JP4224923B2 - ハロゲンイオンの検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学発光法を利用して、ハロゲンイオンを高感度、簡便且つ迅速に検出する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオンは海水や土壌等の環境中に幅広く且つ多量に存在している。また、これらのハロゲンイオンは、様々な塩の形で肥料、融雪剤、触媒、飼料や食品添加物として、また各種工業用薬品、医薬品、香料、染料、顔料等の原料として幅広い用途で用いられている。更に、冷却水処理システム等の各種水処理システムでは、臭素イオンや沃素イオンが水処理用薬剤の濃度検出用不活性トレーサーとして用いられている。
【0003】
従来、ハロゲンイオン濃度を測定する方法としては、比色法やイオンクロマトグラフ法が知られていた(特開平4−296651号公報)。しかし、これらの方法は、簡便且つ高感度な検出方法とは言い難く、例えば、比色法は煩雑な手動分析法であり自動化が困難なために検出に多くの時間とコストがかかるといった欠点を有していた。一方、イオンクロマトグラフ法は、比色法に比べれば簡便な方法であるが、測定装置そのものが高価であり、全自動・連続濃度モニタリングシステムとして用いるためには多くの課題を抱えていた。
【0004】
そこで、本発明者等は、検出用試薬(化学発光物質)としてルテニウム錯体などを用い、遷移金属のハロゲン化物とヒドロキシ酸の共存下、ハロゲン分子やハロゲン化物を化学発光法により検出する方法を提案した(特願平11−82688号)。しかし、この方法は、沃素分子や沃化物に対しては高感度分析が可能であったが、他のハロゲン分子やハロゲン化物については感度が不足していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消したハロゲンイオンの検出方法を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオンの中から選ばれる少なくとも一種類のハロゲンイオンを含む溶液を電解酸化した後、化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物と接触させ、化学発光を生じさせることを特徴とするハロゲンイオンの検出方法を提供するものである。
【0007】
最近、発光反応を利用した分析法が注目を集めている。この方法は、吸光光度法や蛍光分析法に比較して高感度であり、定量範囲が広く、応答速度が速い(発光反応に要する時間が短い)ため、特に連続流れ系や循環系等の流通系における高感度検出法として注目されている。発光には、化学発光、生物発光等があるが、現在、分析法としては、化学発光を利用したものが多く、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N−エチルモルホリン、N−エチルピペラジン、チウラムなどの三級アミン類やトリプトファン、インドール等の二級アミン類、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド等のチアジド類、蓚酸、ピルビン酸、マロン酸、アセト酢酸、レブリン酸のようなα−、β−あるいはγ−ジケトン構造を持つ化合物類や、過酸化水素、酸素、過マンガン酸塩、ハロゲン酸化物、沃素等が化学発光原因物質として知られている。なお、化学発光とは、化学発光物質の化学反応に伴って新たに生成した物質が、更にその反応に伴う化学エネルギーによって励起されて光を放射する現象である。
【0008】
化学発光法の中でも化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物(ルミノール等)を用いる方法は、ルミノール等が容易且つ比較的安価に入手可能であり、発光分析に際し特別な前処理が不要であることから幅広く検討されている。しかし、ハロゲンイオンの化学発光分析法に関しては、先に本発明者等が出願した上記の例を除いて、検討された例はなかった。本発明は、化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物を検出用試薬(化学発光物質)として用い、特定の条件下で塩素イオン、臭素イオン、沃素イオンの中から選ばれる少なくとも一種類のハロゲンイオンを検出できるという新しい知見に基づいて成されたものである。
【0009】
本発明で検出用試薬(発光物質)として用いられる化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物としては、例えば、5−アミノ−2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン(ルミノール)、6−アミノ−2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン(イソルミノール)、N−エチルイソルミノール、N−(6−アミノヘキシル)−N−エチルイソルミノール、N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールヘミサクシミド等が挙げられ、これらは単独使用でも併用でもよく、併用の場合は感度増大が期待される。これらのうち、好ましい化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物は、ルミノールとイソルミノールである。
【0010】
本発明で用いられる化学発光の一般的な発光機構について、ルミノールを例として説明する。ルミノールの化学発光は、ルミノールが酸化剤により酸化されて過酸化物中間体となり、それが分解して生成する励起状態の3−アミノフタル酸ジアニオンに基くものであり、発光波長は溶媒の種類によって変化するが、通常は425nmである。従って、この反応過程を利用すれば、発光量の測定から酸化剤の定量が可能になる。
【0011】
この様に、ルミノールが発光するためには、励起状態の3−アミノフタル酸ジアニオンの生成が重要であり、生成を促進させるための触媒(Fe2+、Cu2+、ペルオキシダーゼ等)が添加されることもある。また、発光強度を向上させるために、フェノール誘導体やベンゾチアゾール誘導体等の化学発光増感剤が添加されることもある。
【0012】
また、ルミノール等の化学発光物質は溶液状態では安定性に劣るため、溶液調製後長時間保存することは好ましくなく、溶液調製後、速やかに用いるのが好ましい。
【0013】
本発明で検出対象となるハロゲンイオンは、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオンである。これらのうち、臭素イオンと沃素イオンは電解酸化され易く、特に好適な検出対象である。
【0014】
ハロゲンイオンが電解酸化を受けることで化学発光法による検出が可能となる理由は、詳細には解明されていないが、次の様に推定される。ハロゲンイオンは、例えば、水の中で酸化されると次亜ハロゲン酸イオンもしくはハロゲン分子となる。ハロゲン分子はアルカリ性条件下では水中で次亜ハロゲン酸イオンとなるため、いずれにしても最終的に次亜ハロゲン酸イオンが生成し、これがルミノールと反応して発光するものと考えられる。水以外のプロトン溶媒の中でも同様のことが期待される。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
本発明において用いられるハロゲンイオンを電解酸化する酸化反応器としては、サンプルを連続的に電解酸化することが可能な流路電解セルが好ましく、様々な構造の電解セルが提案されているが、ハロゲンイオンを連続的に電解酸化できるものであれば、どのような構造の電解セルであっても本発明で用いることができる。また、ハロゲンイオンの電解酸化条件は、測定対象のハロゲンイオンを酸化できる条件であれば特に制限はない。例えば、印加電圧は、ハロゲンイオンの酸化電位以上の電圧を印加すれば良く、その際の操作電流としては、例えば、20〜100μA程度で良い。ただし、印加電圧が1.2Vを超えると、水の電気分解が起こり再現性が低下するため、印加電圧を1.2V以下に設定するのが好ましい。
【0017】
本発明の方法によりハロゲンイオンを検出する際の測定条件としては、特に制限はなく、測定温度、サンプルのハロゲンイオン濃度、必要に応じて用いる緩衝液の種類、電解酸化条件等は任意に設定することができる。測定時のpHは、通常、8〜11程度のアルカリ性に設定するが、触媒を併用する場合には、中性でも本発明方法を実施できる。ただし、ハロゲンイオンの検出感度は、温度、pH、必要に応じて用いる緩衝液の種類、電解酸化条件や電解酸化後発光を測定するまでの時間(遅延時間)の影響を受けるため、一定の測定条件で測定を行うことが好ましい。好ましい測定条件としては、以下の条件が挙げられる。
温度:20〜30℃
pH:8〜11
緩衝液:硼酸塩緩衝液
電解酸化条件(印加電圧):0.4V〜1.0V
電解酸化条件(操作電流):20μA〜100μA
遅延時間:20秒以内
【0018】
本発明において、化学発光反応の触媒は必ずしも必要ではないが、用いても良い。用い得る触媒の例としては、Fe2+、Cu2+、Co2+等の遷移金属イオンのキレート錯体(ポルフィリン錯体等)やフェリシアン化カリウム、ペルオキシダーゼ等が挙げられる。
【0019】
また、発光強度を向上させるための化学発光増感剤も本発明では必ずしも必要ではないが、系に添加しても良い。用い得る化学発光増感剤の例としては、p−ヨードフェノール、フェノールインドール等のフェノール誘導体、6−ヒドロキシベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール誘導体、ジエチルアニリン等の芳香族アミン等が挙げられる。
【0020】
次に、本発明の検出方法を実施する装置の一例について説明する。装置は、基本的にキャリア溶液を送液するポンプ、ハロゲンイオンを含む試料溶液をキャリア溶液中に注入するインジェクター、検出用試薬としての化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物を含む溶液を送液するポンプ、試料溶液を注入されたキャリア溶液を電解酸化する酸化反応器、キャリア溶液と試料溶液と化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物を含む溶液とを混合する混合器、発光を検出する検出器、検出器で得られたデータを記録するデータプロセッサーで構成されている。ただし、場合によっては、キャリア溶液とハロゲンイオンを含む試料溶液とを予め混合し、得られた混合物を連続的に供給することもあるため、そのような系ではインジェクターは不要となる。
【0021】
上記酸化反応器は、微小な電流、電圧を一定値でコントロールする必要があるため、ガルバノスタットから電流を電解セルに供給する様に構成するのが好ましい。
【0022】
また、混合器としては、インラインミキサー、混合コイル等でもよく、混合後の混合物は直ちに検出に供されるのが望まれるので、検出器に混合器を付設したり、検出器中で攪拌混合や合流混合するような構成の検出器が混合器を兼ねるものでもよい。また、データプロセッサーは、化学発光強度対ハロゲンイオン濃度の検量線を内包し、ハロゲンイオン濃度計算等の演算処理と記録を行うことができるのが好ましく、更に必要に応じて試薬供給ポンプ等を起動、停止させるための出力信号も発することができるのが好ましい。
【0023】
なお、複数種のハロゲンイオンを含む試料溶液を分析する場合は、電解酸化条件をハロゲンイオンの種類に応じて設定していくことでイオン種ごとの分析が可能であるが、各イオン種を正確に分離して分析する必要がある場合には、インジェクターと酸化反応器の中間に陰イオンクロマト分離カラムを設置するのが好ましい。
【0024】
本発明の検出方法を図1を参照して更に具体的に説明する。図1は、本発明の検出方法を実施する装置の一例を示すフロー図である。キャリア溶液と化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物を含む溶液(図1では、この溶液を「イソルミノール溶液」で代表している)は、それぞれポンプ1、2により供給される。キャリア溶液には、インジェクター3からハロゲンイオンを含む試料溶液の一定量が注入された後、混合液は酸化反応器4に供給されて電解酸化を受ける。電解酸化後の(キャリア溶液/試料溶液)混合液は混合器5に供給され、化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物を含む溶液と混合器5で混合される。混合器5の直後に設置されている検出器6で、化学発光が検出され、発光強度やハロゲンイオン濃度変換値がデータプロセッサー7に記録される。検出器6には、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード、イメージインテンシファイヤー等を用いることができる。データプロセッサー7は、A/Dコンバーター、コンピューター、表示装置(CRT、液晶ディスプレイ、レコーダー等)を包含するのが一般的である。
【0025】
本発明の方法を用いれば、従来、簡便且つ高感度で連続的に測定することが困難であったハロゲンイオンが、高感度で且つ幅広い定量範囲で簡便に連続して検出できる。更に、本発明の方法は、応答速度が速い(発光反応に要する時間が短い)ため、特に連続流れ分析法(FIA: Flow Injection Analysis)に代表される全自動連続測定系における高感度検出法としての応用展開が可能である。
【0026】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、実施例は本発明のいくつかの実施態様を説明するものであり、本発明を何ら限定するものではない。なお、Lはリットルを、μLはマイクロリットルを表す。
【0027】
実施例1
図1に示した装置を用いて、ハロゲンイオンの検出を行った。なお、図1中の酸化反応器としては、流路電解セルを用い、ガルバノスタットより30μAの電流を電解セルに供給した。この時の電圧は840mVであった。
【0028】
試料は、臭化カリウムを所定量秤量し、純水で希釈して表1に示す濃度に調製し、インジェクター3から20μLずつキャリア溶液中に注入した。
【0029】
一方、検出用試薬であるイソルミノールを含む溶液としては、イソルミノール濃度及び過酸化水素濃度がそれぞれ0.5ミリモル/Lとなる様に上記二成分を溶解させた50ミリモル/L濃度の硼酸塩緩衝液を用いた。なお、この際のpHは10.0であった。このイソルミノールを含む溶液をポンプ2を用いて0.5ml/分で送液して、混合器5に供給した。
【0030】
また、キャリア溶液としては、濃度が100ミリモル/Lとなるように硫酸ナトリウムを溶解させた50ミリモル/L濃度の硼酸塩緩衝液(pH=10.0)を用い、ポンプ1を用いて0.5ml/分で送液した。
【0031】
キャリア溶液に溶解した試料は、酸化反応器4で電解酸化を受けた後、混合器5でイソルミノールを含む溶液と混合され、生じた発光が検出器6で検出された。なお、キャリア溶液に溶解した試料が電解酸化を受けた後、検出器6に到達するまでの時間は10秒であった。
【0032】
結果を表1に示すが、本発明の方法を用いればハロゲンイオンが高感度且つ幅広い範囲で検出できることが分かった。
【0033】
比較例1
電解酸化を行わなかったことを除いて、実施例1と同じ試料を同条件で測定した。結果を表1に示すが、いずれの試料についても発光は認められなかった。なお、表1において、「化学発光強度」は、各試料の化学発光強度測定値から反応系溶媒(主に純水)の測定強度値をバックグラウンドとして差し引いた差分(補正値)で、任意単位の値である。
【0034】
【表1】
【0035】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の方法を用いれば、従来の分析方法では簡便且つ高感度で連続測定することが困難であったハロゲンイオンが、簡便且つ高感度で連続的に測定可能となるため、ハロゲンイオンが添加されていたり、混入してくる系であれば、幅広く応用することができる。また、本発明の方法は、最近注目されている連続流れ分析法による全自動連続測定系への応用展開が可能である。
【0036】
従って、本発明の方法は、冷却水処理システムに代表される各種水処理システムの水質管理システムや、飼料や食品中に添加されているハロゲンイオンの定量分析や、ハロゲンイオンを含有する各種工業用薬品、医薬品、香料、染料、顔料等を製造する際の工程管理等に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明を実施するための装置の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
1、2 ポンプ
3 インジェクター
4 酸化反応器
5 混合器
6 検出器
7 データプロセッサー
Claims (1)
- 塩素イオン、臭素イオン、沃素イオンの中から選ばれる少なくとも一種類のハロゲンイオンを含む溶液を電解酸化した後、化学発光性2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物と接触させ、化学発光を生じさせることを特徴とするハロゲンイオンの検出方法。
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