JP4170641B2 - 多分岐多糖 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、生体適合性のハイドロゲルとしての増粘剤や生体適合性の医用基盤材料等として有用な多分岐多糖に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
化学的な手法による多糖合成は天然に存在する直鎖状多糖やその類似体の合成を目的とするため、合成多糖は一般的に直鎖状である。例えば、Schuerch等や瓜生等は無水糖のカチオン開環重合により種々の直鎖状多糖(高分子40巻2月号(1991);Adv. Carbohydr. Chem. Biochem., vol.39, Academic Press (1981) p.157)を、中坪等は単糖のオルトエステル体をカチオン開環重合しセルロース及びその誘導体(J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 1677-1681;Macromolecules. 1996, 29, 6126-6131)を合成している。しかし、前記したような方法では生成多糖が直鎖状に限定される。多分岐多糖を得るための化学合成的な例として、唯一、糖オキサゾリン誘導体のグリコシル化反応による多分岐アミノ多糖の合成が門川等によって報告されている(化学と工業 第54巻 第2号168-171 (2001))。しかしながら、この方法の適合範囲はアミノ糖のみに限られ、その他の糖類への応用が困難である。
【0003】
【課題を解決するための手段】
本発明は、多分岐多糖を簡便に化学合成するために鋭意研究を重ねた結果、完成されたもので、無水糖をカチオン開始剤またはアニオン開始剤の存在下で重合して得られる多分岐多糖及びそれを製造する方法を提供する。
即ち、本発明は、下記一般式(化1)
【化1】
で表される1,6-アンヒドロ糖(例えば、1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノース誘導体、1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノース誘導体、1,6-アンヒドロ-β-D-ガラクトピラノース誘導体、1,6-アンヒドロ-β-D-アロピラノース誘導体、1,6-アンヒドロ-β-D-アルトロピラノース誘導体等が挙げられる。)、下記一般式(化2)
【化2】
で表される1,4-アンヒドロ糖(例えば、1,4-アンヒドロ-β-D-リボピラノース誘導体、1,4-アンヒドロ-α-D-キシロピラノース誘導体、1,4-アンヒドロ-α-L-アラビノピラノース誘導体、1,4-アンヒドロ-α-D-リキソピラノース誘導体等が挙げられる。)、下記一般式(化3)
【化3】
で表される1,3-アンヒドロ糖(例えば、1,3-アンヒドロ-β-D-グルコピラノース誘導体、1,3-アンヒドロ-β-D-マンノピラノース誘導体等が挙げられる。)、下記一般式(化4)
【化4】
で表される1,2-アンヒドロ糖(例えば、1,2-アンヒドロ-α-D-グルコピラノース誘導体、1,2-アンヒドロ-β-D-マンノピラノース誘導体等が挙げられる。)及び下記一般式(化5)
【化5】
で表される5,6-アンヒドロ糖(例えば、5,6-アンヒドロ-α-D-グルコピラノース誘導体等が挙げられる。)から成る群から選択される少なくとも1種の無水糖の重合体である多分岐多糖である。
【0004】
上記各式中、Rはそれぞれ、同じであっても異なってもよく、水素原子又は炭素数が1〜30、好ましくは1〜4の炭化水素基を表し、この炭化水素基は、アルキル基、アリール基又はアルキルアリール基であることが好ましい。
また、本発明は上記化1〜5から選択される少なくとも1種の無水糖をカチオン開始剤又はアニオン開始剤の存在下で重合することから成る多分岐多糖の製法である。
【0005】
またこの多分岐多糖の分岐度は好ましくは0.05〜1.00、より好ましくは0.6〜1.0である。多分岐度は下記いずれかで表すのが一般である。
(1) Frechetの式:分岐度=(分岐ユニット数+ポリマー末端数)/(分岐ユニット数+ポリマー末端数+直鎖ユニット数)
(2) Freyの式:分岐度=(分岐ユニット数+ポリマー末端数-分子数)/(分岐ユニット数+ポリマー末端数+直鎖ユニット数-分子数)
重合体の分子量が低い場合、中心核の影響が強く出るためFreyの式の方が正確ですが、重合度が充分高いとき、どちらも同じ値を示します。本発明においては通常Frechetの式を適用する。直鎖状ポリマーの分岐度は0、デンドリマーの分岐度は1となる。しかし、本発明で得られた多糖の分岐度は新規物質であるために現在のところ正確に見積もることは困難であり、製造条件によっても分岐度は変化する。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の多分岐多糖の製法について述べる。
本発明で原料に用いる無水糖は木材のマイクロ波による分解、あるいは熱分解することにより入手できる。本発明において使用される無水糖としては1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノース、1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノース、1,6-アンヒドロ-β-D-ガラクトピラノースなどの1,6-無水糖、1,4-アンヒドロ-β-D-リボピラノース、1,4-アンヒドロ-α-D-グルコピラノースなどの1,4-無水糖、そしてこれらの誘導体をあげることが出来る。さらに、1,3-無水糖、1,2-無水糖、5,6-無水糖、3,5-無水糖とそれらの誘導体も利用できる。
【0007】
この多分岐多糖製造反応に用いる開始剤としてカチオン開始剤又はアニオン開始剤を用いるが、1,6-無水糖、1,4-無水糖、1,3-無水糖、1,2-無水糖、3,5-無水糖、5,6-無水糖の場合にはカチオン開始剤を用い、1,2-無水糖、5,6-無水糖の場合にはアニオン開始剤を用いる。
カチオン開始剤としては、スルフォニウムアンチモネートなどの熱カチオン開始剤や光カチオン開始剤、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、五塩化アンチモン、五フッ化リンなどのルイス酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのブレンステッド酸を好ましく用いることができる。
アニオン開始剤としては、KOHなどの水酸化物、tert-BuOKやZn(OCH3)nなどの金属アルコラートが好ましい。
多分岐多糖製造反応における開始剤の使用量は原料(無水糖)に対して5wt%以下であり、好ましくは1wt%以下である。
有機溶媒としては、プロビレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルイミダゾリジノン、1,4-ジオキサンなどの非プロトン性極性溶媒を用いることができる
多分岐多糖製造反応に際しては、無水糖と有機溶媒を加温下で良く混合、溶解し、その後、開始剤を加える。溶媒を用いない場合は、無水糖を熱で融解し、その後、開始剤を加える。
【0008】
本発明の多分岐多糖は下式(化6)
【化6】
で表される形態をしているものと考えられる(この一般式(化6)中、Rは上記と同様である。)。即ち、原料である糖の1,4-、1,3-、1,2-、5,6-、3,5-のアンヒドロ結合が開環し他の糖の水酸基と結合し、分岐したポリマーを構成すると考えられる。なお、この式中のRには開始剤や反応溶媒中の金属などが置換している場合もある。例えば、化4や5の化合物において、KOHなどの開始剤で重合するとRとしてカリウムイオンが残り、また、化1〜5の化合物からの重合体をNaOHやKOH水溶液に溶かすと水酸基のプロトンが金属イオンに変わる。
【0009】
このようなポリマー(多分岐多糖)は、分岐度が高く(1に近い)、樹枝状に近い形をしており、分岐鎖からもさらに分岐が出来ていると考えられる。一方、特開平8−41104や特開平8−277303に分岐状多糖が開示されているが、1,6-位で反応する前の糖はほとんどのものが直鎖状であり、処理後は松の葉状の分岐多糖であり、直鎖状の多糖に短い側鎖(単糖やオリゴ糖)が結合しており、1,6-位分岐鎖にさらなる分岐は無いと考えられる。従って、これらの多糖の分岐度は本発明のものよりかなり低いと考えられる。
【0010】
【発明の効果】
本発明によれば、水溶性の多分岐多糖を再現性良く、かつ、大量に合成することが出来、これにより工業的規模で多分岐多糖を機能材料として使用することを可能とするものである。さらに、本発明はアミロペクチンなどの天然分岐多糖からの調達では不可能であった分子量や分岐度の調製が可能となり、用途に応じた多分岐多糖を調達できる。
【0011】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
実施例1
本実施例では、1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノースの溶液重合を行った。
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノース(1.3g, 東京化成)、乾燥プロピレンカーボネート(3.2mL、アルドリッチ、モノマー濃度 2.5 mol・dL-3)、及び熱開始剤として66wt% 2-ブチニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(17.1μL、旭電化工業)を入れ、オイルバスで100℃に加熱して1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノースを溶解させた後、さらに130℃まで加温して重合を開始した。30分後、重合溶液をメタノール中に注ぎ重合を停止した。溶媒を留去後、水、メタノールで再沈殿することにより精製した。 収量0.41g、収率31.8%。比旋光度 [α]D +89.9° (c 1.0, H2O, 23 ℃)。重量平均分子量 2,400(SEC, 0.2 % 硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分散度1.7。
【0012】
生成物の1H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトルをそれぞれ図1及び図2に示す。直鎖の多糖ではアノマー位(C1)の炭素由来のピークが一本しか現れないのに対し、本発明の多糖では数本に分裂(100ppm付近)しており(図2、後述の図4と6においても同様。)、多種の結合様式で多糖が生成していること、同様にその他の炭素のピークも数本に分裂していることから、生成多糖は多分岐状になっていることがわかる。SEC法で測定した重量平均分子量が静的光散乱法で測定した重量平均分子量によりも小さく出る。この傾向は、ポリマーの有効体積の違いによるもので、多分岐ポリマーで良く観測される。
【0013】
実施例2
本実施例では、1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノースの塊状重合を行った。
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノース(1.6g、東京化成)を入れ、オイルバスで180°Cに加熱して1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノースを融解させた後、熱開始剤として66wt% 2-ブチニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(17.1μL、旭電化工業)を添加して重合を開始した。1分後、生成物をメタノール中に落として重合を停止した。溶媒を留去後、水、メタノールで再沈殿することにより精製した。 収量0.74g、収率46.3%。比旋光度 [α]D +87.0° (c 1.0, H2O, 23 ℃)。重量平均分子量 4,300(SEC, 0.2wt% 硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分散度1.3。重量平均分子量 9,400(静的光散乱測定法, 0.1 mol・dL-3 塩化ナトリウム水溶液、25℃)。生成物の各種溶媒に対する溶解度(濃度:30mg/mL、溶解時間:1時間)を表1に示す。
【0014】
【表1】
表中、○は室温で溶解、×は不溶を表し、各略号はDMSO: ジメチルスルホキシド、1,4-DO: 1,4-ジオキサン、Pc: プロピレンカーボネート , Ec: エチレンカーボネート, DMI: 1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを表す。サンプル資料は1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノースの塊状重合(上記)によって得た。
生成物の1H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトルをそれぞれ図3及び図4に示す。
【0015】
実施例3
本実施例では、1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノースの溶液重合(その1)を行った。
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノース(2.2g、D-マンノースから合成)、乾燥プロピレンカーボネート(4.3mL、アルドリッチ、モノマー濃度3.2 mol・dL-3)、及び熱開始剤として66wt% 2-ブチニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(14.2μL、旭電化工業)を入れ、オイルバスで100℃に加熱して1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノースを溶解させた後、さらに130℃まで加温して重合を開始した。20分後、重合溶液をメタノール中に注ぎ重合を停止した。溶媒を留去後、水、メタノールで再沈殿することにより精製した。 収量1.22g、収率56.6%。比旋光度 [α]D +50.2° (c 1.0, H2O, 23 ℃)。重量平均分子量 2,800(SEC, 0.2% 硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分散度1.8。生成物の各種溶媒に対する溶解度を表2に示す。
【0016】
【表2】
但し、濃度 : 30mg/mL、溶解時間 : 1時間。○は室温で溶解、△は90℃で溶解、×は不溶。DMSO: ジメチルスルホキシド、1,4-DO: 1,4-ジオキサン、Pc: プロピレンカーボネート , Ec: エチレンカーボネート, DMI: 1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン。サンプル資料は1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノースの溶液重合(上記)によって得た。
生成物の1H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトルをそれぞれ図5及び図6に示す。
【0017】
実施例4
本実施例では、1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノースの溶液重合(その2)を行った。
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノース(1.7g、D-マンノースから合成)と乾燥プロピレンカーボネート(3.5mL、アルドリッチ、モノマー濃度3.0 mol・dL-3)を入れ、オイルバスで90°Cに加熱して1,6-アンヒドロ-β-D-マンノピラノースを溶解させた後、熱開始剤として66wt% 3-メチル-2-ブチニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(11.4μL、旭電化工業)を添加して重合を開始した。20分後、重合溶液をメタノール中に注ぎ重合を停止した。溶媒を留去後、水、アセトンで再沈殿することにより精製した。 収量1.11g、収率63.8%。比旋光度 [α]D +6.9° (c 1.0, H2O, 23 ℃)。
【0018】
実施例5
本実施例では、1,6-アンヒドロ-β-D-ガラクトピラノースの溶液重合を行った。
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6-アンヒドロ-β-D-ガラクトピラノース(0.8g、東京化成)、乾燥プロピレンカーボネート(5.0mL、アルドリッチ、モノマー濃度 1.0 mol・dL-3)、及び熱開始剤として66wt% 2-ブチニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(10.5μL、旭電化工業)を入れ、オイルバスで100°Cに加熱して1,6-アンヒドロ-β-D-ガラクトピラノースを溶解させた後、さらに130°Cまで加温して重合を開始した。40分後、重合溶液をメタノール中に注ぎ重合を停止した。溶媒を留去後、水、メタノールで再沈殿することにより精製した。 収量0.29g 収率36.8%。比旋光度 [α]D +87.8° (c 1.0, H2O, 23 ℃)。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で作製した多分岐多糖の400MHz 1H NMR(溶媒:重水、25℃)の測定スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で作製した多分岐多糖の75MHz 13C NMR(溶媒:重水、25℃)の測定スペクトルを示す図である。
【図3】実施例2で作製した多分岐多糖の400MHz 1H NMR(溶媒:重水、25℃)の測定スペクトルを示す図である。
【図4】実施例2で作製した多分岐多糖の75MHz 13C NMR(溶媒:重水、25℃)の測定スペクトルを示す図である。
【図5】実施例3で作製した多分岐多糖の400MHz 1H NMR(溶媒:重水、25℃)の測定スペクトルを示す図である。
【図6】実施例3で作製した多分岐多糖の75MHz 13C NMR(溶媒:重水、25℃)の測定スペクトルを示す図である。
Claims (4)
- 前記炭化水素基が、アルキル基、アリール基又はアルキルアリール基である請求項1に記載の多分岐多糖。
- 前記炭化水素基が、アルキル基、アリール基又はアルキルアリール基である請求項3に記載の製法。
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