JP4164964B2 - ハロゲン酸化物の検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハロゲン酸化物の検出方法に関し、特に化学発光法を利用して、ハロゲン酸化物を高感度、簡便かつ迅速に検出する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハロゲン酸化物は強力な酸化力を有しており、その強い酸化力を利用して漂白剤、殺菌剤、酸化剤などとして用いられている。また、これらの用途の他に、食品添加物や化粧品原料等として、また、冷却水処理システム等の各種水処理システムにおいて幅広い用途で用いられている。多くの用途において、系内のハロゲン酸化物の濃度にはその機能を充分発揮させるための下限値や最適値があり、また、食品添加物としての用途では最終的にハロゲン酸化物は食品中に実質的に残ってはならないなどの条件もあり、系内のハロゲン酸化物の濃度を適切に管理することは極めて重要であり、従来は比色法やイオンクロマトグラフを用いた分析方法により濃度管理が行われていた。しかし、これらの方法は、簡便かつ高感度な検出方法とは言い難く、例えば、比色法は煩雑な手動分析法であり自動化が困難なため検出に多くの時間とコストがかかり、適切な濃度管理に支障をきたしていた。一方、イオンクロマトグラフを用いた分析方法は、比色法に比べれば簡便な方法であるが、測定装置そのものが高価であり、全自動濃度モニタリングシステムとして用いるためには多くの課題を抱えていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消した、ハロゲン酸化物の検出方法を提供せんとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、亜塩素酸イオン、臭素酸イオン及び沃素酸イオンから選ばれる少なくとも一種のハロゲン酸化物イオンに紫外線を照射した後、化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物と接触させ、化学発光を生じさせることを特徴とするハロゲン酸化物の検出方法を提供するものである。
【0005】
最近、化学発光反応を利用した分析方法が注目を集めている。この分析方法は、吸光光度法や蛍光分析法に比較して高感度であり、定量範囲が広く、応答速度が速い(化学発光反応に要する時間が短い)ため、特に連続流れ系や循環系等の流通系における高感度検出法として注目されている。発光には、化学発光、生物発光等があるが、現在、分析法としては、化学発光を利用したものが多く、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N−エチルモルホリン、N−エチルピペラジン、チウラムなどの三級アミン類やトリプトファン、インドール等の二級アミン類、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド等のチアジド類、蓚酸、ピルビン酸、マロン酸、アセト酢酸、レブリン酸のようなα−、β−あるいはγ−ジケトン構造を持つ化合物類や過酸化水素、酸素、過マンガン酸塩、ハロゲン酸化物、沃素等が化学発光原因物質として知られている。また、化学発光とは、或る物質の化学反応に伴って新たに生成した物質が、更に反応するに伴ってその反応の化学エネルギーによって励起されて光を放射する現象であり、かかる物質を化学発光物質と言う。
【0006】
化学発光法の中でも化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物類(ルミノール等)を化学発光物質として用いる方法は、ルミノール等が容易且つ比較的安価に入手可能であり、化学発光分析に際し特別な前処理が不要であることから幅広く検討されている。しかし、ハロゲン酸化物に関しては、化学発光法による検出例として次亜塩素酸塩と過沃素酸塩が報告されているのみであった[次亜塩素酸塩:J.Arnhold et al.,J.Biolumin.Chemilumin.,6(1991)189、過沃素酸塩:A.Gaikwad et al.,Analyst,119(1994)1819]。
【0007】
本発明で検出用試薬(化学発光物質)として用いられる化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物としては、5−アミノ−2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン(ルミノール)、6−アミノ−2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン(イソルミノール)、N−エチルイソルミノール、N−(6−アミノヘキシル)−N−エチルイソルミノール、N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールヘミサクシミド等が挙げられる。これらのうち、好ましい化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物は、ルミノールとイソルミノールであり、特にルミノールが好ましい。
【0008】
本発明で用いられる化学発光の一般的な化学発光機構について、ルミノールを例として説明する。ルミノールの化学発光は、ルミノールが酸化剤により酸化されて過酸化物中間体となり、それが分解して生成する励起状態の3−アミノフタール酸ジアニオンに基くものであり、これが基底状態に落ちる時に過剰のエネルギーを発光として放出するものと考えられており、その化学発光波長は425nm近辺である。したがって、本方法を用いれば、化学発光量の測定から酸化剤の定量が可能になる。
【0009】
このように、ルミノールが化学発光するためには、励起状態の3−アミノフタール酸ジアニオンの生成が重要であり、生成を促進させるための触媒(Fe2+、Cu2+、ペルオキシダーゼ等)が添加されることもある。また、化学発光強度を向上させるために、フェノール誘導体類やベンゾチアゾール誘導体類等の化学発光増感剤が添加されることもある。
【0010】
ただし、上記化学発光反応は、全ての種類の酸化剤について該当する訳ではなく、例えばハロゲン酸化物に関しては、次亜塩素酸塩と過沃素酸塩のみがルミノールを化学発光させ、その他のハロゲン酸化物類は次亜塩素酸塩や過沃素酸塩と同等の酸化力を有しているにも拘らず、ルミノールを化学発光させることはできなかった。本発明は、紫外線照射することにより亜塩素酸イオン及び/又は臭素酸イオン及び/又は沃素酸イオンもルミノール類を化学発光させることができるという知見に基づいて成されたものである。
【0011】
また、ルミノール等の化学発光物質は溶液状態では安定性に劣るため、調製後長時間保存することは好ましくなく、調製後、速やかに用いることが好ましい。
【0012】
本発明で検出対象となるハロゲン酸化物は、上記の様に、亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、沃素酸イオンである。このらのうち、亜塩素酸イオンは検出感度が特に高く、かなりの低濃度でも測定が可能である。
【0013】
本発明において用いられる紫外線としては、紫外域の波長(380〜400nm以下)を含む光であれば特に制限はないが、190〜200nm以下の遠紫外線を用いると水中では過酸化水素が生成し、化学発光におけるバックグラウンドが増大してしまうため、場合によってはハロゲン酸化物の検出を妨害することもある。従って、好ましい紫外線の波長としては、遠紫外線より長波長側の220〜280nmの範囲、特には245〜260nmの範囲である。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、試料溶液としては、水系等の対象系からサンプリングしたものをそのまま試料溶液として用いる場合や、かかる対象系からサンプリングした試料を水等の溶媒で一定の希釈率で希釈した溶液を試料溶液として用いる場合など、様々な場合がある。
【0015】
本発明の方法によりハロゲン酸化物を検出する際の測定条件としては、特に制限はなく、測定温度、試料溶液のハロゲン酸化物イオン濃度、緩衝液の種類、紫外線強度、紫外線照射時間等の測定条件は任意に設定することができる。測定時のpHは、通常、8〜11程度のアルカリ性に設定するが、触媒を併用する際には、中性でも実施できる。ただし、ハロゲン酸化物の検出感度は、測定温度、pH、緩衝液の種類や紫外線照射時間などの影響を受けるため、一定の測定条件で測定を行うことが好ましい。好ましい測定条件としては、以下の条件が挙げられる。
温度:20〜30℃
pH:8〜11
緩衝液:硼酸塩緩衝液
紫外線強度:1〜100W
紫外線照射時間:20〜200秒
【0016】
本発明において、化学発光反応の触媒は必ずしも必要ではないが、発光強度を上昇させるために触媒を用いることも可能である。触媒の例としては、Fe2+、Cu2+、Co2+等の遷移金属イオンのキレート錯体(ポルフィリン錯体等)やフェリシアン化カリウム、ペルオキシダーゼ等が挙げられる。
【0017】
また、化学発光強度を向上させるための化学発光増感剤も本発明では必ずしも必要ではないが、検出の対象系や試料溶液に添加しても良い。かかる増感剤の例としては、p−ヨードフェノール、フェノールインドール等のフェノール誘導体類、6−ヒドロキシベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール誘導体類、ジエチルアニリン等の芳香族アミン類などが挙げられる。
【0018】
次に、本発明の検出方法を実施する装置について説明する。装置は、基本的にキャリア液を送液するポンプ、ハロゲン酸化物イオンを含む試料溶液をキャリア液中に注入するインジェクター、化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物含有溶液を送液するポンプ、試料溶液を注入されたキャリア液に紫外線を照射する光化学反応器、キャリア液/試料溶液/化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物含有溶液を混合する混合器、化学発光を検出する検出器、検出器で得られたデータを記録するデータプロセッサーで構成されている。ただし、場合によっては、キャリア液とハロゲン酸化物イオンを含む試料溶液とをあらかじめ混合し、混合物を連続的に供給することもあるため、そのような系ではインジェクターは不要となる。
【0019】
上記の光化学反応器は、例えば、紫外線を発する光源と紫外線照射下に置かれたリアクションコイルから構成されており、反応条件を安定化させるため、温度を一定に保持できる恒温槽中に設置されていることが好ましい。
【0020】
また、混合器としては、インラインミキサー、混合コイル等でもよく、混合後の混合物は直ちに検出に供されるのが望まれるので、検出器に混合器を付設したり、検出器中で攪拌混合や合流混合するような構成の検出器が混合器を兼ねるものでもよい。また、データプロセッサーは、化学発光強度対ハロゲン酸化物イオン濃度の検量線を内包し、ハロゲン酸化物イオン濃度計算等の演算処理を行うことができるのが好ましく、更に必要に応じて化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物含有溶液を供給するポンプ等のポンプ類の起動、停止の出力信号も発することができるのが好ましい。
【0021】
なお、複数のハロゲン酸化物イオンを含む試料溶液を個々に分析する場合には、各成分を分離するため、例えば、インジェクターと光化学反応器の中間にイオンクロマト分離カラムを設置することが好ましい。
【0022】
次に、図1を参照しつつ本発明の検出方法を更に具体的に説明する。図1は、本発明の検出方法を実施する装置の一例である。キャリア液と化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物含有溶液(図1では、この溶液を「ルミノール溶液」で代表している)は、それぞれポンプ1、2により供給される。キャリア液には、インジェクター3からハロゲン酸化物イオンを含む試料溶液の一定量が注入された後、光化学反応器4に供給されて紫外線が照射される。紫外線照射後、キャリア液/試料溶液の混合液は混合器5に供給され、化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物含有溶液と混合器5で混合される。混合器5の直後に設置されている検出器6では、紫外線照射処理を施されたハロゲン酸化物イオンと化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物との反応に伴って生じた化学発光が検出され、化学発光強度やハロゲン酸化物イオン濃度変換値がデータプロセッサー7に記録される。検出器6には、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード、イメージインテンシファイヤー等を用いることができる。データプロセッサー7は、A/Dコンバーター、コンピューター、表示装置(CRT、液晶ディスプレイ、レコーダー等)を包含するのが一般的である。
【0023】
本発明の方法を用いれば、従来、化学発光法では検出することができなかったハロゲン酸化物が高感度で且つ幅広い定量範囲で簡便に検出することが可能となる。更に、本発明の方法は、応答速度が速い(化学発光反応に要する時間が短い)ため、特に連続流れ分析法(FIA:Flow Injection Analysis)に代表される全自動連続測定系における高感度検出法としての応用展開が可能である。
【0024】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、実施例は本発明の幾つかの実施態様を説明するだけのものであり、本発明を何ら限定するものではない。なお、Lはリットルを表わす。
【0025】
実施例1
図1に示した装置を用いて、ハロゲン酸化物イオンの検出を行った。なお、図1中の光化学反応器としては、10Wの紫外線ランプ(主波長:254nm)にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)チューブを巻き付けたものを用いた。測定温度を一定に保持するため、27℃の恒温槽中にこの光化学反応器を設置した。
【0026】
試料としては、亜塩素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、沃素酸カリウムを用い、純水で希釈して濃度を10ミリモル/Lに調製し、インジェクター3から20μLずつキャリア液中に注入した。
【0027】
一方、ルミノール溶液としては、ルミノールを濃度が0.5ミリモル/Lとなるように50ミリモル/L濃度の硼酸塩緩衝液に添加した。なお、この際のpHは10.0であった。このルミノール溶液をポンプ2によって0.5ml/分で送液して、混合器5に供給した。
【0028】
また、キャリア液としては、5ミリモル/L濃度の硼酸塩緩衝液(pH=10.0)を用い、ポンプ1を用いて0.5ml/分で送液した。
【0029】
キャリア液に溶解した試料は、光化学反応器4で紫外線照射処理(紫外線照射時間:60秒)を受けた後、混合器5でルミノール溶液と混合され、生じた化学発光が検出器6で検出された。
【0030】
化学発光強度の測定結果を表1に示すが、本実施例で用いた試料は、いずれも検出可能であった。特に、亜塩素酸イオンは極めて高感度で検出することができた。なお、表1において、化学発光強度は任意の単位である。
【0031】
比較例1
紫外線を照射しなかったことを除いて、実施例1と同じ試料を同じ条件下で測定した。化学発光強度の測定結果を表1に示すが、いずれの試料についても化学発光は認められなかった。
【0032】
【表1】
【0033】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の方法を用いれば、従来の化学発光法では検出することができなかった種類のハロゲン酸化物が、簡便に高感度且つ再現性良く検出することができるため、ハロゲン酸化物が添加されていたり混入してくる系であれば、幅広く応用することができる。また、本発明の方法は、最近注目されている連続流れ分析法による全自動連続測定系への応用展開が可能である。
【0034】
従って、本発明の方法は、冷却水処理システムに代表される各種水処理システムの水質管理システムや、飼料や食品中に添加されているハロゲン酸化物の定量分析や、繊維の漂白、パルプや油脂や蔗糖の脱色等に用いられているハロゲン酸化物の分析などに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するための装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 、2 ポンプ
3 インジェクター
4 光化学反応器
5 混合器
6 検出器
7 データプロセッサー
Claims (1)
- 亜塩素酸イオン、臭素酸イオン及び沃素酸イオンから選ばれる少なくとも一種のハロゲン酸化物イオンに紫外線を照射した後、化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物と接触させ、化学発光を生じさせることを特徴とするハロゲン酸化物の検出方法。
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