JP4166863B2 - アミノ酸塩の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、2級又は3級アミノ基と3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸(以下「AADA」と記すことがある。)塩を収率よく製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エチレンジアミン四酢酸(以下「EDTA」と記すことがある。)、ジエチレントリアミン五酢酸(以下「DTPA」と記すことがある。)の金属塩やアミン塩は、洗剤添加剤や農業用微量金属補給剤、写真用薬剤などとして従来から使用されている。特に、EDTAやDTPAの鉄塩やアンモニウム塩はカラー写真焼付の際の酸化剤として多量に使用されている。しかし、これらのキレート塩化合物は生物による分解が起こりにくいため、近年の環境保護の観点からこれらに代わる生分解性の良いキレート塩化合物の開発が行われ、アミノ酸を原料とする生分解性の良いキレート塩化合物が種々開発された。中でも、生分解性が良好であることからAADAの金属塩等が注目されている。かかるAADA金属塩等の中でも特に、グルタミン酸を原料とするグルタミン酸−N,N−二酢酸(以下、「GLDA」と記すことがある。)の需要がもっとも多い。
【0003】
AADA塩の製法としては、対応するアミノ酸を、実験室的製法ではモノクロロ酢酸ソーダ(特開平6−59422公報)、工業的製法ではシアン化ソーダとホルマリン(米国特許第2500019号)と反応させる方法が一般に使用されている。いずれの製法でも、生成されるのはAADAのナトリウム塩の溶液であり、液中に多量のナトリウムイオンを含み、液性は強アルカリ性を示す。
【0004】
AADAの金属塩やアンモニウム塩、有機アミン塩を製造する場合、従来は、かかるAADAのアルカリ金属塩と無機又は有機酸の金属塩とを反応させてAADA金属塩等を製造していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、かかる製造方法では、無機又は有機酸のアルカリ金属塩が副生するので高純度のキレート金属塩を得ることができないといった問題がある。
【0006】
またAADA金属塩の中で、写真用薬剤として重要なグルタミン酸−N,N−二酢酸(以下「GLDA」と記すことがある。)鉄塩の製造において、GLDAを原料として使用する場合、GLDAのアンモニウム塩と硝酸鉄とを反応させてGLDA鉄塩を製造するのが一般的であるが、この方法では副生する硝酸アンモニウムが共存するので使用上の問題が多い。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、副生成物を生じることなく効率的にAADAの金属塩、アンモニウム塩又は有機アミン塩を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
また本発明は、副生成物を生じることなく効率的にアミノ酸−N,N−二酢酸鉄塩液を製造することを目的とする。
さらに本発明は、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩の結晶を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、2級又は3級アミノ基と3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸と、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、炭酸水素金属塩、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又は有機アミン化合物とを反応させることを特徴とする2級又は3級アミノ基と3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸塩の製造方法が提案される。
【0010】
このとき、2級又は3級アミノ基と3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸は、当該アミノ酸のアルカリ金属塩を電気透析することによって得られたものであることが好ましい。また電気透析は陽極側に水素イオン選択透過膜を、陰極側に陽イオン透過膜を配置して行われるものであることが好ましい。
【0011】
また本発明によれば、水素イオン選択透過膜と陽イオン透過膜を用い、陽極側に水素イオン選択透過膜を、陰極側に陽イオン透過膜を配置して、アミノ酸−N,N−二酢酸アルカリ金属塩の水溶液を電気透析することにより得られたアミノ酸−N,N−二酢酸と、酸化鉄又は金属鉄とを反応させるアミノ酸−N,N−二酢酸鉄塩液の製造方法が提案される。
【0012】
さらに本発明によれば、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩液のpHを2.5〜5.0に調整してグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩を晶析分離することを特徴とするアミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩結晶の製造方法が提供される。
また本発明によれば、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩結晶が提供される。
【0013】
本願請求項1に係るAADA塩の製造方法では、AADAと、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、炭酸水素金属塩、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又は有機アミン化合物とを反応させることを反応させることが大きな特徴である。かかる製造方法では、ナトリウム等のアルカリ金属イオンを含まないAADAを原料として使用するので、アルカリ金属塩などの副生成物が生じない。
【0014】
ここで使用するAADAは、電気透析によってAADAのアルカリ金属塩の水溶液からアルカリ金属イオンを除去したものがよい。電気透析では、イオン交換樹脂を使用する場合のような樹脂の再生操作を必要とせず、また有機溶媒を添加する場合のようなAADA塩の結晶の晶析分離を必要とせず、AADA塩の水溶液中からアルカリ金属イオンを効率的に減らすことができる。
【0015】
電気透析は、電解質の水溶液中に+−の電極を入れて電位勾配を与えると、溶液中の正および負のイオンが、それぞれ反対符号の電極方向へ移動する原理を利用したもので、両電極間にイオン交換膜と半透膜をおいて膜間にある溶液中の両イオンを別方向に移動させて膜外へ出す処理を言う。
【0016】
電気透析の中でも、陽極側に水素イオン選択透過膜を、陰極側に陽イオン透過膜を配置して行われるものが好ましい。図1を参照して、本願発明で使用する電気透析では、AADA金属塩の水溶液(図中では「AADAナトリウム塩」)の通過する膜室のプラス電極側の半透膜として水素イオン選択透過膜を使用し、マイナス電極側のイオン交換膜として陽イオン透過膜を使用し、水素イオン選択透過膜および陽イオン透過膜の両側にはそれぞれ酸水溶液(図中では「硫酸」)を流す。このとき、AADAアルカリ金属塩の水溶液中のアルカリ金属イオンは、反対符号の電極側、すなわちマイナス電極側に移動するが、マイナス電極側の透過膜は陽イオン透過膜であるため、アルカリ金属イオンは当該膜をそのまま通過し酸水溶液中に浸入する。一方、AADAアルカリ金属塩の水溶液中には水素イオン選択透過膜を通ってプラス電極側の酸水溶液から水素イオンが浸入してくる。これによりAADAアルカリ金属塩の水溶液中のアルカリ金属イオンは水素イオンに交換され、AADA塩水溶液中のアルカリ金属イオンは除去されるのである。
【0017】
ここで、水素イオン選択透過膜とは、水素イオンのみが透過でき、他のカチオンやアニオンは透過できない機能をもった膜で、その構造はカチオン交換膜とアニオン交換膜を張り合わされたハイブリッド膜である。当該膜に電位勾配を与えると水が分解して水素イオンと水酸化イオンが生成し、水素イオンがマイナス電極側、水酸化イオンがプラス電極側にそれぞれ移動し、水酸化イオンは酸水溶液中の水素イオンと反応して水となる結果、見掛け上、水素イオンのみが当該膜を透過できることになる。水素イオン選択透過膜としては、市販品であれば例えば「SelemionHSV」(旭硝子社製)、「NEOSEPTA BP1」(徳山曹達社製)などを挙げることができる。
【0018】
陽イオン透過膜とは、カチオンを透過し、アニオンを透過しない機能をもった膜を言う。当該膜は、スルホン酸基やカルボン酸基など電離して負の電荷を持つ解離基を高密度に保持する膜であって、スチレン系の重合型均質膜でできたものが好適に使用できる。市販されていてるものとして、例えば「SelemionCMV」(旭硝子社製)、「AciplexCK−1,CK−2,K−101,K−102」(旭化成社製)、「NeoseptaCL−25T,CH−45T,C66−5T,CHS−45T」(徳山曹達社製)、「Nafion120,315,415」(DuPont社製)などを使用することができる。
【0019】
酸水溶液の酸としては、例えば硫酸や塩酸、リン酸、硝酸、等の無機酸や酢酸、グリコール酸、クエン酸等を使用できるが、コストの点から硫酸が好適に使用できる。酸量は除去したいアルカリ金属イオン量により算出されるが、過剰に使用すれば当然ながらコストアップにつながる。酸水溶液は、算出された所定量の全量を一度に使用すると電気効率が悪くなるので、分割して、電気透析中に入れ替えて使用するのが望ましい。かかる分割使用により、AADAアルカリ金属塩水溶液中のナトリウムイオン濃度を効率的に低くすることができる。酸水溶液は循環使用すればよい。
【0020】
酸水溶液の濃度としては1〜40wt%が好ましい。より好ましい範囲について述べると、下限側としては5wt%以上、さらに好ましくは8wt%以上であり、他方上限側としては20wt%以下、さらに好ましくは15wt%以下である。酸水溶液の濃度が40wt%より大きいと、AADA塩水溶液中へ浸入する硫酸イオンなどの塩基の量が多くなおそれがあり、また液温が低いときには硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩の結晶が析出して膜が詰まるおそれがある。一方、酸水溶液の濃度が1wt%未満では酸水溶液の循環液量を多くする必要が生じ、このため貯槽の容量を大きくしなければならないという問題が起こる。
【0021】
AADAアルカリ金属塩水溶液の濃度としては、5〜60wt%が好ましい。より好ましい範囲について述べると、下限側としては10wt%以上、さらに好ましくは20wt%以上であり、他方上限側としては50wt%以下、さらに好ましくは40wt%以下である。AADAアルカリ金属塩水溶液の濃度が60wt%より大きいと、液の粘度が高くなって透析膜にかかる圧力が大きくなり過ぎ膜を破壊するおそれがある。ただし、酸水溶液の流量とAADAアルカリ金属塩水溶液の流量を調整して両側の差圧を等しくすることによって、AADAアルカリ金属塩水溶液の濃度を高くすることもできる。
【0022】
一方、AADAアルカリ金属塩水溶液の濃度が5wt%未満では貯槽の容量を大きくしなければならないという問題がある。
電極室に循環させる極液は透析に用いる酸と同じ種類の酸を使用することが好ましく、その濃度は1〜2wt%程度が好ましい。極液の濃度が2wt%よりも高いと極板の腐食が早くなるおそれがあり、他方1wt%よりも低いと電流が流れにくくなるおそれがある。
【0023】
電気透析の電極電流を制御する方法は、定電圧法、定電流法いずれでもよい。電流量が多いほど処理時間は短くなるが、通電による発熱で液温が上昇するので、膜を劣化させないよう液を冷却する必要が生じる。このため、膜を劣化させないような液温に抑えるよう電流量の上限を調整することが望まれる。
【0024】
電気透析操作は通常バッチ処理で行い、一回の透析操作が終了すればAADAアルカリ金属塩水溶液は入れ替える。ただし、このとき酸水溶液まで同時に入れ替える必要はなく、次バッチの途中まで使用して新しい酸水溶液に入れ替えればよい。これにより、AADAアルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属イオン濃度を効率よく低下させることができる。もちろん、透析装置を多段に連結して電気透析を連続で行ってもよい。
【0025】
バッチ処理において、電気透析操作の終了は、AADAアルカリ金属塩水溶液が所定のpHになったかどうかで判断する。アルカリ金属イオンを除去したAADA水溶液の生成を目的とする場合は、アルカリ金属イオン濃度が許容下限以下となった時に電気透析操作を終了するのがよい。アルカリ金属イオンを完全に除去しようと過剰に電気透析すると電流効率が低下し、またAADA液に混入する硫酸イオンなどの塩基量が多くなるので好ましくないからである。
【0026】
電気透析によってアルカリ金属イオンを減少させたAADA塩水溶液には硫酸イオンなど微量の塩基が混入しているので、必要であれば、水酸化バリウム又は炭酸バリウムを所定量添加して硫酸バリウムを生成させ、濾別することによって硫酸イオンを除去することができる。
【0027】
本願請求項1に係る製造方法におけるAADAと、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、炭酸水素金属塩、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又は有機アミン化合物のいずれかとの反応は、40〜100℃の温度範囲で行うのが好ましい。反応温度が100℃よりも高いと、AADAが分解することがあり、有機アミン塩を製造する場合は液の着色が強くなることがある。AADAはキレート作用があるので、通常の撹拌強度で撹拌しながら金属化合物の粉末を添加すれば、金属化合物はすみやかに溶解する。金属化合物は、AADAと当モル以下の必要量を添加すればよい。当モルより多く添加しても過剰の金属化合物は溶解せず、濾別の必要が生じる。
【0028】
本願請求項1の製造方法の原料として使用されるAADAとしては、例えばグルタミン酸−N,N−二酢酸、アスパラギン酸−N,N−二酢酸、グリシン−N,N−二酢酸、α−アラニン−N,N−二酢酸、β−アラニン−N,N−二酢酸、セリン−N,N−二酢酸等のアミノ酸−N,N−二酢酸;イミノジコハク酸、エチレンジアミンジコハク酸等のジコハク酸を挙げることができる。この中でもアミノ酸−N,N−二酢酸が好ましく、特にグルタミン酸−N,N−二酢酸が好ましい。
【0029】
本願請求項1の製造方法で使用できる金属酸化物としては、一般に使用されている金属酸化物であればいずれも使用でき、例えば酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化マンガン等の金属酸化物を使用できる。
【0030】
金属酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化鉄、酸化水酸化鉄、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化マンガン等を使用することができる。
【0031】
金属炭酸塩としては、これまでに一般に使用されている金属炭酸塩であればいずれも使用でき、例えば炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸コバルト等の金属炭酸塩を使用することができる。
【0032】
炭酸水素金属塩としては、例えば炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素コバルト等を使用することができる。
本発明で使用できる有機アミン化合物としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミンなどのとアルカノールアミン類、;ピリジンなどを挙げることができる。
【0033】
本願請求項6に係る発明に関して、アミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩液を製造するには、水素イオン選択透過膜と陽イオン透過膜を用い、陽極側に水素イオン選択透過膜を、陰極側に陽イオン透過膜を配置して、アミノ酸−N,N−二酢酸アルカリ金属塩の水溶液を電気透析することにより得られたアミノ酸−N,N−二酢酸と、酸化鉄又は金属鉄とを反応させるのがよい。
【0034】
この製造方法によれば、特定の透過膜をそれぞれ特定位置に配設して電気透析することにより得られたアミノ酸−N,N−二酢酸を原料として使用するので、副生成物を生じることなく効率的にアミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩液を製造することができる。
【0035】
原料の種類によっては、第一鉄塩と第二鉄塩の混合液が生成するので、必要によりアミノ酸−N,N−二酢酸第一鉄塩を酸化処理して第二鉄塩とする。
電気透析の条件は、請求項3の製造方法で使用する電気透析の条件と同様である。
【0036】
アミノ酸−N,N−二酢酸を鉄塩とするための反応温度は50〜80℃が好ましい。好適範囲についての述べると、下限値としてより好ましいのは60℃以上である。他方上限値としてより好ましいのは70℃以下である。反応温度が80℃より高いと、アミノ酸−N,N−二酢酸が熱分解したり、第二鉄の酸化作用により酸化分解を起こすおそれがあり、50℃より低いと酸化鉄や金属鉄との反応速度が遅くなることがある。
【0037】
本発明で使用できるアミノ酸−N,N−二酢酸としては、例えばグルタミン酸−N,N−二酢酸、アスパラギン酸−N,N−二酢酸、グリシン−N,N−二酢酸、α−アラニン−N,N−二酢酸、β−アラニン−N,N−二酢酸、セリン−N,N−二酢酸等を挙げることができ、この中でもグルタミン酸−N,N−二酢酸を好適に使用できる。
【0038】
本発明で使用できる酸化鉄としては、酸化第一鉄、酸化第二鉄、水和酸化鉄、四三酸化鉄等を挙げることができ、これらは単独でも2以上を混合しても使用できる。反応速度の点からは四三酸化鉄が好適に使用される。一方、酸化鉄又は水和酸化鉄は、四三酸化鉄に比べると反応速度はやや遅いいものの、後工程の酸化処理を省略できることがあるため、酸化処理におけるアミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩の分解が起こらないという利点があり、これらも好適に使用され得る。また金属鉄粉や還元剤を併用することによって反応速度は早くすることができる。また、酸化鉄の粒径が小さくすることによっても、反応を早くすることができる。
【0039】
四三酸化鉄を使用して場合、得られる反応液には、第一鉄塩と第二鉄塩とが混在している。また、第二鉄を原料として使用した場合でも、還元剤を併用すると反応液には第一鉄塩が混在している。農業用鉄補給剤としてはこのままでも使用可能であるが、写真漂白剤としては完全に第二鉄塩にする必要があるので、酸化処理を行う必要がある。
【0040】
酸化処理は、従来公知の方法で行うことができるが、空気を吹き込んで酸化する方法が最も経済的で好ましい。
酸化処理の前に、アンモニア又はアルカリ金属水酸化物を添加して、アミノ酸−N,N−二酢酸第一鉄塩液のpHを2.0〜5.0にしておくことが好ましく、3.0〜4.0に調整しておくことがさらに好ましい。pHが2.0より小さいと酸化反応の速度が遅くなるおそれがあり、pHが5.0より大きいと酸化処理中のアミノ酸−N,N−二酢酸第一鉄塩の酸化分解が多くなるおそれがあるからである。もちろんアミノ酸−N,N−二酢酸第一鉄塩液のpHが当初から上記好適範囲にあるときは、アンモニア等は添加する必要はない。また、アミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩の用途としてpHの低いものを要求される場合にもそれらの添加は必要ない。なお、アミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩の用途上、所望のpHとするため、アンモニア又はアルカリ金属水酸化物を酸化処理後に添加してもよい。
【0041】
使用できるアルカリ金属水酸化物としては、ナトリウム、カリウム等の水酸化物を挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用できる。反応に使用する鉄原料のモル当量(対アミノ酸−N,N−二酢酸)は、0.9〜1.1が好ましい。より好ましくは0.95〜1.05当量である。モル当量が1.1を越えると、溶解しない鉄原料を濾別しなければならず、作業量の増加や鉄原料のロスになる。他方、モル当量が0.9より小さいと、鉄原料の不足から未反応アミノ酸−N,N−二酢酸が多量に残るので原料のロスとなる。
【0042】
アンモニア又はアルカリ金属水酸化物を反応前に添加する場合、その添加量はアミノ酸−N,N−二酢酸と等モル量以下が好ましい。等モル量を越えて添加すると、アミノ酸−N,N−二酢酸と酸化鉄との反応速度を低下させるおそれがあるからである。
【0043】
酸化処理中の液温は、70度以下、好ましくは60度以下に保つ必要がある。液温が70℃よりも高い状態で空気を吹き込むと、アミノ酸−N,N−二酢酸の分解が多くなることがあるからである。
【0044】
酸化剤としては、酸素、オゾン、過酸化水素、過硫酸塩、有機過酸化物等が使用できるが、副生するイオンの混入を嫌う用途に使用する場合には、過硫酸塩、有機過酸化物等の使用は避けた方がよい。
【0045】
酸化処理を終了する際、反応液中の(アミノ酸−N,N−二酢酸モル濃度/鉄モル濃度)比を1.0〜1.1以下に調整する必要がある。鉄が過剰に存在していると、アミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩水溶液を貯蔵している間に水酸化鉄の沈殿が発生したり、アミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩を結晶化したときに結晶中に水酸化鉄が含有され、結晶を溶解・液化したときの濁りの原因になる。逆に、アミノ酸−N,N−二酢酸が過剰の存在していると、アミノ酸−N,N−二酢酸が無駄になる。このため、反応液中の鉄を予め過剰にしておき、電気透析したアミノ酸−N,N−二酢酸液をさらに添加してモル比を調整するとよい。
【0046】
本願請求項8に関して、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩液からグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩の結晶を生成するには、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩液のpHを2.5〜5.0に調整して、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩を晶析させ単離するのがよい。より好ましくはpHを3.5〜4.2の範囲に調整するのがよい。
【0047】
図4はグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩溶液のpHと溶解度の関係を表した図である。この図から明らかなように、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩の溶解度はpHに対して逆放物線を示し、pHが4.2付近で極小値となる。グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩の結晶は、グルタミン酸−N,N−二酢酸と第二鉄とアンモニウムイオンが1:1:1の成分比で構成されているため、pH4.2(グルタミン酸−N,N−二酢酸と第二鉄とアンモニウムイオンが1:1:1存在するときのpH)を境にしてpHが高い領域、すなわちアンモニウムイオンが多い領域では、結晶が析出するに従い母液中のアンモニウムイオン濃度が上がり、溶液のpHが上がる。他方pHが低い領域、すなわちアンモニウムイオンが少ない領域では、結晶が析出するに従い母液中のアンモニウムイオン濃度が減少し、溶液のpHが下がる。上述のようにグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩溶液のpHと溶解度の関係は逆放物線を示すから、pHが高い領域では、pHが上がることによって溶解度が増加し、同様にpHが低い領域でも、pHが下がることによって溶解度が増加するために結晶の析出が停止する。このため、見かけ上は結晶が析出するpHの範囲であっても、実際には当該範囲の上・下限付近では希望する結晶収率を得ることができないのである。本発明に係るグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩結晶の製造方法ではpHを2.5〜5.0とすることによって、結晶収率をこれまでに比べて飛躍的に向上させることができたのである。
【0048】
グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩溶液のpHを調整するには、アンモニア水又はグルタミン酸−N,N−二酢酸水溶液を添加すればよい。グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩液としては、その製造方法を問わないが、本願請求項7記載の製造方法によって得られたグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄塩液が好適に使用できる。
【0049】
結晶収率を増加させるために、濾液のリサイクル、濃縮、冷却、有機溶剤の添加等の通常行われている操作を付加して行ってもよい。また、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩結晶と同種の結晶を種として添加すれば、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩結晶を早く析出することができ、また分離操作もしやすくなる。
【0050】
析出した結晶は、遠心分離操作等の通常の分離方法で分離し、水洗、乾燥し、グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩結晶とする。この結晶は、吸湿性がなくて純度が高いものであった。また生分解性にも優れたものであった
。
【0051】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、実施例および比較例に記載された「部」は重量部を、「%」は「重量%」を示すものとする。
【0052】
実施例1
本実施例で使用する電気透析装置(旭硝子:DU−Ob型電解槽)の概要を図1に示す。硫酸液は、貯槽(図示せず。)から循環ポンプ(図示せず。)によって、図中「硫酸」と表記された膜間を通過して貯槽に循環される。硫酸の濃度は10wt%である。極液としての希硫酸は、貯槽(図示せず。)から循環ポンプ(図示せず。)によって、電気透析装置の両極室に送液され貯槽に循環される。図中「AADA」と表記された部屋はAADA液が流入する部屋で、AADA液は貯槽(図示せず。)から循環ポンプ(図示せず。)によって電気透析装置の膜間を通過して貯槽に循環される。
【0053】
水素イオン選択透過膜(旭硝子:セレミオンHSV、図中「H」と表記)、カチオン透過膜(旭硝子:セレミオンCMV、図中「C」と表記)、厚膜カチオン透過膜(旭硝子:セレミオンCMT図中「T」と表記)を図1に示す配置でセットした。透析の有効セット数は8セットで各膜の有効面積は209平方センチメートルであった。グルタミン酸−N,N−二酢酸四ナトリウム液18.0kg(グルタミン酸−N,N−二酢酸四ナトリウム:35.2%、Na濃度:10.2%、pH12.0)、硫酸液は初期40kg(10%)(途中で2回同量の硫酸液に更新)、極液10kg(2%硫酸)を各貯槽に入れて、それぞれの液をポンプで循環をしながら電気透析を行い、52時間で684AHrの電気量を流した。電圧は15V一定とした。初期の最高電流は15Aであったが、後半は9Aまで低下した。得られたグルタミン酸−N,N−二酢酸液は、13.2kg(グルタミン酸−N,N−二酢酸:34.2%、Na濃度:0.007%、pH1.1)で、硫酸イオン混入量はNa2 SO4 として、0.2%であった。GLDAの収率は95.4%であった。
【0054】
上記電気透析を行うことによって得られたグルタミン酸−N,N−二酢酸液1000g(1.141mol)に炭酸カルシウム118.2g(1.141mol)を30分間かけて添加した。添加終了後、80度で1時間熟成し溶解している炭酸ガスを除去した。苛性ソーダ93.1g(2.282mol)を添加してpHを7.5に調整後、微量の濁りを濾過して、澄明なグルタミン酸−N,N−二酢酸カルシウム二ナトリウム液1150gを得た。この液に含有されているカルシウムは3.98%(液を電気炉で焼き塩酸で溶解して、キレート滴定法で分析)で、このままで農業用カルシウム液として使用できる品質であった。
この液をスプレードライヤーで乾燥し、458gの吸湿性のない微粉末を得た。粉末は水に容易に溶解し、澄明な水溶液を再生できた。粉末中のカルシウム含量は9.98%であった。
【0055】
生分解性を測定するために、化学工場の活性汚泥処理施設から採取した活性汚泥を殖種源とし、CODが500ppmとなるように水で希釈した試料を小型暴気型活性汚泥装置で7日間の生分解性試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
実施例1のグルタミン酸−N,N−二酢酸液1000g(1.141mol)に25%アンモニア水69.8g(1.027mol)と四三酸化鉄90.4g(1.164mol)を仕込み、60度で8時間反応した。未反応の四三酸化鉄を濾過した後の反応液のpHは3.4で、二価鉄含量は1.9%であった。
【0057】
反応液を25℃に冷却後、散気管で空気を2時間吹き込んで酸化をして二価鉄含量を0.01%に減少させた。得られたグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム液の重量は1130gで、鉄分濃度(KI・ハイポ滴定分析)は33.0%(1.119mol)、GLDA濃度は(アルカリ添加で鉄を除き、キレート滴定)31.6%(1.072mol)であり、液のpHは3.2であった。中和反応と酸化処理によるGLDA第二鉄アンモニウム塩の収率は94.0%であった。
【0058】
実施例1と同様の方法で生分解性試験を行った。結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例2の反応液1130gに、グルタミン酸−N,N−二酢酸液51g(0.058mol)を添加してFe/GLDAモル比を調整した後、25%アンモニア水15.6g(0.230mol)をさらに添加してpH調整をした。晶析前のグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム液の重量は1197gで、鉄分濃度は(KI・ハイポ滴定分析)31.1%(1.119mol)、GLDA濃度は(アルカリ添加で鉄を除き、キレート滴定)31.4%(1.130mol)で、GLDA第二鉄アンモニウム液のpHは4.0であった。
【0059】
反応液を25℃で18時間撹拌して、析出した結晶を卓上遠心分離器で分離、水洗後、25℃で18時間風乾して294gの黄緑色結晶を得た。グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウムの母液中から結晶への転化率は、69.2%であった。
【0060】
グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウムの分析値は次の通りであった。
【0061】
【0062】
得られた結晶の溶液にアルカリ成分を添加して鉄分を除き、有機酸分析用HPLCで分析をして、キレート剤成分がグルタミン酸−N,N−二酢酸と一致することを確認した。また、同液をキレート滴定して含量を求め、キレート剤成分と鉄が分析誤差内で1/1のキレート反応していることを確認した。NH4 イオンも分析誤差内で1/1の付加していることを確認した。さらに、結晶のFT−IRチャート(図3)より、キレート鉄塩特有のカルボン酸基に起因する吸収とアンモニア及び水の吸収が確認された。
【0063】
結晶を25℃で風乾し、水分が0.7%まで減少させた。得られた結晶は流動性のある、吸湿性のない結晶であることが確認された。
(比較例1)
比較例としてエチレンジアミン四酢酸第二鉄アンモニウムの生分解性試験を行った。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【発明の効果】
本発明の2級又は3級アミノ基と3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸塩の製造方法によれば、効率的にしかも不必要なアルカリ金属塩が副生することなく、2級又は3級アミノ基と3以上のカルボキシル基を有する高純度のアミノ酸塩を得ることができる。
【0066】
また本発明のアミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩液の製造方法によれば、不必要な副生成物が生じることなく、効率的にアミノ酸−N,N−二酢酸第二鉄塩液を得ることができる。
【0067】
さらに本発明のグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄塩結晶の製造方法によれば、従来に比べ高い収率で当該結晶を得ることができる。また当該方法で得られた結晶は、従来のものに比べ高純度であり、しかも吸湿性がなく、生分解性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用する電気透析機の概略図である。
【図2】実施例3で得られたグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩の示差熱分析チャートである。
【図3】実施例3で得られたグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩の赤外分析(FT−IR)チャートである。
【図4】グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄塩液の溶解度とpHとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
H:水素イオン選択透過膜
C:陽イオン透過膜
T:厚膜陽イオン透過膜
Claims (5)
- 水素イオン選択透過膜と陽イオン透過膜を用い、陽極側に水素イオン選択透過膜を、陰極側に陽イオン透過膜を配置して、2級又は3級アミノ基と3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩を電気透析することによって得られたアミノ酸−N,N−二酢酸と、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、炭酸水素金属塩、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又は有機アミン化合物とを反応させることを特徴とする2級又は3級アミノ基と3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸−N,N−二酢酸塩の製造方法。
- アミノ酸−N,N−二酢酸が、グルタミン酸−N,N−二酢酸である請求項1記載の製造方法。
- 水素イオン選択透過膜と陽イオン透過膜を用い、陽極側に水素イオン選択透過膜を、陰極側に陽イオン透過膜を配置して、アミノ酸−N,N−二酢酸アルカリ金属塩の水溶液を電気透析することにより得られたアミノ酸−N,N−二酢酸と、酸化鉄又は金属鉄とを反応させるアミノ酸−N,N−二酢酸鉄塩液の製造方法。
- アミノ酸−N,N−二酢酸がグルタミン酸−N,N−二酢酸である請求項3記載の製造方法。
- グルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩液のpHを2.5〜5.0に調整してグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩を晶析分離することを特徴とするグルタミン酸−N,N−二酢酸第二鉄アンモニウム塩結晶の製造方法。
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