JP4166099B2 - 試料容器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば蛍光X線分析などのX線分析において試料を固定するために使用される試料容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、試料中に含まれている元素の定性や定量を行うために、蛍光X線分析が利用されている。この蛍光X線分析は、励起用のX線(一次X線)を照射した際に試料中の元素から発生する特性X線(蛍光X線)を検出し、その蛍光X線の波長や強度に基づいて元素の定性や定量を行う分析手法である。この蛍光X線分析によれば、板状、薄膜状または粉末状の固体試料や液体試料などの各種態様の試料を分析することが可能である。
【0003】
粉末状の固体試料を分析する際には、例えば、分析作業時に試料を取り扱いやすくし、かつ分析精度を高精度化するために、その試料を成形する場合が多い。この成形手法としては、例えば、試料をそのまま粉末成形したり、試料に結着剤を添加して成形したり、あるいは試料に4硼酸リチウム(Li)などのガラス化剤を添加して融解させることによりビード(タブレット)状に成形する手法などが挙げられる。
【0004】
上記のような成形品、ビード、および、板状や薄膜状の固体試料を分析する際には、例えば、試料容器(試料ホルダ)を使用して試料を固定する場合が多い。この試料容器は、例えば、試料を保持するための保持台と、試料の露出領域、すなわち一次X線の照射領域を確定するための開口を有するマスクと、このマスクに対して保持台を付勢させるためのスプリングとを含んで構成されている。このマスクは、例えば、ステンレス、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)または鉄(Fe)などの金属や、金(Au)めっきが施された鉄または黄銅などの合金により構成されている。
【0005】
なお、試料容器に関しては、例えば、マスクを自動的に装着することにより、蛍光X線分析を自動化することが可能な技法(例えば、特許文献1参照。)や、マスクの径を正確に判別することにより、X線分析を正確に実施することが可能な技法(例えば、特許文献2参照。)などが既に知られている。
【0006】
【特許文献1】
実開平6−058350号公報
【特許文献2】
特開平8−184573号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、蛍光X線分析において試料を高精度に分析するためには、例えば、試料中の元素から発生した蛍光X線のみを選択的に検出する必要がある。しかしながら、従来の試料容器を使用して蛍光X線分析を行った場合には、以下の理由により、試料中の元素から発生した蛍光X線のみを選択的に検出することが困難なため、試料を高精度に分析することが困難であるという問題があった。
【0008】
すなわち、蛍光X線分析を行う際には、マスクに設けられた開口を通じて、分析対象である試料のみに対して一次X線を選択的に照射するのが好ましいが、例えば、一次X線が絞りきれずにマスクにまで照射されたり、あるいは試料中の元素から発生した蛍光X線がマスクに照射されると、分析対象外であるマスク中の元素から不要な蛍光X線が発生する場合がある。この場合には、試料中の元素から発生した検出対象の蛍光X線と不要な蛍光X線とが混在すると、その検出対象の蛍光X線のみを選択的に検出することが困難になり、不要な蛍光X線の存在に起因して分析結果に誤差が含まれることとなるため、試料を高精度に分析することが困難になるのである。
【0009】
特に、上記した試料の分析困難性に関する問題は、試料中に含まれている元素と同一の元素によりマスクが構成されている場合に深刻となる。具体的には、例えば、試料として鉄を分析するために、ステンレス製のマスクを使用する場合などである。この場合には、例えば、鉄を含まないチタン製のマスクを使用した上で、チタン元素を除いて分析結果を検討すればよいが、この対策は本質的な解決策とは言えない。なぜなら、試料によってはその試料中に本当にチタン元素が含まれているか否かは定かでないため、高精度な分析を実現し得るとは言い難いからである。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、X線分析において試料を高精度に分析することが可能な試料容器を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る試料容器は、X線分析に使用されるものであり、試料を保持するための保持台と、試料の露出領域を画定するためのマスクとを備え、このマスクがポリベンゾイミダゾールによって構成されているようにしたものである。
【0012】
本発明に係る試料容器では、マスクがポリベンゾイミダゾールによって構成されているため、マスクに一次X線や蛍光X線が照射されたとしても、そのマスク中の元素から分析結果に甚大な誤差を及ぼすおそれのある不要な蛍光X線が発生することが抑制される。ポリベンゾイミダゾールは耐放射線性が非常に高いため、一次X線に晒される分析作業においてマスクを複数回に渡って使用し得る。なお、本発明で意味するところの「保持」とは、単に試料が保持台に載せられている場合も含み、その試料が必ずしも試料台に固定されている必要はない。
【0013】
本発明では、マスクが、保持台と共に試料を挟み込んで固定するためのものであってもよい。また、本発明では、保持台が、高分子材料または炭素材料により構成されていることが好適である。これにより、分析結果に誤差を及ぼすおそれのある不要な蛍光X線が発生することがより抑制される。また、本発明では、保持台が、原子番号14以下の金属、または、これらの金属の化合物により構成されていることが好適である。これにより、保持台以外の他の部材(例えば弾性部材等)が鉄やニッケルなどにより構成されている場合においても、その部材から放出される蛍光X線が保持台により遮蔽される。しかも、保持台自身から放出される蛍光X線は、強度が弱いため、マスクや試料により遮蔽される。また、本発明では、さらに、マスクに対して保持台を付勢させるための弾性部材を備え、その弾性部材が、高分子材料または炭素材料により構成されていることが好適である。これにより、弾性部材を利用して保持台とマスクとの間に試料が固定されると共に、この弾性部材から分析結果に誤差を及ぼすおそれのある不要な蛍光X線が発生することが抑制される。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る試料容器の構成について説明する。図1は試料容器の外観構成を表し、図2は図1に示した試料容器の断面構成を表している。なお、図1および図2では、試料容器を構成する一連の構成要素を見やすくするために、各構成要素間を離間させて示している。
【0016】
この試料容器は、蛍光X線分析を行う際に、分析対象の試料Sを保持して固定するために使用されるものであり、主に、高さ方向に積み重ねられて試料容器を構成する複数の構成要素、すなわちホルダ10と、盲板20と、スプリング30と、受け台40と、容器蓋50と、マスク60とを含んで構成されている。
【0017】
ホルダ10は、試料容器の土台となる筒状の支持部材であり、例えば、ステンレス、チタン、アルミニウム、銅、ジルコニウム、ニッケルまたは鉄などの金属や、金めっきが施された鉄または黄銅などの合金により構成されている。このホルダ10の外周面には、複数の突起部11が選択的に設けられている。
【0018】
盲板20は、スプリング30を適便に配置する部材であり、例えば、鉄などの金属により構成されている。
【0019】
スプリング30は、上方のマスク60に対して受け台40を付勢させるための弾性部材である。このスプリング30は、例えば、一端(上端)に向かって巻径が次第に小さくなる螺旋構造を有しており、ホルダ10の構成材料と同様の材料により構成されている。
【0020】
受け台40は、試料Sを保持するための保持台である。この受け台40は、例えば、貫通口が設けられた円盤状構造を有しており、ホルダ10の構成材料と同様の材料により構成されている。この受け台40の一方の面(上面)には、例えば、試料Sを保持するための窪み部41が設けられており、他方の面(下面)には、例えば、スプリング30の上端を嵌め込むための窪み部42が設けられている。
【0021】
容器蓋50は、受け台40により保持された試料Sを覆うための筒状の蓋部材であり、例えば、ホルダ10の構成材料と同様の材料により構成されている。この容器蓋50の内周面には、例えば、その内周面に沿って、ホルダ10の突起部11と嵌合することが可能な窪み部51が設けられている。
【0022】
マスク60は、試料Sの露出領域、すなわち一次X線の照射領域を確定するための開口61を有する円盤状のマスク部材であり、例えば、図示しない固定用のネジにより容器蓋50に固定されている。特に、マスク60は、例えば、受け台40と共に試料Sを挟み込んで固定するための機能も有している。
【0023】
このマスク60は、高分子材料または炭素材料により構成されている。マスク60を構成する高分子材料としては、例えば、一般的に蛍光X線分析の分析対象外である元素により構成されているものが好ましく、一次X線が照射された場合においても分解しないような耐放射線性の高いものがより好ましい。この種の高分子材料としては、例えば、炭素(C)、水素(H)および窒素(N)により構成された耐放射線高分子であるポリベンゾイミダゾールが挙げられる。このポリベンゾイミダゾールの構造式は、図3に示した通りである。なお、マスク60は、上記したポリベンゾイミダゾールの他、例えば、芳香族ポリイミド、芳香族ポリエーテル、液晶性高分子、ポリエチレン、または、ポリプロピレンなどにより構成される場合もある。
【0024】
次に、図1および図2と図4とを参照して、試料容器の使用方法について説明する。図4は、試料容器の使用方法を説明するためのものであり、図2に示した一連の構成要素を組み立てた状態を表している。
【0025】
試料容器を使用する際には、図1および図2に示した一連の構成要素を高さ方向に積み重ねて組み合わせることにより、図4に示したように試料Sを固定する。具体的には、ホルダ10内に盲板20とスプリング30とを順に収納すると共に、図示しない固定用のネジを使用してマスク60を容器蓋50に固定したのち、まず、受け台40の窪み部41に試料Sを載せることにより、その受け台40で試料Sを保持する。続いて、受け台40の窪み部42にスプリング30の上端を嵌めこみ、そのスプリング30で受け台40を支持する。最後に、受け台40が収納されるように容器蓋50をホルダ10に被せたのち、容器蓋50の窪み部51をホルダ10の突起部11と嵌合させることにより、ホルダ10に対して容器蓋50を固定する。これにより、スプリング30の弾性力を利用して受け台40がマスク60に対して付勢されるため、その受け台40により保持された試料Sがマスク60の下面に当接して固定される。また、一次X線Lが照射されることとなる試料Sの露出面の範囲と高さが確定される。一次X線Lは、マスク60の開口61を通じて試料Sまで導かれる。
【0026】
本実施の形態に係る試料容器では、高分子材料または炭素材料でマスク60を構成したので、これら以外の金属や合金でマスクを構成していた従来の場合とは異なり、蛍光X線分析時に一次X線や蛍光X線がマスク60に照射されたとしても、そのマスク60中の元素から分析結果に甚大な誤差を及ぼすおそれのある不要な蛍光X線が発生することが抑制される。したがって、試料S中の元素から発生した検出対象の蛍光X線のみを選択的に検出しやすくなり、分析結果に含まれる誤差が小さくなるため、蛍光X線分析において固体の試料Sを高精度に分析することができる。
【0027】
特に、本実施の形態では、一般的に蛍光X線分析の分析対象外である元素により構成されており、かつ一次X線が照射された場合においても分解しないような耐放射線性高分子であるポリベンゾイミダゾールでマスク60を構成すれば、試料Sをより高精度かつ安定に分析することができる。なお、上記したように、ポリベンゾイミダゾールに代えて、芳香族ポリイミド、芳香族ポリエーテル、液晶性高分子、ポリエチレン、または、ポリプロピレンなどの高分子材料でマスク60を構成することも可能であるが、これらの高分子材料は、蛍光X線分析の分析対象外である元素により構成されているものの、耐放射線性が十分でないため、分析作業を安定に行うことを望むのであれば、ポリベンゾイミダゾール、または、炭素材料でマスク60を構成するのが好ましい。
【0028】
また、本実施の形態では、上記したように、高分子材料または炭素材料により構成されたマスク60を使用して高精度に蛍光X線分析を行うことが可能な点に基づき、試料Sの材質に応じて複数種類の材質のマスク60を準備する必要がない。したがって、本実施の形態では、試料Sの材質に関係せずに1つのマスク60を使用して分析を行うことが可能なため、分析作業の利便性を向上させることもできる。
【0029】
なお、本実施の形態では、主に、蛍光X線分析の分析精度に大きな影響を及ぼすおそれのあるマスク60の材質について言及したが、必ずしもこれに限られるものではなく、マスク60以外の他の構成要素の材質を変更することも可能である。
【0030】
具体的には、例えば、高分子材料または炭素材料でマスク60を構成した場合には、一次X線がマスク60を透過してスプリング30に照射されるおそれがあるため、そのス プリング30中の金属元素から発生した不要な蛍光X線に起因する分析誤差を小さくする上では、例えば、原子番号14以下の金属(アルミニウム、マグネシウム等)、または、これらの化合物で受け台40を構成するのが好ましい。なぜなら、軽金属やその合金で受け台40を構成すれば、スプリング30中の元素から発生した不要な蛍光X線が受け台40において吸収されるため、その不要な蛍光X線が分析結果に影響を与えないからである。この際、受け台40からさらに不要な蛍光X線が発生する場合があるが、その蛍光X線は透過力が低く、高分子材料または炭素材料により構成されたマスク60において吸収されることとなるため、問題はないと言える。
【0031】
なお、軽金属またはこれらの合金で受け台40を構成した場合には、例えば、さらに、その受け台40の構成材料と同様の材料でスプリング30を構成するようにしてもよい。
【0032】
また、例えば、スプリング30中の元素から不要な蛍光X線が発生することを抑制したいのであれば、マスク30と同様に高分子材料または炭素材料でスプリング30を構成するようにしてもよい。この場合には、スプリング30中の元素からの不要な蛍光X線の発生が抑制されるため、分析精度の低下を防止することができる。なお、高分子材料または炭素材料でスプリング30を構成した場合には、仮にスプリング30中の元素から不要な蛍光X線が発生したとしても、その蛍光X線は透過力が低くて吸収されやすいため、上記実施の形態において説明したように金属や合金(軽金属やその合金を含む)で受け台40を構成してもよいし、あるいはマスク60やスプリング30と同様に高分子材料または炭素材料で受け台40を構成してもよい。
【0033】
【実施例】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0034】
本発明の試料容器および比較例の試料容器を使用して蛍光X線分析を行ったところ、表1に示した結果が得られた。表1は、蛍光X線分析の分析結果を表しており、試料容器の構成要素の材質、化合物の含有率(質量%)および元素のモル比を示している。試料容器の構成や分析手順等は、以下の通りである。
【0035】
すなわち、試料容器の構成としては、「実施例1」では、マスク60をポリベンゾイミダゾール製、受け台40をアルミニウム製、スプリング30を鉄製とし、「実施例2」では、マスク60をポリベンゾイミダゾール製、受け台40およびスプリング30の双方をポリエチンレン製とした。一方、「比較例1」では、マスク60をチタン製、受け台40をアルミニウム製、スプリング30を鉄製とし、「比較例2」では、マスク60をステンレス製、受け台40をアルミニウム製、スプリング30を鉄製とした。
【0036】
分析手順としては、試料としてチタン酸バリウムを使用し、0.500gのチタン酸バリウムを6.000gの4硼酸リチウムに加えて融解させることにより、ビード状に成形した。また、ポリベンゾイミダゾールとしては、クラリアントジャパン社製のグレードU−60SD(商品名)を使用した。蛍光X線分析を行う際には、前準備として、化学分析法を利用して、バリウム元素(Ba)とチタン元素(Ti)とのモル比(Ba/Ti)がBa/Ti=1.000であることを確認したと共に、ICP発光分析法を利用して、微量不純物である鉄(Fe)、銅(Cu)およびニッケル(Ni)の含有率がFe=0.01質量%、Cu=0.005質量%、Ni=0.005質量%であることを確認した。
【0037】
【表1】
Figure 0004166099
【0038】
表1に示したように、実施例1では、モル比がBa/Ti=1.000となり、微量不純物の含有率がFe=0.0100質量%、Cu=0.005質量%、Ni=0.005質量%となった。実施例2では、モル比がBa/Ti=1.000となり、微量不純物の含有率がFe=0.0100質量%、Cu=0.005質量%、Ni=0.005質量%となった。比較例1では、モル比がBa/Ti=0.970となり、微量不純物の含有率がFe=0.0090質量%、Cu=0.006質量%、Ni=0.006質量%となった。比較例2では、モル比がBa/Ti=1.000となり、微量不純物の含有率がFe=0.1000質量%、Cu=0.006質量%、Ni=0.006%質量となった。
【0039】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1,2では、モル比に関して分析結果が化学分析結果と一致したと共に、微量不純物の含有率に関しても分析結果がICP発光分析結果と一致した。これに対して、比較例1では、モル比に関して分析結果が化学分析結果と一致せず、微量不純物の含有率に関してはFeについて分析結果とICP発光分析結果との間で大きな差異が生じた。これは、チタン製のマスクを使用したために、チタンが多めに検出されたものと推定される。また、比較例2では、モル比に関して分析結果が化学分析結果と一致したが、微量不純物の含有率に関してはFeについて分析結果とICP発光分析結果との間で過大な差異が生じた。これは、ステンレス製のマスクを使用したために、Feが多めに検出されたものと推定される。以上の結果から、実施例1,2では、比較例1,2と比較して、モル比および微量不純物の含有率の双方に関して、より高精度な分析を行うことが可能であることが確認された。
【0040】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
【0041】
例えば、上記実施の形態では、試料容器を構成する一連の構成要素のうち、蛍光X線分析の分析精度に影響を及ぼすおそれのある構成要素として、マスク60、受け台40およびスプリング30の材質についてのみ言及したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の構成要素の材質も適宜変更可能である。具体的には、例えば、試料容器を構成する全ての構成要素、具体的には、マスク60、受け台40およびスプリング30だけでなく、さらにホルダ10、盲板20および容器蓋50も高分子材料または炭素材料で構成するようにしてもよい。この場合には、検出対象外の不要な蛍光X線の発生を可能な限り抑制することができる。
【0042】
また、上記実施の形態では、受け台40をマスク60に付勢させるための弾性部材としてスプリング30を利用したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、スプリング30に代えて、スポンジなどの他の弾性部材を利用してもよい。
【0043】
また、上記実施の形態では、本発明を蛍光X線分析用の試料容器に適用する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、蛍光X線分析と同様に放射線を利用した他の分析、例えば、X線回折や電子線プローブマイクロアナライザー用の試料容器に本発明を適用することも可能である。この場合においても、非晶性および耐放射線性が高いベンゾイミダゾールを用いて試料容器を構成することが好ましい。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の試料容器によれば、ポリベンゾイミダゾールでマスクを構成したので、それ以外の金属や合金でマスクを構成していた従来の場合とは異なり、一次X線や蛍光X線がマスクに照射されたとしても、そのマスク中の元素から分析結果に甚大な誤差を及ぼすおそれのある不要な蛍光X線が発生することが抑制される。したがって、試料中の元素から発生した検出対象の蛍光X線のみを選択的に検出しやすくなり、分析結果に含まれる誤差が小さくなるため、例えば蛍光X線分析などのX線分析において試料を高精度に分析することができる。この場合には、ポリベンゾイミダゾールの特性、すなわち一般的にX線分析の分析対象外である元素により構成されており、かつ一次X線が照射された場合においても分解しない特性を利用して、試料を高精度かつ安定に分析することができる。
【0046】
また、本発明の試料容器では、高分子材料または炭素材料で保持台を構成すれば、これらでマスクを構成した場合と同様の作用により、その保持台中の元素から分析結果に甚大な誤差を及ぼすおそれのある不要な蛍光X線が発生することが抑制される。したがって、この観点においても、例えば蛍光X線分析などのX線分析の高精度化に寄与することができる。
【0047】
また、本発明の試料容器では、原子番号14以下の金属、または、これらの化合物で保持台を構成すれば、一次X線がマスクを透過して他の部材(例えば弾性部材)に照射され、その部材から不要な蛍光X線が発生したとしても、その不要な蛍光X線が保持台において吸収される。したがって、この観点においても、例えば蛍光X線分析などのX線分析の高精度化に寄与することができる。
【0048】
また,本発明の試料容器では、高分子材料または炭素材料で弾性部材を構成すれば、これらでマスクを構成した場合と同様の作用により、その弾性部材中の元素から分析結果に甚大な誤差を及ぼすおそれのある不要な蛍光X線が発生することが抑制される。したがって、この観点においても、例えば蛍光X線分析などのX線分析の高精度化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る試料容器の外観構成を表す外観図である。
【図2】図1に示した試料容器の断面構成を表す断面図である。
【図3】ポリベンゾイミダゾールの構造式を表す図である。
【図4】図1に示した試料容器の使用方法を説明するための断面図である。
【符号の説明】
10…ホルダ、11…突起部、20…盲板、30…スプリング、40…受け台、41,42,51…窪み部、50…容器蓋、60…マスク、61…開口、L…X線、S…試料。

Claims (5)

  1. X線分析に使用される試料容器であって、
    試料を保持するための保持台と、
    試料の露出領域を画定するためのマスクとを備え、
    このマスクが、ポリベンゾイミダゾールによって構成されている
    ことを特徴とする試料容器。
  2. 前記マスクが、前記保持台と共に試料を挟み込んで固定するためのものである
    ことを特徴とする請求項1記載の試料容器。
  3. 前記保持台が、高分子材料または炭素材料により構成されている
    ことを特徴とする請求項1または請求項に記載の試料容器。
  4. 前記保持台が、原子番号14以下の金属、または、これらの金属の化合物により構成されている
    ことを特徴とする請求項1または請求項に記載の試料容器。
  5. さらに、前記マスクに対して前記保持台を付勢させるための弾性部材を備え、
    前記弾性部材が、高分子材料または炭素材料により構成されている
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の試料容器。
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