送信するものである。また、送受分波器85は、アンテナ部86で受信した受信信号を分波して、低雑音増幅器87へ出力するものである。低雑音増幅器87は、送受分波器85からの受信信号を増幅するものである。低雑音増幅器87から出力される信号は、変換回路(図示せず)によってIFに変換される。
受信フィルタ88は、変換回路(図示せず)によって変換されたIFの必要となる周波数の信号のみを通過させ、不要となる周波数の信号をカットするものである。受信ミキサ89は、周波数シンセサイザ92から出力される信号を用いて、受信フィルタ88から出力される信号をミキシングするものである。受信信号処理回路90は、受信ミキサ89から出力される信号に対して、例えばA/D変換処理、復調処理等の処理を施す回路である。受話部91は、例えば電気信号を音波に変換する小型スピーカ等で実現されるものである。
周波数シンセサイザ92は、送信ミキサ82へ供給する信号、および、受信ミキサ89へ供給する信号を生成する回路である。周波数シンセサイザ92は、PLL回路を有し、このPLL回路から出力される信号を分周して新たな信号を生成することができる。制御回路93は、送信信号処理回路81、受信信号処理回路90、周波数シンセサイザ92、入力部94、および表示部95を制御する。表示部95は、例えば携帯電話機の使用者に対して機器の状態を表示する。入力部94は、例えば携帯電話機の使用者の指示を入力する。
7.2. 次に、本発明を適用した第7の実施形態に係る電子回路および電子機器の第2の例について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、電子機器の例として、リーダライタ2000およびそれを用いた通信システム3000について説明する。図17は、本実施形態に係るリーダライタ2000を用いた通信システム3000を示す図であり、図18は、図17に示す通信システム3000の概略ブロック図である。
図17に示すように、通信システム3000は、リーダライタ2000と、非接触情報媒体2200と、を含む。リーダライタ2000は、キャリア周波数fを有する電波W(以下「キャリア」ともいう)を非接触情報媒体2200へ送信し、または非接触情報媒体2200から受信し、無線通信を利用して非接触情報媒体2200と交信する。電波Wは任意の周波数帯のキャリア周波数fcを使用することができる。図17および図18に示されるように、リーダライタ2000は、本体2105と、本体2105上面に位置するアンテナ部2110と、本体2105内部に格納される制御インターフェース部2120と、電源回路172と、を含む。アンテナ部2110と制御インターフェース部2120とは、ケーブル2180によって電気的に接続されている。また、図示はしないが、リーダライタ2000は、制御インターフェース部2120を介して、外部ホスト装置(処理装置など)に接続されている。
アンテナ部2110は、非接触情報媒体2200との間で情報の通信を行う機能を有する。アンテナ部2110は、図17に示すように、所定の通信領域(点線で示す領域)を有する。アンテナ部2110は、ループアンテナ112および整合回路114により構成される。
制御インターフェース部2120は、送信部161と、減衰振動キャンセル部(以下「キャンセル部」という)140と、受信部168と、コントローラ160と、を含む。
送信部161は、外部装置(図示せず)より送信されたデータを変調し、ループアンテナ112に送信する。送信部161は、発振回路162と、変調回路163と、駆動回路164と、を含む。発振回路162は、所定の周波数のキァリアを発生させるための回路である。発振回路162は、通常、水晶振動子等を用いて構成されるが、前述した本発明に係る発振器を用いることにより、通信周波数の高周波化、検出感度の向上が可能となる。変調回路163は、キャリアを与えられた情報に従って変調する回路である。駆動回路164は、変調されたキャリアを受けて電力増幅し、アンテナ部2110を駆動する。
キャンセル部165は、キャリアのON/OFFに伴い、アンテナ部2110のループアンテナ112によって発生する減衰振動を抑制する機能を有する。キャンセル部165は、ロジック回路166と、キャンセル回路167と、を含む。
受信部168は、検波部169と、復調回路170と、を含む。受信部168は、非接触情報媒体2200が送信した信号を復元する。検波部169は、例えば、ループアンテナ112に流れる電流の変化を検出する。復調回路170は、検波部169で検出された変化分を復調する回路である。
コントローラ160は、復調した信号から情報を取り出して外部装置に転送する。電源回路172は、外部より電力の供給を受けて適宜電圧変換を行い、各回路に対し必要電力を供給する回路である。なお、内蔵電池を電力源とすることもできる。
非接触情報媒体2200は、リーダライタ2000と電磁波(電波)を用いて交信する。非接触情報媒体2200としては、例えば、非接触ICタグ、非接触ICカードなどを挙げることができる。
次に、本実施形態のリーダライタ2000を用いた通信システム3000の動作について説明する。リーダライタ2000から非接触情報媒体2200にデータが送られる場合には、図示しない外部装置からのデータは、リーダライタ2000において、コントローラ160で処理されて送信部161に送られる。送信部161では、発振回路162から一定振幅の高周波信号がキャリアとして供給されており、このキャリアが変調回路163により変調されて、変調高周波信号が出力される。変調回路163から出力される変調高周波信号は、駆動回路164を介してアンテナ部2110に供給される。これと同時に、キャンセル部165が、変調高周波信号のOFFタイミングに同期して、所定のパルス信号を生成し、ループアンテナ112における減衰振動の抑制に寄与する。
非接触情報媒体2200においては、アンテナ部186を介して、変調高周波信号が受信回路180に供給される。また、変調高周波信号は、電源回路182に供給されて、非接触情報媒体2200の各部に必要な所定の電源電圧が生成される。受信回路180から出力されたデータは、復調されてロジック制御回路184に供給される。ロジック制御回路184は、クロック183の出力に基づいて動作し、供給されるデータを処理して所定のデータをメモリ185に書き込む。
非接触情報媒体2200からリーダライタ2000にデータが送られる場合は、リーダライタ2000において、変調回路163からは無変調で一定振幅の高周波信号が出力される。高周波信号は、駆動回路164、アンテナ部2110のループアンテナ112を介して、非接触情報媒体2200に送られる。
非接触情報媒体2200においては、メモリ185から読み出されたデータがロジック制御回路184で処理されて、送信回路181に供給される。送信回路181では、データの‘1’、‘0’ビットに応じて、スイッチがON/OFFする。
リーダライタ2000においては、送信回路181のスイッチがON/OFFすると、アンテナ部2110のループアンテナ112の負荷が変動する。このため、ループアンテナ112に流れる高周波電流の振幅が変動する。即ち、高周波電流は、非接触情報媒体2200から供給されるデータによって振幅変調される。この高周波電流は、受信部168の検波部169で検出され、復調回路170で復調されてデータが得られる。このデータは、コントローラ160で処理され、外部装置などに送られる。
7.3. 本実施形態に係る電子回路および電子機器は、本発明に係る電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を有する。従って、本実施形態によれば、電子回路および電子機器の省電力化を実現することが可能となる。
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
例えば、本発明に係る周波数フィルタ、発振器はそれぞれ、UWBシステム、携帯電話機、無線LAN等における広帯域フィルタ、VCOに適用することができる。
また、例えば、上記実施形態においては、電子機器として携帯電話機およびリーダライタを用いた通信システムを、電子回路として携帯電話機およびリーダライタ内に設けられる電子回路をその一例として挙げて説明した。しかしながら、本発明はこれらに限定されることなく、種々の移動体通信機器およびその内部に設けられる電子回路に適用することができる。例えば、BS(Broadcast Satellite)放送等を受信するチューナなどの据置状態で使用される通信機器およびその内部に設けられる電子回路、光ケーブル中を伝播する光信号等を用いるHUBなどの電子機器およびその内部に設けられる電子回路にも適用することができる。
第1の実施形態に係る圧電体膜積層体を模式的に示す断面図。 第1の実施形態において用いられる、鉛を含むカルボン酸を示す図。 第1の実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。 第1の実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。 第1の実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。 第1の実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。 第1の実施形態で用いられる前駆体組成物における前駆体の生成反応を示す図。 第1の実施形態で用いられる前駆体組成物における前駆体の生成反応を示す図。 実施例に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛のX線回折図。 実施例に係るR面サファイア基板とニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛のX線回折極点図。 第2の実施形態に係る圧電体膜積層体を模式的に示す断面図。 第3の実施形態に係る表面弾性波素子を示す断面図。 第4の実施形態に係る表面弾性波素子を示す断面図。 第5の実施形態に係る周波数フィルタを示す斜視図。 第6の実施形態に係る発振器を示す斜視図。 第6の実施形態に係る発振器をVCSOに応用した一例を示す概略図。 第6の実施形態に係る発振器をVCSOに応用した一例を示す概略図。 PLL回路の基本構成を示すブロック図。 第7の実施形態に係る電子回路の構成を示すブロック図。 第7の実施形態に係るリーダライタを用いた通信システムを示す図。 図17に示す通信システムの概略ブロック図。
符号の説明
11 基板(R面サファイア基板)、12 ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜、13 ニオブ酸カリウム膜、70 入力端子、71 位相比較器、72 低域フィルタ、73 増幅器、74 VCO、80 送話部、81 送信信号処理回路、82 送信ミキサ、83 送信フィルタ、84 送信電力増幅器、85 送受分波器、86 アンテナ部、87 低雑音増幅器、88 受信フィルタ、89 受信ミキサ、90 受信信号処理回路、91 受話部、92 周波数シンセサイザ、93 制御回路、94 入力部、95 表示部、100 圧電体膜積層体、112 ループアンテナ、114 整合回路、140 基体、141 IDT電極、142 IDT電極、143 吸音部、144 吸音部、145 高周波信号源、150 基体、151 IDT電極、152 IDT電極、153 IDT電極、154 高周波信号源、160 コントローラ、161 送信部、162 発振回路、163 変調回路、164 駆動回路、165 キャンセル部、166 ロジック回路、167 キャンセル回路、168 受信部、169 検波部、170 復調回路、172 電源回路、180 受信回路、181 送信回路、182 電源回路、183 クロック、184 ロジック制御回路、185 メモリ、186 アンテナ部、200 表面弾性波素子、250 発振器、300 電子機器、310 電子回路、2000 リーダライタ、2105 本体、2110 アンテナ部、2120 制御インターフェース部、2200 非接触情報媒体,3000 通信システム

Claims (30)

  1. ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜と、ニオブ酸カリウム膜とが積層され
    前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、正方晶(110)または(101)配向で、あるいは菱面体晶(110)配向で、エピタキシャル成長しており、
    前記ニオブ酸カリウム膜は、斜方晶の指数を2 1/2 b<a<cと定義するとき、斜方晶(111)、(100)または(001)配向で、エピタキシャル成長している、圧電体膜積層体。
  2. 請求項1おいて、
    前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜および前記ニオブ酸カリウム膜は、面内で2回対称性を有する、圧電体膜積層体。
  3. 請求項1または2において、
    前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、5モル%以上、30モル%以下のニオブを含む、圧電体膜積層体。
  4. 請求項1ないしのいずれかにおいて、
    前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、さらに、0.5モル%以上のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含む、圧電体膜積層体。
  5. 請求項1ないしのいずれかにおいて、
    さらに、前記ニオブ酸カリウム膜の上に他のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を有する、圧電体膜積層体。
  6. 請求項1ないしのいずれかにおいて、
    サファイア基板の上に、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜とニオブ酸カリウム膜とがこの順序で形成された、圧電体膜積層体。
  7. 請求項において、
    前記サファイア基板は、R面(1−102)である、圧電体膜積層体。
  8. 請求項またはにおいて、
    前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜は、正方晶(110)配向のときの[001]軸、正方晶(101)配向のときの[010]軸、あるいは菱面体晶(110)配向のときの[001]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である、圧電体膜積層体。
  9. 請求項において、
    前記ニオブ酸カリウム膜は、斜方晶(111)配向のときの[10−1]軸、斜方晶(100)または(001)配向のときの[010]軸が、それぞれ前記サファイア基板のR面の[11−20]方向と平行である、圧電体膜積層体。
  10. 請求項1ないしのいずれかにおいて、
    前記ニオブ酸カリウム膜の代わりに、ニオブ酸カリウム固溶体膜を有する、圧電体膜積層体。
  11. サファイア基板を準備する工程と、
    ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を形成するための前駆体を含む前駆体組成物であって、前記前駆体は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムを含み、かつ一部にエステル結合を有する、前駆体組成物を準備する工程と、
    前記サファイア基板上に、前記前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を形成する工程と、
    前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜の上に、ニオブ酸カリウム膜を形成する工程と、を含む、圧電体膜積層体の製造方法。
  12. 請求項11において、
    前記前駆体は、さらに鉛を含む、圧電体膜積層体の製造方法。
  13. 請求項11または12において、
    前記前駆体組成物は、前記前駆体が有機溶媒に溶解もしくは分散されている、圧電体膜積層体の製造方法。
  14. 請求項13において、
    前記有機溶媒は、アルコールである、圧電体膜積層体の製造方法。
  15. 請求項11ないし14のいずれかにおいて、
    前記前駆体組成物は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムの金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合して得られ、
    前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を含む、圧電体膜積層体の製造方法。
  16. 請求項15において、
    前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルは、2価のカルボン酸またはカルボン酸エステルである、圧電体膜積層体の製造方法。
  17. 請求項16において、
    前記2価のカルボン酸エステルは、コハク酸エステル、マレイン酸エステルおよびマロン酸エステルから選択される少なくとも1種である、圧電体膜積層体の製造方法。
  18. 請求項15ないし17のいずれかにおいて、
    前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに金属カルボン酸塩を用いたゾルゲル原料を含む、圧電体膜積層体の製造方法。
  19. 請求項18において、
    前記金属カルボン酸塩は、鉛のカルボン酸塩である、圧電体膜積層体の製造方法。
  20. 請求項15ないし19のいずれかにおいて、
    前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに有機金属化合物を含む、圧電体膜積層体の製造方法。
  21. 請求項15ないし20のいずれかにおいて、
    前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらにシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むゾルゲル原料を用いる、圧電体膜積層体の製造方法。
  22. 請求項15ないし21のいずれかにおいて、
    前記ゾルゲル原料として、少なくともPbZrO用ゾルゲル溶液、PbTiO用ゾルゲル溶液、およびPbNbO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いる、圧電体膜積層体の製造方法。
  23. 請求項21または22において、
    前記ゾルゲル原料として、さらにPbSiO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いる、圧電体膜積層体の製造方法。
  24. 請求項11ないし23のいずれかにおいて、
    さらに、前記ニオブ酸カリウム膜の上に、前記前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより、他のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を形成する工程を有する、圧電体膜積層体の製造方法。
  25. 請求項11ないし24のいずれかにおいて、
    前記ニオブ酸カリウム酸の代わりに、ニオブ酸カリウム固溶体膜を形成する工程を有する、圧電体膜積層体の製造方法。
  26. 請求項1ないし10のいずれかに記載の圧電体膜積層体を有する、表面弾性波素子。
  27. 請求項26に記載の表面弾性波素子を有する、周波数フィルタ。
  28. 請求項26に記載の表面弾性波素子を有する、発振器。
  29. 請求項27に記載の周波数フィルタおよび請求項28に記載の発振器のうちの少なくとも一方を有する、電子回路。
  30. 請求項29に記載の電子回路を有する、電子機器。
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