JP4168457B2 - 6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドと関連化合物の製造方法 - Google Patents

6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドと関連化合物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬・農薬の中間体として有用な6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドおよび6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒドの製造方法、ならびにこの製造方法において出発物質となる6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドは、6−ブロモ−2−ナフトールとブチルリチウムとから合成されている (米国特許第5,399,588 号) 。また、6−メトキシ−2−ナフトアルデヒドの脱メチル化による合成も示唆されている [特開平2−245200号公報およびJ. Chem. Soc., 2530 (1995)] 。第一の方法には使用薬品が高価である、第二の方法には収率が低い、という欠点がある。
【0003】
一方、6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒドは、6−アシル−2−メチルナフタレンの過酸による酸化とその後の液相空気酸化から副生組成物として確認されているが、収率が低い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このように、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドと6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒドのいずれについても、満足できる製造方法が未だ確立していない。本発明は、これらの化合物を安価に収率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、次の反応式に示すように、2−メチル−6−ナフトール(1) から出発して、これをアシル化して6−アシルオキシ−2−メチルナフタレン(2) にした後、ハロゲン化して6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン(3) を生成させ、これを加水分解することにより、加水分解分解条件によって6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) または6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒド(5) を高収率で製造できることを見出した。
【0006】
【化1】
Figure 0004168457
【0007】
上記式中、R1 は低級アルキル基であり、Xはハロゲンである。低級アルキル基R1 は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基あり、ハロゲンXは好ましくは塩素または臭素である。
【0008】
ここに、本発明により、6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン(3) を水と低級カルボン酸との混合溶媒中で加水分解することからなる6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) および/または6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒド(5) の製造方法が提供される。
【0009】
この方法において、6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン(3)の加水分解を水と低級カルボン酸との混合溶媒中でハロゲン化水素酸を添加せずに加水分解する第一の加水分解工程と、該第一の加水分解工程終了後にハロゲン化水素酸を添加して加水分解する第二の加水分解工程とからなる製造方法で行うと、このナフタレン化合物(3) の6位のアシルオキシ基と2位のジハロゲノメチル基の両方が加水分解され、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) が得られる。また、6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン (3) の加水分解を、該ナフタレン化合物1モルに対して2当量以上の弱酸アルカリ金属塩からなる酸捕捉剤の存在下に行うと、2位のジハロゲノメチル基だけが選択的に加水分解されて、6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒド (5) が得られる。あるいは、6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン (3) の加水分解を、上記の酸捕捉剤の添加量を該ナフタレン化合物1モルに対して1.0当量以上1.6当量以下として行うと、6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン (3) の6位のアシルオキシ基と2位のジハロゲノメチル基の両方が加水分解され、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド (4) が得られる。そして、1.6当量超2当量未満である場合には6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド (4) および6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒド (5) の混合体が得られる。
【0010】
上記方法で出発物質となる6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン(3) は、2−メチル−6−ナフトール(1) を酸無水物と反応させてアシル化する工程、および生成した6−アシルオキシ−2−メチルナフタレン(2) を、好ましくはラジカル発生剤の存在下でハロゲン化する工程により製造することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明では、2−メチル−6−ナフトール(1) から出発し、6−アシルオキシ−2−メチルナフタレン(2) および6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン(3) を経て、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) または6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒド(5) を製造する。
【0012】
原料の2−メチル−6−ナフトール(1) は、市販品を使用することができるが、2−メチルナフタレンをスルホン化した後、アルカリ融解(濃い水酸化アルカリ溶液と共に 200〜350 ℃に加熱する) により芳香族スルホン基をフェノール基に転化させることで容易に合成することもできる。この化合物(1) は白色固体である。
【0013】
この原料化合物(1) の2位のメチル基をアルデヒド基に転化させれば、目的とする6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) が得られる。芳香族アルデヒドの合成方法として、メチル基をハロゲン化してモノハロゲノメチル基にし、このモノハロゲノメチル基を、例えばヘキサメチレンテトラミン等の存在下で酸化してアルデヒド基にする方法は周知であり、例えばナフトアルデヒドの合成において採用されている。
【0014】
本発明者らは、この方法を適用して2−メチル−6−ナフトール(1) のメチル基をアルデヒド基に転化させるために、化合物(1) のハロゲン化反応を実施してみたが、副反応としてナフタレン核のハロゲン化が起こり易く、目的とするモノハロゲノメチル化生成物の収率が非常に低くなることが判明した。そこで、さらに検討を重ねた結果、化合物(1) の6位のヒドロキシル基を一旦アシル化してアシルオキシ基にしてから2位のメチル基をハロゲン化すると、上記の副反応がほとんど生じない上、このメチル基を高い選択率でジハロゲノメチル基へ誘導できることを知った。
【0015】
また、本発明のようにナフタレン環の6位が置換されている場合には、ナフトアルデヒドの合成で行われているような、ヘキサメチレンテトラミンを用いてモノハロゲノメチル基を酸化する方法では、アルデヒドはほとんど生成せず、分子量が202 の生成物 (アルデヒド基ではなくCH2O付加物と推測される生成物) が生成した。しかし、上記のようにメチル基をジハロゲノメチル基に誘導し、このジハロゲノメチル基を加水分解すると、非常に高い収率でアルデヒドが得られた。しかも、この時の加水分解の反応条件に応じて、6位のアシルオキシ基を同時に加水分解してヒドロキシル基に戻したり、或いはこの基は加水分解せずアシルオキシ基のままにしておき、2位のジハロゲノメチル基だけを選択的に加水分解することができるので、2種類のアルデヒド生成物(4) および(5) を別々に選択的に製造できることも判明した。
【0016】
従って、本発明では、原料化合物の2−メチル−6−ナフトール(1) をまずアシル化して、この化合物の6位のヒドロキシル基がアシルオキシ基に転化させた化合物(2) を得る。次に、この化合物(2) をハロゲン化して、2位のメチル基をジハロゲノメチル基に転化させた化合物(3) を得る。この化合物(3) を最後に加水分解して、2位のジハロゲノメチル基をアルデヒド基に変化させる。この時、化合物(3) の6位のアシルオキシ基も同時に加水分解させてヒドロキシル基にすると目的化合物(4) が得られ、この加水分解を生じさせなければ目的化合物(5) が得られる。
【0017】
以下、本発明に係る方法を工程順ごとに説明する。
まず、2−メチル−6−ナフトール(1) のアシル化反応は、常法に従って、化合物(1) に、アシル基に対応する酸無水物[(R1CO)2O] をアシル化剤として反応させることより実施できる。R1 は、前述したように低級アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。中でも、メチル基が最も好ましい。従って、好ましいアシル化剤は無水酢酸である。
【0018】
このアシル化反応において、アシル化剤の酸無水物は化合物(1) に対して等モル以上を使用することが好ましく、あまり多量にしても無駄になるので、通常は等モルの1〜2倍の範囲内で十分である。低級カルボン酸の無水物は室温で液状であり、無溶媒で反応は十分に進行するので、反応溶媒は使用する必要がないが、溶媒を使用するのであれば、酢酸などの低級カルボン酸を使用することができる。反応温度は80℃から反応系の還流温度までの温度が好ましい。アシル化剤が無水酢酸の場合で、好ましい反応温度は 100〜130 ℃である。
【0019】
従って、化合物(1) をアシル化剤の酸無水物と一緒に反応温度に加熱するだけでアシル化反応は進行する。反応時間は、通常は数十分〜数時間、例えば、1〜3時間程度である。反応条件を適切に選択すれば、ほとんど定量的収率でアシル化生成物の6−アシルオキシ−2−メチルナフタレン(2) を得ることができる。アシル化生成物は、反応混合物に炭化水素などの無極性有機溶媒を加えて析出させるといった手段で分離することにより単離できる。必要に応じて水洗により洗浄し、乾燥した後、そのまま次工程に使用できる。
【0020】
アシル化生成物の6−アシルオキシ−2−メチルナフタレン(2) を次いでハロゲン化して、2位のメチル基をジハロゲノメチル基に転化させ、6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン(3) を得る。ハロゲンとしては、塩素および臭素が好ましい。このハロゲン化は、ラジカル発生剤の存在下または不存在下に、適当なハロゲン化剤を反応させることにより実施できる。
【0021】
ラジカル発生剤としては、反応温度で分解しうるアゾニトリル系のものが好ましく、この種の最も一般的なラジカル発生剤であるアゾビスイソブチロニトリル (AIBN) を本発明でも使用できる。ラジカル発生剤の使用は、ハロゲン化剤の種類によっては必須ではないが、使用する方が反応が促進されることから好ましい。また、ラジカル発生剤の代わりに、紫外線照射を利用してもよい。
【0022】
ハロゲン化剤としては、塩素や臭素も使用できるが、これらは有毒ガスで取扱いにくいことと、反応性があまり高くないことから、反応性がより高く、固体で取扱い易い、N−クロロスクシンイミド (NCS) 、N−ブロモスクシンイミド (NBS) 、ジクロロヒダントイン、ジブロモヒダントイン等の化合物型のハロゲン化剤の方が好ましい。
【0023】
ハロゲン化剤は、化合物(2) に対して過剰に使用することが好ましい。例えば、ハロゲン化剤が上記の化合物型のものである場合で、その使用量は化合物(2) に対するモル比が 1.5〜3倍、特に 2.0〜2.2 倍となる量が好ましい。ラジカル発生剤は、ハロゲン化剤に対するモル比で 0.01〜0.1倍の量で用いることが好ましい。
【0024】
ハロゲン化反応は、化合物(2) とハロゲン化剤の両方を溶解可能な有機溶媒中で行うことが好ましい。ハロゲン化剤が上記の化合物型のものである場合、適当な有機溶媒の例としては、ベンゼン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等のナフテン系 (脂環式) 炭化水素、四塩化炭素等といった無極性の有機溶媒が挙げられる。この場合の反応温度は、50〜120 ℃、特に70〜95℃の範囲が好ましい。反応時間は通常は数十分〜数時間、例えば、1〜3時間程度である。
【0025】
ハロゲン化剤が塩素または臭素の場合には、反応温度は80〜120 ℃と、上記より高くすることが好ましく、反応時間もより長くなる。
ハロゲン化反応生成物(3) は、反応混合物から必要に応じて過剰のハロゲン化剤を除去した後、溶媒を留去することにより単離することができる。必要であれば、洗浄、再結晶等の周知の方法により精製してもよい。
【0026】
ハロゲン化反応により得られた6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレン(3) を加水分解して、目的とする6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) または6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒド(5) を製造する。この加水分解は、ジハロゲノメチル基の加水分解に適用可能な任意の方法で実施することができる。
【0027】
好ましい加水分解方法は、水と低級カルボン酸との混合溶媒中で化合物(3) を加熱する方法である。溶媒の低級カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等が使用できるが、酢酸が好ましい。この溶媒中の低級カルボン酸は、化合物(3) の溶解に必要なものであるが、化合物(3) の2位のジハロゲノメチル基に対する加水分解触媒としても作用し、このジハロゲノメチル基をアルデヒド基に転化させる。しかし、低級カルボン酸は、この化合物(3) の6位のアシルオキシ基の加水分解に対しては触媒効果を発揮しない。この芳香環に結合したアシルオキシ基の加水分解には、より強力な酸、好ましくはハロゲン化水素酸 (例、塩酸、臭化水素酸) の存在が必要である。
【0028】
混合溶媒中の水と低級カルボン酸との割合は、重量比で1:4〜4:1、特に1:2〜2:1の範囲内が好ましい。また、溶媒中の低級カルボン酸は、前述したように加水分解触媒としても作用するので、化合物(3) に対して等モル量以上の量を用いることが好ましい。反応温度は、化合物(3) が反応溶媒に溶解する温度以上であればよいが、好ましくは60〜150 ℃、より好ましくは80〜120 ℃であり、特に 100〜120 ℃の範囲が好ましい。反応時間は一般に30分〜5時間程度である。
【0029】
2位のジハロゲノメチル基と同時に6位のアシルオキシ基も加水分解させて、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) を製造したい場合には、上記の加水分解反応を、反応系にハロゲン化水素酸が存在するようにして行う。但し、酢酸によりジハロゲノメチル基が加水分解されると、ハロゲン化水素酸 (HX) が副生する。従って、特にハロゲン化水素酸を反応系に添加しなくても、ジハロゲノメチル基の加水分解反応の進行に伴って反応系にハロゲン化水素酸が放出されてくるので、このハロゲン化水素酸が6位のアシルオキシ基の加水分解に利用されうる。即ち、この場合、ハロゲン化水素酸の存在下で加水分解反応が行われることになる。
【0030】
しかし、こうして放出されるハロゲン化水素酸だけではアシルオキシ基の加水分解は非常に遅くなるので、アシルオキシ基の加水分解を促進させるため、別にハロゲン化水素酸、好ましくは塩酸、を反応系に添加することが、化合物(4) の製造にとって好ましい。この場合、加水分解反応の最初にハロゲン化水素酸を添加すると、2位のジハロゲノメチル基のアルデヒド基への加水分解反応が妨害され、赤色に着色し、重質化した副生物の生成が起こり易くなるので、ジハロゲノメチル基の加水分解がほぼ終了してからハロゲン化水素酸を添加することが好ましい。ハロゲン化水素酸は、溶媒中の濃度が2〜10重量%となるような量で添加することが好ましい。
【0031】
2位のジハロゲノメチル基だけを加水分解して、6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒド(5) を製造したい場合には、ジハロゲノメチル基の加水分解で生ずるハロゲン化水素酸 (HX) を捕捉して中和するように、酸捕捉剤として機能する弱酸アルカリ金属塩を反応系に存在させる。酸捕捉剤として用いる弱酸アルカリ金属塩は、反応溶媒である水と低級カルボン酸との混合溶媒中に可溶性のものであればよい。適当な酸捕捉剤としては、アルカリ金属炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、低級カルボン酸塩などが例示できる。特にアルカリ金属低級カルボン酸塩 (例、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸カリウムなど) の使用が好ましい。この塩を反応系に添加する代わりに、アルカリ金属水酸化物を反応系に添加して、反応溶媒の低級カルボン酸を反応させることにより、アルカリ金属低級カルボン酸塩を反応系内で生成させることもできる。
【0032】
ナフトアルデヒド化合物(5) を製造したい場合、反応系に存在させる酸捕捉剤の量は、少なくともジハロゲノメチル基の加水分解で生ずるハロゲン化水素酸を完全に中和するのに必要な量とする。ジハロゲノメチル基1モルの加水分解で2モルのハロゲン化水素酸が生成するので、酸捕捉剤は化合物(3) 1モルに対して2当量以上の量が必要である。即ち、酸捕捉剤がアルカリ金属低級カルボン酸塩の場合には、化合物(3) 1モルに対して酸捕捉剤を2モル以上、酸捕捉剤が炭酸ナトリウムの場合には、化合物(3) に対して酸捕捉剤が1モル以上の量であればよい。あまりに多量に存在させても無駄になるだけであるので、通常は上記量の1〜2倍程度、特に1〜1.5 倍で十分である。これにより、ジハロゲノメチル基の加水分解で生じたハロゲン化水素酸は、反応系に存在するアルカリ金属低級カルボン酸塩(または他の酸捕捉剤)によりすぐに捕捉されて中和される結果、6位のアシルオキシ基は加水分解を受けずにそのまま残る。その結果、2位のジハロゲノメチル基だけが選択的に加水分解され、6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒド(5) が得られる。
【0033】
一方、上と同様に酸捕捉剤として機能するアルカリ金属低級カルボン酸塩を反応系に存在させても、その量が化合物(3) 1モルに対して2当量より少ないと、ジハロゲノメチル基の加水分解で生ずるハロゲン化水素酸 (HX) が完全には中和されず、一部が残存する。そして、この残存するハロゲン化水素酸が6位のアシルオキシ基の加水分解に対して作用する結果、上記の反応系に塩酸を添加する場合と同様に、2位のジハロゲノメチル基と6位のアシルオキシ基が同時に加水分解され、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) が生成するようになる。即ち、この場合も、加水分解反応はハロゲン化水素酸の存在下で進行することになる。そして、このように当量に不足する量の酸捕捉剤を添加して、ハロゲン化水素酸の存在下で加水分解反応を進行させた場合にも、理由は不明であるが、6位のアシルオキシ基の加水分解も速やかに進行し、化合物(4) が得られることが判明した。
【0034】
この方法で6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) を収率よく製造するには、反応系に存在させるアルカリ金属低級カルボン酸塩 (または他の酸捕捉剤) の量を、化合物(3) 中のハロゲン基のモル数に対して 0.5〜0.8 当量、即ち、化合物(3) 1モルに対しては 1.0〜1.6 当量の範囲内とすることが好ましい。この量が化合物(3) 1モルに対して1.6 当量より多くなると、ハロゲン化水素酸の残存量が少なくなって、6−アシルオキシ生成物(5) の生成割合が増え、6−ヒドロキシ生成物(4) と6−アシルオキシ生成物(5) との混合物が得られるようになる。
【0035】
やはり理由は不明であるが、反応系にハロゲン化水素酸を添加しないか、或いはアルカリ金属低級カルボン酸を添加してもその添加量が化合物(3) 1モルに対して1.0 当量より少ないと、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド(4) への加水分解反応の進行が遅くなる。従って、ハロゲン化水素酸の存在下で化合物(3) を加水分解して化合物(4) を製造する場合には、ジハロゲノメチル基の加水分解がほぼ終了した後にハロゲン化水素酸を添加するか、或いは反応系に化合物(3) 1モルに対して 1.0〜1.6 当量という、加水分解反応で生成するハロゲン化水素酸の完全中和には不足する量の酸捕捉剤 (好ましくは、アルカリ金属低級カルボン酸) を添加して加水分解反応を行うことが好ましい。
【0036】
反応生成物が化合物(4) と(5) のいずれであっても、反応混合物を冷却すると反応生成物が結晶化するので容易に単離できる。必要により洗浄、再結晶等の周知の方法で精製すればよい。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明の方法について具体的に説明する。但し、実施例は例示に過ぎず、本発明を制限するものではない。
実施例における生成物の純度分析は、メチルシリコーンの化学結合型キャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィー分析においてFID検出器で求めた純度 (GC面百純度) である。
【0038】
(実施例1)
2−メチル−6−ナフトールのアセチル化
2−メチル−6−ナフトール158 g (1.0モル) と無水酢酸122.4 g (1.2モル) の混合物を還流温度(122〜125 ℃) に3時間加熱して反応させた。その後、反応混合物にシクロヘキサン300 g を加えて、室温まで冷却した。析出した結晶を濾別し、減圧下60℃で乾燥して、純度99.1%の6−アセトキシ−2−メチルナフタレン 184g (収率91.1モル%) を得た。
【0039】
(実施例2)
6−アセトキシ−2−メチルナフタレンの臭素化
実施例1で得た6−アセトキシ−2−メチルナフタレン140 g (0.7モル) 、ベンゼン1128 g、N−ブロモスクシンイミド (NBS) 274 g (1.54 モル、反応物質に対して2.2 倍モル) 、およびアゾビスイソブチロニトリル (AIBN) 2.8 g (0.017 モル) からなる混合物を、還流温度 (83〜85℃) に2時間加熱して反応させた。その後、反応混合物を室温まで冷却し、析出したスクシンイミドを濾去し、濾液を5%亜硫酸ナトリウム水溶液500 mlで洗浄した後、ベンゼンを留去して、純度96.9%の粗−アセトキシ−2−ジブロムメチルナフタレン231.3 g(収率92.3モル%) を淡黄色の結晶として得た。
【0040】
なお、このジブロモメチル化生成物は純度測定のためにガス化すると分解して臭素の一部が脱離するので、生成物の純度は、試料に2倍モル量のナトリウムメチラートを添加し、80℃で10分間加熱してジブロモメチル基をジメトキシメチル基に添加させ、この反応生成物に水とトルエンを加え、トルエン相に抽出されたジメトキシメチル化誘導体を分析することにより実施した。
【0041】
(実施例3)
加水分解による6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドの合成▲1▼
6−アセトキシ−2−ジブロモメチルナフタレン50 g (0.1397モル) 、水100 g および酢酸100 g からなる混合物を還流温度 (約 110〜115 ℃) に2時間加熱した後、濃塩酸20 ml を加えてさらに30分間還流加熱して、加水分解反応を行った。その後、反応混合物を室温まで冷却し、析出した結晶を濾別し、減圧下60℃で乾燥して、純度98.2%の6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド19.2 g (収率78.6モル%) を得た。
【0042】
(実施例4)
加水分解による6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドの合成▲2▼
6−アセトキシ−2−ジブロモメチルナフタレン50 g (0.1397モル) 、水100 g 、酢酸100 g 、およびギ酸ナトリウム11.4g (0.168モル) からなる混合物を還流温度 (約 110〜115 ℃) に2時間加熱して加水分解反応を行った後、室温まで冷却し、析出した結晶を濾別し、減圧下60℃で乾燥して、純度98.8%の6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド19.0 g (収率78.2モル%) を得た。
【0043】
(実施例5)
加水分解による6−アセトキシ−2−ナフトアルデヒドの合成
6−アセトキシ−2−ジブロモメチルナフタレン50 g (0.1397モル) 、水100 g 、酢酸100 g 、および酢酸ナトリウム25.2 g (0.307 モル) からなる混合物を還流温度 (約 110〜115 ℃) に2時間加熱して加水分解反応させた後、室温 (20℃) まで冷却し、析出した結晶を濾別し、減圧下60℃で乾燥して、純度99.1%の6−アセトキシ−2−ナフトアルデヒド21.4 g (収率88.4モル%) を得た。
【0044】
(比較例1)
2−メチル−6−ナフトールの臭素化
2−メチル−6−ナフトール15.8 g (0.1 モル) 、ベンゼン160 g 、N−ブロモスクシンイミド (NBS) 39.1 g (0.22モル) 、およびアゾビスイソブチロニトリル (AIBN) 0.4 g からなる混合物を、還流温度 (83〜85℃) に2時間加熱して反応させた。反応混合物を室温まで冷却し、析出したスクシンイミドを濾去し、濾液を5%亜硫酸ナトリウム水溶液300 mlで洗浄した後、ベンゼンを留去すると、黄色の結晶26.6gが得られた。
【0045】
この結晶は、6−ヒドロキシ−2−ジブロモメチルナフタレン38.8重量%、6−ヒドロキシ−2−ジブロモメチルナフタレンの核ブロム化物36.1重量%、および6−ヒドロキシ−2−ブロモメチルナフタレン14.4重量%を含有していた。2−メチル−6−ナフトールを直接ハロゲン化した場合も、ジブロモメチル化生成物が主生成物となるが、収率が低く、核ブロム化物が大量に副生する上、モノブロムメチル化物も一緒に生成することが分かる。
【0046】
(比較例2)
6−アセトキシ−2−ブロモメチルナフタレンの酸化による6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドの合成
6−アセトキシ−2−ブロモメチルナフタレンを常法に従って酸化して6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドを合成することを試みた。
【0047】
6−アセトキシ−2−ブロモメチルナフタレン27.9 g (0.10モル) 、ヘキサメチレンテトラミン28g (0.2 モル) 、酢酸80gおよび水80gからなる混合物を還流温度 (約110 ℃) に2時間加熱して、ブロモメチル基を酸化させた後、20%塩酸20 gを加え、さらに0.5 時間還流加熱して、アセトキシ基の加水分解を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドはほどんど生成していなかった。
【0048】
【発明の効果】
本発明により、2−メチル−6−ナフトールから出発して、アシル化工程とハロゲン化工程を経て、中間体の6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレンを、安価な反応剤だけを使用して、ほぼ定量的に近い高収率で製造することができる。この中間体を、水と低級カルボン酸の混合溶媒中で加水分解することにより、加水分解条件に応じて、6−ヒドロキシ−ナフトアルデヒドと6−アシルオキシ−ナフトアルデヒドとを、それぞれ選択的に、いずれもかなりの高収率で製造することができる。従って、本発明は、これら2種類の化合物の安価な製造方法として有用性が高い。

Claims (6)

  1. 6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレンを、水と低級カルボン酸との混合溶媒中でハロゲン化水素酸を添加せずに加水分解する第一の加水分解工程と、該第一の加水分解工程終了後にハロゲン化水素酸を添加して加水分解する第二の加水分解工程とからなる、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドの製造方法。
  2. 6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレンを、水と低級カルボン酸との混合溶媒中で、該ナフタレン化合物1モルに対して1.0当量以上1.6当量以下の弱酸アルカリ金属塩からなる酸捕捉剤の存在下に加水分解することからなる6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドの製造方法。
  3. 6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレンを、水と低級カルボン酸との混合溶媒中で、該ナフタレン化合物1モルに対して1.6当量超2当量未満の弱酸アルカリ金属塩からなる酸捕捉剤の存在下に加水分解することからなる、6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドおよび6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒドの混合体の製造方法。
  4. 6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレンを、水と低級カルボン酸との混合溶媒中で、該ナフタレン化合物1モルに対して2当量以上の弱酸アルカリ金属塩からなる酸捕捉剤の存在下に加水分解することからなる、6−アシルオキシ−2−ナフトアルデヒドの製造方法。
  5. −メチル−6−ナフトールを酸無水物と反応させてアシル化し、生成した6−アシルオキシ−2−メチルナフタレンをハロゲン化する工程を備え、得られた6−アシルオキシ−2−ジハロゲノメチルナフタレンを出発物質とする、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記ハロゲン化を、ラジカル発生剤の存在下に行う請求項5記載の方法。
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