JP4168721B2 - 高強度鋼材及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度鋼材及びその製造方法に関する。特に、本発明は、自動車や各種の産業機械に用いられる構造部材の素材、なかでも自動車の足廻り部品に代表される構造部材の素材として好適な、伸びフランジ加工性に優れるとともに耐切り欠き疲労特性にも優れた480MPa以上の引張強度を有する高強度鋼材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高強度鋼材は、自動車を初めとする輸送用機械や各種産業機械の構造部材の素材として広く使用されており、経済性の観点からプレス加工等の成形加工によって所定の形状に加工されることが多い。このため、高強度鋼材には優れた加工性が要求される。なお、以下の説明において、「鋼材」の例として「鋼板」と記載することがある。
【0003】
一方、近年、特に地球環境の保護という観点から、自動車の各種部材を高強度・薄肉化して車体重量を軽減し、燃費を向上させたり炭酸ガス等の排出を規制することが検討されている。自動車の各種部材の中でも特にバネ下部材となるホイールや足廻り部品を軽量化することによって、車体重量の軽減が極めて有効に行える。
【0004】
上記ホイールや足廻り部品には打ち抜きなどの剪断加工が施されるため、その素材用鋼板には、高い強度は勿論のこと、優れた加工性、なかでも良好な伸びフランジ加工性及び大きな疲労強度、特に、大きな切り欠き疲労強度が要求される。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には伸びフランジ加工性を含めた加工性と耐疲労特性に優れた高強度鋼板が開示されている。すなわち、特許文献1にはフェライトを主相としたTi−Cu析出強化鋼が、又、特許文献2にはフェライト中に硬質のベイナイトとマルテンサイトとを含むトライフェイズ鋼が提案されており、いずれの場合も、加工性及び伸びフランジ加工性を確保するために主相であるフェライトの面積率を50%以上としているのが特徴である。
【0006】
しかし、加工性と伸びフランジ加工性の向上のために、フェライトを増加させた場合には、強度と疲労強度、なかでも切り欠き疲労強度の確保が難しい。
【0007】
鋼板の加工性を維持しつつ、強度と疲労強度を高めるにはフェライトの微細化が有効であり、例えば特許文献3や特許文献4には、Ti又はNb添加によるオーステナイト粒の再結晶抑制効果によってフェライトを微細にする技術が開示されている。TiやNbを添加すればこれらの元素の析出強化による高強度化が同時に図れるという利点もある。
【0008】
上記TiとNbのうちでTiは安価な元素であり、且つ、添加量に対する強度上昇量がNbに比べて大きい。このため、フェライトの細粒化及び高強度化の目的からは、Tiを多量添加することが一般的となっている。
【0009】
【特許文献1】
特開平6−287685号公報
【特許文献2】
特開平8−188847号公報
【特許文献3】
特開平9−143570号公報
【特許文献4】
特開平10−8138号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
Tiを添加してフェライトの微細化や析出強化を利用すると、フェライトの微細化や強化に寄与する微細なTiCの他にTiNが生成する。このTiNのうちでも晶出したTiNは、TiCが数十nmの微細な析出物であるのに対し、高温で生成するためにその大きさは0.1〜20μmと粗大であり、フェライトの微細化や強度上昇には全く寄与しない。更に、このTiNは粗大であるために伸びフランジ加工性や耐切り欠き疲労特性の低下を招く。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、その目的は、自動車や各種の産業機械に用いられる構造部材の素材、特に自動車の足廻り部品に代表される構造部材の素材として好適な、優れた伸びフランジ加工性及び大きな切り欠き疲労強度を有する高強度鋼材(鋼板)及びその製造方法を提供することである。具体的には、TiN系粒子、なかでも晶出型TiN系粒子の寸法及び量を適正化することで、Tiの析出強化及びTiによるフェライトの微細化を利用し、高強度で加工性を確保しつつ、伸びフランジ加工性及び耐切り欠き疲労特性に優れた引張強度480MPa以上の高強度熱間圧延鋼板及びその製造方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)〜(10)に示す高強度鋼材及び(11)〜(19)に示す高強度鋼材の製造方法にある。
【0013】
(1)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.2〜3.5%、P:0.005〜0.10%、S:0.0070%以下、Al:0.001〜2.0%、Ti:0.01〜0.2%、N:0.0004〜0.0100%を含有し、残部がFe及び不純物からなる高強度鋼材であって、晶出型TiN系粒子の平均粒径が7μm以下であることを特徴とする高強度鋼材。
【0014】
(2)Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.1%以下及びV:0.2%以下の1種以上を含有する上記(1)に記載の高強度鋼材。
【0015】
(3)Feの一部に代えて、質量%で、Mo:1.0%以下、Ni:1.0%以下及びCu:1.0%以下から選択される1種以上を含有する上記(1)又は(2)に記載の高強度鋼材。
【0016】
(4)Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下及びB:0.0005〜0.003%の1種以上を含有する上記(1)から(3)までのいずれかに記載の高強度鋼材。
【0017】
(5)Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.0002〜0.01%、Mg:0.0002〜0.01%及びREM(希士類元素):0.0002〜0.01%から選択される1種以上を含有する上記(1)から(4)までのいずれかに記載の高強度鋼材。
【0018】
(6)晶出型TiN系粒子の平均粒径が0.1〜3μmであることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の高強度鋼材。
【0019】
(7)板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の15%までの範囲にある板厚中心領域において、晶出型TiN系粒子のうちの粒径が2.0μm以上であるものの平均粒子間隔が150μm以上である上記(1)から(6)までのいずれかに記載の高強度鋼材。
【0020】
(8)板厚断面において、晶出型TiN系粒子の面積率が0.02〜0.5%であることを特徴とする上記(1)から(7)までのいずれかに記載の高強度鋼材。
【0021】
(9)平均粒径が20μm以下であるフェライトの面積率が50%以上であることを特徴とする上記(1)から(8)までのいずれかに記載の高強度鋼材。
【0022】
(10)フェライトの平均粒径が1.1〜5μmであることを特徴とする上記(1)から(9)までのいずれかに記載の高強度鋼材。
【0023】
(11)高強度鋼材の製造方法であって、上記(1)から(5)までのいずれかに記載の化学組成を有する溶鋼を鋳造して鋼塊とする際、溶鋼の液相線温度から1300℃の温度範囲における前記鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.4℃/秒以上とする工程を製造工程中に含む高強度鋼材の製造方法。
【0024】
(12)鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度が2〜7℃/秒である上記(11)に記載の高強度鋼材の製造方法。
【0025】
(13)上記(11)又は(12)に記載の鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度で冷却した鋼塊を、仕上げ温度を(Ar点−100℃)〜1000℃で熱間圧延し、次いで10℃/秒以上の平均冷却速度で730℃以下の温度域まで冷却し、その後巻き取る上記(11)又は(12)に記載の高強度鋼材の製造方法。
【0026】
(14)上記(11)又は(12)に記載の鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度で冷却した鋼塊を、仕上げ温度を(Ar点−100℃)〜1000℃で熱間圧延した後、10℃/秒以上の平均冷却速度で730〜600℃の温度域まで冷却し、次いで、2〜15秒間空冷し、その後更に15℃/秒以上の平均冷却速度で600℃未満まで冷却してから巻き取る上記(11)から(13)のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
【0027】
(15)溶鋼を鋳造して鋼塊とする際、鋼塊の未凝固層が鋼塊の厚みの30%以下になった部位に圧下又は電磁撹拌を施す上記(11)から(14)のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
【0028】
(16)熱間仕上げ圧延における全圧下率が85%以上である上記(11)から(15)のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
【0029】
(17)熱間圧延を仕上げてから1秒以内に冷却を開始し、50℃/秒以上の平均冷却速度で730℃まで冷却する上記(11)から(16)のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
【0030】
(18)粗圧延した後の粗バーを加熱又は保熱してから行う熱間仕上げ圧延工程を含む上記(11)から(17)のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
【0031】
(19)熱間圧延が潤滑剤を用いて行う圧延である上記(11)から(18)のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
【0032】
「TiN系粒子」は、製鋼段階、溶鋼中、スラブの凝固過程、熱間圧延やその後の冷却過程、更には熱間巻き取り過程等で生成するTiとNとを含有する粒子で、晶出型のものと析出型のものがあり、鋼中にNbが含有される場合のいわゆる(Ti、Nb)Nとして表記されるものを含む。
【0033】
本発明でいう「晶出型TiN系粒子」の定義は、上記TiN系粒子のうちで、Al系酸化物や鋼中にCaが含有される場合のCa系酸化物などを核として生成するもので、後述の「粒径」が0.1〜20μm程度の粗大なものとする。通常その「粒径」が高々30nm程度である「析出型のTiN系粒子」とは容易に区別されるものである。
【0034】
本発明でいう「フェライト」には、いわゆる「ベイニティックフェライト」を含むものとする。なお、「ベイニティックフェライト」とは、下部組織として、ラス状の組織を有するが、通常のベイナイト組織とは異なり、セメンタイトが存在しない組織、又は、明瞭なサブグレイン組織を持たない転位密度の高いフェライトのことをいう。
【0035】
「粒径」とは、個々の粒子である晶出型TiN系粒子やフェライトの短径と長径の和の1/2で定義される値を指し、又、「平均粒径」とは上記粒径の算術平均を指す。
【0036】
具体的には、前記晶出型TiN系粒子やフェライトは、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡及び、例えば、加速電圧が100〜200kVの透過電子顕微鏡を用いて観察することができるので、観察によって得られた像を画像解析して短径と長径を測定し、その和の1/2から各晶出型TiN系粒子やフェライトの粒径を求めることができる。一方、上記のようにして100視野観察して求めた個々の粒子の粒径を算術平均したものを「平均粒径」と規定する。
【0037】
晶出型TiN系粒子の「平均粒子間隔」とは、個々の晶出型TiN系粒子の最も短い間隔を粒子間隔とし、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡や透過電子顕微鏡などを用いて、100視野観察して求めた個々の粒子間隔を算術平均したものを指す。
【0038】
晶出型TiN系粒子やフェライトの面積率とは、上記と同様の観察法によって得られた100視野観察分の面積に対する晶出型TiN系粒子やフェライトの面積割合を指す。
【0039】
「REM(希土類元素)」は、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計含有量を指す。
【0040】
「鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度」とは鋳型内や連続鋳造機内で凝固シェルを形成して内部が溶融状態にある場合を含めて鋼塊と呼ぶ場合の、鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面における表面部から中心部の全領域における冷却速度の平均値をいう。
【0041】
「空冷」とは、大気中放冷及び強制空冷を指す。
【0042】
「%単位」での全圧下率とは{(圧延前の被圧延材の厚さ−圧延後の被圧延材の厚さ)/(圧延前の被圧延材の厚さ)}×100で表される値をいう。
【0043】
以下、上記(1)〜(10)の高強度鋼材に係る発明及び(11)〜(19)のその製造方法に係る発明をそれぞれ(1)〜(19)の発明という。
【0044】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前記した目的を達成するために、鋼板における晶出型TiN系粒子及びフェライトが伸びフランジ加工性と耐切り欠き疲労特性に及ぼす影響について種々検討を行った。その結果、下記(a)〜(j)の知見を得た。
【0045】
(a)伸びフランジ加工性と耐切り欠き疲労特性は、一般にポンチ、ダイスで鋼板に円状の穴を打ち抜き、その打ち抜き穴の穴拡げ性試験と、打ち抜き穴を設けた試験片の疲労試験によって評価することができる。
【0046】
(b)打ち抜き穴部における断面の破面性状が悪い、換言すれば断面部の凹凸が著しい場合、その部位に応力集中が生じて早期に亀裂が発生する。このため、伸びフランジ加工性と耐切り欠き疲労特性は、前記打ち抜き穴部断面の破面性状や亀裂発生挙動に大きく支配される。
【0047】
(c)TiN系粒子は、フェライト、ベイナイトやマルテンサイトなどに比べて非常に高強度であり、それ自体全く変形することができない。そのため、打ち抜きの様に局所的な塑性変形が生じる場合、素地とTiN系粒子、なかでも晶出型TiN系粒子との界面には必ずボイドが発生する。
【0048】
(d)上記ボイドの大きさは、晶出型TiN系粒子の粒径に比例して大きくなる。
【0049】
(e)局所変形により生じたボイドは、後に鋼板の上部及び下部から発生した亀裂と合体して最終的な打ち抜き断面を形成するので、ボイドの大きさ、したがって、晶出型TiN系粒子の粒径が大きくなる程、打ち抜き断面部の破面性状が悪化する。
【0050】
(f)晶出型TiN系粒子が存在してもそれが微細な場合には、晶出型TiN系粒子が全く存在しない場合に比べて、鋼板打ち抜き断面部の破面性状は向上する。
【0051】
(g)晶出型TiN系粒子が微細な場合、打ち抜き時の鋼板の局所変形帯におけるボイドの発生箇所は、最も歪の高い部分のみに限定され、更に、発生するボイドも極めて小さくなる。そして、鋼板の上部及び下部から発生した亀裂は、微細な晶出型TiN系粒子によって生じた極めて狭い領域内の小さなボイドを伝搬するように進展する。このため、打ち抜き破断面を形成する亀裂は蛇行することなく、破断面は、ほぼ直線状に形成される。
【0052】
(h)晶出型TiN系粒子が全く存在しない場合、鋼板の上部及び下部から発生した亀裂は、局所変形内で蛇行しながら進展する。そのため、破断面も凹凸が著しくなり、破面性状が悪化する。
【0053】
(i)したがって、Ti析出強化鋼において晶出型TiN系粒子の粒径と数量、つまり面積率を制御することが、伸びフランジ加工性や耐切り欠き疲労特性を向上させるために極めて重要である。
【0054】
(j)フェライトの平均粒径と面積率を制御することによって伸びフランジ加工性と耐切り欠き疲労特性を高めることができる。
【0055】
前記(1)〜(19)の本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0056】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)高強度鋼材の化学組成
C:0.03〜0.20%
Cは、TiCによる析出強化、フェライトの微細化、更には、フェライト以外の第2相による強度確保のために必要な元素である。しかし、その含有量が0.03%未満では所望の480MPa以上の引張強度が確保できない。一方、0.20%を超えると溶接性が低下する。したがって、Cの含有量を0.03〜0.20%とした。
【0057】
Si:0.01〜2.0%
Siは、固溶強化によって鋼板の強度を高める元素である。しかし、その含有量が0.01%未満では上記の効果が得難い。一方、Si含有量が多くなると、鋼表面に生成する酸化スケールが過度になって製造上の困難を伴い、特に、その含有量が2.0%を超えると鋼表面に生成する酸化スケールが極めて過多になる。したがって、Siの含有量を0.01〜2.0%とした。
【0058】
Mn:0.2〜3.5%
Mnは、鋼の強度を上昇させるのに有効な元素であるが、その含有量が0.2%未満では十分な強度が得られず、一方、3.5%を超えると鋼塊中心偏析部の他に鋼塊組織のデンドライト1次アーム間隔内にもMnが濃化して圧延後にバンド組織を形成するため伸びフランジ加工性の著しい低下をきたす。したがって、Mnの含有量を0.2〜3.5%とした。
【0059】
P:0.005〜0.10%
Pは固溶強化として働く元素であり、高強度化のために有効である。しかし、その含有量が0.005%未満では上記の効果が得難い。一方、Pは偏析し易い元素であるため多量に添加した場合には、加工性の低下を招き、特に、その含有量が0.10%を超えると偏析が著しくなって加工性の低下が極めて大きくなる。したがって、Pの含有量を0.005〜0.10%とした。
【0060】
S:0.0070%以下
Sは、伸びフランジ加工性を低下させる硫化物を生成するため、可能な限り低減する必要がある。しかし、本発明においては、他の成分元素添加による伸びフランジ加工性の向上度合と製鋼コストを考慮して、その含有量の上限を0.0070%とした。
【0061】
Al:0.001〜2.0%
Alは、鋼の脱酸に有用な元素である。その効果を得るには、少なくとも0.001%の含有量が必要である。一方、その含有量が2.0%を超えると、粗大なアルミナ系介在物が増加して、伸びフランジ加工性及び耐疲労特性が著しく低下する。したがって、Alの含有量を0.001〜2.0%とした。なお、Alを0.1%以上含有させると、フェライトの生成が促進され、加工性、なかでも伸びフランジ加工性が向上するので、鋼板特性で伸びフランジ加工性が重視される場合には、Al含有量の下限値は0.1%とすることが好ましい。
【0062】
Ti:0.01〜0.2%
Tiは、本発明において最も重要な元素である.0.01%未満では、析出強化として効果のあるTiCの量が少なく強度上昇の効果がない。又、0.2%以上含有させてもこれらの効果は飽和する。したがって、Tiの含有量を0.01〜0.2%とした。
【0063】
N:0.0004〜0.0100%
Nは、Tiを添加した鋼においてTiとともにTiN系粒子を形成する。しかし、Nの含有量が0.0004%未満の場合、晶出型TiN系粒子がほとんど生成しないので、打ち抜き時において亀裂は局所変形内で蛇行しながら進展し、そのため破面性状が悪化して耐切り欠き疲労特性が低下する。一方、その含有量が0.0100%を超えると、粗大な晶出型TiN系粒子が多く生成して伸びフランジ加工性が低下し、耐疲労特性、特に耐切り欠き疲労特性が著しく低下する。したがって、Nの含有量を0.0004〜0.0100%とした。
【0064】
前記(1)の発明に係る高強度鋼材の化学組成は、上記のCからNまでの元素と、残部がFe及び不純物からなるものである。
【0065】
前記(2)の発明に係る高強度鋼材の化学組成は、析出強化によって強度を一層高めることを目的として、上記(1)の発明の鋼のFeの一部に代えて、Nb:0.1%以下及びV:0.2%以下の1種以上を含むものである。
【0066】
上記のNbとVはいずれも析出強化によって強度を一層高める作用を有するので、NbとVは、以下に述べる範囲内でそれぞれを単独で含有させてもよいし、複合して含有させてもよい。
【0067】
Nb:0.1%以下、V:0.2%以下
Nb及びVは、Tiと同様に析出強化によって強度を高める元素である。この効果を確実に得るには、NbとVはいずれも0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Nbは0.1%を超えて、又、Vは0.2%を超えて含有すると延性の低下をきたし、更に、原料コストの上昇も著しくなる。したがって、NbとVを添加する場合には、その含有量はそれぞれ0.1%以下、0.2%以下とするのがよい。
【0068】
前記(3)の発明に係る高強度鋼材の化学組成は、固溶強化によって強度を一層高めることを目的として、上記(1)又は(2)の発明の鋼のFeの一部に代えて、Mo:1.0%以下、Ni:1.0%以下及びCu:1.0%以下から選択される1種以上を含むものである。
【0069】
上記のMoからCuまでのいずれの元素も固溶強化によって強度を一層高める作用を有するので、MoからCuまでの元素は、以下に述べる範囲内でそれぞれを単独で含有させてもよいし、2種以上を複合して含有させてもよい。
【0070】
Mo:1.0%以下、Ni:1.0%以下
MoとNiは固溶強化による高強度化に有効な元素である。この効果を確実に得るには、MoとNiはいずれも0.05%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、MoとNiのいずれも1.0%を超えて含有すると延性の低下をきたし、更に、原料コストの上昇も著しくなる。したがって、MoとNiを添加する場合には、その含有量はいずれも1.0%以下とするのがよい。
【0071】
Cu:1.0%以下
Cuも固溶強化による高強度化に有効な元素である。Cuには、耐疲労特性を高める作用もある。更に、熱処理によってε−Cuとして析出し、強度を高める作用も有する。これらの効果を確実に得るには、Cuは0.05%以上の含有量とすることが好ましい。一方、その含有量が1.0%を超えても前記した効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Cuを添加する場合には、その含有量は1.0%以下とするのがよい。
【0072】
前記(4)の発明に係る高強度鋼材の化学組成は、焼入れ性を向上させて強度を一層高めることを目的として、上記(1)から(3)までのいずれかの発明の鋼のFeの一部に代えて、Cr:1.0%以下及びB:0.0005〜0.003%の1種以上を含むものである。
【0073】
上記のCrとBはいずれも焼入れ性を向上させて強度を一層高める作用を有するので、CrとBは、以下に述べる範囲内でそれぞれを単独で含有させてもよいし、複合して含有させてもよい。
【0074】
Cr:1.0%以下
Crは、焼入れ性を向上させて、所望の組織を生成するのに有利に作用し、高強度化に有効な元素である。この効果を確実に得るには、Crは0.1%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が1.0%を超えても前記した効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Crを添加する場合には、その含有量は1.0%以下とするのがよい。
【0075】
B:0.0005〜0.003%
Bは、微量で焼入れ性を向上させ、高強度化に有効な元素である。この効果を確実に得るには、Bは0.0005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.003%を超えても前記した効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Bを添加する場合には、その含有量は0.0005〜0.003%とするのがよい。
【0076】
前記(5)の発明に係る高強度鋼材の化学組成は、晶出型TiN系粒子の核となる酸化物を形成し、晶出型TiN系粒子を微細分散化して伸びフランジ加工性及び耐切り欠き疲労特性を一層向上させることを目的として、上記(1)から(4)までのいずれかの発明の鋼のFeの一部に代えて、Ca:0.0002〜0.01%、Mg:0.0002〜0.01%及びREM(希土類元素):0.0002〜0.01%から選択される1種以上を含有するものである。
【0077】
上記のCaからREMまでのいずれの元素も晶出型TiN系粒子の核となる酸化物を形成し、晶出型TiN系粒子を微細分散化して伸びフランジ加工性及び耐切り欠き疲労特性を一層向上させる作用を有するので、CaからREMまでの元素は、以下に述べる範囲内でそれぞれを単独で含有させてもよいし、2種以上を複合して含有させてもよい。
【0078】
ここで、REMは、前述のとおりSc、Y及びランタノイドの合計17元素を指し、ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。なお、本発明でいうREMの含有量が上記元素の合計含有量を指すことは既に述べたとおりである。
【0079】
Ca:0.0002〜0.01%、Mg:0.0002〜0.01%、REM(希土類元素):0.0002〜0.01%
Ca、Mg及びREMは、いずれも晶出型TiN系粒子の核となる酸化物を形成し、晶出型TiN系粒子を微細分散化して伸びフランジ加工性及び耐切り欠き疲労特性を一層向上させる元素である。この効果を確実に得るには、Ca、Mg及びREMのいずれも0.0002%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、上記各元素の含有量がいずれも0.01%を超えると、酸化物として消費される量を超えるので効果を持たず、このためコストが嵩むだけである。したがって、Ca、Mg及びREMを添加する場合には、その含有量はいずれも0.0002〜0.01%とするのがよい。
【0080】
又、Ca、Mg及びREMは、上記の適正範囲で含有させた場合、いずれもMnSの性質を変化させる特性があり、熱延時に展伸しにくい介在物を形成して加工性の低下を防止する効果を有する。
【0081】
なお、MnSによる加工性の低下を防止するためZrを添加することができる。その効果を確実に得るには、Zrは0.0002%以上の含有量とすることが好ましい。なお、Zrの上記効果も0.01%の含有量で飽和する。
(B)高強度鋼板における晶出型TiN系粒子とフェライト
前記(1)〜(5)の発明に係る高強度鋼材は、その鋼材中に存在する晶出型TiN系粒子の平均粒径が7μm以下でなければならない。
【0082】
晶出型TiN系粒子の平均粒径が7μmを超える場合、鋼板に打ち抜きなどの剪断加工が施されると、局所変形で生じたボイドが大きくなり過ぎ、打ち抜き穴部における断面の破面性状が悪化して亀裂が早期に発生して伸びフランジ加工性及び耐切り欠き疲労特性が低下する。したがって、先ず第1に晶出型TiN系粒子の平均粒径を7μm以下とした。
【0083】
既に述べたように、「粒径」とは個々の粒子である晶出型TiN系粒子やフェライトの短径と長径の和の1/2で定義される値を指し、「平均粒径」とは100視野観察して求めた個々の粒子の粒径を算術平均したものを指す。
【0084】
なお、晶出型TiN系粒子やフェライトは、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡及び、例えば、加速電圧が100〜200kVの透過電子顕微鏡を用いて観察することができるので、観察によって得られた像を画像解析して短径と長径を測定し、その和の1/2から各晶出型TiN系粒子やフェライトの粒径を求めることができる。
【0085】
前記晶出型TiN系粒子はAl系酸化物や鋼中にCaが含有される場合のCa系酸化物などを核として生成するもので、「粒径」が0.1〜20μm程度の粗大なものであり、通常その「粒径」が高々30nm程度である「析出型のTiN系粒子」とは容易に区別されるものである。
【0086】
したがって、(1)〜(5)の発明に係る高強度鋼材においては、その鋼材中に存在する晶出型TiN系粒子の平均粒径を7μm以下と規定した。前述の晶出型TiN系粒子の個々の粒径の下限値と同様に、晶出型TiN系粒子の平均粒径の下限値も0.1μm程度であっても構わない。
【0087】
上記晶出型TiN系粒子の平均粒径が0.1〜3μmの場合、微細な晶出型TiN系粒子による鋼板打ち抜き断面部の破面性状の向上効果が発揮され、伸びフランジ加工性及び耐切り欠き疲労特性が一層向上する。したがって、(6)の発明に係る高強度鋼材においては、晶出型TiN系粒子の平均粒径を0.1〜3μmとした。
【0088】
なお、鋼塊中心部の冷却速度は表面部のそれに比べて遅い。このため、高強度鋼材には板厚中心部に近いほど粗大な晶出型TiN系粒子が多く存在するようになる。そして、この板厚中心近傍の晶出型TiN系粒子の粒径の分布が、破面性状に大きな影響を及ぼすこととなるが、板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の15%までの範囲にある板厚中心領域において、前記晶出型TiN系粒子のうちの粒径が2.0μm以上であるものの平均粒子間隔が150μm以上の場合には、鋼板打ち抜き断面部の破面性状は極めて良好である。したがって、(7)の発明に係る高強度鋼材においては、板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の15%までの範囲にある板厚中心領域において、前記晶出型TiN系粒子のうちの粒径が2.0μm以上であるものの平均粒子間隔を150μm以上と規定した。
【0089】
晶出型TiN系粒子のうちの粒径が2.0μm以上であるものの平均粒子間隔の上限は板厚との関係から1000μm程度とするのがよい。
【0090】
既に述べたように、晶出型TiN系粒子の「平均粒子間隔」とは、個々の晶出型TiN系粒子の最も短い間隔を粒子間隔とし、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡や透過電子顕微鏡などを用いて、100視野観察して求めた個々の粒子間隔を算術平均したものを指す。
【0091】
晶出型TiN系粒子による鋼板打ち抜き断面部の破面性状の向上効果をより確実に高めるためには、板厚断面において、前記晶出型TiN系粒子の面積率を0.02〜0.5%とするのがよい。これは、晶出型TiN系粒子の面積率が0.02%未満であると微細な晶出型TiN系粒子による打ち抜き断面部の破面性状向上効果が減少する場合があり、又、0.5%を超えると打ち抜きで生じる微細なボイドが連結して粗大なボイドになり、打ち抜き断面部の破面性状が劣化する場合があるためである。したがって、(8)の発明に係る高強度鋼材においては、板厚断面において、晶出型TiN系粒子の面積率を0.02〜0.5%と規定した。
【0092】
なお、高強度鋼板の組織に関し、フェライトの面積率が50%未満であると、伸びが低下して加工性が低下する場合がある。又、打ち抜き穴部から発生した疲労亀裂は、軟質な相であるフェライトを積極的に進展するためフェライトの平均粒径が大きくなると、粒界での亀裂停留効果が少なくなって亀裂が進展しやすくなり、特に、フェライトの平均粒径が20μmを超えると、加工性及び伸びフランジ加工性は向上するものの、耐切り欠き疲労特性が低下する場合がある。このため、前記(1)〜(8)の発明に係る高強度鋼材の組織は、平均粒径が20μm以下であるフェライトの面積率を50%以上とするのがよい。
【0093】
したがって、(9)の発明に係る高強度鋼材においては、平均粒径が20μm以下であるフェライトの面積率を50%以上と規定した。
【0094】
フェライト「平均粒径」の導出の基礎となるフェライトの個々の粒径の下限値及び上限値は特に規定する必要はないが、加速電圧が100〜200kVの透過電子顕微鏡で観察できる5nm程度を下限値としてもよく、1000μm程度を上限値としてもよい。
【0095】
ここで、晶出型TiN系粒子やフェライトの面積率が、100視野観察分の面積に対する晶出型TiN系粒子やフェライトの面積割合を指すことは既に述べたとおりである。
【0096】
又、本発明でいう「フェライト」には、いわゆる「ベイニティックフェライト」を含むことも既に述べたとおりである。
【0097】
なお、フェライトの面積率が50%以上である場合の残りの組織は、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトが変態せずに残ったいわゆる「残留オーステナイト」のいずれの組織でも構わない。各種の相の種類と面積率を調整することにより、所望の強度と加工性を得ることができる。
【0098】
なお、耐切り欠き疲労特性を極めて高めたい場合には、フェライトの平均粒径を1.1〜5μmとするのがよい。これは、フェライトの平均粒径を5μm以下にすることで耐切り欠き疲労特性は極めて良好になるものの、平均粒径が1.1μmを下回ると、降伏点(YP)が高くなり過ぎて加工性(成形性)が劣化する場合があるからである。したがって、(10)の発明に係る高強度鋼材においては、フェライトの平均粒径を1.1〜5μmと規定した。
(C)製造方法
高強度鋼材中に存在する晶出型TiN系粒子の平均粒径を7μm以下とするには、溶鋼を鋳造して鋼塊とする際、溶鋼の液相線温度から1300℃の温度範囲における前記鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.4℃/秒以上とする工程を製造工程中に含んでおりさえすればよい。
【0099】
したがって、(11)の発明においては、溶鋼を鋳造して鋼塊とする際、溶鋼の液相線温度から1300℃の温度範囲における前記鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.4℃/秒以上とする工程を製造工程中に含むものとした。「鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度」とは鋳型内や連続鋳造機内で凝固シェルを形成して内部が溶融状態にある場合を含めて鋼塊と呼ぶ場合の、鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面における表面部から中心部の全領域における冷却速度の平均値を指すことは、既に述べたとおりである。
【0100】
なお、上記した溶鋼の液相線温度から1300℃の温度範囲の平均冷却速度を2〜7℃/秒とすれば、上記晶出型TiN系粒子の平均粒径を容易に0.1〜3μmとすることができる。したがって、(12)の発明では、前記鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を2〜7℃/秒と規定した。
【0101】
溶鋼を鋳造して鋼塊とする際に、前述のように平均冷却速度を調整して得た鋼塊は、仕上げ温度を(Ar点−100℃)〜1000℃として熱間圧延し、次いで10℃/秒以上の平均冷却速度で730℃以下の温度域まで冷却し、その後巻き取るのがよい。(Ar点−100℃)以上の仕上げ温度を確保することで、不均一な加工フェライトの生成が少なくなるし、1000℃以下で仕上げることでフェライト量を確保することが可能となる。更に、熱間圧延を仕上げた後で、上記の冷却条件で冷却してから巻き取ることによって、フェライト粒を微細にすることができる。したがって、(13)の発明では、平均冷却速度を調整して得た鋼塊を、仕上げ温度を(Ar点−100℃)〜1000℃として熱間圧延し、次いで10℃/秒以上の平均冷却速度で730℃以下の温度域まで冷却し、その後巻き取ることとした。
【0102】
なお、前記の温度域で熱間圧延を仕上げた後、10℃/秒以上の平均冷却速度で730〜600℃の温度域まで冷却し、次いで、2〜15秒間空冷し、その後更に15℃/秒以上の平均冷却速度で600℃未満まで冷却してから巻き取ってもよい。この処理によってフェライトの面積率を増加させて加工性を向上させることもできるからである。したがって、(14)の発明では、平均冷却速度を調整して得た鋼塊を、仕上げ温度を(Ar点−100℃)〜1000℃として熱間圧延した後、10℃/秒以上の平均冷却速度で730〜600℃の温度域まで冷却し、次いで、2〜15秒間空冷し、その後更に15℃/秒以上の平均冷却速度で600℃未満まで冷却してから巻き取ることとした。
【0103】
溶鋼を鋳造して鋼塊とする際、鋼塊の未凝固層が鋼塊の厚みの30%以下になった部位に圧下又は電磁撹拌を施すのがよい。この処理によって、板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の15%までの範囲にある板厚中心領域において、晶出型TiN系粒子のうちの粒径が2.0μm以上であるものの平均粒子間隔を150μm以上とすることができるからである。したがって、(15)の発明では、溶鋼を鋳造して鋼塊とする際、鋼塊の未凝固層が鋼塊の厚みの30%以下になった部位に圧下又は電磁撹拌を施すこととした。
【0104】
上記の圧下に際しては、未凝固層に鋼塊厚さの5%以上の圧下量を加えることが好ましく、未凝固層の厚みに相当する圧下量を加えれば更に好ましい。なお、圧下又は電磁撹拌を施す場合の鋼塊の未凝固層の鋼塊の厚さに対する割合は1%以上であることが望ましい。
【0105】
フェライト粒径を確実に2.0μm以下にするためには、熱間仕上げ圧延における全圧下率は85%以上とするのがよい。したがって、(16)の発明では、熱間仕上げ圧延における全圧下率を85%以上とした。なお、%単位での全圧下率とは{(圧延前の被圧延材の厚さ−圧延後の被圧延材の厚さ)/(圧延前の被圧延材の厚さ)}×100で表される値をいうことは既に述べたとおりである。この圧下率の上限は特に規定する必要はなく、設備上可能な最大の圧下率であってもよい。
【0106】
特に、フェライト粒径をより確実に2.0μm以下にするためには、熱間圧延を仕上げてから1秒以内に冷却を開始し50℃/秒以上の平均冷却速度で730℃まで急冷するのがよい。したがって、(17)の発明では、熱間圧延を仕上げてから1秒以内に冷却を開始し50℃/秒以上の平均冷却速度で730℃まで冷却することとした。好ましくは650℃まで、更に好ましくは600℃まで冷却するのがよい。上記の冷却速度の上限は特に規定する必要はなく、設備能力と製品サイズから得られる最大の冷却速度であってもよい。
【0107】
熱間での仕上げ圧延は、粗圧延した後の粗バーを加熱又は保熱してから行うことが望ましい。粗バーを加熱又は保熱することによって、粗バー内の温度バラツキを低減することができ、仕上げ圧延後の鋼板の組織が一層均一になって特性が向上するからである。したがって、(18)の発明では、粗圧延した後の粗バーを加熱又は保熱してから行う熱間仕上げ圧延工程を含むこととした。
【0108】
熱間圧延は潤滑剤を用いて行うのがよい。潤滑剤を用いない場合、鋼板の表面部には圧下による板厚方向の歪と圧延方向の剪断歪の両方が加わり、鋼板内部に比べて歪量が大きくなって、歪によって導入される転位量が多くなり鋼板表面部のフェライト粒は微細化しやすくなる。これに対して潤滑剤を用いた場合には、圧延方向の剪断歪を減少することができ、したがって、鋼板の表面部と内部のフェライト粒径の差が小さくなり、一層加工性を向上させることができるからである。したがって、(19)の発明では、熱間圧延を潤滑剤を用いて行う圧延と規定した。
【0109】
なお、(1)〜(5)の発明に係る高強度鋼材は、(11)の発明に係る製造方法によって容易に得られる。
【0110】
(6)の発明に係る高強度鋼材は、(12)の発明に係る製造方法によって容易に得られる。
【0111】
(7)の発明に係る高強度鋼材は、(15)の発明に係る製造方法によって容易に得られる。
【0112】
(8)の発明に係る高強度鋼材は、(11)、(12)及び(15)の発明に係る製造方法によって容易に得られる。
【0113】
(9)の発明に係る高強度鋼材は、(13)及び(14)の発明に係る製造方法によって容易に得られる。
【0114】
(10)の発明に係る高強度鋼材は、(16)及び(17)の発明に係る製造方法によって容易に得られる。
【0115】
冷間圧延鋼板とする場合には、上記のようにして得た熱間圧延鋼板を通常の方法で冷間圧延すればよい。なお、冷間圧延時の圧下率は40%以上とし、冷間圧延後は焼鈍処理することが望ましい。この焼鈍処理は、通常の方法で行えばよい。すなわち、Ac点以上の温度で10秒以上の保持を実施し、その後、通常の方法で冷却すればよい。
【0116】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0117】
【実施例】
表1に示す化学組成を有する各種の鋼を、表2〜4に示す条件で連続鋳造して幅1200mmで、厚さが60〜250mmのスラブにし、更に、各スラブを1100〜1300℃に加熱してから表2〜4に示す条件で熱間圧延して厚さ3.5mmの熱延鋼板に仕上げた。
【0118】
【表1】
Figure 0004168721
【0119】
【表2】
Figure 0004168721
【0120】
【表3】
Figure 0004168721
【0121】
【表4】
Figure 0004168721
【0122】
なお、スラブは鋳型厚み100〜250mmの試験用連続鋳造機にて鋳造し、各鋼種において、それぞれスラブの鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を変えて晶出型TiN系粒子の形態制御を実施した。
【0123】
スラブの鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度の変更は、主に、試験連続鋳造機内において、2次冷却水量の変更とスラブ未凝固部圧下によるスラブ厚み変更とを行うことで実施した。なお、スラブの鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度の算出は、スラブ表面から中心部にかけて5mmピッチでデンドライト2次アーム間隔を測定して算出した。
【0124】
熱間圧延は、仕上げ温度を1000〜780℃とし、250〜600℃で巻き取った。一部のものについては、冷却途中での中間空冷も実施した。
【0125】
このようにして得た熱延鋼板のうちの一部のものについては、圧下率66〜73%で冷間圧延し、その後に焼鈍処理を行って冷延鋼板とすることも行った。但し、一部のものについては冷間圧延のままとし、焼鈍処理を施さなかった。冷間圧延条件と焼鈍処理の有無の詳細は、後述の表8に示すとおりである。
【0126】
各熱延鋼板について、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いて、鋼板板厚の断面組織を観察した。更に、観察された晶出型TiN系粒子の個々の粒径と数量を測定し、晶出型TiN系粒子の平均粒径と面積率を算出した。又、板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の15%までの範囲にある板厚中心領域において、晶出型TiN系粒子のうちの粒径が2.0μm以上であるものの平均粒子間隔を測定した。更に、フェライトの個々の粒径と数量を測定し、フェライトの平均粒径を求めるとともに、平均粒径が20μm以下である場合について、フェライトの面積率を求めた。
【0127】
各熱延鋼板について、引張特性、伸びフランジ加工性及び耐切り欠き疲労特性を以下の方法で調査した。
【0128】
すなわち、JIS Z 2201に記載の5号引張試験片を切り出し、引張試験を行って引張強度(TS)と伸び(El)を測定した。
【0129】
又、縦横それぞれ100mmの正方形の試験片を採取し、その中央にポンチで直径が10mmの打ち抜き穴をあけ、先端角60゜の円錐ポンチでこの穴を拡げて、穴の縁にクラックが貫通する限界の穴直径から計算される限界穴拡げ率(λ)によって伸びフランジ加工性を評価した。なお、打ち抜き穴の破面粗さとして算術平均粗さ(Ra)の測定も行った。
【0130】
更に、長さが180mmで幅が40mmの軸引張り疲労試験片の中央部に直径10mmの打ち抜き穴をあけ、応力比Rが0.1の片振り、周波数80Hzの条件で疲労試験を行った。なお、10 回で破断しない応力を切り欠き疲労限度σ として切り欠き疲労特性を評価した。
【0131】
各冷延鋼板についても上記熱延鋼板の場合と同様にして、引張特性及び耐切り欠き疲労特性を調査した。
【0132】
表5〜7に熱延鋼板における各試験結果を示す。又、表8には冷延鋼板における各試験結果を示す。
【0133】
【表5】
Figure 0004168721
【0134】
【表6】
Figure 0004168721
【0135】
【表7】
Figure 0004168721
【0136】
【表8】
Figure 0004168721
【0137】
熱延鋼板に係る試験番号H1〜H29の場合、晶出型TiN系粒子の平均粒径は0.05〜6.8μmと7μm以下であるため、打ち抜き破断面の算術平均粗さRaは4.8μm以下であり、切り欠き疲労限度σ は200MPa以上で耐切り欠き疲労特性に優れていた。しかも、限界穴拡げ率λは100%以上で、伸びフランジ加工性も良好であった。
【0138】
上記の試験番号の中でも、晶出型TiN系粒子の平均粒径が1.0〜2.5μmで、且つ、フェライトの平均粒径が1.1〜2μmである試験番号H9、H13及びH14は、σ が250MPa以上と極めて良好であった。
【0139】
又、スラブ製造時、スラブの未擬固層が鋳片厚の30%以下になった時点で、そのスラブの未擬固層が鋳片厚の30%以下になった部位に圧下を行った試験番号H23及び、電磁撹拌を行った試験番号H27は、板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の15%までの範囲にある板厚中心領域断面において、晶出型TiN系粒子のうちの粒径が2.0μm以上であるものの平均粒子間隔が150μm以上となり、切り欠き疲労限度σ が向上した。
【0140】
一方、試験番号H30〜H40の場合、晶出型TiN系粒子の平均粒径が7.2μm以上で7μmを超えるため、打ち抜き破断面の粗さRaは5.1μm以上と大きく、切り欠き疲労限度σ は高々185MPaで耐切り欠き疲労特性に劣るし、限界穴拡げ率λも95%以下で、伸びフランジ加工性にも劣ることが明らかである。
【0141】
冷延鋼板に係る試験番号C1〜C12の場合、試験番号H1等の本発明で規定する条件を満たす熱延鋼板を素材とするものであるため、熱延鋼板の場合と同様に、切り欠き疲労限度σ は205MPa以上で耐切り欠き疲労特性に優れている。又、限界穴拡げ率λは105%以上で、伸びフランジ加工性も良好であった。
【0142】
これに対して、試験番号C13〜C16の場合、試験番号H30等の本発明で規定する条件から外れた熱延鋼板を素材とするものであるため、熱延鋼板の場合と同様に、切り欠き疲労限度σ は高々185MPaで耐切り欠き疲労特性に劣るし、限界穴拡げ率λも97%以下で、伸びフランジ加工性にも劣ることが明らかである。
【0143】
【発明の効果】
本発明の高強度鋼材は、480MPa以上の引張強度を有し、しかも、伸びフランジ加工性に優れるとともに耐切り欠き疲労特性にも優れるので、自動車や各種の産業機械に用いられる構造部材の素材、なかでも自動車の足廻り部品に代表される構造部材の素材として利用することができる。この高強度鋼材は、本発明の方法によって比較的容易に製造することができる。

Claims (19)

  1. 質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.2〜3.5%、P:0.005〜0.10%、S:0.0070%以下、Al:0.001〜2.0%、Ti:0.01〜0.2%、N:0.0004〜0.0100%を含有し、残部がFe及び不純物からなる高強度鋼材であって、晶出型TiN系粒子の平均粒径が7μm以下であることを特徴とする高強度鋼材。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.1%以下及びV:0.2%以下の1種以上を含有する請求項1に記載の高強度鋼材。
  3. Feの一部に代えて、質量%で、Mo:1.0%以下、Ni:1.0%以下及びCu:1.0%以下から選択される1種以上を含有する請求項1又は2に記載の高強度鋼材。
  4. Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下及びB:0.0005〜0.003%の1種以上を含有する請求項1から3までのいずれかに記載の高強度鋼材。
  5. Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.0002〜0.01%、Mg:0.0002〜0.01%及びREM(希士類元素):0.0002〜0.01%から選択される1種以上を含有する請求項1から4までのいずれかに記載の高強度鋼材。
  6. 晶出型TiN系粒子の平均粒径が0.1〜3μmであることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の高強度鋼材。
  7. 板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の15%までの範囲にある板厚中心領域において、晶出型TiN系粒子のうちの粒径が2.0μm以上であるものの平均粒子間隔が150μm以上である請求項1から6までのいずれかに記載の高強度鋼材。
  8. 板厚断面において、晶出型TiN系粒子の面積率が0.02〜0.5%であることを特徴とする請求項1から7までのいずれかに記載の高強度鋼材。
  9. 平均粒径が20μm以下であるフェライトの面積率が50%以上であることを特徴とする請求項1から8までのいずれかに記載の高強度鋼材。
  10. フェライトの平均粒径が1.1〜5μmであることを特徴とする請求項1から9までのいずれかに記載の高強度鋼材。
  11. 高強度鋼材の製造方法であって、請求項1から5までのいずれかに記載の化学組成を有する溶鋼を鋳造して鋼塊とする際、溶鋼の液相線温度から1300℃の温度範囲における前記鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.4℃/秒以上とする工程を製造工程中に含む高強度鋼材の製造方法。
  12. 鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度が2〜7℃/秒である請求項11に記載の高強度鋼材の製造方法。
  13. 請求項11又は12に記載の鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度で冷却した鋼塊を、仕上げ温度を(Ar点−100℃)〜1000℃で熱間圧延し、次いで10℃/秒以上の平均冷却速度で730℃以下の温度域まで冷却し、その後巻き取る請求項11又は12に記載の高強度鋼材の製造方法。
  14. 請求項11又は12に記載の鋼塊の鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度で冷却した鋼塊を、仕上げ温度を(Ar点−100℃)〜1000℃で熱間圧延した後、10℃/秒以上の平均冷却速度で730〜600℃の温度域まで冷却し、次いで、2〜15秒間空冷し、その後更に15℃/秒以上の平均冷却速度で600℃未満まで冷却してから巻き取る請求項11から13のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
  15. 溶鋼を鋳造して鋼塊とする際、鋼塊の未凝固層が鋼塊の厚みの30%以下になった部位に圧下又は電磁撹拌を施す請求項11から14のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
  16. 熱間仕上げ圧延における全圧下率が85%以上である請求項11から15のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
  17. 熱間圧延を仕上げてから1秒以内に冷却を開始し、50℃/秒以上の平均冷却速度で730℃まで冷却する請求項11から16のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
  18. 粗圧延した後の粗バーを加熱又は保熱してから行う熱間仕上げ圧延工程を含む請求項11から17のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
  19. 熱間圧延が潤滑剤を用いて行う圧延である請求項11から18のいずれかに記載の高強度鋼材の製造方法。
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